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解説記事2025年09月22日 巻頭特集 損害賠償請求権の益金算入時期(2025年9月22日号・№1091) ~裁判例、裁決例から異時両建説の可能性を探る~

巻頭特集
損害賠償請求権の益金算入時期
~裁判例、裁決例から異時両建説の可能性を探る~
 弁護士・元国税審判官 向笠太郎

1 はじめに

 新聞等で法人の役員や従業員が法人の金銭を着服する事件を目にすることがあり、最近も、ガンホー・オンライン・エンターテインメント株式会社の元従業員が自分宛ての架空発注を行い、合計約2億4000万円を着服していたというニュースに接した(脚注1)。このような事件の典型である横領事件について、警察庁が公表している「犯罪統計資料」によれば、直近5年間では以下の表のとおり増加傾向にあるようである。また、令和7年1月から7月までの横領事件の認知件数は1387件であるところ、これは、令和6年1月から7月までの1414件とほぼ同等の件数といえる。

 このような事件が起きると、法人は、当然のことながら着服された金銭相当額の損害を被ることになる一方で、民事法上、不法行為者に対して損害賠償請求権を取得することになるが、税務上、この損害賠償請求権の益金算入時期が争われることが多いように見受けられる。
 すなわち、課税当局が、着服による損失が「発生」した事業年度を損害賠償請求権の益金算入時期と考えるのに対し、納税者である法人が、損失が「発覚」した事業年度を損害賠償請求権の益金算入時期であると考え、見解が対立することがある。例えば、従業員による横領行為が令和6事業年度に行われたが、それが明らかとなったのが令和7事業年度であった場合、損失が「発生」した事業年度は令和6事業年度で、損失が「発覚」した事業年度は令和7事業年度、ということになり、納税者である法人が益金算入時期を損失の「発覚」した令和7事業年度とすると、課税当局との間で争いが生じ得る。近時においても、横領した従業員に対する損害賠償請求権の額の益金算入時期について、損失が発覚した事業年度とすべきという請求人の主張を排斥し、損失が発生した事業年度とすべきであるとした裁決があるようである(令和6年9月5日裁決、未公表)(脚注2)。
 しかし、損失の「発生」した事業年度を、課税当局の主張どおり損害賠償請求権の益金算入時期と考えると、法人は、本税のみならず、過少申告加算税等も課されることになる。これでは、着服により財産上の損害を被るだけでなく、予期せぬ課税リスクも発生することとなり、被害者である法人としては、まさに踏んだり蹴ったりではないだろうか。
 そこで、本稿では、近時の裁判例や裁決例を参考に、不法行為に基づく損害賠償請求権の益金算入時期について、損失が「発覚」した事業年度と考える余地がないかを検討する。
 なお、この種の事件においては、損失の確定時期や貸倒損失の可否(不法行為を行った役員又は従業員に弁済能力があるか)等も問題となり得るが、紙幅の関係上、本稿では、損害賠償請求権の益金算入時期以外の論点は取り扱わないこととする。
 また、本稿では社内の者による不法行為が行われた場合を対象とするが、社外の者による不法行為が行われた場合については、法人税基本通達2−1−43を参照されたい。

