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解説記事2025年09月29日 ニュース特集 米国スピンオフに係る源泉徴収税額をめぐり東京地裁が注目判決(2025年9月29日号・№1092)

ニュース特集
新株全額をみなし配当の対象とした証券会社に賠償命じる
米国スピンオフに係る源泉徴収税額をめぐり東京地裁が注目判決


 米国法人(AT&T)が行ったスピンオフをめぐり、スピンオフにより原告株主が取得した新株(WBD株式)の全額をみなし配当の対象として1万5,923円を源泉徴収した証券会社に対して、新株を取得した原告株主が源泉所得税等の一部返還を請求していた民事訴訟で東京地裁は令和7年7月28日、証券会社に対して損害賠償を命じる判決を下した(確定済み)。東京地裁は、新株の評価額全部がみなし配当額になるとすることは法的根拠を欠くなどと指摘したうえで、原告株主の自認する部分(565円)を超える1万5,358円の支払いを証券会社に対して命じた。本誌取材によると、被告証券会社と同様に株主に対して新株全額をみなし配当の対象として源泉徴収をしていた証券会社は被告証券会社の他にもあるもようだ。本件は個別事案ではあるものの、確定判決だけに原告以外の他の株主の源泉徴収に対する影響も注目される。また、他の米国法人が行ったスピンオフに係る源泉徴収に対する影響も注目されそうだ。 ※今号に判決全文掲載

源泉徴収の対象となる「みなし配当」の範囲が問題に

 本件における米国スピンオフは、米国法人であるAT&Tがその事業の一部を切り離す会社分割(分割型分割)を行い、これに伴いAT&Tの株主に対して同社株式1株当たり、新設会社であるWBDの株式を0.241917株割り当てるというものである。被告証券会社に証券総合口座及び外国証券取引口座を開設していた原告株主は、AT&T株式を100株保有していたことから、本件におけるスピンオフによりWBD株式24.1917株の割当てを受けた。被告証券会社は、WBD株式の評価金額7万8,383円の全額がみなし配当として課税対象となることを前提に算出した1万5,923円を源泉徴収して税務署に納付していた。
 これに対し原告株主は、WBD株式の交付に対して源泉徴収がされるべき所得税等は565円を超えないと主張して、565円を超える1万5,358円の返還を求める本件訴訟を提起した。原告株主の主張に対し被告証券会社は、源泉徴収は適法であるから、原告株主に対して源泉徴収の額に相当する預託金を返還する義務を負うものではないと反論した。具体的に被告証券会社は、外国株式について株式配当があった場合の源泉徴収については必要な情報を必要な時点で全て取得することが困難であることから各証券会社においてその取扱いが区々になっており、税務当局も明確な方針を示しておらず、証券業界内でも統一した結論が得られていないと指摘。また、現地入庫日の終値で割当株式を時価評価してその全額をみなし配当額として取り扱うこととする運用で数十年以上取り扱ってきたが、その間に行われた税務当局の調査の際にも違法を指摘されたことはないなどと指摘したうえで、本件における源泉徴収は適法であると主張していた。

本件米国スピンオフに係る源泉徴収、証券会社により異なる対応
 本件における米国スピンオフに係る所得税等の源泉徴収に関する対応は、証券会社により異なっていることが本誌取材により確認されている。具体的には、①被告証券会社と同様に新株の全額をみなし配当として源泉徴収を行っているケース、②新株の評価額に対して一部源泉徴収を行っているケース、③源泉徴収をまったく行っていないケースの3つのパターンによる対応がなされているようだ。

