カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2024年03月18日 未公開判決事例紹介 相続後に実現した債務免除益には課税せず(2024年3月18日号・№1019)

未公開判決事例紹介
相続後に実現した債務免除益には課税せず
東京高裁、課税処分取消しで納税者が逆転勝訴

 本誌1018号40頁で紹介した所得税更正処分取消等請求控訴事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

〇相続により承継した債務の債務免除益に対する所得税の課税の是非が争われた事件。一審の東京地方裁判所は、免除が予定されていた当該債務は、「確実と認められるもの」として相続税の計算上負債として考慮することはできず、一方、相続後に現に実現した債務免除益に対して所得税が課されることはやむを得ないとして課税処分を適法としていたが(本誌972号40頁、982号23頁、1009号17頁参照)、東京高等裁判所(土田昭彦裁判長)は令和6年1月25日、「当該債務免除に係る相続人の利益は、形式的には債務免除を受けた時点で発生したものといえるとしても、所得税課税との関係では、潜在的には相続により取得していたものとみることが可能」として、所得税等の更正処分等を取り消した(令和5年(行コ)第105号)。

主  文

1 1審原告らの控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1)S税務署長が1審原告Aに対し、平成30年4月25日付けでした平成28年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分のうち、総所得金額7798万0486円及び納付すべき税額307万7800円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
(2)S税務署長が1審原告Mに対し、平成30年4月25日付けでした平成28年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分のうち、総所得金額2661万8891円及び納付すべき税額670万7200円を超える部分並びに過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。
2 1審被告の本件控訴を棄却する。
3 訴訟費用は第1、2審とも1審被告の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨
1 1審原告ら

 主文1項同旨
2 1審被告
(1)原判決中1審被告敗訴部分を取り消す。
(2)上記取消部分につき1審原告らの請求をいずれも棄却する。

第2 事案の概要(略称は、特に断りがない限り、原判決の例による。以下同じ。)
1
 亡Fの相続人である1審原告らは、亡Fの金融機関(本件銀行)に対する債務を相続し、その後、同債務について亡Fと本件銀行との間で成立していた一定額の分割金を支払った場合には残部について債務免除をするとの裁判上の和解(本件和解)に基づき、本件銀行から上記債務の分割金支払後の残部(本件債務)について免除を受けたが、その免除益に関する所得を申告せずに平成28年分の確定申告を行ったところ、本件債務の免除によって得た利益は一時所得に係る総収入金額にあたり、そこから所定の方法で算出した一定の金額を総所得金額に算入すべきであるとして、処分行政庁から所得税及び復興特別所得税の更正及びこれに伴う過少申告加算税の賦課決定(本件各処分)を受けた。
  本件は、1審原告らが、1審被告に対し、本件各処分の違法を主張して、その取消しを求める事案である。
  原審は、1審原告らの請求のうち、原判決別紙4記載の課税標準及び税額を超える部分についてのみ本件各処分を取り消し、その余を棄却した。1審原告ら及び1審被告は、それぞれ、その敗訴部分に不服があるとして、控訴した。
2 関係法令の定め、前提事実、争点及び当事者の主張は、原判決の「事実及び理由」中の第22から4までに記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決8頁19行目の「(以下「本件債務免除」という。)」を削り、9頁21行目の「同年6月30日」から22行目末尾までを「同年6月25日に50万円、平成28年6月15日に50万円を各支払い、同日、本件銀行から前記(2)ケ(イ)d記載の9億7370万円の支払義務(以下「本件債務」という。)の免除を受けた(以下「本件債務免除」という。)。(甲9、13、14)」に改める。

