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解説記事2021年03月01日 税務マエストロ 控除対象外消費税額等の処理方法~法令解釈通達の改正を受けて(2021年3月1日号・№872)

税務マエストロ
控除対象外消費税額等の処理方法~法令解釈通達の改正を受けて
#258
 熊王征秀(税理士)

マエストロの解説

 国税庁から『「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」の一部改正について(法令解釈通達)』が公表された(課法2−6 令和3年2月9日)。この法令解釈通達は、令和2年12月15日から令和3年1月13日までを募集期間として国税庁から意見公募がされていたもので、意見公募の結果(内容)についても令和3年2月10日に国税庁から公表されている。
 令和2年12月15日付で公表された『「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」(法令解釈通達)ほか1件の一部改正(案)に対する意見公募手続の実施ついて』によれば、インボイス制度の導入に伴う仮払(仮受)消費税等の精算に関する取扱いの整理が必要であることを、法令解釈通達を改正する理由としているようである。これを受け、改正後の法令解釈通達(経過的取扱い(1)……改正通達の適用時期)では、「……改正後の取扱いは、令和5年10月1日以後に……適用し……」としている。
 ここで気になるのは、改正後の同通達13(資産に係る控除対象外消費税額等の処理)と14の3(控除対象外消費税額等の対象となる消費税法の規定)の箇所である。本誌No.860(2020.11.30号)では、令和2年度改正により創設された居住用賃貸建物に対する仕入税額控除の制限規定について、控除対象外消費税額等との関係を検討したところであるが、改正された法令解釈通達の内容を読む限り、筆者の疑問点に対する実務上の指針が示されたように見受けられる。
 そこで、改正された法令解釈通達のうち、13(資産に係る控除対象外消費税額等の処理)と14の3(控除対象外消費税額等の対象となる消費税法の規定)の内容を、本稿において検討することにした。なお、控除対象外消費税額等の基本的な取扱いについては、本誌No.860(2020.11.30号)の23〜31頁を参照されたい。

1 法令解釈通達13(資産に係る控除対象外消費税額等の処理)の改正

(1)資産に係る控除対象外消費税額等の処理方法
 資産に係る控除対象外消費税額等のうち、下記①〜③のいずれかに該当するものについては、損金経理を条件に損金の額に算入することが認められている(法令139の4)。
① 課税売上割合が80%以上の場合
② 個々の資産に係る控除対象外消費税額等の金額が20万円未満のもの
③ 棚卸資産に係る控除対象外消費税額等
 つまり、控除対象外消費税額等について注意を要するのは、固定資産を購入した期の課税売上割合が80%未満で、かつ、その固定資産に係る控除対象外消費税額等が20万円以上の場合である。この場合には、その固定資産に係る控除対象外消費税額等について、次のいずれかの方法により処理することが必要となる。
① その固定資産の取得価額に加算して減価償却する方法
② 繰延消費税額等として資産に計上し、均等償却する方法
(2)控除対象外消費税額等の一部を損金経理しなかった場合
 資産に係る控除対象外消費税額等を損金算入するかしないかの判断は法人の選択に委ねられているのであるが、上記(1)の取扱いは、資産に係る控除対象外消費税額等の全額について適用する必要があることに注意する必要がある。
 したがって、資産に係る控除対象外消費税額等の一部について損金経理をしなかった場合には、その損金経理をしなかった資産に係る控除対象外消費税額等については、繰延消費税額等として資産に計上し、均等償却することが義務付けられている。この場合において、資産の取得価額に算入した控除対象外消費税額等の金額は、その資産の取得価額から除いたところで法人税の課税所得金額を計算する(減価償却費の計算をする)こととされている。

