解説記事2024年07月29日 税制改正解説 令和6年度における租税条約の締結について(日本・ギリシャ租税条約)(2024年7月29日号・№1037)
税制改正解説
令和6年度における租税条約の締結について(日本・ギリシャ租税条約)
藤原章子
はじめに
我が国とギリシャ共和国(以下「ギリシャ」という。)との間には、これまで租税条約は存在しなかったが、両国間の経済関係の発展を踏まえ、両国政府は、令和元年(2019年)5月に租税条約を締結するための交渉を開始した。その結果、令和5年(2023年)11月1日に「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とギリシャ共和国との間の条約」(以下「条約」という。)についてアテネにおいて署名が行われた。
条約は、両国間で生ずる二重課税を除去するため、投資所得に対する投資先の国における課税の軽減又は免除等、両国において課税することができる範囲を定める規定等を設けている。また、条約の締結により、両国の税務当局間において、条約の規定に適合しない課税についての相互協議、租税に関する情報交換及び租税債権の徴収に関する相互支援(徴収共助)の実施が可能となる。
これらにより、二重課税を除去し、国際的な脱税及び租税回避行為を防止しつつ、両国間の投資・経済交流を一層促進することが期待される。
条約は、両国それぞれの国内手続(我が国においては国会の承認を得ることが必要であり、条約は第213回国会で承認された。)を経た後、両国間で外交上の公文の交換を行い、交換の日の後30日目の日に効力を生ずることとなる。
以下では、これらの条約の主な条項及び特徴的な条項について、解説する。
一 対象となる者(第1条)
1 本条の趣旨
本条は、条約が適用される者の範囲等を規定している。
2 解説
(1)課税上存在しないものとして取り扱われる事業体を通じて取得される所得に対する条約の適用(本条2)
例えば、ある事業体が受け取る所得について、当該所得が生じた国(源泉地国)では事業体を納税義務者として認識する(事業体課税が行われる)のに対し、事業体が所在する国では事業体の構成員を納税義務者として認識する(構成員課税が行われる)場合がある。このように、ある事業体に関する課税上の取扱いが両締約国で異なる場合には、条約の特典を受ける者に関する認識が両締約国で異なるため、実質的な二重課税が生じているにもかかわらず条約が適用できないこととなる。
そこで、本条2は、いずれかの締約国の租税に関する法令の下において全面的若しくは部分的に課税上存在しないものとして取り扱われる団体若しくは仕組みによって又はこのような団体若しくは仕組みを通じて取得される所得は、一方の締約国における課税上当該一方の締約国の居住者の所得として取り扱われる限りにおいて、当該一方の締約国の居住者の所得とみなすことを規定している。
これにより、いずれか一方の締約国により、課税上存在しないものとして取り扱われる事業体を通じて取得される所得に対する条約の適用関係を明らかにしている。
(2)セービング・クローズ(本条3)
本条3は、条約の規定は原則として一方の締約国が自国の居住者に対して課税する権利を制限しないことを規定するとともに、その例外として、自国の居住者に対して課税する権利を制限する条約の条項を列挙している。
二 一般的定義(第3条)
1 本条の趣旨
本条は、条約において使用される用語の定義等を規定している。ここでは、「公認の年金基金」の定義について解説する。
2 解説
「公認の年金基金」の定義(本条1(1))
一方の締約国の「公認の年金基金」とは、当該一方の締約国の法令に基づいて設立される団体又は仕組みであって、当該一方の締約国の租税に関する法令の下において独立した者として取り扱われ、かつ、次の①又は②に該当するものをいう。
① 専ら又は主として、個人に対する退職手当及び補助的若しくは付随的な手当又は他のこれらに類する報酬を管理し、又は給付することを目的として設立され、かつ、運営される団体又は仕組みであって、当該一方の締約国又は当該一方の締約国の地方政府若しくは地方公共団体によって規制されるもの
② 専ら又は主として、当該一方の締約国の他の公認の年金基金の利益のために投資することを目的として設立され、かつ、運営される団体又は仕組み
