解説記事2026年01月19日 ニュース特集 横領を隠蔽する行為と重加算税の関係etc.(2026年1月19日号・№1107)
ニュース特集
2つの重加算税裁決を当局資料を基に紹介
横領を隠蔽する行為と重加算税の関係etc.
本特集では、重加算税賦課決定処分等の適否が争われた裁決2事例を当局資料に基づき紹介する。最初の事例は、横領の事実を発覚させないために請求人が行った架空仕訳の入力、架空の請求書の作成などの一連の行為について、いわゆる「特段の行動」理論により通則法68条2項に規定する「隠蔽仮装行為」に該当すると判断されたもの(令和7年4月22日裁決)。2つ目の事例は、請求人が監査役(請求人の代表者の子)名義の口座に振り込んでいた役員給与の一部が代表者への認定賞与とされた事案において、原処分庁の単純な確認不足から納税告知処分及び源泉所得税の重加算税賦課決定処分の一部が取り消されたもの。当局は本事案を非常に残念なケースとして調査担当者等に周知している(令和7年7月1日裁決)。
経理業務を一人で担う立場を奇貨として横領
1つ目に紹介するのは、請求人が株式会社A社において経理担当者として従事していたX年からY年にかけて、A社の経理業務を一人で担っていた立場を奇貨として、A社の当座預金口座(A社名義口座)から請求人の旧姓名義の預金口座(旧姓名義口座)に送金する方法によりA社から金員を横領していた事例(横領により得た金員は高級腕時計や洋服の購入等に費消)。請求人は、A社の会計ソフトに架空法人に対して製造消耗品費を支払ったとする架空仕訳の入力を行い、架空の請求書及び納品書を作成するなどしていた(図参照)。

原処分庁は、横領により得た金員が請求人の雑所得に当たるとして、X年分ないしY年分の所得税等の決定処分を行うとともに、重加算税の賦課決定処分を行った。
これに対し請求人は、①A社に対して損害賠償債務を負っていることを認めているため、横領金は総収入金額に算入すべき金額でなく、所得は生じていない旨、②重加算税の賦課決定処分については、飽くまでA社の金員を横領するために上記行為を行ったのであり、国税通則法68条にいう仮装隠蔽には当たらない旨を主張して再調査の請求をした。再調査審理庁は請求を棄却又は却下する旨の再調査決定を行い、この決定を不服とした請求人は、原処分の一部又は全部の取消しを求めて審査請求を行った。
損害賠償債務を履行していない部分は所得構成
本事案における争点の1つは、損害賠償債務合意のあった横領金が所得税法36条1項に規定する総収入金額に算入すべき金額となるか否か。
この点、審判所は、X年からY年にかけて請求人がA社名義口座から請求人の旧姓名義口座に繰り返し送金することによって金員を横領し、その横領金を高級腕時計や洋服の購入等に費消していたと指摘。請求人は横領行為によって現実に横領金に係る利得を支配管理し、自己のためにそれを享受したといえるから、横領金に係る利得はそれを享受した年分において課税の対象としての所得を構成することとなり、所得税法36条1項に規定する総収入金額に算入すべき金額となると判断した。
その上で、請求人は損害賠償債務の一部を弁済しているものの、請求人が損害賠償債務を履行していない部分については、横領金に係る利得を支配管理し、自己のためにそれを享受している状態に変わりはないと認められることから、当該横領金は課税の対象として所得を構成し、所得税法36条1項に規定する収入金額に算入すべき金額となるとした。
一般的に犯罪行為で得た所得に申告の意思はなし
もう1つの争点は、請求人の横領等行為が国税通則法68条2項に規定する「隠蔽仮装行為」に該当するか否か。
審判所は、(1)申告する意図、(2)隠蔽又は仮装の行為の有無について、それぞれ検討を行っている。
具体的に(1)申告する意図については、一般的に、請求人が横領という犯罪行為によって得た所得を申告する意思を有していたとは考え難い上、実際に、請求人は×××円を超える所得を得ながら所得税等の確定申告を一切していなかったことからすれば、請求人には当初から横領金を申告する意図はなかったと認めるのが相当であるとした。
請求人は横領の事実が発覚しないよう事後措置
