解説記事2024年11月04日 最新判決研究 事前確定届出給与の損金性(2024年11月4日号・№1049)
最新判決研究
事前確定届出給与の損金性
東京地裁令和6年2月21日判決(令和4年(行ウ)第566号)
筑波大学名誉教授・弁護士・税理士 品川芳宣
一、事実
(1)X(原告)は、令和元年9月30日に開催された定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)において、代表取締役甲及び乙に対し、令和2年6月30日付で2800万円の賞与をそれぞれ支払うことを決議し(以下「本件決議」という。)、令和元年10月16日、処分行政庁に対し、法人税法(以下「法」という。)34条1項2号及び法施行令69条4項1号に基づき、本件決議の内容に関する届出(以下「本件届出」といい、同届出書を「本件届出書」という。)をした。本件届出書には、甲及び乙に係る「事前確定届出給与に関する事項」として、「職務執行期間開始の日の属する会計期間」の「今回の届出額」欄に、支給時期を令和2年6月30日と、支給額を2800万円(本件各届出給与額)とそれぞれ記載されており、本件株主総会の議事録が添付されていた。
(2)そして、Xは、令和2年6月30日、甲及び乙に対し、「賞与」として、それぞれ2500万円を支払うとともに(以下この賞与を「本件各支給給与額」という。)、令和元年7月1日から令和2年6月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)分法人税について、本件各支給給与額を損金の額に算入して確定申告をした。なお、Xは、本件事業年度の損益計算書において、本件各支給給与額を「販売費及び一般管理費」として計上し、当該損益計算書を含む本件事業年度の財務諸表は、令和2年9月30日に開催されたXの定時株主総会において承認された。
しかし、Xは、本件各支給給与額が本件各届出給与額と異なることに関して、本件決議の内容を変更する株主総会等の決議をしておらず、かつ、処分行政庁に対し、法施行令69条5項所定の変更後の定めの内容に関する届出をしていなかった。
(3)これに対し、処分行政庁は、調査に基づき、令和3年7月5日付で、本件事業年度分法人税につき、本件各支給給与額が損金の額に算入できないとする更正処分(以下「本件更正」という。)等(以下「本件更正等」という。)をした。
Xは、本件更正等を不服とし、前審手続を経て、令和4年12月20日、国(被告)に対し、その取り消しを求めて、本訴を提起した。
二、争点及び当事者の主張
1 争 点
本件の主たる争点は、本件各支給給与額は損金の額に算入されないとしてされた本件更正の適法性であり、より具体的には、本件各支給給与額の事前確定届出給与(法34①二)該当性である。
2 国の主張
本件各支給給与額(2500万円)は、本件各届出給与額(2800万円)と異なり、しかも、本件決議の内容を変更する株主総会等の決議は存在せず、かつ、Xは、処分行政庁に対し、法施行令69条5項所定の変更後の定めの内容に関する届出をしていないのであって、本件各支給給与額は、事前確定届出給与に関する届出(本件届出)のとおりにされたものということはできないから、法34条1項2号の要件を満たさず、事前確定届出給与に当たらない。
3 Xの主張
(1)役員給与は職務執行の対価であり、企業会計上は費用として処理されるのであるから、その額は原則として損金の額に算入されるべきであって、このような原則に反し、会社法等の実体法や企業会計上の原則を実質的な理由なく変容する法34条1項は、憲法29条に違反する疑いがあるため、これを憲法の規定に反しないように解釈適用するためには、法34条1項2号は、納税者である法人が事前確定届出給与に関する届出をすれば、課税の公平を害するような実質的な理由がない限り、役員給与は原則として損金に算入されるべきである。
(2)Xは、処分行政庁に対して本件届出をしており、本件決議による事前の定めに基づいて、各代表者に対して賞与を支払った。
しかも、本件においては、Xの経理部門等における過誤により、本件各届出給与額の一部(合計600万円)が未払になっているだけであり、Xには租税回避の意図はなく、本件各支給給与額を損金に算入したとしても、納税者間の課税の公平は害されない。
三、判決要旨
請求棄却。
1 事前確定届出給与制度の趣旨等
(1)役員給与は、企業会計上は費用とされるが、法人と役員との関係に鑑みると、役員給与の額を無制限に損金の額に算入することとすれば、法人が役員給与の額をほしいままに決定し、法人の所得の金額を殊更に少なくすることにより、法人税の課税を回避するなどの弊害が生ずる恐れがあり、課税の公平を害することから、法は、法22条3項柱書の「別段の定め」である法34条1項において、同項各号のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しないこととしている。
