解説記事2025年11月17日 未公開判決事例紹介 学校法人から理事長に支払われた金員を巡る事件(2025年11月17日号・№1099)
未公開判決事例紹介
学校法人から理事長に支払われた金員を巡る事件
賞与に該当し学校法人には源泉徴収義務あり
本誌1087号14頁で紹介した源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税の納税告知処分取消等請求事件の判決について、一部仮名処理した上で紹介する。
〇学校法人から理事長に支払われた金員が賞与に当たるかどうかが争われた事件(令和4年(行ウ)第397号)。東京地方裁判所(篠田賢治裁判長)は令和7年8月6日、学校法人(原告)から医療法人口座を経由して理事長に金員が送金されたことに関し、送金は理事長の指示によって同一グループ内で間を置かずになされたものであり、理事長への賞与の支払いがあったものとして学校法人には源泉徴収義務があったとし、原告の請求を棄却した。
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
本所税務署長が令和2年6月29日付けで原告に対してした、平成29年11月、平成30年11月及び同年12月の各月分の源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税の各納税告知処分並びにこれらに係る重加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
学校法人である原告は、原告名義の銀行預金口座から医療法人社団R会(以下「本件医療法人」という。)名義の銀行預金口座へ3回にわたって送金された合計2億5000万円の金員(以下「本件各金員」という。)について、処分行政庁から、本件各金員が更に当時原告の理事長を務めていた原告補助参加人(以下「参加人」という。)名義の銀行預金口座へ送金されていること等を理由に、実質的には原告から参加人に対する所得税法28条1項所定の給与等(賞与)に該当するなどとして、源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税(以下「源泉所得税等」という。)の各納税告知処分(以下「本件各納税告知処分」という。)並びに重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各納税告知処分と併せて「本件各処分」という。)を受けた。
本件は、原告が、本件各金員は参加人に対する給与等には当たらず、また、原告は所得税法183条1項の「給与等の支払をする者」に該当しないから、原告に源泉徴収義務はないなどと主張して、本件各処分の取消しを求める事案である。
2 関係法令等の定め
関係法令等の定めは、別紙1「関係法令等の定め」記載のとおりである。なお、別紙で定める略称等は、以下の本文においても用いる。
3 前提事実(当事者間に争いがないか後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実並びに当裁判所に顕著な事実)
(1)当事者等
ア 原告は、「学校法人R学園」の名称で平成12年2月25日に設立された、医療専門学校を経営する学校法人である。
原告の理事長は、平成12年の設立時から令和3年8月5日まで、参加人が務めていた。原告の学校法人設立に係る寄附行為(乙1)においては、理事のうち1人を理事長とすること(5条2項)、理事長は、法人内部の事務を統括し、法人の業務について法人を代表すること(19条)、理事長以外の理事は、法人の業務について法人を代表しないこと(20条)が定められており、参加人が原告の理事長を務めていた上記期間において、参加人以外に原告の代表権を持つ理事はいなかった。
原告の事実上の経営母体は、令和3年8月5日付けで参加人が原告の理事長を退任するとともに原告の他の理事及び評議員の大半が入れ替わることにより、参加人から株式会社Eに移った。これに伴い、原告は、令和4年4月1日付けで、「学校法人R学園」から「学校法人E学園」に名称を変更した。(甲1の2、甲20〔2、3頁〕)
イ 参加人は、原告、本件医療法人及び学校法人R大学(以下「本件大学」という。)のほか、複数の法人を設立し、代表者や実質的な代表者として各法人を経営していた者である(以下、原告、本件医療法人及び本件大学を始め、後記(2)及び(3)の各送金時において参加人が実質的に経営していた法人等から成るグループを「Rグループ」という。)。(甲1の2、甲2の1、弁論の全趣旨)
参加人は、競走馬を所有して関連事業を行うという個人事業も行っており、平成27年5月21日、「競走馬の生産、育成及び売買」等を目的としたRファーム株式会社を、平成29年12月19日、同じく「競走馬の生産、育成及び売買」等を目的とするAホールディングス株式会社を、それぞれ設立して代表取締役に就任した。(甲2の2、3)
