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解説記事2025年05月26日 ニュース特集 最近の消費税紛争事案と実務上の論点(2025年5月26日号・№1075)

ニュース特集
~裁決事例、判決、独自取材から紐解く~
最近の消費税紛争事案と実務上の論点


 消費税の税収は2020年度に所得税、法人税を上回り、それ以降、国税トップを維持している。消費税の存在感の高まりとともに、近年は消費税を巡る紛争が増加しており、また、実務上の取扱いが必ずしも明確でない論点も生じている。なかには、課税当局による多少強引にも見える否認事例も目に付く。
 そこで本特集では、裁決事例や判決を適宜紹介しつつ、最近の消費税調査の傾向、課税当局のスタンス、実務家の間で生じている現行の取扱いへの疑問の声などをお伝えする。

修正インボイスを受領した場合の仕入税額控除時期

誤記等が軽微なら課税仕入日の課税期間に仕入税額控除可とする見解も

 適格請求書等を交付した適格請求書発行事業者は、これらの書類の記載事項に誤りがあった場合には、これらの書類を交付した他の事業者に対して、修正した適格請求書等(以下、修正インボイス)を交付しなければならないこととされている(消法57の4④)。仮に、課税仕入れを行った事業者が、課税仕入日の属する課税期間に受領した適格請求書等の記載に誤りがあり、翌課税期間以降に修正インボイスを受領したケースでは、課税仕入日の属する課税期間あるいはその翌課税期間以降の期間のいずれにおいて仕入税額控除が認められるか、実務家の間で議論がある。
 まず大前提として、帳簿や請求書等の記載は「真実の記載」であることが要求され、その記載に誤りがある場合は仕入税額控除の要件を満たさないこととされている(東京地判平成9年8月28日、広島地判平成11年2月18日等)。したがって、上記ケースは、課税仕入れを行った日が属する課税期間の確定申告期限において、受領した適格請求書等の記載に誤りがある以上、消費税法30条7項の「帳簿及び請求書等……を保存しない場合」に該当し、仕入税額控除の要件を満たさない。一方、翌課税期間以降、修正インボイスを受領した時点で「帳簿及び請求書等……を保存しない場合」に該当しなくなることから、この時点で仕入税額控除の要件を満たすことになる。
 すなわち、法定の記載事項が正しく記載され仕入税額控除の要件を満たしたのはあくまで翌課税期間以降であるため、翌課税期間以降において仕入税額控除が認められるのが原則であり、例外的に、誤記等が軽微である場合は、事後の修正の効果が遡及し、課税仕入れを行った日の課税期間において仕入税額控除が認められる余地があるとの見解がある。

受領が翌課税期間以降でも課税仕入日が属する課税期間での控除が妥当

 しかし、請求書等の記載に誤りがある場合に仕入税額控除が認められないのは、消費税法30条7項の「帳簿及び請求書等……を保存しない場合」に該当する結果、同条1項の適用を受けることができないためである一方、修正インボイスを受領した時点で仕入税額控除が認められることとなるのは、消費税法30条7項の「帳簿及び請求書等……を保存しない場合」に該当しなくなる結果、同条1項が適用されることによる。つまり、修正インボイスを受領した時点で仕入税額控除を認める根拠規定はあくまで同条1項にあるということだが、同条1項は、課税仕入れを行った日(同項1号)が属する課税期間において仕入税額控除を認めているものであり、修正インボイスを受領した課税期間において仕入税額控除を認める法令上の根拠は見当たらない。
 したがって、翌課税期間以降に修正インボイスを受領した場合も、課税仕入れについて仕入税額控除が認められる時期は、修正インボイスを受領した課税期間ではなく、当該課税仕入れを行った日が属する課税期間になると考えられる。課税仕入れを行った日が属する課税期間の確定申告において当該課税仕入れに係る消費税額を控除対象仕入税額に含めていない場合には、更正請求の手続を行う必要があろう。