<計算例>

 A社は、前期において1億円(税抜)で取得した建物につき、一括比例配分方式により仕入控除税額を計算した。前期における課税売上割合は70%であるが、当該建物に係る控除対象外消費税額等300万円(1億円×10%−1億円×10%×70%)のうち、90万円を取得価額に算入し、残額の210万円を決算修正において繰延消費税額等に計上した。
 A社は、仕入控除税額の計算で一括比例配分方式を採用した場合には、税抜経理方式を採用した場合の固定資産に係る控除対象外消費税額等について、課税売上割合に相当する金額しか繰延消却ができないものと認識(誤認)している。

○会社処理(前期)
 (建物)100,000,000     (建設仮勘定)110,000,000
 (仮払消費税等)10,000,000
 (建物)900,000       (仮払消費税等)3,000,000
 (繰延消費税額等)2,100,000
 (繰延消費税額等償却額)210,000(繰延消費税額等)210,000
            ↑
     2,100,000×12/60×1/2

○修正処理(当期) 
 (繰延消費税額等)900,000   (建物)900,000
 (繰延消費税額等償却額)600,000(繰延消費税額等)600,000
            ↑
     (2,100,000+900,000)×12/60
※ 建物については、取得価額(1億円)を基に減価償却費を計算する。

(3)改正案の内容
 令和2年12月15日に国税庁から公表された『「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」(法令解釈通達)ほか1件の一部改正(案)に対する意見公募手続の実施について』では、資産に係る控除対象外消費税額等の処理(改正後の13)について改正案の内容を次のように説明している。

 資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入制度はその適用を受けるかどうかを選択することができますが、適用を受ける場合には資産に係る控除対象外消費税額等の全額について適用しなければならないこととされ、法人が資産に係る控除対象外消費税額等の一部についてこの制度の適用を受けなかった場合には、その適用を受けなかった控除対象外消費税額等については、翌事業年度以後において繰延消費税額等として損金の額に算入することとされています。これについて、法人税法施行令第139条の4第1項から第3項までの規定の適用を受けるためには損金経理をすることが条件となりますので、法人が資産に係る控除対象外消費税額等の一部について損金経理をしなかった場合には、その損金経理をしなかった控除対象外消費税額等については、翌事業年度以後において繰延消費税額等として損金の額に算入することとしました。改正前の13の取扱いと実質的な変更はありません。

(4)新旧対照表(抄)
 令和3年2月9日に国税庁から公表された『「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」の一部改正について(法令解釈通達)』には、法令解釈通達の改正内容が別紙において下記のように掲載されている(アンダーラインを付した箇所が、新設し、又は改正した箇所である。)。

(改正後)

  :
(資産に係る控除対象外消費税額等の処理)
13
 令第139条の4第5項《資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入》に規定する資産に係る控除対象外消費税額等の合計額(以下「資産に係る控除対象外消費税額等」という。)については、同条の規定の適用を受け、又は受けないことを選択することができるが、同条の規定の適用を受ける場合には、資産に係る控除対象外消費税額等の全額について同条の規定を適用することになることに留意する。したがって、法人が資産に係る控除対象外消費税額等の一部について損金経理をしなかった場合には、その損金経理をしなかった資産に係る控除対象外消費税額等については、当該事業年度後の事業年度において同条第4項の規定を適用するのであるから留意する。
(注)1 この取扱いの後段の適用を受ける場合において、法人が資産に係る控除対象外消費税額等の一部について資産の取得価額に算入したときは、その資産の取得価額に算入した資産に係る控除対象外消費税額等は、当該資産の取得価額から除いて法人税の課税所得金額を計算することに留意する。
   2 本文後段の取扱いは、当該事業年度が連結事業年度に該当する場合における当該連結事業年度後の事業年度にも適用する。
  :

(改正前)