2 学説や裁判例、裁決例の状況

(1)学説
 法人が役員又は従業員の不法行為によって損害を被った場合、損害額を「損失の額」(法人税法22条3項3号)として損金算入する一方、不法行為者に対する損害賠償請求権を益金算入する(同条2項)場合、益金算入時期をいつと考えるかについては、学説上、主に以下のような見解が存在する。
 ア 同時両建説
 不法行為による損失については当該損失が生じた事業年度の損金の額に算入することとし、これと同時に取得する損害賠償請求権を同事業年度の益金の額に算入するとする見解。
 イ 異時両建説
 不法行為による損失については当該損失が生じた事業年度の損金の額に算入するが、損害賠償請求権については相手方との合意や訴訟等によりその額が決した事業年度の益金の額に算入するとする見解。
 ウ 損失確定説
 被害発生事業年度において直ちに損益の認識をすることなく、その損害賠償請求権の行使の可否により実際の損失額が確定した事業年度において当該損失額を損金の額に算入するとする見解。この見解では、アやイと異なり、益金処理を独立して行わない。
(2)裁判例、裁決例
ア これに対して裁判例を見てみると、同時両建説に立つとみられるもの(最判昭和43年10月17日裁判所ウェブサイト(大栄プラスチック事件)等)、異時両建説に立つとみられるもの(最判平成4年10月29日裁判所ウェブサイト(相栄産業事件)等)があり、必ずしもはっきりしない状況のように思われた。
イ そのような中、東京高判平成21年2月18日税資259号順号11144(日本美装事件)は、以下のように判示した(脚注3)(なお、下線部は筆者による。)。
 「ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する年度の益金に計上すべきものというべきである(権利確定主義。最高裁平成5年11月25日第一小法廷判決・民集47巻9号5278頁等参照)。なお、ここでいう権利の確定とは、権利の発生とは同一ではなく、権利発生後一定の事情が加わって権利実現の可能性を客観的に認識することができるようになることを意味するものと解すべきである。」、不法行為により発生した損失は、法人税法22条3項3号にいう「損失の額」に該当し、「その額を損失が発生した年度の損金に計上すべきものと解されている(最高裁昭和43年10月17日第一小法廷判決・裁判集民事92号607頁参照)」、「本件のような不法行為による損害賠償請求権については、通常、損失が発生した時には損害賠償請求権も発生、確定しているから、これらを同時に損金と益金とに計上するのが原則であると考えられる(不法行為による損失の発生と損害賠償請求権の発生、確定はいわば表裏の関係にあるといえるのである。)。」、「もっとも、本件のような不法行為による損害賠償請求権については、例えば加害者を知ることが困難であるとか、権利内容を把握することが困難なため、直ちには権利行使(権利の実現)を期待することができないような場合があり得るところである。このような場合には、権利(損害賠償請求権)が法的には発生しているといえるが、未だ権利実現の可能性を客観的に認識することができるとはいえないといえるから、当該事業年度の益金に計上すべきであるとはいえないというべきである(そのような場合にまで、法的基準に拘泥して収益の帰属年度を決することは妥当でないのである。なお、最高裁平成4年10月29日第一小法廷判決・裁判集民事166号525頁参照)。このような場合には、当該事業年度に、損失については損金計上するが、損害賠償請求権は益金に計上しない取扱いをすることが許されるのである」、「ただし、この判断は、税負担の公平や法的安定性の観点からして客観的にされるべきものであるから、通常人を基準にして、権利(損害賠償請求権)の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえるような客観的状況にあったかどうかという観点から判断していくべきである。不法行為が行われた時点が属する事業年度当時ないし納税申告時に納税者がどういう認識でいたか(納税者の主観)は問題とすべきでない。」
ウ 日本美装事件は、上記のとおり、「不法行為による損害賠償請求権については、通常、損失が発生した時には損害賠償請求権も発生、確定しているから、これらを同時に損金と益金とに計上するのが原則」としつつ、「不法行為による損害賠償請求権については」、「直ちには権利行使(権利の実現)を期待することができないような場合があり得る」、「このような場合には、当該事業年度に、損失については損金計上するが、損害賠償請求権は益金に計上しない取扱いをすることが許される」としている。これは、「原則は同時両建説、例外的に異時両建説」という判断枠組みと見ることができる(脚注4)。そして、損害賠償請求権の益金算入時期が問題となる事例は、大きく分けて、①従業員や役員(代表取締役以外)が不法行為を行うパターン(文末の一覧表の事件1から事件5及び事件7から事件9。なお、以下では、同表の事件を「事件●」と表記する。)と、②代表取締役自身が不法行為を行うパターン(事件6)に分かれるが、日本美装事件以降の裁判例や裁決例は、いずれのパターンにおいても、日本美装事件が打ち立てた判断枠組みを採用するか、少なくともそれを意識しているように思われる。
  では、実際に、例外的に異時両建説に立つ裁判例、裁決例もあるのかというと、文末の一覧表のとおり、日本美装事件をはじめ、ほとんどのものが「通常人を基準にして、権利(損害賠償請求権)の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえる客観的状況にあった」とはいえないとして、原告、請求人の異時両建説に立った主張を排斥している状況にある(脚注5)。

