解説記事2024年04月01日 未公開裁決事例紹介 直前期末か直後期末か、純資産価額算定を巡る裁決(2024年4月1日号・№1021)
未公開裁決事例紹介
直前期末か直後期末か、純資産価額算定を巡る裁決
審判所、評価明細書通達の直前期末法を適用
〇売買に係る課税時期における各株式の1株当たりの純資産価額がいくらか争われた裁決。具体的には、純資産価額を算定するに当たり、直前期末又は直後期末のいずれの各資産及び各負債の金額を基に計算するべきかが争点になったもの。国税不服審判所は、直前期末から各売買に係る課税時期までの間に会社の資産及び負債に著しい増減がないため、評価明細書通達に定める「直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がないため評価額の計算に影響が少ないと認められるとき」に該当することになるから、各株式の1株当たりの純資産価額の計算は、評価明細書通達に定める直前期末法によることができるとの判断を示し、原処分の一部を取り消した(大裁(諸)令5第2号)。
主 文
原処分は、いずれもその一部を別紙2及び別紙3「取消額等計算書」のとおり取り消す。
基礎事実等
(1)事案の概要
本件は、審査請求人及び審査請求人×××が売買により取得した取引相場のない株式について、原処分庁が、当該株式の売買価額はその時価よりも著しく低額であり、相続税法第7条《贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合》に規定する「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に当たるとして、当該株式の時価と売買価額との差額に相当する金額を贈与により取得したものとみなして贈与税の各更正処分等を行ったのに対し、請求人らが、原処分庁が当該株式の時価の算定の基礎とした評価時点などに誤りがあり、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」には当たらず、また、当該各更正処分等の理由の提示に不備があるなどとして、その処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令等(略)
(3)基礎事実及び審査請求に至る経緯
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ ××××××××××××(以下「本件会社」という。)は、旅行業を営む同族会社であり、その事業年度は毎年4月1日から翌年3月31日までである。
なお、以下では、本件会社の各事業年度について、各個別の終了年月をもって表記する(例えば、平成29年4月1日から平成30年3月31日までの期間を「平成30年3月期」という。)。
また、本件会社の資本金は25,000,000円、発行済株式総数は500株であり、全ての株式を請求人らの祖父である××××(以下「本件譲渡人」という。)が保有していた。
ロ 請求人らは、平成31年1月21日(以下「本件各売買契約日」という。)、それぞれ本件譲渡人から本件会社の株式250株(以下「本件各株式」という。)を総額16,132,000円(1株当たり64,528円)(以下「本件各売買価額」という。)で譲り受ける旨の売買契約(以下、本件各株式の売買を「本件各売買」といい、本件各売買に係る契約を「本件各売買契約」という。)を締結し、同契約に係る契約書(以下「本件各売買契約書」という。)を取り交わした。本件各売買契約の内容は、要旨、以下のとおりである。
(イ)本件譲渡人は、本件各株式を請求人らにそれぞれ売り渡し、請求人らはこれを買い受ける(本件各売買契約書第1条)。
(ロ)売買日は平成31年3月4日とする(本件各売買契約書第2条)。
(ハ)1株当たりの売買価格は64,528円とし、請求人らはそれぞれ本件譲渡人に売買代金総額16,132,000円を売買日までに支払う(本件各売買契約書第3条)。
本件各売買価額について、請求人らは、評価通達185が定める取引相場のない株式に係る1株当たりの純資産価額を用いて評価する方式(以下「純資産価額方式」という。)に基づき、本件各売買に係る課税時期において本件会社の仮決算を行わず、本件会社の直前期末(平成30年3月31日、以下「本件直前期末」という。)の各資産及び各負債の金額をもって本件各株式の時価を算定し、本件各売買価額とした。
なお、本件各売買に係る課税時期がいつであるかについては、請求人ら及び原処分庁の間に争いがある。
ハ 本件各株式は譲渡制限の付された株式であるところ、本件会社は、平成31年1月21日に取締役会(以下「本件取締役会」という。)を開催し、本件各売買について、譲渡日を平成31年3月4日として承認可決した。
ニ 請求人らは、平成31年3月4日、本件各売買に係る売買代金(以下「本件各売買代金」という。)について、本件譲渡人名義の×××××××××××の普通預金口座(口座番号××××)にそれぞれ振り込む方法によりその全額を支払った。
ホ 平成31年3月4日付の本件会社の株主名簿(以下「本件株主名簿」という。)には、請求人らがそれぞれ普通株式250株を同日取得したこと及び各株券は未発行である旨記載されている。
へ ××××は、本件譲渡人から、令和元年9月20日に××××××××××××の土地の上に存する区分所有建物の23階の専有部分(床面積98.12㎡)及びその敷地権(敷地面積3,199.03㎡の1,000,000分の5,801)並びに保証金1,950,000円、同年12月23日に現金30,000,000円の贈与をそれぞれ受けた。
ト ××××は、本件譲渡人から、令和元年9月20日に××××××××××××の土地の上に存する区分所有建物の3階の専有部分(床面積79.69㎡)及びその敷地権(敷地面積3,199.03㎡の1,000,000分の3,516)並びに保証金1,320,000円、同年12月23日に現金30,000,000円の贈与をそれぞれ受けた。
