解説記事2020年06月15日 未公開裁決事例紹介 貸株取引による配当金相当額は雑所得(2020年6月15日号・№838)
未公開裁決事例紹介
貸株取引による配当金相当額は雑所得
株式返還を受けて配当を受け取る方法を選択せず
○貸株取引により、株式を証券会社に貸し出し、証券会社から当該株式の発行会社が配当した剰余金に代えて受け取った金員が配当所得又は雑所得のどちらに該当するかが争われた裁決。国税不服審判所は、貸株取引に係る証券会社との契約では、①貸借料について配当金相当額を受け取る方法と、②権利確定日前に一旦株式の返還を受けて剰余金の配当を受け取る方法とを選択することができ、請求人は後者②に基づき本件金員の支払を受けたものと認められないと指摘。株式の発行会社から受け取る剰余金の配当に係る所得ではないから、本件金員は雑所得に該当すると判断した(平成31年1月28日、棄却)。
基礎事実等
(1)事案の概要
本件は、株券貸借取引により株式を証券会社に貸し出していた審査請求人(以下「請求人」という。)が、当該証券会社から、当該株式の発行会社が配当した剰余金に代えてこれに相当する額の金員を受け取ったものの、当該金員に係る所得を含めずに所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該金員は株主たる地位に基づいて受け取る配当金ではないので、当該金員に係る所得は配当所得ではなく雑所得に該当するなどとして所得税等の更正処分等を行ったことに対し、請求人が、当該金員に係る所得は雑所得に該当しないとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令(略)
(3)基礎事実
当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
なお、以下、所得税及び復興特別所得税(以下、併せて「所得税等」という。)に係る原処分がされた年分を併せて「本件各年分」という。
イ 請求人は、平成17年3月24日頃、××××××××××××(以下「本件証券会社」という。)との間で、株券貸借取引に関する基本契約書を取り交わし、株券貸借取引(以下「貸株取引」といい、請求人と本件証券会社との間の貸株取引を「本件貸株取引」という。)を開始した。
本件各年分の貸株取引に適用される基本契約書(以下「本件基本契約書」という。)には、要旨、以下の定めがある(なお、本件貸株取引では、以下の「貸出者」とは請求人のことを意味し、「借入者」とは本件証券会社のことを意味する。)。
(イ)株券貸借取引とは、貸出者が、借入者に株式を貸し出し、合意された期間を経た後、借入者が貸出者に対象銘柄と同種、同等、同量の株式を返還する株式の消費貸借取引をいう(第1条)。
(ロ)貸出者は、対象銘柄について貸借数量の株式を取引実行日(貸借期間の開始日)に借入者に貸し出し、借入者は、貸し出された株式と同種、同等、同量の株式を取引決済日(貸借期間の終了日)に貸出者に返還する(第3条第1項及び第2項)。
(ハ)借入者は、貸出者に対して、借り入れた株式に係る貸借料(貸株金利)を、別段の合意がない限り、各月月末締め翌月10日までに支払う(第3条第6項)。
(ニ)株式の貸借期間が、株主としての権利を行使すべき者を定めるための一定の日(以下「権利確定日」という。)を越えることについて貸出者と借入者の間で事前に合意した場合、借入者が貸出者から借り入れた株式に付随する配当金相当額は、貸出者に帰属する。また、貸出者に帰属すべきものとされる配当の支払があった場合、借入者は、一定の期日までに、貸出者と借入者で事前に合意した配当金相当額(配当に係る源泉徴収後の金額)を貸出者に支払う(第7条第1項及び第2項)。
ロ 請求人が、本件証券会社から受け取った本件貸株取引に係る株式の配当金相当額は、平成26年分が1,881,370円、平成27年分が2,107,674円である(以下、本件各年分の配当金相当額を併せて「本件金員」という。)。
(4)審査請求に至る経緯
イ 請求人は、本件金員の額を本件各年分の総所得金額に含めず、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、平成26年分の所得税等の確定申告書を法定申告期限後である平成27年3月17日に、平成27年分の所得税等の確定申告書を法定申告期限内の平成28年3月15日に、それぞれ原処分庁に提出した。
ロ 請求人は、平成29年3月21日、健康保険料の控除漏れがあったとして、別表の「更正の請求」欄のとおり、平成27年分の所得税等の更正の請求をした。
ハ 原処分庁は、平成29年4月20日付で、別表の「更正処分」欄のとおり、上記ロの更正の請求を認める平成27年分の所得税等の更正処分をした。
ニ 原処分庁は、平成29年11月10日付で、本件金員の額を雑所得の金額に算入すべきであるなどとして、別表の「更正処分等」欄のとおり、平成26年分の所得税等の更正処分及び無申告加算税の賦課決定処分並びに平成27年分の所得税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした(以下、上記各更正処分を併せて「本件各更正処分」といい、上記無申告加算税の賦課決定処分及び上記過少申告加算税の賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分」という。)。
ホ 請求人は、平成30年2月13日、原処分の一部の取消しを求めて再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、同年5月8日付で、再調査の請求を棄却する再調査決定をした。
へ 請求人は、原処分に不服があるとして、平成30年6月7日に審査請求をした。
争点および主張
本件金員に係る所得は、雑所得に該当するか。当事者の主張は表のとおり。
【表】争点に対する当事者双方の主張
| 原処分庁 | 請 求 人 |
| 本件金員は、請求人が本件証券会社に対し権利確定日を越えて株式を貸し付けていた場合に配当を受ける権利を有しなくなることに代え、本件証券会社が請求人に対し本件基本契約書第7条第1項及び第2項の定めにより支払う金員であるから、請求人が株主の権利として法人から受ける剰余金の配当には該当しない。そうすると、本件金員の所得区分は、株主たる地位に基づいて受ける配当でないことから、配当所得には該当しない。 また、本件金員に係る所得は、利子所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない。 したがって、本件金員に係る所得は、雑所得に該当する。 |
