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解説記事2025年03月17日 法令解説 「株式の保有状況」の開示に関する「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正の解説(2025年3月17日号・№1067)

法令解説
「株式の保有状況」の開示に関する「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正の解説
 金融庁企画市場局企業開示課 課長補佐 鳥屋尾大介
 金融庁企画市場局企業開示課 係長   山口 英輝

Ⅰ はじめに

 2025年1月31日、「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(令和7年内閣府令第6号。以下同令による改正後の企業内容等の開示に関する内閣府令を「改正開示府令」という)が公布され、同日から施行された。本改正の概要は図表のとおりである(脚注1)。

 また、これと併せて、「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」(以下「改正開示ガイドライン」という)を改正し、同日から適用された(脚注2)。
 本稿では、これらの改正について、パブリックコメントに対する金融庁の考え方なども踏まえて解説する。なお、本稿において、意見にわたる部分については、筆者らの個人的見解であることをあらかじめ申し添えておく。

Ⅱ 「株式の保有状況」の開示

 企業が他社の株式を保有する場合、その保有の意義を積極的に開示することは、投資判断上有用であると考えられる。このことから、2010年3月期より、上場会社を対象として、有価証券報告書及び有価証券届出書(以下「有価証券報告書等」という)において株式の保有状況の開示が導入された。その後の改正(脚注3)を経て、改正開示府令の施行前における開示事項は、大要、以下のようになっている(脚注4)。
・ 投資株式(脚注5)について、純投資目的で保有する株式と純投資目的以外の目的(以下「政策保有目的」という)で保有する株式(以下「政策保有株式」という)とに区分し、その区分の基準や考え方
・ 政策保有株式(上場株式に限定可)の保有の合理性の検証方法等
・ 政策保有株式の銘柄数及び貸借対照表計上額の合計額等
・ 非上場株式を除く政策保有株式のうち、貸借対照表計上額が提出会社の資本金額の100分の1を超えるもの(銘柄数の合計が60に満たない場合には、当該貸借対照表計上額の大きい順の60銘柄)についての個別銘柄開示(銘柄、株式数、貸借対照表計上額、保有目的、保有目的が営業上の取引等である場合の概要等、提出会社の経営方針・経営戦略等と関連付けた定量的な保有効果、株式数の増加理由、相互保有の有無等)
・ 純投資目的の株式についての2期分の銘柄数及び貸借対照表計上額の合計額、当事業年度分の受取配当金、売却損益、評価損益の合計額
・ 当事業年度中に保有目的を変更したものがある場合には、銘柄、株式数、貸借対照表計上額

Ⅲ 「株式の保有状況」の開示を巡る課題と本改正の経緯

 「株式の保有状況」の開示を巡っては、金融審議会・ディスクロージャーワーキング・グループの議論において、株主資本コストの観点から正当化できる株式保有であるかどうかは機関投資家との対話において重要な論点となっており、建設的な対話に資するよう、業務提携関係や議決権行使基準について開示されることが有益であり、こうした情報が提供されることが望ましいとの指摘がされている。
 加えて、同ワーキング・グループでは、上記のとおり、制度上、純投資目的の株式と政策保有株式とで開示内容に差異が存在することに関連して、
・ 政策保有株式が純投資に振り替えられると透明性が格段に落ちてしまうため、純投資に区分変更した場合にその説明を求めるべきではないか
・ 政策保有株式と純投資の区分が不分明であり、純投資を含めて開示するようにすべき
といった問題提起が行われている(脚注6)。
 これを受け、2022年6月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告(脚注7)においては、純投資と政策保有の区分の考え方や両者の間の区分変更の動向等についての実態を調べ、適切な開示に向けた取組みを進めることが期待されるとの提言が行われているところである。
 これを踏まえ、令和5年度の有価証券報告書レビュー(脚注8)において、有価証券報告書における「株式の保有状況」の開示のうち、政策保有目的から純投資目的に保有目的を変更した株式の開示状況を検証したところ、政策保有株式の縮減の方針を示しつつ、
・ 売却可能時期等について発行者と合意をしていない状態で純投資目的の株式に変更を行っていること
・ 発行者から売却の合意を得た上で純投資目的の株式に区分変更したものの、実際には長期間売却に取り組む予定はないこと
により、実質的に政策保有株式を継続保有していることと差異がない状態になっているとの課題が識別された。
 また、2024年6月に公表された「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024」(脚注9)においても、
・ 特に保有目的について、純投資目的への変更についてはその理由の開示が求められていないことから、実態が不透明となっているとの指摘がある
 例があるとの課題に加え、
・ 有価証券報告書において実態を踏まえた適切な開示が行われることが重要である。このため金融庁においても、実際の開示についてより深度ある検証を実施し、その結果を踏まえ必要に応じて開示の拡充等の必要な措置を講じるべきである
との今後の方向性が提言されている。
 さらに、2024年8月に公表された「2024事務年度金融行政方針」(脚注10)において、「政策保有株式の開示の適切性について有価証券報告書レビュー等で検証を行うとともに、政策保有株式に係る開示事項(脚注11)の追加等を検討する」との方針を示されているところである。
 本改正は、以上の経緯を踏まえ、株式の保有目的の変更に関して、企業に適切な開示を促す観点から、実施することとしたものである。

