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解説記事2025年02月03日 未公開判決事例紹介 二段階買収を巡る株主の損害賠償請求事件(2025年2月3日号・№1061)

未公開判決事例紹介
二段階買収を巡る株主の損害賠償請求事件
スクイーズアウト不実施も株主の損害認めず

 今号4頁で紹介した損害賠償等請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。

〇二段階買収において、一段階目の取引の際に株主に対し「一段階目の取引に応じなかった株主のスクイーズアウトが計画されている」旨の説明がなされていたにもかかわらず、実際には一段階目の取引完了後にスクイーズアウトが実施されなかったことから、一段階目の取引に応じなかった株主(原告)が対象会社(被告)と買収者(被告)に対し損害賠償等を求めた事件(令和2年(ワ)第30029号)。東京地方裁判所(鈴木謙也裁判長)は令和6年10月31日、原告である株主の請求を棄却した。裁判所は、買収者(支配株主)又は対象会社が少数株主に対して二段階買収に関する提案ないし説明を行っていたとしても、その内容が二段階目の取引としてのスクイーズアウトを確実に実施することを明確に宣言するものであるといった特段の事情がない限り、当該説明ないし提案を行ったことが、スクイーズアウトが確実に実施されるという少数株主の正当な信頼を惹起するものであるとはいえないとの判断を示した。

主  文

1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
 被告らは、原告に対し、連帯して6億3822万5000円及びこれに対する令和3年7月28日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の要旨

 本件は、被告G社の株主である原告が、同じく被告G社の株主である被告F社により企図されていたいわゆる二段階買収による被告G社の完全子会社化に関し、被告らが原告に対し、上記二段階買収の二段階目の取引であるいわゆるスクイーズアウト(少数株主の締出し)の手続が確実に実施されるものではなかったにもかかわらず、確実に実施されるものと誤信させる説明等を行ったことにより、原告に損害を生じさせたなどと主張して、①被告G社に対して不法行為(共同不法行為)、会社法350条若しくは民法715条1項又は債務不履行に基づき(選択的併合)、②被告F社に対して不法行為(共同不法行為)に基づき、③被告G社の買収を進めた被告F社の担当役職員である被告H及び被告Sに対して不法行為(共同不法行為)に基づき、損害賠償金及び不法行為又は催告の日よりも後の日である令和3年7月28日(被告Hに対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金を連帯して支払うよう求める事案である。
2 前提事実
 以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲の証拠(証拠番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。
(1)当事者等
ア 被告G社は、自動車等及びその部品の製造・販売等を業とする株式会社であり、非公開会社である。被告G社は、日本に主たる営業所を有している。(弁論の全趣旨)
イ 被告F社(旧商号:×××× Holdings Limited。商号変更の前後を通じて「被告F社」という。)は、英国領ケイマン諸島で設立され、中華人民共和国香港特別行政区(以下「香港」という。)において有限公司(有限責任会社)として企業登録され、その株式が香港証券取引所に上場されている法人であり、被告G社の株主(以下「本件株主」という。)である。(弁論の全趣旨)
ウ 被告Hは、被告F社の董事(株式会社の取締役に相当する役職)兼代表者であり、令和元年6月26日に被告G社の取締役に就任した者である。(弁論の全趣旨)
  被告Sは、被告F社の董事であり、令和元年6月26日に被告G社の取締役に就任した者である(以下、被告H及び被告Sを合わせて「被告Hら」という。)。(弁論の全趣旨)
エ 原告は、香港に所在し、ゲームの開発等を業とする有限公司であり、本件株主である。(弁論の全趣旨)
オ T(以下「T」という。)は、平成30年3月31日に辞任するまで、被告G社の取締役であった者である。(弁論の全趣旨)
(2)被告F社による被告G社を対象会社とする二段階買収
ア 被告G社が平成29年5月23日頃に原告に対して送付した、「Proposal to Our Shareholders」(「当社の株主への提案」)と題する資料(以下「本件提案書」という。)において、香港の上場企業(「△△△(HK)」と仮称されたが、被告F社が想定されていた。)が、同社の株式及び金銭を対価として、本件株主から、被告G社の株式(以下「本件株式」という。)を取得する取引(以下「本件株式譲渡」という。)を一段階目の取引として実施し、一段階目の取引の完了後に、本件株式譲渡に応じなかった本件株主から、金銭を対価として強制的に本件株式を取得する取引(以下「本件スクイーズアウト」という。)を二段階目の取引として実施する二段階買収(以下「本件二段階買収」という。)が記載されていた。(甲5、17。なお、上記記載の趣旨をどのように解するかについては、争いがある。)
イ 原告は本件株式譲渡に応じなかったところ、本件株式譲渡に応じた本件株主については平成29年9月29日に本件株式譲渡が実施された。その後、本件スクイーズアウトは実施されなかった。(甲14、弁論の全趣旨)
(3)消滅時効の援用
 被告らは、令和5年10月10日、本件の第3回弁論準備手続期日において、原告の被告G社に対する民法715条1項に基づく不法行為による損害賠償請求権について、消滅時効を援用した。(顕著な事実)
3 争点
(1)国際裁判管轄の有無(争点1)
(2)被告G社の責任
 ア 契約締結上の過失の法理又は類似の法理による不法行為(共同不法行為)に基づく損害賠償責任の成否(争点2の1)
 イ 適正情報開示義務違反による不法行為に基づく損害賠償責任の成否(争点2の2)
 ウ 適正情報開示義務違反による債務不履行に基づく損害賠償責任の成否(争点2の3)
(3)被告F社の責任(契約締結上の過失の法理又は類似の法理による不法行為(共同不法行為)に基づく損害賠償責任の成否)(争点3)
(4)被告Hらの責任(契約締結上の過失の法理又は類似の法理による不法行為(共同不法行為)に基づく損害賠償責任の成否)(争点4)
(5)損害の有無及び額(争点5)
(6)消滅時効の成否(争点6)
4 争点に関する当事者の主張
(1)国際裁判管轄の有無(争点1)

