解説記事2025年07月21日 税制改正解説 令和7年度における消費税・個別間接税関係の改正について(上)(2025年7月21日号・№1083)
税制改正解説
令和7年度における消費税・個別間接税関係の改正について(上)
安田圭吾
消費税関係
一 外国人旅行者向け消費税免税制度(輸出物品販売場制度)の見直し
1 改正の背景
税務署長の許可を受けた輸出物品販売場を経営する事業者が、外国人旅行者等の一定の非居住者(以下「免税購入対象者」という。)に対して、当該免税購入対象者がその出国の際に国外に持ち出す免税対象物品(最終的に輸出される免税対象物品)を所定の手続により譲渡した場合には、消費税を免除することとされている(消法8①)。この譲渡は国内において行われる資産の譲渡ではあるものの、免税購入対象者がその出国の際に国外へ持ち出すことを前提とした販売であり、その実質は輸出取引と変わることがないと考えられることから、輸出取引と同様に、その譲渡について消費税を免除するものである。
外国人旅行者向け消費税免税制度については、観光立国推進基本計画(令和5年3月31日閣議決定)において、「土産品等のショッピングは、日本各地の魅力を訪日客に伝え、消費拡大に直結する観光資源であり、官民が連携して行う外国人旅行者向け消費税免税制度の利用促進等により、ショッピングツーリズムを推進する」こととされており、観光立国の実現に資する施策として、これまでも観光庁等からの税制改正要望を受けて、輸出物品販売場の拡大や利便性向上を図る観点から累次の見直しが行われる一方で、免税購入された物品の譲渡・横流しが疑われる事案も発生しており、こうした不正対策のための見直しも併せて行われてきた。
このように、外国人旅行者向け消費税免税制度は、免税対象に消耗品を加えるなどの累次にわたる制度の見直しにより、免税店数の拡大と外国人旅行者の利便性向上を図ることで、インバウンド消費拡大の重要な政策ツールとなってきた。
他方で、平成30年度税制改正により免税販売手続が電子化され、輸出物品販売場における免税購入の実態を税務当局において把握できることとなり、これにより、多額・多量の免税購入物品が国外に持ち出されず国内での横流しが疑われる事例が多発していることが明らかになってきた。また、出国時に税関において捕捉して確認を行っても、多額の免税購入を行っている者のほとんどは免税購入した物品を所持しておらず、税関において賦課決定を行ったとしても大宗が滞納となったまま出国しており、制度の不正利用は看過できない状況となっていた。さらに、輸出物品販売場を経営する事業者においては、事後的に免税販売が否認されるおそれがあることから、自主的に一部の免税販売を控える動きもあり、旅行者にとっても免税購入の機会を逸するなど、抜本的な制度対応が求められていた。
このため、令和6年度の与党税制改正大綱(令和5年12月14日)においては「こうした不正を排除しつつ、免税店が不正の排除のために負担を負うことのない制度とするため、出国時に税関において持ち出しが確認された場合に免税販売が成立する制度とする。実務的には、免税店が販売時に外国人旅行者から消費税相当額を預かり、出国時に持ち出しが確認された場合に、旅行者にその消費税相当額を返金する仕組みとなる。新制度の検討に当たっては、外国人旅行者の利便性の向上や免税店の事務負担の軽減に十分配慮しつつ、空港等での混雑防止の確保を前提として、令和7年度税制改正において、制度の詳細について結論を得る。」こととされ、諸外国においても広く採用されている、いわゆる「リファンド方式」への見直しが決定された。そして、令和7年度税制改正において観光庁・経済産業省からも免税制度の見直しの要望を受け検討を行った結果、令和8年11月からリファンド方式への見直しを行うこととされた。
2 改正前の制度の概要
外国人旅行者向け消費税免税制度は、輸出物品販売場において免税購入対象者が免税対象物品を一定の手続により購入した場合に、その免税購入対象者によって免税対象物品が国外へ持ち出されることを予定して、当該免税対象物品の譲渡に課される消費税を免除する制度である。そのため、輸出物品販売場で免税購入可能な者(免税購入対象者)は外国人旅行者等の一定の非居住者に限られており、また、免税対象物品については事業用の物品は除外する観点から、通常生活の用に供する物品に限定されている。
免税販売を行う事業者は、販売場ごとにあらかじめ税務署長から輸出物品販売場としての許可を受ける必要がある。また、免税販売を行う場合には、免税対象物品を購入する者から旅券等の提示を受け、その者が免税購入対象者に該当することを確認するほか、免税販売の下限金額を満たしていることを確認する等、免税販売の要件を満たしているか否かを確認した上で販売することとなる。その上で、その免税販売に係る事項を記録した情報(購入記録情報)を国税庁の免税販売管理システムへ送信することとされている。なお、この免税販売手続については、あらかじめ税務署長から承認を受けた「承認免税手続事業者」に委託して、承認免税手続事業者の設置する免税手続カウンターにおいて行うことも可能とされているほか、購入記録情報の送信についても、あらかじめ税務署長から承認を受けた「承認送信事業者」を通じて行うことも可能とされている。
本制度は、上記のとおり免税購入対象者が一定の手続により購入した免税対象物品の譲渡について、輸出物品販売場を経営する事業者における購入記録情報等の保存を前提として、その場で免税が確定する制度であるため、現行制度においては実務上、免税購入対象者に対して免税価格で販売することとなる。また、免税購入対象者は、出国の際に税関長に対して旅券等を提示し、必要に応じて持ち出しの確認を受けることとされており、免税対象物品を所持していない場合には、免除された消費税額に相当する消費税を直ちに徴収(以下「即時徴収」という。)することとされている。
これらの制度の詳細は以下のとおり。
(1)免税購入対象者
出国の際に免税対象物品が国外へ持ち出されることを前提として免税とする制度であるため、輸出物品販売場で免税購入可能な者は一定の非居住者に限られている。免税購入対象者は、具体的には次のとおりとされている(消法8①、消令18①)。
① 日本国籍を有しない非居住者であって次に掲げる者
イ 短期滞在、外交、公用の在留資格をもって在留する者(出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)別表1の1、別表1の3)
ロ 寄港地上陸許可、船舶観光上陸許可、通過上陸許可、乗員上陸許可、緊急上陸許可又は遭難による上陸許可を受けて在留する者(出入国管理及び難民認定法14~18)
ハ 合衆国軍隊の構成員等(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(昭和35年条約第7号)1)
② 日本国籍を有する非居住者であって、国内以外の地域に引き続き2年以上住所又は居所を有する者であることについて在留証明又は戸籍の附票の写し(最後に入国した日から起算して6月前の日以後に作成されたものに限る。)により確認がされた者
(2)免税対象物品
通常生活の用に供する物品以外の物品(事業用又は販売用として購入する物品)は免税対象外とされており、金又は白金の地金についても免税対象物品に該当しないことが法令上明確にされている。また、消耗品については、国内での横流しを防止する観点から、同一店舗で1日に販売する消耗品の合計額が50万円(税抜価額)を超えない範囲内のものに限ることとされている(消法8①、消令18②)。
さらに、消耗品については、国内において消費されやすいという性質にかんがみ、国内での消費を牽制するための措置として、出国前に消費していないことを税関において簡易に確認できるようにするための特殊包装を行うことが免税販売の要件とされている(消令18③二、平成26年経済産業省・国土交通省告示第6号)。
(3)免税販売手続等
① 旅券等の提示・情報の提供
輸出物品販売場を経営する事業者は、免税購入対象者に該当するか否かを確認するために、免税購入対象者からその者の旅券等の提示を受け、その旅券等に記載された情報の提供を受けることとされており、免税購入対象者が提示を行うこととされている旅券等は次のとおりである(消令18③一イ)。
イ ロ以外の免税購入対象者(旅券により上陸する者)
上陸許可の証印がされた旅券又は「Visit Japan Web」により当該旅券に係る情報が表示された映像面
なお、日本国籍を有する免税購入対象者については、上記の旅券に加え、その者に係る在留証明若しくは戸籍の附票の写しの提示又は当該書類の写しの提出を行うこととされている(消令18③一ロ)。