そして、同項2号、法施行令69条4項及び法施行規則22条の3第1項3号は、事前に支給時期及び支給額が株主総会等において確定的に定められ、所轄税務署長に対して届出(事前確定届出給与に関する届出)がされた給与については、給与の支給額をほしいままに決定し、法人税の課税を回避する弊害がないため、これを損金に算入することを認めたものと解される。
その上で、事前に支給時期及び支給額が株主総会等において確定的に定められ、事前確定届出給与に関する届出がされたにもかかわらず、届けられた金額と異なる金額の役員給与が支払われた場合に無制限に損金への算入を認めることとすれば、例えば、支給額(法施行規則22条の3第1項3号)を高額に定めて事前確定届出給与に関する届出を行うことによりあらかじめ枠取りをしておき、その後、上記のとおり届出をした金額より減額した額を支給するなどして損金の額をほしいままに操作し、法人税の課税を回避するなど、事前確定届出給与制度を設けた趣旨を没却し、課税の公平を害することになりかねない。そこで、法施行令69条5項は、法人の財務状況等により、事前に確定及び届出をした額の給与を支給することを相当としない事態が生じた等の一定の事由(臨時改定事由及び業績悪化改定事由)に該当する場合に限り、変更後の定めの内容に関する届出をすることにより、支給額を変更した上で損金に算入することを認め(この場合、変更後の定めの内容に関する届出が事前確定届出給与に関する届出に該当することになる。)、さらに、同条4項又は5項所定の届出期限を遵守することができなかったことについてやむを得ない事情があれば、本来の上記届出期限までにその届出があったものとして扱うことを認めている(同条7項)。
このような法施行令及び法施行規則の定めは、法34条1項2号イの趣旨、事業活動や給与支給の反復性、課税関係の明確化及び画一的処理等の観点に照らし、同号の委任の範囲内における合理的なものと認められる。
(2)以上のような法及び施行令の各規定の趣旨、内容及び文言に照らすと、法34条1項2号の「確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与」とは、株主総会等の決議において役員給与が確定的に定められ、その決議に基づき、所轄税務署長に対して、事前確定届出給与に関する届出がされた場合において、金額を含め、所定の手続に従って届出がされたとおりに支給する給与のみをいうものと解するのが相当である。
2 検 討
本件各支給給与額は本件各届出給与額と異なり、しかも、Xは、法施行令69条5項所定の変更後の定めの内容に関する届出をしていないのであるから、本件各支給給与額は、法34条1項2号の「確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与」に当たらない。
したがって、Xの本件事業年度の法人税額の計算上、本件各支給給与額の合計額(5000万円)を損金の額に算入することはできない。
3 Xの主張について
(1)これに対し、Xは、前記二の3のとおり主張する。しかしながら、前記1(1)で説示したところから明らかなとおり、内国法人の法人税額の計算上、役員給与を原則として損金に算入すべきであるとか、法34条1項が会社法等の実体法や企業会計上の原則を実質的な理由なく変容するものということはできないし、同項2号の「確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与」の意義を前記1のとおりに解したからといって、法34条が憲法に違反するともいえないから、上記①の主張は、その前提において理由がない。
また、法34条1項2号、法施行令69条4項及び法施行規則22条の3第1項3号は、事前に支給時期及び支給額が株主総会等において確定的に定められ、事前確定届出給与に関する届出がされた給与については、給与の支給額をほしいままに決定し、法人税の課税を回避する弊害がないため、これを損金に算入することを認めたものと解されること、事前確定届出給与に関する届出書に記載された額と異なる額の役員給与が支給された場合に無制限に損金への算入を認めることとすれば、事前確定届出給与制度を設けた趣旨を没却し、課税の公平を害することになりかねないこと、このため、法施行令69条5項は、一定の事由に該当する場合に限り、変更後の定めの内容に関する届出をすることにより損金に算入することを認めていること、このような法施行令及び法施行規則の定めは、法34条1項2号の委任の範囲内における合理的なものと認められることなどからすると、事前確定届出給与に関する届出がされた金額と異なる金額の役員給与が支給されたときは、当該給与は、同号の「確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与」に当たらず、その額を損金の額に算入することはできないのであって、このことは、役員給与を支給する者が租税回避の意図を有していたか否か等にかかわらないから、上記の主張も、理由がない。