3 検討―異時両建の余地はあるか

(1)このように、日本美装事件以降の裁判例、裁決例は、一般論としては異時両建説に立った結論となり得る場合があることを認めつつも、具体的な結論としては、同時両建説に立っているといえる。そこで、日本美装事件の判断枠組みの下で、実際に異時両建説の結論となり得る余地があるかを検討したい。
  まず、前提として、日本美装事件の判断枠組みによる場合、国(課税当局)は、同時両建説に立つ状況にあることの主張立証を行うことになるので、納税者である法人が、例外的に異時両建説に立つ状況にあることを基礎付ける事実を積極的に主張立証していく必要がある。つまり、納税者において「通常人を基準にして、権利(損害賠償請求権)の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえる客観的状況にあった」ことを具体的に主張立証していく必要がある、ということになる。
  以下では、上記2(2)ウの分析に従い、従業員や役員(代表取締役以外)が不法行為を行うパターン①と、代表取締役自身が不法行為を行うパターン②に分け、かつ、着服行為が発生した場合を類型化して検討することとする。
(2)パターン①について
 ア 偽装工作を見抜くことが難しいケース

 例えば、事件4は、不法行為者が、領得した特殊景品を日計表の「残」欄の数量から減らし、「出品」欄の数量を増やすという書換えをする一方で、日計表の「合計」欄や他の資料(景品移動リスト)には特に手を加えていない、という事案であった。つまり、偽装工作があるも、偽装された資料の他の箇所を確認したり、偽装資料以外の資料と照合を行っていれば、領得行為(不法行為)が発覚し得たというケースといえる。
 では、仮に不法行為者が日計表の「合計」欄や他の資料についても偽装を行っていたとしたら、どうであろうか。この点、そのような偽装によって、資料をチェックしても領得の事実を認識することが不可能又は非常に困難という状況にあるのであれば、「通常人を基準にして、権利(損害賠償請求権)の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえるような客観的状況」であったといえるように思われる。
 したがって、このようなケースでは、不法行為者による偽装工作が極めて周到に行われており、偽装を見抜くのが不可能又は著しく困難であったことの根拠事情を主張立証していくのがポイントと考える。
 イ 資料の照合を行っていないケース
 また、事件4では、偽装以外にも、資料の照合がポイントであったように思われる。事件1(日本美装事件)でも、裁判所は、「本件詐取行為は、経理担当取締役が本件預金口座からの払戻し及び外注先への振込み依頼について決裁する際にAが持参した正規の振込依頼書をチェックしさえすれば容易に発覚するものであった」、「また、決算期等において、会計資料として保管されていた請求書と外注費として支払った金額とを照合すれば、容易に発覚した」、「こういった点を考えると、通常人を基準とすると、本件各事業年度当時において、本件損害賠償請求権につき、その存在、内容等を把握できず、権利行使を期待できないような客観的状況にあったということは到底できない」と判示している。
 このことからすると、ある資料と他の資料を照合すれば不法行為に気付き得たにもかかわらず、照合を怠っていたり、照合がしっかりと行われていなかったりすると、通常人を基準にして「権利行使が期待できないといえるような客観的状況」であったとはいえないと考える。
 逆に言えば、資料の照合はしっかりと行っていたにもかかわらず、偽装を見抜くことが不可能又は著しく困難であった(上記ア参照)という事情があれば、通常人を基準にして「権利行使が期待できないといえるような客観的状況」であったとされる余地があるように思われる。
 ウ 不法行為者を信頼し、チェックが行われていなかったケース
 これは、例えば、不法行為者に対する信頼が厚く、不法行為者の対応を信じてチェックを行っていなかった、という場合である。このような場合は往々にしてあると思われるが、これが、通常人を基準にして「権利行使が期待できないといえるような客観的状況」であったといえるだろうか。
 この点、事件3では、違法行為が長期間発覚しなかった要因は資材課長による所要のチェックが行われていなかったことにあり、チェックを行っていれば違法行為は間違いなく発覚したのであるから、通常人を基準とすると「権利行使が期待できないといえるような客観的状況」とはいえなかったとされている。また、事件9では、領得者が代表者から業務について一任され、相当程度広範な権限を付与されており、チェックを行う体制が存在しなかったところ、領得者が権限を逸脱又は濫用することによって領得行為を行うことは十分想定し得た、とされているようである。
 このようなことからすれば、法人としては、万が一を想定して対策をしっかりと講ずるべき、ということになる。そうすると、チェック行為を行っていなかったり、そもそもチェック体制を構築していなかったのは、不法行為者に全幅の信頼を寄せていたためである、という事情があったとしても、通常人を基準とすると、「権利行使が期待できないといえるような客観的状況」であった、とはされないように思われる。
