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解説記事2020年05月04日 ニュース特集 事例で見る新・投資簿価修正計算(2020年5月4日号・№833)

ニュース特集
買収プレミアムの株式譲渡原価算入不可 機動的な組織再編に影響も
事例で見る新・投資簿価修正計算


 令和2年度税制改正は連結納税制度が大幅に見直され、グループ通算制度へと改組されたが、これに伴い、投資簿価修正の仕組みも変更されている。その目的は「簡素化」と「租税回避(利益・損失の二重計上)の防止」にあるが、後者の目的を実現するために「通算グループからの離脱法人の株式の離脱直前の帳簿価額=離脱法人の簿価純資産価額に相当する金額」とされたことにより、企業買収や事業買収の際に生じる「買収プレミアム」に相当する金額が株式の譲渡原価に算入できず、その結果、当該株式の売却時に譲渡益の過大計上もしくは譲渡損の過少計上が生じることが判明した。
 企業買収や事業買収は簿価純資産価額以上の金額、すなわちプレミアム付きで行われるのが一般的であるだけに、企業からは「この投資簿価修正の計算方法の変更が機動的な事業再編の足かせになるのではないか」と懸念する声が上がっている。
 投資簿価修正の仕組みの見直しは政令事項であるが、グループ通算制度が「令和4年4月1日以後に開始する事業年度」から適用開始となるため、政令改正はまだ実施されていない。とはいえ、一度制度の内容を確定し、税制改正大綱にも明記された以上、それを政令で変更することは困難と思われる。令和3年度税制改正で、グループ通算制度施行前の“再改正”が議論されるのか、注目される。

「計算の簡素化」と「租税回避の防止」という改正趣旨が生んだ“副作用”

 連結納税制度からグループ通算制度への移行に伴い、投資簿価修正の仕組みが変更されている。この点は、令和2年度税制改正大綱に「通算グループからの離脱法人の株式の離脱直前の帳簿価額を離脱法人の簿価純資産価額に相当する金額とする」と明記されていることから確認することができる。
 この改正の経緯は、政府税調での議論に遡る。連結納税制度に関する専門家会合報告書には以下の記述がある。

含み益についても、含み益のある資産を譲渡して含み益を実現させ、その譲渡した法人の株式について投資簿価修正を行った後、その株式を売却することで、含み益が生じていた資産の帳簿価額が引き上がるにもかかわらず、含み益の実現益は株式譲渡損が生じた場合には相殺されて課税が逃れられるなどの問題が生ずる。

 これは利益・損失の二重計上への問題意識を示すものであり、これに加え、「投資簿価修正の計算が煩雑すぎる」という従来からの企業・実務家の指摘を踏まえ、本改正が実現することとなった。要するに、本改正は「租税回避の防止」と「簡素化」という2つの観点から実現したわけだが、この改正が思わぬ“副作用”を生みかねないことが、本誌の取材により判明している。
 以下、事例を使って説明しよう。

株式売却時に譲渡益の過大計上もしくは譲渡損の過少計上が発生

事例1:譲渡損が過少計上される場合
<前提>
・連結親法人Pと連結子法人S1からなるグループ
・PはS1株を帳簿価額150により保有(S1簿価純資産価額100+含み益相当50)
・S1のB/Sは下記の通りとする。

<S1が含み益資産を譲渡した場合>
・S1の処理

・譲渡後のS1のB/S   

<PがS1株を譲渡した場合>
・Pの処理(投資簿価修正)……S1の利積の増加分を調整

 この結果、PのS1株簿価は150→200となる。
・Pの処理(S1株譲渡)

 この結果、連結納税により譲渡益50譲渡損50は相殺される。
 上記の事例を前提とすると、グループ通算制度での処理は下記の通りとなる。
<PがS1株を譲渡した場合>
・Pの処理(投資簿価修正)
  S1株の離脱直前簿価をS1の簿価純資産価額とする
  S1株簿価150、S1の簿価純資産価額150のため、投資簿価修正なし
・Pの処理(S1株譲渡) 

 すなわち、譲渡損は生じず、この結果、譲渡益と譲渡損の相殺もない。
 なお、PとS1が単体納税の場合は下記の処理となる。
<PがS1株を譲渡した場合>
・投資簿価修正なし
・Pの処理  