Ⅳ 改正開示府令・改正開示ガイドラインの内容

1 概 要
 上記のとおり、改正前においては、保有目的を変更した投資株式については、当事業年度中に変更したものに限り、銘柄、株式数、貸借対照表計上額の記載を求めていた。
 この点、投資者にとっては、保有目的の変更理由が不明、そもそも純投資目的の株式として区分されると個別銘柄開示が行われないことから、政策保有目的から純投資目的に保有目的を変更した株式については、翌事業年度以降に売却したのか、継続して保有しているのかも不明という点で課題があったと言える。
 そのため、改正開示府令により、保有目的を政策保有目的から純投資目的に変更した株式(脚注12)について、
・ 開示対象の拡大
・ 開示事項の追加
を行うとともに、改正開示ガイドラインにより、
・ 「純投資目的」の解釈の明確化
を実施することとした。

2 開示対象の拡大
 改正前は、開示対象の株式を、当事業年度中に保有目的の変更があったものとしていたが、改正後は、当事業年度を含む最近5事業年度中に保有目的の変更があった株式のうち当事業年度末において保有しているもの(脚注13)とし、開示対象を拡大することとした。なお、開示対象を当事業年度を含む「最近5事業年度」としたのは、
・ 配当収入を目的として純投資目的に変更した株式については相当の長期にわたって開示が継続することになり得るが、純投資目的の株式について個別銘柄開示を求めていない現行の開示府令の中での整合性や長期間開示を求めることによる企業負担にも配慮する必要があること
・ 現行開示府令において5年分の主要な経営指標等の推移の開示を求めていること
を踏まえたものである(脚注14)。

3 開示事項の追加
(1)保有目的を変更した事業年度

 前記のとおり、開示対象の期間を最近5事業年度に拡大したことにより、保有目的を変更した株式が複数年にわたり有価証券報告書等において開示されることになるため、保有目的を変更した事業年度の開示を求めることとした(脚注15)。
(2)保有目的の変更の理由及び保有目的の変更後の保有又は売却に関する方針
 改正前においては、投資株式の保有目的を変更した場合に、保有目的の変更理由や保有目的変更後の売却・保有の方針の開示は求められていなかった。
 しかしながら、投資者と提出会社との対話に資するような開示を実現するためには、政策保有株式の保有目的の変更理由に加え、当該株式が売却されるのか継続保有されるのかといった方針が開示されるようにすることで、その理由や方針と実際の売却状況や保有状況が整合しているのかを確認できるようにすることが有用といえる(脚注16)。
 このような観点を踏まえ、「保有目的の変更の理由及び保有目的の変更後の保有又は売却に関する方針」の開示を新たに求めることとした。
 なお、投資者との対話に資する開示を実現するためには、定量的な記載、例えば、売却方針の株式の場合は、売却予定時期を明示することが考えられるが、それが困難である場合であっても、売却を実現する際の考慮要素など、売却の時期に関する会社の考え方を具体的に記載することが有用であると考えられる(脚注17)。