チ 請求人らは、令和2年4月13日、原処分庁に対し、別表1の「申告」欄のとおり上記へ及びトの各贈与について記載した令和元年分の贈与税の申告書をそれぞれ提出したが、本件各売買契約に関する事項は含まれていなかった。
なお、令和元年分の贈与税の法定申告期限及び法定納期限は、通則法第11条《災害等による期限の延長)及び国税通則法施行令第3条《災害等による期限の延長》第2項の規定並びに令和2年3月6日付国税庁告示第1号により、同年4月16日に延長されている。
リ 原処分庁所属の調査担当職員は、令和3年10月21日、請求人らに対して、令和元年分の贈与税に係る調査(以下「本件調査」という。)を行う旨通知し、令和3年11月9日に本件調査を開始した。
ヌ 原処分庁は、本件調査の結果、本件各売買に係る課税時期を平成31年3月4日とした上で、上記課税時期に近接する本件会社の直後期末(同月31日、以下「本件直後期末」という。)の各資産及び各負債の金額に基づき同月4日における本件各株式の価額(時価)をそれぞれ69,550,000円(1株当たり278,200円)とした。
その結果、本件各売買価額16,132,000円は、原処分庁が算定した本件各株式の価額69,550,000円に比し、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価」に該当することから、16,132,000円と69,550,000円の差額に相当する金額53,418,000円が、請求人らが本件譲渡人からそれぞれ贈与により取得したものとみなされるとして、原処分庁は、請求人らに対し、それぞれ令和4年5月20日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり、令和元年分の贈与税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各処分」という。)をした。
ル 本件会社は、評価通達178に定める中会社に該当するところ、本件各株式の1株当たりの価額の算定上、純資産価額方式のみを適用して算出し、評価通達180《類似業種比準価額)の定めにより評価する方式(以下「類似業種比準価額方式」という。)を適用しないことについて、請求人ら及び原処分庁ともに争いはない。
ヲ 請求人らは、令和4年8月10日、本件各処分を不服として、その全部の取消しを求めてそれぞれ審査請求をした。
争点および主張
(1)本件各更正処分は、本件各株式の1株当たりの価額の認定に当たり、評価明細書通達が定める直前期末から課税時期までの間の資産及び負債に係る著しい増減の有無に関する調査をせずになされたものであるか否か(争点1)。(編注:略)
(2)本件各更正処分の理由の提示に行政手続法第14条第1項に反する不備があるか否か(争点2)。(編注:略)
(3)本件各売買に係る課税時期における本件各株式の1株当たりの純資産価額はいくらか(具体的には、同額を算定するに当たり、本件直前期末又は本件直後期末のいずれの各資産及び各負債の金額を基に計算するべきか。)(争点3)。(編注:争点に対する主張は表のとおり)
【表】争点3に対する主張
原処分庁 | 請求人 |
本件については以下のとおり判断されるので、本件各売買に係る課税時期における本件各株式の1株当たりの純資産価額は、別紙6のとおり、本件各売買に係る課税時期の各資産及び各負債の金額を推定し得るものとして、本件直後期末の各資産及び各負債の金額により計算した1株当たり278,200円である。 イ 本件各売買に係る課税時期 請求人らは、平成31年1月21日に本件各売買契約をそれぞれ締結し、本件各売買契約書において同年3月4日を「売買日」とした上で(本件各売買契約書第2条)、同日付で本件譲渡人の銀行口座に対し本件各売買代金を振り込んでいる。また、本件会社は、平成31年1月21日に開催した本件取締役会において同年3月4日を「譲渡日」として本件各売買を承認し、同日付の本件株主名簿において請求人らの本件各株式の株式取得日を同日(平成31年3月4日)と記載している。以上のことからすれば、本件各売買に係る課税時期は、請求人らが本件各株式を経済的にも実質的にも取得した平成31年3月4日である。 ロ 本件会社には評価明細書通達に定める直前期末から課税時期までの間の資産及び負債に著しい増減がないと認められないこと 評価明細書通達は、直前期末における各資産及び各負債の金額により計算する場合の留意事項として、帳簿に負債としての記載がない場合であっても、直前期末日後から課税時期までに確定した剰余金の配当等の金額を負債として取り扱う旨定めている。本件会社は、本件直前期末の翌日から本件各売買に係る課税時期までの間に配当金を合計110,000,000円支払っており、本件各売買に係る課税時期における本件各株式の価額は配当落ち後の価額となる。そうすると、本件各株式の価額を本件直前期末の資産及び負債を基に算定する場合には、上記配当金を本件直前期末の負債に含めることが相当である。 これにより、相続税評価額で比較した場合、配当落ち後の価額に調整した本件直前期末の純資産価額(32,599,388円)と、上記配当金を支払った後である本件各売買に係る課税時期における純資産価額(141,402,232円)との間に著しい差額が生じているということは、本件直前期末から本件各売買に係る課税時期までの間に上記の配当金ではない別の要因で著しい資産及び負債の増減があることにほかならない。 ハ 本件直後期末を基準とすることについて 以下のとおり、1株当たりの純資産価額の計算上、本件会社の各資産及び各負債の金額は本件直後期末によるべきである。 (イ)予見可能性の確保 上記ロのとおり、本件会社は、本件直前期末から本件各売買に係る課税時期までの間に資産及び負債について著しい増減がないと認められないことから、本件各株式の1株当たりの純資産価額の計算は、原則のとおり、本件各売買に係る課税時期で仮決算を行い算定することが相当である。 