解説記事2024年12月09日 特別解説 企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した文書(2024年12月9日号・№1054)
特別解説
企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した文書
はじめに
我が国の会計基準作りは2001年7月まで金融庁長官の諮問機関である企業会計審議会が担ってきたが、2001年7月以降は公益財団法人財務会計基準機構(FASF)の常設の委員会である企業会計基準委員会(ASBJ)が、日本の会計基準を設定する主体となっている。
金融庁長官の諮問機関である企業会計審議会とは異なり、民間の団体であるASBJが公表する企業会計基準は、所定の手続を経たのちに規範性が与えられ、市場関係者が準拠し、判断のよりどころとする企業会計上の基準となる。また、企業会計基準適用指針や実務対応報告は、企業会計基準に対する詳細規定や解釈規定、あるいは補足・補完規定と位置付けられ、企業会計基準と一体性を有するものであることから、これらについても企業会計基準と同様の取扱いとなっている。
ASBJが公表している文書の種類
ASBJが公表している文書の種類は、下記の6種類である。
・企業会計基準
・企業会計基準適用指針
・実務対応報告
・移管指針
・修正国際基準(JMIS)
・その他の公表物
以下ではそれぞれについて見ていくこととしたい。
① 企業会計基準
ASBJがこれまでに公表した企業会計基準は34本あり(既に廃止されたものも含む)、一覧にすると表1のとおりである。なお、既に廃止されたものには色を付けている。

② 企業会計基準適用指針
ASBJがこれまでに公表した企業会計基準適用指針は33本あり(既に廃止されたものも含む)、一覧にすると表2のとおりである。なお、既に廃止されたものには色を付けている。

③ 実務対応報告
ASBJがこれまでに公表した企業会計基準適用指針は46本あり(すでに廃止されたものも含む)、一覧にすると表3のとおりである。なお、既に廃止されたものには色を付けている。実務対応報告は「当面の取扱い」が多いことから、役割を終えて廃止されたものが少なくない。


④ 移管指針
「移管指針」の区分が設けられた理由について、移管指針「移管指針の適用」においては、「結論の背景」の「経緯」で以下のように説明されている。
我が国の会計基準は、ASBJが設立される前は、会計基準については企業会計審議会が公表し、実務上の取扱い等を示す実務指針等については日本公認会計士協会(JICPA)が公表していたが、2001年にASBJが設立された後は、新しい会計基準、適用指針及び実務対応報告についてはいずれについてもASBJが公表することとなった。
ASBJが設立される前に公表された実務指針等の効力については、当面の対応では、「従来JICPAが公表してきた企業会計に関する実務指針等については、個々に改廃されない限り、従前どおりの効力を有すると考える。」とされた。
(中略)
従来JICPAが公表した実務指針等については、包括的にASBJに引き継ぐことはせず、引き継げるものから引き継ぐ形をとってきたため、多くの実務指針等はまだJICPAに残されている。
こうした経緯によって会計基準については企業会計審議会とASBJが公表したものが存在しており、実務指針等、適用指針及び実務対応報告についてはASBJとJICPAが公表したものが存在している。このため、日本基準の全体像を把握しにくいなどの課題が指摘されていた。こうした状況を受けてASBJ及びJICPAは、JICPAが公表した実務指針等をASBJに移管するプロジェクトについての考え方を示し、関係者からの意見を募集することを目的として2023年6月に「日本公認会計士協会が公表した実務指針等の移管に関する意見の募集」を公表した。
(中略)
上記意見の募集に対して寄せられた意見では、会計に関する指針のみを扱う実務指針等を
ASBJに移管することを支持する意見が多く聞かれた。(中略)
また、移管後の実務指針等の位置付けに関して、実務指針等の内容によっては「会計基準」、「適用指針」、「実務対応報告」の区分に該当しないものがあるため、移管指針の区分が新たに設けられた。
移管指針は、表4に記載された14本である。なお、既に廃止されたものには色を付けている。

⑤ 修正国際基準(JMIS)
修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)は、IASBにより公表された会計基準及び解釈指針についてエンドースメント手続を実施することにより開発するものである。エンドースメント手続とは、国際会計基準審議会(IASB)により公表された会計基準及び解釈指針(「会計基準等」。)について、我が国で受け入れ可能か否かを判断したうえで、必要に応じて一部の会計基準等について「削除又は修正」し、金融庁において指定する仕組みのことをいう。
このようなエンドースメント手続を行った結果、我が国における会計基準に係る基本的な考え方と合わない場合及び実務上の困難さがある場合において一部の会計基準等を「削除又は修正」して採択する仕組みを設けることで、IFRSをより柔軟に受け入れることが可能となるとともに、「削除又は修正」する項目についての我が国の考え方を意見発信することが可能となると考えられることから、JMISが策定・公表された。
ASBJがこれまでに公表した修正国際基準(JMIS)は表5の2本である。

⑥ その他の公表物
「その他の公表物」は、大別すると論点整理、討議資料とその他に分けられる。
論点整理は、会計基準等の公開草案を作成する前の準備段階として、ある論点に関する賛否両論を並列して記載し、公表してコメントを求めることを主な目的として作成され、これまでに27本が公表された。
国際財務報告基準(IFRS)の定めを念頭に置いて我が国の会計基準を整備するコンバージェンス(収斂)作業が佳境を迎えていた2005年から2011年頃までは多くの論点整理が作成・公表されたが、2012年以降はしばらく途絶えていた。しかし、2022年に「資金決済法上の暗号資産又は金融商品取引法上の電子記録移転権利に該当するICOトークンの発行及び保有に係る会計処理に関する論点の整理」が久しぶりに公表された。
「討議資料」は、「財務会計の概念フレームワーク(枠組み)(2006年12月28日公表)」のことを指す。当時、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)との間で、共通の概念フレームワークを開発するための共同プロジェクトが進行中であったため、公開草案という形ではなく、討議資料として公表された。
論点整理と討議資料以外の主な公表物としては、「中小企業の会計に関する指針(日本税理士会連合会、日本公認会計士協会及び日本商工会議所と連名で公表)」のほか、最近では「継続企業及び後発事象に関する調査研究(2024年6月21日)」が公表されている。
参考資料
財団法人 財務会計基準機構の設立について 2001年7月27日
財団法人 財務会計基準機構・企業会計基準委員会から公表される企業会計基準等の取扱い(準拠性)について 2002年5月17日
当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。
週刊T&Amaster 年間購読
新日本法規WEB会員
試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。
人気記事
人気商品
-
-
団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス -
Copyright (C) 2019
SHINNIPPON-HOKI PUBLISHING CO.,LTD.