なお、一方の締約国の法令に基づいて設立される団体又は仕組みが、当該一方の締約国の租税に関する法令の下において独立した者として取り扱われるとしたならば上記①又は②に基づいて公認の年金基金に該当することとなる場合には、当該団体又は仕組みは、条約の適用上、当該一方の締約国の租税に関する法令の下において公認の年金基金として取り扱われる独立した者とみなし、かつ、当該団体又は仕組みの全ての資産及び所得は、他の者ではなく、当該独立した者によって保有される資産及び取得される所得として取り扱われる。
三 居住者(第4条)
1 本条の趣旨
本条は、「一方の締約国の居住者」の定義等を規定している。
2 解説
双方居住者の振分けルール(本条2及び3)
本条2及び3は、本条1によって双方居住者に該当する者を条約上いずれか一方の締約国の居住者に振り分けるためのルールを規定している。
個人が双方居住者に該当する場合には、次の①から③までの基準によって、いずれか一方の締約国の居住者とみなすこととされており、これらによっても決定することができない場合には、両締約国の権限のある当局の合意によって解決することとされている(本条2)。
① その使用する恒久的住居が存在する締約国の居住者とみなす。双方の締約国内に恒久的住居を有する場合には、その人的及び経済的関係がより密接な締約国(重要な利害関係の中心がある締約国)の居住者とみなす。
② 上記①によって決定することができない場合には、その有する常用の住居が存在する締約国の居住者とみなす。
③ 上記②によって決定することができない場合には、その個人が国民である締約国の居住者とみなす。
また、個人以外の者が双方居住者に該当する場合には、両締約国の権限のある当局が、その者の本店又は主たる事務所の所在地、その者の事業の実質的な管理の場所、その者が設立された場所その他関連する全ての要因を考慮して、その居住地国を合意によって決定するよう努め、そのような合意がない場合には、その者は、条約に基づいて与えられる租税の軽減又は免除を受けることができないこととされている(本条3)。
四 恒久的施設(第5条)
1 本条の趣旨
条約は、事業利得に対する課税、配当等に対する課税、給与所得に関する短期滞在者免税等について、「恒久的施設」との関連を基準として課税関係を規定している。本条は、この「恒久的施設」の定義等を規定している。
2 解説
(1)「恒久的施設」の定義(本条1)
本条1は、「恒久的施設」の定義を規定している。条約の適用上、「恒久的施設」とは、事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っているものをいう。
(2)恒久的施設の例示(本条2)
本条2は、本条1の定義を踏まえ、恒久的施設に該当するものとして、次のものを例示している。
① 事業の管理の場所
② 支店
③ 事務所
④ 工場
⑤ 作業場
⑥ 鉱山、石油又は天然ガスの坑井、採石場その他の天然資源を採取する場所
(3)建築工事現場等(本条3)
本条3は、建築工事現場若しくは建設若しくは据付けの工事又はこれらに関連する監督活動については、これらの現場、工事又は活動が6か月を超える期間存続する場合に限り、恒久的施設を構成するものとすることを規定している。
(4)天然資源の探査又は開発に関する恒久的施設(本条4)
本条4は、本条1及び2の規定にかかわらず、企業が一方の締約国内の沖合において天然資源の探査又は開発を当該課税年度において開始し、又は終了するいずれかの12か月の期間において合計30日を超える期間行う場合には、当該企業は、天然資源の探査又は開発を行う当該一方の締約国内に恒久的施設を有し、かつ、その恒久的施設を通じて当該一方の締約国内において事業を行うものとされることを規定している。
(5)恒久的施設を有するとはされない準備的又は補助的な性格の活動(本条5)
本条5は、本条1から4までの規定にかかわらず、次のいずれかに該当する活動を行う場合には、恒久的施設に当たらないものとすることを規定している。
① 企業に属する物品又は商品の保管又は展示のためにのみ施設を使用すること。
② 企業に属する物品又は商品の在庫を保管又は展示のためにのみ保有すること。
③ 企業に属する物品又は商品の在庫を他の企業による加工のためにのみ保有すること。
④ 企業のために物品若しくは商品を購入し、又は情報を収集することのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。
⑤ 企業のために上記①から④までの活動以外の活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。ただし、その活動が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。
