解説記事2024年09月02日 ニュース特集 VCファンド出資持分の非上場株式の会計処理案判明(2024年9月2日号・№1041)
ニュース特集
時価評価オプションの適用が可能
VCファンド出資持分の非上場株式の会計処理案判明
企業会計基準委員会(ASBJ)が開発している上場企業等が保有するベンチャーキャピタル(VC)ファンドの出資持分に係る会計上の取扱い案が明らかとなった。現行の移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」を一部改正するとしており、早ければ9月中にも公開草案が決定される見込みとなっている。一定の要件を満たす組合等の構成資産である市場価格のない株式については、時価をもって評価し、評価差額の持分相当額を純資産の部に計上することが可能になる。最終基準が2025年3月末までに決定し、公表されることになれば、適用は2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からとなることが有力視されている(2025年4月1日以後開始する連結会計年度等からの早期適用も可)。なお、適用初年度については遡及適用を求めないほか、一定の経過措置を設ける。
時価評価の会計方針など、対象となる組合に2つの要件
近年では、主にVCファンドに市場価格のない株式を組み入れた金融商品が増加しているが、現状これらの金融商品に関して、上場企業等が保有するファンドについては、市場価格のない株式に係る国内会計基準に沿って、取得原価に減損等を勘案して評価することになっており、VCファンドの公正価値評価の普及を妨げる要因になっているとの指摘がある。また、政府の新しい資本主義実現会議が令和4年11月28日に取りまとめた「スタートアップ育成5か年計画」では、日本においても公正価値評価を導入し、海外投資家の呼び込みを進める旨が明記されていた。
このような状況を踏まえ、企業会計基準委員会は財務会計基準機構(FASF)の企業会計基準諮問会議からの提言を踏まえ、上場企業等が保有するVCファンドの出資持分に係る会計上の取扱いについて検討することになったものである。
具体的な会計処理については、まず、組合等の構成資産である市場価格のない株式の時価の信頼性を担保するために、①組合等の運営者は出資された財産の運用を業としている者であること、②組合等の決算において、組合等の構成資産である市場価格のない株式について時価で評価する会計方針を採用していること−−の2つの要件を課すこととされた。
①の「組合等の運営者」とは、日本のVCファンドの多くで用いられている投資事業有限責任組合の形態においては、無限責任組合員が該当すると考えられ、また、他の法形態に基づく組合等については、投資事業有限責任組合における無限責任組合員と類似の業務を執行する者が該当すると考えられるとしている。また、②の要件は、利害関係者から市場価格のない株式の時価評価について懸念が聞かれている中、組合等の決算において組合等の構成資産である市場価格のない株式を時価で評価する会計方針を採用している場合には、時価評価に関する懸念を一定程度緩和できるとの考えから設けられたもの。この「時価で評価する会計方針を採用している」場合とは、企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」に基づいて時価で評価する場合のほか、IFRS第13号「公正価値」又はFASBのTopic820「公正価値測定」に基づいて公正価値で測定している場合が含まれるとしている。
時価評価は組合等の単位ごとに選択可能も出資後の取りやめは不可
上記の2つの要件を満たす組合等への出資については、組合等の構成資産である市場価格のない株式について、時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とすることができる。あくまでも“できる規定”であり、会計処理のオプションとして時価評価を選択することができるというものである。強制適用されるわけではない点、留意したい。
時価評価した場合については、評価差額の持分相当額は純資産の部に計上することになる。審議の過程では、評価差額を当期の損益とすることも検討されたが、その他有価証券に関する会計処理など、他の現行基準との内的整合性を重視する観点から、市場価格のない株式の評価差額の持分相当額を純資産の部に計上することとなった。
また、組合等の構成資産である市場価格のない株式の時価評価について、範囲に含まれるすべての組合等を時価評価の対象とするのか、あるいは、組合等の単位とするのかが議論となったが、企業は出資の目的及び性質に照らして時価評価とする組合等の選択に関する方針を定め、その方針に基づき、組合等への出資時に時価評価の定めの適用対象かどうかを決定することとされている。
そのほか、企業の意思により自由に時価評価の適用を終了することを認めることは、会計処理の透明性や比較可能性の観点から適切ではないことから時価評価に関しては出資後に取りやめることはできないこととしている。
減損処理は時価のある有価証券と同様
また、組合等の構成資産である市場価格のない株式について時価評価している場合の減損処理については、市場価格のない株式等の減損処理に関する定め(金融商品実務指針第92項)を適用することは必ずしも適切ではないため、時価のある有価証券の減損処理に関する定め(同第91項)にしたがって減損処理を行うこととされている。
組合への出資のB/S計上額等を注記
組合等の構成資産である市場価格のない株式を時価評価する場合については、企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」第24−16項(貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記に関する取扱い)で定める事項の注記に併せて、①組合等の構成資産である市場価格のない株式を時価評価している旨、②組合等の選択に関する方針、③組合等への出資の貸借対照表計上額の合計額を注記することが求められる。組合等への出資の貸借対照表計上額の合計額は、時価算定適用指針第24−16項の取扱いを適用した組合等への出資の貸借対照表計上額の合計額の内数に該当するとしている。
なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しない。
2026年4月1日以後開始する連結会計年度等の期首から適用可
最終基準の公表時期については今のところ未定だが、企業会計基準委員会では、出資の目的及び性質に照らして企業が定めた方針に合致するすべての組合等を抽出し、市場価格のない株式について時価評価を行うためには、相応の準備期間が必要であるとしている。
このため、適用時期は最終基準を公表した日から1年程度経過した4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとしている。このまま順調に審議が進むことになれば、遅くとも2025年3月末までには最終基準が決定されることになるため、この場合には、2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されることになる。また、早期適用のニーズもあるため、最終基準を公表した日から最初に到来する年の4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用を認める方針。2025年3月末までに正式決定することになれば、2025年4月1日から早期適用することが可能になりそうだ。
期首時点の評価差額を評価・換算差額に加減
今回の金融商品実務指針の改正については、遡及適用を求めず、適用初年度の期首時点において企業が定めた方針に基づいて時価評価オプションを適用する組合等への出資を決定し、適用初年度の期首から将来にわたって適用することとされる。過去に遡って企業が定めた方針に合致する組合等を決定することを求めるのは、実際には行っていなかった判断を事後的に求めることになり、適切ではないからだ。したがって、改正金融商品実務指針の適用開始日までに時価評価オプションの選択に関する方針を企業が定め、その方針に基づいて、適用初年度の期首時点で時価評価オプションを適用する組合等への出資を決定することが適切としている。
この場合、適用後の当期純利益等への影響が適切となるように、①適用初年度の期首時点において、時価評価オプションの対象となる組合等への構成資産である市場価格のない株式について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とする。この場合、適用初年度の期首時点での評価差額の持分相当額を適用初年度の期首のその他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に加減する、②適用初年度の期首時点において、時価評価オプションの対象となる組合等の構成資産である市場価格のない株式について、時価のある有価証券の減損処理に関する定め(金融商品実務指針第91項)に従って減損処理を行い、組合等への出資者の会計処理の基礎とする。この場合、減損処理による損失の持分相当額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減する−−という経過措置を設けるとしている。
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