ウ 本件医療法人は、平成18年3月1日に参加人によって設立された、複数の整形外科診療所を経営する法人である。本件医療法人の理事長は、後記(2)及び(3)の各送金が行われた当時、参加人の二男である●●●●が務めていた。(甲3、乙3、23〔20頁〕)
(2)原告名義の銀行預金口座から本件医療法人名義の銀行預金口座への送金
原告名義のみずほ銀行△△支店の普通預金口座(口座番号×××××××。以下「原告名義口座」という。)から、本件医療法人名義の千葉銀行◇◇支店の普通預金口座(口座番号×××××××。以下「本件医療法人名義千葉銀行口座」)及びみずほ銀行△△支店の普通預金口座(口座番号×××××××。以下、「本件医療法人名義みずほ銀行口座」といい、本件医療法人名義千葉銀行口座と併せて「本件医療法人名義口座」という。)に、次表のとおり、本件各金員(合計2億5000万円)が送金された(以下、原告名義口座から本件医療法人名義口座への当該各送金を総称して「本件送金①」という。)。(乙5)

(3)本件医療法人名義口座から参加人名義の銀行預金口座への送金
本件医療法人名義口座から参加人名義の千葉銀行◇◇支店の普通預金口座(口座番号×××××××。以下「参加人名義口座」という。)に、次表のとおり、本件送金①と同日、本件各金員と同額の金員(合計2億5000万円)が送金された(以下、本件医療法人名義口座から参加人名義口座への当該各送金を総称して「本件送金②」といい、本件送金①と併せて「本件各送金」という。)。(乙6、7)

(4)本件各処分に係る経緯
ア 処分行政庁は、東京国税局の職員による調査(以下「本件調査」という。)の結果に基づき、令和2年6月29日付けで、原告に対し、別表1の「本件各処分」欄及び別表2のとおり、本件各処分をした。(甲4)
イ 原告は、令和2年8月4日、国税不服審判所長に対し、審査請求をした。(甲5、乙14)
ウ 国税不服審判所長は、令和4年3月25日付けで、前記イの審査請求を棄却する旨の裁決をした。(甲6)
(5)本件訴えの提起
原告は、令和4年8月18日、本件訴えを提起した。(顕著な事実)
4 本件各処分の根拠及び適法性に係る被告の主張
被告が主張する本件各処分の根拠及び適法性は、別紙2「本件各処分の根拠及び適法性に係る被告の主張」記載のとおりである。
5 争点
本件の争点は、本件各処分の適法性であり、具体的には、以下の2点である。
(1)本件各金員につき、原告が所得税法183条1項等に基づく源泉徴収義務を負うか否か(争点1)
(2)原告に、通則法68条3項に規定する隠蔽仮装行為に該当する事実があるか否か(争点2)
6 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件各金員につき、原告が所得税法183条1項等に基づく源泉徴収義務を負うか否か)について
(被告の主張)
ア 所得税法に規定する給与等について
所得税法28条1項が給与所得を包括的に規定している趣旨からすると、給与所得該当性の判断に当たっては、給与所得を実質的に解し、雇用契約に限らず、これに類する委任契約などの原因に基づき提供した労務(役務)の対価として、あるいは労務(役務)を提供する地位に基づいて支給されるものを含むものと解すべきである。
そして、法人代表者が法人経営の実権を掌握し法人を実質的に支配している事情がある場合、このような法人代表者が、自己の権限を濫用して、当該法人の事業活動を通じて得た利得は、給与支出の外形を有しない利得であっても、法人の資産から支出をし、その支出を利得、費消したと認められる場合には、その支出が法人代表者の立場と無関係であり、法人からみて純然たる第三者との取引ともいうべき態様によるものであるなどの特段の事情がない限り、実質的に、法人代表者がその地位及び権限に対して受けた給与であると推認することができる。
イ 本件各金員が参加人に対する給与等に該当すること
(ア)参加人は、平成12年に原告を設立して以降、令和3年8月5日に至るまで、原告の理事長の立場にあり、本件各送金の当時においても、原告の経営・業務全般を掌握して最終的な意思決定権を持つとともに、原告の資金を管理し、原告を実質的に支配していた。
加えて、参加人は、本件医療法人等、多数の法人を設立し、全体をグループとして扱い、それらのグループ(Rグループ)の全体を実質的に支配しており、その権限には、グループ内の各法人の資金を送金する権限も含まれていた。
(イ)本件各金員は、3回にわたり合計2億5000万円が原告名義口座から本件医療法人名義口座へ送金されたものであり(本件送金①)、いずれもその直後(最長約49分後)に、同額が、参加人名義口座へそれぞれ送金されている(本件送金②)。そして、いずれの日の本件医療法人名義口座の預金残高(乙11の1~3)からしても、本件医療法人名義口座には、本件送金①がなければ、本件送金②の原資がなかったことが客観的に明らかである。
