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解説記事2020年06月22日 ニュース特集 最近の裁決事例から読む隠蔽又は仮装の「特段の行動」(2020年6月22日号・№839)

ニュース特集
審判所が課税当局の重加算税を取消した4ケース
最近の裁決事例から読む隠蔽又は仮装の「特段の行動」


 申告漏れが発覚した場合に問題となるのは、当該申告漏れが重加算税の対象になるかどうかだ。重加算税を課すには、無申告又は過少申告であったこと自体が隠蔽又は仮装に当たるというだけでは足りず、それとは別に隠蔽又は仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせて無申告又は過少申告であることを要することになる。
 しかし、架空名義の利用や資料の隠蔽等の積極的な行為の存在が常に必要となるわけではない。納税者が、当初から無申告又は過少申告であることを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかった又は過少申告をした場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解されている。
 ただ、この「特段の行動」についてはその判断に迷うケースも少なくない。本特集では、重加算税が取り消された最近の裁決事例4件を取り上げ、重加算税の対象となる隠蔽又は仮装の行為があったか否かについて、「その意図を外部からもうかがい得る特段の行動」にスポットを当てて紹介することとする。

お尋ね文書の内容が事実と異なることのみで虚偽記載とはいえず

 最初に紹介する裁決事例は、請求人が法定申告期限までに相続税に係る申告書を提出しなかったことについて、重加算税の賦課要件を満たすかどうかが争われたものである。
 原処分庁は、納税者がお尋ね文書に意図的に虚偽の記載をして提出したなどと主張。仮に隠蔽等の積極的な行為が存在しないとしても、①税務知識を相当有する者である請求人が、自身に課税標準等があると認識していながら、故意にこれを申告しなかったこと、②請求人が意図的に虚偽の記載をしたお尋ね文書を提出したこと、③申告期限までに申告書を提出するための具体的な行為をしていないことなどからすれば、請求人が当初から相続税の申告をしないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかった場合に該当するとし、重加算税の賦課要件を満たすとしていた。
相続財産一覧表以外の財産はなし
 審判所は、お尋ね文書は記載すべき内容や提出自体も法定されているものではなく、あくまでも税務署が納税者に対し任意の提出を求める性質のものであるため、請求人が提出したお尋ね文書の内容が事実と異なるということのみをもって直ちに請求人がお尋ね文書に意図的に虚偽の記載をして提出したとまでは認めることはできないとした。その上で、お尋ね文書に請求人取得財産及び姉取得財産を記載せずに提出した行為のみをもって、請求人に相続税を申告しない意図があったということはできないとした。また、審判所は、請求人が税務調査時においても、相続財産一覧表を提出し、一覧表に記載された財産以外に請求人及び姉が相続により取得した財産は確認されなかったというのであるから、これらの事情から請求人は被相続人の相続財産を隠匿するような行動には出なかったというべきであるとし、請求人が当初から相続税を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかったような場合に該当するとはいえないとの判断を示し、無申告加算税相当額を超える部分を取り消した(令和元年12月18日)。

【参考】「特段の行動」をしたと判断された事例(最近の裁決事例から)

(事例1)原始記録を破棄し調査担当者に所得金額の把握を困難にさせた事例
 請求人は、税法上の正しい知識を有しておらず、多額の所得があるとは認識していなかったこと、収入と支出の差額が1,000万円以下なら消費税等の申告義務はないと考えていたこと、殊更に書類を廃棄していないことなどから、重加算税の賦課要件を満たしていない旨主張する。しかしながら、請求人は、事業所得の金額が申告額を大幅に上回っていることを認識していながら、長期間にわたって極めて僅少な所得金額のみを申告し続けており、また、本件の事実関係によれば、あえて原始記録を破棄して、調査担当者をして真実の所得金額の把握を困難にさせたものと評価でき、消費税についても、課税売上高を把握して納税義務があることを認識していたと認められるところ、このような請求人の一連の行為によれば、当初から所得を過少に申告する又は法定申告期限までに申告しない確定的な意図を有し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき過少申告をし又は法定申告期限までに申告をしなかったような場合に該当する(令和元年7月23日)。
(事例2)居住してはいないマンション所在地に住民票上の住所を異動した事例
 請求人は、住宅借入金等特別控除の対象とした家屋(マンション)を生活の場の一部として使用しており、同控除の適用において、事実のわい曲、仮装はしていないから、重加算税の賦課要件を充足していない旨主張する。しかしながら、住宅借入金等特別控除の制度及びその申告手続を把握していた請求人は、同制度の適用を受けて所得税等を過少に申告することを意図し、居住してはいない本件マンション所在地に住民票上の住所を異動させた上、住所が本件マンションにある旨が記載された住民票の写し等を添付の上で申告したことになり、当初から所得税等を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたものと認められるから、重加算税の賦課要件を満たしており、請求人の主張は採用することができない(令和元年9月3日)。
(事例3)預貯金の記載がない遺産分割協議書の作成や、相続税の申告書の作成を依頼した税理士に虚偽の回答をした事例
 請求人らは、被相続人の長男である請求人(請求人長男)が同人名義の預貯金(本件預貯金)を本件被相続人の相続財産としていなかったことについて、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしていない旨主張する。しかしながら、請求人長男は、本件預貯金が本件被相続人の相続財産であることを認識していたにもかかわらず、それを他の相続人らに告げず、本件預貯金の記載がない遺産分割協議書を自ら作成した上、相続税の申告書の作成を依頼した税理士にも虚偽の回答をし、当該認識に反する申告書を作成させるなどしたことが認められるから、請求人長男は当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき過少申告をしたものと評価するのが相当であり、同項に規定する重加算税の賦課要件を満たしている(令和元年9月10日)。