4 「純投資目的」の解釈の明確化
 「純投資目的」については、開示府令上は定義されていないが、従前よりパブリックコメント(脚注18)において、「専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とすることをいう」との解釈が示されている。改正開示ガイドラインでは、まず、かかる従前からの解釈をガイドライン上に明記することとした(脚注19)。
 前記の「純投資目的」の考え方からすれば、純投資目的の株式については、提出会社の裁量によって、その売却の可否や時期を判断できるものであるべきと考えられる。そこで、当該株式の発行者等が提出会社の株式を保有する関係にあること、当該株式の売却に関して発行者の応諾を要すること等により、「発行者との関係において提出会社による売却を妨げる事情」が存在する株式は、専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とするものであるとはいえず、「純投資目的」には該当しない旨を明確にすることとした(脚注20)。
 この点、「当該株式の発行者等が提出会社の株式を保有する関係にあること」とは、提出会社が発行者の株式を保有していることを前提として、提出会社と発行者とが相互保有関係にある状態を意味している(脚注21)。もっとも、提出会社が資産運用として株式を保有しており、その後に株式の発行者が提出会社の株式を保有するに至ったなど形式的に相互保有関係に至った場合であっても、発行者との関係において「売却を妨げる事情」がないと判断された場合には、純投資目的に区分することを否定するものではない(脚注22)。
 次に、「発行者の応諾を要する」とは提出会社と発行者との間の契約、取決め、慣行等により、提出会社の意思による発行者株式の売却が妨げられている事情があることをいい、必ずしも法的に売却が禁止されることまでを要するものではない。他方、応諾なく売却した場合に取引関係において不利益な扱いがされる場合には、間接的に提出会社の意思による売却が妨げられていると考えられるため、「発行者の応諾を要する」ものであると考えられる(脚注23)。
 また、新規公開株式にはロックアップ条項による譲渡制限が付されること、非上場株式には経営の安定性の確保のために譲渡制限が付されることがある。かかる場合に「提出会社による売却を妨げる事情」があるといえるのかが問題となるが、前者の例は、株式の需給関係の安定のために証券会社等と一定の大株主との間で締結される契約によるものであり、後者の例は、定款上、当該株式の性質として一般的に定められるものであることから、いずれの例においても「発行者との関係において」売却を妨げる事情があるとはいえず、純投資目的に区分することは否定されないと考えられる(脚注24 25)。

Ⅴ おわりに

 改正開示府令は、2025年3月期の有価証券報告書等から適用される(改正開示ガイドラインについては1月31日より適用。)。
 政策保有株式については、経済合理性が十分に検証されないまま保有が継続され、適切な議決権行使や建設的な対話が行われない結果、保有する企業の資本が効率的に運用されていないのではないか、保有される企業のガバナンスに歪みを生じさせているのではないかといった課題があると考えられる。
 他方で、例えば、シナジー効果が見込まれるスタートアップ企業の株式を継続的に保有することは、企業価値の向上やスタートアップ企業の育成にも寄与し得る点で意義があるとの考え方もあるところである。
 本改正は、有価証券報告書レビューにおいて、保有目的を政策保有目的から純投資目的に変更している株式について識別された課題に対応するために実施したものである。金融庁としては、本改正に加えて、有価証券報告書レビュー等により「株式の保有状況」の開示の適切性を確認するとともに、参考となる開示例を広く紹介すること等を通じて、開示の質と透明性の向上を図ることで、引き続き政策保有株式を巡る諸課題に対応していきたいと考えている。


