解説記事2025年06月02日 未公開判決事例紹介 保険外交員は個人事業税の対象となる代理業か否か(2025年6月2日号・№1076)
未公開判決事例紹介
保険外交員は個人事業税の対象となる代理業か否か
東京地裁は納税者の請求棄却、代理業に該当
本誌1067号4頁で紹介した個人事業税賦課決定処分取消請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。
〇生命保険会社の外交員の業務が、地方税法上の個人事業税の課税対象となる「代理業」に該当するかが争われた事件。東京地方裁判所(鎌野真敬裁判長)は令和7年3月4日、商法27条に定義された「代理商」の業務の内容及び所得税法上の事業所得に関する解釈を踏まえて、「個人事業税の課税客体となる『代理業』とは自己の計算と危険において独立して反復継続的に営まれる事業であって、手数料等の報酬の収得を目的として、一定の商人のために、その平常の営業の部類に属する取引の代理又は媒介をするもの」との解釈を示した上で、原告らの行う業務は「代理業」に当たるとの判断を示した(令和6年(行ウ)第118号)。
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
別紙2請求目録記載のとおり
第2 事案の概要
本件は、原告らが、東京都知事の権限の委任を受けた渋谷都税事務所長等から、原告らが行った業務が個人事業税の課税客体である地方税法(令和5年法律第1号による改正前のもの。以下同じ。)72条の2第8項23号にいう「代理業」に当たるとして、別紙3処分目録記載の各処分(令和3年分及び令和4年分の個人事業税の賦課決定処分)を受けたため、上記各処分が違法であるとして、被告(編注:東京都)を相手に、上記各処分の取消しを求める事案である。
1 関係法令等の定め
(1)本件に関係する地方税法等の定めは別紙4のとおりであり、地方税法72条の2第3項は、個人事業税(個人の行う事業に対する事業税)は、個人の行う第一種事業、第二種事業及び第三種事業に対し、所得を課税標準として事務所等所在の道府県において、その個人に課する旨を規定している。そして、同条8項柱書きは、同条3項の「第一種事業」とは、同条8項各号に掲げるものをいう旨を規定し、同項23号は、「代理業」を掲げている。なお、同法1条2項は、地方税法中道府県に関する規定は都に準用する旨を規定している。
(2)本件に関係する「地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)」(平成22年4月1日付け総税都第16号総務大臣通知。乙1。)及び個人事業税課税事務提要(平成24年8月1日付け24主課課第153号東京都主税局長通知。乙2。以下「都事務提要」という。)の定めは、それぞれ別紙5及び別紙6のとおりである。
2 前提事実(証拠等を掲記した事実を除いて、当事者間に争いがない。)
(1)原告らは、保険業法278条1項の規定により生命保険募集人(生命保険会社の使用人等で、その生命保険会社のために保険契約の締結の代理又は媒介を行うものをいう。同法2条19項。ただし、原告らは、後記のとおり、上記の代理を行う権限は有していなかったと主張している。)の登録を受けた者であり、X生命保険株式会社(以下「本件生命保険会社」という。)との間で、いずれも契約期間を1年間とし、本件生命保険会社のために「専業の生命保険募集人としての仕事を行うこと」等を「任務」とし、その対価として歩合制報酬の支払を受けることを約する旨の「営業社員雇用契約」又は「営業社員再雇用契約」を締結し、少なくとも令和3年又は令和4年頃まで、それらの契約が更新されていた者である(甲8の1~19、弁論の全趣旨)。なお、本件生命保険会社が作成した報酬明細上、原告らの報酬は「初年度手数料」、「継続手数料」等であり、それらの合計額の全額が事業所得に計上され、その額から社会保険料が控除された額が差引支給額とされていた(甲11の1~甲11の19)。