ア 被告F社に対する訴えについて
(被告F社の主張)
 被告F社は、日本に子会社を有するにすぎず、日本において事業を行う者に該当しないから、日本の裁判所は、被告F社について、民訴法3条の3第5号に基づく管轄権を有しない。
 また、被告F社及び被告G社に対する各請求は、各請求を理由付ける原因事実がその主要部分において同一であるとはいえず、訴訟の目的である権利又は義務が同一の事実上及び法律上の原因に基づくものとはいえないから、日本の裁判所は、被告F社について、被告G社の共同訴訟人として、民訴法3条の6、38条前段に基づく管轄権も有しない。
(原告の主張)
 投資持分会社である被告F社は、電気自動車セグメント事業の一環として、日本において被告G社を子会社としているのであるから、日本において事業を行っていることは明らかである。そして、被告F社に対する訴えは、被告F社による被告G社のスクイーズアウトに関するものであって、被告F社の日本における業務に関するものであるから、日本の裁判所は、被告F社について、民訴法3条の3第5号に基づく管轄権を有する。
 また、日本に主たる営業所を有する被告G社に対する請求について日本の裁判所が管轄権を有することは明らかであるところ、被告F社及び被告G社に対する各請求は、訴訟の目的である権利又は義務が同一の事実上及び法律上の原因に基づくものであり、密接な関連を有するから、日本の裁判所は、民訴法3条の6、38条前段に基づく管轄権も有する。
イ 被告Hらに対する訴えについて
(被告Hらの主張)
 被告Hらは訴えの提起時において会社法429条1項に基づく責任を問われているところ、同項に基づく責任は不法行為責任の性質を有しないから、日本の裁判所は、被告Hらについて、民訴法3条の3第8号(不法行為地)に基づく管轄権を有しない。
 また、被告Hら及び被告G社に対する各請求は、訴訟の目的である権利又は義務が同一の事実上及び法律上の原因に基づくものとはいえないから、日本の裁判所は、被告Hらについて、民訴法3条の6、38条前段に基づく管轄権も有しない。
(原告の主張)
 訴えの変更後の被告Hらに対する請求は不法行為に基づく損害賠償請求であり、日本に所在する被告G社の取締役としての立場で、その業務執行として行われた不法行為に関する訴えであるから、日本の裁判所は、民訴法3条の3第8号(不法行為地)の管轄権を有する。
 また、被告Hら及び被告G社に対する各請求は、訴訟の目的である権利又は義務が同一の事実上及び法律上の原因に基づくものであり、密接な関連を有するから、日本の裁判所は、民訴法3条の6、38条前段に基づく管轄権も有する。
ウ 特別の事情(民訴法3条の9)
(被告らの主張)
 原告及び被告F社はいずれも香港を拠点とする外国法人であり、被告Hらは香港に在住する個人であるから、被告F社及び被告Hらに対する訴訟を日本の裁判所で進行することは、上記被告らにとって経済的、身体的に酷である反面、香港の裁判所で訴訟を進行することが原告にとって過度の負担となることはない。
 また、本件の重要証人(被告G社の代表取締役であったK(以下「K」という。))が現在香港に在住していること、本件の重要な証拠書類は英文で作成されたものであって、日本の裁判所で訴訟をするためには高額な翻訳の費用を要することに照らしても、日本の裁判所が審理及び裁判をすることは、当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる。
 したがって、仮に日本の裁判所が管轄権を有するとしても、特別な事情がある場合として、民訴法3条の9により、被告F社及び被告Hらに対する訴えを却下すべきである。
(原告の主張)
 争う。
(2)被告G社の責任
ア 契約締結上の過失の法理又は類似の法理による不法行為(共同不法行為)に基づく損害賠償責任の成否(争点2の1)
(原告の主張)

