解説記事2025年10月27日 巻頭特集 CFC税制上の当初申告要件について(2025年10月27日号・№1096) (東京地判令和7年5月16日を題材に)
巻頭特集
CFC税制上の当初申告要件について
(東京地判令和7年5月16日を題材に)
ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士・ニューヨーク州弁護士 片平享介
Ⅰ はじめに
租税法上、ある措置の適用を受けるための要件として、当初申告時にその適用を選択することが必要とされている場合がある。講学上、かかる要件を「当初申告要件」という。かつての租税法においては当初申告要件が広く課されていたところ、平成23年12月2日号外法律第114号による改正(以下「平成23年12月改正」という。)により、事後的な適用を認めても問題がないものについては廃止となった。しかし、CFC税制上の当初申告要件については、平成23年12月改正後も存置され、現行の租税特別措置法施行令においても、基準所得金額(外国関係会社の所得のうち、親会社において合算の対象となる課税対象金額のベースとなる金額)の計算に関する39条の15第9項が、かかる当初申告要件を規定している。同項は、外国関係会社がその「子会社」から受ける配当等の額について、基準所得金額から控除するための要件として、同要件を課すものである。
東京地判令和7年5月16日(以下「本判決」という。)は、平成29年法律第4号による改正(以下「平成29年度措置法改正」という。)前のCFC税制における上記当初申告要件が問題となった事件である。本稿の目的は、本判決を題材に、CFC税制(現行の税制も含めて)上の当初申告要件の合理性について批判的に検討するとともに、本判決の内容を踏まえた現行税制上の実務対応を考えることにある(なお、本判決は原告によって控訴されており、未だ確定していない。)。
本文中、意見にわたる部分は筆者の私見であり、筆者が所属する組織の公式見解ではないことを、念のため付言する。
Ⅱ 本判決の事案の概要及び適用条文
本件は、スイス等に海外子会社を有する内国法人(原告)が、係争事業年度(平成30年1月1日から同年12月31日まで)に係る法人税等の確定申告をしたところ、税務署長から、当該海外子会社に係る課税対象金額が益金の額に算入されておらず、また、当該海外子会社がその子会社から受けた配当等の額(以下「本件配当の額」という。)について、当初申告要件が遵守されていないために本件配当の額を基準所得金額から控除できないとして、法人税の増額更正処分等を受けたため、その一部取消しを求めて争った事件である。
平成29年度措置法改正前のCFC税制によれば、内国法人に係る外国関係会社のうち、本店又は主たる事務所の所在する国又は地域(以下「本店所在地国」という。)におけるその所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社が「特定外国子会社等」と定義され、かかる特定外国子会社等が「適用対象金額」を有する場合には、適用対象金額のうち当該内国法人に帰属するものとして計算される「課税対象金額」について、当該内国法人の所得の金額の計算上、益金の額に算入するとされている(平成29年度措置法改正前の措法66の6①)。上記「適用対象金額」とは、特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき法人税法及び租税特別措置法による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるものとして政令で定める基準により計算した「基準所得金額」を基礎として所定の調整を加えた金額をいう(平成29年度措置法改正前の措法66の6②二。以下「本件委任規定」という。)。
本件委任規定を受け、平成29年政令第114号による改正(以下「平成29年度措置令改正」という。)前の租税特別措置法施行令は、基準所得金額の計算基準として、法人税法及び租税特別措置法に準拠した基準(以下「本邦法令基準」という。)又は特定外国子会社等の本店所在地国の法人所得税に関する法令に準拠した基準(以下「本店所在地国法令基準」という。)について、それぞれ規定しているが、いずれの基準が採用された場合でも、一定の子会社(特定外国子会社等がその発行済株式又は議決権ベースで25%以上の株式等を6月以上保有している他の法人)から受ける配当等の額については、基準所得金額から控除するとしている(平成29年度措置令改正前の措令39の15①四、同②十七)。そして、平成29年度措置令改正前の租税特別措置法施行令39条の15第8項(以下「本件規定」という。)は、同条1項4号又は同条2項17号の規定により当該各事業年度において控除されることとなる金額があるときは、当該各事業年度に係る確定申告書に当該金額の計算に関する明細書(以下「控除明細書」という。)の添付がある場合に限り、当該金額を当該各事業年度の基準所得金額の計算上控除する旨を規定するとともに、但し書きにおいて、その添付がなかったことについて税務署長がやむを得ない事情があると認める場合において、控除明細書の提出があったときは、この限りではない旨を規定する。