不実記載を理由とした仕入税額控除の否認①

輸出取引に対する消費税の課税事例の紛争化相次ぐ

 輸出の事実を証明する書類に虚偽の内容が記載されているとしてEMS郵便物の輸出免税を否認する事例が頻発していることは既報の通りだが(本誌1063号、1066号参照)、これとは別に、輸出取引に対する消費税の課税事例の紛争化が相次いでいる。典型的な事例が、帳簿等に記載された課税仕入れの相手方が真実の仕入先でないから、「帳簿及び請求書等を保存しない場合」(消法30⑦)に該当するとして仕入税額控除を否認されるケースだ。
 最近訴訟に至った事例としては、東京地裁令和6年7月11日判決がある。同判決では、領収証に記載された課税仕入れの相手方について、氏名は同一であるのに異なる住所等が記載されているもの、住所等は同一であるのに氏名は異なるものが存在するほか、記載された住所における居住の事実等が確認できたものがなかったこと等から、課税仕入れの相手方を特定し得る真実の氏名等の記載があるとは認められず、仕入税額控除は適用できないとされた。
 同様に、真実の仕入先が不明であるとされた裁決事例として、帳簿に記載された課税仕入れの相手方が課税仕入れが行われた日に日本国内に滞在していなかったから真実の仕入先でないとした令和5年9月5日裁決(東裁(諸)令5第15号)、領収書等に記載された課税仕入れの相手方の住所等が真実のものではなく、氏名が真実であることを示す証拠もないとした令和5年9月15日裁決(大裁(諸)令5第8号)がある。

背景に還付事案に対する調査の強化

 また、帳簿等に記載された課税仕入れの相手方が真実の仕入先ではなく、取引に関与した第三者が真実の仕入先であったとして仕入税額控除が否認された裁決事例もある。この類型の事例では、更正処分を適法として維持した裁決(令和6年4月17日裁決:関裁(法・諸)令5第37号、ただし重加算税賦課決定処分は取消し)がある一方、更正処分の一部または全部を取り消した裁決もある。令和6年5月7日裁決(東裁(諸)令5第98号)では、帳簿等に記載された課税仕入れの相手方は真実の仕入先ではなかったが、請求書の発行や代金回収の委託を受けていたことから、「媒介又は取次に係る業務を行う者」(インボイス制度施行前の消法30⑨柱書及び消令49③)の名称が記載されているとして更正処分の全部が取り消された。一部取消しの事例としては、令和6年9月20日裁決(東裁(諸)令6第35号)がある。同裁決では、請求書に記載された課税仕入れの相手方の一部は真実の仕入先でないものの、他の一部は真実の仕入先でないとは言えないとして更正処分の一部が取り消されている。
 以上の事例からは、消費税の還付事案に対する調査を強化する流れの中で、輸出取引について課税当局が多少無理をしてでも課税仕入れの相手方を否認するケースが存在することがうかがわれる。輸出取引に当たっては、課税仕入れの相手方の本人確認や帳簿等への正確な記載について細心の注意が求められよう。

不実記載を理由とした仕入税額控除の否認②

帳簿等の記載が真実であると信ずる「相当の理由」の存在が鍵に

 仕入税額控除の適用を受けるためには、仕入先の氏名等を記載した帳簿等の保存が必要とされている(消法30⑦~⑨)。そして、帳簿等の記載事項については、裁判例で「真実の記載」であることが当然に要求されており、記載された氏名等が真実でない場合には、原則として帳簿保存要件を満たさないことになる。
 ただ、税務調査等においては、帳簿等の記載が真実かどうか問題になることが少なくない。この点、帳簿等の記載が真実であると信ずる「相当の理由」がある場合には、「帳簿及び請求書等を保存しない場合」には該当しないと解する裁判例があり(広島地裁平成11年2月18日判決・税資240号716頁等)、国税不服審判所の裁決にも、一般論として同様の解釈を示したものがある(大裁(諸)平13第71号、仙裁(法・諸)平20第8号等)。また、消費税法上も、帳簿等の保存がないことに「やむを得ない事情」がある場合には仕入税額控除が認められる(消法30⑦但書)。