(2)なお、Xは、本件支給給与額と本件各届出給与額の差額(各300万円)については、役員給与の一部が未払の状態にすぎず、実質的には本件各届出給与額の役員給与が支給されたものと認められるべきであるし、仮にそのように認められないとしても、実際に支給された額(本件各支給給与額)については損金に算入されるべきものであるとも主張している。
しかしながら、Xは、本件事業年度に係る総勘定元帳の「役員賞与」勘定に本件各支給給与額を計上し、本件事業年度の損益計算書においても本件各支給給与額の合計額を「販売費及び一般管理費」として計上している一方、少なくとも本件各処分時に至るまで、上記差額を「未払賞与」として計上していないのであって(弁論の全趣旨)、Xのこのような会計処理に照らしても、各代表者に対する役員給与の一部が未払であるとはにわかに認め難い。
また、仮に、役員給与の一部が未払の状態にすぎないとしても、前記1で説示したとおり、法34条1項2号の要件を満たすとはいえない。
(3)Xは、そのほかにもるる主張するが、いずれも合理的な裏付けを欠くか、いわゆる立法論にわたるものであって、採用することができない。
四、解説
はじめに
本件は、いわゆる事前確定届出給与の損金算入につき、法34条1項2号所定の定めにより、代表取締役2名の当該給与の額につき、定時株主総会で定め、その旨処分行政庁に届出たものの(本件各届出給与額)、実際には、本件各届出給与額を1割程度下回る額(本件各支給給与額)を支払った場合に、本件各支給給与額の損金性が争われたものである。そして、本判決は、本件各支給給与額の損金算入を法令の定めを形式どおり適用して否認した本件更正の適法性を容認したものである。
この本判決については、本件更正が本件各支給給与額の支払いが法令の規定に従っていなかったということで本件支給給与額の損金性を否認し、それを適法であると判断した点では、単純な事件に係る単純な判決であると評価し得るとも考えられる。しかしながら、役員給与の損金性の本質を考慮した場合そして当該損金性について大幅な改正をした平成18年度税制改正の経緯等を考慮した場合には、本件が単純な事件であるとは一概には言えない問題があるものと考えられる。
そこで、本稿では、役員給与の損金性について会社法や企業会計基準との関係にもふれた上でその本質を検討し、平成18年度税制改正の問題点にも言及し、本判決の位置付けを検討することとする(注1)。その中で、本件で問題となっている事前確定届出給与すなわち従前には「役員賞与」と称されていた給与に係る損金処理の経緯とその問題点について論じることとする。
1 企業会計上の会計処理
(1)平成14年改正前の商法(以下「旧商法」という。)269条は、「取締役ガ受クベキ報酬ハ定款ニ其ノ額ヲ定メザリシトキハ株主総会ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム」と規定していた。そして、いわゆる役員賞与については、前述の「報酬」の一部であると解する向きもあったが、一般的には、株主総会における利益処分決議の対象になるものと解されていた。
具体的には、旧商法281条1項において、「取締役ハ毎決算期ニ左ノ書類及其ノ附属明細書ヲ作リ取締役会ノ承認ヲ受クルコト要ス」と定められ、同項4号に「利益ノ処分又ハ損失ノ処理ニ関スル議案」が掲げられており、この「利益ノ処分」に取締役等に対する賞与が含まれるものとされ、この281条1項所定の事項については、株主総会の承認を要することとされていた(旧商法283)。そして、このような利益処分決議の対象となる賞与については、通常の役員の報酬には含まれないものと解されていた(注2)。
(2)ところが、平成14年の商法改正によって、前述の旧商法269条は次のように大幅に改正されることになった。
「① 取締役ガ受クベキ報酬ニ付テノ左ニ掲ゲル事項ハ定款ニ之ヲ定メザリシトキハ株主総会ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム
一 報酬中額ガ確定シタルモノニ付テハ其ノ額
二 報酬中額ガ確定セザルモノニ付テハ其ノ具体的ナル算定ノ方法
三 報酬中金銭ニ非ザルモノニ付テハ其ノ具体的ナル内容
② 株主総会ニ前項第2号又ハ第3号ニ規定スル報酬ノ新設又ハ改定ニ関スル議案ヲ提出シタル取締役ハ其ノ株主総会ニ於テ其ノ報酬ヲ相当トスル理由ヲ開示スルコトヲ要ス」
また、このような報酬規定の改正について、立法担当者は、次のように説明している(注3)。
「近年、わが国においても、欧米にならって、取締役の報酬につき業績連動型報酬や株価連動型報酬などを導入する会社が増加する傾向にあるが、現行の商法269条は、取締役の報酬について、定款でその額を定めないときは、株主総会の決議でこれを定めるべきこととしているため、業績連動型報酬などのように報酬が不確定な金額で与えられる場合や、報酬が金銭以外のもので与えられる場合に、どのような株主総会決議をすべきかが明確でなかった。そこで、改正法は、同条を改正して、まず、不確定金額の報酬を与えるときは、その具体的な算定方法を、金銭以外の報酬を与えるときはその具体的な内容を、それぞれ決議すべき旨を明らかにしている。
