解説記事2025年08月04日 ニュース特集 PGM事件 132条の2の適用巡り控訴審でも国敗訴(2025年8月4日号・№1085)
ニュース特集
高裁も完全支配関係適格合併に事業継続要件を考慮せず
PGM事件 132条の2の適用巡り控訴審でも国敗訴
ゴルフ場運営会社大手PGMのグループ会社であるPGMプロパティーズへの法人税法132条の2の適用を巡り争われていた事案では、一審で納税者が勝訴し注目を集めていたが(本誌1046号、1047号参照)、東京高裁第12民事部(梅本圭一郎裁判長)は令和7年7月23日、国の控訴を棄却した。
本件では、完全支配関係法人間の適格合併にも「合併による事業の移転及び合併後の事業の継続」が不当性要件の判断において考慮されるべきかどうかがポイントとなっていたが、東京高裁も原判決を支持し、事業の移転・継続状況は、不当性要件の判断において特に重視すべき要素ということはできないとの考えを示した。
子会社吸収合併、未処理欠損金の引継ぎ認められず
事案の概要は以下のとおり。原告の親会社であるPGPは、①平成21年に大手商社から、ゴルフ場運営会社PGPAH6の全株式を取得。しかし、PGPAH6では元代表取締役の業務上横領事件等が発生しており、これに関連した債権者からの損害賠償債務等の簿外債務(本件簿外債務)が存在するリスクがあることから、②PGPはPGPAH6からゴルフ場事業(Good事業)だけを分社型分割で切り出し、新設子会社(PGP千葉)に承継させ、その対価としてPGP千葉の株式(本件株式)を取得した。PGPAH6(ゴルフ場事業以外のBad事業)は、簿外債務の管理や債権者対応等のために存続することとなった。その後、③PGPAH6は、グループ会社(PGPMP1)に本件株式を譲渡したが、多額の株式譲渡損が発生し、約57億円の欠損金を抱えることとなった。
平成27年3月31日時点において、PGPは、原告及びPGMP4の発行済株式の99.99%を保有していたが、残りの各0.01%の発行済株式(原告のA種優先株式)及びPGMP4のA種優先株式(本件PGMP4優先株式)は、いずれも外部株主A社が保有していた。④PGMP4は、平成27年10月、A社から本件PGMP4優先株式を10万円で取得した上で消却し、これにより、PGPはPGMP4の発行済株式の全部を保有することとなった。
その後、⑤平成29年に、PGMP4を合併法人、PGPAH6を被合併法人とする適格吸収合併(本件合併1)が行われ、次いで⑥同日、原告を合併法人、PGMP4ほか3社のグループ会社を被合併法人とする適格吸収合併(本件合併2)が行われた。
原告は、法人税法57条2項及び同法81条の9第2項2号の各規定(以下法人税法57条2項等)により、PGPAH6の本件合併1の直前における欠損金額約57億円を原告の連結欠損金額とみなして法人税等の確定申告をしたが、処分行政庁は法人税法132条の2を適用して、その引継ぎを認めず、更正処分等を行った。
税負担の減少目的と事業目的の重さの比較は考慮せず
本事案の争点は、本件合併に係る一連の行為が法人税法132条の2にいう不当性要件に該当するか否かである。より具体的には、完全支配関係法人間の適格合併にも「合併による事業の移転及び合併後の事業の継続」が不当性要件の判断において考慮されるべきかどうかという点だ。
東京地裁は、完全支配関係適格合併の場合において、「合併による事業の移転及び合併後の事業の継続」が法人税法57条2項等の適用の「前提」となっているとか、「合併による事業の移転及び合併後の事業の継続」がない完全支配関係適格合併に上記規定を適用することはその本来の趣旨及び目的に反するなどと解することはできないと結論づけていた。
控訴審において国は、事業継続要件について、適格合併の場合を含めて「組織再編税制に係る規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様であるかという観点」「経済実態に実質的な変更がない場合かどうかという観点」において考慮すべき事情の一つであると主張した。