業法に従って本人確認をしても仕入税額控除不可となる恐れ

 こうした中、国税不服審判所が令和6年6月25日に、仕入先の本人確認を行っていなかったことを理由として仕入税額控除の適用を認めないとする裁決を下していたことが判明した(大裁(諸)令5第60号)。
 請求人は画廊を営んでおり、絵画の仕入れに当たって、仕入先(絵画の売主)から交付を受けた領収証に基づきその氏名等を帳簿に記載していた。これに対し国税不服審判所は、その氏名が虚偽又は架空のものであったことが事後に判明した場合に、請求人が運転免許証等による本人確認を行っていなかったことから、「帳簿等の保存」はなく仕入税額控除の適用は認められないとの判断を示している。
 請求人は古物商であり、古物(絵画)の買取りに当たって本人確認義務を負っていた(古物営業法15条1項)。この本人確認義務について請求人は、古物営業法に従って住所、氏名等が記載された文書の交付による本人確認(同項2号)を行っており、その記載が真正なものでないとの疑いがない限り身分証明書等の提示を受けて本人確認を行う必要はない(古物営業法施行規則15条2項)と整理。その上で、①帳簿に記載された氏名の記載が真実でないとしても、記載が真実であると信ずる「相当の理由」があるため帳簿等の保存がないとはいえず、又は②「やむを得ない事情」があるから、仕入税額控除の適用が認められるべきであると主張した。
 上記①について審判所は、請求人の主張するような事情があるとしても、真実の記載がされていない以上、帳簿等の保存があるとはいえないとした。この判断は、一般論として記載が真実であると信ずる「相当の理由」があれば帳簿等の保存があるとする余地を認めていないという点で、従前の裁決よりも厳しい立場に立っているようにも見える。
 上記②について審判所は、請求人が受領した領収証には仕入先の職業・年齢が記載されていないから古物営業法に規定する本人確認すら行っていないことを指摘しつつ、そもそも消費税法が真実を記載した帳簿等の保存を要求する趣旨は、古物営業法が要求する本人確認とはその趣旨・目的を異にしているとの考えを示した。その上で、仮に古物営業法上、身分証明書等の提示を受けて本人確認を行う必要がなく、古物営業法に規定する本人確認を行ったといえるとしても、消費税法上の「やむを得ない事情」が認められるものではないとした。

近年相次ぐ否認事例、本人確認は厳格に

 近年、帳簿を保存していても仕入先の氏名・名称の記載が真実でないことを理由に仕入税額控除が否認されるケースが相次いでいる(直近3年だけでも、関裁(諸)令4第24号、東裁(諸)令4第82号、東裁(諸)令5第15号、大裁(諸)令5第8号、関裁(諸)令5第5号、関裁(法・諸)令5第37号、大裁(法・諸)令5第57号、大裁(法・諸)令5第58号、東裁(諸)令6第9号、大裁(諸)令6第5号、大裁(諸)令6第8号等、多数)。
 上記裁決の「古物営業法に従って本人確認を行っていたとしても仕入税額控除は認められない」とした部分には異論もあろうが、近年の傾向を踏まえると、少なくとも実務上は、仕入税額控除を受けるために本人確認をより厳格に行うことが重要と言えよう。

転売目的の居住用賃貸建物の空室の用途区分

現状ではいずれの事案も「共通対応」に該当するとの結論

 マンション販売事業者が転売目的で取得した居住用賃貸建物のうち、保有期間を通じて空室であった部分の課税仕入れの用途区分が争われた事案はこれまで複数発生している。直近では、東京地裁(令和7年1月24日判決)が、用途区分の判定は個々の取引ごとに行うのが相当であり、一棟の建物として登記された建物の取引の対象は、個々の居室ではなく一棟の建物であるとした上で、一棟の建物として見れば転売目的である一方、一部の居室が住宅として賃貸されていたことから、「共通対応」に該当するとの判断を示したところだ(本誌1062号参照)。国税不服審判所でも、用途区分は取引単位で判定すべきであり、一棟の建物を単位として見れば転売目的と居住用賃貸目的があると言える場合には、その一部が居住用に賃貸されていないとしても、全体が共通対応になるとの判断が示されてきた(東裁(諸)平18第175号、東裁(諸)令5第58号)。
 このように、マンション販売事業者が転売目的で取得した居住用賃貸建物のうち保有期間を通じて空室であった部分の課税仕入れの用途区分が争われた事案は、いずれも「共通対応」に該当するとの結論で終わっている。

通達が定める合理的な基準による区分の是非に直接触れた裁決・判決なし

 その一方で、消費税法基本通達11−2−19では、共通対応に該当する課税仕入れを「合理的な基準」により課税対応と非課税対応に区分することを認めている。また、国税庁はその例として、土地建物を一括して譲渡した場合の仲介手数料は譲渡代金の割合により区分することが認められるとの質疑応答事例「土地付建物の仲介手数料の仕入税額控除」を明らかにしている。
 上記東京地裁令和7年1月24日判決で原告は、空室部分については、入居者を募集していたが結果的に空室であったというだけでなく、転売までは一時的な保有しか予定しなかったため、保有期間中に新規の賃借人を募集することはなかったと主張している。すなわち、空室部分については、そもそも原告の保有期間中に賃料収入の発生が見込まれなかった可能性がある。このような場合、課税仕入れを空室部分と居住用賃貸に供されている部分の面積で按分し、前者を非課税対応に、後者を課税対応に区分することが認められるべきとの意見が専門家から聞かれる。本判決を含むこれまでの判決・裁決では、消費税法基本通達11−2−19が定めるような合理的な基準による区分の是非には直接触れられていないだけに、今後の判断が待たれるところだ。

