解説記事2024年04月29日 新会計基準解説 改正企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」等の概要(2024年4月29日号・№1025)
新会計基準解説
改正企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」等の概要
企業会計基準委員会専門研究員 富田真史
Ⅰ はじめに
企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2024年3月22日に、改正企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下「自己株式等会計適用指針」という。)及び改正企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「税効果適用指針」という。)(以下、これらを合わせて「本適用指針」という。)を公表した(脚注1)。本稿では、本適用指針の概要を解説する。
また、本適用指針は日本公認会計士協会から公表されている会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」にも影響するため、ASBJで検討の上、同協会に改正を依頼した。これを受けて、2024年3月22日に同協会より同実務指針の改正(以下「資本連結実務指針」という。)(脚注2)が公表されているため、併せてご確認いただきたい。本稿では、本適用指針に併せて資本連結実務指針の概要についても紹介する。
なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であり、ASBJの見解を示すものではないことをあらかじめ申し添える。
Ⅱ 本適用指針の公表の経緯
令和5年度税制改正において、完全子会社株式について一部の持分を残す株式分配のうち、当該一部の持分が当該完全子会社の株式の発行済株式総数の20%未満となる株式分配について、他の一定の要件を満たす場合には、完全子会社株式のすべてを分配する場合と同様に、課税の対象外とされる特例措置、いわゆるパーシャルスピンオフ税制が新たに設けられた。これを受けて、2023年3月に開催された第497回企業会計基準委員会において、事業を分離・独立させる手段であるスピンオフの会計処理を検討することが企業会計基準諮問会議よりASBJに提言された。ASBJでは、2023年4月より審議を開始し、2023年10月6日に公表した企業会計基準適用指針公開草案第80号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)」等(以下「公開草案」という。)に寄せられた意見を踏まえて検討を行い、本適用指針は公開草案の内容を一部修正した上で公表するに至ったものである(脚注3)。
なお、本適用指針において基準開発の範囲外としたケースについては、今後の子会社株式の配当に関する取引の進展や会計実務の状況により、他のテーマとの優先順位等を考慮して、今後の基準開発の範囲とするかどうかASBJにおいて判断することとされた(自己株式等会計適用指針第28-4項なお書き)。
Ⅲ 本適用指針の概要
1 基準開発の範囲
ASBJは、基準開発の範囲について、いわゆるパーシャルスピンオフ税制において税制適格となるかどうかにかかわらないとした上で、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)することにより当該株式が子会社株式に該当しなくなる場合に限定するか、又は、保有する完全子会社以外の子会社株式の一部を配当する場合についても基準開発の範囲に含めるべきか検討が行われた。
審議の結果、いわゆるパーシャルスピンオフ税制が時限的なものであり早期に基準開発を完了すべきことから、まずは発生する可能性が高いと考えられる、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合に基準開発の範囲を限定することとされた(自己株式等会計適用指針第28-4項)。
2 現物配当を行う会社の個別財務諸表上の会計処理
現物配当を行う会社の個別財務諸表上、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する取扱いを設けることとされた(自己株式等会計適用指針第10項(2-2))。その理由は次のとおりである。
2024年改正前の自己株式等会計適用指針では、現物配当を行う場合、原則として配当財産の時価と適正な帳簿価額との差額は、配当の効力発生日の属する期の損益として計上し、配当財産の時価をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額することとされているが、分割型の会社分割(按分型)や保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合、適正な帳簿価額をもって会計処理する取扱いが設けられている(自己株式等会計適用指針第10項(1)及び(2))。
本適用指針においても、自己株式会計等適用指針第10項(2-2)で対象とされた保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合については、以下を踏まえると改正前の自己株式等会計適用指針第10項(1)及び(2)と同様の取扱いを行うことが適切と考えられるため、配当財産の適正な帳簿価額をもって会計処理することとされた(自己株式等会計適用指針第38-2項)。
(1)一部の持分を残す按分型の完全子会社株式の配当が株式数に応じて比例的に行われ、スピンオフとして当該完全子会社の事業を分離・独立させる目的で行われる場合には、既存の株主以外の第三者が取引に参加していないことから、取引の趣旨を踏まえ総体としての株主の観点から取引全体を俯瞰すると、株式配当の実施会社を通じて保有していた完全子会社を自ら直接保有することとなる組織再編であると考えられる。この場合、総体としての株主にとっては当該完全子会社に対する投資が継続していると考えられる。
(2)基準開発の範囲としたケースについては、スピンオフとして子会社の事業を分離・独立させる目的で行われたものに該当することについて異論は出なかった。
3 現物配当を行う会社の税効果会計
