解説記事2024年12月02日 第2特集 実質所得者課税の原則により取り消された最近の裁決事例(2024年12月2日号・№1053)
第2特集
法律上の形式がその法的実質と異なる場合は
実質所得者課税の原則により取り消された最近の裁決事例
実質所得者課税の原則とは、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であり、その収益を享受せず、その者以外の法人(者)がその収益を享受する場合には、その収益はこれを享受する法人(者)に帰属するというものだ(法法11、所法12)。今回紹介する裁決事例は、隠蔽仮装行為があったとして重加算税の賦課決定処分が行われたものの、実際に収益を享受した者が原処分庁の認定とは異なったため、処分が取り消された2件である。
買い付けた不動産をX社に移転し、第三者に売却
最初に紹介する裁決事例は、不動産売買取引が請求人ではなく、別法人名義で行われたため、隠蔽仮装行為に該当するとして重加算税の賦課決定処分が行われたもの。収益等を享受するのが請求人であるか、あるいは、別法人であるかで争われたものである(名裁(法・諸)令5第12号)。
本件は、請求人(不動産会社)が税務調査で、請求人が収益として計上した不動産売買取引に係る利益相当額は別法人から請求人に対する資金援助であったなどと指摘され、修正申告を行ったものの、原処分庁が①重加算税等の賦課決定処分をし、その後、請求人が、取引に係る収益などは請求人に帰属するなどとして更正の請求をしたが、②更正をすべき理由がない旨の通知処分を行うとともに、③更正処分等を行ったことから各処分の一部の取消しを求めた事案である。請求人は、父が代表取締役を務めるX社(不動産会社)と土地又は建物の取引に関する契約書(表参照)を作成し、その後、売買契約を締結した。
【表】契約書の概要
・請求人の買い付ける土地又は建物を、便宜上、X社に所有権登記し、第三者に売却する。なお、所有権移転に関する登記費用や諸税等は、すべて請求人の負担とする。 |
請求人は、各売買契約書上の取引主体がX社となっているのは、契約書の定めに基づくものであり、請求人は仲介業者名目で各売買取引を取り仕切っていたところ、このような取引形態は、請求人において売買利益と仲介手数料を得るという目的があったなどと主張した。
自己の計算により事業活動を行った者を事業取引の主体と評価すべき
審判所は、法人税法11条(実質所得者課税の原則)の規定は、資産又は事業から生ずる収益が誰に帰属するかは法律上の真実の権利者が実質的にも収益の帰属者であるとの考え方に立ち、法律上の形式がその法的実質と異なる場合にはその実質に即して収益の帰属を判定すべきであるとの趣旨を定めるものと解するのが相当であり、また、同条において「収益を享受する法人」とは、単にその収益を消費している者をいうのではなく、その収益を受けるべき正当な権利を有する者をいうと解するのが相当であるとした。そして、法的実質に即して収益の帰属を判定するに当たっては、第三者への不動産の譲渡によって得られた利益の帰属先及び不動産購入原資を含む事業資金の調達実態を中心に、取引の経緯を全体的に評価し、自己の計算により事業活動を行った者(経営主体)を事業取引(事業活動に属する取引)の主体と評価すべきと解されるとした。
その上で本件については、契約書によると、売買取引の主体はX社ではなく請求人であることが宣言されているとともに、請求人は各売買取引に係る一切の費用を負担し、第三者売主・買主からの瑕疵担保責任を追及された場合は請求人が負担する旨が定められていることからすると、各売買取引に係る収益を受けるべき正当な権利を請求人が有することを示すものであるとした。
別法人名義の預金口座で決済も……
なお、原処分庁は、各売買取引における資金決済がX社の預金口座で行われているなどと主張したが、審判所は、その資金の最終的な帰属先は請求人であって、法的実質において請求人が各売買取引に係る収益を受けるべき正当な権利を有する者であるとし、原処分の主張を斥けた。