(2)原告らは、納税地を所轄する税務署長に対し、本件生命保険会社から得た収入金額(歩合制報酬)に係る事業所得等について、令和3年分及び令和4年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書並びに所得税青色申告決算書(一般用)の提出をした(ただし、令和4年分については、原告9、原告13、原告14及び原告19を除く。)。上記各書面において、原告らの事業所得の金額は、原告らが本件生命保険会社から得た収入金額から、接待交際費、給料賃金、外注工賃、事務所(本件生命保険会社の事務所ではない。以下同じ。)の賃料、業務用の車両の減価償却費等の経費(青色事業専従者給与を除く。以下同じ。)の額の控除及び青色事業専従者控除(地方税法72条の49の12第2項、所得税法57条1項)の全部又は一部をして計算されていた。(乙A1の1~乙S2)
(3)渋谷都税事務所長、千代田都税事務所長、中央都税事務所長、品川都税事務所長、豊島都税事務所長又は港都税事務所長(以下、併せて「本件各処分行政庁」という。)は、令和4年8月1日付け、同年9月1日付け、同年10月3日付け、同年11月1日付け、同年12月1日付け又は同月14日付けで、原告らに対し、令和3年分の個人事業税の賦課決定処分をした(別紙3処分目録記載の各処分のうち、「処分」欄に「令和3年分」と記載された各処分。以下、これらの処分を併せて「令和3年分各処分」という。)。令和3年分各処分は、原告らが本件生命保険会社の営業社員として行った業務が「代理業」に当たることを理由としてされたものである。
(4)原告らは、令和4年10月31日付け、同年11月30日付け又は令和5年1月19日付けで、東京都知事に対し、令和3年分各処分の取消しを求める審査請求をした。
(5)本件各処分行政庁は、令和5年8月1日付け、同年10月2日付け、同年11月1日付け又は同年12月1日付けで、原告ら(原告9、原告13、原告14及び原告19を除く。)に対し、令和4年分の個人事業税の賦課決定処分をした(別紙3処分目録記載の各処分のうち、「処分」欄に「令和4年分」と記載された各処分。以下、これらの処分を併せて「令和4年分各処分」といい、令和3年分各処分と併せて「本件各処分」という。)。令和4年分各処分も、令和3年分各処分と同じく、上記原告らが本件生命保険会社の営業社員として行った業務(以下、上記(3)の業務と併せて「本件各業務」という。)が「代理業」に当たることを理由としてされたものである。
(6)上記(5)の原告らは、令和5年10月31日付け、同年11月29日付け又は同年12月26日付けで、東京都知事に対し、令和4年分各処分の取消しを求める審査請求をした。
(7)東京都知事は、令和6年2月26日付け、同年3月19日付け又は同月22日付けで、原告らに対し、原告らが本件生命保険会社の営業社員として行った業務が「代理業」に当たるとして、上記(4)の審査請求を棄却する旨の裁決をした。なお、東京都知事は、上記(6)の各審査請求については、現時点までに裁決をしていない(弁論の全趣旨)。
(8)原告らは、令和6年4月8日、本件訴えを提起した(顕著な事実)。
3 争点
本件の争点は、「代理業」(地方税法72条の2第8項23号)の意義であり、具体的には、代理権を有しない者が行う取引の媒介業務が「代理業」に当たるか否か(争点1)及び使用人が行う上記業務が「代理業」に当たるか否か(争点2)である。なお、原告らは、仮に原告らの個別的な事情を都事務提要の定めに当てはめると、本件各業務が個人の行う「事業」(同条3項)や「代理業」に当たることについて、積極的には争っておらず、原告らの納付すべき個人事業税の税額が別紙3処分目録の「個人事業税 課税額」欄記載の額(本件各処分における額と同額)となることについては、これを争うことを明らかにしない。
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(代理権を有しない者が行う取引の媒介業務が「代理業」(地方税法72条の2第8項23号)に当たるか否か)について
(被告の主張)
地方税法72条の2第8項に掲げられている第一種事業について、同法は事業の名称を列挙するのみであり、各事業の具体的な内容を定めた定義規定は置いていないことからすれば、「事業」、すなわち資本を基礎として、利益を得る目的で継続的に行う行為のうち、どのような行為類型の社会経済活動が課税対象となる第一種事業に該当するのかは、商法の類似の規定も参考にした上で、社会通念に照らして実体に即して判断するのが相当である。そして、個人事業税の課税客体となる「代理業」は、同法の「代理商」(同法27条)の規定に即して、取引の代理又は媒介をする事業をいうと解するのが合理的であるというべきである。したがって、代理権を有しない者が行う取引の媒介業務も「代理業」に含まれる。
