解説記事2025年09月08日 ニュース特集 令和8年度における各省庁の税制改正要望は?(2025年9月8日号・№1089)
ニュース特集
政治的に不安定な状況下で小幅な改正要望に
令和8年度における各省庁の税制改正要望は?
 各省庁等の令和8年度税制改正要望が出揃った。政治的に不安定な状況が続く中、昨年以上に小幅な改正要望にとどまっており、租税特別措置の適用期限の延長が例年以上に多くなっている(今号7頁参照)。本特集では、各省庁等の主な税制改正要望を紹介する。
経産省、研究開発税制の拡充や大胆な投資促進税制の創設が目玉
 経済産業省では、研究開発税制の拡充及び延長に加え、「大胆な投資促進税制の創設」が盛り込まれた点が注目されている。研究開発税制では、既存の一般形とは別に、日本の戦略技術領域を対象とした戦略技術領域型を創設するほか、オープンイノベーション型の中に、特定大学等戦略研究拠点との共同・委託研究を追加することなどを求めている。また、注目すべき項目の1つが「大胆な投資促進税制の創設」だ。同省では、2030年度に135兆円、2040年度に200兆円の新たな官民国内投資目標を設定し、バイオ製薬への事業転換のための投資や、ファクトリーオートメーションを導入した工場の新設など、高付加価値投資を対象に税額控除や特別償却などの措置を講じることを求めている。なお、詳しくは今号10頁を参照してほしい。
 そのほか、国内投資の観点からは、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の適用期限を2年間延長することや、スピンオフ税制の見直しを盛り込んでいる。令和5年度税制改正では、パーシャルスピンオフ税制が創設されているが、スタートアップの創出だけでなく、ノンコア事業を切り出し、コア事業に専念するための事業ポートフォリオの組替えも促進するよう、適用要件を見直すことを求めるとともに、適用期限を廃止し、恒久的な措置とするよう求めている。
 中小企業関連では、中小企業技術基盤強化税制に関し、増減試験研究費割合に応じた控除率の上乗せについて、3年間の延長を求めるとともに、控除率の見直しや税額控除の繰越制度の導入など、インセンティブの強化に向けた見直しを求めている。
 また、日本にスタートアップ企業を生み育てるエコシステムを強化するため、オープンイノベーション促進税制の適用期限を2年間延長することを求めている。同税制は、事業会社がスタートアップ企業の株式を取得した場合、一定の要件の下、株式取得価額の25%相当額の所得控除を認めるというもの。海外と比較した場合、まだオープンイノベーションは定着していない状況にあるとしている。
特例承継計画の提出期限延長を
 そのほか、適用期限が迫る事業承継税制の特例措置については、特例承継計画の期限延長を求めた。法人版事業承継税制の特例措置の適用期限は令和9年12月31日までとされ、個人版事業承継税制の特例措置は令和10年12月31日とされるが、同税制を適用する前提として特例承継計画を都道府県に提出する必要があり、その提出期限は両制度ともに令和8年3月31日までとされている。
 また、小さな見直しではあるものの、食事支給に係る所得税非課税限度額の見直しを求めている点が注目される。企業が従業員に提供する食事については、①従業員が食事価額の50%以上を負担し、企業が負担した金額が月額3,500円以下の場合には、食事に係る所得税は非課税になるとされているが、昨今の物価上昇を踏まえ、非課税限度額の引き上げを求めている。
NISA、当年中のスイッチングを求める
 金融庁の令和8年度税制改正要望では、NISA対象商品の拡充を含む制度の充実が主要項目となっている。
贈与税の非課税範囲内で設計へ
 現行のNISAについては、対象年齢が18歳以上としているが、つみたて投資枠に関してはこれを引き下げるとしている。18歳未満ということになれば、NISAを行う資金は親や祖父母からの贈与ということになるが、金融庁は、制度設計として贈与税がかからない仕組みとすることを検討しており、110万円の非課税枠を見直すことを想定しているものではないとしている。
 また、NISAについては、成長投資枠とつみたて投資枠で、最大で年間の投資額が360万円となっており、加えて生涯の非課税保有限度額は1,800万円となっている。現行のNISAではスイッチング(現在保有する株式等を売却し、新たな株式等を購入すること)を認めているが、復活は翌年となるため、株式等を売却した年において非課税保有限度額が復活する仕組みに変えるとしている。ただし、年間の投資枠は、成長投資枠とつみたて投資枠で360万円となっているため、これを超える復活はできない。例えば、仮に1,800万円保有する者が400万円の株式等を売却しても、当年中に購入できるのは360万円が上限となる。