 事件3や事件9からすれば、法人としてはチェック体制を構築し、しっかりと機能させることが大前提といえ、そのようなチェック機能がしっかりと機能していたにもかかわらず、通常人からすれば、偽装工作に気付くのが不可能か極めて困難な状況であった、ということを主張立証するのが重要と考える。具体的には、上記アにも関連するが、社内チェックはしっかりと機能していたが、不法行為者による偽装工作が周到であり、見抜くことが不可能又は著しく困難であった、ということの根拠事情を主張立証していくのがポイントといえよう。
 エ 人員不足のためにチェックが十分行えなかったケース
 これは、例えば、チェック体制は存在していたものの、人員不足のために十分なチェックが行えなかった、というケースである。近年は人員不足が深刻化しており、このような場合も十分考えられるところである。
 しかし、上記ウでも挙げたように、法人としてチェック機能をしっかりと構築し、それを機能させることは「権利行使が期待できないといえるような客観的状況」であったことの大前提と考える。そうすると、人員不足を理由にチェックが行えなかったとしても、それをもって「権利行使が期待できないといえるような客観的状況」であった、とされるのは難しいように思われる。
 オ 小括
 このように、いくつかの場合を類型化して個別に検討したが、実際には、様々な事情から、通常人を基準とすると「権利行使が期待できないといえるような客観的状況」であったかどうかを総合的に判断することになると思われる。そうすると、以上の検討からすれば、パターン①の場合には、(i)資料の照合を含めて法人におけるチェック体制がしっかりと整備されていたこと、(ii)そのチェック体制に従ってチェックが行われたこと、(iii)不法行為者による偽装工作が周到に行われており、(ii)のチェックをもってしても偽装工作を見抜くのが不可能か著しく困難であったこと、の根拠事情を主張立証すれば、「通常人を基準にして、権利(損害賠償請求権)の存在・内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえる客観的状況にあった」ことが認められる余地があると解する。
 なお、経営側である役員が不法行為を認識していたような場合(事件2)や、法人が不法行為の可能性について顧問税理士から報告を受けていたような場合(事件8)、一般的には、その時点で不法行為を認識し得たといわざるを得ない。したがって、これらの場合、通常人を基準にすれば、「権利行使が期待できないといえるような客観的状況」にはなかったとされるのもやむを得ないように思われる。
(3)パターン②について
ア 代表取締役自身が不法行為を行うというパターン②について、今回は事件6しか見当たらなかったが、事件6において裁判所は、「代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有し(会社法349条4項)」ていることからすれば、「代表取締役が株式会社の業務として行った行為は、代表取締役の意思に基づくものである限り、その権限の濫用があったとしても、株式会社の行為であるというほかない。」、「原告の代表取締役であったCの本件各不法行為は、原告の業務に関して、Cの意思に基づいて行われたものであるから、原告の行為というべきであって、そうすると、原告にとって損害賠償請求権の存在及び内容は明らかであったといえるから、当該不法行為に基づく損害賠償請求権の実現可能性を客観的に認識することができたといえる。」、「原告は、本件各不法行為による損失については当該損失が生じた本件各事業年度の損金の額に算入し、これと同時に取得するCに対する損害賠償請求権も同事業年度の益金の額に算入すべきであったといえる。」、「本件各不法行為の加害者であるCが、原告の代表取締役として損害賠償請求権を行使することが事実上期待し難いなどの事情は、納税者自身の主観的な事情にすぎない」と判示している(脚注6)。
  このような考えに立つと、代表取締役が不法行為を行った場合、通常人を基準として、「権利行使が期待できないといえるような客観的状況」ということはほぼ想定し難く、事実上、同時両建説に立った以外の結論はない、ということになろう。
  しかし、会社法349条4項は、代表取締役の行為の効果帰属に関する規定であり、「原告の代表取締役であったCの本件各不法行為は、原告の業務に関して、Cの意思に基づいて行われたものであるから、原告の行為というべき」であることは言えるとしても、そこから直ちに「原告にとって損害賠償請求権の存在及び内容は明らかであった」ということまでは言えないのではないだろうか。このことは、消滅時効に関するものではあるが、「被害者が法人である場合に、その代表者が加害者に加担して共同不法行為が成立するような場合には、同代表者による損害賠償請求権の行使を現実に期待することはできないから、単に同代表者が損害及び加害者を知るのみでは、消滅時効の期間が進行することはないと解すべきである」(東京地判令和6年3月26日判例秘書L07930827)とし、代表者による認識が直ちに法人の認識とはならないとしている裁判例の存在からもうかがうことができる。
イ このように考えた場合、不法行為者が代表取締役である場合でも、そのことのみをもって、通常人を基準として「権利行使が期待できないといえるような客観的状況」ではない、とするのではなく、不法行為者が従業員等である場合と同様に、様々な事情を総合的に考慮して判断すべきように思われる。そうすると、この場合も、上記(2)オで述べた(i)から(iii)の根拠事情を主張立証していくことが重要と考える。