  :
(資産に係る控除対象外消費税額等の処理)
13
 令第139条の4第5項《資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入》に規定する資産に係る控除対象外消費税額等の合計額(以下「資産に係る控除対象外消費税額等」という。)については、同条の規定の適用を受け、又は受けないことを選択することができるが、同条の規定の適用を受ける場合には、資産に係る控除対象外消費税額等の全額について同条の規定を適用しなければならないことに留意する。したがって、法人が資産に係る控除対象外消費税額等の一部について同条の規定の適用を受けなかった場合(資産に係る控除対象外消費税額等を資産の取得価額に算入した場合を含む。)には、その適用を受けなかった控除対象外消費税額等については、当該事業年度後の事業年度において同条第4項の規定を適用するのであるから留意する。
(注)1 この取扱いの後段の適用を受ける場合には、資産の取得価額に算入した資産に係る控除対象外消費税額等は、資産の取得価額から減額することになる。
   2 本文後段の取扱いは、当該事業年度が連結事業年度に該当する場合における当該連結事業年度後の事業年度にも適用する。
  :

2 法令解釈通達14の3(控除対象外消費税額等の対象となる消費税法の規定)の新設

 法令解釈通達14の3(控除対象外消費税額等の対象となる消費税法の規定)の新設により、下記(1)〜(5)のケースについて、控除対象外消費税額等が生ずることが明記された。

(1)法定書類の保存がない課税仕入れ等の税額に係る仮払消費税等(消法30⑦)
(2)居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額に係る仮払消費税等(消法30⑩)
(3)金又は白金の地金を仕入れた場合の本人確認書類の保存がない課税仕入れ等の税額に係る仮払消費税等(消法30⑪)
(4)密輸品に係る課税仕入れ等の税額に係る仮払消費税等(消法30⑫)
(5)課税事業者が免税事業者になる場合の期末棚卸資産に係る課税仕入れ等の税額に係る仮払消費税等(消法36⑤)

(1)法定書類の保存がない課税仕入れ等の税額に係る仮払消費税等
 仕入税額控除の規定の適用を受けようとする事業者は、災害その他やむを得ない事情があることを証明した場合を除き、法定事項が記載された帳簿及び請求書等を、確定申告期限から7年間保存することが義務付けられている(消法30⑦)。
 よって、書類の保存がない課税仕入れ等の税額に係る仮払消費税等は、災害などによる宥恕規定の適用がある場合を除き、控除対象外消費税額等として処理することになる。
(2)居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額に係る仮払消費税等
 令和2年度改正により、居住用賃貸建物については仕入税額控除が認められないこととなった(消法30⑩)。
 よって、居住用賃貸建物に係る課税仕入れ等の税額に係る仮払消費税等は、取得時にその全額を控除対象外消費税額等として処理することになる。
 ただし、居住用賃貸建物に係る控除対象外消費税額等であっても、下記①〜③のいずれかに該当するものについては、損金経理を条件に損金の額に算入することが認められている。
① 課税売上割合が80%以上の場合
② 個々の資産に係る控除対象外消費税額等の金額が20万円未満のもの
③ 棚卸資産に係る控除対象外消費税額等
 また、居住用賃貸建物を仕入日から調整期間の末日までの間に、事業用として賃貸した場合又は譲渡した場合であっても、取得時の控除対象外消費税額の処理方法について何ら修正を加える必要はないものと思われる。

(注)居住用賃貸建物に対する仕入税額控除の制限については本誌No.856(2020.11.2号)の12〜18頁・居住用賃貸建物と控除対象外消費税額等との関係については本誌No.860(2020.11.30号)の23〜31頁を参照されたい。
(3)金又は白金の地金を仕入れた場合の本人確認書類の保存がない課税仕入れ等の税額に係る仮払消費税等
 金又は白金の地金を仕入れた場合には、災害その他やむを得ない事情があることを証明した場合を除き、住民票の写しなどの本人確認書類を保存することが義務付けられている(消法30⑪)。
 よって、書類の保存がない課税仕入れ等の税額に係る仮払消費税等は、災害などによる宥恕規定の適用がある場合を除き、控除対象外消費税額等として処理することになる。
(4)密輸品に係る課税仕入れ等の税額に係る仮払消費税等
 輸入貨物の販売者(仕入先)が、輸入消費税を納付していないことを知りながらその貨物を国内で仕入れた場合には、たとえ法定書類が保存されていたとしても仕入税額控除は認められない(消法30⑫)。