しかしながら、本件会社は、月ごとに売上げ及び仕入れを管理しているため、月中に存する本件各売買に係る課税時期における本件会社の仮決算は事実上困難である。そうすると、本件各株式の1株当たりの純資産価額の計算において、本件各売買に係る課税時期の資産及び負債を推定し得るものとして本件各売買に係る課税時期の属する月の末日、すなわち本件直後期末の資産及び負債により計算することが合理的である。そして、本件各売買に係る課税時期から本件直後期末までの間に本件各株式の評価額に影響を及ぼすような資産及び負債の著しい増減はないことからしても、本件直後期末の資産及び負債により計算する方法は合理性を有するものである。 (ロ)本件直後期末を基準とする場合の配当落ち調整計算は不要であること 本件各売買に係る課税時期においては、本件直後期末の翌事業年度に係る配当金の基準日も効力発生日も到来していないから、本件各株式の1株当たりの純資産価額の計算上、当該配当金の減算は必要がない。請求人らは株価算定の基準時点を評価明細書通達に定める直前期末から直後期末に変更した旨主張するが、本件では、本件各売買に係る課税時期の資産及び負債を推定し得るものとして、本件直後期末の資産及び負債を基として本件各株式の1株当たりの純資産価額を算定し、当該価額を本件各売買に係る課税時期における価額としているにすぎず、本件各売買に係る課税時期を変更したものではない。 |
本件については以下のとおり判断されるので、本件各売買に係る課税時期における本件各株式の1株当たりの純資産価額は、別表2のとおり、本件直前期末の各資産及び各負債の金額により計算した1株当たり64,528円である。 イ 本件各売買に係る課税時期 請求人らは、上記のとおり、本件各株式の価額について事前の検討を経て本件各売買契約に至ったのであり、本件各売買契約には本件各売買契約日以後の株式価値変動に伴う価額変更規定が定められておらず、本件各株式に対する当事者の価値認識は本件各売買契約日に完成している。 また、本件会社は、株券を発行しておらず、本件各売買において、株券の引渡しは行っていないのであるから、株券の引渡日を観念できず、請求人らが定めた株式引渡日をもって贈与税の課税時期とすることはできない。したがって、仮に原処分庁がしたみなし贈与課税が請求人らに対し適用されるとしても、贈与税の課税時期は、本件各売買契約日(平成31年1月21日)とすべきである。 ロ 本件会社には評価明細書通達に定める直前期末から課税時期までの間の資産及び負債に著しい増減がないこと 評価明細書通達に定める資産及び負債に著しい増減がないか否かは、企業会計上の各資産及び各負債の金額に基づいて判断すべきであるから、未払配当金を負債に計上せず、いわゆる配当込みの金額で比較することが合理的な方法である。その上で、原処分庁も基礎としている企業会計上の金額を用いて相続税評価額で比較した場合、本件直前期末における配当込みの純資産価額(142,264,000円)に対して、本件直後期末における配当込みの純資産価額(139,100,000円)となり、その純資産価額はほぼ同程度の金額であるから、著しい増減はない。 したがって、本件会社においては、本件直前期末と本件直後期末までの間の資産及び負債に著しい増減がないのであるから、本件直前期末から本件各売買に係る課税時期までの間の資産及び負債についても、著しい増減があるという状況にはない。 ハ 本件直前期末を基準とすることについて 以下のとおり、1株当たりの純資産価額の計算上、本件会社の各資産及び各負債の金額は本件直前期末によるべきである。 (イ)予見可能性の確保 原処分庁は、請求人らが行った本件直前期末での計算を否認し、本件直後期末での計算を課税処分の根拠とするが、評価通達及び評価明細書通達において課税時期の直後期末を採用できる旨の定めや取扱いはない。 請求人らは、事前に本件各売買価額の検討を経て、本件各売買契約日に本件譲渡人との合意に至ったところ、本件各売買契約日においては当然に本件直後期末を基準とした本件各株式の価額は算定が不可能であり、本件各処分は納税者の予見可能性を確保していない。 請求人らは、本件各株式の価額の算定に当たり、国税庁ホームページに掲載され、その取扱いが広く認められている評価明細書通達に定める直前期末を基準とした算定をしており、納税者の予見可能性の観点からも、当該算定に基づいた本件各売買価額が本件各株式の時価と認められるべきである。 (ロ)本件直後期末を基準とする場合の配当落ち調整計算は必要であること 本件のように評価明細書通達で定める直前期末から特段の定めのない直後期末へと株価算定の基準時点を変更することによって、配当落ち調整計算を否認することには合理性がない。 仮に、本件各株式の価額を、本件直後期末を基準として算定するとしても、本件直後期末の翌事業年度に係る配当金を減算しない場合、所得税と贈与税が二重に課される結果となることから、実際に支払われている本件直後期末の翌事業年度に係る配当金を減算すべきである。 |
審判所の判断
(1)認定事実(編注:略)
(2)・(3)(編注:略)
(4)争点3(本件各売買に係る課税時期における本件各株式の1株当たりの純資産価額はいくらか(具体的には、同額を算定するに当たり、本件直前期末又は本件直後期末のいずれの各資産及び各負債の金額を基に計算するべきか。)。)について
イ 法令解釈
(イ)相続税法第7条は、私法上の贈与契約によって財産を取得したものではないが、実質的に見て贈与を受けたのと同様の経済的利益を享受している事実がある場合に、税負担の公平の見地から、その取得した経済的利益の額相当額を贈与により取得したものとみなして、贈与税を課税する趣旨の規定であると解される。