(ア)被告G社は、本件株式譲渡に関する契約交渉に際して、原告に対し、以下の①から③までの説明や求め(以下「本件説明」という。)を行った。
 ① 平成29年(2017年)5月23日、原告を含む本件株主に対し、本件提案書をメールで送付した。本件提案書では、本件二段階買収のスキームが説明されていた。
 ② 平成29年(2017年)6月13日、原告を含む本件株主に対し、本件株式譲渡又は本件スクイーズアウトのいずれかを選択するようにメールで求めた。
 ③ 平成29年(2017年)6月28日、原告に対し、本件スクイーズアウトを選択する場合には、「スクイーズアウト実施をお約束するため」、本件株主間の契約に基づく原告の権利を行使せず、本件株式譲渡の完了時において上記契約を解約すること等を内容とする同意書に署名するようメールで求めた。
(イ)原告と被告らは本件株式譲渡に係る契約交渉を実施していたのであるから、被告らは、契約締結上の過失の法理(契約準備(交渉)段階に入った当事者間の関係は、何ら特別の関係のない者の間の関係よりも緊密であるから、そのような関係にある当事者は、相手方に損害を被らせないようにする信義則上の義務を負い、自らの責めに帰すべき事由によりその義務に違反して相手方に損害を生じさせた場合には、その損害を賠償する責任を負うという法理)又は類似の法理に基づき、かかる契約交渉に際して、原告に損害を被らせないようにする信義則上の義務を負う。具体的には、本件スクイーズアウトが確実に実施されるものでなかった以上、被告らにおいては、本件スクイーズアウトが確実に実施されるという原告の信頼(誤信)を惹起させるような説明や求めを行ってはならないという注意義務があった。
(ウ)本件株式譲渡に関する契約交渉に際しての本件説明は、本件スクイーズアウトが確実に実施されるという原告の信頼(誤信)を惹起する内容のものであり、かつ、実際にも原告はそのような信頼を抱いた。それにもかかわらず、本件スクイーズアウトは実施されず、原告の信頼は裏切られたものであり、被告G社には上記注意義務違反がある。
(エ)よって、被告G社による本件説明については、契約締結上の過失の法理又は類似の法理に基づく注意義務違反が認められ、かつ、被告G社には故意又は過失が認められるから、被告G社は、原告に対し、本件スクイーズアウトが確実に実施されるという誤信を惹起させたことについて、不法行為(被告F社及び被告Hらとの共同不法行為)に基づく損害賠償責任を負う。
(被告らの主張)
(ア)信頼の正当性が是認されるのは、当事者間の交渉等が社会通念上契約締結のための準備段階に成熟して主要な契約内容が特定され、かつ、締約の約束が存在する場合に限定されている。
  被告G社が、原告に対し、本件株式譲渡に応じなかった本件株主について本件スクイーズアウトが確実に実施されるとの説明を行ったことは一切ない。原告が主張する被告G社の行為(本件説明)は、いずれも、本件スクイーズアウトが確実に実施されるという信頼を惹起すると評価されるものではなく、上記及びの要件は満たされていない。
(イ)また、被告G社は、本件スクイーズアウトを実施する義務を、法令上も契約上も一切負わない。すなわち、会社法上、どの株主からどの程度の数の株式をどのような対価で譲り受けるかは、譲渡人と譲受人との間で合意により決めることができるのが原則であり、公開買付規制の適用を受ける場合等、法令の規制がある場合を除いて、誰から何株をいくらで譲り受けるかは、買収者の裁量に委ねられている。
(ウ)よって、被告G社が原告に対し、契約締結上の過失の法理又は類似の法理により、不法行為に基づく損害賠償責任を負うことはない。
イ 適正情報開示義務違反による不法行為に基づく損害賠償責任の成否(争点2の2)
(原告の主張)

(ア)株式会社の取締役は、その善管注意義務・忠実義務の一内容として、会社の利益の帰属者(実質的所有者)である株主の共同の利益を図る義務を負っており、そのような義務の一環として、自社が買収の対象会社となる場合には、株主が買収提案に応じるかどうかの意思決定をする上で適切な情報を開示する義務(適正情報開示義務)を負っている。
  したがって、取締役が、買収提案に応じるかどうかについて株主の判断のために重要な事項について虚偽の事実を開示し、又は開示すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の開示をしなかった場合には、適正情報開示義務に違反したものとして、取締役の会社に対する善管注意義務違反に該当するとともに、株主に対する不法行為が成立する。
(イ)本件において、被告G社の取締役であるTが、本件株主である原告に対して行った本件説明は、本件株式譲渡後に、本件スクイーズアウトが確実に実施されるという原告の信頼(誤信)を惹起する内容であり、被告G社の取締役であるTが、その点について被告F社の意向を確認することなく、本件スクイーズアウトが実施されるとの信頼を惹起するような本件説明を行ったことは、本件株主である原告に対し、本件スクイーズアウトが実施されることについて誤解を生じさせるものであり、適正情報開示義務に違反する。また、Tには、上記義務の違反について故意又は過失が認められる。
  したがって、Tによる本件説明は、原告に対する不法行為を構成し、これにより原告に生じた損害は、Tが被告G社の代表取締役からの委任に基づきその代表者として職務を行うについて(会社法350条)、又は、Tが被用者として被告G社の事業の執行について(民法715条1項本文)、第三者である原告に与えたものである。
(ウ)よって、被告G社は、原告に対し、会社法350条又は民法715条1項に基づき、適正情報開示義務違反による不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
(被告らの主張)
(ア)日本の会社法上、取締役は会社に対して善管注意義務・忠実義務を負うが、株主に対しては直接の法律関係に立たないことが原則であり、非公開会社の取締役に、株主に対する適正情報開示義務を容易に認めることは、会社法の基本構造と矛盾しかねないし、非公開会社の取締役の責任を過重なものとしかねない。非公開会社の取締役が株主に対して何らかの情報を提供しなかったこと、又は、不正確な情報を提供したことに基づいて当該取締役の責任が認められるのは、原則として、職務執行上の悪意重過失が認められる場合か、不法行為が成立する場合に限られるべきである。
  本件において、原告が適正情報開示義務違反であると主張する行為により、本件スクイーズアウトが将来行われることについて法的保護に値するような強い信頼を惹起させる態様で原告に伝達されたとみることはできない。さらに、被告F社は、原告が適正情報開示義務違反であると主張する行為が行われた当時、本件スクイーズアウトを実施する意図を有するとともに、状況によってはこれを行わない可能性があることを留保していた。
(イ)また、Tは被告G社の代表者ではないし、そもそも本件提案書はTが原告に対して送付したものではない。
(ウ)したがって、被告G社が原告に対し、会社法350条又は民法715条1項に基づき、適正情報開示義務違反による不法行為に基づく損害賠償責任を負うことはない。
ウ 適正情報開示義務違反による債務不履行に基づく損害賠償責任の成否(争点2の3)
(原告の主張)