暗号資産、株式等と同様に分離課税に
 暗号資産に関しては、令和7年度税制改正大綱において、暗号資産取引に係る課税の見直しを検討することが盛り込まれたことを踏まえ、暗号資産取引に係る必要な法整備と併せ、分離課税の導入を含めた暗号資産取引等に係る課税の見直しを求めている。現行、個人が暗号資産取引により得た利益は原則として雑所得に該当するが、金融商品取引法上、金融商品として位置付けられることを前提として、株式等と同様、申告分離課税を求めるものとなっている。
 なお、金融庁に設置された金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」では、暗号資産を金融商品取引法上の枠組みとし、金融商品として位置付ける方向で検討が行われており、来年の通常国会に金融商品取引法の改正案を提出する方向となっている。
 また、令和7年度税制改正では、子育て世帯に対する生命保険料控除の拡充として、新生命保険料に係る一般枠(遺族保障)について、23歳未満の扶養親族を有する場合には、現行の4万円の適用限度額に対して2万円の上乗せ措置を講ずることとされたが、1年間の時限措置とされているため、恒久化するよう求めている。
「持分なし医療法人」への移行、納税猶予の3年間延長を
 厚生労働省では、医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置の3年間(令和11年12月31日まで)の延長を求めている。これは、「持分なし医療法人」への移行計画について厚労大臣の認定を受けた「持分あり医療法人」(認定医療法人)が「持分なし医療法人」へ移行する期間に発生する相続税・贈与税を猶予し、移行後にその猶予税額を免除するというもの。「持分なし医療法人」への移行は進んでいるものの、現状でもおよそ6割の「持分あり医療法人」が存在しており、さらに移行を促進する必要があるとしている。
 セルフメディケーション税制については、令和8年末までの時限措置となっているが、恒久化又は適用期限の延長のほか、医療費適正化効果が見込まれる非スイッチOTC医薬品及びOTC検査薬等を対象範囲に加えることを求めている。また、現行制度は、対象となる医薬品の購入費から1万2千円を差し引いた金額(上限額8万8千円)を控除額としているが、インセンティブ効果を強化するため、購入費から差し引く下限額を0円に引き下げ、控除額の上限を20万円に引き上げる(ただし、購入費が1万2千円を超えることを利用条件とする)ことを求めている。
住宅価格の高騰等を踏まえた要件の見直しを
 国土交通省では、令和7年末に適用期限を迎える住宅ローン減税及び認定住宅の投資型減税について、所要の措置を講じることを求めている(本誌1088号14頁参照)。住宅ローン減税については、住宅ローンを利用して住宅の新築・取得又は増改築等した場合、最大13年間、各年末の住宅ローン残高の0.7%を所得税額等から控除するというもの。加えて、令和7年度に限っては、子育て世帯に特化した政策税制として、借入限度額の上乗せなどの措置が講じられている。今回、これらの措置も含めて適用期限切れとなるわけだが、国土交通省では、単純な適用期限の延長ではなく、住宅価格の高騰等により住宅取得環境が厳しい状況や世帯構成の変化、既存住宅ニーズの高まりを踏まえ、要件を見直した上で適用期限の延長を求めるとしている。
 そのほか、令和8年3月31日に適用期限を迎える長期保有土地等に係る事業用資産の買換え特例について、令和11年3月31日まで延長することや、優良住宅地の造成等のために土地を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例も3年間の延長を求めている。
地方拠点強化税制の税額控除率引き上げを
 内閣府では、地方拠点強化税制の適用期限を令和10年3月末まで2年間延長するとともに、税額控除率の引き上げ(現行:移転型7%、拡充型4%)を求めた。リモートワーク等による進展など、令和6年度では東京圏から地方に移転した企業は過去最高となっており、企業の地方移転等をさらに促進し、地方における雇用創出を図るとしている。
 また、地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)については、令和7年度税制改正で適用期限が令和10年3月末まで延長されたが、寄附を行った企業の子会社が事業を受注した問題で、福島県国見町の地域再生計画の認定が取り消された事案等を踏まえ、制度改善策を実施するとしている。
教育資金一括贈与の非課税の3年間延長を