本件原告は、係争事業年度にかかる確定申告書において、本件配当の額を基準所得金額から控除するための控除明細書を添付しておらず、これについて「やむを得ない事情」があるとは認められないとして、税務署長より法人税の増額更正処分等を受けたものである。
Ⅲ 主な争点及び裁判所の判断
本件の主な争点は、本件規定が、一般的に、あるいは本件の事実関係の下で、本件委任規定による委任の範囲を逸脱するか否かである(裁判では、「やむを得ない事情」の有無についても争点となっているが、本稿では取り上げない。)。
原告は、以下に掲げる点を主な理由として、本件規定が本件委任規定の委任の範囲を逸脱するものであって、違憲、違法であると主張した。
主な理由の一点目は、本件委任規定による委任の範囲に関するものである。原告は、本件委任規定による委任は「金額の計算」についての技術的かつ細目的な事項に限られると解すべきであり、課税要件を加重する手続規定を政令で定めることはできないと主張した。
主な理由の二点目は、本件規定が法人税法等による所得の金額の計算に「準ずる」といえるかという点である。この点について、原告は、外国子会社配当益金不算入制度(法法23の2)との関係性を指摘する。この制度は、内国法人が同条1項所定の外国子会社から受ける剰余金の配当等の額がある場合には、当該剰余金の配当等の額から当該剰余金の配当等の額に係る費用の額に相当する金額を控除した金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しないとするものである。そして、平成23年12月改正前の法人税法23条の2第3項は、同条1項の規定は、確定申告書に益金の額に算入されない剰余金の配当等の額及びその計算に関する明細の記載があることなどの所定の要件を満たす場合に限り適用する旨を規定しており、当初申告要件を課していた。
外国子会社配当益金不算入制度が導入されたのは、平成21年3月31日号外法律第13号による改正(以下「平成21年度改正」という。)によってである。そして、同じ平成21年度改正時に、CFC税制上、特定外国子会社等が一定の子会社から受ける剰余金の配当等について、適用対象金額から控除する旨の改正が行われた。「平成21年版 改正税法のすべて」・444−445頁によれば、CFC税制に関する上記改正の趣旨は、外国子会社配当益金不算入制度の導入により、内国法人は一定の外国子会社から受ける剰余金の配当等について益金不算入となるところ、このように「内国法人が直接剰余金の配当等を受ける場合とのバランスを考慮して」、特定外国子会社等がその子会社から受ける剰余金の配当等について適用対象金額から控除することを認めるという点にあった。
そして、平成23年12月改正により、外国子会社配当益金不算入制度においては当初申告要件が撤廃されるに至ったものの、CFC税制上の当初申告要件は存置された。この点を捉まえ、原告は、本件委任規定の文言に法人税法等による所得の金額の計算に「準ずる」とあること等を踏まえれば、本件規定は外国子会社配当益金不算入制度の当初申告要件に「準ずる」ものとして規定されているところ、平成23年12月改正により、本件規定はその存立の基礎が失われたことになると主張した。これが上記主な理由の二点目である。
これに対し、裁判所は、原告の主張を容れず、その請求を棄却した。まず、裁判所は、基準所得金額の具体的な計算の基準を我が国の法人税法及び租税特別措置法のどの規定にどの程度準ずるものとするかといった点は、優れて技術的かつ細目的な事項であるため、この点(基準所得金額の具体的な計算基準の決定)は内閣の専門技術的な裁量に委ねられていることを確認する。そのうえで、裁判所は、主として以下の二点を理由に、本件規定上の当初申告要件には合理性が認められるから、本件規定が本件委任規定によって許容される内閣の専門技術的な裁量を逸脱するとまではいえないと結論付けた。
