解説記事2025年10月06日 未公開判決事例紹介 当初申告要件を巡るCFC税制の適用可否(2025年10月6日号・№1093)
未公開判決事例紹介
当初申告要件を巡るCFC税制の適用可否
東京地裁、当初申告要件に合理性あり
本誌1076号40頁で紹介した法人税更正処分等取消請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。
〇外国子会社合算税制の適用を巡る裁判で、東京地方裁判所(鎌野真敬裁判長)は令和7年5月16日、課税処分は適法との判断を示し、原告の請求を棄却した(令和5年(行ウ)第94号)。原告は、控除明細書の添付という当初申告要件を満たさなかったために、特定外国子会社等が「子会社」から受けた配当等の金額を基準所得金額の計算上控除することが認められず、これを不服として争ったが、東京地裁は、外国子会社合算税制の目的等から、当該当初申告要件には合理性があり、政令への委任の範囲を逸脱するものではないと結論づけた。
主 文
1 本件訴えのうち別紙2訴え却下部分目録記載の部分を却下する。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 渋谷税務署長が令和3年7月7日付けで原告に対してした平成30年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税の更正処分(以下「本件法人税増額更正処分」という。)のうち所得金額4999万6894円、納付すべき法人税額1169万9000円を超える部分及び法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件法人税加算税賦課決定処分」という。)のうち加算税の額167万9000円を超える部分を取り消す。
2 (主位的請求)
渋谷税務署長が令和6年6月28日付けで原告に対してした平成30年1月1日から同年12月31日までの課税事業年度の地方法人税の更正処分(以下「本件地方法人税増額再更正処分」という。)のうち課税標準法人税額1169万9000円、納付すべき地方法人税額51万4700円を超える部分を取り消す。
(予備的請求)
渋谷税務署長が令和3年7月7日付けで原告に対してした平成30年1月1日から同年12月31日までの課税事業年度の地方法人税の更正処分(以下「本件地方法人税増額更正処分」という。)のうち課税標準法人税額1169万9000円、納付すべき地方法人税額51万4700円を超える部分を取り消す。
3 渋谷税務署長が令和3年7月7日付けで原告に対してした平成30年1月1日から同年12月31日までの課税事業年度の地方法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件令和3年地方法人税加算税賦課決定処分」という。)のうち加算税の額4万9000円を超える部分を取り消す。
4 渋谷税務署長が令和6年6月28日付けで原告に対してした平成30年1月1日から同年12月31日までの課税事業年度の地方法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件令和6年地方法人税加算税賦課決定処分」という。)を取り消す。
第2 事案の概要
1 事案の骨子
内国法人である原告は、平成30年1月1日から同年12月31日までの事業年度又は課税事業年度(以下、併せて「本件事業年度」という。)に係る法人税及び地方法人税(以下「法人税等」という。)の申告をしたところ、渋谷税務署長から、租税特別措置法(平成29年法律第4号による改正前のもの。以下「措置法」という。)66条の6第1項の規定により、スイス連邦(以下「スイス」という。)に所在する原告の子会社である××××(以下「CIS社」という。)並びに中華人民共和国(以下「中国」という。)香港特別行政区(以下「香港」という。)に所在するCIS社の子会社である×××× Ltd.(以下「CIL社」といい、CIS社と併せて「CIS社等」という。)及び×××× Ltd.(以下「CPP社」という。)の後記2(1)の課税対象金額に相当する金額が、原告の本件事業年度の所得金額の計算上、益金の額に算入されるなどとして、法人税等の各増額更正処分(本件法人税増額更正処分及び本件地方法人税増額更正処分)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(本件法人税加算税賦課決定処分及び本件令和3年地方法人税加算税賦課決定処分)を受けた。その後、原告は、本件事業年度の法人税について更正の請求をしたことに伴い、渋谷税務署長から、法人税については減額再更正処分及び本件法人税加算税賦課決定処分の減額変更決定処分を受けるとともに、地方法人税については本件地方法人税増額再更正処分及び本件令和6年地方法人税加算税賦課決定処分を受けた。
本件は、原告が、被告を相手に、①本件法人税増額更正処分及び本件法人税加算税賦課決定処分の各一部の取消し、並びに②本件地方法人税増額再更正処分(予備的に本件地方法人税増額更正処分)及び本件令和3年地方法人税加算税賦課決定処分の各一部並びに本件令和6年地方法人税加算税賦課決定処分の取消しを求める事案である。
2 関係法令の定め
本件に関係する法令の定めは、別紙3−1~3のとおりであり、その概要は以下のとおりである。
(1)外国子会社合算税制のうち本件に関係する規定の概要