⑥ 上記①から⑤までの活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。ただし、その一定の場所におけるこのような組合せによる活動の全体が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。
(6)事業活動の細分化への対抗(本条6)
本条6は、事業活動を複数の企業又は場所に細分化し、本条5の適用を受けることによって、恒久的施設の認定を回避しようとする行為に対抗するための措置である。
具体的には、ある企業が使用し又は保有する「事業を行う一定の場所」について、その企業又はその企業と密接に関連する企業が、当該一定の場所又は当該一定の場所が存在する締約国内の他の場所において事業活動を行う場合において、次の①又は②に該当するときは、本条5の規定は適用されず、当該一定の場所は恒久的施設に該当することを規定している。
① 本条の規定に基づき、当該一定の場所又は当該他の場所が、その企業又はその企業と密接に関連する企業の恒久的施設を構成する場合
② その企業及びその企業と密接に関連する企業が当該一定の場所において行う活動の組合せ又はその企業若しくはその企業と密接に関連する企業が当該一定の場所及び当該他の場所において行う活動の組合せによる活動の全体が、準備的又は補助的な性格のものでない場合
ただし、この規定が適用されるのは、これらの企業がこれらの場所において行う事業活動が、一体的な業務の一部として補完的な機能を果たす場合に限る。
(7)従属代理人(本条7)
本条7は、企業が代理人を通じて行う活動について、本条1及び2に規定する事業を行う一定の場所があるかどうかにかかわらず、恒久的施設を有するものとされる場合を規定している。具体的には、ある企業の代理人(本条8に規定する独立の代理人を除く。)が、一方の締約国内において当該企業に代わって行動するに当たって、反復して契約を締結し、又は当該企業によって重要な修正が行われることなく日常的に締結される契約の締結のために反復して主要な役割を果たす場合において、これらの契約が次の①から③までのいずれかに該当するときは、当該企業は、その代理人が当該企業のために行う全ての活動について、代理人が活動を行う当該一方の締約国内に恒久的施設を有するものとされる。
① 当該企業の名において締結される契約
② 当該企業が所有し、又は使用の権利を有する財産について、所有権を移転し、又は使用の権利を与えるための契約
③ 当該企業による役務の提供のための契約
ただし、代理人の活動が、本条5(恒久的施設を有するとはされない準備的又は補助的な性格の活動)に規定する活動であって、事業を行う一定の場所(本条6(事業活動の細分化への対抗)の規定が適用されることとなるものを除く。)を通じて行われたとしても本条5の規定により当該一定の場所が恒久的施設とはされないこととなるもののみである場合は、恒久的施設を有するものとはされない。
(8)独立の代理人(本条8)
本条8は、一方の締約国内において他方の締約国の企業に代わって行動する代理人が、当該一方の締約国内において独立の代理人として事業を行い、かつ、当該企業のために通常の方法で当該事業を行う場合には、本条7の規定は適用されず、当該企業は、当該一方の締約国内に恒久的施設を有するものとはされないことを規定している。ただし、その代理人は、専ら又は主として一又は二以上の自己と密接に関連する企業に代わって行動する場合には、そのような企業との関係において、独立の代理人には該当しないこととされている。
五 事業利得(第7条)
1 本条の趣旨
本条は、企業が事業活動によって取得する利得に対する課税上の取扱いを規定している。
2 解説
(1)「恒久的施設なければ課税なし」の原則及び「帰属主義」の原則(本条1)
本条1は、企業が事業活動によって取得する利得に対する課税に関して、二つの原則を規定している。
一つは、いわゆる「恒久的施設なければ課税なし」の原則で、一方の締約国の企業の利得に対しては、その企業が他方の締約国内に存在する恒久的施設を通じて当該他方の締約国内において事業を行わない限り、企業の居住地国である当該一方の締約国においてのみ課税することができるとされている。
もう一つは、いわゆる「帰属主義」の原則で、一方の締約国の企業が他方の締約国内に存在する恒久的施設を通じて当該他方の締約国内において事業を行う場合には、その企業の利得のうちその恒久的施設に帰せられる部分に対してのみ、恒久的施設が存在する当該他方の締約国において課税することができるとされている。