したがって、本件各送金は、客観的にみて、原告の資金を参加人名義口座に振り込むものであったと認められる。
(ウ)Rグループ全体を実質的に支配していた参加人は、自らの意思、計画に基づいて、原告から本件各金員を受領したのであるから、参加人は、原告の事業活動を通じて経済的利益を得たと認められる。他方で、この経済的利益は、原告の代表者としての立場と全く無関係であるとか、原告からみて純然たる第三者との取引ともいうべき態様によるものであるなどの特段の事情は認められない。
そうすると、本件各金員は、実質的に、参加人がその地位及び権限等に対して原告から受けた給料等であると推認され、所得税法28条1項に規定する給与等に該当する。そして、本件各金員は、参加人の指示に従って支給されたものであって、あらかじめ支給額、支給基準又は支給期の定めのない臨時に支給された給与であるから、賞与に該当する。
ウ 小括
以上のとおり、参加人が原告から受領した本件各金員は、原告の参加人に対する給与等(所得税法28条1項)に該当し、原告は、その「支払をする者」に当たるから、本件各金員について、所得税法183条1項等に基づき、源泉徴収義務を負う。
(原告の主張)
ア 本件各金員が所得税法28条1項所定の給与等に該当しないこと
法人から役員等に対する経済的利益の移転が所得税法28条1項所定の給与等に該当するためには、その文言からも、支給者たる法人が受給者たる役員等に職務上の対価として経済的利益を移転させたことを要する。
原告の理事長であった参加人は、本件各金員を自らの趣味の競走馬購入費用に充てている。学校法人が収益事業を行う場合、寄附行為にその事業の種類その他その事業に関する規定を設け、当該寄附行為につき所轄庁の認可をとる必要があるところ(私立学校法30条1項9号)、原告の寄附行為(甲21)に競走馬事業等を行う旨の規定はない。また、実質的にみても、参加人が競走馬購入等で得た賞金等の利益を原告に還元した事実はなく、参加人が競走馬事業で名声を得ることが学校法人である原告の価値上昇に貢献するものでもない。
よって、本件各金員が原告の職務上の対価として支払われた事実はなく、所得税法28条1項所定の給与等には該当しない。
イ 原告が所得税法183条1項所定の「支払をする者」に該当しないこと
所得税法183条1項に規定される源泉徴収義務は、「給与等の支払をする者」に課されるところ、本件各金員の出捐について原告の理事会及び評議員会の決議は実施されておらず、原告が「支払った」という事実はない。補助金の支給を受け、公の性質を有する学校法人では、手続違背の出捐行為は直ちに無効であり、このように私法上無効な行為について課税対象となる所得や収益は発生しないから、所得税法183条1項の「支払をする者」として源泉徴収義務が発生するとは解されない。
ウ 役員による横領行為を給与等として認定すべきでないこと
本件各金員の移動は、参加人が自らの理事長としての権限を濫用又は逸脱して行ったものであるから、参加人が本件各金員を自らの口座に送金した行為は、違法な横領行為に該当する。法人の代表者が法人から与えられた権限を濫用又は逸脱して私的に利益を得た場合、法人が代表者に委任した職務執行の権限を越えているのであるから、その利得は代表者の労務の対価とはいえないし、代表者の地位に基づいた金員の支給とは到底いえず、給与等に該当しないことは明らかである。また、法人が、自らに損害を及ぼすような代表者の権限逸脱行為を承諾することなどあり得ないから、横領の被害者である原告が「給与等」を「支払った」などと評価することは、不合理かつ不自然である。
原告のような学校法人は、私立学校法に基づき設立された法人であって、監督官庁の監査を受けるとともに、法の規定に沿って理事、評議員の機関が置かれており、代表者である理事長と法人とは独立した社会的に別個の存在である。理事長が実質的に全面的な支配権を有していたとしても、それは事実上の問題にすぎず、法的な意味では、両者は別人格を有する別個の存在であるから、実質的支配権を有する代表者が違法に法人から利益を自己に移転させた場合に、給与等であるとの推認ができるなどという被告の主張は、暴論であり、法の解釈を誤ったものである。
(参加人の主張)
ア 原告と本件医療法人との間の資金移動について
(ア)原告は、平成29年11月16日に本件医療法人に対して送金した5000万円について、すぐに戻ってくる予定の金員であったことから、まずは「未収入金」として計上した(丙1)。