措置法66条の6第1項は、同項各号に掲げる内国法人に係る同条2項1号の外国関係会社のうち、本店又は主たる事務所の所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社に該当するもの(以下「特定外国子会社等」という。)が、各事業年度において適用対象金額を有する場合には、その適用対象金額のうち、その内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するものとしてその株式等の請求権の内容を勘案して所定の方法により計算した金額(以下「課税対象金額」という。)に相当する金額を、その内国法人の収益の額とみなして当該各事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日を含むその内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する旨を規定する。
同項2号(以下「本件委任規定」という。)は、ここでいう「適用対象金額」とは、特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき法人税法及び措置法による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるものとして政令で定める基準により計算した金額(以下「基準所得金額」という。)を基礎として所定の調整を加えた金額をいう旨を規定する。
これを受け、租税特別措置法施行令(平成29年政令第114号による改正前のもの。以下「措置令」という。)39条の15第1項は、基準所得金額は、特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき、法人税法及び措置法の諸規定の例に準じて計算した場合に算出される所得の金額又は欠損の金額(1号)及び当該各事業年度において納付する法人所得税の額(2号)の合計額から、当該所得の金額に係る当該各事業年度において還付を受ける法人所得税の額(3号)及び当該各事業年度において同項4号所定の「子会社」(以下、単に「「子会社」」という。)から受ける配当等の額(法人税法23条1項1号及び2号に掲げる金額をいう。以下同じ。)(4号)の合計額を控除した残額とする旨を規定する。
そして、措置令39条の15第8項(以下「本件規定」という。)は、本文において、同条1項4号の規定により当該各事業年度において控除されることとなる金額があるときは、当該各事業年度に係る確定申告書に当該金額の計算に関する明細書(以下「控除明細書」という。)の添付がある場合に限り、当該金額を当該各事業年度の基準所得金額の計算上控除する旨を規定し、ただし書において、その添付がなかったことについて税務署長がやむを得ない事情(以下、単に「「やむを得ない事情」」という。)があると認める場合において、控除明細書の提出があったときは、この限りでない旨を規定する。
(2)外国子会社配当益金不算入制度のうち本件に関係する規定の概要
法人税法23条の2第1項は、内国法人が同項所定の外国子会社(以下、単に「外国子会社」という。)から受ける剰余金の配当等の額(同法23条1項1号に掲げる金額をいう。以下同じ。)がある場合には、当該剰余金の配当等の額から当該剰余金の配当等の額に係る費用の額に相当する金額を控除した金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない旨を規定する。
平成23年法律第114号による改正(以下「平成23年12月税制改正」という。)前の法人税法23条の2第3項は、同条1項の規定は、確定申告書に益金の額に算入されない剰余金の配当等の額及びその計算に関する明細の記載があることなどの所定の要件を満たす場合に限り、適用する旨を規定していた(以下、同条第3項や本件規定のように、特定の規定の適用の前提として、確定申告書に所定の書類の記載又は添付があることを要件とする規定を「当初申告要件」という。)。
平成23年12月税制改正により、外国子会社配当益金不算入制度においては当初申告要件が撤廃され、法人税法23条の2第1項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に益金の額に算入されない剰余金の配当等の額及びその計算に関する明細を記載した書類の添付があることなどの所定の要件を満たす場合に限り、適用することとなり、確定申告時に剰余金の配当等の額及びその計算に関する明細を明らかにしなかった場合でも、修正申告時や更正の請求時に明らかにすれば同項の規定の適用があることとなった。
3 前提事実
(1)原告等(争いなし)
ア 原告は、産業用ポンプ・コンプレッサ等の産業用機器及びこれらのシステムの製造及び販売を営む会社等の株式等を所有することによる当該会社等の事業活動の支配・管理などを目的とする株式会社である。
イ CIS社は、スイスに所在する法人であり、原告は、2017年(平成29年)8月21日、米国に所在する法人から株式譲渡契約に基づいてCIS社の発行済株式の100%を取得した。CIS社は、本件事業年度において、原告に係る特定外国子会社等であった。
ウ CIL社は、香港に所在する法人であり、平成6年10月25日以降、その発行済株式の100%をCIS社が保有している。CIL社は、本件事業年度において、原告に係る特定外国子会社等であり、CIS社の2017年(平成29年)1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「本件CIS社事業年度」という。)において、CIS社に係る「子会社」であった。
エ CPP社は、香港に所在する法人であり、本件事業年度において、原告に係る特定外国子会社等であった。
オ ××××(以下「MAY社」という。)は、マレーシア連邦において設立された法人であり、平成8年5月27日以降、その発行済株式の100%をCIS社が保有している。MAY社は、本件CIS社事業年度において、CIS社に係る「子会社」であった。
カ ×××× Co.,Ltd(以下「HAN社」という。)は、中国において設立された法人であり、平成8年3月19日以降、その発行済株式の100%をCIL社が保有している。HAN社は、CIL社の2017年(平成29年)1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「本件CIL社事業年度」といい、本件CIS社事業年度と併せて「本件CIS社事業年度等」という。)において、CIL社に係る「子会社」であった。