① 本件規定上の当初申告要件の目的の一つは、課税庁が、特定外国子会社等が受ける配当等の額の控除の可否やその額の判断の根拠となる資料を内国法人から早期かつ確実に収集し、課税庁による適正かつ迅速な判断を可能ならしめる点にある。ところが、CFC税制の下では、内国法人において、特定外国子会社等の存在自体を課税庁に申告しないというインセンティブが働きやすいため、仮に本件規定上の当初申告要件を撤廃すると、上記のインセンティブをさらに助長させ、CFC税制の目的に沿わない結果を引き起こすおそれがある。
② 外国子会社配当益金不算入制度は、その適用があると納税者である内国法人に有利となるから、そもそも納税者に不申告のインセンティブが働きにくいという点で、CFC税制と異なる。また、外国子会社配当益金不算入制度における内国法人が外国子会社から受けた剰余金の配当等の額は、納税者である当該内国法人が確定申告書に添付する当該内国法人の損益計算書に記載されているが、特定外国子会社等がその子会社から受ける配当等の額は、納税者である内国法人の損益計算書には記載されていない。よって、外国子会社配当益金不算入制度とは異なり、CFC税制の下では当初申告要件を設ける必要性が高い。
また、本件委任規定による委任の範囲に課税要件を加重する手続規定を置くことは含まれないという原告の主張について、裁判所は、平成23年12月改正前もかかる手続規定を含めて規定されていたことや、どの時点までに提出されたどのような資料等に基づいて基準所得金額を計算するかといった点も上記委任の範囲に含まれると解されることを理由に、かかる主張を排斥している。
Ⅳ CFC税制上の当初申告要件の合理性について
特定外国子会社等が子会社から受ける配当等の額の控除に関する当初申告要件は、本件で問題となった平成29年度措置令改正前のみならず、同改正後の現行税制においても存置されている(措令39の15⑨)。しかしながら、筆者は、かかる当初申告要件の必要性や合理性に対して疑問を呈するものであり、この点に関する本判決の判示内容は、説得力を欠くと考えるものである。そもそも本判決は、本件委任規定による委任の範囲に、課税要件を加重する手続規定を置くことが含まれるか否かについて、十分な検証を行っていない。更に、特定外国子会社等の存在自体を課税庁に申告しないというインセンティブ対策や課税庁としての情報収集の必要性については、特定外国子会社等が配当等を受ける場面にとどまらず、CFC税制一般に当てはまる問題であるところ、CFC税制は、その制定当初から、かかるインセンティブ対策や情報収集の必要性に対応する規定を置いており、それらの問題は、特定外国子会社等が配当等を受ける場面においてのみ、当初申告要件を課す正当化事由にはならない。以下、詳述する。
1.本件規定が「金額の計算」についての事項に関するものといえるか(課税要件を加重する手続規定が委任の範囲に含まれるか否かの問題)
前述のとおり、原告は、本件委任規定による委任の範囲は「金額の計算」についてのものに限られ、本件規定により課税要件を加重する手続規定を課すことはできないと主張した。原告のかかる主張は、いわゆる木更津木材事件(東京高判平成7年11月28日・行集46巻10・11号1046頁)が、当時の租税特別措置法施行令のうち登録免許税の軽減規定の適用を受けるために登記申請時における証明書の添付を必要とする部分は、法律の委任がないのに税率軽減の要件を加重したものとして無効であると判示した点を意識したと思われるが、本判決はこの点について説得力のある議論を展開していない。まず、本判決が(当初申告要件の見直しがあった)平成23年12月改正前の本件規定にも当初申告要件が規定されていたと指摘する点は、まったく理由にならない。本件委任規定による委任の範囲に当初申告要件を課すことが含まれていないのであれば、平成23年12月改正前の状態も違憲、違法であったことになるだけだからである。また、本判決が「どの時点までに提出されたどのような資料等に基づいて基準所得金額を計算するか」という点についても委任の範囲に含まれると述べる点については、その根拠が十分でない。そもそも本論点においては、計算の根拠となる資料の時期や内容といった形式面が問題なのではなく、当初申告時に必要な資料等を提出しなければ、より重い課税を受けるという点が問題なのである。すなわち、原告が問題としているのは、本件委任規定が「金額の計算」についての委任規定である以上、課税要件の加重を伴う手続規定が委任の範囲に含まれているといえるのかという点であり、(委任の範囲に含まれることを前提に)内閣に許された裁量権の範囲内か否かという問題ではない。これは、租税法律主義(憲法84条)の下、法律上の明確な根拠なしに、政令で当初申告要件を課すことができるかという重要な問題である(例えば平成23年12月改正前の法人税法施行令77条の4第5項は、特定公益信託のための支出に関する損金算入の要件として当初申告要件を課していたが、その根拠となる法人税法37条6項は、「……この項の規定の適用を受けるための手続に関し必要な事項は、政令で定める。」と規定し、手続に関する事項を政令に委任する旨を明示していた。)。