4 まとめ

 上記2(2)ウ及び文末の一覧表のとおり、日本美装事件以降の裁判例や裁決例では、結論として同時両建説の立場が支持されているが、本稿では、これらの裁判例、裁決例を分析し、通常人を基準にすれば、「権利行使が期待できないといえるような客観的状況」であった、すなわち、例外的に異時両建説が認められる場合が考えられるか、考えられるとしてそれは具体的にどのような場合であるかの検討を行った。そして、検討の結果、以下の根拠事情を主張立証していくことが重要であるという結論に至った。

(i)資料の照合を含めて法人におけるチェック体制がしっかりと整備されていたこと
(ii)そのチェック体制に従ってチェックが行われたこと
(iii)不法行為者による偽装工作が周到に行われており、(ii)のチェックをもってしても偽装工作を見抜くのが不可能か著しく困難であったこと

 この結論が正しいかどうかについては甚だ心許ない部分もあるが、本稿の分析、検討結果が、異時両建説に立つべきとする裁判例、裁決例が出てくることの後押しになるのであれば、望外の喜びである。


脚注
1 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC147G70U5A810C2000000/ 最終閲覧日:令和7年9月10日
2 週刊税務通信3854号(2025年6月9日号)12頁
3 上告棄却、上告不受理申立不受理で確定している(最決平成21年7月10日税資259号順号11243)。
4 渡辺徹也教授は、日本美装事件について、「一見同時両建説が原則と考えているようにみえるが、結論においては異時両建説を採用したといえよう」と評しておられる(渡辺徹也『スタンダード法人税〔第3版〕』(弘文堂、2023年)114頁)。確かに、引用した「もっとも」以下の判示内容からすれば、判断枠組みについてそのような理解も十分考えられるところである。ただ、日本美装事件の具体的な結論は、後述のとおり同時両建説に立っており、このようなことも踏まえて考えると、日本美装事件は、同時両建説が採用される場合があることを認めているといえるので、同事件の判断枠組みについては、本文のとおり、「原則は同時両建説、例外的に異時両建説」と考えることとする。
5 筆者の調査が不十分なために、例外的に異時両建説に立つとした裁判例、裁決例がある可能性はあるが、ただ、仮にそうだとしても、今回の調査結果からすれば、同時両建説の立場に立つ裁判例、裁決例の方が多いように思われる。
6 同時両建説に立った大栄プラスチック事件は、会計担当役員であり代表取締役でもあった者(「D」)による横領の事案であり、会社(納税者)は、申告時点ではこの横領の事実が会社には全く判明しなかったところである、という主張をしていた。これに対して最高裁は、横領を行った者が「それら申告について上告会社の責任者と認めうる者であり、しかも申告が適正を欠いたのは、同人の計上した仮装経費が損金に算入されたのによるのである。従つて、これを上告会社には右Dの不正が判らなかつたところとして同税を課しえないとする所論の到底肯認しがたい」と判示している。

番号 判決、
裁決年月日
事案の概要 判断枠組み 当てはめ 備考
1 東京高判平成21年2月18日(日本美装事件) 経理部長Aが外注費を架空計上し、それを自らの口座に送金していた事案 原則:
同時両建説
例外:
異時両建説