ロ 出入国管理及び難民認定法第14条の2又は第16条から第18条までに規定する上陸の許可を受けて在留する者(以下「各種上陸許可者」という。)
各種上陸許可者の船舶観光上陸許可書、乗員上陸許可書、緊急上陸許可書又は遭難による上陸許可書
② 購入記録情報の提供・保存
輸出物品販売場を経営する事業者は、免税販売手続の際、購入記録情報(旅券等に記載された情報及び免税対象物品の譲渡の年月日、品名、価額等を記録した電磁的記録)を、遅滞なく国税庁の免税販売管理システムを通じて国税庁長官へ提供することとされており、当該購入記録情報を保存しない場合には、本制度の免税の適用は受けられないこととされている(消法8②、消令18⑦、消規6⑨⑩)。
また、日本国籍を有する免税購入対象者に対して免税販売した場合については、その者から提示を受けた在留証明又は戸籍の附票の写しに記載された事項を購入記録情報として送信するか、これらの写しの提出を受けて輸出物品販売場の所在地等に保存することとされている(消令18③⑦、消規6③、7①③)。
(4)輸出物品販売場の許可等
① 輸出物品販売場
輸出物品販売場は、適正に免税販売手続を行うことが期待される事業者により経営され、免税販売手続を行うための体制が整備されている販売場である必要があることから、一定の要件を満たす販売場としてあらかじめ税務署長の許可を受ける必要がある(消法8⑦)。また、輸出物品販売場は、その態様によって、
・免税販売手続が当該販売場においてのみ行われる「一般型輸出物品販売場」
・免税販売手続が免税手続カウンターにおいてのみ行われる「手続委託型輸出物品販売場」
・免税販売手続が一定の自動販売機においてのみ行われる「自動販売機型輸出物品販売場」
の3つに許可が区分されている(消令18の2②)。
(注)上記の輸出物品販売場(市中輸出物品販売場)のほか、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定第2条第1項に規定する施設及び区域内にある輸出物品販売場(基地内輸出物品販売場)がある(消令18③四)。
② 承認免税手続事業者
手続委託型輸出物品販売場において販売する免税対象物品に係る免税販売手続は、免税手続カウンターにおいて承認免税手続事業者が代理して行うこととされている。この手続委託型輸出物品販売場を設置することができるのは、商店街、ショッピングセンター及びテナントビル等の特定商業施設内に免税手続カウンターを設置する承認免税手続事業者に免税販売手続を委託する場合に限られるため、手続委託型輸出物品販売場と承認免税手続事業者の設置する免税手続カウンターは同じ特定商業施設内に所在する必要がある。承認免税手続事業者とは、特定商業施設内に免税手続カウンターを設置することについて、あらかじめ税務署長の承認を受けた事業者をいう(消令18の2⑦)。
(注)特定商業施設とは、①商店街振興組合法(昭和37年法律第141号)第2条第1項に規定する商店街振興組合の定款に定められた地区、②中小企業等協同組合法(昭和24年法律第181号)第3条第1号に規定する事業協同組合の定款に定められた地区に所在する事業者が近接して事業を営む地域、③大規模小売店舗立地法(平成10年法律第91号)第2条第2項に規定する大規模小売店舗、④一棟の建物をいう(消令18の2④)。
また、承認免税手続事業者が免税販売手続を行う特定商業施設内の複数の手続委託型輸出物品販売場(以下「合算対象輸出物品販売場」という。)において免税購入対象者に対して譲渡する物品の対価の額を一般物品及び消耗品の別にそれぞれ合計している場合には、これらの合算対象輸出物品販売場を一の販売場とみなして、免税販売の下限金額(税抜価額5,000円)を判断できることとされている(消令18の3①)。
③ 承認送信事業者
輸出物品販売場を経営する事業者が承認送信事業者との間で購入記録情報を国税庁長官に対して提供することに関する契約を締結している場合であって、承認送信事業者が購入記録情報を国税庁長官に提供することにつき、契約を締結した輸出物品販売場を経営する事業者との間で必要な情報を共有するための措置が講じられている場合には、当該承認送信事業者が購入記録情報を提供することができることとされている(消令18の4①)。承認送信事業者とは、他の事業者が経営する輸出物品販売場の購入記録情報を提供することについて、あらかじめ税務署長の承認を受けた事業者をいう(消令18の4④)。
(5)即時徴収、罰則等
前述のとおり、本制度は、免税購入対象者がその出国の際に免税対象物品を国外へ持ち出すことを前提とした制度であるため、免税購入対象者が出国する日までに免税対象物品を輸出しない場合、居住者となるなど免税購入対象者でなくなった場合、国内において免税対象物品を譲渡した場合など、免税対象物品の輸出が見込めなくなった場合には、災害その他やむを得ない事情により亡失したため輸出しないことにつき税関長又は税務署長の承認を受けた場合を除き税関長又は税務署長は、当該免税対象物品につき免除された消費税額に相当する消費税を即時徴収することとされている(消法8③~⑥)。
また、税務署長の承認を受けないで免税対象物品の譲渡又は譲受け(その委託又は媒介のために第三者が物品を所持すること又は第三者に所持させることを含む。以下同じ。)をしたときは、譲渡又は譲受けをした者に対して1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金を科する罰則が設けられている(消法65一)。
3 改正の内容
前述のとおり、国内での横流しといった不正を防止する観点から、出国の際に免税対象物品の持ち出しが確認された場合に免税販売が成立する制度とし、免税販売の成立後に免税店から免税購入対象者に対し消費税相当額を返金するリファンド方式に見直すこととされた。具体的には、輸出物品販売場を経営する事業者が免税購入対象者に免税対象物品の譲渡を行った場合に、その免税購入対象者が、その免税購入をした日から90日以内に、当該免税対象物品を輸出することにつき税関長の確認を受けたときは、当該譲渡に係る消費税が免除されることとなった(消法8①)。
リファンド方式への見直し後においては、免税購入対象者が税関長の確認を受けることが免税の要件とされるため、輸出物品販売場を経営する事業者は、実務上、免税購入対象者に対して消費税相当額を含めた価格で免税対象物品を販売することとなり、免税購入対象者が税関長の確認を受けた場合に免税購入対象者に対し消費税相当額を返金する仕組みとなる。
また、税関において円滑に免税対象物品の確認を行うためには、購入記録情報が適正に提供される必要があるため、輸出物品販売場の許可要件に購入記録情報の提供等に関する事項を追加するとともに、高額な免税対象物品については、税関での確認時点で物品を特定するに足りる事項を購入記録情報に記録して提供することとされた。
このほか、今般、免税購入対象者が出国の際に税関長の確認を受ける制度となることを踏まえ、免税購入対象者の利便性の向上や事業者の事務負担の軽減の観点から、免税対象物品の範囲を緩和する等の見直しや、消耗品に係る購入上限額や特殊包装の廃止など、所要の見直しを行うこととされた。
制度の見直しの詳細については以下のとおり。
(1)税関長の確認
免税の要件として免税購入対象者が受けることとされる税関長の確認にあたり、免税購入対象者は、出国する際にその出港地を所轄する税関長に対して当該免税購入対象者の所持する旅券を提示し、又は当該旅券に係る情報を提供する必要があり、税関長は、輸出物品販売場を経営する事業者から国税庁長官を通じて事前に提供された当該免税購入対象者の購入記録情報に基づき、その購入記録情報ごとに当該確認を行うこととされた(消法8③、消令18⑤)。
また、輸出物品販売場を経営する事業者が、自身が免税販売を行った免税対象物品について税関長の確認を受けたことを把握できるようにするため、税関長は上記の確認を行った場合には、当該購入記録情報ごとに、遅滞なく、その確認をした旨を記録した電磁的記録(以下「税関確認情報」という。)を国税庁長官に提供することとされ、税関確認情報の提供を受けた国税庁長官は、遅滞なく、当該税関確認情報を当該税関確認情報に係る購入記録情報を提供した輸出物品販売場を経営する事業者に提供することとされた(消法8③)。前述のとおり、この税関長の確認は、購入記録情報ごとに行われることとなるため、一の購入記録情報に含まれる全ての免税対象物品の所持(輸出)が確認できたものについて、税関確認情報が提供されることとなる。
