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解説記事2025年04月21日 実務解説 有価証券報告書 作成上の留意点(2025年3月期提出用)(2025年4月21日号・№1071)

実務解説
有価証券報告書 作成上の留意点(2025年3月期提出用)
 企業会計基準委員会 専門研究員 中西美樹


《まとめ》
・「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正により、「重要な契約等」、「株式の保有状況」及び「発行済株式総数、資本金等の推移」について開示の新設及び拡充が行われている。
・改正「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等、「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」を中心とした項目に留意が必要。
・このほか、防衛特別法人税の税効果会計の取扱いや2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正についても留意が必要。

Ⅰ はじめに

 本稿は、2025年3月期の有価証券報告書における作成上の留意点についてまとめたものであり、「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下「開示府令」という。)の改正に伴う留意点、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)から改正・公表された企業会計基準等に関する留意点を中心に解説する。
 なお、文中において意見にわたる部分は私見であることをあらかじめ申し添えておく。

Ⅱ 開示府令の改正を踏まえた有報の開示に係る留意点

(1)概要
 2022年6月に公表された「金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告」において、個別分野における「重要な契約」について、開示すべき契約の類型や求められる開示内容を具体的に明らかにすることで、適切な開示を促すことが考えられるとされたことを踏まえ、2023年12月22日に開示府令が改正された。
 また、2025年1月31日に政策保有株式の開示関係について、2025年2月21日にはスタートアップへの資金供給の促進関係についても開示府令が改正された。
(2)重要な契約等
 開示府令の改正により、2025年3月期より「重要な契約等」として「企業・株主間のガバナンスに関する合意」、「企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意」及び「ローン契約と社債に付される財務上の特約」について記載することとされた(開示府令第三号様式が準用する第二号様式記載上の注意(以下「記載上の注意」という。)(33)f~h)。このうち、「企業・株主間のガバナンスに関する合意」について、提出会社の株主と当該提出会社との間で次に掲げる合意を含む契約を締結している場合として、(a)当該提出会社の役員について候補者を指名する権利を当該株主が有する旨の合意、(b)当該株主による議決権の行使に制限を定める旨の合意、(c)当該提出会社の株主総会又は取締役会において決議すべき事項について当該株主の事前の承諾を要する旨の合意が掲げられており、その場合、当該契約の概要、当該合意の目的、取締役会における検討状況その他の当該提出会社における当該合意に係る意思決定に至る過程及び当該合意が当該提出会社の企業統治に及ぼす影響を具体的に記載することとされている(記載上の注意(33)f)。記載事例1では、「役員候補者を指名する権利について合意する契約が株主との間に締結された場合」の記載事例を記載している。なお、「企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意」及び「ローン契約と社債に付される財務上の特約」についても、記載上の注意(33)g及びhに従って記載することになると考えられる。

 また、経過措置として、記載上の注意(33)fからhまでの規定に準じて記載すべき事項のうち、2025年4月1日前に開始する事業年度に係る有価証券報告書について、この府令の施行前に締結されたこれらの規定に規定する契約又は金銭消費貸借契約に係るものについては、その記載を省略する旨を記載することによって、その事項の記載に代えることができるとされている(附則第3条第4項)。財務上の特約その他重要な影響を及ぼす可能性のある特約について、この経過措置の対象は金銭消費貸借契約に限定されている点について留意が必要である。なお、当経過措置については、2025年4月1日前に開始する事業年度に係る有価証券報告書についてとされているため、2026年3月期の有価証券報告書においては記載を省略することができないことについてもご留意いただきたい。
(3)株式の保有状況
 政策保有株式の開示関係に係る開示府令の改正により、株式の保有状況について、当事業年度の前4事業年度及び当事業年度において、政策保有目的から純投資目的に変更した株式がある場合、銘柄、株式数、貸借対照表計上額、保有目的を変更した事業年度、保有目的の変更の理由及び変更後の保有又は売却に関する方針について記載することとされた(記載上の注意(58)f)。記載事例2では、④及び⑤に投資株式の保有目的を変更した場合の記載事例を記載している。