また、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価」とは、その対価に経済合理性のないことが明らかな場合をいうものと解され、その判定は、個々の財産の譲渡ごとに、当該財産の種類、性質、その取引価額の決まり方、その取引の実情等を勘案して、社会通念に従い、時価と当該譲渡の対価との開差が著しいか否かによって判断するのが相当である。
そして、相続税法第7条は、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があった時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があった時における当該財産の時価との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与により取得したものとみなす」と規定していることからすれば、同条における課税時期とは「譲渡があった時」であり、時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた時、すなわち当該財産に係る権利が譲渡を受けた者に移転した時をいうものと解される。
(ロ)相続税法第7条に規定する「時価」とは、相続税法第22条に規定する「時価」と同義であり、同条は、相続又は贈与により取得した財産の価額は、特別の定めがあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、全ての財産の客観的交換価値は、必ずしも容易に把握し得るものではないから、課税実務上は、財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、同通達によらないことが正当と是認されるような特別の事情がある場合を除き、これらに定められた画一的な評価方法によって、当該財産の評価をすることとされている。
(ハ)取引相場のない株式は、その発行会社の規模も上場会社に匹敵するものから、個人企業と変わらないものまで千差万別であることなどから、評価通達は、取引相場のない株式の価額について、合理的、かつ、その実態に即した評価を行うため、評価会社の規模を大、中、小に分かち、上場会社に匹敵するような大会社の株式は、上場会社の株式の評価との均衡を図ることが合理的であるので、原則として、類似業種比準価額方式により評価し、その経営実態において個人企業に近い小会社の株式は、会社経営と所有の分離もなく、株式の流動性も少ないことから純資産価額方式により評価することとし、その中間にある中会社の株式については、大会社の評価方式と小会社の評価方式を併用して評価することとしている(評価通達178及び同通達179)。これらの評価方法は、評価会社の規模等に応じて適正な評価を行うために定められているものと解され、当審判所においてもかかる取扱いは合理的であると認められる。
なお、純資産価額方式においては、評価会社の帳簿に負債としての記載がない場合であっても、課税時期の属する事業年度に係る法人税額、消費税額、事業税額、道府県民税額及び市町村民税額のうち、その事業年度開始の日から課税時期までの期間に対応する金額は、負債に含まれる旨定められている(評価通達186の(1))。この取扱いは当審判所においても相当であると認められる。
また、中会社の株式の評価に当たり、納税者の選択により、類似業種比準価額に代えて、1株当たりの純資産価額によって計算することができる旨定められているが、このような評価方法は、小会社の株式の評価の定めと平そくを合わせたものである。
(ニ)評価明細書通達の「第5表 1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の2の(2)及び(3)は、資産及び負債の帳簿価額は税務計算上の帳簿価額を記載する旨定めており、課税時期における1株当たりの純資産価額の計算について、同2の(4)は、評価会社が課税時期における仮決算を行っていないため、課税時期における各資産及び各負債の金額が明確でない場合において、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がないため評価額の計算に影響が少ないと認められる場合、課税時期における各資産及び各負債の金額は、直前期末の各資産及び各負債の金額により計算しても差し支えない旨定めている(以下、この評価方法を「直前期末法」という。)。
その上で、直前期末法により計算する場合、すなわち直前期末の各資産及び各負債の金額により計算する場合において、評価会社の帳簿に負債としての記載がない場合であっても、直前期末日後から課税時期までに確定した剰余金の配当等の金額は負債として取り扱う旨定めている。この取扱いは、課税時期における純資産価額が明確でない場合の合理的な算定方法として、当審判所においても相当であると認められる。
また、直前期末法により計算する場合において、直前期末日後から課税時期までに確定した剰余金の配当等の金額を負債として取り扱うのであるから、直前期末法により計算する場合の条件とされる「直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がないため評価額の計算に影響が少ないと認められる」か否かの判断においては、評価会社の直前期末の帳簿に負債としての記載がない直前期末日後から課税時期までに確定した剰余金の配当等の金額を直前期末の負債として取り扱うべきではない。
ロ 検討
(イ)本件各売買に係る課税時期について
A 本件会社は、上記のとおり、株券発行会社である。株券発行会社に係る株式の譲渡は、会社法上、株券の交付が効力発生要件とされているところ(会社法第128条《株券発行会社の株式の譲渡》第1項)、本件会社は、本件各売買の前後を通じて本件各株式の株券を発行していないことから、本件各売買において、本件譲渡人から請求人らに対し、本件各株式に係る株券は交付されておらず、株券を引き渡した日を課税時期とすることができない。