その後、平成29年11月29日にも原告から本件医療法人に対し1億1000万円の送金があり、同じく「末収入金」として計上した。その後、同年12月27日に本件医療法人から原告に対し1億3000万円の返済があり(丙1)、平成29年度末(平成30年3月末)における本件医療法人に対する未収入金の額は、差し引き3000万円となった。
原告は、この3000万円の末収入金の内容は本件医療法人に対する貸付けであったことから、平成30年4月1日、これを「長期貸付金」に振り替えた(丙2)。
(イ)原告は、平成30年11月20日に送金した1億円及び同年12月25日に送金した1億円の合計2億円について、原告から本件医療法人に対する貸付けであったことから、これらを「長期貸付金」として計上した(丙2)。
(ウ)原告と本件医療法人との間の長期貸付金は、その後も継続して発生し、貸付け及び返済により増減したが(丙3)、令和2年4月8日に4億円、同年6月1日に3億9850万円が返済されたことにより、全て消滅した(丙4)。
イ 本件医療法人と参加人との間の資金移動について
参加人は、本件送金②に係る各金員を含め、本件医療法人から金員を借り入れていた。そして、参加人は、返済資金ができたことから、本件医療法人からの借入金の返済として、本件医療法人に対し、令和2年4月8日に4億円、同年5月14日に1000万円、同月29日に4億円を支払った(丙11の1、2)。
ウ 小括
以上のとおり、本件各金員は、原告から本件医療法人に対する貸付けであり、これを含む原告から本件医療法人に対する貸付金は、令和2年6月1日の返済により消滅している。また、本件医療法人においても、本件各金員について、原告からの「仮受金」及び参加人に対する「仮払金」として経理上処理している。本件各金員は、原告から本件医療法人、本件医療法人から参加人へと送金されているが、経理上、原告と本件医療法人との間の貸借、本件医療法人と参加人との間の貸借として把握されており、参加人も、本件医療法人から借りたものと認識していた。参加人は、本件医療法人からの借入れについても、適宜返済している。
よって、本件各金員は、原告から参加人への給与等(賞与)には該当せず、原告が源泉徴収義務を負うこともない。
(2)争点2(原告に、通則法68条3項に規定する隠蔽仮装行為に該当する事実があるか否か)について
(被告の主張)
ア 原告は、参加人へ給与等(賞与)を支払うに当たり、参加人に直接交付したり参加人名義口座に送金したりする方法をとらず、参加人の指示により、あえて本件医療法人名義口座を通過させた上で参加人名義口座に送金した。
また、原告は、本件各金員が参加人に対する給与等(賞与)であるにもかかわらず、会計帳簿上、「未収入金」や「長期貸付金」として記載するなどの虚偽の会計処理を行った(乙12の1、2)。
これらの原告の作為は、参加人に対する給与等の支払がなかったかのような外形を作出し、参加人が原告から本件各金員相当額の経済的利益を受領した事実を隠蔽するものであるから、原告は、参加人への給与等の支払の「事実の全部又は一部を隠蔽」したものと認められる。
イ 原告は、その隠蔽した事実に基づき、本件各金員の額に係る源泉所得税等を法定納期限までに納付しなかった。
そして、通則法68条3項による重加算税を課すためには、源泉徴収義務者が故意に事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽、仮装したところに基づきその国税を法定納期限までに納付しなかったという結果が発生したものであれば足り、それ以上に、納税者において源泉所得税を免れようとする意図があったことまでは要しないから、原告には、隠蔽仮装行為の故意があったと認められる。
ウ したがって、原告には、通則法68条3項に規定する隠蔽仮装行為に該当する事実が認められ、重加算税の課税要件を満たす。
(原告の主張)
ア 参加人の指示のもと、原告から本件医療法人、本件医療法人から参加人へと資金移動を行ったのは、原告から直接参加人へ資金を移動させると利益相反に該当し、東京都から指摘を受けることになるから、これを避けるため、実際の金員の移動を形式面に合わせるべく行ったものであり、何ら事実を隠蔽したと評価されるべき点はない。当時の原告及び参加人は、外形的にも実質的にも、原告から本件医療法人、本件医療法人から参加人へと資金を移動させるために当該各行為を行ったものであり、実質的に原告から参加人への給与であるとするのは、被告の事後的な評価にすぎない。
イ また、会計帳簿上「未収入金」や「長期貸付金」と記載した処理については、本件各金員について、貸付金と評価できるのか、無権限行為であり貸付けとは評価できないものであるかはともかく、参加人としては、いずれは本件各金員の移動による効果を解消しなければならないと認識していたことから、そのように記帳したものである。現に、本件各金員の移動による効果は、令和3年3月31日付けで参加人から原告に対し弁済がされたことにより解消されている。よって、会計帳簿の記載についても、何ら事実を隠蔽した行為はない。