なお、改正法による改正後の商法269条1項2号の「報酬中額ガ確定セザルモノ」の具体例としては、業績連動型報酬や株価連動型報酬が該当する。また、同項3号の「報酬中金銭ニ非ザルモノ」としては、社宅を無償または低額の家賃で供与する場合などを挙げることができる。」
(3)かくして、平成17年7月、従前、商法の中で規定されていた会社関係の規定が独立した法体系として創設されることとなり、「会社法」が成立した。会社法361条では、取締役に対する報酬について、次のように定めることとした。
「① 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な方法
三 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容
② 前項第2号又は第3号に掲げる事項を定め、又はこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該株主総会において、当該事項を相当とする理由を説明しなければならない。」
この改正規定は、平成14年の改正内容に準ずるものであるが、「賞与」が報酬等に含まれることが明記されたことに特色がある。これは、会社法上、利益処分案の決議が廃止されたことにも対応しているが、これにより「役員賞与」が利益処分項目でないことが明確にされた。
(4)このような商法及び会社法の改正は、企業会計基準にも影響を及ぼすこととなり、「役員賞与に関する会計基準」(平成17年11月29日 企業会計基準委員会)では、「役員賞与は、発生した会計期間の費用として処理する。」(同基準3)とし、「本会計基準は、すべての会社における役員賞与の会計処理に適用する。」(同基準2)と定めた。また、このような会計処理の会計上の考え方について、同基準では次のように説明している。
「会計上の考え方
12.本会計基準では、以下の理由から、役員賞与は発生した会計期間の費用として処理することとした。
(1)役員賞与と役員報酬の類似性
役員報酬は、確定報酬として支給される場合と業績連動型報酬として支給される場合があるが、職務執行の対価として支給されることにかわりはなく、会計上は、いずれも費用として処理される。役員賞与は、経済的実態としては費用として処理される業績連動型報酬と同様の性格であると考えられるため、費用として処理することが適当である。
この点に関して、役員賞与は、利益をあげた功労に報いるために支給されるものであって、利益の有無にかかわらず職務執行の対価として支給される役員報酬とは性格が異なるとの見解もあるが、会社の利益は職務執行の成果であり、この功労に報いるために支給される役員賞与もやはり業績連動型の役員報酬と同様に職務執行の対価と考えられる。
(2)役員賞与と役員報酬の支給手続
役員賞与と役員報酬は職務執行の対価として支給されるが、職務執行の対価としての性格は、本来、支給手続の相違により影響を受けるものではないと考えられるため、その性格に従い、費用として処理することが適当である。
なお、第9項に記載のとおり、会社法では、役員賞与と役員報酬の支給手続は同じ条文で示されており、同一の手続により支給されることになる。
13~15〈略〉」
2 平成18年改正前の役員報酬課税
(1)平成18年改正前の旧法人税法34条では、「過大な役員報酬等の損金不算入」と題し、法人がその役員に対して支給する報酬の額のうち、不相当に高額な部分の金額及び事実を隠ぺい仮装して経理したものは、損金の額に算入しないとしていた。この場合の相当の額は、当該役員の職務内容、その法人の収益及び使用人に対する給料の支給状況、その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するもの(以下「類似法人」という。)の役員報酬の支給状況等に照らし判断される(旧法令69①)。
また、商法等の定めによって定款の規定又は株主総会の決議等によって報酬の支給限度額が定められている場合には、当該限度額を超えて支給した役員報酬の額は、無条件に不相当に高額とされていた(旧法令69②)。
このように、役員報酬については、定款の規定等に反したり、隠ぺい仮装して支給した場合には、その金額が損金不算入とされるが、それ以外の場合においても、その支給額のうち不相当に高額な部分が損金不算入とされる。この「不相当に高額な部分」については、前述のように、主として、実質的に判断されることになるが、課税実務では、類似法人における役員報酬の支給状況等と対比して形式的(類似法人の平均値等)に判定されることが多いため、その弊害が指摘されてきた(注4)。