(2)確定申告の状況(乙1)
原告は、法定申告期限内の平成31年3月29日、渋谷税務署長に対し、本件事業年度の法人税等の申告をした。
原告は、同申告において、CIS社等及びCPP社が本件CIS社事業年度等(CPP社については、2017年(平成29年)1月1日から同年12月31日までの事業年度)において有する適用対象金額のうち課税対象金額に相当する金額を、原告の本件事業年度における所得の金額の計算上、益金の額に算入しておらず、同申告に係る確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に控除明細書の添付もしていなかった。
(3)控除明細書の提出(甲7、乙2)
原告は、令和3年6月29日、本件事業年度の法人税等の申告に係る控除明細書(以下「本件控除明細書」という。)を渋谷税務署に提出した。
本件控除明細書には、CIS社が本件CIS社事業年度においてCIL社及びMAY社から受けた配当等の額の合計が、2243万2683スイスフラン(なお、本件控除明細書とともに提出された資料上は合計2243万2707スイスフラン)である旨、及びCIL社が本件CIL社事業年度においてHAN社から受けた配当等の額の合計が、1億6746万香港ドルである旨が記載されていた(以下、これらの配当等の額を併せて「本件各配当の額」という。)。
(4)法人税等の増額更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(甲1の1・2)
渋谷税務署長は、令和3年7月7日付けで、原告に対し、CIS社等及びCPP社が本件CIS社事業年度等(CPP社については、2017年(平成29年)1月1日から同年12月31日までの事業年度)において有する適用対象金額のうち課税対象金額に相当する金額は、原告の本件事業年度における所得の金額の計算上、益金の額に算入することになるところ、本件確定申告書に控除明細書の添付がなく、これについて「やむを得ない事情」があるとは認められないから、本件各配当の額を、CIS社の本件CIS社事業年度の基準所得金額及びCIL社の本件CIL社事業年度の基準所得金額の計算上控除できないなどとして、別表1の「更正処分及び賦課決定処分」欄のとおり、本件法人税増額更正処分及び本件法人税加算税賦課決定処分(以下、これらを併せて「本件法人税増額更正処分等」という。)をし、別表2の「更正処分及び賦課決定処分」欄のとおり、本件地方法人税増額更正処分及び本件令和3年地方法人税加算税賦課決定処分をした。
(5)審査請求(甲2)
ア 原告は、令和3年10月4日、国税不服審判所長に対し、前記(4)の更正処分等の一部を不服として、これらの取消しを求める審査請求をした。
イ 国税不服審判所長は、令和4年9月6日付けで、前記アの審査請求を棄却する旨の裁決をした。
(6)本件訴えの提起(顕著な事実)
原告は、令和5年2月28日、前記(4)の更正処分等の一部の取消しを求める本件訴えを提起した。
(7)法人税の減額再更正処分等及び地方法人税の増額再更正処分等(乙34、35、37~40)
原告は、令和6年3月14日、CIL社が本件CIL社事業年度において納付した配当収入に係る源泉所得税の額が措置法66条の7第1項及び法人税法69条1項により本件事業年度の法人税額から控除されるなどとして、更正の請求をした。
渋谷税務署長は、同年6月28日付けで、原告に対し、CIL社が本件CIL社事業年度において納付した配当収入に係る源泉所得税の額を法人税額から控除する一方、措置法66条の7第3項により、上記控除に係る金額を本件事業年度における原告の益金の額に算入して、別表1の「再更正処分及び変更決定処分」欄のとおり、本件法人税増額更正処分の減額再更正処分(以下「本件法人税減額再更正処分」という。)及び本件法人税賦課決定処分の減額変更決定処分(以下「本件法人税加算税減額変更決定処分」といい、本件法人税減額再更正処分と併せて「本件法人税減額再更正処分等」という。)をし、別表2の「再更正処分及び賦課決定処分」欄のとおり、本件地方法人税増額再更正処分及び本件令和6年地方法人税賦課決定処分をした。
その上で、本件法人税減額再更正処分による納付すべき税額を下回る部分の更正の請求については、更正をすべき理由がない旨の通知処分がされた。
(8)訴えの変更(顕著な事実)
原告は、令和6年12月19日、本件地方法人税増額再更正処分の一部の取消しを求める訴えを追加し、従前の本件地方法人税増額更正処分の一部の取消しを求める訴えをその予備的請求にするとともに、本件令和6年地方法人税賦課決定処分の取消しを求める訴えを追加する訴えの変更をした。
4 更正処分等に係る課税の根拠及び計算
被告が主張する原告の本件事業年度の法人税に係る所得金額及び納付すべき法人税額は、別表3及び4のとおりであって、本件法人税増額更正処分(本件法人税減額再更正処分により一部取り消された後のもの)における額と同額であり、被告が主張する上記法人税額を基礎として計算される過少申告加算税の額は、本件法人税加算税賦課決定処分(本件法人税加算税減額変更決定処分により一部取り消された後のもの)と同額である。
また、被告が主張する原告の本件事業年度の地方法人税に係る課税標準法人税額及び納付すべき地方法人税額は、別表5のとおりであって、本件地方法人税増額再更正処分における額と同額である。そして、本件地方法人税増額再更正処分における差引納付すべき地方法人税額は、本件地方法人税増額更正処分における差引納付すべき地方法人税額4605万8700円を236万3800円上回るところ、被告が主張する本件地方法人税増額更正処分における差引納付すべき地方法人税額4605万8700円を基礎として計算される過少申告加算税の額は、本件令和3年地方法人税加算税賦課決定処分における額と同額であり、本件地方法人税増額再更正処分により新たに納付すべきこととなった地方法人税額236万3800円を基礎して計算される過少申告加算税の額は、本件令和6年地方法人税加算税賦課決定処分における額と同額である。