脚注
1 本改正の対象は、有価証券届出書の様式である開示府令第二号様式記載上の注意「(58)株式の保有状況」であるが、有価証券報告書の様式である第三号様式記載上の注意「(39)株式の保有状況」では、第二号様式記載上の注意(58)に準じて記載することが求められており、今回の改正内容は、有価証券報告書についても当てはまる。この稿では、有価証券報告書における開示を念頭に解説することとする。
2 金融庁「『企業内容等の開示に関する内閣府令』等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について(政策保有株式の開示関係)」(2025年1月31日)(https://www.fsa.go.jp/news/r6/sonota/20250131-2/20250131-2.html
3 主なものとして、保有の合理性の検証方法等の開示を求めるとともに、個別銘柄開示の対象となる政策保有株式の銘柄数を30銘柄から60銘柄に拡大するための改正が行われている。金融庁「『企業内容等の開示に関する内閣府令』の改正案に対するパブリックコメントの結果等について」(2019年1月31日)(https://www.fsa.go.jp/news/30/sonota/20190131.html
4 改正開示府令第二号様式記載上の注意(58)
5 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則第32条第1項第1号に掲げる投資有価証券及びこれに準ずる有価証券をいう(改正開示府令第二号様式記載上の注意(58))
6 2021年12月1日開催の金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第4回)の議事録(https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/disclose_wg/gijiroku/20211201.html
7 金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告(2022年6月13日)22頁(https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20220613/01.pdf
8 有価証券報告書レビューとは、有価証券報告書の記載内容の適正性を審査するための取組であり、毎年度、金融庁及び財務局において実施しているものである。審査項目や審査の結果については、金融庁ウェブサイトで公表しており、2023年度の審査結果については、金融庁「令和5年度 有価証券報告書レビューの審査結果及び審査結果を踏まえた留意すべき事項等」(2024年3月29日)(https://www.fsa.go.jp/news/r5/sonota/20240329-9/01.pdf)を参照(保有目的変更に関しては、36頁.39頁に記載)
9 スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024(「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(7))」(2024年6月7日)6頁(https://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/statements_7.pdf
10 金融庁「2024事務年度金融行政方針」(2024年8月30日)4頁(https://www.fsa.go.jp/news/r6/20240830/20240830_main.pdf
11 具体的な開示事項としては、「株式の保有目的を政策保有目的から純投資目的に変更した際に必要な開示事項等」としている。
12 保有目的を純投資目的から政策保有目的に変更した場合については、保有目的変更後に政策保有株式として個別銘柄開示が行われることに鑑み、現行制度を維持することとした。
13 改正前においても、保有目的を変更した株式の「貸借対照表計上額」の開示を求めていたことからすれば、当事業年度末において保有しているものの開示を求めていたものであり、今回の改正では、その点を明文化している。
14 前掲脚注2の別紙1(以下「パブリックコメント回答」という)2頁~4頁(No.5~No.7)参照。
15 事業年度の記載の一例として、「2021年3月期」「2022年3月期」とすることが考えられる。
16 パブリックコメント回答7頁・8頁(No.13~No.15)
17 保有目的変更後の方針が確定していない場合には、発行企業のガバナンスや業績・株主還元姿勢の変化、株価の推移等を参照する旨の記載だけでなく、これらの要素がどのような状況になれば売却又は保有に関する方針がどのように変化するのかという点についても記載する必要があると考えられる。(パブリックコメント回答7頁・8頁(No.13~No.15))
18 金融庁「『企業内容等の開示に関する内閣府令(案)』等に対するパブリックコメントの結果等について」(2010年3月31日)の「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」37頁(No.124等)(https://www.fsa.go.jp/news/21/sonota/20100331-8.html)、金融庁「『企業内容等の開示に関する内閣府令』の改正案に対するパブリックコメントの結果等について」(2019年1月31日)の別紙1の17頁(No.68)(https://www.fsa.go.jp/news/30/sonota/20190131.html
19 なお、従前のパブリックコメントにおいては、個々の銘柄を政策保有目的と純投資目的のいずれに区分するかについては、第一義的には、各社の経営判断に従うものであるとの考え方が示されている(前掲脚注18の2010年3月31日公表の「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」41頁(No.131))。この考え方は、今般の改正後も維持している(パブリックコメント回答4頁・5頁(No.8))。
20 パブリックコメント回答25頁・26頁(No.52)
21 パブリックコメント回答20頁(No.40)なお、提出会社と発行者とが相互保有関係にない場合であっても、例えば、提出会社が発行者の株式を保有し、発行者の子会社が提出会社の株式を保有している場合は、当該発行者との関係において「売却を妨げる事情」が存在することも想定される。このため、「発行者」にその子会社が含まれ得るとの趣旨を明確にするため、開示ガイドラインの文案を原案の「発行者」から「発行者等」に修正している(パブリックコメント回答23頁(No.47))。
22 パブリックコメント回答25頁(No.50)
23 パブリックコメント回答23頁(No.46)
24 パブリックコメント回答21頁・22頁(No.42・No.43)
25 その他、パブリックコメント回答22頁・23頁(No.45)では、急激な株価変動が生じることを考慮して、発行会社と調整しつつ一定ペースで売却を行うことについて、そのことのみをもって「発行者との関係において売却を妨げる事情」があるものとはいえず、純投資目的に区分することを否定するものではないと考えられる(ただし、発行体との間で調整された売却計画の概要を記載することが有益)と回答している。

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