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解説記事2026年06月01日 特別解説 監査品質のマネジメントに関する年次報告書とAQI(2026年6月1日号・№1124)

特別解説
監査品質のマネジメントに関する年次報告書とAQI

はじめに

 本稿においても、「上場会社監査事務所登録制度」の解説を行ったが、上場会社監査事務所に対しては、規模の大小を問わず、監査法人の組織的運営に関する原則(監査法人のガバナンス・コード)を、コンプライ・オア・エクスプレインの方法で受け入れることが求められている。監査法人のガバナンス・コードは、各監査法人に対して十分な透明性の確保を求めており、具体的には、監査法人は、資本市場の参加者等が評価できるよう、ガバナンス・コードの原則の適用の状況や監査品質の向上に向けた取組みに関する情報開示を充実すべきという考え方が示されている。この情報開示のための一つの重要な手段とされるものが、本稿で取り上げる「監査品質のマネジメントに関する年次報告書」であり、すべての上場会社監査事務所が作成・公表している。これらは、各監査事務所のウェブサイトおよび日本公認会計士協会のウェブサイトの「登録上場会社等監査人情報」で閲覧することができる。

監査法人のガバナンス・コードと監査品質のマネジメントに関する年次報告書との間の関係

 監査法人のガバナンス・コードの原則5では、「監査法人は、本原則の適用状況などについて、資本市場の参加者等が適切に評価できるよう、十分な透明性を確保すべきである。また、組織的な運営の改善に向け、法人の取組みに対する内外の評価を活用すべきである。」とされており、さらに原則を細分化した「指針」においては、下記のような定めが置かれている。
(指針5−1)
 監査法人は、被監査会社、株主、その他の資本市場の参加者等が評価できるよう、 本原則の適用の状況や、会計監査の品質の向上に向けた取組みについて、一般に閲覧可能な文書等で、わかりやすく説明すべきである。
(指針5−2)
 監査法人は、品質管理、ガバナンス、IT・デジタル、人材、財務、国際対応の観点から、規模・特性等を踏まえ、以下の項目について説明すべきである。
・会計監査の品質の持続的な向上に向けた、自ら及び法人の構成員がそれぞれの役割を主体的に果たすためのトップの姿勢
・法人の構成員が共通に保持すべき価値観及びそれを実践するための考え方や行動の指針
・監査法人の中長期的に目指す姿や、その方向性を示す監査品質の指標 (AQI:Audit Quality Indicator)又は会計監査の品質の向上に向けた取組みに関する資本市場の参加者等による評価に資する情報
・監査法人における品質管理システムの状況
・経営機関等の構成や役割
・監督・評価機関等の構成や役割。独立性を有する第三者の選任理由、役割、貢献及び独立性に関する考え方
・法人の業務における非監査業務(グループ内を含む。)の位置づけについての考え方、利益相反や独立性の懸念への対応
・監査に関する業務の効率化及び企業におけるテクノロジーの進化を踏まえた深度ある監査を実現するためのIT基盤の実装化に向けた対応状況(積極的なテクノロジーの有効活用、不正発見、サイバーセキュリティ対策を含む。)
・規模・特性等を踏まえた多様かつ必要な法人の構成員の確保状況や、研修・教育も含めた人材育成方針
・特定の被監査会社からの報酬に左右されない財務基盤が確保されている状況
・海外子会社等を有する被監査会社の監査への対応状況
・監督・評価機関等を含め、監査法人が行った、監査品質の向上に向けた取組みの実効性の評価
(指針5−3)
 グローバルネットワークに加盟している監査法人や、他の法人等との包括的な業務提携等を通じてグループ経営を行っている監査法人は、以下の項目について説明すべきである。
・グローバルネットワークやグループの概略及びその組織構造並びにグローバルネットワークやグループの意思決定への監査法人の参画状況
・グローバルネットワークへの加盟やグループ経営を行う意義や目的(会計監査の品質の確保やその持続的向上に及ぼす利点やリスクの概略を含む。)
・会計監査の品質の確保やその持続的向上に関し、グローバルネットワークやグループとの関係から生じるリスクを軽減するための対応措置とその評価
・会計監査の品質の確保やその持続的向上に重要な影響を及ぼすグローバルネットワークやグループとの契約等の概要
 この指針5−1に対応する施策が、「監査品質のマネジメントに関する年次報告書」の作成・公表であり、指針5−2及び5−3に記載されている内容が、報告書に記載される細目に該当する。