以下のとおり、本件金員に係る所得は、雑所得に該当しない。 (1)本件金員は、本件証券会社が配当を受けた本件貸株取引に係る株式の剰余金に相当する金員であるところ、当該剰余金については、本件証券会社への支払に際し、所得税等及び住民税が源泉徴収されている。それにもかかわらず、本件金員について請求人に課税をすることは、当該配当金についての二重課税である。 したがって、本件金員について請求人に課税をすべきではないから、本件金員に係る所得は雑所得に該当しない。 (2)仮に、本件金員について請求人に課税するとしても、上記(1)の事情からすると、本件金員に係る所得を雑所得とし、その他の所得と合算して累進税率を適用することは不当である。したがって、本件金員に係る所得は、雑所得に該当するものとして課税すべきではなく、課税するに当たっては、その他の所得から分離し、剰余金が配当される際に源泉徴収される所得税等と住民税を合わせた税率と同程度の税率を適用すべきである。 したがって、本件金員に係る所得は雑所得に該当しない。 |
審判所の判断
(1)認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 本件証券会社は、貸株取引により借り入れた株式について、振替機関(社債、株式等の振替に関する法律(以下「社債株式振替法」という。)第2条《定義》第2項)である株式会社証券保管振替機構において開設した振替口座に係る振替口座簿に、その増加の記載又は記録を受けることにより管理をしている。
ロ 貸株取引の顧客は、貸株取引により本件証券会社に貸し出した株式の配当金について、①原則として、本件基本契約書第7条第1項及び第2項の定めに基づく配当金相当額として受け取ることになるが、②権利確定日前に一旦当該株式の返還を受けることにより、当該株式の発行会社から剰余金の配当として受け取ることもできる。上記②の方法を選択する場合、顧客は、本件証券会社に対して当該株式を個別に一定期間貸し出さないという指示をする、又は、事前に××××××サービス(本件証券会社が権利確定日前に一旦当該株式を返還する処理を自動的に行うサービスをいう。以下同じ。)に申し込む必要がある。
請求人は、本件各年分において、本件貸株取引により本件証券会社に貸し出した株式について上記指示をしておらず、また、事前に××××××サービスに申し込んでいなかった。
ハ 本件証券会社は、貸株取引により顧客から借り入れた株式を、原則として貸株市場において更に機関投資家に貸し出している。
上記株式の発行会社は、当該株式が権利確定日に機関投資家に貸し出されている場合、当該機関投資家に対して剰余金の配当を行い、その際、当該機関投資家に係る所得税等及び住民税の源泉徴収を行う。他方、上記発行会社は、上記株式が権利確定日に機関投資家に貸し出されていない場合、本件証券会社に対して剰余金の配当を行い、その際、本件証券会社に係る所得税等及び住民税の源泉徴収を行う。
(2)検討
イ 本件金員について
貸株取引は、株式の消費貸借契約に基づく取引であることから、本件貸株取引により本件証券会社に貸し出した株式の所有権は、請求人から本件証券会社に移転する。そして、上記(1)のイのとおり、本件証券会社は、当該株式について、振替機関において開設した振替口座に係る振替口座簿に、その増加の記載又は記録を受けるところ、振替株式(社債株式振替法第128条第1項)については、その発行会社が、振替機関から、権利確定日における振替口座簿上の株主の名称等の通知を受け、これに基づき株主名簿の内容を変更することにより、権利確定日の株主が決定される(同法第151条《総株主通知》第1項第1号、第2項第1号、第152条《株主名簿の名義書換に関する会社法の特例》第1項)。そうすると、貸株取引の貸借期間が権利確定日を越える場合には、貸株取引に係る株式の当該権利確定日時点の株主は、当該権利確定日における振替口座簿上の株主である本件証券会社(又は本件証券会社から当該株式を借り入れた機関投資家)となることから、株主として発行会社から剰余金の配当を受ける権利を行使することができるのは、本件証券会社(又は本件証券会社から当該株式を借り入れた機関投資家)である(会社法第124条《基準日》第1項)。
そして、上記(1)のロのとおり、請求人は、本件各年分において、本件証券会社に対して本件貸株取引に係る株式を個別に一定期間貸し出さないという指示をしておらず、また、事前に××××××サービスに申し込んでもいなかったから、本件各年分において、貸借期間中に権利確定日を越えた当該株式に係る剰余金の配当を受ける権利を行使することができるのは、本件証券会社(又は本件証券会社から当該株式を借り入れた機関投資家)である。
したがって、本件金員は、上記株式の発行会社が配当する剰余金ではなく、これに代えて本件証券会社から本件基本契約書第7条第1項及び第2項の定めに基づき支払われた金銭であると認められる。
ロ 本件金員の所得区分について
上記イのとおり、本件金員は、本件貸株取引に係る株式の発行会社が配当する剰余金ではないから、本件金員に係る所得は、法人から受ける剰余金の配当に係る所得ではなく(なお、それ以外の配当等にも該当しない。)、配当所得には該当しない。また、本件金員に係る所得は、利子所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない。
したがって、本件金員に係る所得は、雑所得に該当する。
(3)請求人の主張について
請求人は、本件証券会社が配当を受けた本件貸株取引に係る株式の剰余金については、その配当に際して所得税等及び住民税が源泉徴収されているから、本件金員について請求人に課税をすることは、当該剰余金についての二重課税であることを理由に、本件金員に係る所得が雑所得に該当しない旨主張する。しかしながら、請求人の主張する上記理由は、本件金員に係る所得が雑所得に該当するか否かという判断に何ら影響を及ぼすものではないから、採用することができない。
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