解説記事2020年04月20日 SCOPE 株主の不規則発言で株主総会決議が違法とは言えず(2020年4月20日号・№831)
議長の裁量権逸脱とは認めず
株主の不規則発言で株主総会決議が違法とは言えず
株主総会決議の方法に法令・定款違反があったか否かが争われた裁判で東京地方裁判所(坂田大吾裁判官)は令和2年1月29日、株主総会の議長を務めたのは取締役社長であり、実際の議事進行を他の出席者に委ねることは議長権限として妨げられないとした。また、不規則発言を繰り返した株主を退場させなかったことは議長としての裁量権の逸脱、濫用に当たるとまでは認め難いと指摘。原告の請求を棄却した。
全員出席総会などの特段の事情がない限り再任決議は不存在も
本件は、被告の株主でありかつ監査役である原告が、被告の平成30年6月27日付けの第53回株主総会における決議の方法には法令・定款違反があったなどと主張して、株主総会における被告の取締役3名の選任決議及び監査役1名の選任決議の各取消しを求めた事案である。事件の経緯をみると、第53回株主総会ではA、B、Cを取締役に選任し、Dを監査役に選任。その後、本件訴訟の係属中の令和元年6月27日に開催された第54回株主総会では、株主総会終結時で任期満了となるA、B、Cが取締役として再任された。また、監査役のDに関しては、「第53回定時株主総会取消の判決確定を停止条件として、万一の予備的な意味あいで、同人の監査役選任を本総会時に遡及して効力を有するものとして決議すること」との株主提案に基づき、Dを監査役に再任する決議が行われた。
原告は、定款では被告の取締役社長が株主総会の議長となる旨定めているところ、本件株主総会においては別の取締役が進行の補助と称して実質的に議長の権限を行使したほか、議長らが株主の不規則発言を放置したなどと主張した(表参照)。

議長の意思に基づき議事進行を委任
裁判所は、まず取締役選任決議の取消しを求める部分の適法性について、取締役選任決議が取り消された場合には、同決議により選任された取締役が招集手続に関与した第54回株主総会における取締役再任決議はいわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り不存在であると解されると指摘。特段の事情も認められない本件では、第54回株主総会において取締役再任決議がされたとしても、取締役選任決議の取消しを求める部分の訴えの利益は失われないとした。
その上で裁判所は、取締役選任決議が取り消し得るものであるか否かについては議長がその立会いの下で実際の議事進行を他の出席者に委ねることは議長の権限として妨げられないものと解されるとし、本件株主総会の経過によれば、株主総会の議長を務めたのは取締役社長であったAであり、Cは議長であるAの立会いと監修の下、同人の意思に基づいて議事進行を委ねられていたにすぎないと認めるのが相当であるとした。
また、株主であるNが不規則発言を繰り返したこと、A及びCは株主Nを退場させなかったことが認められるが、議長としての裁量権の逸脱、濫用に当たるとまでは認め難いし、原告は監査役選任に関する議案の意見陳述の機会を与えられていることから、裁判所は不規則発言により株主総会決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なものとなったと認めることはできないとの判断を示した。
監査役再任決議の出訴期間が経過
監査役選任決議の取消しを求める部分の適法性については、本件訴えの係属中に、第54回株主総会で監査役選任決議の取消しを停止条件としてDを監査役に選任する旨の監査役選任決議と同一内容の監査役再任決議を行っており、監査役再任決議の取消しの訴えの出訴期間が経過していると裁判所は指摘、仮に監査役選任決議を取り消したとしても、判決の確定により、監査役再任決議が効力を生ずることになるため、本件監査役選任決議の取消しを求める実益はないとした。
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