なお、輸出物品販売場を経営する事業者が行った免税販売について、免税購入対象者が税関長の確認を受けるまでの間は免税となるかが確定しない不安定な状況に置かれることから、税関長の確認までの期間について制限が設けられている。具体的には、短期滞在の在留期間が原則として90日までとされていることを参考として、免税購入した日から90日以内に税関長の確認を受けることが免税の要件とされた(消法8①)。
(参考)税関確認と課税期間との関係
上記のとおり、免税対象物品の販売時点では免税が確定せず、税関長の確認を受けた時点で事後的に免税が確定する制度であるため、免税対象物品を販売した課税期間後に税関確認情報の提供を受けることも想定される。その場合には、免税対象物品を販売した課税期間においては課税売上げとして申告し、税関確認情報の提供を受け保存した時点で調整計算を行う必要が生じるが、事業者の事務負担に配慮する観点から、税関確認情報の提供を受け保存した課税期間において、免税売上げを計上するとともに、課税売上げとしたものについて売上げに係る対価の返還等があったものとして処理することが認められている(消基通8−3−4)。
(2)輸出義務及び即時徴収等
前述のとおり、税関長の確認を受けたときに免税販売が成立することとなるため、税関長の確認を受けた後に免税購入対象者が免税対象物品を横流しするといった不正を防止・牽制することで免税制度の適正な執行を担保する観点から、当該確認を受けた免税購入対象者は、当該確認を受けた免税対象物品を、遅滞なく、輸出する義務が課されている(消法8⑤)。また、当該免税対象物品が輸出されないこととなったときは、税関長は、当該確認を受けた免税購入対象者から当該免税対象物品につき免除された消費税額に相当する消費税を即時徴収することとされており(消法8⑥)、また、上記輸出義務に違反して正当な理由なく当該免税対象物品を輸出しなかった免税購入対象者は罰則(1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)の対象とされた(消法65一)。
(3)免税対象物品の見直し
リファンド方式においては免税購入対象者が出国の際に税関長の確認を受ける仕組みとなることを踏まえ、輸出物品販売場を経営する事業者の事務負担軽減の観点から、一般物品と消耗品の区分及び消耗品の同一店舗1日当たりの購入上限額(税抜価額50万円)が廃止され、消耗品について行うこととされていた特殊包装についても不要とされた。
併せて、通常生活の用に供しない物品以外の物品であることの要件も廃止することとされ、輸出物品販売場においては、通常生活の用に供する物品か否かの判断が不要とされたが、リファンド方式への見直し後も不正の目的で購入されるおそれが高い物品については、財務省令に個別に定めて免税対象物品から除外することとされた。具体的には、これまでも通常生活の用に供しない物品として明示されていた金及び白金の地金のほか、同趣旨から金貨及び白金貨が個別に免税対象外とする物品として規定されている(消法8①、消規6)。なお、不正の目的で購入されるおそれが高い物品の対象については、新制度施行後の状況によっては、厳正に見直しを行っていく必要がある。
(4)免税販売手続等
① 旅券等の提示
前述のとおり、現行制度においては、輸出物品販売場を経営する事業者は、免税購入対象者に該当するか否かを確認するために、免税購入対象者からその者の旅券等の提示を受けることとされているが、リファンド方式への見直しに伴い、その者の旅券に係る情報に購入記録情報を紐付けて税関長の確認を行うこととするため、各種上陸許可者については、免税購入する際に輸出物品販売場を経営する事業者に対して、上陸許可書に加えてその所持する旅券も提示することとされた(消令18②一)。
また、日本国籍を有する者については、その者が最後に入国した日までに国内以外の地域に引き続き2年以上住所又は居所を有することにつき確認するための書類(電磁的記録を含む。)に個人番号カード(国外転出の予定年月日が記載されたものに限る。)を加えるとともに、従来の確認書類である在留証明及び戸籍の附票の写しについて、本籍の記載が不要とされた(消規6の2①一、③、6の4①一)。
② 購入記録情報の記録事項
高額な免税対象物品については、すり替え等の不正を防止する観点から、免税対象物品の税抜価額が、一の取引の単位(通常一組又は一式をもって取引の単位とされるものにあっては、一組又は一式)につき100万円以上である場合には、当該免税対象物品に係る固有の番号(シリアル番号)やその免税対象物品の特徴など、税関長の確認において当該免税対象物品を特定するに足りる事項を購入記録情報に記録することとされた(消規6の4①五)。具体的には、免税対象物品の名称、ブランド名、型番号、形状若しくは色彩等の特徴又は鑑定書、鑑別書若しくは保証書付きである旨の事項等その免税対象物品の属性に応じて具体的に特定するに足りるよう組み合わせた事項を記録することとなり、個別の商品を特定できるシリアル番号が付されている場合には、シリアル番号を併せて記録することとなる(消基通8−1−5)。
このほか、各種上陸許可者については、従来の上陸許可書の番号に代えて旅券の番号を購入記録情報に記録することとされたほか、購入記録情報の記録事項については、リファンド方式や免税対象物品の見直しに伴う所要の整備が行われている。
③ 税関確認情報の保存等
輸出物品販売場を経営する事業者が本制度の免税の適用を受けるためには、その譲渡に係る国税庁長官に提供した購入記録情報に加えて、提供された税関確認情報を整理し保存することにより、その譲渡が免税販売であることを証明することが必要となった(消法8④、消令18⑩)。なお、日本国籍を有する免税購入対象者に係る在留証明等の確認書類については、その提示を受けた書類の名称及び当該書類に記載された国外転出等をした年月日を購入記録情報として国税庁長官に提供することとされ、当該書類の保存は不要とされた(消規6の2②、6の4①一)。
(5)輸出物品販売場の許可等の見直し
① 一般型輸出物品販売場と手続委託型輸出物品販売場の許可区分の統合
リファンド方式への見直しに伴い、事業者の申請手続を簡素化する観点から、現行の一般型輸出物品販売場と手続委託型輸出物品販売場の許可区分を一般型輸出物品販売場の許可に統合することとされた。これまで一般型輸出物品販売場と手続委託型輸出物品販売場の許可の区分を変更するためには新たに許可を取り直す必要があり、手続委託するか否かにつき許可を受ける段階で決定する必要があったが、統合された改正後の一般型輸出物品販売場(以下「新一般型輸出物品販売場」という。)については、自ら免税販売手続を行うほか、一定の要件の下で、承認免税手続事業者へ委託することも可能とされている(消令18の2②、18の3①)。新一般型輸出物品販売場の許可要件については、従来の人員配置要件、設備要件に代わり、リファンド方式の前提となる手続である、「購入記録情報の提供及び税関確認情報の受領を適正に実施するための必要な体制が整備されていること」を新たな許可要件とするとともに、現行制度において輸出物品販売場の許可に当たり求めていた、「現に外国人旅行者が利用する場所又は外国人旅行者の利用が見込まれる場所に所在すること」の要件は、多数の外国人旅行者が訪れる現状においては許可要件とする実益に乏しいため廃止することとされた(消令18の2②一)。
また、税関長の確認は購入記録情報に基づき行われるため、輸出物品販売場を経営する事業者が提供する購入記録情報に不備又は不実の記録があることなどにより税関長の確認に支障が生ずるおそれがあると認められる場合には、税務署長は当該輸出物品販売場の許可を取り消すことができることとされた(消法8⑧三)。
② 承認免税手続事業者に係る見直し
手続委託型輸出物品販売場の許可を受けた事業者は、当該販売場の所在する特定商業施設内に承認免税手続事業者が設置した免税手続カウンターにおいて免税販売手続を委託して行うこととされていたが、前述のとおり、当該許可の区分が新一般型輸出物品販売場に統合されることとなった。その上で、新一般型輸出物品販売場を経営する事業者については、承認免税手続事業者に対して免税販売手続を行わせることができるようにするとともに、免税手続カウンターの設置場所に係る特定商業施設の要件は廃止することとされた(消令18の3①)。ただし、制度上は輸出物品販売場における免税対象物品の引渡しと免税販売手続は一体のものであり、購入下限額の判定は1日当たりで行うこととされていることなどから、見直し後においても、輸出物品販売場で免税対象物品の引渡しがされた日と同一の日に免税販売手続を行うことが必要とされている(消令18②)。なお、承認免税手続事業者に免税販売手続を委託する場合には、現行制度と同様、複数の輸出物品販売場において免税購入対象者に対して譲渡する物品の対価の額を免税カウンターにおいて合算して、免税販売の下限金額(税抜価額5,000円)を判断できることとされている(消令18の3⑧)。