(2)恒久的施設に帰せられる利得の計算(本条2)
本条2は、企業の一部である恒久的施設を同一又は類似の条件で同一又は類似の活動を行う別個の分離した企業であると仮定した上で、独立した企業間における条件で取引を行うとしたならば当該恒久的施設が取得したとみられる利得が恒久的施設に帰せられるものとすることを規定している。
(3)費用の控除(本条3)
本条3は、恒久的施設に帰せられる利得を算定するに当たり、その恒久的施設のために生ずる費用(経営費及び一般管理費を含む。)を控除することが認められることを規定している。
なお、恒久的施設のために生ずる費用であれば、その恒久的施設が存在する締約国内において生ずるものか他の場所において生ずるものかは問わないこととされている。
(4)単純購入非課税(本条4)
本条4は、いわゆる単純購入非課税の原則を規定している。恒久的施設が企業のために物品又は商品の単なる購入を行った場合に、そのことのみを理由としては、いかなる利得も、恒久的施設に帰せられることはないことを規定している。
(5)利得の決定方法の継続適用(本条5)
本条5は、本条1から4までの規定の適用上、恒久的施設に帰せられる利得は、毎年同一の方法によって算定されなければならないことを規定している。ただし、別の方法を用いることについて正当な理由がある場合は、変更が認められる。
(6)本条と他の条との関係(本条6)
本条6は、配当や利子等、他の条で別個に取り扱われている種類の所得が企業の利得に含まれる場合には、他の条の規定が優先的に適用されることを規定している。もっとも、第10条6(配当)、第11条5(利子)、第12条4(使用料)及び第21条2(その他の所得)は、一方の締約国の居住者である所得の受益者が他方の締約国内において当該他方の締約国内に存在する恒久的施設を通じて事業を行う場合において、これらの所得の支払の基因となった資産が当該恒久的施設と実質的な関連を有する場合には、本条が適用されることを規定している。
六 国際海上運送及び国際航空運送(第8条)
1 本条の趣旨
本条は、船舶又は航空機を国際運輸に運用することによって取得する利得(国際運輸業利得)に対する課税上の取扱いを規定している。
2 解説
(1)国際運輸業利得の取扱い(本条1)
本条1(a)は、一方の締約国の企業が船舶を国際運輸に運用することによって取得する利得に対しては、当該船舶が他方の締約国において又は他方の締約国によって登録されていない限り、企業の居住地国である当該一方の締約国においてのみ課税することができることを規定している。一方の締約国の企業が国際運輸に運用する船舶が他方の締約国において又は他方の締約国によって登録されている場合には、当該船舶を国際運輸に運用することによって取得する利得に対しては、船舶が登録されている当該他方の締約国において課税することができることとされている。
また、本条1(b)は、一方の締約国の企業が航空機を国際運輸に運用することによって取得する利得に対しては、企業の居住地国である当該一方の締約国においてのみ課税することができることを規定している。
(2)事業税の免除(本条2)
本条2は、船舶又は航空機を国際運輸に運用することについて、ギリシャの企業であれば我が国の事業税を、我が国の企業であればギリシャにおいて課される我が国の事業税に類似する租税を、免除されることを規定している。ただし、船舶を国際運輸に運用する一方の締約国の企業に対する本条2に定める租税の免除は、他方の締約国において又は他方の締約国によって登録されている船舶を運用することについては、適用されない。
七 関連企業(第9条)
関連企業間の取引においては、独立した企業間で用いられる取引価格(独立企業間価格)とは異なる取引価格を用いることによって、所得が関連企業間で移転されることがある。
本条は、関連企業間の取引価格を独立企業間価格に引き直してそれぞれの企業の利得を計算するという独立企業原則に基づく課税(いわゆる移転価格税制)に関するルールを定めている。
八 配当(第10条)
1 本条の趣旨
本条は、配当に対する源泉地国における限度税率等、配当に対する課税上の取扱いを規定している。
2 解説
(1)居住地国の課税(本条1)
本条1は、一方の締約国の居住者である法人が他方の締約国の居住者に支払う配当に対しては、配当を受け取る者の居住地国である当該他方の締約国において課税することができることを規定している。