2.本件規定が法人税法等による所得の金額の計算に「準ずる」ものといえるか(当初申告要件に合理性があり、内閣の裁量権の範囲内といえるかの問題)
(1)昭和53年以降のCFC税制の概要(当初申告要件を中心に)
CFC税制が導入されたのは、昭和53年3月31日施行の「租税特別措置法及び国税収納金整理資金に関する法律の一部を改正する法律」(以下「昭和53年改正法」という。)によってである。現在の「基準所得金額」に相当する金額は、当時の「未処分所得の金額」であり、内国法人による合算の対象となる金額は、先ず特定外国子会社等の「未処分所得の金額」を計算し、次いで「適用対象留保金額」、更に「課税対象留保金額」を計算するとされ、この「課税対象留保金額」が合算の対象とされた。
「未処分所得の金額」については、昭和53年改正法による改正後の租税特別措置法66条の6第2項2号が「特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき、法人税法及びこの法律による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるものとして政令で定める基準により計算した金額を基礎」として計算される旨規定しており、かかる委任を受けて、昭和53年3月31日に施行された「租税特別措置法施行令の一部を改正する政令」による改正後の租税特別措置法施行令39条の14が、本邦法令基準と本店所在地国法令基準をそれぞれ規定する形となっていた。このように、本判決で問題となった本件委任規定による委任の基本的構造は、昭和53年当時から変わっていない。
昭和53年当時は外国会社配当益金不算入制度の導入前であったため、当然のことながら、未処分所得の金額から特定外国子会社等が受けた配当等の金額を控除することは認められておらず、本件規定に相当する当初申告要件も存在しなかった。他方、昭和53年改正法による改正後の租税特別措置法66条の6第4項は、課税対象留保金額を合算する場合には、内国法人の確定申告書に、特定外国子会社等の貸借対照表、損益計算書その他大蔵省令で定める書類(これらの勘定科目内訳明細書、損益金の処分表、特定外国子会社等がその本店所在地国において法人所得税の申告を行っている場合にはその申告書の写しなど)を添付しなければならない旨規定していた。平成29年度措置法改正前の租税特別措置法66条の6第6項は、合算の有無にかかわらず、内国法人にかかる特定外国子会社等があれば、当該外国子会社等の貸借対照表及び損益計算書その他の財務省令で定める書類を確定申告書に添付することを義務付けており、これは現行税制の下でも基本的に同様である(措法66の6⑪)。
加えて、CFC税制に関する当初申告要件として重要なのは、適用除外基準に関するものである。適用除外基準とは、正常な海外投資活動を阻害しないため、所在地国において独立企業としての実体を備え、その地において事業活動を行うことに十分な経済合理性があると認められる海外子会社等を、合算の適用対象外とするものである。昭和53年改正法による改正後の租税特別措置法66条の6第5項は、内国法人が適用除外基準を受ける場合、当該内国法人は、確定申告書にその適用がある旨を記載した書面を添付し、かつ、その適用があることを明らかにする書類その他の資料を保存しなければならない旨を規定していた。同様の当初申告要件は、平成29年度措置法改正前の租税特別措置法66条の6第7項でも維持されていたが、平成29年度措置法改正は、適用除外基準という概念そのものを廃止し、それに代わって導入された部分対象外国関係会社に関する経済活動基準や、特定外国関係会社に関する適用除外基準の一部(いわゆるペーパー・カンパニー非該当性基準)についても、当初申告要件を課さないこととした。その代わりに、内国法人が、国税庁の職員等からの求めに応じてかかる基準に該当することを明らかにする書類その他の資料の提示又は提出をしないときに、それぞれ経済活動基準に該当しない、あるいは特定外国関係会社に該当するものと推定するという、推定規定が導入された(措法66の6③④)。
(2)不申告のインセンティブ対策や課税庁による情報収集の必要性に対応するものとして合理性があるか
