解説記事2025年03月10日 特別解説 不正以外の開示すべき重要な不備の開示例(2025年3月10日号・№1066)
特別解説
不正以外の開示すべき重要な不備の開示例
はじめに
上場企業の経営者は自社の内部統制が有効か否かを評価したうえで、その結果を内部統制報告書に記載して開示する。その際、年間で20社から30社前後の企業は、「自社の財務報告に係る内部統制が有効でない」旨を自ら開示し、その原因となった重要な不備(開示すべき重要な不備)を開示する。
開示すべき重要な不備の開示の原因となっている事象としては、大きく分けると下記の3つに分類されると考えられる。
① 不正(第三者委員会が設置され、調査報告書が公表されたような事例)
② 誤謬(有価証券報告書等の訂正が行われたような事例)
③ その他
本稿では、2024年に提出した内部統制報告書において、自社の内部統制を「有効でない」と評価した会社で、かつ「開示すべき重要な不備」の原因が不正以外(上記の②又は③)と考えられる、各社の内部統制報告書における開示の内容を見てゆくこととしたい。なお、内部統制報告書の調査分析に当たっては、株式会社レキシコムのウェブサイトや掲載されている分析レポートが大変有用であったため、参考にさせていただいた。
開示すべき内部統制の重要な不備とは
内部統制の整備及び運用において、「開示すべき重要な不備」とは、財務報告に大きな影響を及ぼす可能性が高い不備のことをいう(財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準Ⅱ1.(4))。経営者は、財務報告に係る内部統制の有効性の評価を行った結果、統制上の要点等に係る不備が財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い場合は、当該内部統制に開示すべき重要な不備があると判断しなければならない。経営者は、内部統制の不備が開示すべき重要な不備に該当するか判断する際には、 金額的な面及び質的な面の双方について検討を行う。開示すべき重要な不備の判断指針は、企業の置かれた環境や事業の特性等によって異なるものであり、一律に示すことはできないが、基本的には、財務報告全般に関する虚偽記載の発生可能性と影響の大きさのそれぞれから判断されることになる。
開示事例
2024年に提出された内部統制報告書において、自社の内部統制を「有効でない」と評価した会社で、かつ「開示すべき重要な不備」の原因が不正以外と考えられる各社の内部統制報告書における開示内容を要約して示すと、次のとおりである(下線は筆者の判断で付している)。
(株)デジタルプラス
無担保転換社債型新株予約権付社債の財務制限条項に抵触したため、IAS第1号に基づき流動負債への分類が必要であったが、財務制限条項の抵触に起因する当該CBの流動・非流動分類への影響の検討が不十分であった。また、財務制限条項への抵触を踏まえた繰上償還の可能性、その他ファイナンスの実行可能性、事業計画の達成可能性(事業計画作成にあたって考慮すべき事項の網羅的な把握含む)について継続企業の前提に関する重要な不確実性の有無の検討が十分に実施できていなかった。
(株)FHTホールディングス
新しい事業であるリユース事業において、業務委託取引の一部の購買及び支払いプロセスにおける手順の見直しの必要性について会計監査人より指摘を受けた。この指摘を受けて内部統制のプロセスを見直し、改善に向けた取り組みを始めていたが対応を完了できなかった。
(株)和心
事業年度の決算短信発表後の会計監査の過程で、決算短信の数値等に複数の誤りがあることが判明し、決算短信の訂正を行ったが、これらの誤りを社内の決算・財務報告プロセスにおいて発見できなかった。
野村ホールディングス(株)
連結キャッシュ・フロー計算書において、一部のトレーディング目的以外の貸付金、その他の金融および非金融取引から生じるキャッシュ・フローを、投資活動によるキャッシュ・フローまたは財務活動によるキャッシュ・フローではなく営業活動によるキャッシュ・フローに誤って区分した。また、一部のトレーディング目的以外の負債証券、短期借入、その他の金融および非金融取引から生じるキャッシュ・フローを総額ではなく純額で表示する誤りも発生した。
新都ホールディングス(株)
会社及び国内連結子会社における固定資産の減損認識の判定プロセスにおいて割引前将来キャッシュ・フロー計算に必要な事業計画の妥当性の検証が十分にされておらず、監査人の指摘により、決算開示内容を一部訂正する事態が生じた。
ニデック(株)
当社の連結子会社において、連結決算手続における当社グループの連結子会社間取引を伴う売上高等の連結調整の一部について調整対象を誤認し、売上高が過大に計上されていることが判明した。過大計上された売上高を取り消して、過年度決算を訂正した。
クオンタムソリューションズ(株)
当社は、投資有価証券評価プロセスにおいて、当期に取得した投資有価証券の株式価格の算定についてDCF法や直前取引の大手金融機関の同社株式取得価格等を参考にして取得価額を算定したが、期末の投資株式価額の評価算定に付き、監査法人の指摘に基づき、純資産評価方式にて算定したところ簿価を大幅に下回る評価結果となり、同株式に付き、減損評価とした。