原告は、後記5において争点となっている点を除き、これらを争うことを明らかにしない。
5 争点
(1)本件規定が本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否か
(2)本件規定を本件の事実関係の下で適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否か
(3)本件確定申告書に控除明細書の添付がなかったことについて「やむを得ない事情」があるか否か
6 争点に関する当事者の主張の要旨
(1)本件規定が本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否か
(被告の主張)
ア 本件委任規定の委任の範囲について
外国子会社合算税制は、内国法人が軽課税国に設立した子会社を利用して我が国における租税負担を回避するような事態を防止するため、特定外国子会社等の有する適用対象金額のうち課税対象金額に相当する金額を内国法人の所得とみなして合算して課税するというものであるところ、適用対象金額の算定の基礎となる基準所得金額は、特定外国子会社等が所在する各国の税制にとらわれず、我が国の法人税法及び措置法による所得の金額の計算に準じて計算されるべきであり、本件委任規定は、外国子会社合算税制の目的を実現するに当たって、我が国の法人税等の仕組みと各国の制度を勘案した上で、基準所得金額をどのように計算するか、計算の基礎とする数値をいかなる資料から採用するかなどの優れて技術的かつ細目的な事項を政令に委任しているものである。
そして、措置令39条の15第1項4号は、外国子会社配当益金不算入制度において、内国法人が一定の外国子会社から受ける剰余金の配当等の額につき益金の額に算入しないこととされていることとのバランスを考慮して、外国子会社合算税制における特定外国子会社等の基準所得金額の算定においても、特定外国子会社等がその「子会社」から受ける配当等の額を控除することとしているものであるところ、平成23年12月税制改正前の外国子会社配当益金不算入制度において当初申告要件が規定されていたことから、措置令39条の15第1項4号についても当初申告要件として本件規定が規定されたものである。
したがって、本件規定は、我が国の法人税法及び措置法による所得の金額の計算に準ずるための技術的かつ細目的な事項を定めるものであって、本件委任規定の委任の範囲を逸脱するものではない。
イ 平成23年12月税制改正について
平成23年12月税制改正において、当初申告要件が設けられている規定のうち、その目的・効果や課税の公平の観点から、事後的な適用を認めても問題がないものについては当初申告要件を撤廃することとなり、外国子会社配当益金不算入制度においては当初申告要件が撤廃されたが、外国子会社合算税制においては当初申告要件である本件規定は撤廃されなかった。
しかし、本件委任規定の文言に照らせば、外国子会社合算税制に、外国子会社配当益金不算入制度の規定と完全に一致する規定を設けることまでは必要ない。
そもそも平成23年12月税制改正前の外国子会社配当益金不算入制度に当初申告要件が設けられていた趣旨は、納税者において自ら正確に益金不算入額を確定申告書に記載させることにより、当該制度の適用を受ける意思表明をさせることにある一方、外国子会社合算税制の措置令39条の15第1項4号に係る当初申告要件である本件規定の趣旨には、上記と類似する趣旨に加え、課税当局において、同号の要件該当性の判断の根拠となる資料を納税者から早期かつ確実に収集し、その判断を適正かつ迅速にできるようにすることもある。外国子会社配当益金不算入制度においては、納税者が確定申告書に添付する納税者の損益計算書(法人税法74条3項)に外国子会社から受けた配当等の額が記載されているため、課税当局が早期かつ確実な資料収集をできるようにすることまでは要しない一方、外国子会社合算税制においては、特定外国子会社等がその「子会社」から受ける配当等の額は、納税者自身の損益計算書には記載されていないし、納税者は、特定外国子会社等の存在自体を課税当局に申告しないようにしようとするため、課税当局が特定外国子会社等の損益計算書等を早期かつ確実に資料収集できるようにすることも趣旨となっているのである。
これを前提とすると、外国子会社配当益金不算入制度においては、当該制度の適用を受けることの意思表明自体は、必ずしも確定申告の際にされる必要はないといえるため、平成23年12月税制改正において、当初申告要件を撤廃しても問題ないとされた一方、外国子会社合算税制においては、当初申告要件を撤廃すると、課税当局が早期かつ確実に資料収集することができなくなってしまうのであり、本件規定を撤廃しなかったことは合理的である。
そうすると、平成23年12月税制改正を踏まえても、本件規定は、本件委任規定の委任の範囲を逸脱するものではない。
(原告の主張)
ア 本件委任規定の委任の範囲について
本件委任規定の文言において法人税法等による「所得の金額の計算に準ずるものとして政令で定める基準」とある以上、政令には「金額の計算」についての技術的かつ細目的な事項しか規定できないと解すべきである。
そうすると、本件規定のように課税要件を加重する手続規定を定めることはできないから、本件委任規定の委任の範囲を逸脱するといえる。
イ 平成23年12月税制改正について