 よって、密輸品に係る課税仕入れ等の税額に係る仮払消費税等は、控除対象外消費税額等として処理することになる。
(5)課税事業者が免税事業者になる場合の期末棚卸資産に係る課税仕入れ等の税額に係る仮払消費税等
 課税事業者を選択している事業者が「課税事業者選択不適用届出書」を提出した場合や基準期間における課税売上高が免税点以下となったことにより、翌期から免税事業者となるような場合には、期末の棚卸資産は免税事業者となってから販売するものであり、その売上げについては消費税は課税されないことになる。しかし、その期末棚卸資産を仕入れたのは課税事業者のときであり、その棚卸資産については、販売の有無に関係なく、課税仕入れの時点で仕入税額控除の対象とされることになる。
 そこで、売上げに対する消費税とのバランスをとるために、本則課税を適用している事業者が翌期から免税事業者になる場合には、期末棚卸資産のうち、当課税期間中に仕入れたものについては仕入税額控除を制限することとしている(消法36⑤)。
 よって、課税事業者が免税事業者になる場合の期末棚卸資産に係る課税仕入れ等の税額に係る仮払消費税等は、控除対象外消費税額等として処理することになる。
 なお、課税事業者が翌期から免税事業者になるケースでは、その課税事業者である最後の課税期間中に仕入れた棚卸資産だけが税額調整の対象とされるのであり、前期以前に仕入れたもののうち、期末に在庫として保有するものについてまで調整をする必要はない。
 下図のようなケースであれば、②の課税期間の末日において保有する棚卸資産のうち、②の課税期間中に仕入れたものだけが税額調整の対象とされることになるのである。
 ①の課税期間中に仕入れた棚卸資産のうち、②の課税期間の末日において保有するものがあったとしても、これについては①の課税期間においてすでに税額控除は完結しているのであり、調整をする必要はないということである。

 例えば、3月決算法人が課税期間を3か月単位に短縮しているような場合であれば、最後の課税期間である1〜3月課税期間中に仕入れた棚卸資産のうち、3月末時点で在庫として保有しているものだけが税額調整の対象とされることになる。
※ 新設された法令解釈通達14の3(控除対象外消費税額等の対象となる消費税法の規定)

          :
(控除対象外消費税額等の対象となる消費税法の規定)
14の3
 税抜経理方式を適用することとなる法人が国内において行う課税仕入れ等(消法第2条第1項第7号の2《定義》に規定する適格請求書発行事業者以外の者から行った同項第12号に規定する課税仕入れ(特定課税仕入れ並びに消法令第46条第1項第5号及び第6号《課税仕入れに係る消費税額の計算》に掲げる課税仕入れを除く。)を除く。)につき、消法第30条第2項《仕入れに係る消費税額の控除》のほか、例えば、次の規定の適用を受ける場合には、当該規定の適用を受ける取引に係る仮払消費税等の額は、控除対象外消費税額等となることに留意する。
(1)消法第30条第7項及び第10項から第12項まで(同条第7項及び第11項にあっては、ただし書を除く。)
(2)消法第36条第5項《納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整》
          :