 そのほか、文部科学省では、令和8年3月末までとされる教育資金の一括贈与の非課税措置について、適用期限を3年間延長することを求める一方、高校無償化と併せて進める人材育成の強化に係るシステム改革の財源確保のための検討を要望している。
【表2】各省庁等における令和8年度税制改正要望のうち、適用期限延長を求めている事項(国税)
| 内閣府 | 
| (単独要望の事項) ・地方における企業拠点の強化を促進する税制措置の拡充及び延長(所得税、法人税) ・小さな拠点の形成に資する事業を行う株式会社に対する特例措置の延長(所得税) ・国家戦略特区における所得控除制度の延長(法人税) ・国家戦略特区におけるエンジェル税制の延長(所得税) ・国家戦略特区における特別償却又は税額控除の延長(法人税) ・国家戦略特区における国家戦略民間都市再生事業に対する課税の特例措置の拡充及び延長(所得税、法人税、登録免許税) ・国家戦略特区における民間の再開発事業のために土地等を譲渡した場合の特例措置の延長(所得税、法人税) ・国際戦略総合特区における特別償却又は税額控除の延長(法人税) ・東日本大震災に関する特別貸付けに係る消費貸借に関する契約書の印紙税の非課税措置の延長(印紙税) | 
| 金融庁 | 
| (単独要望の事項) ・投資法人に係る税制優遇措置の見直し及び延長(法人税) ・特定投資運用業者の役員に対する業績連動給与の損金算入の特例の拡充及び延長(法人税) ・金融機能強化法の経営強化計画等に基づき行う登記の登録免許税の軽減措置の拡充及び延長(登録免許税) (共同要望で主管省庁となる事項) ・東日本大震災関連の印紙税非課税措置の延長(農林水産省、厚生労働省)(印紙税) ・海外ファンドとの債券現先取引(レポ取引)に係る非課税措置の恒久化(財務省)(所得税、法人税) ・銀行等保有株式取得機構に係る課税の特例措置(欠損金の繰戻し還付)の延長(財務省)(法人税) | 
| こども家庭庁 | 
| (単独要望の事項) ・ひとり親家庭高等職業訓練促進資金貸付事業の住宅支援資金貸付け等に係る非課税措置の延長等(所得税) | 
| 復興庁 | 
| (単独要望の事項) ・特定復興産業集積区域において被災雇用者等を雇用した場合の税額控除の特例措置の延長(所得税、法人税) ・特定復興産業集積区域における開発研究用資産の特別償却等の特例措置の延長(所得税、法人税) (共同要望で主管省庁となる事項) ・特定復興産業集積区域における機械及び装置、建物及びその附属設備並びに構築物の特別償却等の特例措置の延長(復興庁、経済産業省、国土交通省)(所得税、法人税) ・特定の資産(被災区域の土地等)の買換え等の場合の譲渡所得に係る特例措置の延長(復興庁、経済産業省、国土交通省)(所得税、法人税) | 
| 財務省 | 
| (単独要望の事項) ・東日本大震災復興特別貸付等に係る消費貸借に関する契約書に対する印紙税非課税措置の延長(印紙税) ・特定の用途に供する石炭に係る石油石炭税の軽減(石油石炭税) | 
| 文部科学省 | 
| (単独要望の事項) ・東日本大震災により被害を受けた学校法人等に対する特別貸付けに係る消費貸借に関する契約書の印紙税の非課税措置の延長(印紙税) (共同要望で主管省庁となる事項) ・教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置の延長(贈与税) | 
| 厚生労働省 | 
| (単独要望の事項) ・地域医療構想実現に向けた税制上の優遇措置の延長及び拡充(登録免許税) ・医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置の延長(相続税、贈与税) ・セルフメディケーション推進のための医療費控除の特例措置の拡充(所得税) ・特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等に係る非課税措置の延長(所得税) ・病床転換助成事業に関する税制上の所要の措置(印紙税) ・財形住宅貯蓄制度の対象住宅の要件に係る所要の措置(所得税) ・東日本大震災に関する特別貸付けに係る消費貸借に関する契約書の印紙税の非課税措置の延長(印紙税) | 
| 農林水産省 | 
| (単独要望の事項) ・環境負荷低減事業活動用資産等の特別償却の延長(所得税・法人税) ・輸出事業用資産の割増償却の延長(所得税・法人税) ・肉用牛の売却による農業所得の課税の特例の延長(所得税・法人税) ・山林所得に係る森林計画特別控除の延長(所得税) ・農地中間管理機構が農用地等を取得した場合の所有権移転登記の税率の軽減措置の延長(登録免許税) ・地球温暖化対策のための課税の特例として軽油に上乗せされる税率に係る還付措置の延長(石油石炭税) (共同要望で主管省庁となる事項) ・農業者が農用地利用集積等促進計画により農用地等を取得した場合の所有権移転登記の税率の軽減措置の延長(復興庁)(登録免許税) | 