(2)また、旧法人税法35条では、「役員賞与等の損金不算入」と題し、原則として、役員賞与を損金不算入とし(旧法法35①)、使用人兼務役員に対する使用人部分の賞与について、損金経理をして他の使用人に対する支給時期に支払った場合にのみ、損金算入を認めていた(旧法法35②)。
この場合、最も問題となるのが、賞与の意義(範囲)であり、かつ、報酬との区分である。旧法人税法35条4項は、「賞与とは、役員又は使用人に対する臨時的な給与(債務の免除による利益その他経済的な利益を含む。)のうち、他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額(利益に一定の割合を乗ずる方法により算定されることとなっているものを除く。)を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう。」と定めていた。
そして、この規定を受けて、法人税基本通達は、「「定期の給与」とは、あらかじめ定められた支給基準(慣習によるものを含む。)に基づいて、毎日、毎週、毎月のように月以下の期間を単位として規則的に反覆又は継続して支給される給与をいう。ただし、これらの給与であっても、通常行われる給与の増額以外において特定の月だけ増額支給された場合における当該給与については、当該特定の月において支給された額のうち各月において支給される額を超える部分の金額は臨時的な給与とする。」(旧法基通9−2−13)と定めていた。また、裁判例(注5)も、この取扱いを是認してきた。
しかしながら、役員賞与を損金不算入とすることについては、租税法学上も批判のあったところであり(注6)、前述のように、商法が業績連動型報酬を導入したこと、会社法が報酬と賞与の区分を廃止したこと、「役員賞与に関する会計基準」が定められたこと等により、当該損金不算入規定は早晩見直されるであろうことが予測されていた(注7)。
(3)旧法人税法の下では、前述したように、法人が役員報酬として支給した場合であっても、その支給が臨時的であると認められると、役員賞与と認定されて、損金不算入とされた。このようなことは、役員退職給与として支給した場合であっても、退職時に支給すべき賞与を含めて支払ったり(注8)、取締役を退任したもののみなし役員に該当する場合に支払ったり(注9)すると、当該賞与部分又はそれらの全額が役員賞与と認定されて、損金不算入とされた。
このようなことは、法人が役員に対して所有資産を低額で譲渡したり、あるいは、役員が法人の資金を私的に流用(使途不明金、横領等も含む。)したりしたときにも、役員賞与と認定されることになる(注10)。このような場合には、法人が役員に対して給与そのものを支給したことの認識がないだけに、厄介な問題を惹起する。
このように、法人が役員に対して賞与を支給したことの認識がまったくなく、損金算入の対象となる報酬又は役員給与を支払ったものと認識している場合に、あるいは、給与の支払いとはまったく別の取引を行ったものと認識している場合に、課税庁側が当該給与又は経済的利益の供与等について役員賞与(損金不算入)と認定することを、課税実務では、「認定賞与」という。すなわち、認定賞与とは、法令上の用語ではなく、実務上の慣例的な用語であるが、法解釈等において種々の問題を惹起する。
かくして、認定賞与については、法人が損金処理によって報酬等を支給した場合にも、当該損金処理が否認されて、当該金額が所得金額に加算されることになり、法人税の課税修正(更正又は修正申告)の原因となる。しかしながら、平成18年の法人税法改正によって「賞与」の概念が捨象されることになったので、「認定賞与」という用語が用いられることはないであろうが、従前、認定賞与とされてきた大部分のものは、損金不算入の「給与」として認定(すなわち、認定給与)されるものと考えられる。
なお、このような認定賞与や認定給与については、所得税法上の源泉徴収義務を伴う(所法183)ことになるが、その法律関係の適用・解釈をめぐって困難な問題を惹起することになる。
3 平成18年改正後の役員給与課税
(1)前記1で述べたように、企業会計においては、商法・会社法において従前の報酬・賞与等が一括して職務執行の対価たる「報酬等」として株主の監視の対象とされることにより、役員賞与についての利益処分性が捨象され、かつ、役員賞与に関する会計基準が制定されて、役員賞与を費用として処理することが明確にされた。
他方、法人税法においては、前述したように、役員賞与の損金不算入等について非合理性が指摘される中で、前述のような企業会計における役員賞与を中心とする会計処理の変更にどのように対応すべきかが問題とされていた。かくして、平成18年度税制改正において、役員報酬課税は大幅に改正(変更)されることになるが、本件に関連する主要項目についての改正の要点は、次のとおりである(注11)。
(2)法34条は、「役員給与の損金不算入」と題し、その1項において、内国法人がその役員に対して支給する給与のうち、次の①から③までに掲げる給与のいずれにも該当しないものは、所得金額の計算上、損金の額に算入しないとし、④についても損金不算入とした。