この点について、東京高裁は原判決を支持。「最高裁平成28年判決でいう考慮事情①及び同②(表参照)に係る事情として、事業の移転・継続状況が考慮される事例が全く想定されないというものではないと解される」としつつも、「完全支配関係の適格合併の場合に事業の継続が一律に適用の前提になっていたとまでは認められないこと、完全子会社を吸収合併した後に当該子会社の事業を廃止する事例や、休眠会社である完全子会社を吸収合併する事例が容易に想定されるにもかかわらず、組織再編税制の議論においてこれらを適用除外とするような検討がされた形跡が見られないことなどからすれば、完全支配関係の適格合併の場合における事業の移転及び合併後の事業の継続という事情は、不当性要件の判断において、特に重視すべき要素ということはできない」として、国の主張を斥けた。
【表】不当性要件の判断における考慮事情(平成28年2月29日最高裁判決(ヤフー事件判決)より)
① 当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか ② 税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか |
また、国は控訴審で、不当性要件に係る判断枠組みについて「行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的等」を検討するに当たっては、「税負担の減少目的」と「それを除外した事業目的」とを区別した上で、その主従関係を考慮すべきであり、税負担の減少による経済的利益の獲得を、行為又は計算の合理性を肯定する事情として考慮するのであれば、最高裁平成28年2月29日判決(ヤフー事件判決)に実質的に反すると主張した。
これに対し東京高裁は、「控訴人(国)が指摘する文献等において指摘されているのは、税負担の減少以外の事業目的が存在するか否かだけではなく、それが正当なものと言えるかどうかを判断すべきと指摘するものや、税負担の軽減という目的を捨象した場合に合理的経済人として経済的合理性を欠く行為であるかどうかを検討すべきと指摘するもの等であって、目的の主従関係を考慮することについて、税負担の減少目的がそれ以外の事業目的よりも少しでも重いものであれば不当性要件に該当するといった趣旨で述べられているものとは解されない」として、「税負担の減少目的とそれを捨象した事業目的とのいずれがより重視されていたかを単純に比較するようなことを前提とする主張は、採用することができない」との考えを示した。
合併時期・合併相手、二段階の合併にも不自然・不合理な点なし
続いて、判断枠組みの本件への当てはめについて、控訴審で国は、合併時期及び合併相手として、PGMグループ内で最も税負担の減少効果が高いものが選択されており、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものと主張した。
これに対し東京高裁は、合併時期については、原判決説示のとおり、本件各合併当時、本件簿外債務リスクは完全に消滅はしていなかったものの、相当程度そのリスクが低減した時期にあったこと、PGPAH6を存続させ続ける限り一定の管理コストが継続的に発生することなどから、時期の選択には合理性が認められるのであって、税負担の減少という目的を捨象しても、本件各合併の時期が不自然であるとか通常あり得ない時期であったなどと解することはできないとした。
また、本件未処理欠損金額の大半は、PGPAH6の商社の子会社時代に有していた固定資産等の含み損に起因するものであるところ、PGPAH6から切り離されたゴルフ場運営事業等は、PGP千葉を経て総武CCに引き継がれ、本件各合併の直前において、総武CCは被控訴人の完全子会社となっており、かつ、本件合併2で総武CCは被控訴人に合併したのであるから、税負担の減少目的を捨象してみても、繰越欠損金を生じさせた事業を営んできた法人に引き継ぐという観点に照らし、本件未処理欠損金額の引継ぎ先として被控訴人が選択されたことに、不自然・不合理な点はないとした。
そのほか、国は、被控訴人がPGPAH6を清算するという選択をしなかったことや、本件各合併が二段階で行われたことについて経済合理性を欠くと主張。また、本件PGMP4優先株式の買取りについて、PGMP4がA社に対し経済的支出を伴わない普通株式転換権の放棄を求めず、本件PGMP4優先株式を買い取ったことが不合理であるとも主張したが、東京高裁は、原判決説示のとおり、これらが合理性を欠き又は通常あり得ないことであると認めることはできないとして、これらの主張も斥けている。
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