③ 承認送信事業者に係る見直し
輸出物品販売場を経営する事業者は、承認送信事業者に国税庁長官に対する購入記録情報の提供を行わせることが認められていたが、今般、国税庁長官から税関確認情報が提供されることとなることから、承認送信事業者の名称を「承認送受信事業者」に改めるとともに、税関確認情報の受領についても行わせることができることとされた(消令18の4①)。
(6)その他の措置
① 直送・別送する場合の免税販売手続の見直し
現行制度では、免税購入対象者が免税対象物品を購入する際に、輸出物品販売場で国際第二種貨物利用運送事業者との間において当該免税対象物品を輸出するための運送契約を締結して当該免税対象物品の引渡しを受け、かつ、その場で免税対象物品を当該国際第二種貨物利用運送事業者(代理人を含む。)に引き渡した場合には、その譲渡に係る消費税を免税とする免税販売手続(以下「直送制度」という。)が設けられている(旧消令18③三・六)。リファンド方式は免税購入対象者が税関で当該免税対象物品を輸出することにつき購入記録情報に基づき確認を受けることで免税が確定する制度であるところ、輸出物品販売場で直送を行った場合には、購入記録情報に基づく持ち出し確認を行うことができないため、輸出物品販売場制度としての直送制度は廃止されることとなったが、物品の譲渡の際、その場で国際第二種貨物利用運送事業者(代理人を含む。)に当該物品を引き渡す場合には運送事業者を通じて国外へ持ち出されることが担保されることから、消費税法第7条による輸出免税の対象として、引き続き、消費税が免除されることとなった(消規5①三)。
また、これまでは、運用上、免税購入対象者が輸出物品販売場で購入した免税対象物品について、当該免税購入対象者が別途国外へ配送(以下「別送」という。)したことにより出国する際に当該免税対象物品を所持していない場合に、その配送に係る一定の書類により輸出したことを確認する取扱いが認められていたが(消基通8−1−5の2)、免税購入対象者が出国する際に税関長は免税対象物品を確認することができず、また、足下でも本取扱いが不正に利用されている状況にあったため、別送した場合の本取扱いは、リファンド方式への見直しを待たず、令和7年3月31日をもって廃止された。
② 各種申請届出手続の見直し
現行制度では、購入記録情報を国税庁長官へ提供するためには、あらかじめその納税地を所轄する税務署長に一定の事項を記載した届出書(輸出物品販売場における購入記録情報の提供方法等の届出書)を提出しなければならないこととされているが、この届出書は廃止され許可申請書等に統合されるとともに、これまで輸出物品販売場を移転する場合には、移転後の販売場について新たに許可申請手続が必要とされているが、この手続も変更届出書の提出によることとされた。
また、現行制度で輸出物品販売場の区分ごとに分かれている許可申請書等や変更内容ごとに分かれている届出書がそれぞれ統合され、免税店制度に係る各種申請届出書の添付書類も簡素化することとされた。
③ 基地内輸出物品販売場の廃止
基地内輸出物品販売場については、国税庁長官に購入記録情報を提供する仕組みとなっておらず、購入記録情報に基づき税関長の持ち出し確認を行うことができないことから、リファンド方式への見直しに伴い廃止されることとなった。
④ 海軍販売所等に対する物品の譲渡に係る免税制度に係る規定の整備
リファンド方式への見直しに伴い、現行制度の輸出物品販売場制度の即時徴収等の仕組みを準用することとしていた海軍販売所等に対する物品の譲渡に係る免税制度について所要の整備が行われているが、改正前後において、その内容に変わりはない(措法86の2、措令46、措規37、37の2)。
4 適用関係
上記3の改正は、令和8年11月1日(以下4において「施行日」という。)以後に、輸出物品販売場を経営する事業者が行う免税対象物品の譲渡について適用され、同日前に、輸出物品販売場を経営する事業者が行った物品の譲渡については、なお従前の例によることとされている(改正法附則1四、21)。
また、輸出物品販売場の許可等について、次の経過措置が設けられた(改正消令附則2)。
(1)輸出物品販売場の許可
令和8年10月31日において、改正前の一般型輸出物品販売場又は手続委託型輸出物品販売場の許可を受けている販売場は、施行日において、新一般型輸出物品販売場の許可を受けた販売場とみなすこととされた(改正消令附則2①)。
なお、購入記録情報を国税庁長官へ提供するためには、あらかじめその納税地を所轄する税務署長に一定の事項を記載した届出書(輸出物品販売場における購入記録情報の提供方法等の届出書)を提出しなければならないこととされているが、免税販売を行うために必要とされている本届出書が提出されていない輸出物品販売場は免税販売を実際には行っていないと考えられることから、令和8年10月31日において当該届出書を提出していないときは、輸出物品販売場の許可は、同日限りその効力を失うこととされた(改正消令附則2②)。
(注)臨時販売場を設置しようとする事業者に係る承認についても同様の経過措置が設けられた(改正消令附則2⑤⑥)。
(2)免税手続カウンターの設置に係る承認
令和8年10月31日において、改正前の免税手続カウンターの設置に係る承認を受けている承認免税手続事業者は、施行日において、当該承認に係る免税手続カウンターごとに改正後の免税手続カウンターの設置に係る承認を受けたものとみなすこととされた(改正消令附則2③)。
(3)承認送信事業者の承認
令和8年10月31日において、改正前の承認送信事業者の承認を受けている事業者は、施行日において、改正後の承認送受信事業者の承認を受けたものとみなすこととされた(改正消令附則2④)。
二 リース譲渡に係る資産の譲渡等の時期の特例の廃止
1 改正前の制度の概要及び改正の背景
(1)ファイナンス・リース取引に係る消費税の原則的な取扱い
消費税は、資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供といった取引全般を課税対象としているが、個々の取引がこれらのいずれの取引に該当するかは、その取引の実態に着目して判断することとなる。また、資産の譲渡であれば原則として引渡しのあった日、資産の貸付けであれば使用料等の支払を受ける日を、資産の譲渡等の時期とすることとされている。
この点、ファイナンス・リース取引については、契約上は賃貸借であるが、その取引の経済的実態を踏まえて、企業会計上、通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行うこととされ、また、所得税法や法人税法においても、リース資産の賃貸人から賃借人への引渡しの時にそのリース資産の売買があったものとしてその所得金額を計算することとされており、これらの取扱いと同様、消費税においても、ファイナンス・リース取引を資産の譲渡と捉えて、リース資産の引渡しのあった日において資産の譲渡が行われたものとするのが原則的な取扱いとされている(消基通5−1−9)。
(注)ファイナンス・リース取引とは、賃貸借期間中の契約解除ができないリース取引又はこれに準ずるリース取引(解約不能のリース取引)で、かつ、賃借人が当該資産の使用に伴って生ずる費用を実質的に負担する等(フルペイアウトのリース取引)の要件を満たすものをいう。
(2)改正前の制度の概要
(1)で述べたとおり、ファイナンス・リース取引については、リース資産の引渡し時に売買取引と同様の処理を行うのが原則となるが、企業会計においては、ファイナンス・リース取引の貸手の会計処理として、「リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法(割賦基準)」も認められており、所得税・法人税については、その会計処理に基づいて計上された収益等を収入金額・益金の額等とする特例が設けられている(旧所法65①、旧法法63①)。消費税についても、企業実務の便宜を考慮し、消費税の処理について企業会計や所得税・法人税における取扱いを統一できるようにする観点から、これらの取扱いと同様、この割賦基準による会計処理を前提としたリース譲渡に係る資産の譲渡等の時期の特例が設けられている(旧消法16)。
