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税務ニュース2024年12月20日 問われる消費税法上の棚卸資産の意義(2024年12月23日号・№1056) 審判所、不動産管理・賃貸業者が保有する金地金は棚卸資産に該当と判断

  • 国税不服審判所は令和6年4月25日、不動産の管理・賃貸等を目的とする法人が、課税事業者である課税期間中に取得し、免税事業者となった後で売却した金地金は消費税法上の棚卸資産に該当するとして、棚卸資産に係る消費税額の調整規定(消法36⑤)の適用があるとする判断を示し、納税者の請求を棄却。

 消費税法36条5項《納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整》は、事業者が、課税事業者から免税事業者となった場合に、その直前の課税期間において、国内において譲り受けた課税仕入れに係る棚卸資産を有しているときは、当該課税仕入れに係る棚卸資産に係る消費税額は当該課税期間における控除対象仕入税額に含まれないものとする旨規定している。
 当該規定を巡っては、特定目的会社が取得・売却した物流施設が棚卸資産に該当するとしてその適用を認め納税者の控訴を棄却(一部補正を加えた地裁の判断を支持)した裁判例(東京高裁令和6年4月11日判決、本誌1024号40頁参照)が存在する。同判決は、消費税法上の棚卸資産の定義については、企業会計の定義を借用すべきものであり、営業活動としての販売をすることを主たる目的として取得・保有するものをいうと解されるとした上で、当該事案においては、一回限りの取引であるものの、取得した物流施設を原則として投資法人に売却することが特定目的会社の主目的であったとして、当該物流施設は棚卸資産に該当するとの判断を示した。
 他方、企業会計においては、金地金のように市場価格の変動による利益を得ること(トレーディング)を目的として取得する資産が棚卸資産に該当するか否かの判定は、売買目的有価証券に関する取扱いに準じることとされている。売買目的有価証券に該当するか否かは、①当該資産の売買を業としていることが定款の上から明らかで、かつ、トレーディング業務を日常的に遂行し得る人材から構成された独立の専門部署によって金地金が保管・運用されているか、又は、②当該資産の売買を頻繁に繰り返しているか等により判定することとされることになる(棚卸資産会計基準第16項、金融商品会計に関する実務指針第65項)。
 本件において請求人は、消費税法上の棚卸資産の意義について、企業会計における棚卸資産と同義に解すべきことを前提とした主張を展開した。具体的には、上記の企業会計における基準に照らし、①定款上の事業目的に金地金の売買を掲げておらず、金地金の売買をする専属の担当者も置いていないし、②請求人が金地金売買を行ったのは、設立以来、数回にとどまることから、金地金の売買が請求人の営業目的を達成するために所有する資産とはいえず、また、請求人が金地金の売買により得た収益は100万円余りであって請求人にとって金地金の売買が重要な収益獲得の手段とはいえないから、消費税法上の「棚卸資産」に該当しないと主張した。
 これに対し国税不服審判所は、請求人が行う金地金の売買に係る取引額(約5億円)は、請求人の事業規模に照らして大きなものであり、その取得資金の大部分を借入れで調達する等、金地金の売買が請求人の事業全体に及ぼす影響が大きいことからすると、請求人における金地金の売買は、事業目的から離れたところで行われているものとはいえないことから、請求人が取得・売却した金地金は「棚卸資産」に該当するとした。
 金地金のようにトレーディングを目的として取得する資産について、取引額が大きいことを主たる理由として「棚卸資産」に該当すると解することは、少なくとも企業会計における一般的な理解とは異なるようにも見えるところだ。課税当局は、本件の金地金の取引について、租税回避目的で行われたものと見て消費税法36条5項を適用した可能性があるが、租税回避目的の存在を理由に消費税法36条5項の「棚卸資産」の意義を広く解したのであれば、その是非も問題になりそうだ。ちなみに、贈与税回避の目的をもって国外にあえて長期滞在し、国内に「住所」が認定されないようにしたとしても、その場合に贈与税を課税できないのは法が「住所」という概念を用いて課税要件を定めているためその解釈適用が問題となることから導かれる帰結であり、このような方法による贈与税回避を容認することが適当でないとすれば、法の解釈では限界があるので立法によって対処すべきとした判例として、税務の専門家の間では有名な最高裁平成23年2月18日判決・武富士事件がある。
 本裁決に対しては訴訟が提起され、現在係争中であることが本誌の取材により判明している。上記の通り、企業会計においては、金地金のようなトレーディングを目的とした資産が棚卸資産に該当するケースを非常に限定的に解しており、不動産管理・賃貸業者が保有する金地金が「棚卸資産」に該当するというのは無理があるとの見方もあろう。同種の取引による“節税”対策は本件に限らず他でも行われている模様であることから、裁判の行方に注目が集まりそうだ。

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