「立替払方式」におけるクレジット手数料の非課税取引該当性

債権譲渡方式の場合は包括承継の対価に該当するとの見解

 クレジットカードの加盟店は信販会社に対してクレジット手数料を負担するが、手数料の負担方法は、法律構成の観点から2つに分けられる。具体的には、①加盟店が消費者に対して有する代金債権(100)を、信販会社が、手数料相当額(10)を差し引いた額(90)を加盟店に対価として支払って譲り受ける方法(債権譲渡方式)と、②信販会社が消費者に代わって代金(100)を立替払する際に手数料相当額(10)を控除した額(90)で決済し、後日、信販会社から消費者に代金(100)を求償する方法(立替払方式)だ。
 このうち債権譲渡方式の場合については、国税庁の質疑応答事例「クレジット手数料」において、クレジット手数料は、非課税取引である「金銭債権の譲受けその他の承継(包括承継)」(消令10①八)の対価となるとの見解が示されている。
 一方、立替払方式の場合、加盟店が消費者に対して有する代金債権は信販会社による立替払いによって消滅し、信販会社は消費者との契約に基づき消費者に対して求償債権を取得することになる。すなわち、法律構成としては、加盟店から信販会社に対して債権が譲渡その他の原因で承継されるわけではないことから、「金銭債権の譲受けその他の承継(包括承継)」に該当しないのではないかとの疑問がある。

審判所、包括承継の対価として仕入税額控除認めず

 こうした中、国税不服審判所が令和6年5月20日、クレジットカードの加盟店が信販会社に対して負担するクレジット手数料が非課税取引である「金銭債権の譲受けその他の承継(包括承継)」の対価に該当するか否かについて新たな判断を示していたことが本誌取材により判明している(東裁(諸)令5第104号)。
 国税不服審判所は、立替払方式である本件は法的には債権譲渡がなされたわけではないことを前提に、非課税取引に該当する対価として「金銭債権の買取又は立替払に係る差益」を挙げる消費税法基本通達6−3−1(10)を引用し、原債権を消滅させる代わりに立替払人に求償債権を発生させる立替払いは債権譲渡とは法的構成を異にするが、原債権の消滅、求償債権の発生という形で原債権を立替払人に移転させる点で、債権譲渡と同様の経済的実質を有するものであるとの法令解釈を示した。その上で、本件において加盟店が負担したクレジット手数料は分割払いの回数が増えるほど高額になる体系であることから、貸倒れのリスクを考慮して設定されたものということができると判断。したがって、当該クレジット手数料は、加盟店が消費者に対して有していた債権の貸倒リスクは立替払いによって信販会社に移転したことに対する対価としての性質を有するものであり、上記通達にいう「立替払に係る差益」に該当し、「金銭債権の譲受けその他の承継(包括承継)」の対価であると結論付け、クレジット手数料について仕入税額控除は認められないとした。
 「金銭債権の譲受けその他の承継(包括承継)」はその性質上、もともと消費税に馴染まないという観点から非課税取引とされるものであることを踏まえ、“経済的実質”で判断するというのが国税不服審判所のスタンスと言えよう。

非居住者へのゲームソフトのダウンロード番号販売の輸出該当性

「著作権」の譲渡に該当すれば「輸出取引」に

 平成27年度税制改正により、電気通信回線を利用して行われる著作物の提供(著作物の利用許諾に係る取引を含む)は「電気通信利用役務の提供」(消法2①八の三)として、役務の提供を受ける者の所在地により内外判定を行うこととされたところ(消法4③三)。その結果、本件取引のような電気通信回線を介してゲームのソフトウェアを利用させる取引は国外取引に当たることとされた。
 こうした中、国税不服審判所が、国内事業者である請求人が国内のゲーム会社の販売するゲームソフトに係るダウンロード番号を非居住者に販売する取引は「著作権」の譲渡に該当せず、輸出取引に該当しないとの判断を示していたことが判明している(令和6年6月24日裁決(東裁(諸)令5第133号))。
 請求人はゲームソフトに係るダウンロード番号をウェブサイト上で購入し、中国の個人事業主(以下、国外事業者)に販売。その後、国外事業者がダウンロード番号を中国の一般消費者に販売した。請求人は消費税の確定申告で、本件取引に係る売上金額を免税売上額に含めていた。
 本件の争点は、本件取引が消費税法施行令6条1項7号に規定する「著作権」の譲渡なのか、あるいは同項10号に規定する資産(同項1号から9号までに掲げる資産でその所在していた場所が明らかでないもの)の譲渡なのかということにある。いずれにせよ本件取引は「国内取引」に該当するが、本件取引が「著作権」の譲渡に該当すれば「輸出取引」となる(消法7①五、消令17②六)のに対し、同項10号に規定する資産の譲渡に該当すれば「輸出取引」に該当せず、課税取引となる。