(株)サンテック
当社は、3年前に北陸のトンネル照明設備更新工事を請負ったが、2024年3月期決算において工事原価総額見込みを見直したところ、受注当時の見積り漏れ、その後の工事原価増額などにより損失が発生することが認められ、第4四半期において損失処理を行った。また、会計監査人による監査の過程で、全社的な共用資産の減損判定のための割引前将来キャッシュ・フローの見積り資料について合理性を持った検証ができていないとの指摘を受けた。
(株)エイチワン
当社は、北米連結子会社各社の財務数値の確定及び北米子会社グループの連結財務数値の確定に時間を要し、結果、当社の定時株主総会で年次決算の報告ができず継続会を開催することとなった。また、決算関連手続の過程で経理処理の誤りを検出できなかった。
SMN(株)
当社は決算業務の過程において、連結子会社の収益計上において代理人取引が一部含まれるため当該収益取引を純額にて会計処理すべきであることが判明した。当該影響額を調査し、その影響の重要性に鑑みて、過年度の有価証券報告書を訂正した。
(株)城南進学研究社
期末決算において適切な決算財務報告に対応できる必要かつ十分な人員及び運営体制を構築できていなかった。その結果、社内のチェック体制が不十分であり、収益認識基準や固定資産の計上基準等の会計上の整備運用が不十分だったことにより決算作業及び監査スケジュールに遅延が生じた。
(株)エルアイイーエイチ
1.教育関連事業において新規事業を行うにあたり、取締役会決議は経ているものの、財務人員の不足等の理由により事業計画等の策定等が不十分な業務があった。
2.期末の固定資産の減損の評価等の業務において、不十分な業務があった。
電気興業(株)
固定資産の減損について、会計基準及びその適用方法の理解が不十分であり、固定資産の減損処理に関する準備が遅延した。
当事業年度においても会計監査人から固定資産の減損処理の誤りの指摘並びに異なる納税主体間での繰延税金資産及び繰延税金負債の誤った相殺処理、満期保有目的の債券に係る流動固定区分の分類誤り、連結キャッシュ・フロー計算書の科目集計の一部誤りによる決算短信の訂正を含む修正事項が発生した。
(株)BlueMeme
会社では、「収益認識に関する会計基準」が適用された2022年3月期の期首より、長期契約を含むライセンス取引において単年度ごとに収益認識を行っていたが、ライセンスの契約内容や運用実態から会計処理を再検討したところ、当該処理が誤りであり、契約時における一括収益認識が収益認識会計基準に照らして適切な会計処理であることが判明した。
これにより、会社は過年度の決算を訂正し、有価証券報告書と四半期報告書について訂正報告書を提出した。
(株)リソー教育
・当社の個別財務諸表において、債務超過となっている子会社の債権に対して貸倒引当金を計上するべきだったのではないか。
・当社および連結子会社の「固定資産の減損に係る会計基準」の適用に際して、減損の兆候の把握方法に誤りがあるのではないか。
これらの後任監査人からの指摘に関し、前任監査人との確認作業を進めた結果、会社は修正することが適切であると判断した。
河西工業(株)
連結子会社において、新会計システムの導入にあたり、決算・財務報告プロセスにおける、各決算処理の手続及び正確性を確認する手続の整備・運用が不十分であったこと等に起因した、製造原価及び買掛金の計上誤りや棚卸資産の評価誤り等の相当数の誤りがあったことが会計監査人による監査の過程で判明した。これを受けて会社は四半期報告書の訂正を実施した。
さらに、2024年3月期に、新たに過年度に起因する誤りが連結子会社と会社において発見された。連結子会社に関しては、従前よりメキシコペソ建て決算数値を米国会計基準に従ってドルに為替換算した数値を連結決算に取り込んでいるが、上記改善活動を進める過程において誤りが発見され、過年度に遡り調査を行った結果、2021年3月期より計算方法が誤ったままドル換算を行っていたことが判明した。また、会社においては、過年度における有価証券報告書への注記事項の誤りがあったことが判明した。これらに伴い、有価証券報告書や四半期報告書の訂正を行った。
(株)イズミ
当社グループの情報ネットワークが、第三者からランサムウェア型サイバー攻撃を受けて、一部のサーバーが全部又は一部を暗号化されたことにより、システム障害が発生した。経理関連データへのアクセス障害、代替的な業務プロセスの構築、システム復旧等の対応が必要となり決算手続に遅延が生じた結果として、法定期限までに有価証券報告書が提出できない状況となった。
(株)トーシンホールディングス
信頼性のある財務報告の作成に必要な体制に関する認識、開示事項の作成に関する社内のチェック体制が不十分であった為、監査法人から指摘を受ける事態が生じた。
(株)kubell