そこで、本件各売買に係る課税時期について検討するに、請求人ら及び本件譲渡人は、上記のとおり、本件各売買契約書において「売買日」を平成31年3月4日とした上で、請求人らは、同日、本件譲渡人名義の普通預金口座に本件各売買代金をそれぞれ振り込んでいる。また、本件各株式は譲渡制限の付された株式であることから、本件会社は、本件取締役会において本件各売買に係る「譲渡日」を平成31年3月4日として本件各売買を承認し、本件株主名簿においても、請求人らの本件各株式の「取得日」を同日としている。
売買においては、民法第555条《売買》の規定により、特段の合意がなければ原則として契約の成立により権利が移転するところ、本件各売買に係る上記の各事情を総合考慮すれば、本件譲渡人及び請求人らは、本件各売買契約において、本件譲渡人から請求人らへの本件各株式に係る権利の移転時期を平成31年3月4日とする旨の合意をしたと認められるから、当該合意に基づいて、同日に本件各株式に係る権利が本件譲渡人から請求人らに移転したと解される。
よって、本件各売買に係る課税時期は、請求人らに本件各株式に係る権利が移転した平成31年3月4日であると認められる。
B 請求人らは、本件各株式に対する当事者の価値認識は本件各売買契約日に完成しているのであるから、仮にみなし贈与があったとしても、本件各売買契約日である平成31年1月21日が贈与税の課税時期となる旨主張する。
しかしながら、上記のとおり、相続税法第7条における課税時期は、同条に規定する「譲渡があった時」であり、これは、時価より著しく低い価額の対価で財産を譲渡することによって当該財産に係る権利が譲渡を受けた者に移転した時である。そうすると、請求人らが主張するように、たとえ本件各売買契約日において本件各株式に対する当事者の価値認識が完成していたとしても、上記Aのとおり、本件各株式に係る権利が請求人らに移転したのは平成31年3月4日であると認められることからすれば、本件における課税時期は同日であるから、請求人らの主張は採用できない。
(ロ)本件各株式の1株当たりの純資産価額について
本件各株式の価額(時価)を算定するに当たり評価通達及び評価明細書通達に従って行うことについては、請求人らと原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査の結果によっても、評価通達及び評価明細書通達の定める評価方法によって評価することが著しく不適当と認められる特別の事情は認められない。
本件各株式の評価においては、まず評価明細書通達に定める直前期末法により計算をすることができるか否か、すなわち評価明細書通達に定める「直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がないため評価額の計算に影響が少ないと認められるとき」に該当するか否かを判断する必要があるところ、請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果並びに上記の状況からみて、本件会社の既存の貸借対照表は、本件会社の本件直前期末(平成30年3月31日)における資産及び負債の状況を正確に反映したものであるということはできないため、上記貸借対照表の記載内容そのものを前提として、上記該当性の判断をすることはできない。
また、評価明細書通達に定める直前期末法によらずに、評価通達に基づいて本件各株式の上記課税時期における価額を算定することとした場合においても、上記と同様の理由で、本件会社の既存の貸借対照表の記載内容そのものを前提として、本件各株式の適正な時価(客観的な交換価値)を算定することはできない。
したがって、上記該当性の判断を的確に行い、本件各株式の価額を適正に算出するため、まず、①本件各株式の評価に関係する法人税、消費税並びに相続税法、評価通達及び評価明細書通達の取扱いについて整理し(後記A及びB)、次に、②本件会社の既存の貸借対照表の記載内容を踏まえつつ、その他の資料に基づいて本件会社の本件直前期末における適正な各資産及び各負債の金額を把握した上で(後記C)、③本件各株式の1株当たりの純資産価額の計算は、本件会社の本件直前期末又は本件直後期末のいずれの各資産及び各負債の金額によるべきかについて判断し(後記D)、④本件各株式の1株当たりの純資産価額を算定することとする(後記E)。
A 本件各株式の評価に関係する法人税及び消費税の取扱い
(A)法人税における収益の認識基準等
法人税における内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る当該事業年度の収益の額とするものとされ(法人税法第22条(平成30年法律第7号による改正前のもの。以下同じ。)《各事業年度の所得の金額の計算》第2項)、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとされている(同条第4項)。
したがって、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する事業年度の益金の額に算入すべきものというべきである。
ここでいう権利の確定とは、権利の発生とは同一ではなく、権利発生後一定の事情が加わって権利実現の可能性を客観的に認識することができるようになることを意味するものと解される。また、権利実現の可能性を客観的に認識することができるようになることとは、民法上、当該権利の行使が可能となったか否かという法的基準を基本としながら、社会経済的にみて、一定の経済的利益の変動が客観的かつ確実なものになったかどうかという観点、すなわち、担税力の客観性又は確実性といった観点をも加味して判断するのが相当である。
そして、上記のとおり、法人税における内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る当該事業年度の収益の額とするものとされていることからすると、法人が有する損害賠償請求権に相当する金額は、それが発生し、かつ、上記の観点からみて権利実現の可能性を客観的に認識することができるようになった時が属する事業年度において、益金の額に算入すべきであると解される。