前述のとおり、本判決は、特定外国子会社等の存在自体を課税庁に申告しないというインセンティブ対策や課税庁としての情報収集の必要性を主な理由として、本件規定上の当初申告要件を正当化するが、このような理由付けは妥当とは思われない。その理由は、かかるインセンティブ対策や情報収集の必要性という問題点は、特定外国子会社等が子会社から配当等を受ける場面に止まらず、CFC税制一般に当てはまるものであるところ、CFC税制は、(特定外国子会社等が受ける配当等の額の控除について当初申告要件を課す契機となった)外国子会社配当益金不算入制度導入前から、これらの問題に対応する機能を有する規定を置いていたからである。そのような規定とは、上記(1)で前述した、適用除外基準に関する当初申告要件の規定であり、特定外国子会社等の貸借対照表、損益計算書その他の書類を確定申告書に添付することを義務付ける規定である。これらの規定がある以上、内国法人である納税者としては、自身の海外子会社の中に特定外国子会社等に該当する会社があるか否か、及び特定外国子会社等に該当する会社があれば適用除外基準の適用の有無を、確定申告書の提出よりも前に精査した上、その精査の結果に応じて、確定申告書に添付すべき明細や書類の内容を決めざるを得ないことになる。これらの規定は、CFC税制が導入された昭和53年当時から、平成29年度措置法改正前まで、基本的な姿を維持したまま存置されていたものである以上、かかるインセンティブ対策や情報収集の必要性の問題に対しては、これらの規定によって対応するというのが、法の判断であったと思われる。逆にいえば、特定外国子会社等が受ける配当等の額の控除について当初申告要件を課すという政令委任(それが委任の範囲に含まれるとして)が許される根拠は、それが課されるに至った時期に鑑みても、前述した「(外国子会社配当益金不算入制度導入によって益金不算入になるという)内国法人が直接剰余金の配当等を受ける場合とのバランス」以外に考えられず、そうだとすれば、外国子会社配当益金不算入制度において当初申告要件が廃止された平成23年12月改正以降は、特定外国子会社等が受ける配当等の額の控除に関する当初申告要件について、政令委任の根拠を失ったと見ざるを得ない。
本判決は、外国子会社配当益金不算入制度の下での当初申告要件との違いとして、同制度は納税者である内国法人に有利となるから、そもそも納税者に不申告のインセンティブが働きにくいという点を指摘するが、不申告のインセンティブ対策についてはCFC税制が別途対応する機能を持つ規定を置いていることは前述のとおりである。また、本判決は、確定申告書に添付される内国法人の損益計算書における記載の有無について言及するが、CFC税制上も、特定外国子会社等に関する損益計算書等の確定申告書への添付が義務付けられていることは前述のとおりであるし、さらにいえば、内国法人の損益計算書からだけでは、外国子会社配当益金不算入制度の要件の充足性に関するすべての情報は得られず(とりわけ、その発行済株式又は議決権ベースで25%以上の株式等を6月以上保有されているという外国子会社に関する要件など)、その点は、特定外国子会社等が受ける配当等に関する控除の場合と何ら異なるところがない。
以上より、外国子会社配当益金不算入制度について、「事後的な適用を認めても問題がない」として当初申告要件を廃止した以上、CFC税制上の配当等の控除についてのみ当初申告要件を維持する合理的理由はないといわざるを得ない。よって、本件規定は、法人税法等による所得の金額の計算に「準ずる」ものといえず、その合理性を肯定できないと解される。
3.現行CFC税制の下での当初申告要件の合理性について
特定外国子会社等の存在自体を課税庁に申告しないというインセンティブ対策としては、適用除外基準に関する当初申告要件が重要な機能を果たしていたと思われるが、前述のとおり、当該当初申告要件は、平成29年度措置法改正によって廃止となった。とすれば、平成29年度措置法改正後は、本判決が述べるような上記インセンティブ対策として、外国関係会社が受ける配当等の金額の控除に関する当初申告要件は正当化されるのであろうか。
筆者はそうは解さない。何となれば、平成29年度措置法改正が適用除外基準に関する当初申告要件を廃止したということは、「外国関係会社の存在自体を課税庁に申告しない」というインセンティブ対策としての当初申告要件はもはや不要であるというのが、立法者の意思であるとも解されるのであり、とすれば、基準所得金額の計算に関する委任規定である租税特別措置法66条の6第2項4号の解釈としても、当初申告要件を課さないというのが委任の趣旨だと解し得るからである。このような委任の趣旨からすれば、同様の制度である外国子会社配当益金不算入制度において、修正申告書や更正請求書に必要な明細書を添付することでも課税庁の判断のために十分であるとされている以上、外国関係会社が受ける配当等の額の控除についてのみ、当初申告において必要な明細書を添付することを義務付ける必要性は認められず、当初申告におけるかかる明細書の添付を義務付ける租税特別措置施行令39条の15第9項は、内閣の裁量権の限界を超えて違憲、違法であるという考え方もあり得ると思われる。