ソフトの提供者でない者による販売は国内取引となる恐れ

 請求人は、本件取引の実体はゲームソフトの譲渡であり、非居住者に対する「著作権」の譲渡に該当すると主張した。これに対し審判所は、ダウンロード番号は顧客が電気通信回線を介して提供されるゲームソフトをダウンロード等するために要する無形の資産であると判断。その上で、ゲームソフトに係る利用規約によれば、ゲームソフトに係るソフトウェアは使用許諾されるものであり、顧客に譲渡されるものではないことなどから、ダウンロード番号を本件国外事業者に対して譲渡したとしても、非居住者に対する著作権の譲渡に当たらないと指摘、本件取引は「著作権」の譲渡に該当せず、輸出取引に該当しないと結論付けた。
 上述の通り、平成27年度税制改正により本件取引のような電気通信回線を介してゲームのソフトウェアを利用させる取引は国外取引に当たることとなったが、本裁決によれば、請求人のようにゲームのソフトウェアの提供者でない者がダウンロード番号を譲渡する取引は「国内取引」であり、かつ、輸出取引に該当しないと判断され得るという点、留意する必要がある。

無体財産権の実施料相当損害賠償金の課税取引該当性

役務提供がないにもかかわらず消費税の課税対象とすることに疑問の声

 消費税法基本通達5−2−5《損害賠償金》は、「無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体財産権の権利者が収受する損害賠償金」について、「実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められるもの」として、消費税の課税取引になるとの取扱いを示している。典型例としては、特許権の侵害を受けた場合に、侵害を受けた期間に応じて特許権の実施料相当額を損害賠償金として収受する場合が挙げられる。
 もっとも、「実質が資産の譲渡等の対価に該当すると認められる」といっても、所得を課税対象とする所得税・法人税と異なり、消費税は「資産の譲渡等」すなわち「対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」を課税対象としている(消費税法4、2①八)のは周知の通り。例えば、特許権を侵害する不法行為に基づき、その実施料相当額(逸失利益)の損害賠償金が支払われる場合、経済的実質だけを見れば、当初から特許権の実施を許諾した場合(つまり、役務の提供がなされた場合)と同額の実施料相当額が支払われるに等しいが、当該損害賠償金は、法的には、仮に特許権の侵害がなく実施許諾(役務の提供)がなされていたとすれば得られたであろう利益(逸失利益)を損害として賠償するものであって、現実には実施許諾(役務の提供)がなされなかったことを前提として支払われる。このような観点から、税務専門家の間では、上記通達の取扱いの正当性について疑問の声が上がっている。

「事後的な無体財産の実施許可=役務提供」との考え方も

 一方で、上記通達は、無体財産権の侵害を受けた場合に、権利者が加害者との間で、事後的に侵害を受けた期間の無体財産権の実施を許諾し、その実施料の支払いについて合意した場合の取扱いについて定めているとの見方もあろう。この場合は、事後的とはいえ、実施料の支払いを伴う無体財産権の実施を許諾しており、対価を得て行う役務の提供があると見ることができるため、消費税の課税対象になるとも考えられる。

判決に従い実施料相当額の損害賠償金収受なら役務提供がないことは明白

 しかし、例えば、特許権の侵害について訴訟が提起され、実施料相当額の損害賠償金の支払いを命ずる判決が出て、その判決に従って実施料相当額の損害賠償金が収受された場合には、当事者間において特許権の実施許諾(役務の提供)がないことを前提に損害賠償金の支払いがなされたことは明らかであるため、消費税の課税対象とならないと考えるべきとの意見が多くの税務専門家から聞かれる。
 この論点については現状、明確に判断を示した判決や裁決は見当たらない。国税不服審判所や裁判所の判断が待たれるところだ。

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