本件委任規定の文言に法人税法等による所得の金額の計算に「準ずる」とあり、外国子会社合算税制の趣旨も踏まえれば、政令においては、特定外国子会社等の有する適用対象金額の基礎となる基準所得金額の算定につき、法人税法等による所得の金額の計算と同じような計算をする規定を置く必要があると解すべきである。本件規定は、外国子会社配当益金不算入制度の当初申告要件に「準ずる」ものとして規定されているところ、平成23年12月税制改正により、当該制度の当初申告要件が撤廃された以上、本件規定はその存立の基礎が失われたこととなる。また、本件委任規定の授権の範囲を判断するに当たっては、平成23年12月税制改正の趣旨が、税関係の早期安定よりも課税の基礎となる実体的な真実の発見を重視し、もって納税者の権利保護を図ることにあると解されることも踏まえつつ、本件規定により納税者の手続的な権利利益が制限されることも考慮されるべきである。
以上によれば、本件規定は、本件委任規定の委任の範囲を逸脱するものであり、違憲、違法である。
(2)本件規定を本件の事実関係の下で適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否か
(被告の主張)
本件規定は、確定申告書に控除明細書の添付がある場合に限り、措置令39条の15第1項4号の規定による控除をするものであるから、納税者が確定申告時に控除明細書を添付していない場合は、同号の規定による控除を受けられないことは当然に想定されているといえるし、後記(3)において述べる事情からすれば、原告が本件確定申告書に控除明細書の添付をすることは十分に可能であったから、本件規定を適用することで原告に回避し得ない不利益が生ずるわけでもない。
したがって、本件規定を本件の事実関係の下で適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するとはいえない。
(原告の主張)
原告が、本件確定申告書に控除明細書を添付しなかったことにつき、租税負担回避の意図はないにもかかわらず、本件規定を適用することは、本件委任規定の委任の範囲を逸脱する。
(3)本件確定申告書に控除明細書の添付がなかったことについて「やむを得ない事情」があるか否か
(被告の主張)
本件規定ただし書にいう「やむを得ない事情」とは、納税者の責めに帰することができない客観的事情をいう。
本件においては、原告が平成29年8月21日にCIS社の株式を取得したことによりCIS社等が原告に係る特定外国子会社等になったところ、原告の親会社であるN株式会社(以下「N社」という。)の役員又は職員が、同日付けで、CIS社等の「Director」や「CEO」の役職に就いており、原告において、本件事業年度の法人税等の申告に係る法定申告期限(平成31年3月末)までにCIS社等の財務諸表等を入手して、本件各配当の額を把握することは容易であったといえること、原告自身、CIS社の株式取得に関する外国子会社合算税制の検討を開始したのは、上記法定申告期限経過後である同年4月中旬頃であるとしており、それまでに着手しなかった理由は単にその必要性を失念していたからであると考えられることからすれば、本件確定申告書に控除明細書の添付がなかったことについて「やむを得ない事情」は認められない。
(原告の主張)
本件規定ただし書にいう「やむを得ない事情」は、本件規定の趣旨、目的を勘案すれば、広く寛大に解釈されるべきであり、納税者において特定外国子会社等の情報を適時に入手することが困難である場合なども含まれる。
原告がCIS社の全株式を取得した直後に、未だ関係性が構築されているわけでもなく、言語も異なるCIS社等の職員に、日本の複雑かつ難解な法令を説明し、資料の提供を求めることは相当の困難が伴うのは明らかであり、CIS社等がその子会社から配当を受けていたという事実を把握できたとしても、措置令39条の15第1項4号の控除のできるものか否かについては更に外国法令の調査等を要するのであって、二重の困難を伴うといえる。また、N社に対する税務調査をしていた東京国税局の職員が、令和元年8月頃、N社の職員に対し、「これだけ子会社が多いと情報を集めるのが大変ですね。控除明細書については、どの会社も遅れて提出しているので、頑張って作成して提出してください」などと述べたこと、N社が、原告の本件事業年度の法人税等の申告に係る法定申告期限の後である同年9月頃、東京国税局の職員に対し、同申告に係る控除明細書のドラフトを提出したところ、同職員が、控除明細書は形式を整えた上で原告において提出するよう指示したことからすれば、課税当局においても、本件において「やむを得ない事情」があることを前提としていたといえる。
以上によれば、本件確定申告書に控除明細書の添付がなかったことについて「やむを得ない事情」が認められるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 本件法人税増額更正処分等の一部取消しの訴えの適法性
申告に係る税額につき更正処分がされた後、いわゆる減額再更正処分がされた場合、当該再更正処分は、それにより減少した税額に係る部分についてのみ法的効果を及ぼすものであり、それ自体は、当該再更正処分の理由のいかんにかかわらず、当初の更正処分とは別個独立の課税処分ではなく、その実質は、当初の更正処分の変更であり、それによって、税額の一部取消しという納税者に有利な効果をもたらす処分と解するのが相当である。そうすると、当初の更正処分の取消しを求める訴え中、当初の更正処分のうち当該再更正処分によって既に取り消された部分の取消しを求める部分については、訴えの利益が失われるというべきである(最高裁昭和46年3月25日第一小法廷判決・裁判集民事102号329頁、最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁等参照)。この理は、過少申告加算税の賦課決定処分がされた後、いわゆる減額変更決定処分がされた場合であっても同様であると解される。