※ 判断枠組の詳細については、本文参照
「本件詐取行為は、経理担当取締役が本件預金口座からの払戻し及び外注先への振込み依頼について決裁する際にAが持参した正規の振込依頼書をチェックしさえすれば容易に発覚するものであった」、「また、決算期等において、会計資料として保管されていた請求書と外注費として支払った金額とを照合すれば、容易に発覚した」、「こういった点を考えると、通常人を基準とすると、本件各事業年度当時において、本件損害賠償請求権につき、その存在、内容等を把握できず、権利行使を期待できないような客観的状況にあったということは到底できない」
2 平成23年2月8日裁決・国税不服審判所ウェブサイト 事業部副部長Rが売上伝票の一部を抜き取るとともに、Rが開設した請求人の会計帳簿に記載のない「●●事業部」名義の普通貯金口座に、請求人に帰属する売上代金等を振り込ませる方法で不正に取得した事案 日本美装事件とほぼ同様の判断枠組み J常務が請求人の常務取締役であり、「J常務が本件不正行為の事実を把握していたと認められることからすると、請求人の経営に参画する常務取締役が本件不正行為の事実を把握していたのであるから、通常人を基準とすると、請求人において、本件損害賠償請求権の存在、内容等を把握し得ず、権利行使を期待できないといえるような客観的状況にあったということはできない」、そうすると、「本件損害賠償請求権の額は、本件不正行為による損失の発生した日の属する各事業年度の益金の額に算入される」
3 平成23年7月6日裁決・国税不服審判所ウェブサイト 請求人のd工場では、緊急に調達すべき原材料の配送等をM社に委託していたところ、d工場資材課で勤務していた使用人Kが同僚に対し、M社配送取引に係る配送等代金を水増ししてL社に請求するよう指示し、L社からM社に支払われた金員のうち、水増し分をPから受領していた事案 日本美装事件とほぼ同様の判断枠組み 「L社発行の納品伝票には、納品された現物と異なるものが記載され、M社に対する配送等代金分が含まれているにもかかわらず、資材課長による所要のチェックが行われていなかったことが、本件K取引が長期間発覚しなかった要因と認められ」、Kが担当していたL社との取引に係る納品伝票について「チェック等が確実に行われていれば、詐取行為は間違いなく発覚するものであったと認められる」、「このような点を総合考慮すると、通常人を基準とすれば、請求人は本件事業年度において【本件取引】に係る損害賠償請求権につき、その存在、内容等を把握できず、権利の行使を期待できないような客観的状況にあったということはできないから、本件損害賠償請求権の額は、本件事業年度において益金の額に算入すべきものと認められる」
