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解説記事2025年12月08日 ニュース特集 貸付用不動産や不動産小口化商品を利用した節税スキームに規制(2025年12月8日号・№1102)

ニュース特集
令和8年度改正、悪質な租税回避や不公平取引を是正へ
貸付用不動産や不動産小口化商品を利用した節税スキームに規制


 令和8年度税制改正では、いわゆるマンション通達が適用されない一棟所有の賃貸用マンションや不動産小口化商品などの貸付用不動産を利用した節税スキームにメスが入ることになった。相続開始・贈与前の5年以内に有償で取得した貸付用不動産は、原則として取得価額を基に算定し、特に節税効果が高いと喧伝されてきた不動産小口化商品は売買実例価額等を基に算定することにする。また、総合課税の対象となる同族会社の株主が受ける社債利子の範囲を見直すほか、国内事業者との間に競争上の不均衡が生じているとの指摘がある国境を超えた電子商取引(EC取引)に係る課税の見直しも行われる。
 本特集では、令和8年度税制改正で実施される予定の節税策や不公平取引を是正する見直しを中心に解説する。

市場価格と通達評価額のかい離を利用した節税スキーム

 令和8年度税制改正では、貸付用不動産の評価方法の見直しが行われることになる。政府の税制調査会に設置された「経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合」でも指摘されていたが(本誌1100号11頁参照)、国税庁によると、総則6項に係る令和4年最高裁判決等を契機として、マンション通達を発出し、分譲マンション等の区分所有不動産の評価の適正化を図ったものの、依然として同通達が適用されない一棟所有の賃貸用マンションや不動産小口化商品など、貸付用不動産の市場価格と通達評価額との乖離を利用して相続税額・贈与税額を大幅に圧縮する節税スキームが散見されているとしている。これらの節税スキームに関しては、総則6項で対応せざるを得ないが、納税者の予見可能性といった観点から批判があり、評価方法の明確化が要請されていたものである。
貸付用不動産は取得価額で算定
 まず、貸付用不動産については、相続開始・贈与前の5年以内に有償で取得したものは路線価等による評価によらず、通常の取引価額に相当する金額によって評価する。原則として取得価額を基に算定することになる(図表1参照)。一棟所有の賃貸用不動産だけでなく、マンション通達の対象となる賃貸用不動産についても対象となる。

不動産小口化商品は取得時期に関係なく対象
 また、不動産小口化商品については、従来からセミナーなどで節税対策として喧伝されており、国税当局においても注視してきたものだ。市場価格と路線価等の差額だけでなく、場合によっては貸家建付地評価や小規模宅地等の特例も適用できるケースがあり、中には評価額が8割以上減額した事例も見受けられるとしていた。
 このため、商品として小口化された貸付用不動産については、通常の取引価額に相当する金額によって評価することとする。実際には売買実例価額等を基に算定することになる(図表2参照)。不動産小口化商品の取得時期にかかわらず、今回の見直しの対象となるので留意したい。なお、不動産小口化商品については、信託受益権に係る金融商品取引契約(信託型)だけでなく、不動産特定共同事業契約(任意組合型・賃貸借型)についても対象となっている。

