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解説記事2025年02月24日 SCOPE 外貨建で米国不動産を購入、為替差益への課税処分は適法(2025年2月24日号・№1064)

円換算額の算定は総平均法を採用すべき
外貨建で米国不動産を購入、為替差益への課税処分は適法


 米国不動産を外貨建てで購入した外貨建取引につき、為替差益が生じているかどうかが争われた事案で、東京地裁民事3部(篠田賢治裁判長)は令和7年2月5日、為替差益が生じているとした課税処分を適法とした。
 また、為替差益の額を算定する際の円換算額の算定方法として個別法を用いるべきとの原告の主張も、総平均法に準ずる方法を適用すべきとして斥けている。

東京地裁、資産状態に実質的な変化がないとの主張認めず

 原告は、複数の預金口座で米国ドル及びユーロを保有していたところ、平成29年9月から平成30年に7月にかけてドルを4回に分けて借り入れ、同時期に、米国に所在する4つの不動産をドル建てで購入し、本件口座から送金してその取得費用を支払った。
 本件で最大の争点となったのは、本件各不動産取引によって原告に為替差益に係る所得が発生し、実現したといえるかどうかである。
 原告は、外貨建借入金について同一の金融機関、同一の通貨、同一の金額等で借換えを行う場合には為替差益に係る所得を認識しないとした国税不服審判所平成28年8月8日裁決や、外貨建債券の償還の場面で券面額と同一の金額が同一の外貨で支払われる場合につき為替差益に係る所得を認識しないとした国税庁の質疑応答事例等を挙げ、資産状況に実質的な変化がない場合は、為替差益に係る所得を認識しないとした上で、外貨で外貨建ての不動産を購入する場合には、当該不動産は取引後も引き続き為替変動リスクを負っているのであるから、資産状態に実質的な変化はないなどと主張した。
 これに対し東京地裁は、原告が挙げた各事例は、各取引の前後において、資産の保有形態等に形式的な変化はあるものの、当該資産が同一の為替変動リスクにさらされているという状態に変化はなく、実質的な変化がないと評価できるものである一方、不動産は、周辺の地価や取引相場、物価の変動等による価値の変動が生じ得るものであり、外貨(為替変動リスク)から独立した価値を有しているから、外貨が不動産に置き換わったことは、資産状態に実質的な変化がないとはいえないとして、原告の主張を斥けた。
 また、原告は、所得税基本通達57の3−2の注書きの4の規定を根拠として、当初から資産の購入を予定して借入れを行い、借入れ後に資産を購入する場合には、同一通貨ベースでの連続した一つの取引と考えることができるから、当該取引による為替差益に係る所得は実現していないとも主張した。
 これに対し東京地裁は、所得税基本通達57の3−2の注書きの4は、外貨建取引の直前又は直後において外貨と邦貨との交換がされた場合には、一般に、為替差損益がほとんど発生していないことを踏まえ、簡素化の観点から、実際に外貨と交換した邦貨の額を円換算額とするとの例外的な取扱いを認めたものと解され、本件各不動産取引のように、取引の直前又は直後において外貨と邦貨との交換がされていない事例において参考になるものではないとの考えを示し、原告の主張を斥けた。

所得税基本通達57の3−2 注書きの4

4 本邦通貨により外国通貨を購入し直ちに資産を取得し若しくは発生させる場合の当該資産、又は外国通貨による借入金に係る当該外国通貨を直ちに売却して本邦通貨を受け入れる場合の当該借入金については、現にその支出し、又は受け入れた本邦通貨の額をその円換算額とすることができる。

本件不動産取引のために「一時的に必要な」ドルの取得にあらず

 もう一つの争点が、為替差益の額を算定する際の外貨の取得時の円換算額の算定方法である。
 東京地裁は、外貨も、有価証券と同様、種類の異なるものが一定数存在するものの、物理的な劣化による価値の減少が想定されない上、同一種類の外貨は代替性を有し、取得費等が異なっても一単位ごとに認められる権利や性質、価値などは基本的に変わらないと認められるから、2回以上にわたって取得した同一種類の外貨について、為替差益の額を算定する際の取得時の円換算額を算定する場合には、有価証券と同様に、単価を平均する総平均法に準ずる方法を適用するのが最も合理的との考えを示した。
 原告は、暗号資産の取得価額の計算に関する所得税法施行令119条の2第2項を根拠として、本件各不動産取引に係る部分については個別法を用いるべきである旨を主張した。
 これに対し東京地裁は、「一時的に必要な」取得を平均化の対象外とした上記規定の趣旨について、暗号資産の中には、全世界的に通貨との交換ができず、特定の暗号資産とのみ交換できるものがあり、このような暗号資産の交換等のために一時的に必要となった暗号資産を含めて取得価額の平均化をすることは実態に合わないためであるとの解釈を示した上で、本件各不動産は、通貨(ドル)と一般的に交換可能であり、また、原告が本件各借入れ前に保有していたドルをもって本件各不動産を購入することができなかったとの客観的な事情は見当たらないから、本件各借入金については、本件各不動産取引のために「一時的に必要」なドルの取得であったということはできないとして、原告の主張を斥けている。

所得税法施行令119条の2 第2項

2 前項各号に規定する取得(編集部※)には、暗号資産を購入し、若しくは売却し、又は種類の異なる暗号資産に交換しようとする際に一時的に必要なこれらの暗号資産以外の暗号資産を取得する場合におけるその取得を含まないものとする。
※総平均法又は移動平均法の適用の対象となる取得のこと

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