(B)消費税における損害賠償金の取扱い
消費税法基本通達(平成7年12月25日付課消2−25ほか国税庁長官通達)5−2−5《損害賠償金》において、損害賠償金のうち、心身又は資産につき加えられた損害の発生に伴い受けるものは、資産の譲渡等の対価に該当しないが、その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは、資産の譲渡等(消費税法第2条第1項第8号)の対価に該当する旨定めている。
上記のとおり、名目上は損害賠償金であっても、その実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当する旨の定めは、当審判所においても相当と認められる。
B 本件各株式の評価に関係する相続税法、評価通達及び評価明細書通達の取扱い
(A)貸付金債権等
評価通達204は、貸付金債権等の評価は、貸付金債権等の元本の価額と利息の価額との合計額により評価するものとし、上記元本の価額は、その返済されるべき金額である旨定めている。
上記通達は、貸付金債権等の内容として、貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金及び仮払金を例示していることからすると、同通達に定める貸付金債権等とは、発生当初に契約によって生じた債権や、発生段階で債権回収の引当てとなる財産を、債務者が有しているものなどを対象としていると解されるところ、損害賠償請求権の中には、一般的な貸付金債権等に状況が類似したものがある一方、債権の発生時から債務者の資力がなく全く経済的な価値を有しないものも存在するから、損害賠償請求権は、その発生の経緯等、個々の損害賠償請求権の具体的内容によって同通達に定める貸付金債権等に該当するか否かを判断するのが相当である。
(B)簿外資産等
純資産価額方式における計算の基礎とされるのは、課税時期における評価会社の資産であり、ここにいう資産とは財産と同義であると解されるところ、相続税法上、課税価格の算出の基となる財産とは、課税時期において金銭に見積もることができる経済的価値を認識できる全てのものをいうものと解されている。
そうすると、1株当たりの純資産価額の計算上、評価会社の資産とは、課税時期において現実に評価会社に帰属していると認められる金銭に見積もることができる具体的な経済的価値を認識できる全てのものをいうと解され、評価会社の貸借対照表に資産として計上されているか否かに関わらないというべきである。
したがって、評価会社の課税時期における純資産価額を算定する際には、評価会社の貸借対照表に計上されていない、いわゆる簿外資産等も含める必要がある。
(C)未払法人税等
評価通達186の(1)は、評価会社の帳簿に負債として記載のない場合であっても、課税時期の属する事業年度に係る法人税額、消費税額、事業税額、道府県民税額及び市町村民税額のうち、その事業年度開始の日から課税時期までの期間に対応する金額のうち未払となっているものは評価会社の負債に含まれる旨定めている。また、評価明細書通達も、評価会社の帳簿に負債として記載のない場合であっても、未納公租公課は負債として取り扱う旨定めており、評価明細書通達が定める直前期末法により評価する場合の取扱いを明らかにしている。
純資産価額方式における計算の基礎とされるのは、課税時期における評価会社の資産及び負債となるが、上記評価会社の各負債とは、債務と同義であると解されるので、債務として控除できるものであるか否かを考慮して判定するのが相当である。そして、相続税法が規定する債務控除の対象となる債務とは、確実と認められるものに限られることからすれば(相続税法第14条第1項)、純資産価額方式による計算上、評価会社の各負債もまた課税時期までに成立した確実な債務をいうものと解される。
C 本件会社の既存の貸借対照表に計上されていないものの本件直前期末の資産及び負債とすべきもの
(A)××××××に係る損害賠償請求権(損害賠償金)
a 法人税法上の益金の算入
××××××に係る損害賠償請求権は、上記によると、××××××××××××を理由とするものであるところ、上記Aの(A)のとおり、法人が有する損害賠償請求権に相当する金額は、当該損害賠償請求権が確定した時の属する事業年度において、益金の額に算入すべきであると解される。
そして、上記Aの(A)のとおり、権利の確定とは、権利の発生とは同一ではなく、権利実現の可能性を客観的に認識することができるようになることを意味すると解されており、権利実現の可能性を客観的に認識することができるようになることとは、当該権利の行使が可能となったか否かという法的基準を基本としながら、社会経済的にみて、一定の経済的利益の変動が客観的かつ確実なものになったかどうかという観点(担税力の客観性又は確実性)をも加味して判断するのが相当であると解される。
そこで、本件において××××××に係る損害賠償請求権が確定した時期について検討するに、上記のとおり、①本件会社は、平成29年10月17日以降、××××××所属の調査担当職員から税務調査を受けることとなったところ、その過程で、本件元代表者が××××××を継続的に行っていたことが発覚し、本件元代表者は、同年11月17日付で本件会社に対し、××××××により、×××××× ××××××を申し出たこと、②本件別会社は、同年12月15日、本件会社に対し、上記の損害に係る賠償金の一部として67,000,000円を支払ったこと、③本件会社は、同年12月から平成30年1月にかけて、××××××に対し、本件元代表者を債務者として、××××××に係る損害賠償請求権の一部を被保全債権とする不動産仮差押命令及び債権仮差押命令の各申立てを行い、同裁判所は、同月、上記各申立てを相当と認め、各仮差押決定をしたこと、④本件元代表者と本件別会社は、平成30年4月6日、本件会社に対し、××××××に係る損害賠償請求権の総額が××××××であることを前提とした念書を差し入れた上、××××××××××××との各事実を認めることができる。