① 定期同額給与
「定期同額給与」とは、その支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与で、当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして次に定める給与をいう(法法34①一)。
「次に定める給与」とは、一定の事由に基づいて改定される場合の給与と経済的利益の供与で毎月概ね一定であるものをいう(法令69①)。前者については、定期給与で、次に掲げる改定(以下「給与改定」という。)がされた場合における当該事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの間の各支給期間における支給額が同額であるものをいう(法令69①一)。
当該事業年度開始の日の属する会計期間から原則として3月を経過する日までにされた定期給与の額の改定
当該事業年度において当該内国法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情
当該事業年度において当該内国法人の経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由
② 事前確定届出給与
「事前確定届出給与」とは、その役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与(非同族会社における定期給与を支給しない役員に対して支給する給与以外については、政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長に届出ている場合に限る。)をいう(法法34①二)。
この税務署長に対する届出は、株主総会等の決議によって事前確定届出給与の支給を定めた日から1月以内(又は当該事業年度開始の日から4月以内)に財務省令に定めるところによってしなければならない(法令69②)。
③ 利益連動給与
「利益連動給与」(編注=現行法では、業績連動給与という。)とは、同族会社に該当しない内国法人がその業務執行役員に対して支給する利益に連動する給与で、次に掲げる要件を満たすもの(他の業務執行役員のすべてに対して当該要件を満たすものに限る。)をいう(法法34①三、法令69⑥~⑩)。
その算定方法が、当該事業年度の利益に関する指標(金融商品取引法24条1項に規定する有価証券報告書に記載されているものに限る。)を基礎として客観的なものであること。この客観的なものとは、(イ)確定額を限度としているものであり、かつ、他の業務執行役員に対して支給する利益連動給与に係る算定方法と同様のものであること、(ロ)会社法上の報酬委員会が決定していること等の政令で定める手続を経ていること、の要件を満たすものに限られる。
その他政令で定める要件((イ)利益に関する指標の数値が確定した後1月以内に支払われ、又は支払われる見込みであること、(ロ)損金経理をしていること)
④ 過大給与等の損金不算入
法人税法34条は、その1項において、前記①から③までのような役員給与に対する損金規制をするとともに、従前のように、役員に対する給与のうち不相当に高額な部分を損金の額に算入しないこととし、(法法34②)、かつ、事実を隠ぺいし、又は仮装して経理することにより支給する給与についても損金の額に算入しないこととしている(法法34③)。これらの損金規制と問題点は、平成18年改正前と同様である。
以上の改正事項については、その後、主として、ストックオプション等の支給形態の多様化に対応して、事前確定届出給与の内容が改正されているが、基本的な考え方には変わりはない。
4 役員給与課税の合理性
(1)法人税法における役員給与課税は、前記2及び3で述べた改正経緯を経て、平成18年度改正の内容を基に成り立っている。このような役員給与課税については、一般的には、本判決も判示するように、「役員給与は、企業会計上は費用とされるが、法人と役員との関係に鑑みると、役員給与の額を無制限に損金の額に算入することとすれば、法人が役員給与の額をほしいままに決定し、法人の所得の金額を殊更に少なくすることにより、法人税の課税を回避するなどの弊害が生ずるおそれがあり、課税の公平を害する」からであると解されている。このような考え方については、法人税の課税根拠に照らし首肯し難いところもあるが、仮に、役員給与に対する課税規制の必要性を認めるにしても、その規制方法と当該規定の解釈の方法については、もっと弾力的な考え方があって然るべきであると考えられる。