第三者の特定法人からの社債利子を総合課税の対象に追加へ

 令和8年度税制改正では、再び総合課税の対象となる同族会社の株主が受ける社債利子の範囲が見直されることになる。社債利子は原則、利子所得として分離課税とされているが、同族会社の株主が支払を受ける社債の利子は総合課税(最高55%)の対象とされている。同族会社は少数株主による会社支配が可能であり、本来総合課税となる役員報酬等について、社債利子の形で受領することで分離課税の対象となる利子所得に転換して税負担を軽減する事例が見受けられたことから、平成25年度税制改正で措置されたものだ。
 その後、抜け穴的に個人が同族会社との間に法人を介在させるケース(第三者の法人が同族会社の株式を100%保有)が見受けられたことから、令和3年度税制改正では、このようなケースも総合課税の対象に見直すこととなった。
 今回、新たに規制の対象となるのは、①同族会社との間に第三者(特定法人)を介在させるケースや、②同族会社の株主がそれぞれの同族会社(特定法人)から社債の利子の支払を受けるケースだ(図表3参照)。これらのケースでは、実態としては同族会社から支払を受ける利子と変わらないにもかかわらず、通常行われない取引関係により総合課税の適用を免れているとし、特定法人から株主に支払われている社債の利子を総合課税の対象に追加する。通常行われない取引関係の構築であることを担保するため、第三者(特定法人)から株主への社債の利子や元本の支払につき、同族会社の発行した社債が担保として提供していることや、同族会社が債務保証契約等を行っていることなどを要件とする。

 なお、株主が特定法人から支払を受ける社債の償還差益も同様に総合課税の対象とする。

シェアードコスト取引等に関する資料の作成・保存を義務付けへ

 令和8年度税制改正では、政府税制調査会で指摘されていた税に対する公平感を大きく損なうような行為への対応についても実施される。その1つがシェアードコスト取引など、企業グループ内の法人間で行われる取引への対応だ。
 国税当局によれば、国外関連者に対する経費支払い(特に間接経費)の実態確認に苦慮するケースがあるという。特に国外に所在している法人との取引については、反面調査が困難であるなど、国税当局が取り得る手段が限定されているため、その取引実態の確認には調査対象者による支払いの詳細な情報の提供が必要とされている。
 昨今では、単純に利益調整が可能となるグループ会社間で経費配賦を行うシェアードコスト契約が普及しているところ、調査対象者から十分な資料の収集ができず、実態確認ができなかった事例が発生しているという(図表4参照)。

 このため、企業グループ内の法人との間で一定の取引を行った場合には、支払を行う法人の法人税の課税所得の計算上保存が義務付けられている書類等にその取引に関する資産又は役務の提供の明細、その取引における支払金額の計算の明細及びその取引に係る支払金額を算定するために必要な事項の記載等がないときは、これらの事項を明らかにする書類等を取得・作成し、保存することを義務付けることとしている。
 なお、一定の取引とは、シェアードコスト取引だけではなく、無形資産の譲受け・借受け、経営管理・指導が該当する。

販売額50億円超のプラットフォーム事業者に納税義務

 本誌でもお伝えしていたとおり(1047号16頁、1088号9頁参照)、令和8年度税制改正では、国境を超えた電子商取引(EC取引)に係る課税の見直しが行われる。近年は、アマゾンドット・コムだけでなく、SHEIN(シーイン)やTemu(テム)といった中国系の越境ECも日本国内での利用者を増やしており、国内事業者との間での競争上の不均衡を解消するものだ。
 国境を越えたEC取引には一般的に、①国外事業者から海外直送する場合(国内消費者がその引き取り時に輸入消費税の納税義務を負う(少額は免税))と、②国外事業者が、プラットフォーム事業者(PF)が管理する国内倉庫に一旦納めた商品をECサイトを通じて販売する場合(国外事業者が国内販売に係る消費税の納税義務を負う)がある。①については、少額な貨物が免税対象とされており、これらの取引について国内事業者との間に競争上の不均衡が生じているおそれがあるとされており、②では多くの無申告が生じている可能性があるとの指摘がなされている。
 このため、令和8年度税制改正では、①の場合に対応するものとして、少額免税制度の見直しを行う。具体的には、国境を越えて行われる通信販売のうち、1万円以下の貨物は諸外国と同様、販売者に納税義務を課すこととする(図表5参照)。

 また、主に②に対応するものとして、プラットフォーム事業者に納税義務を転換するプラットフォーム課税を導入する。対象とするプラットフォーム事業者には、高い税務コンプライアンスや事務処理能力が求められることなどを考慮し、プラットフォーム課税の対象となる物品販売の合計額が50億円超のプラットフォーム事業者を対象とし、その納税義務をプラットフォーム事業者に転換する(図表6参照)。