(2)源泉地国の課税(本条2)
本条2は、配当を支払う法人が居住者とされる一方の締約国(源泉地国)においても配当に対して課税することができることを規定するとともに、その配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を、次のとおり規定している。
① 配当の受益者が、配当の支払を受ける者が特定される日(いわゆる基準日)を含む6か月の期間を通じ、配当を支払う法人の持分(日本法人が支払う場合には議決権、ギリシャ法人が支払う場合には資本又は議決権)の10%以上を直接又は間接に所有する法人である場合には、その配当の額の5%(本条2(a))。なお、6か月の期間の計算に当たり、配当の受益者である法人又は配当を支払う法人の合併、分割その他の組織再編成の直接の結果として行われる所有の変更は、考慮しないこととされている。
② その他の全ての場合には、その配当の額の10%(本条2(b))
(3)配当を控除することができる法人が支払う配当の取扱い(本条3)
本条3は、一方の締約国(源泉地国)の居住者である法人の支払う配当が当該一方の締約国における当該法人の課税所得の計算上控除される場合には、当該配当に対しては、本条2に規定する限度税率を適用せず、源泉地国の法令に従って課税することができることを規定している。ただし、その配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合には、10%の限度税率が適用される。
九 利子(第11条)
1 本条の趣旨
本条は、利子に対する源泉地国における限度税率や免税等、利子に対する課税上の取扱いを規定している。
2 解説
(1)居住地国の課税(本条1)
本条1は、一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者に支払われる利子に対しては、利子を受け取る者の居住地国である当該他方の締約国において課税することができることを規定している。
(2)源泉地国の課税(本条2及び3)
本条2は、利子が生じたとされる一方の締約国(源泉地国)においても利子に対して課税することができることを規定するとともに、その利子の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を、10%と規定している。
さらに、本条3は、次の①又は②に該当する場合については、利子の受益者の居住地国である当該他方の締約国においてのみ課税することができる(利子の源泉地国においては免税となる)ことを規定している。
① 利子の受益者が、次に掲げる者である場合
(i)当該他方の締約国
(ii)当該他方の締約国の地方政府又は地方公共団体
(iii)当該他方の締約国の中央銀行
(iv)(i)又は(ii)に掲げる者によって全面的に所有される機関
② 利子の受益者が当該他方の締約国の居住者であり、かつ、当該利子が上記①(i)から(iv)までに掲げる者によって保証された債権、これらによって保険の引受けが行われた債権又はこれらによって行われた間接融資に係る債権に関して支払われる場合
十 使用料(第12条)
1 本条の趣旨
本条は、使用料に対する源泉地国における限度税率等、使用料に対する課税上の取扱いを規定している。
2 解説
(1)居住地国の課税(本条1)
本条1は、一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者に支払われる使用料に対しては、使用料を受け取る者の居住地国である当該他方の締約国において課税することができることを規定している。
(2)源泉地国の課税(本条2)
本条2は、使用料が生じたとされる一方の締約国(源泉地国)においても使用料に対して課税することができることを規定するとともに、その使用料の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税することができる税率の上限(限度税率)を、5%と規定している。
十一 譲渡収益(第13条)
1 本条の趣旨
本条は、財産の譲渡によって取得する収益に対する課税上の取扱いを規定している。
2 解説
(1)不動産の譲渡(本条1)
本条1は、一方の締約国の居住者が第6条(不動産所得)に規定する不動産であって他方の締約国内に存在するものの譲渡によって取得する収益に対しては、不動産が存在する当該他方の締約国において課税することができることを規定している。