具体的には、リース譲渡を行った事業者(貸手)が、所得税法第65条第1項(リース譲渡に係る収入及び費用の帰属時期)又は法人税法第63条第1項(リース譲渡に係る収益及び費用の帰属事業年度)の規定の適用を受けるため延払基準の方法により経理することとしているときは、そのリース譲渡に係る賦払金の額でそのリース譲渡をした日の属する課税期間においてその支払の期日が到来しないもの(その課税期間において支払を受けたものを除く。)に係る部分については、その課税期間において資産の譲渡等を行わなかったものとみなして、その部分に係る対価の額をその課税期間におけるリース譲渡に係る対価の額から控除することができることとされている(旧消法16①)。また、この資産の譲渡等を行わなかったものとみなされた部分は、翌課税期間以降、そのリース譲渡に係る賦払金の支払期日の属する各課税期間においてそれぞれその賦払金に係る部分の資産の譲渡等を行ったものとみなすこととなる(旧消法16②)。すなわち、この特例を適用することで、リース譲渡に係る対価の額をその賦払金の支払期日に応じて計上することにより、リース資産の引渡し時に一括して資産の譲渡を認識する原則的な取扱いと比較して課税が繰り延べられることとなる。
なお、前述のとおり、この特例は、企業会計や所得税・法人税における取扱いと消費税の処理を統一できるようにする趣旨で設けられたものであるため、所得税・法人税における特例を適用していない場合には消費税の特例を適用できないこととなる。他方で、所得税・法人税における特例の適用を受けている場合であっても、消費税について特例の適用を受けるかどうかは任意であり、特例の適用を受けないことも可能である。
(注1)リース譲渡とは、所得税法第65条第1項又は法人税法第63条第1項に規定するリース譲渡に該当する資産の譲渡等をいうが、具体的には、資産の賃貸借(所有権が移転しない土地の賃貸借等を除く。)で次に掲げる要件のいずれにも該当する取引(リース取引)に伴うリース資産の引渡しをいうこととされており(所法67の2③、法法64の2③)、上記(1)のファイナンス・リース取引と意味するところは同様である。
・その賃貸借に係る契約が、賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないものであること又はこれに準ずるものであること。
・その賃貸借に係る賃借人がその賃貸借に係る資産からもたらされる経済的な利益を実質的に享受することができ、かつ、その資産の使用に伴って生ずる費用を実質的に負担すべきこととされているものであること。
(注2)延払基準の方法による経理とは、次のいずれかの方法による経理をいう。
① リース譲渡の対価の額及びリース譲渡の原価(販売手数料等を含む。)の額にそのリース譲渡に係る賦払金割合(リース譲渡の対価の額に占めるその年又は事業年度において支払の期日が到来する当該リース譲渡に係る賦払金の割合)を乗じて計算した金額をその年分の収入金額及び費用の額、又はその事業年度の収益の額及び費用の額とする方法(旧所令188①一、旧法令124①一)
② リース譲渡につき、次のイ及びロに掲げる金額の合計額をその年分又は事業年度の収入金額又は収益の額とし、ハに掲げる金額をその年分又は事業年度の費用の額とする方法(旧所令188①二、旧法令124①二)
イ リース譲渡の対価の額から利息相当額(リース譲渡の対価の額のうちに含まれる利息に相当する金額)を控除した金額をリース期間(リース資産の賃貸借期間)の月数で除し、これにその年分又は事業年度におけるリース期間の月数を乗じて計算した金額
ロ リース譲渡の利息相当額がその元本相当額のうちその支払の期日が到来していないものの金額に応じて生ずるものとした場合にその年又は事業年度におけるリース期間に帰せられる利息相当額
ハ リース譲渡の原価の額をリース期間の月数で除し、これにその年又は事業年度における当該リース期間の月数を乗じて計算した金額
また、本特例の適用を受けている事業者が、延払基準の方法により経理しなかった場合又は法人税法第63条第3項若しくは第4項の規定の適用を受けた場合には、その経理しなかった年若しくは事業年度の末日の属する課税期間又は法人税法第63条第3項若しくは第4項の規定の適用を受けた事業年度の末日の属する課税期間において、そのリース譲渡のうち資産の譲渡等として計上されていない部分を一括して資産の譲渡等を行ったものとみなされることとなる(旧消法16②ただし書、旧消令32①)。所得税法や法人税法においても、これらの場合には、それまで繰り延べられてきた収入金額及び費用の額又は収益の額及び費用の額を、経理しなかった年又は事業年度等において総収入金額及び必要経費又は益金の額及び損金の額に算入することとされており(旧所令189①、旧法法63③④、旧法令125①)、消費税法における処理も、これらの処理に合わせることとしたものである。なお、いったん消費税について特例の適用を受けた場合であっても、消費税についてのみ特例の適用を取りやめ、未計上部分について一括で計上することも可能とされている(旧消令32③)。
また、リース譲渡に係る契約において利息相当額が明らかでない場合等もあるため、本特例に準ずる特例として、リース譲渡をした事業者が所得税法第65条第2項又は法人税法第63条第2項の規定の適用を受ける場合における資産の譲渡等の時期の特例(以下「簡便法によるリース譲渡の特例」という。)が設けられている(旧消令36の2)。具体的には、所得税法又は法人税法の規定に基づき、リース料総額から原価を控除した金額(リース利益額)のうち、受取利息と認められる部分の金額(当該リース利益額の100分の20相当額)を利息法により収益計上し、それ以外の部分の金額をリース期間にわたって均等額により収益計上している場合には、各年の総収入金額に算入される収入金額又は各事業年度の益金の額に算入される収益の額(リース譲渡した日の属する課税期間に係るものを除く。以下(2)において「リース譲渡収益額」という。)に係る部分について、当該リース譲渡した日の属する課税期間では資産の譲渡等を行わなかったものとみなされ、当該リース譲渡収益額に係る部分に係る対価の額を当該課税期間におけるリース譲渡に係る対価の額から控除できることとされている。
上記の「リース譲渡に係る資産の譲渡等の時期の特例」又は「簡便法によるリース譲渡の特例」については、貸手である事業者の課税時期を繰り延べることができる特例であるが、適格請求書発行事業者がリース譲渡を行った場合のインボイスについては、資産の譲渡等として計上する時期に合わせて交付するのではなく、リース資産の引渡し時に一括で交付することとされている(消法57の4①)。このため、リース資産を譲り受けた借手側の事業者については、貸手側が特例の適用を受けているか否かにかかわらず、原則として、その譲受けのあった課税期間において適格請求書等に基づき仕入税額控除を行うこととなる。
(3)改正の背景
企業会計基準委員会(ASBJ)により、国際的な会計基準との整合性等の観点からリースに関する会計基準の改正が行われ、令和6年9月13日に企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」、企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」等が公表された。この「リースに関する会計基準」及び「リースに関する会計基準の適用指針」(以下「新会計基準」という。)においては、これまでファイナンス・リース取引の貸手の会計処理として認められていた「リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法(割賦基準)」は、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」との整合性を図る観点から、廃止することとされている。これを契機として、消費税において、割賦基準による会計処理を前提としている「リース譲渡に係る資産の譲渡等の時期の特例」を廃止するとともに、その廃止に伴う経過措置が講じられた。なお、新会計基準は、令和7年4月1日以後に開始する事業年度から任意で適用が可能となり、新会計基準を適用しなければならない法人は、令和9年4月1日以後に開始する事業年度から強制適用とされている。
2 改正の内容