 被告G社においては、本件株主との間の契約に基づき、第三者からの買収等の提案がされた場合、速やかに原告を含む本件株主に開示し、その対応について本件株主とも十分に協議し、本件株主の意向を最大限尊重して、その決定及び実施をする義務があった。そして、被告G社は、本件株主である原告の意向を確認する前提として、本件二段階買収について事実と合致する説明を行う義務があった。
 しかし、被告G社は、原告に対し、本件スクイーズアウトの実施の確実性について事実と異なる本件説明を行ったのであるから、上記義務の不履行に当たり、被告G社は、適正情報開示義務違反による債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。
(被告らの主張)
 争う。
(3)被告F社の責任(契約締結上の過失の法理又は類似の法理による不法行為(共同不法行為)に基づく損害賠償責任の成否)(争点3)
(原告の主張)

 本件説明は、被告G社が、被告F社の意向に基づいて、被告F社の使者として行ったものとみることもでき、被告F社自身による説明や求めと法的に同視することができる。
 本件説明について、契約締結上の過失の法理又は類似の法理に基づく注意義務違反が認められることは、上記(2)ア(原告の主張)で主張したとおりであり、かつ、被告F社には故意又は過失が認められるから、被告F社は、不法行為(被告G社及び被告Hらとの共同不法行為)に基づく損害賠償責任を負う。
(被告らの主張)
 争う。
(4)被告Hらの責任(契約締結上の過失の法理又は類似の法理による不法行為(共同不法行為)に基づく損害賠償責任の成否)(争点4)
(原告の主張)

 被告G社の取締役である被告Hらは、被告G社の買収を進めた被告F社の担当役職員であり(そのため本件二段階買収後に被告G社の取締役に就任した。)、本件説明に係る被告G社及び被告F社との協議に参加し、被告G社及び被告F社と共同して、本件説明に関与した。
 本件説明について、契約締結上の過失の法理又は類似の法理に基づく注意義務違反が認められることは、上記(2)ア(原告の主張)で主張したとおりであり、かつ、被告Hらには故意又は過失が認められるから、被告Hらは、不法行為(被告G社及び被告F社との共同不法行為)に基づく損害賠償責任を負う。
(被告らの主張)
 争う。
(5)損害の有無及び額(争点5)
(原告の主張)

 本件スクイーズアウトが確実に実施されるという原告の信頼を惹起させるような本件説明により、原告は本件株式譲渡に応じることができず、被告らによる本件説明と原告が本件株式譲渡の対価を得られなかったこととの間には相当因果関係が認められるから、原告には、原告が保有する本件株式1株当たり36万4700円(本件スクイーズアウトにおいて予定されていた対価相当額)に、原告が保有する本件株式の数1750株(C種優先株式800株、D種優先株式950株)を乗じた額である6億3822万5000円の損害が生じている。
 なお、原告が現在も本件株式を保有していることから、損益相殺の法理が適用され得るとしても、原告が保有する本件株式は、被告らによる本件説明がなかったとすれば本件株式譲渡が行われたであろう時点及び本件口頭弁論終結時の時点のいずれにおいても無価値である。
(被告らの主張)
 争う。
(6)消滅時効の成否(争点6)
(被告らの主張)