(2)国際運輸に運用される船舶又は航空機等の譲渡(本条3)
本条3(a)は、船舶を国際運輸に運用する一方の締約国の企業が当該船舶の譲渡又は当該船舶の運用に係る財産(第6条(不動産所得)に規定する不動産を除く。)の譲渡によって取得する収益に対しては、当該船舶が他方の締約国において又は他方の締約国によって登録されていない限り、企業の居住地国である当該一方の締約国においてのみ課税することができることを規定している。一方の締約国の企業が国際運輸に運用する船舶が他方の締約国において又は他方の締約国によって登録されている場合には、当該船舶の譲渡又は当該船舶の運用に係る財産(第6条(不動産所得)に規定する不動産を除く。)の譲渡によって取得する収益に対しては、船舶が登録されている当該他方の締約国において課税することができることとされている。
また、本条3(b)は、航空機を国際運輸に運用する一方の締約国の企業が当該航空機の譲渡又は当該航空機の運用に係る財産(第6条(不動産所得)に規定する不動産を除く。)の譲渡によって取得する収益に対しては、企業の居住地国である当該一方の締約国においてのみ課税することができることを規定している。
(3)不動産化体株式の譲渡(本条4)
本条1では、不動産の譲渡によって取得する収益に対しては不動産の存在する締約国において課税することができることを規定しているが、例えば、不動産を法人に保有させ、その法人の株式を譲渡することにより、実質的には不動産の譲渡をしながら本条1の適用を免れることが可能となる。そこで、本条4は、本条1の潜脱を防止する観点から、その価値の一定割合以上が不動産によって構成される法人の株式(いわゆる不動産化体株式)の譲渡によって取得される収益に対して、不動産が存在する締約国において課税することができることを規定している。
具体的には、一方の締約国の居住者が法人の株式又は同等の持分(組合又は信託財産の持分を含む。)の譲渡によって取得する収益に対しては、当該株式又は同等の持分の価値の50%以上が、当該譲渡に先立つ365日の期間のいずれかの時点において、他方の締約国内に存在する不動産(第6条(不動産所得)に規定する不動産をいう。)によって直接又は間接に構成される場合には、不動産が存在する当該他方の締約国において課税することができることとされている。
ただし、当該株式又は同等の持分が公認の有価証券市場において取引される場合において、当該一方の締約国の居住者及びその特殊関係者が所有する当該株式又は同等の持分の数の合計がその種類の株式又は同等の持分の総数の5%以下であるときは、本条1の潜脱のリスクが低いと考えられることから、この規定は適用しないこととされている。
十二 匿名組合(第20条)
1 本条の趣旨
本条は、匿名組合契約等に基づいて行う出資について取得する所得に対する課税上の取扱いについて規定している。
2 解説
本条は、条約の他の規定にかかわらず、一方の締約国の居住者が匿名組合契約その他これに類する契約に基づいて行う出資について取得する所得に対しては、当該所得が他方の締約国内において生じ、かつ、当該他方の締約国における当該所得の支払者の課税所得の計算上控除される場合には、所得の源泉地国である当該他方の締約国において、当該他方の締約国の法令に従って課税することができることを規定している。
十三 相互協議手続(第24条)
1 本条の趣旨
本条は、条約の規定に適合しない課税に係る事案等を解決するための相互協議手続について規定している。
2 解説
(1)納税者の申立て(本条1)
本条1は、いずれか一方又は双方の締約国の措置により条約の規定に適合しない課税を受けたと認める者又は受けることとなると認める者は、その事案につき、一方又は双方の締約国の法令に定める救済手段(異議申立て、訴訟の提起等)とは別に、いずれかの締約国の権限のある当局に対して申立てをすることができることを規定している。ただし、その申立ては、その課税措置の最初の通知の日から3年以内にしなければならないこととされている。
(2)仲裁(本条5)
本条5は、条約の規定に適合しない課税を受けたとして申し立てられた事案を、両締約国の権限のある当局が一定の期間内に解決することができない場合における第三者による仲裁について、以下のとおり規定している。
① 本条1に従って申立てが行われた事案に対処するために両締約国の権限のある当局が要請した全ての情報が両締約国の権限のある当局に提供された日から3年以内に、両締約国の権限のある当局が事案を解決するための合意に達することができない場合において、その申立てを行った者が書面により仲裁を要請するときは、その事案の未解決の事項は、仲裁に付託される。ただし、未解決の事項についていずれかの締約国の裁判所又は行政審判所が既に決定を行った場合には、その未解決の事項は、仲裁に付託されない。