(2)すなわち、法人税の課税根拠論(注12)に照らした場合には、現行の法人税法は、昭和25年のシャウプ税制に依拠しているところ、シャウプ税制は、法人税の独立性を否定し、所得税の(主として株主の)前取り(源泉所得税的機能)と観念し、法人の所得が留保されないように留保金課税を強制してきたはずである。そして、この考え方は、現行の法人税法にも残されているはずである(受取配当益金不算入等)。然すれば、役員給与についても、その支給が過大であっても、当該役員の所得税で対応(累進税率等)すれば足りるはずである。もっとも、役員給与と称しても、役員としての役務提供を欠く者に対して支給される場合もあろうから、それは制限的な課税規制で足りるはずである。
また、法人税を独立した存在であると考えた場合には、法人税の課税所得は、当該法人の担税力を適正に反映したものと考えるべきであろうから、当該担税力をいたずらに減少させるような損失項目については、然るべき規制方法も必要であると考えられる。このような観点から、現行の役員給与課税については、次のような不合理な点が指摘できるものと考えられる。
(3)元々、法人税の課税所得は、当該法人が稼得した利益を基礎としているところ、当該利益の稼得に最も貢献しているのは、当該法人の経営者すなわち「役員」のはずである。したがって、企業会計(会社法)においては、「役員報酬等」は最も重要な費用項目(役務の対価)と考えているはずである。ところが、法人税法34条は、「役員給与の損金不算入」と題し、原則として役員給与の損金性を否定し、法律が定める前述の三つの給与に限定して損金算入を認める旨定めている。このような定め方は、いかにも「上から目線」的な発想で、「役員は恣意的な給与を支払う」という前提に立っている。企業経営の何たるかと、そこに貢献している経営者の実態を承知している筆者からすると、このような規定には全く合理性は認められないことになる。
(4)次に、本件で問題となっている事前確定届出給与については、元々、前記2で述べた損金不算入としていた役員賞与につき、前記1で述べたように、企業会計上費用処理とされたことに対応したものであろうが、我が国の給与支給の実態に照らせば、「賞与」とは、支給対象が使用人であれ、役員であれ、当該企業の当該事業年度の業績に対応して支払われるべきものである。ところが、法人税法は、役員賞与が企業会計上明確に費用処理されたことに対応したものであろうが、当該事業年度の業績が不明の間に確定し届出たものに限定して、当該給与の損金算入を認め、かつ、当該届出金額と実際の支給額に1円でも齟齬が生じたら、当該支給額全額の損金算入を否定することにしている。このような法規制は、役員賞与の支給実態を全く無視するものであって、首肯し難いものである。
(5)最後に業績連動給与について、付言して置く。平成14年の商法改正によって業績連動型報酬が導入された際、当時、全国法人会総連合の税制顧問をしていた筆者は、「中小企業こそ経営者の手腕が企業業績に直結するから、それに対応した業績連動型報酬制度を求めるべきである」旨発言し、その旨税制改正要望が出されたことがある。ところが、平成18年度の税制改正では、前述のように、中小企業のほとんどである同族会社に対しては利益連動給与が適用されないこととされた。恐らく、同族会社は、役員給与の支給を恣意的に行うという発想の下に税制改正が行われたものであろうが、これも、役員給与課税の本来のあり方を無視したものと考えられる。
以上のように、現行の法34条は、本判決が賛同するような合理性があるとも考えられない。
5 本件各支給給与額の損金性
(1)本件においては、Xが、令和元年9月30日開催の定時株主総会において、甲及び乙に対し令和2年6月30日に2800万円ずつの賞与を支払うことを決議し、令和元年10月16日に処分行政庁にその旨を届出たものの、実際には、変更届出を出さないまま、上記支給日に各2500万円合計5000万円(本件各支給給与額)を支払い、当該合計金額を損金の額に算入したところ、処分行政庁が当該金員の損金算入を否認する本件更正を行ったため、本件更正の適否が争われたものである。本件更正については、法34条1項等の関係法令を文言どおり適用すれば違法とは言えないこともあって、Xは、法34条1項が会社法等の実体法や企業会計上の原則を実質的な理由なく変容するということで憲法29条違反がある旨も主張した。
(2)これに対し、本判決は、Xの違憲主張に対して、「内国法人の法人税額の計算上、役員給与を原則として損金に算入すべきであるとか、法34条1項が会社法等の実体法や企業会計上の原則を実質的な理由なく変容するものということはできないし、同項2号の「確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与」の意義を前記1のとおりに解したからといって、法34条が憲法に違反するともいえない」と判示し、「事前確定届出給与に関する届出がされた給与については、給与の支給額をほしいままに決定し、法人税の課税を回避する弊害がないため、これを損金に算入することを認めたものと解されること、事前確定届出給与に関する届出書に記載された額と異なる額の役員給与が支給された場合に無制限に損金への算入を認めることとすれば、事前確定届出給与制度を設けた趣旨を没却し、課税の公平を害することになりかねない」と判示し、法34条1項等の関係法令の文言どおりに本件各支給給与額の損金算入を否認した本件更正を適法と認め、Xの請求を棄却した。しかし、本件においては、役員給与を届出額どおりに支給しなかったことにより、法人税の負担を増額しただけであって、前述のような判示のようにはなっていない。