したがって、審判所は、収益等を享受する者は請求人と認められることから、隠蔽仮装行為に該当しないとの判断を示した。
名義だけでなく事業資産や利益の管理等を総合的に勘案
次に紹介する裁決事例は、請求人が内容虚偽の集計表を作成し確定申告書を作成したことから隠蔽仮装行為があったとされたが、請求人は名義を貸しただけであるとし、デリバリーヘルス業(無店舗型性風俗特殊営業)に係る所得が誰に帰属するかで争われたものである(大裁(所・諸)令5第23号)。
請求人は、デリヘル業に係る所得を記載した所得税等の確定申告書を提出したが、その後の税務調査で修正申告書及び期限後申告書を提出したところ、原処分庁は無申告加算税及び重加算税の賦課決定処分を行った。請求人は、営業に係る所得は請求人に帰属しないとして所得税等に係る更正の請求をしたが、原処分庁が更正をすべき理由のない旨の通知処分を行ったことから、賦課決定処分等の通知処分の全部の取消しなどを求めた事案である。
名義を貸したのみ
請求人は、当時、同居していたYがデリヘル業の届出をすることができず、預金口座の開設、クレジットカードの作成も困難であったことから、これらの手続につき名義貸しをしたにすぎないと主張。請求人は、日々の売上げや経費額をパソコンに入力すること、税務関係の資料を作成して税理士に渡すこと、広告の出し方を決めることなどに加え、平日夜や日曜日などに受付を手伝うことがあったが、毎日ではなく、請求人の本業である会社員として勤務する傍ら、事業の補助をしたにすぎないとした。
審判所は、事業を経営していると認められる者(事業主)が誰であるかという点は、実質所得者課税の原則を定めた所得税法12条の趣旨に鑑み、事業許可等の名義のみならず、事業資産や事業資金の調達・管理、利益の管理・処分状況、従業員の雇用等事業の運営に関する諸状況を総合的に勘案して判定すべきであるとした。
運営や集計事務に一定の関与はあるが
その上で本件については、デリヘル業に係る営業開始届出書等の名義、事務所の賃貸借契約の名義、預金口座の名義、携帯電話の名義、クレジットカード決済会社から送付される売上計算明細書の宛先はいずれも請求人であったことが認められるほか、請求人は事務所において電話受付業務を行うなどしていることからすると、請求人はデリヘル業に係る届出名義人であるだけでなく、実際にも、運営や売上金等の集計事務に一定の関与をしていたものということができるとした。
しかし、審判所は、請求人は会社員としての勤務がない平日の夜などに他の従業員とともに電話受付業務を担当していたにすぎず、各デリヘル嬢に対して業務上の指示をしていた事実は認められないとした。また、現金による売上金はすべて請求人と同居していたYが受け取っており、経費の支払は請求人名義の預金口座から行われていたが、通帳やクレジットカードを管理していたのは請求人ではなく、Yであったことからすると、デリヘル業を経営していたのはYであると認められ、請求人は従属的な立場で従事していたにすぎないとした。
共同事業にも該当せず
また、請求人とYの共同事業に該当する可能性についても検討が行われている。
この点について審判所は、共同事業と認められるためには、経済活動を行うことについて相互の意思の連絡があり、その意思決定に各人が主体的に関与するとともに、これを各人が主体的に実現するためにそれぞれ分担又は役割を遂行することが不可欠である上、その活動の結果生じた所得に対する各人の持分割合が意思決定の中で定められ、これを合理的に算出できる場合でなければならないとし、本件については、自己の計算と危険において主体的にデリへル業を行っていたのはYであり、請求人は従属的な役割を有していたにすぎず、生じた所得はYがすべて取得することとされていることからすると、請求人とYの共同事業であるとは認められないとした。
したがって、デリヘル業の事業主は請求人ではないことから、審判所は、請求人に隠蔽仮装行為はなかったとして、重加算税等の賦課決定処分を取り消した。
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