上記(2)隠蔽又は仮装の行為の有無について、審判所は、請求人は旧姓名義口座を利用して金員を横領し、横領した後において架空仕訳の入力及び架空請求書等の作成を行うことにより、金員を横領した事実が発覚しないように事後措置を講じていることからすれば、請求人の横領等行為の各行為は、A社による決算確定及び確定申告に結び付き得る一連の行為として把握することが相当であると指摘。
その上で、下掲の点から、請求人は当初から横領によって得た所得を申告しないという確定的な意図の下、A社という第三者に対して内容虚偽の会計処理等を行い、情を知らないA社を手足として利用して課税庁に対する内容虚偽の確定申告をさせて請求人の所得が発覚しないようにしたといえ、これは、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったものであると評価できる(請求人の横領等行為は通則法68条2項に規定する「隠蔽仮装行為」に該当する)と判断した。
| 1.横領等行為のうち、本件架空仕訳を入力するなどの仮装行為は、これをそのまま放置すれば、情を知らないA社において、これに依拠して決算を確定させ、確定申告に至ることが当然に予想される行為であり、その結果、第三者であるA社をして課税機関に内容虚偽の申告書を提出させ、申告納税制度の趣旨に違背する結果を招来したといえる。 2.請求人が本件架空仕訳を入力するなどの仮装行為を行ったのは、請求人がA社から金員を横領したため、これを隠蔽する必要が生じたためであるが、実際には、請求人は横領によりA社から金員を領得し、請求人に所得が生じていることを併せ考えると、請求人は、自己の所得について申告しないとの確定的な意図に基づき、情を知らない第三者であるA社を手足として利用し、請求人が入力した架空仕訳に基づき作成された内容虚偽の会計帳簿に基づき確定申告をさせることによって、横領の事実が発覚しないようにするとともに、横領により得た所得についても申告しなかったといえる。 |
原処分庁は予備的に「特段の行動」を主張
本事案では、重加算税の賦課について、原処分庁は当初、請求人がA社名義口座から旧姓名義口座に横領金を振り込むとともに、当該振込みがあたかもA社の経費であるかのような架空仕訳入力と架空法人名を記載した請求書等を作成していたことから、請求人の仮装行為であるとして、請求人の横領等行為を積極的な「隠蔽仮装行為」と認定していたもようだ。
これに対し、請求人が、①横領金は全て(旧姓名義であるものの)請求人名義の口座に送金していること、②A社の会計ソフトに架空仕訳入力をしたことは、横領が発覚しないようにするための行為であって、横領金の課税を免れるために行った行為ではないことなどを主張したことから、原処分庁は、請求人の横領等行為は「外部からもうかがい得る特段の行動」にも当たると予備的に主張したという。
なお、当局は、請求人の横領に係る一連の行為について、審判所も「外部からもうかがい得る特段の行動」による隠蔽仮装行為と認定し、重加算税賦課の原処分が維持されたとしている。
監査役(代表者の子)名義口座への振込みが問題に
次に紹介する事例は、原処分庁が行った法人税及び地方法人税の更正処分等に係る審査請求は棄却された一方、原処分庁の単純な確認不足により納税告知処分及び源泉所得税の重加算税賦課決定処分の一部が取り消されたもの(令和7年7月1日裁決)。
本事案の請求人は、土木工事業を営む同族会社。原処分庁は、請求人の代表者の子である本件監査役に対する役員給与として損金の額に算入していた金額が、代表者に帰属する本件監査役名義の口座(本件口座)に振り込まれている事実から、本件監査役に実際に給与として支払われている金額以外の金額を架空の役員給与として、更正処分を行った。
また、原処分庁は、架空の役員給与の支払があることから、納税告知処分、重加算税の賦課決定処分及び青色申告の承認取消処分も同時に行った(主な事実関係は下掲を参照)。
| 1.本件口座は、代表者の指示により、請求人の取締役である代表者の妻(本件取締役)が、開設手続をするとともに、開設日以降も本件口座の通帳及び届出印を管理していた。 2.請求人は、本件監査役が記載した出勤簿の労働日数又は時間外労働時間に1日又は1時間当たりの単価を乗じて計算した金額を支給金額とする給与支払明細書(本件明細書)を作成していた。 3.請求人は、本件監査役に対する役員給与を本件口座に毎月振り込んでいたが、当該金額の振込後、本件取締役が本件明細書に記載された金額におおむね一致する金額を引き出し、本件明細書とともに本件監査役に渡していた。 4.本件取締役は、代表者の指示により、本件口座から残高のおよそ98%を引き出し、代表者名義の口座に入金した。その後、代表者が投資信託の購入及び請求人への貸付等のため、費消していた。 5.代表者は、本件監査役から本件口座に蓄積した金銭を返すよう弁護士を通じて請求された際に、本件口座の金銭は本件監査役の役員給与ではなく、財産分与に向けた代表者の積立金である旨回答していた。 6.A銀行は、本件口座を代表者の借名口座であると判断して、本件監査役が引き出そうとした際に、本件口座を凍結した。 |