監査品質のマネジメントに関する年次報告書作成の背景と趣旨

 上場会社監査の担い手の裾野の拡大に伴い、4大監査法人(EY新日本有限責任監査法人、有限責任監査法人トーマツ、有限責任あずさ監査法人、PwCジャパン有限責任監査法人)や準大手監査法人(太陽有限責任監査法人、仰星監査法人、三優監査法人及び東陽監査法人)を除く中小規模の監査事務所は、日本の資本市場を支える監査業務の重要なインフラとなっており、上場会社の監査を行う中小規模の監査事務所に対しては、社会から一段の期待が寄せられるとともに、その果たすべき役割はますます大きなものとなっている。中小規模の監査事務所が自らの監査事務所の監査品質向上に関する取組を市場関係者に公表することは、常に資本市場の目線を意識することになり、今まで以上に自らの品質管理体制の整備に真摯に取り組み、監査品質の一層の向上を実現することにつながるものと考えられる。また、市場関係者の中小規模監査事務所に対する理解が深まることが期待される。このような状況を踏まえ、日本公認会計士協会では、上場会社等の監査を行う中小監査事務所に対し、その経営基盤を強化するために、「監査品質のマネジメントに関する年次報告書」の作成・公表を求めることとした、とされている。

監査品質のマネジメントに関する年次報告書の構成

 日本公認会計士協会が作成した「監査品質のマネジメントに関する年次報告書作成のためのガイダンス」には、下記のような報告書の構成が例示されている。
(本編)
1.監査品質向上に向けた取組及び事務所概要
(1)監査事務所の最高責任者からのメッセージ
 (経営方針及び監査品質向上に向けた取組について)
(2)事務所概要
2.経営管理の状況等
(1)品質管理基盤
(2)組織・ガバナンス基盤
(3)人的基盤
(4)IT基盤
(5)財務基盤
(6)国際対応基盤
(7)その他
3.「監査法人のガバナンス・コード」の適用状況
 各監査事務所の経営管理の状況等は、6つの基盤に整理された。以下ではそれぞれの基盤の内容と、それぞれの基盤について記載内容として考えられる項目、並びに、主に中小規模の監査事務所が多く開示したAQI(Audit Quality Indicator:監査品質に関する指標)の実例を列挙して紹介することとしたい。

6つの基盤と中小規模の監査事務所が多く開示した監査品質に関する指標(AQI)

 6つの基盤の中では、品質管理基盤と人的基盤において多くのAQIが開示されていた。

品質管理基盤
 品質管理基盤とは、「監査に関する品質管理基準」に準拠し監査品質を維持向上していくための監査事務所としての考え方、方針、具体的な体制等を指し、記載に当たっては、監査業務を実施するにあたって順守しなければならない基準及び法令等の理解のためにどのような体制で取り組んでいるか、また、監査業務を適切に行うための体制をどのように構築し、運用しているかについて、市場関係者の理解を得ることができるように、わかりやすく記載することが重要であるとされている。
<中小規模の監査事務所が開示したAQI>
 ほぼすべての中小規模の監査事務所において記載されていた品質管理基盤に関連する指標としては、下記が挙げられる。
・独立性確認書(宣誓書)の回答率
・独立性の違反件数
・完了した監査業務の検証(定期的検証)の実施状況(検証した業務の件数やパートナーのカバー率等)
・品質管理業務に従事する人員数、全体に対する割合
 よく見られたその他の指標としては、下記のものが挙げられる。
・専門的な見解の問い合わせの件数
・品質管理の状況に関する法人内のアンケート結果
・審査業務に携わったパートナーや専門職員の数

組織・ガバナンス基盤
 組織・ガバナンス基盤においては、監査事務所における組織・ガバナンス体制の概要、すなわち、組織的運営体制の構築及び運用に関する説明が求められる。そのうえで、今後どのような組織・ガバナンス体制を目指すのか、監査事務所としての考え方、方針、概要、具体的な組織等について記載することが考えられるとされている。
 現状を説明するにあたっては、例えば経営機関や監督・評価機関を設置していない監査事務所は、実効的な経営機能や監督・評価機能が適切に確保されていることを具体的に説明すること、また、監査品質の向上の観点から組織的運営体制の構築を行う場合の監査事務所の経営機関(機能)が果たすべき役割についての監査事務所の考え方や、監査事務所の経営機関(機能)としてマネジメント能力を備えた人物が選任されていることについても記載することが、市場関係者の理解を得るために有効であると考えられるとされている。
<中小規模の監査事務所が開示したAQI>
 組織・ガバナンス基盤においては、ほとんどの監査事務所が組織図を記載していた。そのほかには、社員会や理事会等の意思決定機関や、外部の第三者との意見交換会(評議員会等)の開催回数を記載していた事例も複数見られた。

人的基盤
 人的基盤においては、実施している監査業務に対して十分にリソースを確保していることを示すために、どのような能力を持った人材が監査業務に従事しているのか、被監査会社の規模や特性を踏まえた適切な質や量の人材が投入されているか、その採用方針も含め、具体的に示すことが考えられるとされている。具体的には、常勤者と非常勤者の割合やその採用方針、非常勤者に対して行っている管理の内容、職位別に実施する研修や担当する業務の内容に応じて実施する研修に関する記載、ITの専門家がいない中小監査事務所においては、IT担当者や公認会計士のITスキル、ITリテラシーの向上をどのように図っているかについて記載することが考えられるとされている。
<中小規模の監査事務所が開示したAQI>
 ほぼすべての中小規模の監査事務所において記載されていた人的基盤に関連する指標としては、下記が挙げられる。
・職階別の構成員数、男女比率
・1人当たりの研修時間
・CPD(継続的専門能力開発)単位の達成率
・全体研修や宿泊研修等への参加率
 よく見られたその他の指標としては下記のものが挙げられる。
・1人当たりの平均執務時間、残業時間
・有給休暇取得率、育児休業の取得率
・日本国公認会計士以外の保有資格者数
・非常勤の職員数(割合)
・テレワーク率