前述のように、新会計基準においては、これまでファイナンス・リース取引の貸手の会計処理として認められていた「リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法(割賦基準)」を廃止することとされており、この見直しを契機として所得税及び法人税のリース譲渡に係る特例も廃止されることとなった。これを踏まえ、所得税及び法人税のリース譲渡に係る特例の適用を前提としている消費税の「リース譲渡に係る資産の譲渡等の時期の特例」及び「簡便法によるリース譲渡の特例」についても、新会計基準の適用に合わせて廃止することとされた。
また、本特例に準ずる特例として旧消費税法第16条第5項の委任を受けて旧消費税法施行令第36条に定められていた「個人事業者の山林所得又は譲渡所得の基因となる資産の延払条件付譲渡に係る資産の譲渡等の時期の特例」については、本特例の廃止により、その委任の根拠となっていた規定がなくなることから、改めて消費税法第16条として規定する等の所要の整備を行っているが、これまでの課税関係を変更するものではない(消法16、消令31~34、旧消法16⑤、旧消令36)。
3 改正に伴う経過措置
(1)経過措置の概要
リース譲渡に係る資産の譲渡等の時期の特例の廃止により、リース譲渡を行った事業者は、消費税の原則的な取扱いであるリース資産の引渡し時に一括して資産の譲渡を認識する方法により売上げを計上することとなるが、この計上方法の変更による一時的な税負担の増加等に対する激変緩和の観点から、主に次の経過措置が講じられている(改正法附則22、改正消令附則3)。
・令和7年4月1日(以下3において「施行日」という。)前に旧リース譲渡(旧消費税法第16条第1項に規定するリース譲渡(上記1(2)(注1)参照)をいう。以下同じ。)を行った事業者の施行日前に開始した年又は事業年度に含まれる各課税期間に係る消費税については、なお従前の例によることとする。
・施行日前に旧リース譲渡を行ったことがある事業者については、特例廃止後5年間(個人事業者にあっては施行日以後に開始する年に含まれる各課税期間のうち令和12年12月31日以前に開始する課税期間、法人にあっては施行日以後に開始する事業年度に含まれる各課税期間のうち令和12年3月31日以前に開始する事業年度に含まれる各課税期間。以下「経過措置課税期間」という。)は、引き続き特例の適用を受けることができる(詳細は、(2)(3)参照)。
・特例の適用を受けている事業者が、経過措置課税期間において延払基準の方法による経理をしなかった場合には、その経理をしなかった年又は事業年度(以下「不適用基準事業年度等」という。)の末日の属する課税期間において、未計上部分を一括計上するか、その課税期間以後10年間で均等額を計上するか、を選択できる(詳細は、(4)(6)参照)。
・経過措置課税期間が満了した場合において、特例の適用を受けている旧リース譲渡につき、未計上部分がある場合には、その満了した年又は事業年度(個人事業者にあっては令和13年、法人にあっては令和12年4月1日以後最初に開始する事業年度。以下「満了基準事業年度等」という。)の末日の属する課税期間において、未計上部分を一括計上するか、その課税期間以後10年間で均等計上するかを選択できる(詳細は、(5)(6)参照)。
・未計上部分を10年均等で計上している場合において、事業の廃止等一定の事由が生じた場合には残部分を一括計上する(詳細は、(7)参照)。
・未計上部分を10年均等で計上している場合において、相続等により事業を承継したときは、一定の場合を除き、事業を承継した相続人等が引き続き均等計上できる(詳細は、(8)参照)。
(2)経過措置の対象となる事業者
施行日前に旧リース譲渡を行ったことがある事業者(施行日前に行われた旧リース譲渡に係る契約の移転を受けた事業者を含む。)が経過措置の対象となる事業者とされている(改正法附則22②)。
施行日前に1度でも旧リース譲渡を行っていれば、その旧リース譲渡につき特例の適用を受けたかどうかにかかわらず、その事業者が経過措置の対象となる。また、施行日前に行われた旧リース譲渡に係る契約の移転を受けた場合には、その移転を受けた事業者も経過措置の対象となる。
(3)経過措置課税期間における特例の適用に係る経過措置
経過措置の対象となる事業者の経過措置課税期間においては、従前の特例の規定を適用できることとされている(改正法附則22②、改正消令附則3①~③)。なお、従前の特例においては、所得税法又は法人税法の特例の適用を前提としていたが、経過措置課税期間のうち令和10年1月1日以後に開始する年又は令和9年4月1日以後に開始する事業年度に含まれる各課税期間については、延払基準の方法による経理を行ったとしても所得税法又は法人税法の特例の適用が受けられない場合があることを踏まえ、これらの特例の適用を前提とせず、従前の延払基準の方法による経理を行うことにより消費税における特例の適用を受けることができることとされている。この点、簡便法によるリース譲渡の特例についても同様である(改正消令附則3)。前述のとおり、新会計基準は令和9年4月1日以後に開始する事業年度から強制適用となるが、新会計基準を適用する必要がない事業者もいることや、消費税の処理方法の変更について一定の準備期間を確保する等の観点から、強制適用後も一定期間、従前の特例を適用できる経過措置が講じられている。
(4)経過措置課税期間中に延払基準の方法により経理しなかった場合の一括計上処理
(3)の経過措置の適用を受けている旧リース譲渡について、経過措置課税期間中に延払基準の方法により経理しなかった場合には、不適用基準事業年度等の末日の属する課税期間において、未計上となっている部分を一括計上することとされている。具体的には、その旧リース譲渡の対価の額でその課税期間の初日の前日以前に既に資産の譲渡等を行ったものとした部分に係る金額以外の金額に係る部分について、その課税期間において資産の譲渡等を行ったものとみなされることとなる(改正法附則22③、改正消令附則3⑧)。なお、一括計上が原則とされているが、(6)により未計上額を10年間にわたって均等計上することも選択できる。
(注)従前の特例においては、特例の適用を受けている事業者から相続又は合併若しくは分割により特例の適用を受けているリース譲渡に係る事業を承継した相続人又は合併法人若しくは分割承継法人(以下(4)(5)において「相続人等」という。)は、消費税法施行令第34条第2項等の規定に基づき、そのリース譲渡に係る特例の適用を引き継いで受けることができることとされているが、経過措置課税期間においてこの特例の適用を受けている相続人等の旧リース譲渡について、延払基準の方法により経理しなかった場合には、上記と同様、不適用基準事業年度等の末日の属する課税期間において、未計上部分を一括計上する、又は(6)により未計上額を10年間にわたって均等計上することとされている(改正消令附則3⑤)。
(5)経過措置課税期間が満了した場合の一括計上処理
(3)の経過措置の適用を受けている旧リース譲渡について、満了基準事業年度等前の各課税期間において、旧リース譲渡で資産の譲渡等を行ったものとしなかった部分(未計上部分)がある場合には、満了基準事業年度等の末日の属する課税期間においてその未計上部分を一括計上することとされている。具体的には、満了基準事業年度等の初日以後に支払の期日の到来する賦払金(当該初日の前日以前に既に支払を受けたものを除く。)に係る部分(延払基準の方法が、1(2)(注2)②の方法である場合には、その旧リース譲渡の対価の額で満了基準事業年度等の初日の前日以前に既に資産の譲渡等を行ったものとした部分に係る金額以外の金額に係る部分)について、満了基準事業年度等の末日の属する課税期間において資産の譲渡等を行ったものとみなされることとなる(改正法附則22④、改正消令附則3⑧)。なお、一括計上が原則とされているが、(4)による一括計上の場合と同様に、(6)により未計上額を10年間にわたって均等計上することも選択できる。
(注)経過措置課税期間において特例の適用を受けている相続人等の旧リース譲渡について、経過措置課税期間が満了した場合には、上記と同様、満了基準事業年度等の末日の属する課税期間において、未計上部分を一括計上する、又は(6)により未計上額を10年間にわたって均等計上することとされている(改正消令附則3⑥)。
(6)未計上譲渡額の10年均等計上に係る経過措置