保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合において、連結決算手続の結果として生じる一時差異については、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異に準ずるものとして定義に追加することとされた。その理由は次のとおりである。
2024年に改正された資本連結実務指針では、保有する完全子会社株式を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合の会計処理について、連結財務諸表においても、現物配当に係る損益を計上しないこととされた。このため、当該取引について税効果適用指針第4項の定義に従って検討した場合、連結決算手続の結果として生じる一時差異のうち、自己株式等会計適用指針第10項(2-2)で定められた取引において解消する部分が解消する時に連結財務諸表における利益が減額又は増額されないことから、連結財務諸表固有の一時差異は生じているものの連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異の定義に直接的には該当しないと考えられる。
しかしながら、税制非適格の場合に連結財務諸表上の税金等調整前当期純利益と税金費用との対応関係を図ることを考えた場合、当該一時差異についても税効果適用指針が定める連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異に係る定めを適用するのが適切と考えられることから、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異の定義に準ずるものとして同様の取扱いをすることとされた(税効果適用指針第124-2項)。
4 完全子会社株式を対象とすることの明確化
本適用指針では、今回の基準開発の範囲としたケースについて自己株式等会計適用指針第10項(2-2)に追加して記載された。一方、当該会計処理の前提となった自己株式等会計適用指針第10項(2)については従前の記載を変更されていない。
この点、改正前の自己株式等会計適用指針第10項(2)の定めについては配当される子会社株式が完全子会社株式かどうか明記されていなかったが、2005年改正の自己株式等会計適用指針の公表時においては完全子会社株式を配当する取引が想定されていたと考えられることから、その旨を明確化するため、また自己株式等会計適用指針第10項(2-2)の記載と整合性を取るため、「完全」を追加して記載してはどうかとの意見が聞かれた。しかしながら、自己株式等会計適用指針第10項(2)は今回の基準開発の範囲外であり、「完全」を追加して記載することにより、自己株式等会計適用指針第10項(2)を変更している又は新たな解釈を示しているという誤解を与える等の意見も聞かれたことから、本適用指針では自己株式等会計適用指針第10項(2)については記載を変更しないこととされ、その旨が結論の背景に記載されている。
Ⅳ 資本連結実務指針の概要
1 完全子会社株式を配当した場合の連結財務諸表上の会計処理
保有する完全子会社株式のすべて又は一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合の連結財務諸表上の会計処理については、以下の処理を行うこととされた。
(1)投資の修正額の取扱い
① 配当前の投資の修正額とこのうち配当後の株式に対応する部分との差額
原則として、連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、子会社株式の配当に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって計上する。
配当前の投資の修正額とこのうち配当後の株式に対応する部分との差額は、主として連結財務諸表上の会計処理から生じるものである。このため、個別財務諸表上の配当に関する会計処理と関連させず、原則として、親会社持分の減少から生じたものとして、連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、子会社株式の配当に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって計上することとされた。
② 個別財務諸表上の取得価額に含まれている付随費用及び子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金のうち配当した部分に対応する額
配当により個別財務諸表で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額を連結株主資本等変動計算書において修正する。
配当前の投資の修正額とこのうち配当後の株式に対応する部分との差額のうち、支配獲得時の付随費用については、個別財務諸表における会計処理(付随費用)と連結財務諸表における会計処理(取得関連費用)で考え方が異なっており、個別財務諸表上、配当財産の適正な帳簿価額には付随費用が含まれている。したがって、連結財務諸表の観点からは、個別財務諸表上のその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額が付随費用のうち配当した株式に対応する部分だけ多くなっていると考えられる。
また、個別財務諸表上、配当財産の適正な帳簿価額には追加取得等による資本剰余金に相当する金額が含まれており、配当によって追加取得等による資本剰余金に相当する金額も含めたところでその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)が減額されている。この結果、連結財務諸表の観点からは、個別財務諸表上のその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額が追加取得等による資本剰余金のうち配当した株式に対応する部分だけ多く又は少なくなっていると考えられる。
このため、連結財務諸表の観点から、個別財務諸表上の取得価額に含まれている付随費用と当該子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金のうち配当した部分に対応する額については、配当により個別財務諸表で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額を連結株主資本等変動計算書において修正することとされた。