(3)以上のように、本判決は、法34条1項の合理性を全面的に容認し、Xの違憲主張を簡単に退けた上で、本件更正の適法性を容認した。しかしながら、前記4で述べたように、平成18年度改正の法人税法上の役員給与課税には種々の問題があり、同改正で設けられた法35条の「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入」(注13)については、税理士会等の関係団体の反対もあって、平成22年度税制改正で廃止されている。
また、法34条についても、前述したように、所得税と法人税との関係、企業会計上の会計処理との関係、役員給与支給の実態等に照らし、種々の不合理な問題を有している。しかし、それらの不合理性については、前述のような法改正によるか、違憲判断によらなければ解決しないことになる(注14)。この場合、違憲判決については、最高裁昭和60年3月27日大法廷判決(民集39巻2号247頁、以下「大島判決」という。)が、違憲審査の範囲につき、次のように判示し、これが判例法となって、後続の判決を拘束している(注15)。
「租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。」
本判決が法34条に定める役員給与課税の合理性を安易に容認しているのも、この大島判決の考え方に影響しているものと解される。
以上のように、本件更正と本判決は、本件各支給給与額の損金性につき、法令の文言どおりに適用してそれを否定したのであるが、法34条の規定自体が前述のような問題がある以上、本件各届出給与額の変更届をしなかったことにつき、事前届出に関する宥恕規定である法施行令69条7項の弾力的解釈があっても然るべきであると考えられる。
(注1)これらの問題を総合的に論じたものとして、品川芳宣「役員給与課税の本質を衝く!(前)(後)」本誌2008年4月14日号27頁、同2008年4月21号24頁参照。
(注2)味村治・品川芳宣「役員報酬の法律と実務 新訂第二版」(商事法務研究会 2001年)111頁参照。
(注3)始関正光「平成14年改正商法の解説(Ⅳ)」商事法務1640号10頁。
(注4)詳細については、品川芳宣「役員報酬課税の問題点と方向性」JICPAジャーナル18巻2号39頁、同「役員報酬の税務事例研究」(財経詳報社 2002年)371頁参照。
(注5)東京地裁昭和55年9月25日判決(訟務月報27巻1号188頁)、東京高裁昭和56年5月27日判決(税資117号478頁)、最高裁昭和57年7月3日第一小法廷判決(同127号88頁)、高松地裁昭和62年5月12日判決(同158号600頁)等参照。
(注6)忠佐市「役員賞与は益金支出か損金支出か」税経通信24巻10号22頁、居林次雄「商法計算規定の改正と実務上の諸問題」税経通信34巻9号7頁等参照。
(注7)役員賞与課税の問題点等については、前出(注4)「役員報酬課税の問題点と方向性」40頁等参照。
(注8)東京地裁昭和50年8月6日判決(税資82号521頁)等参照。
(注9)東京地裁昭和53年5月25日判決(訟務月報24巻9号1827頁)等参照。
(注10)東京高裁昭和50年12月24日判決(税資83号778頁)、福岡高裁昭和52年9月29日判決(同95号702頁)、静岡地裁平成3年6月28日判決(判例時報1402号41頁)、仙台高裁平成16年3月12日判決(税資254号順号9593)等参照。
(注11)この改正の要点と問題点については、前出(注1)各書参照。
(注12)法人税の課税根拠の詳細については、品川芳宣「課税所得と企業利益」(税務研究会 昭和57年)61頁以下参照。
(注13)特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入とは、当該同族会社の業務主宰役員に支給する給与について所得税法28条に定める給与所得控除相当額を損金不算入とするもので、個人企業が法人成りする法人の経費の損金算入と事業主の役員報酬に係る給与所得控除額の控除により経費の二重取りができる旨の批判に応えようとしたものである。
(注14)違憲判決が出されなくても、違憲訴訟を契機に関係法令が改廃されることがある(例えば、大阪地裁平成17年10月17日判決(行裁例集46巻10・11号942頁)の後、旧租税特別措置法69条の4が廃止されたことがある。)。
(注15)違憲審査の範囲と関係裁判例については品川芳宣「租税法学と租税実務」税務弘報2024年8月号136頁、同2024年9月号137頁参照。
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