ウ 以上のとおり、被告の指摘する原告の行為は、いずれも重加算税の賦課要件である隠蔽仮装行為に該当しないから、本件各賦課決定処分は、違法である。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1)原告及び本件医療法人における資金移動に係る権限等
ア 参加人は、原告の理事長を務めていた令和3年8月5日までの期間、本件医療法人を含むRグループ内の全ての法人の経営に係る意思決定をしていた。原告は、平成25年4月26日の理事会において、Rグループ内の資金繰りにつき、円滑な運営をするため、今後参加人の一任とすることを承認可決した。(乙2、14〔122頁〕、23〔20頁〕)
なお、本件医療法人については、平成27年3月以降、参加人の二男が理事長を務めていたが、同人は、平成30年1月までは外部の医局に在籍し多忙であったため、本件医療法人の経営にはほぼ関与せず、本件各送金当時、参加人が本件医療法人における経営判断を行っていた。(乙3)
イ 原告における経理事務は、原告の設立当初から令和3年8月5日まで原告の理事を務めていたB(以下「B」という。)が担当していた。Bは、原告の理事及び評議員であるとともに、本件大学の副事務局長及び財務会計課長も務めており、原告及び本件大学の経費全般の支払等の事務を担当するほか、参加人から送金日及び送金先等の指示を受けた際には、これに従い、原告を含むRグループ間の送金手続等を行っていた。(甲20〔3頁〕、乙1、4、23〔20頁〕)
ウ 原告及び本件医療法人を含むRグループの税務関連業務は、M会計事務所のM税理士(以下「M税理士」という。)が行っていた。また、M税理士は、参加人個人の経理及び税務申告等についても参加人から任されていた。(乙17〔719頁〕、22)
(2)本件各送金の経緯等
ア Bは、本件各送金について、参加人から、電話又は口頭で、「同じ日に会(判決注:本件医療法人)を経由して私の口座(同:参加人名義口座)に送金してください。」など、同じ日のうちに原告から本件医療法人経由で参加人に送金するよう指示を受け、本件各送金の手続をした。(乙4)参加人がBに対して上記指示をしたのは、原告から参加人に対して直接送金すると、利益相反になると考えたためであった。(乙17〔695頁〕、23〔35頁〕)
イ 本件送金①(原告名義口座から本件医療法人名義口座への送金)及び本件送金②(本件医療法人名義口座から参加人名義口座への送金)が行われた時刻並びに本件送金①が行われる直前における本件医療法人名義口座の残高は、それぞれ、次表のとおりであり、本件医療法人名義口座上、いずれも本件送金①に続けて本件送金②が行われている。(乙11の1~3)

(3)本件各金員についての経理処理
ア 原告における経理処理
本件各金員は、原告の総勘定元帳において、平成29年11月16日に送金した5000万円が本件医療法人に対する「未収入金」として、平成30年11月20日及び同年12月25日に送金した各1億円が本件医療法人に対する「長期貸付金」として、それぞれ計上された。(乙12の1、2)
原告は、平成30年4月1日、総勘定元帳の「未収入金」3000万円を「長期貸付金」に振り替えた。(丙2)
イ 本件医療法人における経理処理
本件各金員は、本件医療法人の総勘定元帳において、平成29年11月16日に送金された5000万円が「仮受金」として、平成30年11月20日及び同年12月25日に送金された各1億円が「長期借入金」として、それぞれ計上された。(乙17〔728、734頁〕)
また、本件送金②(本件医療法人名義口座から参加人名義口座への送金)に係る各金員は、本件医療法人の総勘定元帳において、いずれも「仮払金」として計上された。(乙17〔730、733頁〕)
ウ 参加人における経理処理
本件送金②に係る各金員は、参加人の個人事業(競走馬・繁殖牝馬)の総勘定元帳において、いずれも「事業主借」として計上された。(乙17〔556~558頁〕)
エ 経理処理の経緯等
以上の経理処理は、いずれも、M税理士及びM会計事務所の職員が行ったものであった。
(4)参加人名義口座に送金された各金員の使途
参加人は、本件送金②に係る各金員を、参加人が主体となって行っていた競走馬事業の費用等の支払に充てたほか、参加人の個人的用途の支払に充てた。(乙23〔22、23頁〕、弁論の全趣旨)
(5)原告の経営権が譲渡された後の原告と参加人との間における紛争
ア 参加人は、令和3年8月5日、原告の理事長を退任し、原告の経営母体は、株式会社Eに移った。(前提事実(1)ア)