4 広島地判平成25年1月15日税資263号順号12126(確定) 従業員Aが、原告において仕入れていた特殊景品の一部を抜き取り、景品交換所で現金と交換していた事案 日本美装事件とほぼ同様の判断枠組み 「本件不法行為は、Aが日計表の【特殊景品】の『残』欄の数量を減らし、同『出品』欄の数量を増やすといった書き換えを行うという方法でなされていたものの、Aは日計表の『合計』欄には手を加えていなかった」、のみならず、Aは、「①当該営業日分の景品移動リストの『実在庫』欄や②当該営業日分の景品移動リストの『総出庫』欄には、何ら手を加えていなかった」、日計表及び景品移動リストのいずれも、「原告代表者において、容易に確認することができたものといえるから、法人の代表者に一般的に要求される能力・水準を基準にして考えれば」、「本件不法行為当時には、原告代表者において、これに基づく損害賠償請求権の存在・内容等を把握し、権利行使が期待できるような客観的状況にあったものと認めることができる」
5 令和元年5月16日裁決・国税不服審判所ウェブサイト 請求人の従業員Gが、請求人の仕入れた商品をインターネットオークションで販売して得た収益を、G名義の口座で受領した事案 日本美装事件とほぼ同様の判断枠組み 本件商品の「窃取は、本件後期各事業年度において、反復継続して多数回にわたり行われ、その被害額は、1年当たり1000万円前後にも上るのであり、その態様は大胆なものであるから、本件後期各事業年度において仕入れに係る資料と売上げ及び棚卸しに係る資料とを照合すれば容易に発覚したものであると認められる」、「そうすると、通常人を基準とすると、本件後期各事業年度において」、「損害賠償請求権につき、その存在及び内容等を把握し得ず、権利行使を期待できないような客観的状況があったとはいえない」
6 大阪地判令和元年12月5日税資269号順号13352(確定) 原告の代表取締役CがBに対し、架空の広告宣伝費の請求を依頼し、Bは、原告から振り込まれた金銭をCに支払うなどしていた事案 同時両建説(ただし、備考欄参照) 「代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有し(会社法349条4項)」ていることからすれば、「代表取締役が株式会社の業務として行った行為は、代表取締役の意思に基づくものである限り、その権限の濫用があったとしても、株式会社の行為であるというほかない。」、「原告の代表取締役であったCの本件各不法行為は、原告の業務に関して、Cの意思に基づいて行われたものであるから、原告の行為というべきであって、そうすると、原告にとって損害賠償請求権の存在及び内容は明らかであったといえるから、当該不法行為に基づく損害賠償請求権の実現可能性を客観的に認識することができたといえる。」、「原告は、本件各不法行為による損失については当該損失が生じた本件各事業年度の損金の額に算入し、これと同時に取得するCに対する損害賠償請求権も同事業年度の益金の額に算入すべきであったといえる。」、「本件各不法行為の加害者であるCが、原告の代表取締役として損害賠償請求権を行使することが事実上期待し難いなどの事情は、納税者自身の主観的な事情にすぎない」 判断枠組みとしては同時両建説に立ちつつも、当てはめ段階では、日本美装事件を意識しているかのような表現が見える。
7

東京地判令和3年2月26日税資271号順号13530

※ 控訴審(東京高判令和3年9月15日税資271号順号13603)も地裁判断を維持(上告棄却、上告受理申立不受理で確定(最決令和4年3月10日税資272号順号13685))