 原告は、原告代理人弁護士作成の令和元年(2019年)11月14日付け通知書が作成された時点で、本件において主張している事実を知っていたから、遅くとも同日には「損害及び加害者を知った」(民法724条1号)といえる。
 そうすると、原告が被告G社に対して民法715条1項に基づく不法行為による損害賠償を請求したのは、令和5年(2023年)7月11日の弁論準備手続期日においてであり、上記請求の時点で既に短期消滅時効の期間である3年が経過しており、原告の被告G社に対する同項に基づく不法行為による損害賠償請求権について消滅時効が完成している。
(原告の主張)
 原告は、提訴から一貫して、本件二段階買収に係る被告G社の原告に対する対応が、原告に対する不法行為に当たることを主張してきたものであり、その趣旨は、当然に、原告の被告G社に対する民法715条1項に基づく損害賠償請求権に及ぶ。また、被告G社に対する民法715条1項に基づく損害賠償請求は、不法行為に基づく損害賠償請求と基本的な請求原因事実を同じくする請求であり、経済的に同一の給付を目的とする関係にある請求については、一方の請求により、もう一方の請求についても催告は継続し、消滅時効は完成しない(最判平成10年12月17日・集民190号889頁参照)。
 よって、原告の被告G社に対する民法715条1項に基づく不法行為による損害賠償請求権について消滅時効は完成していない。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)原告による被告G社株式の取得
ア 原告は、平成27年(2015年)8月13日、被告G社が発行したC種優先株式(以下「本件C種優先株式」という。)800株を取得した。それに伴い、原告は、同年7月30日、本件株主、被告G社及び被告G社の代表取締役の間で締結された同年3月27日付け株式投資契約、並びに、本件株主、被告G社及び被告G社の代表取締役等の間で締結された同日付け株主間契約(以下「本件株主間契約(C種優先株式)」という。)に、いずれも本件株主として加わった。
 (以上、甲1、2、弁論の全趣旨)
イ 原告は、平成28年(2016年)4月11日、被告G社が発行したD種優先株式(以下「本件D種優先株式」という。)950株を取得した。それに伴い、原告は、本件株主、被告G社及び被告G社の代表取締役の間で締結された同年3月15日付け株式投資契約、並びに、本件株主、被告G社及び被告G社の代表取締役等の間で締結された同日付け株主間契約(以下「本件株主間契約(D種優先株式)」といい、本件株主間契約(C種優先株式)と併せて「本件各株主間契約」という。)に、いずれも本件株主として加わった。本件株主間契約(D種優先株式)の締結により、本件株主間契約(C種優先株式)は将来に向かって失効した。
  本件各株主間契約には、共同売却権(他の株主が本件株式を売却する場合は、一定の比率で自らの株式も譲渡することを要求する権利)が定められていた。
 (以上、甲3、4、弁論の全趣旨)
(2)平成29年5月及び6月における本件二段階買収に関する原告と被告G社のやり取り等
ア 被告G社は、平成29年(2017年)5月23日頃、本件株主である原告に対し、本件提案書を送付した。
  本件提案書には、被告F社による被告G社を対象会社とする二段階買収(本件二段階買収。具体的には、一段階目の取引として、被告F社の株式及び金銭と被告G社の株式との交換(本件株式譲渡)、二段階目の取引として、本件株式譲渡の完了後に実施される本件株式譲渡に応じなかった株主のスクイーズアウト(本件スクイーズアウト))が計画されている旨に加えて、本件二段階買収の内容として、被告G社の株価を36万4700円とし、買収対価のパッケージを金銭相当分30%、株式相当分70%とし、株式の交換比率(被告G社の株式:被告F社の株式)を1:3万1554(平成29年5月17日時点)とする等の記載があった。
  なお、本件提案書には、一段階目の取引である本件株式譲渡に応じなかった本件株主について、二段階目の取引である本件スクイーズアウトを確実に実施する旨の記載はなかった。
 (以上、甲5、17)
イ Tは、平成29年(2017年)6月13日、原告に対し、電子メール(以下「本件Tメール①」という。)を送信し、上記メールにより、原告が保有する本件株式について、本件株式譲渡に応じるか、本件スクイーズアウトを検討しているかについての現状での考えを伺いたい旨、また、上記の質問に対する回答には法的拘束力は一切なく、正式な回答と違った内容となったとしても問題ない旨の記載があった。
  なお、本件Tメール①には、一段階目の取引である本件株式譲渡に応じなかった本件株主について、二段階目の取引である本件スクイーズアウトを確実に実施する旨の記載はなかった。
 (以上、甲10)
ウ Tは、平成29年(2017年)6月28日、原告が本件株式譲渡に応じず、本件スクイーズアウトを希望する選択をしたことを前提に、原告に対し、電子メール(以下「本件Tメール②」といい、本件Tメール①と併せて「本件各Tメール」という。)を送信し、本件Tメール②により、本件株主間契約(D種優先株式)の解約等を内容とする同意書2通(本件C種優先株式に係る同意書及び本件D種優先株式に係る同意書。以下、上記各同意書を併せて「本件各同意書」という。)への署名を求めた。
  本件各同意書には、❶本件各同意書に署名した日以降、本件株主間契約(D種優先株式)に基づく権利を行使せず、かつ、本件株式譲渡に係る取引の完了時に、本件株主間契約(D種優先株式)を解約すること、❷本件株式譲渡に係る取引の完了後に、本件株式について、1株当たり36万4700円の価格で実施される予定のスクイーズアウト手続(本件スクイーズアウト)について一切の協力を行い(法令上要求される株主総会(種類株主総会を含む。)に出席し、又は当該株主総会に係る委任状の交付を通じて、会社の提案について賛同することを含む。)、また、当該手続に一切の異議を申し立てないこと等の内容が記載されていた。
  また、本件Tメール②には、「同じ株価(1株当たり36万4700円の価格)でのスクイーズアウト実施をお約束するために」、本件各同意書内に上記❷の内容の文言を記載した旨の記載があった。
  なお、本件Tメール②には、一段階目の取引である本件株式譲渡に応じなかった本件株主について、二段階目の取引である本件スクイーズアウトを確実に実施する旨の記載はなく、また、本件各同意書には、本件スクイーズアウトが実施されることを条件として原告が権利を放棄する旨の記載はなかった。
 (以上、甲7、8、11)
(3)平成29年7月以降の本件二段階買収に関する出来事
ア 被告F社は、平成29年(2017)7月7日、本件二段階買収に関するプレスリリースを公表した。
  上記プレスリリースには、本件二段階買収の具体的な内容(本件株式譲渡の具体的な条件の詳細及び本件スクイーズアウトの具体的な方法)についての記載があった(本件スクイーズアウトについては、被告F社が本件株式譲渡により被告G社の議決権の3分の2以上を取得した場合には、株式併合等の手続によって残りの被告G社の株式を取得することができるとの記載があった。)。
 (以上、甲6)
イ 原告は、本件各同意書に署名し、平成29年(2017年)7月18日、被告G社に交付した。(甲7、8、12、弁論の全趣旨)
ウ 被告F社は、2017(平成29)年9月8日、本件二段階買収に関するプレスリリースを公表した。
  上記プレスリリースには、本件二段階買収の具体的な内容についての記載のほか、対象会社である被告G社に関する情報についての記載があった。
 (以上、甲13)
エ 平成29年(2017年)9月29日、本件二段階買収に関するプレスリリースを公表した。
  上記プレスリリースには、同日、被告F社と本件株式譲渡に応じた本件株主との間で、本件株式譲渡に係る本件株式の取得等の取引を完了した旨の記載のほか、二段階目の取引である本件スクイーズアウトとして株式の併合を実施することを意図している旨の記載があった。
 (以上、甲14)
オ 前記ア、ウ及びエの各プレスリリースには、いずれも、一段階目の取引である本件株式譲渡に応じなかった本件株主について、二段階目の取引である本件スクイーズアウトを確実に実施する旨の記載はなかった。(甲6、13、14)
(4)本件スクイーズアウトの不実施等
 被告F社は、本件株式譲渡に応じた本件株主から本件株式を取得したものの、本件スクイーズアウトを実施しなかった。また、本件株式譲渡に応じなかった本件株主の一部は、被告F社の子会社又はKに個別に本件株式を譲渡するなどした。
 その結果、被告G社の株主は、被告F社、その子会社及びKを除くと、原告のみとなっている。
(以上、甲14、弁論の全趣旨)
2 争点に関する判断
(1)国際裁判管轄の有無(争点1)