イ 原告は、令和4年1月12日付けで、参加人及びBを含む原告の理事であった者らを被告として、原告から参加人に対し退職慰労金名目で支払われた4億3669万1195円の返還又は任務懈怠責任に基づく損害賠償を求める訴訟を提起したところ、東京地方裁判所は、令和7年2月19日、原告の請求を全部認容する旨の判決を言い渡した。なお、原告は、同訴訟も含め、参加人に対して本件各金員に係る損害賠償請求等をしていない。(甲9、20、弁論の全趣旨)
2 争点1(本件各金員につき、原告が所得税法183条1項等に基づく源泉徴収義務を負うか否か)について
(1)本件各金員が原告から参加人に対して支払われたものと認められるか否かについて
ア 前提事実(2)及び(3)のとおり、本件各金員は、原告名義口座から本件医療法人名義口座に送金され(本件送金①)、さらに、これと同額の金員が本件医療法人名義口座から参加人名義口座に送金されている(本件送金②)。そこで、まず、本件各金員が原告から参加人に対して支払われたものと認められるか否かについて検討する。
イ 認定事実(2)によると、本件送金①がされてから本件送金②がされるまでの時間は、49分、5分又は4分といずれも近接しており、本件医療法人名義口座上も、本件送金①と本件送金②とはいずれも連続して行われていること、本件送金①の各直前における本件医療法人名義口座の残高は、いずれも本件送金②をするには足りない額であったこと、本件各送金はいずれも参加人の指示によるものであることが認められる。これらのことからすると、本件送金①の時点において、本件医療法人には、本件送金②をする以外に本件送金①を受ける理由があったとはいえないし、また、本件送金②に係る各金員を本件医療法人が自ら出捐したともいえないのであって、本件各金員は、原告から本件医療法人名義口座を通過点として参加人へ移動したとみるのが相当である。
加えて、参加人自身、本件調査において、原告から本件医療法人を通じて借りたものもある旨の供述をし(乙17〔686頁〕)、その理由について、学校法人から直接参加人に送金すると利益相反になるので、間に本件医療法人を挟んだ旨の供述をしていたのであって(乙17〔695頁〕)、かかる供述にも照らすと、本件各送金を指示した参加人において、原告の資金を参加人が受領するとの認識を有していたものと認められる。
ウ 以上のような本件各送金が行われた経緯、本件送金①と本件送金②との時間的近接性ないし連続性、本件医療法人名義口座の残高の状況及び参加人の認識等からすると、本件各金員は、本件医療法人を介して、原告から参加人へ資金を移動させたものであり、原告から参加人に対して支払われたものと認めることができる。
(2)本件各金員が所得税法28条1項の給与等(賞与)に該当するか否か及び原告が同法183条1項の「支払をする者」に当たるか否かについて
ア 所得税法28条1項は、給与所得となる給与等について、「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与」と包括的に規定しているところ、同項にいう給与所得は、雇用契約又はこれに類する委任契約等の原因に基づき提供した非独立的な労務又は役務の対価として受ける給付をいい、これには、労務又は役務を提供する地位に基づいて支給されるものも含まれると解するのが相当である(最高裁昭和52年(行ツ)第12号同56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁、最高裁昭和36年(オ)第298号同37年8月10日第二小法廷判決・民集16巻8号1749頁、最高裁平成16年(行ヒ)第141号同17年1月25日第三小法廷判決・民集59巻1号64頁参照)。
そこで、本件各金員が、原告の理事長という地位に基づいて参加人に支給されたものと認められるか否かにつき検討する。
イ 参加人は、平成12年に原告を設立して以降、令和3年8月5日に至るまで、原告の理事長の立場にあり、原告における唯一の代表者であった(前提事実(1)ア)。また、本件各送金が行われた当時、参加人は、原告及び本件医療法人を含むRグループ内の全ての法人の経営に係る意思決定をする権限を有していた(認定事実(1)ア)。かかる権限に基づき、参加人は、Bに指示をして、Rグループ内の法人間の送金手続を行わせていた(認定事実(1)イ)。
本件各送金は、そのような地位及び権限を有する参加人が、原告の経理事務を担当するBに対し、本件医療法人を経由して参加人に送金するよう指示をしたことに基づいて行われたものであるから(認定事実(2)ア)、参加人は、原告の理事長という地位に基づいて、原告から本件各金員を受領したものというべきである。
ウ 以上によると、本件各金員は、原告の理事長という地位に基づいて参加人に支給されたものと認められ、所得税法28条1項の給与等に該当する。そして、本件各金員は、規則的に反覆又は継続して支給されるものではなく、不規則又は臨時的に支給されるものであるから、給与等のうち賞与に該当するということができる。