経過措置の対象となる事業者の旧リース譲渡が、上記(4)の場合(経過措置課税期間中に延払基準の方法により経理しなかった場合)又は(5)の場合(経過措置課税期間が満了した場合)に該当する場合には、その未計上部分について、一括計上する方法のほか、10年均等で計上することができることとされている。具体的には、①の金額(未計上部分の10年均等額)に係る部分を、不適用基準事業年度等又は満了基準事業年度等以後の各年又は各事業年度の末日の属する各課税期間(以下「適用課税期間」という。)において、資産の譲渡等を行ったものとみなすことができることとなる(改正法附則22⑤)。ただし、①の金額が②の金額(未計上部分の残額)を超える場合には、②の金額に係る部分を計上することとなる。
① 不適用基準事業年度等又は満了基準事業年度等の初日以後に支払の期日が到来する賦払金(当該初日の前日以前に既に支払を受けたものを除く。)に係る部分(延払基準の方法が、1(2)(注2)②の方法である場合には、その旧リース譲渡の対価の額で不適用基準事業年度等又は満了基準事業年度等の初日の前日以前に既に資産の譲渡等を行ったものとした部分に係る金額以外の金額に係る部分。以下「未計上譲渡額」という。)を120で除し、これにその適用課税期間が含まれる年又は事業年度の月数を乗じて計算した金額
(注)上記は年又は事業年度を単位として計算を行い、その年又は事業年度の末日の属する課税期間に計上することとされている。このため、事業者が課税期間の特例(消法19①三~四の二、②④)の適用を受ける場合に、未計上譲渡額のうちにその年又は事業年度において資産の譲渡等を行ったものとみなされた部分に係る金額が含まれることがあるため、その金額が10年均等計上額として再度計上されないよう、その金額を控除することとされている(改正消令附則3⑨)。
② 未計上譲渡額からその未計上譲渡額のうち適用課税期間前の各課税期間において資産の譲渡等を行ったものとみなされた部分に係る金額を控除した金額
上記の経過措置を受けようとする事業者は、その受けようとする最初の適用課税期間に係る消費税の確定申告書等にその旨を付記するものとされている(改正法附則22⑥)。
(注1)①の金額が②の金額を超える場合、すなわち②の金額を計上することとなる場合は、例えば、10年均等計上の途中で決算期の変更を行ったことにより、10年均等額を計上する最後の事業年度における未計上譲渡額の残額がその事業年度の月数(12ヶ月)未満の月数分となる場合が考えられる。
(注2)上記①の月数は、暦に従って計算し、1月に満たない端数を生じたときは、これを切り捨てることとされている(改正法附則22⑦)。
(注3)経過措置の対象となる事業者以外の事業者は、基本的に上記の経過措置を受けることはできないが、当該事業者が相続又は合併若しくは分割によりリース譲渡の特例の適用を受けている旧リース譲渡に係る事業を承継した場合には、当該事業者が承継した旧リース譲渡について(4)の場合に該当するものとみなして、(4)又は(6)の経過措置の適用を受けることができることとされている(改正消令附則3⑦)。
(7)10年均等計上の期間中に事業の廃止等があった場合の一括計上に係る経過措置
(6)の適用を受けている期間において、次のいずれかに該当するときは、その該当することとなった課税期間等において未計上部分を一括計上することとされている。
① 10年均等計上の適用を受けないこととした場合
(6)の適用を受けている事業者が、その規定の適用を受ける旧リース譲渡につき、その適用を受けないこととした場合には、その受けないこととした課税期間において、未計上部分(未計上譲渡額でその課税期間の初日の前日以前に既に資産の譲渡等を行ったものとみなされた部分に係る金額以外の金額に係る部分をいう。以下②~④において同じ。)を一括して資産の譲渡等を行ったものとみなすこととされている(改正消令附則3⑩)。
② 課税事業者から免税事業者になった場合等
(6)の適用を受けている事業者が、次に掲げる場合に該当することとなった場合には、その該当することとなった課税期間の初日の前日において、未計上部分を一括して資産の譲渡等を行ったものとみなすこととされている(改正消令附則3⑪)。
イ 課税事業者が免税事業者となった場合
ロ 免税事業者が課税事業者となった場合
③ 個人事業者に係る一括計上事由
(6)の適用を受けている個人事業者が、次に掲げる場合に該当することとなった場合には、その該当することとなった課税期間において、未計上部分を一括して資産の譲渡等を行ったものとみなすこととされている(改正消令附則3⑫)。
イ その個人事業者が死亡した場合において、経過措置の適用を受けている旧リース譲渡に係る事業を承継した相続人がないとき。
ロ その個人事業者(課税事業者に限る。)が死亡した場合において、経過措置の適用を受けている旧リース譲渡に係る事業を承継した相続人が免税事業者であるとき。
ハ その個人事業者(免税事業者に限る。)が死亡した場合において、経過措置の適用を受けている旧リース譲渡に係る事業を承継した相続人が課税事業者であるとき。
ニ その個人事業者が、経過措置の適用を受けている旧リース譲渡に係る事業の全部を譲渡し、又は廃止した場合
④ 法人に係る一括計上事由
(6)の規定の適用を受けている法人が、次に掲げる場合に該当することとなった場合には、その該当することとなった課税期間において、未計上部分を一括して資産の譲渡等を行ったものとみなすこととされている(改正消令附則3⑬⑭)。
イ その法人(課税事業者に限る。)が合併又は分割により、経過措置の適用を受けている旧リース譲渡に係る事業を承継させた場合において、その事業を承継した合併法人又は分割承継法人が免税事業者であるとき。
ロ その法人(免税事業者に限る。)が合併又は分割により、経過措置の適用を受けている旧リース譲渡に係る事業を承継させた場合において、その事業を承継した合併法人又は分割承継法人が課税事業者であるとき。
ハ その法人が、経過措置の適用を受けている旧リース譲渡に係る事業の全部を譲渡した場合
ニ その法人が、解散又は事業の全部を廃止した場合
(8)10年均等計上の期間中に相続等があった場合の引継ぎに係る経過措置
(6)の経過措置の適用を受けている事業者が相続又は合併若しくは分割により、その適用を受けている旧リース譲渡に係る事業を相続人又は合併法人若しくは分割承継法人(以下(8)において「相続人等」という。)に承継させた場合には、一定の場合を除き、その相続人等が、その相続等があった日以後の期間に係る部分について、引き続き、(6)の経過措置の適用を受けることができることとされている(改正法附則22⑧、改正消令附則3⑮~⑲)。具体的な適用関係は、次のとおり。
① 相続の場合
(6)の経過措置の適用を受けている個人事業者が死亡した場合((7)③の適用を受ける場合を除く。)において、その適用を受けていた旧リース譲渡に係る事業を相続人が承継したときは、その死亡の日の属する課税期間以後の各課税期間においては、その相続人が、引き続き(6)の経過措置の適用を受けることができることとされている(改正消令附則3⑮)。この場合において、その死亡した日の属する課税期間における被相続人及び相続人の10年均等計上額を計算する際の月数は、次のとおりとされている(改正消令附則3⑮後段、⑯)。
イ 被相続人 その年の初日からその死亡の日までの期間の月数
ロ 相続人 その死亡の日の翌日からその年の末日までの期間の月数
② 合併の場合
(6)の経過措置の適用を受けている法人が合併により消滅した場合((7)④の適用を受ける場合を除く。)において、その適用を受けていた旧リース譲渡に係る事業を合併法人が承継したときは、その合併の日の属する課税期間以後の各課税期間においては、その合併法人が、引き続き(6)の経過措置の適用を受けることができることとされている(改正消令附則3⑰)。この場合において、その合併の日の属する課税期間における被合併法人及び合併法人の10年均等計上額を計算する際の月数は、次のとおりとされている(改正消令附則3⑰後段)。
イ 被合併法人 その事業年度の初日からその合併の日の前日までの期間の月数
ロ 合併法人 その合併の日からその事業年度の末日までの期間の月数
(注)法人が事業年度の中途において合併により解散した場合には、その合併の日の前日が事業年度終了の日とされている(法法14①二)ことから、被合併法人の合併の日の属する課税期間における10年均等額の計算期間については、特別の規定は置かれていない。
③ 分割の場合