なお、原告らが本件生命保険会社の代理権を有しているか否かについては、不知である。
(原告の主張)
租税法律主義の原則に照らすと、租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではないところ、「代理業」とは、その文言からすれば、「代理」を行う業務、すなわち代理権を有して行う業務である。地方税法は、「代理業」が商法27条にいう「代理商」と同義であるとは定義していないから、「代理業」が同条にいう「代理商」と同義であるとは解されない。したがって、代理権を有しない者が行う取引の媒介業務が「代理業」に当たる余地はない。
以上と異なり、代理権を有しない者が行う取引の媒介業務も「代理業」に含まれると解することは、地方税法の規定の文言を離れて解釈するものであって、租税法律主義等に反するとともに、個人については生活関係が複雑であってその所得の源泉も多種多様であることに照らし、課税に当たって混乱を生じさせないように課税客体となる第一種事業を限定的に列挙した同法72条の2第8項の趣旨にも反するというべきである。
そして、原告らは、本件生命保険会社の代理権を有しないから、その業務は、「代理業」には当たらない。
(2)争点2(使用人が行う取引の媒介業務が「代理業」(地方税法72条の2第8項23号)に当たるか否か)について
(被告の主張)
前記(1)のとおり、どのような行為類型の社会経済活動が課税対象となる第一種事業に該当するのかは、商法の類似の規定も参考にした上で、社会通念に照らして実体に即して判断するのが相当であるところ、同法上の「使用人」の概念は一義的ではなく、地方税法の「事業を行う個人」に当たるかどうかの判断は、商法上の「使用人」であるかどうかを直接的に判断するものではない。「代理業」との関係では、取引の代理行為や媒介行為を自己の計算と危険により行っていると評価できる場合には「代理業」に該当すると判断することとなるが、取引の代理行為や媒介行為を自己の計算と危険によらず他人に従属して行っていると評価される場合には「代理業」には該当しないと判断することとなると解するべきである。
なお、原告らが商法上の「使用人」であることについては争う。
(原告の主張)
仮に「代理業」が商法27条にいう「代理商」と同義であるとしても、同条によれば、「代理商」とは「商人の使用人でないもの」であるから、使用人である者は「代理商」ではない。
そうであるところ、原告らは、本件生命保険会社と雇用契約を締結しているものであって、本件生命保険会社の使用人であり(本件各業務が「事業」に当たるとしても、原告らが商法上の使用人に該当しないことになるものではない。)、それゆえに「代理商」ではないから、その業務は「代理業」に当たらない。
第3 当裁判所の判断
1 「代理業」(地方税法72条の2第8項23号)の意義
(1)ア 憲法は、国民は法律の定めるところにより納税の義務を負うことを定め(30条)、新たに租税を課し又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要としており(84条)、それゆえ、課税要件及び租税の賦課徴収の手続は、法律で明確に定めることが必要であり(最高裁昭和60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁参照)、このような租税法律主義の原則に照らすと、租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではないというべきである(最高裁平成27年7月17日第二小法廷判決・裁判集民事250号29頁参照)。
イ 地方税法72条の2第3項は、個人事業税は、個人の行う第一種事業、第二種事業及び第三種事業に対し、所得を課税標準として、その個人に課する旨を規定し、同条8項は、第一種事業として「代理業」(23号)等を限定的に掲げている。