また、以上の事実関係からすれば、原告は、本件各金員という参加人への給与等の「支払をする者」に当たると認められる。
(3)原告の主張について
ア 原告は、参加人が本件各金員を自らの趣味の競走馬購入費用に充てていること、参加人が競走馬購入等で得た賞金等の利益を原告に還元した事実はないこと、参加人が競走馬事業で名声を得ることが学校法人である原告の価値上昇に貢献するものでもないことなどを指摘して、本件各金員が原告の職務上の対価として支払われた事実はなく、所得税法28条1項所定の給与等には該当しない旨主張する。
しかし、所得税法28条1項の給与等に該当するか否かは、雇用契約又はこれに類する委任契約等の原因に基づき提供した労務又は役務の対価として受ける給付あるいは労務又は役務を提供する地位に基づいて支給されるものと客観的に認められるか否かにより判断すべきであり(前記(2)ア参照)、本件各金員の使途や原告への利益の有無といった原告の指摘するような事情は、本件各金員の性質についての前記判断を左右するものとはいえない。したがって、原告の上記主張は、採用することができない。
イ 原告は、本件各金員の出捐について原告の理事会及び評議員会の決議は実施されておらず、原告が「支払った」という事実がないこと、手続違背の出捐行為は直ちに無効であり、私法上無効な行為について課税対象となる所得や収益は発生しないことを指摘し、原告は所得税法183条1項の「支払をする者」に該当しない旨主張する。
そこで検討するに、所得税法183条1項は、給与等の支払をする者に対し、その支払の際、その所得税を徴収することを義務付けているところ、この「支払」とは、所得の正確な把握と徴収の確保という趣旨から、担税力を増加させる経済的利益の移転行為の全てをいうものと解され、その者の意思に基づくものである限り、適法・有効なものであるか、不法・無効なものであるかを問わないと解すべきである。したがって、客観的に給与等に該当する性質の経済的利益を意思に基づいて移転させる行為が認められれば足り、必ずしも私法上有効であることを要しないと解するのが相当である。
本件において、参加人は、原告における唯一の代表者としての地位及び権限に基づき本件各送金を行わせ、これにより原告から参加人に経済的利益が現実に移転したのであるから、仮に、内部的な手続が履践されていなかったとしても、原告の意思に基づく行為とみることができるのであり、原告の指摘する事情をもって、原告が「支払をする者」に該当しないということはできない。したがって、原告の上記主張は、採用することができない。
ウ 原告は、参加人が本件各金員を自らの口座に送金した行為は権限を濫用又は逸脱した違法な横領行為に該当し、その利得は代表者の労務の対価や代表者の地位に基づいた金員とはいえず、給与には該当しないとか、横領の被害者である原告が「給与」を「支払った」などと評価することは不合理かつ不自然な評価であるなどと主張する。
しかし、前記イで説示したとおり、参加人は、原告における唯一の代表者としての地位及び権限に基づき本件各送金を行わせ、これにより原告から参加人に経済的利益が現実に移転したのであるから、これを原告の意思に基づく行為とみることができ、このことは、仮に参加人がその権限を濫用して本件各金員を受領したという事実があったとしても左右されない。すなわち、参加人は、原告の理事長であり唯一の代表者として包括的な権限を有していたからこそ、本件各送金を指示し、本件各金員を受領することができたのであり、理事長の業務執行行為として行われたと認められるのであるから、本件各金員は、当該理事長の地位に基づいて支給されたものとして、所得税法28条1項の給与等に該当し、原告は、給与等の「支払をする者」に該当するというべきである。
よって、原告の上記主張も、採用することはできない。
(4)参加人の主張について
参加人は、本件各金員は原告から本件医療法人への貸付けであり、これを含む貸付金は、令和2年4月8日に4億円、同年6月1日に3億9850万円が返済されたことにより全て消滅している旨主張する。
しかし、前記(1)イで説示したとおり、本件各送金が行われた経緯、本件送金①と本件送金②の時間的近接性ないし連続性や本件医療法人名義口座の残高の状況等からすると、本件送金①の時点において、本件医療法人には、本件送金②をする以外に本件送金①を受ける理由があったとはいえないし、本件送金②に係る各金員を本件医療法人が自ら出捐したともいえないから、本件医療法人名義口座は単なる通過点であったとみるのが相当であり、原告の本件医療法人に対する貸付けの実態があったと認めることはできない。そうすると、原告の総勘定元帳において、本件各金員が本件医療法人に対する「未収入金」又は「長期貸付金」として計上されていることは、実態を正しく反映したものとは認められず、これをもって、本件各金員が本件医療法人に対する貸付けであるとの参加人の上記主張を裏付けるものとはいえない。