IT基盤
 IT基盤においては、現在のIT基盤の整備状況(電子監査調書化の状況を含む。)や、現状の課題認識について記載する。実装しているITツール(データ分析ツール、仕訳テストツール等)があればその活用状況について記載する。このほか、情報セキュリティに関する方針や自らが整備するITインフラの状況に応じた情報セキュリティへの取り組み(情報セキュリティについての担当部署の設置又は責任者の選任、情報セキュリティ教育やインシデント発生時の対応等を含む)についても記載することが考えられるとされている。また、現状の記載のみでなく、将来目指すIT基盤の姿についても、具体的なタイムラインなども含めて、監査事務所としての考え方、方針、具体的な体制等を中心に記載することが重要とされている。
<中小規模の監査事務所が開示したAQI>
 中小規模の監査事務所共通の課題と業界内では認識されている電子監査調書の導入状況を記載した事務所が多く見られたほか、ITへの投資額や売上高に対する比率、IT専門家の数やITに関する研修時間、参加状況等を開示していた監査事務所が多かった。

財務基盤
 財務基盤においては、特定の関与先に依存しない等、監査事務所としての確固たる財務基盤を示し、財務面からも監査業務の持続可能性を示すような記載を行うことが考えられるとされている。特定の関与先の報酬依存度が高い場合には、独立性を脅かすリスクへの対応の考え方等を意識した記載を行うほか、監査以外の業務を行っているために財務基盤が安定していると考えるのであれば、その内容(監査業務以外での収入構造や監査以外の業務を行うことによる利益相反排除のための取組などを含む)も具体的に記載すること等が考えられるとされている。
<中小規模の監査事務所が開示したAQI>
 法人の財産の状況(簡易貸借対照表)及び損益の状況(売上高や簡易損益計算書)を開示している事例が多く見られた。そのほか、ほとんどの中小規模の監査事務所が、最大の報酬依存度を記載していた。また、万が一の時の財務基盤の強固さを示すために、職業賠償保険に加入している旨を記載していた事例も多く見られた。

国際対応基盤
 国際対応基盤においては、現在実施している監査業務に照らして、海外取引、海外子会社に対する監査の体制や現状の課題認識について記載することが考えられるとされている。
<中小規模の監査事務所が開示したAQI>
 Mooreみらい監査法人やRSM清和監査法人、Forvis Mazars Japan有限責任監査法人のように、提携先の海外ネットワーク・ファームがある場合には、当該ネットワーク・ファームの規模、展開国数、拠点数等に関する記載が行われていた。一方、提携先のネットワーク・ファームが存在しないような中小規模監査事務所の場合には、海外駐在経験者の数を記載していたような事例があった。

終わりに

 上場会社監査事務所として登録された各監査法人は、品質管理基準報告書第1号「事務所における品質管理」が定める、事務所の品質管理のシステムに関する各項目の整備を一通り終えて、実務への適用の段階に入ったと考えられる。しかし、一方で、オルツやNIDEC等をはじめとする不適切な会計処理事例は後を絶たず、KDDIやエア・ウォーターといった優良企業とされる企業においても会計上の不祥事が次々と報道されている。日本公認会計士協会は、2026年1月26日付で「登録上場会社等監査人による監査の信頼性向上に向けた取組」を公表し、登録上場会社等監査人に対するモニタリングを強化することを表明した。さらに、2026年4月2日付のプレスリリース「最近の複数の上場会社の会計不祥事について」においては、進行年度の財務諸表に係る監査において、会員(監査法人及び公認会計士)が責務を果たすよう、対応状況を注視すると述べている。
 最近の2,3年は、幸いにも大型の会計不祥事等は発生せず、監査の環境も比較的落ち着いていたが、2026年は、まだ年の前半にもかかわらず、大型の会計不祥事が多発しており、波乱含みの展開となっている。今後公表される2026年3月期の決算においてもなお、会計上の不祥事が続出するような場合には、監査においても、「監査の信頼性向上に向けた取組」のみでは足りずに、さらに強力な取り組みが上乗せされるような可能性も否定できないであろう。
 関係者誰しもを不幸にする会計上の不祥事が起こらず、無事に決算期を乗り切れることを祈念したい。

参考文献
監査品質のマネジメントに関する年次報告書作成のためのガイダンス(日本公認会計士協会)

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