ア 被告F社に対する訴えについて
(ア)民訴法3条の3第5号に基づく管轄権
  被告F社は、日本の会社法に基づいて設立された被告G社を子会社としているものの、そのことのみによって日本において事業を行っていると認めることはできず、他に被告F社が日本において事業を行っていると認めるに足りる証拠はない。
  よって、被告F社に対する訴えについて、日本の裁判所に、民訴法3条の3第5号に基づく管轄権があるとは認められない。
(イ)民訴法3条の6に基づく管轄権
  本件において、訴えの追加的変更により、原告は被告F社に対し、被告らが、本件スクイーズアウトが確実に実施されるという原告の信頼(誤信)を惹起する内容の説明を行ったこと(被告G社については上記説明を行ったこと、被告F社については被告G社を使者として上記説明を行ったこと)を理由として、不法行為(共同不法行為)に基づく損害賠償を請求している。
  上記の不法行為(共同不法行為)に基づく損害賠償請求が認められるか否かの判断においては、被告G社が原告に対して行った説明の内容及びその評価が重要となることからすると、被告G社に対する請求と被告F社に対する請求は、密接な関連があり、かつ、訴訟の目的である権利が同一の事実上及び法律上の原因に基づくものと認められる。そして、日本国内に営業所を有する被告G社に対する請求については日本の裁判所が管轄権を有することから(民訴法3条の3第4号)、被告F社に対する請求についても、日本の裁判所に、民訴法3条の6に基づく管轄権があると認められる。
イ 被告Hらに対する訴えについて
 本件において、原告は被告らに対し、被告らが、本件スクイーズアウトが確実に実施されるという原告の信頼(誤信)を惹起する内容の説明を行ったこと(被告G社については上記説明を行ったこと、被告Hらについては上記説明に係る被告G社及び被告F社との協議に参加して上記説明に関与したこと)を理由として、不法行為(共同不法行為)に基づく損害賠償を請求している。
 上記ア(イ)で説示したとおり、上記の不法行為(共同不法行為)に基づく損害賠償請求が認められるか否かの判断においては、被告G社が原告に対して行った説明の内容及びその評価が重要となることからすると、被告G社に対する請求と被告Hらに対する請求は、密接な関連があり、かつ、訴訟の目的である権利が同一の事実上及び法律上の原因に基づくものと認められる。そして、上記ア(イ)で説示したとおり、被告G社に対する請求については日本の裁判所が管轄権を有することから、被告Hらに対する請求についても、日本の裁判所に、民訴法3条の6に基づく管轄権があると認められる。
ウ 特別の事情(民訴法3条の9)
 被告らは、仮に被告F社及び被告Hらに対する訴えについて日本の裁判所が管轄権を有するとしても、被告F社は香港を拠点とする外国法人であり、被告Hらは香港に在住する個人であること、本件の重要証人が香港に在住していること、本件の重要な証拠書類は英文で作成されたものであることからすると、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情(民訴法3条の9)があるといえると主張する。
 しかし、被告G社に対する訴えについては、被告G社が日本国内に営業所を有する法人であることから、日本の裁判所が審理及び判断をすることが相当であるといえ、また、上記ア(イ)で説示したとおり、本件の審理及び判断において、被告G社が原告に対して行った説明の内容及びその評価が重要となる。そして、被告F社が被告G社の親会社であり、被告Hらが被告G社の取締役であることからすると、被告らの上記主張を踏まえても、被告F社及び被告Hらに対する訴えについて、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があるとはいえない。
(2)被告G社の責任
ア 契約締結上の過失の法理又は類似の法理による不法行為(共同不法行為)に基づく損害賠償責任の成否(争点2の1)