これを本件についてみると、前記前提事実(4)及び(7)のとおり、本件法人税増額更正処分等がされた後、本件法人税減額再更正処分等がされたから、本件法人税増額更正処分等の一部取消しの訴え中、本件法人税増額更正処分等のうち本件法人税減額再更正処分等によって既に取り消された部分の取消しを求める部分については、訴えの利益が失われたといえる。
したがって、本件法人税増額更正処分等の一部取消しの訴えのうち別紙2訴え却下部分目録記載1の部分は不適法である。
2 争点(1)(本件規定が本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否か)について
(1)措置法66条の6第1項は、私法上は特定外国子会社等に帰属する所得を当該特定外国子会社等に係る内国法人の益金の額に合算して課税する内容の規定である。同項の規定する外国子会社合算税制は、内国法人が、法人の所得に対する租税の負担がないか又は著しく低い国又は地域に設立した子会社を利用して経済活動を行い、当該子会社に所得を発生させることによって我が国における租税の負担を回避するような事態を防止し、課税要件の明確性や課税執行面における安定性を確保しつつ、税負担の実質的な公平を図ることを目的とするものと解される。
また、同項は、上記の合算をする額について、適用対象金額を基礎として計算した額とする旨を規定するところ、本件委任規定は、適用対象金額の算定の基礎となる基準所得金額について、特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき法人税法及び措置法による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるものとして政令で定める基準により計算する旨を規定する。これは、内国法人の益金の額に合算することとなる当該内国法人に係る特定外国子会社等の所得の金額の計算は、当該特定外国子会社等の所在する各国の税制にとらわれず、我が国の法人税法及び措置法に準じて行うことを原則とすることで統一的な基準を定め、租税回避に対処することを目的とするものと解される。
そして、本件委任規定が基準所得金額の具体的な計算の基準につき政令に委任したのは、上記のような目的を実現するに当たり、基準所得金額の具体的な計算の基準を我が国の法人税法及び措置法のどの規定にどの程度準ずるものとするかなどといった点が、優れて技術的かつ細目的な事項であるためであると解される。したがって、上記の点は、内閣の専門技術的な裁量に委ねられていると解するのが相当である。
(2)前記(1)で述べたような趣旨に基づく委任を受けて設けられた本件規定は、外国子会社配当益金不算入制度(法人税法23条の2)に準ずる基準として規定された措置令39条の15第1項4号につき、当初申告要件を規定するものである。
本件規定は、内国法人が同号の規定による控除の対象となる配当等の額を記載した控除明細書を確定申告書に添付することにより、内国法人の同号の規定による控除を受ける意思を明らかにさせるとともに、課税庁が、同号による控除の可否やその額の判断の根拠となる資料を内国法人から早期かつ確実に収集し、適正かつ迅速に上記判断をすることを可能にすることにあると解される。この点、外国子会社合算税制の適用に当たっては、特定外国子会社等の事業内容やその所得に係る資料が不可欠であり、かつ、課税庁がそれを入手する手段は限られていることから、課税庁においては、適正かつ迅速に上記判断をするためには、納税者である内国法人から早期かつ確実に資料収集する必要は高いものといえる。他方、上述したところに照らせば、外国子会社合算税制の下では、内国法人においては、特定外国子会社等の存在自体を課税庁に申告しないというインセンティブが働きやすいと考えられる。しかるところ、仮に、同号につき当初申告要件を規定せず、確定申告書に控除明細書の添付がなくとも、修正申告書や更正請求書に控除明細書の添付があれば、特定外国子会社等がその「子会社」から受けた配当等の額を基準所得金額の計算上控除できることとした場合、例えば、納税者において確定申告の際に特定外国子会社等の存在を申告しなくても、後に課税庁からその存在の指摘を受けた後に、修正申告書や更正請求書とともに控除明細書を提出すれば上記の配当等の額の控除を受けられることとなるのであり、上記の不申告のインセンティブをさらに助長させ、租税負担回避の防止や税負担の実質的な公平の確保といった外国子会社合算税制の目的に沿わない結果を引き起こすおそれがある。そうすると、上記の趣旨で同号に当初申告要件を設けることは、前記(1)で述べた外国子会社合算税制の目的に照らし、合理性があるといえる。
確かに、前記(1)において述べたとおり、本件委任規定は、課税要件の明確性等の観点から、基準所得金額の計算は法人税法及び措置法による所得の金額の計算に準じて行うことを原則としているため、平成23年12月税制改正によって外国子会社配当益金不算入制度においては当初申告要件が撤廃された以上、当該制度に準ずる基準として規定された同号につき、当初申告要件である本件規定を残存させることが本件委任規定の趣旨に整合するのかは問題となり得る。しかし、平成23年12月税制改正は、当初申告要件が設けられている規定のうち、その目的・効果や課税の公平の観点から、事後的な適用を認めても問題がないものについて当初申告要件を撤廃するものであり、個々の制度や条文の目的等に照らして当初申告要件が必要であるものを撤廃することまで、その内容とするものではない(平成23年12月税制改正により、当初申告要件がおよそ撤廃されているものではなく、例えば、外国子会社合算税制においては、措置法66条の6第7項(同条1項の規定の適用除外を規定する同条3項等につき当初申告要件を定める規定)も撤廃されていない。)。