税理士に預金の存在を伝えなかったが故意に除外する意図は認められず

 次に紹介する裁決事例は、相続税の修正申告の際の申告漏れ相続財産のうち、母が関与税理士に伝えなかった預金について、重加算税の賦課要件を満たすか否かが争われたものである(母の死亡に伴い納税義務を承継した請求人が原処分の取消しを請求)。
 原処分庁は、預金の申告漏れについて、請求人の母が預金の存在を知っていたにもかかわらず、関与税理士に預金の存在を伝えなかったことについては、事実の隠蔽あるいは故意に脱漏したと評価することができるなどと主張した。
勧奨に応じて修正申告
 審判所は、相続人が預金の存在を関与税理士に対して伝えなかったことは認められるとしても、必ずしも相続人が預金を相続財産であることを認識した上で、あえてこれを伝えなかったとまで認めることはできないとした。また、審判所は、預金について自ら解約手続きを行い、相続人名義の口座へ入金していた事実からすれば、相続人が預金の存在を知っていたことは認められるとしたが、①預金を原処分庁が容易に把握し得ないような他の金融機関や相続人名義以外の口座などに入金したのではなく、解約した預金の口座と同じ金融機関の相続人名義の口座に入金していた、②入金後も当該口座を解約していなかった、③預金通帳が使用済通帳として破棄できる状況にありながら、調査が行われるまで保管し、調査担当職員に提示していること、④相続人名義の財産の申告漏れを指摘されると、事実を認め、修正申告の勧奨に応じて修正申告をしていることなどの事情からしても、本件預金を故意に申告の対象から除外する意図があったものとは認めがたいと指摘。相続人が当初から相続財産を過少に申告する意図を有し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたものと認めることはできないとの判断を示した(令和元年11月19日)。

納税者が追加利用料金を組合の預り金と考えてもやむを得ず

 法人税関係についても重加算税が取り消された2件の裁決事例を紹介する。
 まずは、請求人が確定申告時に仮受金勘定に計上した指定管理に係る利用料金について収入の額に計上しなかったことが隠蔽又は仮装の行為があったか否か争われたものである。
 請求人はビルや公共施設の清掃業務を行う法人であり、運動施設等の管理に関する基本協定を組合との間で締結し、施設の指定管理者として施設の管理運営を行っている。本件で問題となった追加利用料金は施設の駐車場に自動精算機を導入したことで、請求人と組合が追加利用料金の徴収に当たり、利用料金の精算や事務経費などについて事前に協議しており、請求人は組合から追加利用料金は実質的には組合の収入であるため請求人の収入と基本料金とは区分けして管理するよう指導を受けていた。原処分庁は、請求人は平成29年3月期における追加利用料金を収入計上していたことなどから、本件追加利用料金が請求人の収入であることを認識していたなどと主張していた。
組合に返納すべきものと指導
 審判所は、追加利用料金は指定管理者である請求人の収入であると認められるにもかかわらず、請求人は追加利用料金を収入として計上せず、仮受金として処理しているが、請求人が仮受金として処理した理由は、組合から追加利用料金は組合に返納すべきものとして基本利用料金とは区分して管理するよう指導を受けたからであり、追加利用料金を組合に対する預り金であると考えたとしてもやむを得ないものといえると指摘。請求人が追加利用料金を収入として計上せず、仮受金として処理したことで、意図的に収入を過少に申告したとはいえないことからすれば、請求人において課税標準等又は税額等の計算の基礎とする事実についてこれを隠蔽し又は仮装したと認めることはできず、請求人申告に係る一連の行為について重加算税の賦課要件を満たすとは認められないとの判断を示した(令和元年12月16日)。

譲渡所得が生じていないと認識していた可能性も否定できず

 最後に紹介する裁決事例は、請求人が法定申告期限までに法人税に係る申告書を提出しなかったことについて、重加算税の賦課要件である隠蔽又は仮装の行為があったか否かなどが争われたものである。
 原処分庁は、①請求人が事業年度の直前の2事業年度について、いずれも法定申告期限内に申告していたこと、②代表者は、山林の購入及び売却に係る契約に関与しており、契約の存在及び取引金額を認識していれば、事業年度等の法人税等について申告すべき所得金額及び納付すべき税額が生ずることを容易に認識し得たと認められること、③原処分庁の職員に、山林を譲渡する場合に法人税額が生じない特例はないかという相談をしていたこと、④税務調査の際に「確定申告はしない」などと述べ、請求人の事業に係る書類の提示要求を拒否し続けたこと、⑤代表者は母名義の預金口座に6,000万円を振り替えるなどして、山林の譲渡に係る売買代金の一部を移動させ、請求人に納税するための資金がないとの外形を整えたことを理由に挙げ、隠蔽又は仮装に該当するなどと主張していた。
協力要請に応じなかったのみで評価できず
 審判所は、代表者は度重なる税務調査への協力要請に応じなかったことは認められるものの、調査担当職員が代表者の自宅に臨場した際には山林の売買契約書及び通帳を提示し、売買代金の決済方法等について説明しており、また、事業に関連する支出の存在を主張し、当該支出に関する証拠書類を提出したことからすると、当該支出が損金の額に算入することができるか否かは別として、請求人が山林の譲渡による所得が生じていないと認識していた可能性も否定できないことからすると、協力要請に応じなかったことをもって明確な無申告の意図に基づく行為であったと評価することはできないと指摘。審判所は、無申告行為そのものとは別に、請求人が当初から法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとはいい難いとして、隠蔽又は仮装の事実があったと認めることはできないとの判断を示した(令和元年11月20日)。

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