必要な情報取得が困難でも評価額全部がみなし配当額と推認できず

 東京地裁はまず、本件における会社分割が所得税法25条1項2号にいう分割型分割に当たり、WBD株式の交付が同項柱書所定の範囲で同法24条1項にいう配当とみなされ、課税対象となり、その場合に被告証券会社がWBD株式の交付に際して租税特別措置法9条の3の2にいう支払の取扱者としてその源泉徴収を行うこととなると判断した。
 そして東京地裁は、WBD株式の交付が所得税法24条1項の配当等とみなされ課税対象となるのは、飽くまでWBD株式の価額の合計額がAT&Tの資本金等の額のうちその交付の基因となったAT&Tの株式に対応する部分の金額を超えるときであり、かつ、その超える部分に限られると指摘。そのうえで東京地裁は、WBD株式の価額の合計額がAT&Tの資本金等の額のうちその交付の基因となったAT&Tの株式に対応する部分の金額を超えること及びその超過額についての主張立証はされていないと指摘したうえで、AT&Tの資本金等の額のうちその交付の基因となったAT&Tの株式に対応する部分の金額を判断するために必要な情報を必要な時点で全て取得することが困難であるとしても、このことをもって直ちに同金額が0円であり、WBD株式の評価額全部がみなし配当額になると推認することはできないという判断を示した。
 さらに東京地裁は、調査嘱託の結果によりA証券会社が同社の契約する情報ベンダーからの情報に基づき本件における株式分割に関してWBD1株当たりのみなし配当額を0.9263127ドルと算定して源泉徴収等を行ったことが認められると指摘したうえで、これは被告証券会社が採用したWBD1株当たりの評価額(=みなし配当額)26.00ドルとは大きく異なっており、AT&Tの資本金等の額のうちその交付の基因となったAT&Tの株式に対応する部分の金額がその評価額のうち相当大きな割合を占めることがうかがわれるという見解を示した。
 以上を踏まえ東京地裁は、WBD株式の価額の合計額のうち、AT&Tの資本金等の額のうちその交付の基因となったAT&Tの株式に対応する部分の金額を超える部分の有無及びその額を積極的に認定することは困難であって、被告証券会社の主張する諸事情を考慮しても、WBD株式の評価額全部がみなし配当額になるとする法的根拠を欠き、被告証券会社のした源泉徴収税額のうち原告株主の自認する565円を超えて1万5,358円を徴収した部分は適法な源泉徴収等であったとは認められないと判断したうえで、1万5,358円の支払いを被告証券会社に命じた。
地裁、原告株主が求めた慰謝料は認めず
 なお、本件で原告株主は、被告証券会社に対して慰謝料5万円の支払いも請求していた。この点に関し原告株主は、被告証券会社に対して繰り返し本件における源泉徴収が所得税法25条に違反するものであるとして、誤徴収相当額の返還を求めるなどしたが被告証券会社がこれに応じなかったと指摘。また、そのために原告株主側は所轄税務署や国税相談室に相談するほか、国税庁宛てに意見書を送付して最終的に本訴を提起することになったと指摘した。これらを踏まえ原告株主は、被告証券会社の対応により精神的苦痛や時間的負担を強いられたとして、被告証券会社に対して慰謝料5万円を請求し得ると主張した。これに対し東京地裁は、原告株主が被告証券会社に対して有する1万5,358円の預託金返還請求権の履行により原告株主の経済的損失は補填されることになることなどを指摘したうえで、原告株主が求めた慰謝料の請求は斥けている。

過大な源泉徴収税額は源泉義務者に請求、確定申告での精算は認められず
 源泉徴収義務者が適法な源泉徴収を行っていなかった場合には、例えばそれが過大な源泉徴収であれば、その過大分は源泉徴収義務者に支払い(返還)を求めることになる。受給者の方で所得税の確定申告による還付請求などで過大分を精算することはできないと解されている。この点に関し最高裁平成4年2月18日第三小法廷判決では、源泉所得税と申告所得税との各租税債務の間には同一性がなく、源泉所得税の納税に関しては、国と法律関係を有するのは支払者のみで、受給者との間には直接の法律関係を生じないものとされていることなどを指摘したうえで、給与等の受給者が支払者により誤って所得税の源泉徴収をされた場合においてその年分の所得税の額から誤徴収額を控除して確定申告をすることはできない旨が判示されている。

東京地裁平成21年判決、米国スピンオフによる新株取得はみなし配当に該当
 東京地裁平成21年11月21日判決の事案は、米国スピンオフをめぐり原告である証券会社が被告である株主に対して源泉徴収税額相当分の支払いを請求していた民事訴訟である(本誌413号9頁参照)。この東京地裁判決では、米国法人A社がスピンオフの形式で分社化したB社及びC社株式のA社株主に対する割当てに関して「割当てによって取得したB社及びC社株式のうちA社の資本剰余金を原資とする部分は、剰余金等の留保利益から成るものであって、その実態において配当利益と異ならないものであるから、A社の資本金等のうち払戻しの基因となった被告の出資額に対応する部分を超えれば、所得税法25条1項3号(平成19年改正前のもの)に規定する法人の資本の払戻しとして、みなし配当に該当するというべきである」と判示されていた(原告である証券会社の請求認容)。この東京地裁判決の判断内容は、控訴審(東京高裁平成22年8月4日判決)及び上告審(最高裁第一小法廷平成23年4月21日判決・同決定)においても支持されている。

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