しかるところ、外国子会社配当益金不算入制度は、その適用があると納税者である内国法人に有利となるから、そもそも納税者に不申告のインセンティブが働きにくいという点で、外国子会社合算税制と異なる。また、外国子会社配当益金不算入制度における内国法人が外国子会社から受けた剰余金の配当等の額は、納税者である当該内国法人が確定申告書に添付する当該内国法人の損益計算書(法人税法74条3項)に記載されているが、措置令39条の15第1項4号において控除される特定外国子会社等がその「子会社」から受ける配当等の額は、納税者である内国法人の損益計算書には記載されておらず、これらは、課税庁による資料収集の容易さといった点にも違いがある。すなわち、外国子会社配当益金不算入制度については、当初申告要件を設けることにより、課税庁が、同制度の適用の判断の根拠となる資料を内国法人から早期かつ確実に収集し、適正かつ迅速に上記判断をすることを可能にする必要性が高いとはいえない一方で、同号については、上述のとおり、上記必要性が高く、同号につき当初申告要件を撤廃すると、かえって外国子会社合算税制自体の目的を害することにもなり得る。したがって、平成23年12月税制改正によって外国子会社配当益金不算入制度において当初申告要件が撤廃されたとしても、本件規定の合理性が失われるものとはいえない。そうすると、本件委任規定が課税要件の明確性等の観点から、基準所得金額の計算は法人税法及び措置法による所得の金額の計算に準じて行うことを原則としていることを踏まえても、同号に当初申告要件を設けることにはなお合理性があるというべきである。
したがって、本件規定が、前記(1)で述べた本件委任規定が許容する内閣の専門技術的な裁量を逸脱するとまではいえない。
(3)ア これに対し、原告は、本件委任規定の文言に照らせば、政令には「金額の計算」についての技術的かつ細目的な事項しか規定できないと解すべきであり、本件規定のように課税要件を加重する手続規定を定めることはできない旨主張する。
しかし、前記(1)で述べたとおり、本件委任規定の目的は、基準所得金額の計算を我が国の法人税法及び措置法による所得の金額の計算に準じて行うことを原則とすることで統一的な基準を定めることにある。そして、法人税法及び措置法による所得の金額の計算において、当初申告要件のような手続規定が課税要件として規定されることがあり、平成23年12月税制改正前においてはその点も含めて、外国子会社配当益金不算入制度に準ずる基準として規定されていたことに加え、前記(1)で述べた外国子会社合算税制の目的等に照らせば、本件委任規定は、基準所得金額の具体的な計算の基準につき、どの時点までに提出されたどのような資料等に基づいて計算するかといった点も含めて、我が国の法人税法及び措置法による所得の金額の計算に準じて行う基準を定めることを委任する趣旨の規定であると解される。
したがって、原告の上記主張は、採用することができない。
イ また、原告は、本件規定は、外国子会社配当益金不算入制度の当初申告要件に「準ずる」ものとして規定されているところ、平成23年12月税制改正により、当該制度の当初申告要件が撤廃された以上、本件規定はその存立の基礎が失われたこととなる旨主張し、これに沿う内容の意見書(甲17、18、29)を提出するが、前記(2)において述べたところによれば、原告の上記主張は、採用することができない。
ウ さらに、原告は、本件委任規定の授権の範囲を判断するに当たっては、平成23年12月税制改正の趣旨を踏まえつつ、本件規定により納税者の手続的な権利利益が制限されることも考慮されるべきである旨主張し、これに沿う意見書(甲18)を提出する。
しかし、前述したとおり、本件委任規定は、基準所得金額の具体的な計算の基準につき、どの資料等に基づいて計算するかといった点も含めて委任する趣旨の規定であるところ、前記(2)で述べたところによれば、当初申告要件を設けることには合理性が認められるのであるから、そのことにより、修正申告時や更正の請求時に配当等の額の控除が認められないこととなるのはやむを得ないものというべきである。
したがって、原告の上記主張は、採用することができない。
エ 加えて、原告は、措置令39条の15第3項は、同条1項4号と同趣旨の規定であるにもかかわらず、当初申告要件が規定されていないのであり、同号につき当初申告要件である本件規定を規定する必要がない旨主張し、これに沿う内容の意見書(甲17、18)を提出する。
しかし、前記(1)のとおり、基準所得金額の具体的な計算の基準を政令にどのように定めるかについては、内閣に一定の裁量があると解されるところ、同条3項は、特定外国子会社が他の特定外国子会社等から配当等を受けた場合に適用される一方、同条1項4号は、特定外国子会社等がその「子会社」から配当等を受けた場合に適用されるのであり、その適用場面が異なる以上、同条3項と異なり、同条1項4号に当初申告要件を規定することが直ちに不合理であるとはいえず、原告の上記主張は、前記(2)の判断を左右するものではない。
(4)以上によれば、本件規定は、一般に、本件委任規定の委任の範囲を逸脱するものではないと認められる。
3 争点(2)(本件規定を本件の事実関係の下で適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否か)について
原告は、本件確定申告書に控除明細書を添付しなかったことにつき、租税負担回避の意図はないにもかかわらず、本件規定を適用することは、本件委任規定の委任の範囲を逸脱する旨主張する。
しかし、前記2(1)のとおり、本件委任規定が課税要件の明確性や課税執行面における安定性の確保なども目的としていることからすれば、本件規定が納税者の主観的意図にかかわらず適用されることについては合理性があるといえる。そうすると、仮に、原告が上記主張するとおり、本件確定申告書に控除明細書を添付しなかったことにつき、租税負担回避の意図がなかったとしても、本件規定により、本件各配当の額がCIS社の本件CIS社事業年度及びCIL社の本件CIL社事業年度の各基準所得金額の計算上控除されなくなることが、本件委任規定において予定されていないような事態であるということはできない。