(2)残存する当該被投資会社に対する投資の取扱い
① 残存する当該被投資会社に対する投資(支配を喪失して関連会社になった場合)
完全子会社株式の一部を配当し当該被投資会社が関連会社になった場合、連結貸借対照表上、親会社の個別貸借対照表に計上している当該関連会社株式の帳簿価額は、投資の修正額のうち配当後持分額を加減することで、持分法による投資評価額に修正する。のれんの未償却額の取扱いは、子会社株式を売却し当該会社に対する支配を喪失して関連会社になった場合ののれんの未償却額の取扱い(資本連結実務指針第45-2項)に準じて行う。
保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなり関連会社になった場合、当該会社の個別貸借対照表はもはや連結されないため、連結貸借対照表上、親会社の個別貸借対照表に計上している当該関連会社株式の帳簿価額を持分法による投資評価額に修正する必要がある。この場合、当該持分法による投資評価額には支配喪失以前に費用処理した支配獲得時の取得関連費用を含めないこととされた(資本連結実務指針第46-2項)。同様にのれんの未償却額の取扱いなど、当該会社が関連会社になった場合におけるその他の連結財務諸表上の処理については、子会社株式の一部売却の会計処理に準じて処理することとされた。
② 残存する当該被投資会社に対する投資(支配を喪失して関連会社にも該当しなくなった場合)
完全子会社株式の一部を配当し当該被投資会社に対する投資が残存する場合には、配当後の投資の修正額は取り崩し、当該取崩額を連結株主資本等変動計算書の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、連結除外に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって計上することとされた。改正理由は、次のとおりである。
子会社にも関連会社のいずれにも該当しなくなった場合には、連結貸借対照表上、残存する当該被投資会社に対する投資を個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価する(企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第29項)こととなる。このため、残存する投資の取扱いについては、子会社株式の一部売却により支配を喪失して関連会社にも該当しなくなった場合の会計処理(資本連結実務指針第46項)と同じ処理を定めることとされた。
Ⅴ 適用時期等
1 本適用指針
本適用指針は、公表日以後適用することとされた。また、適用日の前に行われた自己株式等会計適用指針第10項(2-2)で定められた取引については、適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないこととされた(自己株式等会計適用指針第23-3項及び税効果適用指針第65-3項)。
本適用指針の基準開発の範囲は、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合であり、通常、これに該当する取引を行う企業は会計上の取扱いを十分に検討した上でスキームを構築していると考えられるため、スキーム実行時に想定していなかった会計処理を過去に遡って求めることはしないこととされた。
2 資本連結実務指針
資本連結実務指針についても2024年3月22日(本適用指針公表日)から適用することとされた。なお、資本連結実務指針の適用前に行われた自己株式等会計適用指針第10項(2)及び(2-2)で定められた取引について、資本連結実務指針の適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないこととされた。
これまで自己株式等会計適用指針第10項(2)が適用される場合の連結財務諸表上の取扱いについては定められていなかったため、資本連結実務指針では、自己株式等会計適用指針第10項(2-2)が適用される保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)を行う場合に関する連結財務諸表上の取扱いを定めるとともに、自己株式等会計適用指針第10項(2)が適用される保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)を行う場合に関する連結財務諸表上の取扱いについても併せて定めることとされた。
ここで資本連結実務指針の適用前に自己株式等会計適用指針第10項(2)及び(2-2)が適用される取引を行っていた場合で資本連結実務指針の会計処理と異なる会計処理を行っていた場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として遡及適用の対象になると考えられる。しかしながら、遡及適用をすることにより実務に影響を与えることを避けるため、資本連結実務指針の適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないものとする経過的な取扱いを設けることとされた。
Ⅵ おわりに
本適用指針は、2023年10月6日に公表された公開草案に寄せられた意見を踏まえて、ASBJにおいて検討が行われ、公表するに至ったものである。本稿が本適用指針の改正の概要やその趣旨をご理解いただくための一助となれば幸いである。
脚注
1 本適用指針の全文については、ASBJのウェブサイト(https://www.asb-j.jp/jp/implementation_guidance/y2024/2024-0322.html)を参照のこと。
2 資本連結実務指針の改正については、日本公認会計士協会のウェブサイト(https://jicpa.or.jp/specialized_field/20240322ruy.html)を参照のこと。
3 日本公認会計士協会から公表された資本連結実務指針についても、本適用指針と同様に公開草案の内容を一部修正した上で公表されている。
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