請求人、家族間の取り決めで親が口座を管理と主張
原処分庁の主張は、①本件口座は、開設手続、通帳及び届出印の管理状況や代表者の指示に基づき本件取締役が入出金を管理していることなどから、代表者に帰属する口座であると認められ、本件口座に振り込まれる本件監査役給与は架空役員給与である。②本件監査役に対する給与は本件明細書の支給金額であることから、本件監査役の役員給与として計上されている金額から本件明細書の金額を控除した残額は架空の役員給与で、代表者への認定賞与であるというもの。
また、原処分庁は、上記の不正事実があることから、重加算税の賦課決定処分及び青色申告の承認取消処分相当であるとした。
これに対し、請求人は、①本件口座は、本件監査役に帰属する口座であり、家族間の取り決めで親が口座の管理を行っているにすぎない。②本件明細書を作成していたのは、生活費として費消する部分であって、本件明細書の支給金額のみを本件監査役に渡していたのは多額の役員給与の支給により本件監査役が従業員の中で浮いた存在にならないようにと考えた親心であると主張。
また、上記のとおり、本件口座に入金された本件監査役の役員給与は架空給与ではないため、更正処分、重加算税の賦課決定処分及び青色申告の承認取消処分は誤りであると主張した。
監査役の明細書支給額も定期同額給与に該当せず
本件口座に振り込まれる本件監査役給与が損金算入されるか否かについて、審判所は、本件監査役は本件口座から出金された額の一部を費消等しているものの、本件口座を管理しているとは認められないことに加え、本件口座は代表者の借名口座であるとのA銀行の判断からすると、本件口座は本件監査役に帰属するとは認められないと判断。その上で、本件監査役に支給された役員給与の額は、本件明細書の支給額のみであると指摘し、本件監査役に対する役員給与として損金の額に算入された金額のうち、本件明細書の支給額を除いた金額は本件口座を利用した代表者に対する認定賞与となるため損金の額に算入できないとした。
なお、審判所は、本件監査役に支給された本件明細書の支給額についても、定期同額給与に該当しないため損金の額に算入できないと指摘した。
不正事実あり、青色取消処分は適法
また、審判所は、重加算税の賦課決定処分及び青色申告の承認取消処分について、本件口座を利用し、本件監査役に支給したかのように仮装して、代表者に対して役員給与を支給していると認められるため、不正の事実があり、重加算税の賦課決定処分及び青色申告の承認取消処分は原処分相当であると判断している。
当局、数字誤りは直ちに取消しにつながるケース多い
本事案では、法人税及び地方法人税の更正処分、重加算税の賦課決定処分、青色申告の承認取消処分については、請求が棄却された。
ただし、代表者に対する認定賞与について行われた納税告知処分及び源泉所得税の重加算税賦課決定処分については、その一部が取り消されている。
この点、当局は、源泉所得税の告知額については代表者への認定賞与に対する追徴分のほかに、本件監査役に対する役員給与として計上されていた役員給与に対する源泉所得税が毎月納付されていたため、追徴税額と既納付税額との差引を行い、差額を告知額としていたが、令和4年1月分の源泉所得税については既納付税額があったにもかかわらず既納付税額を0円として差額を計算していたことから一部取消しとなった非常に残念なケースとしている。
なお、当局は調査担当者等に対し、課税標準等の数字誤りは直ちに取消しにつながるケースが多いため、原処分の際は金額や計算等の根拠を明らかにして、課税標準等の計算に誤りがないかを複数人で確実にチェックすることを促している。
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