以上によると、××××××に係る損害賠償請求権は、本件元代表者が××××××を継続的に行うことによって、その都度発生し続けていたところ、本件元代表者において、平成29年11月17日付で、本件会社に対し、××××××により、××××××××××××を申し出たことによって、本件会社において、民法上、これを行使することが可能となったということができる。そして、××××××に係る損害賠償請求権については、平成30年4月に至って、上記念書及び××においてその総額が××××××であることが確認されていることを考慮すると、本件元代表者が、平成29年11月17日付で、本件会社に対して上記申出をした段階で、社会経済的にみて、少なくとも上記××××××の経済的利益の変動が客観的かつ確実なものになったということができる。
そうすると、本件会社においては、本件会社が、本件元代表者及び本件別会社に対し、本件直前期末(平成30年3月31日)の時点で、少なくとも××××××の××××××に係る損害賠償請求権(以下「本件損害賠償請求権」という。)を有していることを客観的に認識することができたのであるから、本件においては、本件直前期末において、本件会社が有する権利が確定していたものとして、本件会社の所得の金額の計算上、上記同額を本件直前期末における益金の額に算入すべきことになる。
b 消費税等の取扱い
上記のとおり、本件損害賠償請求権に係る損害賠償金は、本件会社の資産に加えられた損害の発生に伴い受けるものに該当するから、その実質が資産の譲渡等(消費税法第2条第1項第8号)の対価に該当せず、不課税取引となる。
したがって、本件損害賠償請求権について、消費税等の額を含まない金額に換算する必要はない。
なお、上記のとおり、本件会社は、本件会社が収受した損害賠償金について税抜処理をしているところ、当該処理は、当該損害賠償金に消費税等が課されることを前提としている。しかしながら、本件損害賠償請求権に係る損害賠償金は、上記のとおり、不課税取引であるから、本件会社の上記処理は、不適切である。
c 評価通達及び評価明細書通達が定める取扱い
上記Bの(B)のとおり、1株当たりの純資産価額の計算上、評価会社の資産とは、課税時期において現実に評価会社に帰属していると認められる金銭に見積もることができる具体的な経済的価値を認識できる全てのものをいうと解され、評価会社の貸借対照表に資産として計上されているか否かに関わらないことから、本件損害賠償請求権についても、本件会社の資産として取り扱うべきこととなる(本来、本件損害賠償請求権は、本件直前期末において本件会社の貸借対照表に資産として計上されるべきものである。)。
上記Bの(A)のとおり、評価通達204に定める貸付金債権等は、発生段階で債権回収の引当てとなる財産を債務者が有しているものなどを対象としていると解されるところ、上記の一連の事実関係からすると、本件損害賠償請求権については、本件元代表者が××××××を行った時点で、本件会社に生じた損害に相当する利益を得ており、本件元代表者は債権回収の引当てとなる財産を有していたと認められることからすると、評価通達204が定める貸付金債権等に該当する。
そして、本件損害賠償請求権の元本の価額は、返済されるべき金額である××××××であるから、同金額を本件会社の本件直前期末における資産の額に含めなければならないことになる。
(B)本件簿外資産等
上記のとおり、本件会社は、平成29年12月11日付で31,400,800円の売掛金(上記売掛金①)を本件別会社に対するものとして法人税等の修正申告をし、その結果、24,592,900円の本件簿外資産等が生じているのであるから、本件簿外資産等が本件直前期末(平成30年3月31日)において存在していたことになる。
そして、上記Bの(B)のとおり、評価会社の課税時期における純資産価額を算定する際には、評価会社の貸借対照表に計上されていない、いわゆる簿外資産等も含めて評価すべきであるから、本件会社が上記修正申告をした事業年度(平成30年3月期)、すなわち本件会社の本件直前期末における資産に24,592,900円の本件簿外資産等を含める必要がある。
なお、上記のとおり、請求人らは、当審判所に対し、本件会社は、上記売掛金①について、修正申告当時は本件別会社に対するものであるとの認識であったが、その後の自主的な監査によってもその実態究明には至らなかったとして、平成31年3月期において、その全額を貸倒損失として処理した旨答述するが、本件会社が上記売掛金①を本件別会社に対するものとして修正申告していることに加え、上記売掛金①が本件別会社に対するものではないという証拠も見当たらないことからすれば、上記売掛金①は本件別会社に対するものとみるのが相当である。
(C)未払法人税等
上記(A)のa及び(B)のとおり、本件会社の本件直前期末の貸借対照表に基づき、純資産価額方式により本件各株式の評価を行うことは適切なものとは認め難く、上記貸借対照表に基づき算出された本件会社の本件直前期末における法人税等、事業税、道府県民税及び市町村民税(以下、これらを併せて「未払法人税等」という。)の額も、本件各株式の価額の算定において直ちに採用することができない。
ところで、法人税法が、法人税について、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算される旨規定(法人税法第22条第4項)していることからすれば、法人税の計算の基となる確定した決算において作成される財務諸表も一般に公正妥当と認められる会計処理の基準を反映したものでなければならない。