地方税法は、上記の「代理業」の定義を特段規定していないところ、地方税法72条の2第8項が個人事業税の課税客体である個人の行う事業について規定していることからすれば、同項23号にいう「代理業」については、反対の解釈をすべき特段の事由がない限り、商人の営業、商行為その他商事について規定する法律である商法(同法1条)の規定と整合的に解釈することが相当である。そして、商法が、27条において、代理商につき、商人のためにその平常の営業の部類に属する取引の代理又は媒介をする者で、その商人の使用人でないものをいうと定義しているところ、同条の定義する「代理商」の業務の内容に照らせば、「代理業」とは、手数料等の報酬の収得を目的として、一定の商人のためにその平常の営業の部類に属する取引の代理又は媒介をする事業をいうものと解することができ、このように解することが、みだりに規定の文言を離れて解釈するものとはいえない。
(2)次に、地方税の個人事業税に係る規定の内容や趣旨、事業税の性格等についてみると、事業税は、事業に対して都道府県において課す税であり(地方税法72条の2)、事業が、都道府県の施設を利用し、又はこれらの行政サービスを受けてその活動を行っていることから、これらの施設の設置や行政サービスに必要な経費について応分の負担を求めるという性格(応益原則に基づく税としての性格)を有すると解される。
そして、個人事業税の課税客体は、前述のとおり、個人の行う事業(第一種事業、第二種事業及び第三種事業)とされ(同条3項)、第一種事業、第二種事業及び第三種事業は、同条8項ないし10項において、限定列挙されているところ、これは、個人については、その生活関係が複雑である上、所得の源泉も多種多様であるため、個人事業税の課税客体を限定列挙することにより、個人の行う事業の認定に当たって混乱が生ずることを避けるなどという課税技術上の観点によるものと解される。
これらの個人事業税に係る規定の内容や趣旨、事業税の性格等に照らし、「代理業」の意義について、商法27条の定義する「代理商」の業務の内容と異なる解釈(前記(1)と異なる解釈)をすべき特段の事由は見当たらない。
(3)また、「代理業」と同じく第一種事業の一つとして掲げられている「仲立業」(地方税法72条の2第8項24号)については、手数料等の報酬の収得を目的として、他人間の商行為の媒介をする事業をいうものと解するのが相当である(商法543条参照)。
しかるところ、地方税法が、一定の商人のためにその平常の営業の部類に属する取引の代理をする事業や他人間の商行為の媒介をする事業を個人事業税の課税客体とする一方で、一定の商人のためにその平常の営業の部類に属する取引の媒介をする事業を個人事業税の課税客体から殊更に除外したものと解すべき合理的な理由は、前記(2)の個人事業税に係る規定の内容等に照らしても見当たらない。
そうすると、地方税法72条の2第8項は、第一種事業として、一定の商人のためにその平常の営業の部類に属する取引の代理又は媒介をする事業については「代理業」(23号)を、他人間の商行為の媒介をする事業については「仲立業」(24号)を掲げたものと解するのが、商法の規定と整合的であり、かつ、同項23号及び24号の各規定内容を整合的、体系的に解釈することができるものといえ、この点からしても、「代理業」の意義については、前記(1)のとおり解するのが相当である。
(4)ところで、所得税法上の事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうものと解するのが相当である(最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁参照)。
個人事業税は、前記(2)のとおり、応益原則に基づく税としての性格を有するものと解される点で、所得税と異なるところがあるものの、個人事業税の課税客体は、個人の行う事業であり、その課税標準は、原則として当該年度の初日の属する年の前年中における個人の事業の所得とされ(地方税法72条の2第3項、72条の49の11第1項)、その所得につき適用される事業所得等の計算の例によって算定され(同法72条の49の12第1項本文)、さらに、事業所得等について当該個人が確定申告をした課税標準等を基準として課するものとされている(同法72条の50第1項本文)。したがって、個人事業税の課税客体となる事業に係る解釈は、所得税法上の事業所得に関する上記の解釈を踏まえて行うことが相当である。
(5)そうすると、上記(1)ないし(3)のとおり、地方税法72条の2第8項23号にいう「代理業」とは、手数料等の報酬の収得を目的として、一定の商人のためにその平常の営業の部類に属する取引の代理又は媒介をする事業であると解されるが、ここにいう事業については、上記(4)のとおり解されるから、「代理業」とは、自己の計算と危険において独立して反復継続的に営まれる事業であって、手数料等の報酬の収得を目的として、一定の商人のために、その平常の営業の部類に属する取引の代理又は媒介をするものであると解するのが相当である。