また、参加人の提出する証拠(丙3、4、10)をみても、令和2年4月8日及び同年6月1日に本件医療法人から原告に支払われたとする金員と本件各金員との関係は明らかではないから、これをもって、本件各金員が原告から本件医療法人への貸付けであり、その全額が返済により消滅した旨の参加人の上記主張を裏付けるものとはいい難い。
よって、参加人の主張は的確な裏付けを欠き、採用することができない。
(5)小括
以上によれば、本件各金員は、原告が参加人に対して支払った給与等(賞与)に該当するから、原告は、所得税法183条1項等に基づく源泉徴収義務を負う。
3 争点2(原告に、通則法68条3項に規定する隠蔽仮装行為に該当する事実があるか否か)について
(1)通則法68条1項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解するのが相当である(最高裁昭和59年(行ツ)第302号同62年5月8日第二小法廷判決・裁判集民事151号35頁参照)。
(2)前記2で説示したとおり、本件各金員は、原告から参加人に対する所得税法28条1項の給与等(賞与)に該当し、原告は、所得税法183条1項等に基づく源泉徴収義務を負うところ、原告は、参加人に対して本件各金員を支払うに当たり、代表者であった参加人の指示により、あえて本件医療法人名義口座を通過させる方法により本件各送金を行い、さらに、参加人に対する給与等(賞与)であるにもかかわらず、原告の総勘定元帳において、本件各金員を本件医療法人に対する「未収入金」や「長期貸付金」として計上していたものである(認定事実(3)ア)。
そうすると、原告は、本件送金①が本件医療法人に対する貸付け等であるかのように仮装し、参加人が原告から本件各金員に相当する経済的利益を受けた事実を隠蔽したものといえる。
(3)これに対し、原告は、本件各送金が行われた当時の原告及び参加人の意思としては、外形的にも実質的にも、原告から本件医療法人、本件医療法人から参加人へと資金を移動させるというものであり、実質的に原告から参加人への給与であるとするのは被告の事後的な評価にすぎないとか、会計帳簿の記載についても、いずれは本件各金員の移動による効果を解消しなければならないと認識していたためであり、現に、本件各金員の移動による効果は令和3年3月31日の弁済により解消されているから、何ら事実を隠蔽した行為はないなどと主張する。
しかし、前記2(1)イで説示したとおり、本件各送金が行われた経緯、本件送金①と本件送金②の時間的近接性ないし連続性や本件医療法人名義口座の残高の状況等からすると、本件医療法人名義口座は単なる通過点であったとみるのが相当であり、原告において、原告から本件医療法人、本件医療法人から参加人へと資金を実質的に移動させる意思を有していたとは認め難い。
また、本件各金員が原告から本件医療法人への貸付けであったと認められないことは前記2(4)で説示したとおりであるし、令和3年3月31日付けで貸金債務が弁済されたと認めるに足りる的確な証拠もなく、また、そもそも、事後の弁済によって隠蔽仮装行為がなかったことになるわけでもないから、この点に係る原告の上記主張も、採用することができない。
なお、原告ないし参加人において、原告から直接参加人へ資金を移動させると利益相反に該当し、東京都から指摘を受けることになるのを避けるとの動機を有していたとしても、このような動機は、隠蔽仮装行為の動機ないし故意と両立・併存し得るものであり、前記(2)で説示したところからすれば、原告が隠蔽仮装行為を行ったとの認定を左右するものではない。
(4)よって、原告には、本件各金員に係る源泉所得税等につき、通則法68条3項に規定する隠蔽仮装行為に該当する事実があったと認められる。
4 本件各処分の適法性
以上のとおり、原告は、本件各金員につき所得税法183条1項等に基づく源泉徴収義務を負うところ、原告の納付すべき源泉所得税等の額は、別表3から別表5の各⑥「納付すべき源泉所得税等の額」欄のとおりとなり、また、原告に課されるべき重加算税の額は、別表3から別表5の各⑦「重加算税の額」欄のとおりとなる。これらの各金額は、いずれも本件各処分における税額と同額であるから、本件各処分は、適法である。
第4 結論
以上の次第で、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官 篠田賢治
裁判官 高部祐未
裁判官 下山雄司
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