| 経済産業省 | 
| (単独要望の事項) | 
| 国土交通省 | 
| (単独要望の事項) ・老朽化マンションの再生等の円滑化のための事業施行に係る特例措置の拡充等(所得税、法人税) ・老朽化マンションの再生等の円滑化のための事業施行に係る特例措置の拡充等(登録免許税) ・都市再生緊急整備地域に係る課税の特例措置の拡充及び延長(登録免許税) ・特定都市再生緊急整備地域に係る課税の特例措置の拡充及び延長(登録免許税) ・先進安全技術を搭載したトラック・バス車両に係る特例措置の拡充及び延長(自動車重量税) ・より環境負荷の小さい輸送手段への転換及び公共交通機関の利用者利便の増進に資する事業に係る特例措置の延長(地球温暖化対策のための税) ・土地等の譲渡益に対する追加課税制度の停止期限の延長(所得税、法人税) ・相続税等納税猶予農地を公共事業用地として譲渡した者に対する利子税の免除特例措置の延長(相続税、贈与税) ・低未利用地の適切な利用・管理を促進するための特例措置の延長(所得税) ・市街地再開発事業における特定の事業用資産の買換え等の特例措置の延長(所得税、法人税) ・都市再生緊急整備地域に係る課税の特例措置の延長(所得税、法人税) ・特定都市再生緊急整備地域に係る課税の特例措置の延長(所得税、法人税) ・災害ハザードエリアからの移転促進のための特例措置の延長(登録免許税) ・都市緑化支援機構による緑地の買入れに係る非課税措置の延長(登録免許税) ・民間施設直結スマートインターチェンジ整備に係る特例措置の延長(登録免許税) ・特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例措置の延長(所得税) ・居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除制度の延長(所得税) ・特定の居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除制度の延長(所得税) ・特別貸付けに係る消費貸借に関する契約書の印紙税の非課税措置の延長(印紙税) ・ノンステップバスやユニバーサルデザインタクシー等のバリアフリー車両に係る特例措置の延長(自動車重量税) ・自動車重量税に係るエコカー減税の延長等(自動車重量税) ・船舶に係る特別償却制度の延長(所得税、法人税) ・海上運送業における特定の事業用資産の買換え等の場合の課税の特例措置の延長(所得税、法人税) ・港湾の整備、維持管理及び防災対策等に係る作業船の買換え等の場合の課税の特例措置の延長(所得税、法人税) ・航空機騒音対策事業に係る特定の事業用資産の買換え等の場合の課税の特例措置の延長(所得税、法人税) (共同要望で主管省庁となる事項) ・優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例等の拡充及び延長(総務省)(所得税、法人税) ・長期保有土地等に係る事業用資産の買換え等の場合の課税の特例措置の延長(経済産業省)(所得税、法人税) ・土地の所有権移転登記等に係る登録免許税の特例措置の延長(金融庁)(登録免許税) ・既存住宅の耐震・バリアフリー・省エネ・三世代同居・長期優良住宅化・子育て対応リフォームに係る特例措置の延長(内閣府、経済産業省、環境省、こども家庭庁)(所得税) | 
| 防衛省 | 
| (単独要望の事項) ・航空機騒音対策(移転措置)事業に係る事業用資産の買換え等の特例措置の延長(所得税、法人税) | 
当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。
週刊T&Amaster 年間購読
新日本法規WEB会員
試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。
人気記事
人気商品
- 
						 
- 
						 団体向け研修会開催を 
 ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。 研修会開催支援サービス
- 
						 

 
							 
							 
							 
							 
							









 
					 
					