(ア)原告は、被告G社は原告に対し、契約締結上の過失の法理又は類似の法理に基づき、本件株式譲渡に係る契約交渉に際して、原告に損害を被らせないようにする信義則上の義務(具体的には、本件スクイーズアウトが確実に実施されるものでなかった以上、被告らにおいては、本件スクイーズアウトが確実に実施されるという原告の信頼(誤信)を惹起させるような説明や求めを行ってはならないという注意義務)を負っていたところ、原告G社が行った本件説明は、本件スクイーズアウトが確実に実施されるという原告の信頼(誤信)を惹起する内容のものであり、かつ、実際にも原告はそのような信頼を抱いたにもかかわらず、本件スクイーズアウトが実施されず、原告の信頼が裏切られたものであって、被告G社には上記注意義務違反があり、被告G社は不法行為(共同不法行為)に基づく損害賠償責任を負うと主張する。
(イ)本件説明が原告の法律上保護される利益としての正当な信頼を惹起する内容のものであったか否かについて
 a そこで、まず、本件説明が、本件スクイーズアウトが確実に実施されることについて、原告の法律上保護される利益としての正当な信頼(以下、単に「正当な信頼」という。)を惹起する内容のものであったか否かを検討する。
 b スクイーズアウトを実施する義務について
   会社法に基づくスクイーズアウトは、特別支配株主による株式等売渡請求(同法179条1項)、株主総会の特別決議による株式の併合(同法180条、309条2項4号)、その他の方法によるもののいずれの場合であっても、原則として、特別支配株主の要件や特別決議の要件を満たす支配株主がその実施を決定することができるものであって、支配株主又は対象会社と少数株主との間で、支配株主がスクイーズアウトを実施する義務(対象会社については支配株主に実施させる義務)を負う旨の契約が成立したなどの事情がない限り、支配株主又は対象会社が少数株主に対し、スクイーズアウトを実施する義務(対象会社については支配株主に実施させる義務)を負うものではないと解するのが相当である。
  このことは、二段階買収においても同様であり、買収者(支配株主)又は対象会社が少数株主との間で、買収者が、一段階目の取引(買収者による対象会社の株式取得)がされた後の二段階目の取引としてのスクイーズアウト(上記の株式取得に応じなかった株主の保有に係る株式についての株式併合等の手続)を実施する義務(対象会社については買収者に実施させる義務)を負う旨の契約が成立したなどの事情がない限り、買収者又は対象会社が少数株主に対し、スクイーズアウトを実施する義務(対象会社については買収者に実施させる義務)を負うものではないと解するのが相当である。
 c 二段階買収に関する提案や説明による正当な信頼の惹起について
   そして、買収者又は対象会社がスクイーズアウトを実施する義務(対象会社については買収者に実施させる義務)を負うのでなければ、スクイーズアウトを実施するか否かは買収者である支配株主がその時々の状況等を踏まえながら決定することができるのであり、少数株主がその実施を要求することができる性質のものでない以上、たとえ買収者(支配株主)又は対象会社が少数株主に対して二段階買収に関する提案ないし説明を行っていたとしても、その内容が二段階目の取引としてのスクイーズアウトを確実に実施することを明確に宣言するものであるといった特段の事情がない限り、当該説明ないし提案を行ったことが、スクイーズアウトが確実に実施されるという少数株主の正当な信頼を惹起するものであるとはいえないと解される。
 d 本件説明の内容等について
   以上を前提に、本件説明について検討する。
  (a)まず、原告は、被告G社又は被告F社との間で、被告F社が本件スクイーズアウトを実施する義務(被告G社については被告F社に実施させる義務)を負う旨の契約を締結しておらず、かかる契約の締結に向けた交渉さえ行っていない(弁論の全趣旨)のであるから、本件において、被告G社及び被告F社がそれぞれ上記義務を負っているものとは認められない。
  (b)次に、本件説明の内容についてみると、本件提案書の送付(上記第24(2)ア(原告の主張)(ア)①)については、本件提案書には、本件二段階買収(一段階目の取引として本件株式譲渡、二段階目として本件スクイーズアウト)が計画されている旨のほか、本件二段階買収の具体的な内容についての記載があるものの、一段階目の取引である本件株式譲渡に応じなかった本件株主について、二段階目の取引である本件スクイーズアウトを確実に実施する旨の記載はなく(認定事実(2)ア)、本件提案書における記載内容は、本件株主に対し、その時点で検討されていた本件二段階買収の内容について説明するものであって、その記載内容自体が、本件二段階買収における二段階目の取引である本件スクイーズアウトを確実に実施することを明確に宣言するものであるとはいえない。
   また、本件Tメール①の送信(上記第24(2)ア(原告の主張)(ア)②)については、上記メールの記載内容(認定事実(2)イ)は、原告に対し、原告が保有する本件株式につき、本件株式譲渡に同意するか本件スクイーズアウトを検討しているかについて、その時点での意向を確認するものにすぎず、本件二段階買収における二段階目の取引である本件スクイーズアウトを確実に実施することを明確に宣言するものであるとはいえない。