現金決済の輸出取引は輸入許可書を保存
 現金等で決済した輸出取引に係る免税要件の見直しも行われる。国税当局によれば、輸出免税を悪用した消費税不正還付が疑われる事案においては、いわゆる地下銀行といった方法で輸出代金を決済したとする主張がよく行われ、国税当局では確認・検証が難しいという。このため、第三者記録により決済履歴が確認できない現金取引等については、輸入国での輸入許可書(写し)の保存を輸出免税要件に追加するとしている。
 また、国内において非居住者に対して行われる取引のうち、国内に所在する不動産に関するサービス(仲介手数料等)については、輸出取引に類するものとして消費税が課税されないこととされているが、サービスの効果は国内で生じていることや諸外国においても付加価値税が課せられていることなどを踏まえ、消費税の課税対象とする。なお、不動産だけでなく、不動産に係る権利に類するものも課税の対象となる。具体的には、鉱業権、租鉱権、採石権等、試掘権、樹木採取権、公共施設等運営権、漁港水面施設運営権、漁業権、入漁権が挙げられている。
滞納者が自己管理する暗号資産も差押えへ
 暗号資産の差押えについても、国税当局から課題が指摘されていたものだ。暗号資産交換業者を介して保有する暗号資産については、交換業者に対する債権を差し押さえることが可能となっているが、滞納者が自己管理する暗号資産については、現状では差押えを行うことができないこととされている。このため、令和8年度税制改正では、徴収職員の管理に移す方法により、差押えを行うことができるようにする(図表7参照)。徴収職員が自らの管理に移すことが困難である場合には、滞納者にその暗号資産の移転を命じることができるようにし、移転命令について、正当な理由がなく違反した場合には罰則の対象とする。

給与収入が高い年金受給者の控除額を調整
 そのほか、給与収入が高い年金受給者の合計控除額の調整が行われる。与党の令和7年度税制改正では、「公的年金について、在職老齢年金制度の見直しが行われた場合には、……税負担の調整を行う。具体的には、給与所得控除の公的年金等控除の合計額の上限を280万円とすることとし、在職老齢年金制度の見直しの帰趨を踏まえ、令和8年度税制改正において法制化を行う。」とされていたものだ。
 この点、年金制度改正法案が令和7年6月13日に国会で成立し、年金を受給しながら働く高齢者の老齢厚生年金の支給を調整する仕組みである在職老齢年金制度について、老齢厚生年金の支給停止の基準額を、令和8年4月より、50万円から62万円に引き上げることとされている。これを踏まえ、令和8年度税制改正では、給与所得控除と公的年金等控除の合計額の上限を280万円とする。

コラム
インボイス制度の2割特例や8割控除を利用した租税回避スキームが散見

 インボイス制度の経過措置である2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)や、8割控除を利用した租税回避スキームが財務省より指摘されている。
 例えば、従来から消費税の課税事業者である法人が、インボイス発行事業者の登録を受けた新たに設立した法人を取引主体に変更した上で、新たに設立した法人の申告において2割特例を利用し、結果として、取引先での仕入税額控除は維持したままグループ全体での消費税納付額を圧縮する事例があるという。また、グローバル企業傘下の日本法人(課税)が、同傘下の外国法人(免税)から商品を仕入れる際、日本国内の倉庫に搬入されたものを仕入れることで、免税事業者である外国法人からの国内仕入として8割控除を適用し、グループ全体での消費税納付額を圧縮する事例もあるとした。
 インボイス制度の経過措置の適用期限(2割特例は令和8年9月30日までの日の属する各課税期間まで。8割控除は令和8年9月30日まで)は令和8年度税制改正での論点の1つとなっており、経過措置の見直しも含め、今後の議論の行方が注目される。

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