 すなわち、このケースでも譲渡損は生じない。

事例2:譲渡益が過大計上される場合
 事例1は専門家会合報告書の問題意識を端的に説明したものだが、実務ではもう少し複雑なパターンもある。具体的には、のれんを考慮に入れたケースである。
<前提>
・連結親法人Pと連結子法人S1からなるグループ
・PはS1株を帳簿価額180により保有
 (S1の簿価純資産価額100+含み益相当50+のれん30)
・S1のB/S(事例1と同様)は下記の通りとする。

<S1が含み益資産の譲渡(事例1と同様)>
・S1の処理

・譲渡後のS1のB/S   

<PがS1株を譲渡>
▪連結納税制度
・Pの処理(投資簿価修正)……S1の利積の増加分を調整

・Pの処理(S1株譲渡)

 すなわち、連結納税により譲渡益50と譲渡損60は相殺される。
▪グループ通算制度
・Pの処理(投資簿価修正)
  S1株の離脱直前簿価をS1の簿価純資産価額とする

  この結果、PのS1株簿価は180→150となる。
・Pの処理(S1株譲渡)

▪単体納税制度
・投資簿価修正なし
・Pの処理

連結納税のみならず単体納税より不利になる恐れも

 事例1及び事例2の結果から分かるのは、当初S1株簿価がS1の当初簿価純資産価額を超える部分の金額(いわば買収プレミアム)に相当する金額は、次頁の通り、連結納税制度からグループ通算制度への移行に伴い、S1株の譲渡原価に算入できず、その結果、S1株の売却時に譲渡益の過大計上、譲渡損の過少計上が生じるということである。

事例1
当初S1株簿価=150
当初S1簿価純資産価額=100
買収プレミアム=50(150-100)
〇連結納税におけるS1株の譲渡原価=200 →譲渡損50
〇グループ通算制度におけるS1株の譲渡原価=150(買収プレミアム50の譲渡原価不算入)
 →譲渡損0(譲渡損の過少計上)

事例2
当初S1株簿価=180
当初S1株簿価純資産価額=100
買収プレミアム=80(180-100)
〇連結納税におけるS1株の譲渡原価=230 →譲渡損60
〇グループ通算制度におけるS1株の譲渡原価=150(買収プレミアム80の譲渡原価不算入)
 →譲渡益20(譲渡益の過大計上)

 企業買収や事業買収は簿価純資産価額以上の金額、すなわちプレミアム付きで行われるのが一般的だが、上記の通り、グループ通算制度では、この買収プレミアム分が将来的な株式売却の際に売却原価に算入できず、現行の連結納税制度よりも不利となり、かつ、場合によっては単体納税よりも不利となる恐れがある。これに対し企業からは、「機動的な事業再編の足かせになるのではないか」との懸念の声が上がっている。

令和3年度税制改正で“再改正”が議論される可能性は?

 本件は大綱が出る前の昨年末の段階では深く議論されておらず(当時はグループ調整計算や欠損金の通算の維持、「開始・加入時の」時価評価/欠損金切り捨ての緩和に注目が集まっており、「離脱時の」課税関係までは企業の注意が十分に及んでいなかった)、企業が問題の所在に気づき始めたのは大綱公表後、年が明けてからである。
 3月末に成立した改正法人税法には大綱の記述に対応する条文がないことから、本改正は政令で手当てされるものとみられる。グループ通算制度が「令和4年4月1日以後に開始する事業年度」から適用開始となるため、政令改正はまだ実施されていない。とはいえ、一度制度の内容を確定し、税制改正大綱にも明記された以上、それを政令で変更することは困難であろう。通常であれば、大綱の内容が、粛々と政令の規定として整備されることになるはずだ。
 一度制度の内容を確定した改正事項に、次年度の税制改正で修正を加えることも考えにくいが、このままでは、「簡素化」「租税回避の防止」という目的を超えた“副作用”が生じかねないことから、少なくとも、令和3年度税制改正で、グループ通算制度施行前の“再改正”が議論の俎上に載せられる可能性もないとは言い切れない。政令の中身とともに、令和3年度税制改正に向けた議論が注目される。

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