② 仲裁決定は、事案によって直接に影響を受ける者が、仲裁決定を実施する両締約国の権限のある当局の合意を受け入れない場合を除き、両締約国を拘束し、両締約国の法令上のいかなる期間制限にもかかわらず、実施されなければならない。
③ 両締約国の権限のある当局は、仲裁手続の実施方法を合意によって定めなければならない。
十四 情報の交換(第25条)
1 本条の趣旨
本条は、両締約国の権限のある当局が租税に関する情報を交換することを規定している。
十五 租税の徴収における支援(第26条)
1 本条の趣旨
本条は、両締約国が租税の徴収を相互に支援することを規定している。
十六 特典を受ける権利(第28条)
本条は、条約が濫用されるリスクに対処するため、一定の場合に条約の特典を受ける権利を制限する規定を設けている。
本条1は、国外源泉所得の一部が課税されない居住者については、条約に基づく租税の軽減又は免除の適用範囲が居住地国において課税される所得に制限されることを規定している。
また、本条2は、両締約国以外の国(第三国)内に存在する恒久的施設に帰属する所得について課される租税の額が一定の額に満たない場合には条約の特典は与えられないことを規定している。
さらに、本条3は、いわゆる主要目的テスト規定(PPT:Principal Purpose Test)であり、条約に基づく特典を受けることがその取引等の主たる目的の一つであると認められる場合には条約の特典は与えられないことを規定している。
十七 効力発生(第29条)
1 本条の趣旨
本条は、条約の効力発生及び適用開始について規定している。
2 解説
(1)効力発生(本条1)
本条1は、条約は、両締約国においてそれぞれの国内法上の手続に従って承認されるものとし(注)、その承認を通知する外交上の公文の交換の日の後30日目の日に効力を生ずることを規定している。
(注)我が国においては国会の承認が必要であり、条約は第213回国会で承認された。
(2)適用開始(本条2)
本条2は、条約は、次のものについて適用されることを規定している。
① ギリシャにおいては、
(i)源泉徴収される租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に支払われ、又は貸記される額
(ii)その他の租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に開始する各期間について課される租税
② 我が国においては、
(i)課税年度に基づいて課される租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に開始する各課税年度の租税
(ii)課税年度に基づかないで課される租税に関しては、条約が効力を生ずる年の翌年の1月1日以後に課される租税
(3)情報の交換及び租税の徴収における支援の適用開始(本条3)
本条3は、本条2の例外として、第25条(情報の交換)及び第26条(租税の徴収における支援)の規定については、その対象となる租税が課される日又はその租税に係る課税年度にかかわらず、条約の効力発生の日から適用されることを規定している。
十八 終了(第30条)
本条は、条約の終了及び適用終了について規定している。
十九 議定書
条約には、条約の不可分の一部を成す議定書が付されている。この議定書の各規定の国際法上の効力は、条約本体の各規定のそれと何ら変わるところはない。この議定書は、以下の事項を定めている。
1 「船舶」の意義(議定書1)
議定書1では、条約の適用上、「船舶」には、小型船を含むことを確認している。
2 「公認の有価証券市場」の意義(条約第13条4関連)(議定書2)
議定書2では、「公認の有価証券市場」とは、次の有価証券市場をいうことを規定している。
① いずれかの締約国の法令に基づいて設立され、かつ、規制される有価証券市場
② 両締約国の権限のある当局が合意するその他の有価証券市場
3 仲裁手続の細目(条約第24条5関連)(議定書3)
議定書3では、条約第24条(相互協議手続)の規定に関し、本条5(仲裁)に規定する仲裁手続の細目について規定している。
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