3 控除対象外消費税額等の処理に関する意見

 令和2年12月15日から令和3年1月13日までを募集期間として『「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」(法令解釈通達)ほか1件の一部改正(案)に対する意見公募』を国税庁が実施したところ、次のような意見があったことから、令和3年2月10日付で国税庁の考え方が示されている。
(1)意見の概要
 消費税法第36条第5項は、翌期免税の場合の棚卸資産について「課税仕入れ等の税額に含まれないものとする」とあるため、仮払消費税等の額に含まれないことになり、期末棚卸資産部分について税抜経理の対象にならないことになるのではないか。
(2)意見に対する国税庁の考え方(別紙1)
 消費税法第36条第5項の規定では、課税仕入れに係る棚卸資産に係る消費税額は、同法第30条第1項の規定の適用については、当該課税期間の仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額に含まれないものとすると規定されています。
 法人税法施行令第139条の4第5項及び所得税法施行令第182条の2第5項の規定上、取引の対価と区分(税抜経理)して取り扱う消費税法第30条第2項に規定する課税仕入れ等の税額については、同法第36条第5項の規定を適用した後の金額とはされていません。
 したがって、同項の規定の適用を受ける者の棚卸資産に係る消費税額に係る取引については、取引の対価を区分(税抜経理)して取り扱う必要がありますので、原案のとおりとします。
(3)国税庁の考え方についてのコメント
 消費税法第36条第5項では、「……棚卸資産に該当するものを有しているときは……仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額に含まれないものとする」と規定している。
 控除対象外消費税額等については、法人税法施行令第139条の4第5項において、「……消費税法第30条第2項に規定する課税仕入れ等の税額……区分する経理をしたとき……」と規定し、消費税法第30条第2項では、「課税仕入れ等の税額」について、「……同項(1項)の規定により控除する課税仕入れに係る消費税額……」と規定している。
(注)「仕入れに係る消費税額」とは、消費税法第30条第1項の規定により控除される課税仕入れ等の税額の合計額をいう(消法32①一)。
 そうすると、法令を文理解釈の下に読む限りにおいては、期末に保有する棚卸資産に係る消費税額は課税仕入れ等の税額に含まれないことから、結果として法人税法施行令第139条の4第5項に規定する課税仕入れ等の税額にも含まれず、(1)の意見に記述されているように、税抜経理の対象とはならない(仮払消費税等を計上することができない)ように思えるのである。「法人税法施行令第139条の4第5項……の規定上……消費税法第30条第2項に規定する課税仕入れ等の税額については、同法第36条第5項の規定を適用した後の金額とはされていません。」という国税庁の説明にはいささか無理があるように思えるのである。
(4)課税事業者が免税事業者になる場合の期末棚卸資産の税額調整
 課税事業者が免税事業者になる場合における期末棚卸資産に係る課税仕入れ等の税額が仮払消費税等として計上され、控除対象外消費税額等として処理されるということは、期末棚卸資産についても税抜金額で貸借対照表に計上されることになるのであろう。
 そうすると、在庫商品は税抜金額で翌期に繰り越され、期首商品棚卸高として翌期の決算書に計上されることになる。しかし、翌期は免税事業者なわけであるから、旧法令解釈通達5(免税事業者等の消費税等の処理)では、免税事業者はそもそも税抜経理を採用することができないこととしていたことから、当期商品仕入高や販売管理費などは税込金額で計上せざるを得ないこととなり、利益率などに悪影響を及ぼすことが危惧された。
 正しい数値が反映された決算書を作成しようとするならば、免税事業者でも税抜経理方式を採用するしかないのであるが、この場合には、法人所得の計算において、事業年度中に計上した仮受消費税等と仮払消費税等を法人税法別表四により調整することになるものと思われる。
※ 改正された法令解釈通達5(免税事業者の消費税等の処理)では、免税事業者に税込経理様式を義務付けるような文言は削除されている(後述の4を参照)。

参 考
免税事業者が課税事業者になった場合の期首棚卸資産の税額調整

 前期まで免税事業者だった事業者が、当期から課税事業者になるような場合には、期首の棚卸資産は免税事業者の時代に仕入れたものであり、税額控除はしていないものである。これを課税事業者になってから販売した場合には、その売上げについてだけは消費税が課税されることとなってしまい、継続して課税事業者である事業者と比べ、不利な扱いを受けることとなってしまう。
 そこで、免税事業者が課税事業者となり、本則課税により仕入控除税額を計算する場合には、売上げに対する消費税とのバランスをとるために、例外的に期首の在庫についての税額控除を認めることとしたものである。
 なお、期首棚卸資産に係る税額調整の規定は、基準期間における課税売上高が免税点を超えたことにより強制的に課税事業者となる場合の他、免税事業者が「課税事業者選択届出書」を提出したことにより、いわば自発的に課税事業者となるような場合であっても当然に適用されることになる。

