解説記事2020年04月27日 SCOPE 監査役選任と同じ日に解任、裁判の行方は?(2020年4月27日号・№832)

判決から読む上場を巡る事件簿(2)
監査役選任と同じ日に解任、裁判の行方は?


 上場を準備している被告の会社の監査役に就任した直後に常勤としての要件を満たさないとして解任された原告が、会社に損害賠償請求を求めた事件で、東京地方裁判所(西山渉裁判官)は令和元年10月28日、常勤監査役となることを前提に監査役への就任を承諾したことを踏まえれば、原告が監査役に選任された直後に「週に1日だけ出社する」旨の発言を行ったことによって主幹事証券会社から常勤監査役とすることは認められないとの評価を受けたこと自体が、監査役としての適格性を欠いていると評価されてもやむを得ない事情であるというべきであると判断。原告の請求を斥けた。

監査役選任後の取締役会での原告の発言が問題に

 今回紹介する事件は、上場を準備している被告の会社の常勤監査役に選任された原告が、選任と同じ日に正当な理由なく監査役を解任されたとして、被告に対し会社法339条2項に基づき損害賠償請求したものである。
 被告は主幹事証券会社の指導を受けながら上場準備を進める一方、上場に向けて監査役会設置会社に移行することを計画し、監査役3名の候補者の紹介を人材紹介会社に依頼。そのうちの1人が常勤監査役候補の原告であったが、監査役就任後に開催された取締役会において「経営コンサルタントとして顧問先を6社請け負っている」旨の発言(発言①)をし、続いて開催された監査役会でも「週に1日だけ出社する」旨の発言(発言②)をしたため、被告が主幹事証券会社に確認したところ、常勤性を充たさないとの見解が示されたため、監査役から解任する旨の決議が行われたものであった。原告は本件発言②をしていないなどと主張していた(参照)。

【表】当事者の主な主張

被告(会社) 原告(元監査役) 原告(元監査役)
・被告は、上場に向けた準備の一環として、当初から原告を常勤監査役候補者として扱っており、原告もこれを了解していたにもかかわらず、監査役に選任された直後に各発言を行い、証券会社から常勤性を充たさないとの見解を示される状況をもたらし、被告の上場計画が頓挫する危機を招いた。本解任決議は、常勤監査役候補者として選任した原告が週1 日を超える出社を拒絶していたことなどを踏まえ、原告は常勤性を欠き、将来もこれを補正することが不可能であるとの判断に基づき、常勤監査役の職務への著しい不適任が事前に明らかであって、上場実現に向けてこの問題を解消する必要があったことから行われたものであり、原告の解任には正当な理由がある。

・原告は本件発言をしておらず、発言も「現在6社の顧問をしている」と発言したわけではなく、6社のうち3社が既に終了していたことを踏まえ、過去形で発言したものである。
原告は客観的・法律的には常勤監査役に求められる常勤性を充たしていたこと、職務を開始する前の段階で職務への著しい不適任を理由として解任すること自体が十分な根拠に基づかない判断であったこと、本件各発言によって一人株主である代表取締役の信頼を失ったとしても業務執行の障害となるべき客観的状況が備わっていなかったことからすれば、原告の解任には正当な理由がない。

主幹事証券会社の評価自体が監査役の適性を欠くと評価されてもやむを得ず

 裁判所は、原告は各発言のうち、本件発言①については「現在6社の顧問をしている」と発言したわけではなく「直近では6件ほどの顧問案件を担当してきた」と過去形で発言したものであり、本件発言②についてはそのような発言を全くしていないと主張するが、①取締役会及び監査役会が開催された当日に、被告が監査役に選任したばかりの原告を直ちに解任するという非常手段というべき行動に及んだことや、②その翌日の早朝に被告の代表取締役が人材紹介会社の担当者に対して原告が各発言をしたことを問題視する内容のメールを送ったことに加え、③解任決議の翌日に行われた面談において、原告が各発言を前提とする被告の取締役からの指摘に対し、各発言をしたこと自体は否定せず、別の事情を挙げて反論する姿勢に終始していたことを考えると、原告の供述は信用することができないとした。
 その上で裁判所は、被告が上場に向けた準備の一環として当初から原告を唯一の常勤監査役候補者として扱い、主幹事証券会社からの厳しい指摘を踏まえて常勤性に問題のないことを原告に確認した上でその採用を決断し、選任前の打合せにおいて原告に対して常勤監査役が行う業務内容に関する説明を行うなどし、常勤監査役に就任することができる者が他に存在しない状況の中で原告を監査役に選任した一方、原告もこうした状況を認識し、選任前の打合せにおいて上場企業の社外取締役として常勤監査役の業務を見てきたとの発言をしてその業務内容や職責を理解している様子を見せるなどした上で、常勤監査役に選定されることを前提として監査役への就任を承諾したという一連の経緯を踏まえれば、原告が監査役に選任された直後に本件発言②を行い、これによって主幹事証券会社から常勤監査役とすることは認められないとの評価を受けたこと自体が、被告が求める監査役としての適格性を欠いていると評価されてもやむを得ない事情であるというべきであると指摘。したがって、解任決議をした時点で被告において原告に監査役としての職務を委ねることができないと判断することもやむを得ない事情があったということができるから、被告が原告を解任したことには正当な理由があるものと認めるのが相当であるとした。
監査役として容認される余地のない発言
 加えて裁判所は、原告は被告の上場計画の中で不可欠とされていた常勤監査役に選定されることを前提として監査役に選任された者として、およそ容認される余地のない発言をしたものであって、当該発言によって主幹事証券会社から上場に向けた手続を当初の予定通り進めることを否定される状況を招いたのであるから、原告を解任するとの被告の判断が十分な根拠に基づかないものであったとか、業務執行の障害となるべき客観的状況が備わっていなかったなどということはできないと指摘した。

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