(6)の経過措置の適用を受けている法人が分割によりその適用を受けていた旧リース譲渡に係る事業を分割承継法人に承継させた場合((7)④の適用を受ける場合を除く。)には、その分割の日の属する課税期間以後の各課税期間においては、その分割承継法人が、引き続き(6)の経過措置の適用を受けることができることとされている(改正消令附則3⑱)。この場合において、その分割の日の属する課税期間における分割法人及び分割承継法人の10年均等計上額を計算する際の月数は、次のとおりとされている(改正消令附則3⑱後段、⑲)。
イ 分割法人 その事業年度の初日からその分割の日の前日までの期間の月数
ロ 分割承継法人 その分割の日からその事業年度の末日までの期間の月数
(注)簡便法によるリース譲渡の特例を適用している事業者についても、上記(5)から(8)までの経過措置の適用がある(改正消令附則3)。なお、簡便法によるリース譲渡の特例は、「延払基準の方法による経理」がその適用要件になっていないことから、「延払基準の方法による経理」をしなかった場合の措置である(4)の経過措置は対象外となっている。
4 適用関係
上記の改正は、令和7年4月1日から適用されている(改正法附則1)。
三 電磁的記録に記録された事項に関する重加算税の特例の見直し
1 改正前の制度の概要及び改正の背景
消費税法令の規定に基づき事業者に対して取引記録として保存を求めている証憑について電磁的記録により作成又は受領するものは、消費税法令において個別に電磁的記録による保存が規定されており、その保存方法については、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(以下「電子帳簿保存法」という。)に規定されている方法に準じて行うこととされている(消法57の4⑥、消令50①、70の13、消規15の5①、26の8①等)。
また、電磁的記録による保存については、紙によってその書類等を保存する場合と比して、複製・改ざん行為が容易であり、また、その痕跡が残りにくいという特性にも鑑みて、こうした複製・改ざん行為を未然に抑止する観点から、この電磁的記録の改ざん等による不正に対しては、国税通則法の規定により課される重加算税を10%加算する措置が消費税法において設けられている。具体的には、消費税法令の規定により保存されている電磁的記録に記録された事項について消去・改ざん等の隠蔽・仮装が行われたことを基因として、期限後申告書若しくは修正申告書の提出、更正又は決定(以下「期限後申告等」という。)があった場合の重加算税の額については、通常課される重加算税の金額に、その重加算税の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実(申告漏れ等)でその期限後申告等の基因となるこれらの電磁的記録に記録された事項に係るもの(隠蔽仮装されているものに限る。以下「電磁的記録に記録された事項に係る事実」という。)以外のものがあるときは、その「電磁的記録に記録された事項に係る事実」に基づく本税額に限る。)の10%に相当する金額を加算した金額とすることとされている(消法59の2①)。
(注1)電子帳簿保存法における電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務については、所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。以下(注1)において同じ。)と法人税に係るもののみがその対象となっており(電子帳簿保存法7)、この保存義務の対象となる国税関係書類に係る電磁的記録について重加算税を10%加算する措置についても、電子帳簿保存法においては所得税と法人税に係るもののみが対象となっているため(電子帳簿保存法8⑤)、消費税については、別途消費税法に規定を設け同様の措置を講じているものとなる。
(注2)電子帳簿保存法第8条第5項の規定による重加算税の加重については、電子取引の取引情報に係る電磁的記録のみならず、同法第4条第3項の規定によるスキャナ保存制度に基づき保存される電磁的記録が含まれているが、電子帳簿保存法によるスキャナ保存制度については国税関係書類が対象となっており、対象税目を限定しない措置であることから、消費税法上保存を求める書類についてスキャナ保存を行った電磁的記録について改ざん等による不正を行った場合の重加算税については、電子帳簿保存法の規定により加重される。
近年、会計システム等の開発が進み、請求書等がデータ連携に適したデジタルデータ(電子取引の取引情報に係る電磁的記録)で送受信される場合に、人の手を介することなく授受及び保存を行うことが可能な会計ソフト等が流通しており、こういった会計ソフト等を使用している場合については、必ずしも電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存を行うことのみをもって、紙によってその書類等の保存を行う場合と比して、複製・改ざん行為が容易とはいえない状況にあった。
このような会計ソフト等を使用して送受信されたデジタルデータについては、事業者の事務負担の軽減等だけでなく、税務の観点からもその保存や記帳の適正性が確保されたものと認められ、上記の電磁的記録に係る重加算税の加重措置の制度趣旨に鑑みても、その措置の適用対象から除外することが適当と考えられることから、電子帳簿保存法の改正に併せて消費税法においても、電磁的記録に係る重加算税の加重措置の対象から、事業者により保存されている一定の電磁的記録であって、その保存が国税の納税義務の適正な履行に資するものとして一定の要件を満たしている場合におけるその電磁的記録を除外する措置(以下「除外措置」という。)が講じられた。
2 改正の内容
前述のとおり、令和7年度税制改正において、電磁的記録に係る重加算税の加重措置の対象から、事業者により保存されている一定の電磁的記録であって、その保存が国税の納税義務の適正な履行に資するものとして一定の要件を満たしている場合におけるその電磁的記録を除外することとされた(消法59の2①)。
具体的には、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則(以下「電子帳簿保存法施行規則」という。)に定める要件に準ずる要件に従って期限後申告等の基因となる事項に係る特定電磁的記録の保存を行うこととされており(消規27の2③④)、電子帳簿保存法施行規則においては、
① 国税庁長官の定める基準に適合する電子計算機処理システム(以下「特定電子計算機処理システム」という。)を使用した真実性の確保(改ざん防止の確保)、
② 記帳の適正性確保、
③ 特定取引情報に係る電磁的記録と国税関係帳簿に係る電磁的記録等との相互関連性の確保、
④ 特定電子計算機処理システムを使用した保存等の確認
を求めている。この特定電子計算機処理システムにおいては、システム間における相互運用性を確保し、取引から会計・税務までがデジタルデータとしてシームレスに処理することが想定されている。
また、本除外措置を適用するためには、その保存義務者によりその電磁的記録の保存が行われた日以後引き続きその要件を満たして保存が行われている必要がある(消法59の2①)。これは、該当する電子取引を行った後、保存期間を通じてその要件を満たして保存を行っていない者や調査時にその要件を満たしていないことが判明した者については、適切な保存が行われているとはいえないことから、本除外措置の対象外とされたものである。
なお、事業者により保存されている一定の電磁的記録については、電子帳簿保存法に規定されている方法に準じて保存を行う必要があるが、本除外措置の対象となるものは、この方法により保存されている電磁的記録(以下「特定電磁的記録」という。)に限ることとされている。これは、本来はこういった特定電磁的記録以外の電磁的記録の存在は望ましくはないが、実態としては納税者の手元に存在し得る中で、こういった電磁的記録については、本除外措置の対象とならないことを明らかにしたものである。
本除外措置の適用を受けようとする保存義務者は、あらかじめ、特定電磁的記録に記録された事項に関し期限後申告等があった場合には電磁的記録に係る重加算税の加重措置の適用を受けない旨等を記載した届出書をその納税地の所轄税務署長に提出する必要がある(消規27の2④)。
3 適用関係
上記の改正は、令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する消費税について適用され、同日前に法定申告期限が到来した消費税については、なお従前の例によることとされている(改正法附則1五ロ、23)。
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