3 当裁判所の判断
1
 当裁判所は、1審原告らの請求はいずれも理由があると判断するものであり、その理由は次のとおりである。
2 争点3(二重課税の排除(所得税法9条1項16号)適用の有無)について
(1)前記引用に係る前提事実及び証拠によれば、次のとおりの事実を認めることができる。
 ア 1審原告らを含む亡F相続人らは、平成29年5月12日に行った亡Fを被相続人とする相続税の修正申告において、本件債務が相続税法14条1項の規定する「確実と認められるもの」にあたらないことを前提として、相続財産からその金額を控除することなく相続税の課税価格を算定した。(甲15)
  なお、本件債務免除の対象となった本件債務(9億7370万円)は、亡Fを被相続人とする相続開始の際に存在した亡Fの債務のうち、相続及び債務引受契約によって1審原告A及び1審原告Mが連帯して(内部的には半額ずつ)負担することとなったものであり(乙3、4)、本件和解で確認された本件銀行に対する債務の相続開始時の残額9億7470万円の一部である(前提事実(3)ウ、エ)から、課税価格の算定において相続財産から控除すべき金額を定める相続税法13条1項1号の「被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの」にあたるが、本件和解の約定により、期限の利益を喪失することなく一定の分割金の支払がなされた時に免除されるとの条件が付されたものであったところ、相続開始時においては、分割金の残額が合計100万円と少額であり、相続開始当時の1審原告らの財産状況(甲12)によれば上記分割金の支払義務の履行が容易であると認められるものであったことにも照らすと、近い将来に本件和解の約定に基づいて本件銀行から免除を受ける可能性が極めて高かったということができるから、同法14条1項に規定する「確実と認められるもの」にあたらず、同法13条の規定によりその金額を控除すべき債務にあたらないものと解される。
 イ 1審原告らは、平成28年6月15日、上記分割金の支払を全て終えて、本件和解の約定に基づき、本件銀行から本件債務の免除(本件債務免除)を受けた。(前提事実(3)カ)
  1審原告らは、平成29年3月16日になされた平成28年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告において、本件債務免除に係る利益について所得の申告をしなかった。(乙6、7)
  S税務署長は、平成30年4月25日、1審原告らそれぞれについて、本件債務免除により免除を受けた金額4億8685万円(本件債務の金額9億7370万円の2分の1)から一時所得の特別控除額50万円を控除した額を一時所得の金額とし、その2分の1に相当する金額2億4317万5000円を平成28年分の総所得に加えるべきであり、これがされていない平成28年分の所得税等の確定申告には一時所得の金額に誤りがあるとして、1審原告らに対し、本件各処分を行った。(甲13、14)
 ウ 1審原告らを含む亡F相続人らが平成27年8月21日に行った相続税の申告では、課税価格合計7億8987万3000円、申告納税額合計1億0847万0800円の申告がなされており、同人らが平成29年5月12日に行った相続税の修正申告では、課税価格合計17億6642万8000円、申告納税額合計3億2819万5700円の申告がなされた。すなわち、上記修正申告により、当初の申告に比べて、課税価格合計が9億7655万5000円増加し(相続財産から控除されるべき債務の額が9億7370万円(本件債務分)減少した他にも、相続財産の価額が約285万5000円増加している。)、申告納税額合計が2億1972万4900円増加することとなった。(甲12、15)
  他方、本件各処分により新たに納税すべきとされた所得税等の本税の額は、合計で2億2273万2100円(1審原告Mについて1億1100万5300円、1審原告Aについて1億1172万6800円)であった。(甲13、14)
(2)1審原告らは、亡Fの相続財産から本件債務を控除せずに課税価格を算定して相続税を課しておきながら、本件債務の免除がなされた時には本件債務の存在を前提にその免除益が発生したとしてこれに所得税を課すのは、所得税法9条1項16号に反する二重課税として許されない旨主張するので、この点について検討する。
  所得税法9条1項は、その柱書きにおいて「次に掲げる所得については、所得税を課さない。」と規定し、その16号において「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)」を掲げているところ、同号の趣旨は、相続税又は贈与税の課税対象となる経済的価値に対しては所得税を課さないこととして、同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除したものであると解される(最高裁判所平成22年7月6日第三小法廷判決・民集64巻5号1277頁)。
  また、相続税は、相続財産を取得した利得に対して担税力を見出して課税されるものであるところ、相続財産の取得者が被相続人の債務を承継して負担する場合にはその負担分については担税力が減殺されることになることから、相続財産からの当該債務の控除を認めるとするのが相続税法13条1項1号の趣旨であり、被相続人から承継する債務が「確実と認められるもの」でない場合には担税力が減殺されることにはならないから、当該債務については相続財産からの控除を認めないとするのが同法14条1項の趣旨であると解される。
  このような規定の趣旨を踏まえれば、担税力を減殺させるものではないとして相続財産から控除されなかった相続債務が相続開始後に免除を受けたからといって、これにより債務者に新たな担税力が生じるものと解することは相当でない。
  そうすると、被相続人から承継した現に存する債務であって、相続税申告の際の課税価格の算定にあたって近い将来に免除を受ける可能性が極めて高いこと等を理由に相続税法14条1項の「確実と認められるもの」にあたらないとして相続財産から控除されなかった債務が、その後に債権者により免除された場合における当該債務免除に係る相続人の利益については、形式的には債務免除を受けた時点で発生したものといえるとしても、所得税課税との関係では、潜在的には相続により取得していたものとみることが可能であり、また、その具体的な内容をみても、上記申告に係る課税価格のうち相続財産から控除されなかった上記債務に相当する部分の経済的価値と実質的に同一のものということができるから、特段の事情のない限り、これに所得税の課税をすることは、所得税法9条1項16号に反するものとして許されないというべきである。
  これを本件についてみるに、本件債務免除益は、被相続人の亡Fから1審原告らが承継した本件銀行に対する債務であって、本件和解の約定により免除を受ける可能性が極めて高いことから相続税の修正申告の際の課税価格の算定にあたって相続税法14条1項の「確実と認められるもの」にあたらないとして相続財産から控除されなかった本件債務が、その後に本件和解の約定に基づき本件銀行により免除された場合における債務免除に係る1審原告らの利益であるといえる。そして、本件においては、本件債務を相続財産から控除した場合とこれをしない場合の相続税額の増加額(合計2億1972万4900円)と本件債務免除益を一時所得として所得税の課税をしない場合とこれをした場合の所得税等の本税額の増加額(合計2億2273万2100円)に結果的に著しい差がないこと(上記(1)ウ)などの状況に照らしても、上記特段の事情は見当たらない。したがって、本件債務免除益に所得税の課税をすることは、所得税法9条1項16号に反して許されない。
3 結論
 以上によれば、本件各処分は、その余の点について検討するまでもなく違法であり、取り消されるべきである。したがって、1審原告らの請求は理由があるから、これを全部認容すべきところ、これを一部認容した原判決は失当であるから、1審原告らの控訴に基づいて原判決を上記のとおり変更し、1審被告の控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第16民事部
裁判長裁判官 土田昭彦
裁判官 大寄 久
裁判官 園部直子

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索