上記のことは、同じ平成29年度措置法改正において、部分合算の対象となる特定所得の金額の計算上、部分対象外国関係会社が受ける剰余金の配当等の額から、一定の法人(部分対象外国関係会社がその発行済株式又は議決権ベースで25%以上の株式等を6月以上保有している他の法人)から受ける剰余金の配当等の額を除くという改正が行われたところ、かかる除外については当初申告要件が課されなかったことから見ても、裏付けられるものと考える。
Ⅴ 本判決の内容を踏まえた現行税制上の実務対応について
租税特別措置法66条の6第2項4号及び租税特別措置法施行令39条の15第9項の解釈論はともかく、現実問題として、これらの規定による当初申告要件が課されている以上、納税者としては、かかる当初申告要件を踏まえて対応せざるを得ない。実務上、特定外国関係会社等の該当性判断、とりわけ実体基準(外国関係会社が主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設を有しているか否かの基準)や管理支配基準(外国関係会社が本店所在地国においてその事業の管理、支配及び運営を自ら行っているか否かの基準)充足性の判断は微妙なケースも多く、例えば当初申告時には特定外国関係会社に該当しないと判断していたにもかかわらず、税務調査において課税庁との見解の相違があり、事後的に特定外国関係会社に該当すると扱われるために、確定申告書に必要な書類(控除明細書)の添付がないという場合もあり得る。この点、納税者が控除明細書を提出できるのは、ある外国関係会社が実体基準や管理支配基準を欠く等の理由により特定外国関係会社等に該当する場合に限られることに留意すべきである。したがって、納税者としては、ある外国関係会社について実体基準や管理支配基準を充足し得ると判断していたとしても、その主な所得が子会社からの配当等の額であるという場合には、敢えてこれらの要件が欠けるものとして、特定外国関係会社であると扱い、確定申告書に控除明細書を添付する誘因に駆られることもあり得るであろう。しかしながら、問題となる外国関係会社が持株会社のようなケースであっても、その所得の性質には、将来のものを含めてさまざまなものがあり得る(経営指導料やインターカンパニーローンの受取利子、子会社株式の譲渡によるキャピタルゲインなど)にもかかわらず、一時の配当等の額のためだけに、外国関係会社のポジションを(実体基準及び管理支配基準を満たさない)特定外国関係会社に固定してしまうのはリスクでもある。やはり、上記当初申告要件があるにしても、親会社として、外国関係会社一つ一つについて、実体基準や管理支配基準の充足性判断をきちんと行い、それに見合った申告を行うという必要性は、基本的には変わらないであろう。
Ⅵ 結 語
本判決は、国側の主張をほぼなぞる形で、特定外国子会社等が受ける配当等の額の控除に関する当初申告要件の適法性を認めているが、その理由付けには大きな疑問があり、租税法律主義の観点からの検証も不十分である。当該当初申告要件は現行税制上も維持されており、その合理性は極めて疑わしいことから、政令によって廃止されることが望ましい。
片平享介 (かたひら きょうすけ)
ジョーンズ・デイ法律事務所オブカウンセル。2007年入所以来、15年以上にわたり、主に日本や米国の多国籍企業に対して国際税務に関するアドバイスを提供する。税務調査対応などの紛争解決のみならず、組織再編成、リストラクチャリング、CFC税制及び不動産取引などの分野において、プランニング段階や税制改正時の税務アドバイスを日常的に行っている。2014年ニューヨーク大学ロースクール卒業(修士、国際租税プログラム)後、ワシントンD.C.オフィスおよびニューヨークオフィスにて米国税務プラクティスにも従事した経験がある。Chambers Asia-Pacific、The Legal 500 Asia Pacific及びThe Best Lawyers in Japanにて日本の税務弁護士として選出されている。
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