エリア統括本部及び企画営業本部責任者Aが、会社に帰属すべき売買代金債権の一部を自己の支配するB社名義の口座に振り込ませていた事案 同時両建説 本件は、Aが原告に帰属すべき売買代金債権の一部を自己の支配するB名義の口座に振り込ませたという背任行為による損害であるが、平成25年3月25日に【取引先】からB名義の口座に5000万円が振り込まれた時点で、原告は同額の売買代金債権を失い、同額の損害賠償請求権を取得したことになるから、平成25年6月期の益金及び損金の額にはそれぞれ同額が計上されるべきであった。 

※ 平成26年8月期及び平成28年6月期にも同様の行為を行っていた。
本件では、損害賠償請求債権の益金算入時期は前提論点として扱われているに過ぎず、全面的な争点にはなっていない。
8 東京地判令和5年10月31日税資273号順号13898(確定) 原告代表取締役の子であった従業員Aが、実体のない業者(F商事)に対し、建物解体業務を外注した事実があるかのように装い、原告からF商事名義の口座に処理費名目で振り込ませた事案 日本美装事件の判断枠組みを簡略化した判断枠組みを採用 「原告は、遅くとも平成27年7月30日には、税理士から本件報告書に基づいた報告を受け」、「本件処理費に係る取引も含めた本件解体事業が実体のない取引であると認識したことが認められる」、そして、「原告は、平成27年6月末頃、Aを問い質した上、Aから本件処理費も含め本件解体事業に関する振込みが行われていた本件振込先口座の通帳の提供を受けていることが認められ、これらの事実によれば、実体がないとされる本件解体事業にAが大きく関与していることは容易に把握することができるというべきである」、「以上の点に照らせば、遅くとも平成27年7月30日の時点において、Aが、原告に実体のない本件解体事業を行わせ、本件処理費103万9230万円【原文ママ】の損害又は損失を被らせたことを理由とする原告のAに対する本件損害賠償請求権等が存在していることは容易に認識できる状況にあったというべきであり、その権利行使が期待できないといえるような客観的状況にはなかったと認められる。」
9 令和6年9月5日裁決(未公表) 請求人の従業員であり、営業統括部長であったAが、取引先が受け取る海上コンテナ運送料の一部をAと当該取引先経営者Bとで折半するというBの提案に応じ、当該取引先から運送料の一部の入金を受けていたという事案 日本美装事件とほぼ同様の判断枠組みと思われる。 Aは、発注金額の決定も含めて海上コンテナ輸送に係る営業上及び管理上の各業務を代表者から一任されて全て一人で行い、A以外に海上コンテナ輸送業務に関する金銭の請求及び管理に関与する者は存在せず、請求人から相当程度広範な権限を付与されていた。請求人は、Aがそのような権限を逸脱又は濫用することにより、本件受領行為を行うことを十分想定し得たといえ、請求人が、本件受領行為が実行された時点で本件受領行為を認識していなかったとしても、そのことから、通常人も本件受領行為を認識し得なかったことにはならない。 本裁決は未公表のため、週刊税務通信3854号(2025年6月9日号)12頁の記事を参考にした。

向笠太郎 (むかさ たろう)
2009年上智大学法科大学院修了。10年弁護士登録。18年から22年まで東京国税不服審判所において任期付公務員(国税審判官)として勤務し、現在は、弁護士法人日本クレアス法律事務所所属。最近の著書、論文としては、『国税組織の実務経験者が説く 弁護士として気付きたい 法律相談事案の隠れた税務問題』(共著、第一法規、2025年)、「対談・要件事実論の租税実務への活かし方−具体的裁判事例を元に」本誌1079号4頁(前編)及び本誌1080号4頁(後編)、「名義株の判断方法−裁判例の分析を中心に」税経通信2025年7月号28頁、『景品表示法の法律相談〔第3版〕』(共著、青林書院、2025年)、「グループ通算制度についての一考察−個別的否認規定の不当性要件を考える−」本誌1067号17頁等がある。

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