(4)発行済株式総数、資本金等の推移
 スタートアップへの資金供給の促進関係に係る開示府令の改正により、発行済株式総数、資本金等の推移について、事後交付型株式による株券の交付による発行済株式総数、資本金及び資本準備金の増加については、事業年度ごとにそれぞれの合計額を記載し、事後交付型株式による株券の交付によるものである旨を欄外に記載することとされた(第三号様式記載上の注意(23)b)。なお、経過措置として、2025年3月31日以後に終了する事業年度に事後交付型株式による株券の交付を行う場合における同日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書について適用すると定められている点にご留意いただきたい(附則第2条第6項)。
 また、記載上の注意(29)従業員の状況についても併せて開示府令の改正が行われており、「育児・介護休業法施行規則」の条文番号が「第71条の4」から「第71条の6」に改正されている点について留意が必要である。

Ⅲ 企業会計基準等の改正・公表に係る留意点

1 2022年改正「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等に係る留意点
(1)概要

 ASBJは、2022年10月28日に企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(以下「法人税等会計基準」という。)、企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「税効果適用指針」という。)の3つの会計基準等を改正している。
 この改正により税引前当期純利益と税金費用の対応関係を図る目的で、当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本及びその他の包括利益に区分して計上することとされた。また、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いに関する改正として、グループ法人税制が適用される場合で、連結会社間における子会社株式等の売却に伴い売却元企業で生じた売却損益を税務上繰り延べたことで繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合に、当該売却に係る連結財務諸表上の税引前当期純利益と税金費用との対応関係の改善を図る観点から、連結決算手続上、当該繰延税金資産又は繰延税金負債を消去することとされた。
 適用時期は、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用とされている。その詳細は、花澤徳裕「改正企業会計基準第27号『法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準』等の概要」(本誌No.961)を参照いただきたい。
(2)主要な経営指標等の推移
 「第1 企業の概況」の「主要な経営指標等の推移」について、記載事例3に記載している。今回改正された法人税等会計基準等は、遡及適用に関して、経過的な取扱いが認められている。そのため、全て遡及適用を行う場合の記載事例を上段に、経過的な取扱いを行った場合の記載事例を下段に記載している。経過的な取扱いを適用している下段の記載事例については、「なお、」以降に経過的な取扱いについて具体的に記載している。

(3)会計方針の変更に関する注記
 法人税等会計基準等を適用し、法人税等会計基準の第20−3項ただし書きに定める経過的な取扱い、及び税効果適用指針の第65−2項(2)ただし書きに定める経過的な取扱いを適用する場合について記載事例4に記載している。今回の会計方針の変更の記載事例は、会計基準等の改正等に伴うものであり、連結財規第14条の2、財規8条の3を準用に基づいて注記を行っている。

 記載事例4では、冒頭に該当する会計基準等の名称(法人税等会計基準等)を適用していることを明記した後、カッコに記載しているとおり、会計方針の変更の具体的な内容を記載するようにしている。続いて、経過措置に従って会計処理を行った旨、経過措置の概要、連結財務諸表の主な科目に対する実務上算定可能な影響額及び1株当たり情報に対する実務上算定可能な影響額を記載することを想定している。
 なお、「連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱いの見直しに関連する改正」については、税効果適用指針において経過的な取扱いが定められていないため、「また」に続く箇所で、前連結会計年度における影響額や1株当たり情報に対する影響額等を記載している。記載事例のカッコ書きの記載は、連結財規等に定められている記載すべき事項を記載しているものであり、各企業の状況を踏まえ、記載することになると考えられる。
(4)連結包括利益計算書関係
 連結包括利益計算書関係について、法人税等会計基準の改正により、税効果だけではなく、法人税等もその他の包括利益に計上することになるため、「税効果額」という記載を「法人税等及び税効果額」という記載とすることに留意が必要である。
 なお、比較情報については、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部を改正する内閣府令」(令和5年3月27日内閣府令第22号)附則第2条第2項により、従前の連結財務諸表規則によることができるとされている。例えば、前連結会計年度は「税効果額」の箇所に金額を記載し、当連結会計年度については「法人税等及び税効果額」の箇所に金額を記載するという方法も考えられる。
(5)退職給付関係
 退職給付関係について、(5)退職給付に係る調整額、(6)退職給付に係る調整累計額では、従前の「税効果控除前」を「法人税等及び税効果控除前」に変更し、「退職給付に係る調整額(又は調整累計額)に計上した項目(法人税等及び税効果控除前)」という記載とすることに留意が必要である。
(6)会計方針の変更等
 単体の「会計方針の変更等」について、記載事例5に記載している。連結における税効果適用指針第65−2項(2)ただし書きに定める経過的な取扱いに関する記載及び税効果適用指針の連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益を税務上繰り延べる場合の連結財務諸表における取扱いの見直しに関連する改正に関する記載については単体では該当しないため、記載がない点について留意が必要である。