(6)ア 以上に対し、商法は、504条において、「商行為の代理」について規定しており、同条にいう「商行為の代理人」は、商行為の媒介をする者を含まないものと解されるから、「代理業」についても、取引の代理業務に限られるものと解すべきか否かが問題となる。
しかしながら、地方税法の「代理業」の規定は、個人が行う事業を定めたものであるから、商人が行う営業という側面からの規定である商法27条の「代理商」の規定を参酌するのが相当である。他方、商法504条は、代理という行為形式がとられた場合において、その効果帰属の関係を規定したものであるから、この規定が存することは、「代理業」が取引の代理業務に限られないと解するにつき、妨げとなるものではない。
イ また、商法27条は、前記(1)イのとおり、代理商につき、商人の使用人でないものをいうと規定しているところ、「代理業」についても、使用人が行う取引の媒介業務は含まれないと解すべきか否かが問題となる。
しかしながら、前記(5)のとおり解される「代理業」に該当する場合には、その事業は、商人の使用人が使用人として行う業務であるということができないか、仮にそのような業務としての一面があるとしても、基本的には、その商人の事業とは独立した事業であるというべきであって、少なくとも、前述の事業税の性格に照らし、個人事業税の課税客体となる「代理業」に当たると解するのが相当である。また、商法27条は、代理商、すなわち、商人の補助者について定義しているのに対し、地方税法72条の2第8項23号は、「代理業」、すなわち個人事業税の課税客体となる事業の一類型を規定するものであることからすれば、「代理業」の意義を解釈するに際し、商法27条における代理商の定義のうち、業務の内容に係る部分とは整合的に解釈するのが相当である一方で、人的要素に係る部分は、必ずしも整合させる必要があるものとまではいえないから、このように解することが不合理であるということはできない。
ウ そして、ほかに、前記(5)とは異なる解釈をすべき根拠は見当たらない。
(7)以上のとおり、個人事業税の課税客体となる「代理業」とは、自己の計算と危険において独立して反復継続的に営まれる事業であって、手数料等の報酬の収得を目的として、一定の商人のために、その平常の営業の部類に属する取引の代理又は媒介をするものであると解するのが相当である。
2 争点1(代理権を有しない者が行う取引の媒介業務が「代理業」(地方税法72条の2第8項23号)に当たるか否か)について
前記1のとおり、個人事業税の課税客体となる「代理業」(地方税法72条の2第8項23号)とは、自己の計算と危険において独立して反復継続的に営まれる事業であって、手数料等の報酬の収得を目的として、一定の商人のために、その平常の営業の部類に属する取引の代理又は媒介をするものをいうものと解される。
これに対し、原告らは、代理権を有しない者が行う取引の媒介業務が「代理業」に当たると解することは、地方税法の規定の文言を離れて解釈するものであって、租税法律主義等に反するとともに、課税に当たって混乱を生じさせないように個人事業税の課税客体となる第一種事業を限定的に列挙した同法72条の2第8項の趣旨にも反する旨を主張する。しかし、個人事業税の課税客体となる「代理業」の文理解釈に当たって商法の総則の規定である同法27条を参酌することは、当然に許されるものと解され、みだりに地方税法72条の2第8項23号の文言を離れて解釈するものであるとはいえない。また、このように解することにより、課税客体が不明確になるとか、課税に当たって混乱を生じさせることになるともいえず、同項の趣旨に反する旨の原告の主張は前提を欠く。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
3 争点2(使用人が行う取引の媒介業務が「代理業」(地方税法72条の2第8項23号)に当たるか否か)について
(1)前記1(6)イのとおり、商人の使用人が使用人として行う業務が「代理業」(地方税法72条の2第8項23号)に当たる場合があるとしても、そのことをもって、文理解釈として不合理であるなどということはできない。そうすると、原告らが使用人であることをもって原告らの業務が「代理業」に当たらない旨をいう原告らの主張は、採用することができない。