したがって、本件規定を上記事実関係の下で適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するものではないと認められる。
4 争点(3)(本件確定申告書に控除明細書の添付がなかったことについて「やむを得ない事情」があるか否か)について
前記2(1)及び(2)のとおり、外国子会社合算税制、本件委任規定及び本件規定の目的は、租税負担回避を防止し、課税要件の明確性や課税執行面における安定性を確保しつつ、税負担の実質的な公平を図ることにあるから、本件規定本文を例外的に適用しない場面は限定的に解釈する必要があるといえる。したがって、本件規定ただし書の「やむを得ない事情」とは、天災等の納税者の責めに帰することができない客観的事情をいうと解される。これに反する原告の主張は、採用することができない。
原告は、「やむを得ない事情」につき、平成29年8月21日にCIS社等が原告に係る特定外国子会社等となって以降、本件事業年度の法人税等の申告に係る法定申告期限(平成31年3月末)までに、未だ関係性が構築されておらず言語も異なるCIS社等から資料提供を受けた上で、更に外国法令の調査等を終えることは困難である旨主張する。しかし、前記前提事実(1)イ及びウに加え、証拠(甲6の1・2、乙2、14)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、2017年(平成29年)8月21日、CIS社の発行済株式の100%を取得し、CIS社が保有するCIL社、MAY社及びHAN社の株式も間接的に保有することとなったこと、原告の親会社であるN社の役員又は従業員は、同日付けで、N社によりCIS社等の「Director」や「CEO」の役職に任命され、その後就任したこと、CIS社等の本件CIS社等事業年度の各財務諸表(CIS社については2018年(平成30年)2月1日を送付日とするもの、CIL社については同年3月8日付けのもの)にはCIS社の配当収入やCIL社の配当金の支払や配当収入に関する記載がされ、CIL社の本件CIL社事業年度に係る同年4月23日付け事業所得税申告書には、CIL社に配当収入があることが記載されていたことが認められるから、遅くとも上記財務諸表等が作成された同月頃には、上記財務諸表等により、本件各配当の額を把握することができたと考えられる。それにもかかわらず、原告においてCIS社の株式取得に関する外国子会社合算税制の適用の検討に必要な資料の入手作業を開始したのは上記法定申告期限後の平成31年4月中旬頃であり(乙22)、これについて原告は特段合理的な説明をせず、本件全証拠によっても、原告において上記法定申告期限までに上記財務諸表等を入手し本件各配当に係る記載をした控除明細書を添付することが困難であったというべき客観的事情は見当たらない。そして、原告が渋谷税務署に本件控除明細書を提出したのは、上記法定申告期限から約2年4か月も経過した令和3年6月29日である(前記前提事実(3))。これらの事情からすれば、原告の上記主張を踏まえても、本件確定申告書に控除明細書の添付がなかったことにつき、原告の責めに帰することができない客観的事情はないといわざるを得ず、「やむを得ない事情」がないと認められる。
なお、原告は、N社に対する税務調査をしていた東京国税局の職員が、N社の職員に対しく本件において「やむを得ない事情」があることを前提にした発言等をしていた旨主張するが、原告の主張を前提にしても、東京国税局の職員が、本件確定申告書に控除明細書の添付がないことにつき「やむを得ない事情」があると明確に述べたわけではないのであり、仮に、原告が上記主張するような事実があったとしても上記判断を左右するものではない。
5 本件法人税増額更正処分等(本件法人税減額再更正処分等により一部取り消された後のもの)等の適法性
以上によれば、本件法人税増額更正処分等(本件法人税減額再更正処分等により一部取り消された後のもの)、本件地方法人税増額再更正処分、本件令和3年地方法人税加算税賦課決定処分及び本件令和6年地方法人税加算税賦課決定処分は適法である。
6 本件地方法人税増額更正処分の一部取消しの訴えの適法性
前記5で述べたところに照らせば、本件地方法人税増額再更正処分の一部取消請求は理由がない。
そこで、上記の請求の予備的請求である本件地方法人税増額更正処分の一部取消請求に係る訴えの適法性について検討すると、更正処分がされた後、これを増額する再更正処分がされた場合、当初の更正処分の取消しを求める訴えの利益は失われると解されるところ(最高裁昭和32年9月19日第一小法廷判決・民集11巻9号1608頁、最高裁昭和55年11月20日第一小法廷判決・裁判集民事131号135頁等参照)、前記前提事実(4)及び(7)のとおり、本件地方法人税増額更正処分がされた後、本件地方法人税増額再更正処分がされたから、本件地方法人税増額更正処分の一部取消しを求める訴えの利益は失われたといえる。
したがって、本件地方法人税増額再更正処分の一部取消しの訴え(別紙2訴え却下部分目録記載2の部分)は不適法である。
7 結論
したがって、本件訴えのうち別紙2訴え却下部分目録記載の部分は不適法であるからこれを却下し、原告のその余の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官 鎌野真敬
裁判官 志村由貴
裁判官都築健太郎は、転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 鎌野真敬
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