2 「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」に係る留意点
(1)概要

 グローバル・ミニマム課税は、一定の要件を満たす多国籍企業グループ等の国別の利益に対して最低15%の法人税を負担させることを目的としており、当該課税の源泉となる純所得が生じる企業と納税義務が生じる企業が相違する新たな税制である。我が国では、2023年3月28日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第3号)において、グローバル・ミニマム課税のルールのうち所得合算ルールに係る取扱いが定められ、2024年4月1日以後開始する対象会計年度から適用することとされた。
 これを受け、ASBJは2024年3月22日に実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」を公表した。適用時期は、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用とされている。その詳細は、大竹勇輝「実務対応報告第46号『グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い』等の概要」(本誌No.1028)を参照いただきたい。
(2)連結貸借対照表・貸借対照表
 グローバル・ミニマム課税制度に係る未払法人税等のうち、貸借対照表日の翌日から1年を超えて支払の期限が到来するものは、連結貸借対照表及び貸借対照表の固定負債の区分に長期未払法人税等などその内容を示す科目をもって表示することとされている。
(3)連結損益計算書関係
 連結損益計算書において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等(連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則では「国際最低課税額に対する法人税等」とされている。)に重要性があるときは、当該金額を注記しなければならないとされている。記載事例6では、国際最低課税額に対する法人税等に重要性がある場合の記載事例を記載している。

(4)損益計算書
 連結損益計算書ではグローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等に重要性があるときは、当該金額を注記しなければならないとされているが、個別損益計算書では、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等は、「法人税、住民税及び事業税」を表示した科目の次にその内容を示す科目をもって区分して表示するか、「法人税、住民税及び事業税」等の適切な科目に含めて表示することができるとされている。したがって、個別損益計算書について、法人税、住民税及び事業税の次に「国際最低課税額に対する法人税等」を追加することが考えられる。なお、「国際最低課税額に対する法人税等」の金額を「法人税、住民税及び事業税」に含めて記載した場合、重要性が乏しい場合を除き、「国際最低課税額に対する法人税等」の金額を注記しなければならないとされていることに留意が必要である。

Ⅳ その他の留意点

(1)防衛特別法人税の税効果会計の取扱いに係る留意点
 ASBJは、2025年2月20日に「補足文書『2025年3月期における令和7年度税制改正において創設される予定の防衛特別法人税の税効果会計の取扱いについて』」を公表した。その後、2025年3月31日に防衛特別法人税に係る規定を含む「所得税法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第13号)が可決された。
 この点、税効果会計の適用における2026年4月1日以後に開始する事業年度に解消が見込まれる一時差異等に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に際して、防衛特別法人税の影響を反映する必要があると考えられる。この場合、税効果会計関係において、「税法の改正に伴い、法人税等の税率が変更された場合」の注記が必要になる可能性があるため、ご留意いただきたい。
(2)「2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正」に係る留意点
 2024年年次改善プロジェクトは、2024年4月1日を基準日として行った、ASBJが公表した企業会計基準等の要変更事項の検出作業により検出された事項、及び当該作業後の企業会計基準等の開発の過程で検出された事項について、変更後の記載及び「企業会計基準及び修正国際基準の開発に係る適正手続に関する規則」に基づいて必要とされる手続を検討の上、必要に応じて複数の企業会計基準等の改正又は修正をまとめて行うものである。
 2025年3月11日に2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正が公表され、以下の改正が行われている。
① 包括利益の表示に関する改正
② 特別法人事業税の取扱いに関する改正
③ 種類株式の取扱いに関する改正
(3)サステナビリティに関する考え方及び取組に係る留意点
 サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、2025年3月5日に次のサステナビリティ開示基準を公表した。これを踏まえ、任意でこれらのサステナビリティ開示基準に従った開示をすることも考えられる。
① サステナビリティ開示ユニバーサル基準「サステナビリティ開示基準の適用」
② サステナビリティ開示テーマ別基準第1号「一般開示基準」
③ サステナビリティ開示テーマ別基準第2号「気候関連開示基準」
 この場合は、有価証券報告書の作成要領の分冊である「有価証券報告書の作成要領(サステナビリティ関連財務開示編)」をご参照いただきたい。

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