※ 課税事業者となる直前期(②)の仕入商品だけでなく、免税期間中に取得した棚卸資産はすべて税額調整の対象とすることができる。
 消費税法第36条第1項では、「期首に保有する棚卸資産に係る消費税額を仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額とみなす」と規定しているのであるが、上記3(3)の国税庁の考え方を読む限り、期首棚卸資産に係る課税仕入れ等の税額について、仮払消費税等の計上はできないように思われる。

 そうすると、在庫商品は税込金額で前期から繰り越され、期首商品棚卸高として当期の決算書に計上されることになる。しかし、当期は課税事業者なわけであるから、税抜経理方式を採用した場合、当期商品仕入高や販売管理費などは税抜金額で計上することとなり、利益率などに悪影響を及ぼすことが危惧されるところである。

4 免税事業者の会計処理

(1)改正案の内容
 令和2年12月15日に国税庁から公表された『「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」(法令解釈通達)ほか1件の一部改正(案)に対する意見公募手続の実施について』では、免税事業者の消費税等の処理(改正後の5)について改正案の内容を次のように説明している。

 免税事業者については、その行う取引について税抜経理方式で経理をしている場合であっても、税込経理方式を適用して法人税の課税所得金額を計算することを明らかにしました。改正前の5の取扱いと実質的な変更はありません。

(2)新旧対照表(抄)
 令和3年2月9日に国税庁から公表された『「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱いについて」の一部改正について(法令解釈通達)』には、法令解釈通達の改正内容が別紙において下記のように掲載されている(アンダーラインを付した箇所が、新設し、又は改正した箇所である。)。

(改正後)

     :
免税事業者の消費税等の処理)
5
 消法第9条第1頂本文《小規模事業者に係る納税義務の免除》の規定により消費税を納める義務が免除される法人については、その行う取引について税抜経理方式で経理をしている場合であっても、2《税抜経理方式と税込経理方式の選択適用》にかかわらず、税込経理方式を適用して法人税の課税所得金額を計算することに留意する。
     :

(改正前)

     :
免税事業者等の消費税等の処理)
5
 法人税の課税所得金額の計算に当たり、消費税の納税義務が免除されている法人については、その行う取引に係る消費税等の処理につき、3《税抜経理方式と税込経理方式の選択適用》にかかわらず、税込経理方式によるのであるから留意する。
(注)1 この取扱いは、消費税が課されないこととされている資産の譲渡等のみを行う法人についても適用がある。
   2 これらの法人が行う取引に係る消費税等の額は、益金の額若しくは損金の額又は資産の取得価額等に算入されることになる。
     :

(3)コメント
 上記(1)の国税庁の説明には、「……改正前の5の取扱いと実質的な変更はありません」と書かれているが、改正前の法令解釈通達は、免税事業者に対する税込経理方式の適用を禁止するような書きぶりになっているのに対し、改正後の法令解釈通達は、「免税事業者が税抜経理方式で経理している場合であっても、税込経理方式を適用して法人税の課税所得金額を計算する」という表現に(微妙に)変化している。
 免税事業者である新設法人について、監査法人の要請により税抜経理方式の採用を指示されたような場合には、棚卸資産や減価償却資産については税抜金額で計上しなければならない。また、交際費や寄付金についても税抜金額で計上することとなるので、法人税の課税所得金額の計算では、これらの金額を法人税法別表四で調整(税込金額に修正)する必要がある。おそらくは、こういった背景もあって、法令解釈通達5の書きぶりを修正したのではないかと推察するのであるが、もしそうだとしたならば、(1)の改正案の内容をもう少し丁寧に書くべきではないだろうか?
 例えば、「消費税の納税義務が免除されている法人であっても、会計処理として税抜経理方式を採用することは差し支えない。」といったような注意書を追加することも検討に値するように思われる(意見公募の期間中に意見できなかったことは筆者の反省点であり、この場を借りてお詫びしたい。)。

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