そうすると、本件直前期末の事業年度に係る本件会社の法人税等の納税義務が課税時期において既に成立していることからすれば、上記Bの(C)のとおり、本件直前期末の事業年度に係る法人税等の申告書が正しく作成された場合の未払法人税等の額は、純資産価額方式による計算上、本件会社の債務として負債に含めるべきである。
したがって、本件損害賠償請求権に係る収益を本件会社の本件直前期末の属する事業年度(平成30年3月期)の所得金額に加算した場合の未払法人税等の額を、同期末における負債に含めるべきであり、その額は、××××××となる。
D 本件各株式の1株当たりの純資産価額の計算は本件会社の本件直前期末又は本件直後期末のいずれの各資産及び各負債の金額によるべきか(本件直前期末から本件各売買に係る課税時期までの間に資産及び負債に著しい増減がないか否か)
上記のとおり、評価明細書通達は、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がないため評価額の計算に影響が少ないと認められるときは、直前期末法を採用できる旨定めているところ、「直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がなく評価額の計算に影響が少ないと認められる」か否かは、直前期末における各資産及び各負債の金額に基づいて判断すべきであり、この段階では、評価会社の帳簿に負債としての記載がない直前期末日後から課税時期までに確定した剰余金の配当等の金額については考慮すべきではない。
そうすると、本件においては、本件会社の既存の貸借対照表に計上された資産及び負債に、本件直前期末においてその存在が認められる上記Cの本件損害賠償請求権、本件簿外資産等及び未払法人税等を追加すると、本件直前期末における本件会社の各資産及び各負債の金額は別表3のとおりとなる。その上で、本件直前期末から本件各売買に係る課税時期である平成31年3月4日までの間には、本件各株式の価額の計算に影響を及ぼすような著しい資産及び負債の増減は、本件会社の平成31年3月期の総勘定元帳、その他請求人ら提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によっても認められない。
したがって、本件においては、本件直前期末から本件各売買に係る課税時期までの間に本件会社の資産及び負債に著しい増減がないため、評価明細書通達に定める「直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がないため評価額の計算に影響が少ないと認められるとき」に該当することになるから、本件各株式の1株当たりの純資産価額の計算は、評価明細書通達に定める直前期末法によることができる。
E 本件各株式の1株当たりの純資産価額の計算について(まとめ)
本件各売買に係る課税時期における本件各株式の1株当たりの純資産価額の計算は、上記Dのとおり、評価明細書通達に定める直前期末法によることとなるところ、上記のとおり、本件会社の既存の貸借対照表の記載内容そのものを前提として、上記該当性の判断をすることはできない。
そこでまず、本件会社の本件直前期末の既存の貸借対照表上の資産に上記Cの(A)及び(B)で説示した本件損害賠償請求権の額××××××及び本件簿外資産等の額24,592,900円を加え、上記貸借対照表上の負債に、上記Cの(C)で説示した未払法人税等の額××××××(本件損害賠償請求権に係る収益を加算した場合の未払法人税等××××××から本件直前期末の貸借対照表上の未払法人税等××××××を控除した額)を加算することとなる。
そして、上記のとおり、評価明細書通達の「第5表 1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の2の(4)の定めにより、本件直前期末から平成31年3月4日(本件各売買に係る課税時期)までに確定した本件各配当金の額110,000,000円を本件会社の負債に計上することとなる。
その結果、本件各売買に係る課税時期における本件各株式の1株当たりの純資産価額は、別表4のとおり、241,762円となる。
(5)原処分の適法性について
イ 本件各更正処分について
上記のとおり、本件各更正処分は通則法第24条に規定する「調査により」行われたものであり、上記のとおり、本件各更正処分の理由の提示に不備もない。しかしながら、本件各株式の1株当たりの純資産価額は別表4のとおり241,762円となるため、本件各株式の価額、すなわち相続税法第22条に規定する「時価」はそれぞれ60,440,500円となり、本件各売買価額16,132,000円は本件各株式の時価60,440,500円を大きく下回るから、社会通念に照らし、請求人らによる本件各株式の取得は、相続税法第7条に規定する「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当すると認めるのが相当である。
そうすると、本件各株式の時価60,440,500円と本件各売買価額16,132,000円との差額に相当する金額44,308,500円が、相続税法第7条の規定により、請求人らが本件譲渡人から贈与を受けたものとみなされる金額となる。
上記の金額を基に請求人らの令和元年分の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表5の「審判所認定額」欄のとおりとなり、いずれも本件各更正処分における納付すべき税額を下回る。
したがって、本件各更正処分については、別紙2及び別紙3の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。
ロ 本件各賦課決定処分について(編注:略)
(6)結論
よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととし、主文のとおり裁決する。
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