第1四半期レビューの過程で監査法人より、連結子会社の株式取得時に識別した顧客関連資産について、前期決算において減損損失を計上すべきであったのではないかとの指摘を受けた。訂正前の財務諸表等においては、顧客関連資産を同社の資産のグルーピングに含めずに減損損失の認識の判定を行っていたが、同社の固定資産の減損に係る会計基準の適用について改めて見直した結果、顧客関連資産を同社の資産のグルーピングに含めることが適切であり、且つ、同資産グループの主要な資産は、同社のビジネスの特性に鑑みてソフトウェアとすることが適切であると判断した。その結果、減損損失の認識が識別され、減損損失の測定を行ったところ、顧客関連資産について全額減損処理する必要が生じたため、前期の有価証券報告書及び内部統制報告書について訂正報告書を提出した。(以下略)
西川ゴム工業(株)
連結子会社において、棚卸資産の帳簿価額と実際残高との間に多額の差異があることについて会計監査人より指摘を受けたことを契機として社内調査を行った結果、当社及び本件連結子会社における全社的な内部統制の不備並びに決算・財務報告プロセスの不備に起因した、棚卸資産に関する単価の誤り、数量誤り及び決算整理仕訳の誤りによる棚卸資産の過大計上と、これに伴う売上原価の過少計上が判明した。これを受けて四半期報告書と有価証券報告書について修正を実施した。
(株)メディカルネット
当事業年度に新たに連結子会社化した会社株式の価値算定等に時間を要し、決算数値の確認、承認手続が不十分となり、会計監査人の監査の過程で以下の不備があることが判明した。
1.決算手続に必要な正確かつ網羅的な情報を把握するための体制が不十分。
2.重要な事象や状況の変化に対応した手順書やワークシートの改善が徹底されていない。
3.信頼性のある財務報告の作成に必要な体制に関する認識、開示事項の作成に関する社内のチェック体制が不十分。
4.連結子会社の責任者の決算への認識及び会計の知識が不足しており、情報伝達に時間を要しているため、検討、整理に時間を掛けられていない。
(株)ウイルコホールディングス
全社的な内部統制における不備
・統制環境の不備
雇用調整助成金の申請は、受給期間が一時的であると想定していたため、常勤取締役等で構成される役員連絡会での意思決定で十分であるとの認識が常勤取締役にあり、取締役会において社外取締役への報告は行わなかった。このため、取締役会および監査等委員会による常勤取締役の監督・監視及び取締役の相互監視が有効に機能せず、助成金の不正受給発生のリスクが増大した。
・情報と伝達の不備
会社が設置したホットラインについて、社内組織である経営企画部が窓口であったため、通報や相談を行ったことによる経営者から自身に対する不利益な扱いを恐れ、通報を躊躇した複数名の社員がいたことが判明した。
(株)キャンドゥ
繰延税金資産の回収可能性を検討するために作成している一時差異のスケジューリング表の内容を見直した結果、一部算定誤りがあり、財務諸表及び連結財務諸表において繰延税金資産を過大に計上していたことが判明したため、有価証券報告書の訂正報告書を提出した。
(株)ディー・エル・イー
連結子会社において、2024年3月期の売上原価、販売費及び一般管理費が一部発生主義で計上されていない誤りがあり、連結財務諸表において売上原価、販売費及び一般管理費が過小に計上されていることが判明し、またその影響により、個別財務諸表において関係会社株式評価損の計上が必要となったため、2024年3月期の有価証券報告書の訂正報告書を提出した。
(株)ウエストホールディングス
決算短信発表後の会計監査の過程で、連結キャッシュ・フロー計算書及びセグメント情報に関する決算短信の数値に複数の誤りがあることが判明した。
(株)ラストワンマイル
一部経費の計上漏れが発生し、一部計上が漏れていた費用を追加計上する処理が必要となったこと、当社グループにおける決算・財務報告プロセスにおける連結財務諸表作成の過程で異なる納税主体間での繰延税金資産及び繰延税金負債の誤った相殺処理を行っていたためこれを修正する処理が必要になったこと、関連当事者との取引に関係する注記を含む複数箇所の修正を要したこと、財務経理部門でのチェック体制が不十分であったことに起因して監査法人から多数の指摘を受け、広範かつ多数の重要な修正処理が必要となった。
(株)サイバー・バズ
本件取引を行うにあたり、A社の親会社であるFUNAI GROUP株式会社(旧:船井電機・ホールディングス株式会社)の連帯保証を受ける等により、同社の信用力を前提とした与信金額の設定を行っていた。しかし、同社の最新の財務状況等の取得がされていない等、取引先及び連帯保証先等の実態確認が適切に検討されておらず、形式的な与信判断になっていた。そのため、貸倒引当金の計上不足が生じた。
終わりに
各社の開示内容を見ると、会計基準等に対する理解の不足や経理人員の不足といった原因のほかに、内部通報制度の不備やサイバー攻撃に対する対応の不足等、様々な事象が内部統制上の不備につながっていることが分かる。会計基準や開示の規則、サイバーセキュリティの進歩等は日進月歩であり、経理スタッフにとっては、絶え間ない知識の更新・メンテナンスが欠かせない。かけられる人員や予算等が限られる中で、AI等の技術を適時適切に利用しつつ、経理・決算業務の効率化・高度化を進めていく必要があるものと考えられる。
参考
株式会社レキシコムウェブサイト及び内部統制報告書の分析結果
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