(2)ア 念のため、本件各業務が、原告らにおいて本件生命保険会社の使用人として行っていた業務であるかについて検討すると、前記前提事実(1)及び(2)に加え、証拠(乙A1の1~乙S2)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
原告らは、本件生命保険会社との間の契約に基づき、「専業の生命保険募集人としての仕事を行うこと」等の対価として歩合制報酬(手数料)の支払を受けており、上記歩合制報酬に係る事業所得等について、令和3年分及び令和4年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告をした。
原告らの上記確定申告に係る確定申告書等において、原告らの事業所得の金額は、原告らが本件生命保険会社から得た収入金額から、接待交際費、給料賃金、外注工賃、事務所の賃料、業務用の車両の減価償却費等の経費の額の控除及び青色事業専従者控除の全部又は一部をして計算されている。上記確定申告書等のうち、上記収入金額が最も多いもの(原告10、令和4年分)における上記収入金額は1億4670万6675円であり、同原告が支出した経費の額はその約77.0%に相当する計1億1305万7739円(自宅兼事務所及び駐車場の賃借料994万3200円、給料賃金156万円を含む。)であった。他方、上記収入金額が最も低いもの(原告3、令和3年分)における上記収入金額は2016万9065円であり、同原告が支出した経費の額はその約44.1%に相当する891万4538円(接待交際費189万6276円、旅費交通費128万9930円を含む。また、前年までに減価償却済みであるものの、事業用の車両(取得価額365万6380円)、間仕切りカーテン(取得価額81万3922円)等が減価償却資産として挙げられている。)であって、さらに、同原告が支払った青色事業専従者の給与の額は102万円であった。
イ 上記アの認定事実によれば、本件各業務は、まさしく、原告らにおいて自己の計算と危険において独立して反復継続的に営まれる業務であるということができる一方で(原告らも、本件各業務が個人の行う「事業」(地方税法72条の2第3項)に当たることについて、積極的には争っていない。)、本件生命保険会社の使用人として行う業務としては不自然、不合理であるといわざるを得ない。そして、上記のような業務の実態に鑑みれば、原告らと本件生命保険会社との間の契約は、主として準委任契約としての性質を有するものと解されるのであるから、その契約の名称が「営業社員雇用契約」又は「営業社員再雇用契約」である(前記前提事実(1))としても、本件各業務について、原告らが本件生命保険会社の使用人として行う業務であると認めることは困難である。このことは、原告らが、営業職員(生命保険会社の使用人で主に保険の募集を行い就業規則等により営業職員とされる者又はこれに準じる者。甲12)として生命保険募集人として登録された者であること(甲13の1~甲14)によっても左右されるものではない。なお、この点に関し、原告らは、本件生命保険会社の営業社員が「使用人」である根拠として、東京地裁平成29年10月13日判決(甲10)を挙げるが、同判決の事案では、その訴訟の当事者間の契約の性質(労働契約法や労働基準法にいう労働者(使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者)に当たるか否か)等は何ら争点となっていないのであるから、同判決は、原告らが「使用人」であることを根拠付けるものではない。
したがって、原告らが使用人であることをもって原告らの業務が「代理業」に当たらない旨をいう原告らの主張は、この点からしても採用することができない。
4 本件各処分の適法性について
以上によれば、本件各処分は適法である。
第4 結論
よって、原告らの請求は理由がないからこれらをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官 鎌野真敬
裁判官 志村由貴
裁判官 都築健太郎
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