   さらに、本件Tメール②の送信(上記第24(2)ア(原告の主張)(ア)③)については、認定事実(2)ウによれば、❶本件Tメール②が、原告が本件株式譲渡に応じないで本件スクイーズアウトを希望する選択をしたことを前提にした内容であること、❷同メールに、「同じ株価でのスクイーズアウト実施をお約束するために」との記載があること、❸本件Tメール②には、一段階目の取引である本件株式譲渡に応じなかった本件株主について、二段階目の取引である本件スクイーズアウトを確実に実施する旨の記載はなく、また、同メールに添付された本件各同意書には、本件スクイーズアウトが実施されることを条件として原告が権利を放棄する旨の記載はないことを指摘することができる。そして、二段階買収においては、一段階目の取引である株式取得において特別決議の可決が可能な議決権を得た買収者が、二段階目の取引であるスクイーズアウトにおいて一段階目の取引である株式取得の価格よりも株主に不利な価格で少数株主の株式を強制的に取得することも可能であり、原告においては、本件スクイーズアウトが実施される場合の対価を確実に本件株式譲渡と同じ価格とすること自体に意義があることからすると、本件Tメール②の趣旨は、原告が本件各同意書に署名して本件株主間契約(D種優先株式)を解約すれば(その場合、認定事実(2)ウ、(1)イによれば、原告は共同売却権を放棄することになる。)、本件スクイーズアウトが実施される場合の対価を確実に本件株式譲渡と同じ価格にすることを示唆して、本件各同意書への署名を求める趣旨であると解するのが相当である。したがって、本件Tメール②及び本件各同意書の記載内容が、本件二段階買収における二段階目の取引である本件スクイーズアウトを確実に実施することを明確に宣言するものであるとはいえない。
  (c)加えて、本件説明の後に公表された被告F社による本件二段階買収に関するプレスリリースにおいても、本件スクイーズアウトを確実に実施することを明確に宣言する旨の記載はない(認定事実(3)ア、ウ、エ)。
 e 以上によれば、本件において、被告F社又は被告G社が本件スクイーズアウトを実施する義務(被告G社については被告F社に実施させる義務)を負っていたとは認められない。また、本件説明(本件提案書の送付及び本件各Tメール(本件各同意書を含む。)の送信)の内容が、本件スクイーズアウトを確実に実施することを明確に宣言するものであるとは認められず、他に上記特段の事情があるとも認められないことから、本件説明が、本件スクイーズアウトが確実に実施されることについて、原告の正当な信頼を惹起させるものであったとは認められない。
  (なお、原告は、本件二段階買収の提案を受けた際に、一段階目の取引である本件株式譲渡に応じることによって、確実に、上場株式(被告F社の株式)で70%、金銭で30%の対価を受け取ることもできたところ(認定事実(2)ア)、あえてこれを選択せず、二段階目の取引である本件スクイーズアウトを待って金銭のみで対価を受け取ることを選んだものであったとすると、本件において、原告は、上場株式(被告F社の株式)の価格変動リスクを負わずに済む選択肢を選びながら、本件スクイーズアウトが確実に実施されるような措置を講じていなかったものであったといえ、その後、原告の希望に反して、本件スクイーズアウトが実施されない可能性が現実化したとしても、そのことはやむを得ないものであったと解される。)
(ウ)よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の上記(ア)の主張は理由がない。
イ 適正情報開示義務違反による不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償責任の成否(争点2の2及び争点2の3)
 原告は、本件説明が、本件スクイーズアウトが確実に実施されることについて、原告の正当な信頼を惹起させるものであったことを前提として、被告G社が、適正情報開示義務違反による不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償責任を負うと主張する。
 しかし、本件説明が、本件スクイーズアウトが確実に実施されることについて、原告の正当な信頼を惹起させるものであったと認められないことは、上記アで説示したとおりであり、原告の主張はその前提を欠く。
 よって、その余の点について判断するまでもなく、被告G社が適正情報開示義務違反による不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償責任を負うとの原告の主張は、いずれも理由がない。
(3)被告F社及び被告Hらの責任(契約締結上の過失の法理又は類似の法理による不法行為(共同不法行為)に基づく損害賠償責任の成否)(争点3及び争点4)
 原告は、本件説明が、本件スクイーズアウトが確実に実施されることについて、原告の正当な信頼を惹起させるものであったことを前提として、被告F社及び被告Hらが、不法行為(共同不法行為)に基づく損害賠償責任を負うと主張する。
 しかし、本件説明が、本件スクイーズアウトが確実に実施されることについて、原告の正当な信頼を惹起させるものであったと認められないことは、上記(2)アで説示したとおりであり、原告の主張はその前提を欠く。
 よって、その余の点について判断するまでもなく、被告F社及び被告Hらが不法行為(共同不法行為)に基づく損害賠償責任を負うとの原告の主張は、いずれも理由がない。
3 結論
 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第8部
裁判長裁判官 鈴木謙也
裁判官 柴田義人
裁判官 松井馨太朗

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