解説記事2025年06月16日 SCOPE 東京地裁、交換時点において収益を認識すべきと判断(2025年6月16日号・№1078)
暗号資産は「交換時」に資産の増加益が具体化
東京地裁、交換時点において収益を認識すべきと判断
暗号資産の交換取引等による所得の実現時期を巡り争われた事案で、東京地裁民事51部(岡田幸人裁判長)は令和7年6月3日、原告は暗号資産の交換取引等によって譲渡した暗号資産に係る増加益を具体化したといえるなどとして、暗号資産の交換時点において収益を認識すべきとの判断を下した。
ICOのための保有暗号資産送信時点で所得が確定
原告は、平成28年から暗号資産であるBTCやADA(略語について表1参照)等の売買取引を始め、平成29年においては、暗号資産同士の交換取引やICO(International Coin Offering。保有する暗号資産を使用して新規発行暗号資産を取得する取引)を行っていた(本件取引)が、本件取引によって得られた利益について平成29年分の所得税の申告をしていなかったため、所得税等の決定処分等を受けた。
【表1】主な略語
| BTC → ビットコイン(最も有名で広く利用されている世界で最初の暗号資産) ADA → エイダコイン(暗号資産の一種) ETH → イーサリアム(暗号資産の一種) LST → Lendroid Support Token(※) MTN → Modical Chain(※) ※資金決算に関する法律2条14項所定の暗号資産に当たるか否かについて、当事者間に争いがある。 |
本件でまず争われたのは、本件利益が所得税法36条1項の「収入すべき金額」に該当するか否かである(争点1−1)。
東京地裁は、昭和49年3月8日最高裁判決(いわゆる権利確定主義)を引用し、「このような所得税法36条の趣旨に照らすと、資産を譲渡することによって反対給付を取得する場合には、それがどのような態様であったとしても、その譲渡した資産に蓄積し内在していた値上がりによる増加益が具体化したとみられる限り、総収入金額に算入されることになる」との解釈を示した。
その上で、暗号資産を市場において交換することによって他の資産を取得する場合は、交換当時において等価値であるものを取得したものといえるとの考えを示した。
また、ICOにより発行されたトークンの取引においては、通常、発行者と不特定多数の購入者との間において、新規発行されたトークンの発行価額により取引が成立するものと解されるから、発行価額をもってその市場価格であるということができるとした。
そして、原告はこれらの取引によって、譲渡した暗号資産に係る増加益を具体化したものといえるから、暗号資産の交換による利益(本件利益)は、所得税法36条1項の「収入すべき金額」に当たるとの判断を下した。
また、当該争点に関する原告の主張については、表2のとおり斥けている。
【表2】争点1−1に関する原告の主張と裁判所の判断
| 原告の主張 | 裁判所の判断 |
| 実際に利得が納税者のコントロール下に入ったか否かという管理支配基準によって判断すべき | 仮に管理支配基準を採用するとしても、暗号資産を交換して他の資産を取得した場合には新たな資産が原告の管理支配下に入ったものといえるし、また、ICOによりトークンが発行される場合も入手したトークンが原告の管理支配下に入ることが確定し、これによって原告がトークンによる利得を管理支配するに至ったものといえる。 |
| 暗号資産を交換しただけでは担税力が増加したとはいえない | そもそも、所得の実現があったものといえる限りこれに対する課税をし得るものであって、当該所得に係る所得税についての納税資金の取得ないし取得可能性は課税の要件とされていない(なお、暗号資産については一般に市場が存在していて法的通貨に換金することもでき、また、暗号資産移転請求権を対象とする強制執行も可能であることからすると、暗号資産同士の交換においては担税力の増加がないという主張はその前提を欠く。)。 |
| LSTとMTNについては経済的価値の流入を否定する特段の事情がある | 暗号資産について十分な法的規制が整備されていなかった時期があり、上場に至らなかったり、上場した後にほぼ無価値となったりしたものがあるといった事実が認められるとしても、一度経済的価値が流入し、譲渡した資産に蓄積し内在していた値上がりによる増加益が具体化したものとして所得税法上の収入に該当するものとされた以上、その後の事情によって経済的価値の流入を遡及的に否定することは相当でないし、LST及びMTNが資金決済に関する法律2条14項所定の暗号資産に該当するか否かは経済的価値の流入それ自体を直ちに左右しないものというべき。 |
一部所得は母に帰属と主張するも認められず
次に、原告が、暗号資産であるLST及びMTNを取得するため、保有するBTC及びETHを事業者に送信した取引(ICO)によって生じた収益が平成29年分の「収入すべき金額」に当たるか否か(争点1−2)が争われた。
東京地裁は、上記送信の時点で、原告が取得するLST又はMTNの取引量が確定したものと認められ、この時点におけるLST及びMTNの価額は、原告が提供したBTC及びETHの価額に相当するとした。そして、原告が現実にLST及びMTNを取得するに至っていなくても、LST及びMTNの対価相当額の所得の実現が確定したとして、LST及びMTNの取引による利益は平成29年分の収入すべき金額に当たると判断した。
原告は、本件利益の一部は母に帰属すると主張したが、東京地裁は、「原告は、自らの判断で、自らの名義で暗号資産取引を行い、自らのウォレットで取得した暗号資産を管理し、本件取引による利益は自らに帰属するものであるとの認識及び意向を有していた」と指摘。原告母が本件取引に用いられた暗号資産の購入費用の一部を提供していたことは認められるが、本件利益が原告に帰属するとの推認を妨げるものではないとして、原告の主張を斥けている。
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