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解説記事2020年06月29日 特別解説 日本企業による会計監査人交代の理由(臨時報告書における開示例)②(2020年6月29日号・№840)

特別解説
日本企業による会計監査人交代の理由(臨時報告書における開示例)②

はじめに

 本稿では、日本企業による会計監査人交代の理由(臨時報告書における開示例)を類型ごとに分類したうえで、そのうちの一部を紹介しているが、今回は、前回に引き続き、以下の3つの類型に属する会計監査人の交代に関する開示の具体例を紹介することとしたい。

④ 会計上の不祥事等を契機とする交代事例
⑤ 会社と会計監査人との間で見解の相違が生じ、隔たりが埋まらずに最終的に会計監査人が交代した事例
⑥ 監査公認会計士等の対応の適時性や人員への不満を理由とする会計監査人の交代事例

 なお、調査対象は、前回と同様に、2019年6月21日以降、2020年3月31日までに臨時報告書(会計監査人の交代に関するもの)を提出した企業である。

会計上の不祥事等を契機とする変更事例

 会計上の不適切な会計処理等が明るみに出たことによって会社と会計監査人との間の信頼関係が崩れ、最終的に会計監査人の交代へとつながった事例として、MTGと明豊エンタープライズ、及び第一商品の事例を紹介する。
 前回に取り上げた継続監査年数の長期化や監査報酬の適正化といった理由に比べると、今回紹介する会計上の不祥事や見解の相違、監査上の対応への不満等になると、背景や経緯、その理由等を説明する文章が長く、かつ具体的にならざるを得ない。そして、記述されている内容も建前を離れ、かなり生々しい「本音ベース」のものになっている。

MTG(東証マザーズ その他製品) 臨時報告書提出日:2019年12月26日

 当社の会計監査人である有限責任監査法人トーマツは、2019年12月25日開催の第24期定時株主総会終結の時をもって任期満了となります。当社は、2019年7月11日公表の「第三者委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」のとおり、第三者委員会より、当社の連結子会社であるMTG上海において、会計監査人に対して虚偽の説明をし、かつ、不適切な営業取引行為及び中国向けの越境EC事業における取引についても会計処理が不適切であること並びにガバナンス体制及び内部統制が不十分であった旨の指摘を受けました。
 当社は、これを重く受け止め、2019年7月18日開催の取締役会において再発防止策について決議し、ガバナンス体制を見直しこの実行に取り組んでおりますが、有限責任監査法人トーマツからは、当該再発防止策の実行途上の状況では、相当な監査工数の増加が見込まれ、監査人員の確保に不確実性が伴うことから、契約更新を差し控えたいとの申し出を受けました。当該状況を踏まえ、任期満了に伴い新たな監査法人を候補者として検討するに至りました(以下略)。

明豊エンタープライズ(ジャスダック 不動産業) 臨時報告書提出日:2019年9月17日

 当社の会計監査人であるアーク有限責任監査法人は、2019年10月29日開催予定の第51期定時株主総会終結の時をもって任期満了となります。2019年7月10日付で当社とは利害関係を有しない外部の弁護士及び公認会計士からなる特別調査委員会を設置し、2019年9月6日付で受領した調査結果を受け、当社の中国プロジェクトに係る貸付等債権に関する過年度の貸倒引当金に関して、その計上時期の見直しを行い、過年度の有価証券報告書及び四半期報告書等について決算訂正を行っておりますが、同監査法人より、この決算訂正の要因となった過去の事実関係のうち一部の重要な情報について発生当時から訂正直前期まで同監査法人に提供されていなかったこと、かかる対応により同監査法人として経営者の誠実性に疑念が生じ、当社との信頼関係が損なわれたこと、また、新規事業進出等の経営環境の変化により監査工数の増大も見込まれることから、任期満了に伴い契約更新を差し控えたい旨の申し出を受けました(以下略)。

第一商品(ジャスダック 証券・商品先物取引業) 臨時報告書提出日 2020年3月27日

 当社は、令和2年3月11日付で第三者委員会を設置し、過去の会計処理等の不適切性の調査を委嘱しました。一方、不適切な会計処理の疑いにより当社に対する信頼関係が著しく損なわれるなど、監査人側から監査契約の継続に難色を受けることとなりました。監査業務の継続をお願いしましたが、令和2年3月25日をもって退任する旨の通知を、令和2年3月26日に受け取ることとなりました。

 会計不祥事が発生するような場合には、往々にして会計監査人への情報の隠蔽や虚偽説明等が被監査会社側から行われ、被監査会社と会計監査人との間の信頼関係が大きく損なわれた結果、監査契約の更新差し控えの申し入れがなされることが少なくない。監査は第三者的な観点が要求されるものであり、会計監査人と被監査会社との間の癒着や馴れ合いは排除されなければならないが、強制捜査権等を伴わない会計監査が制度として成り立つためには、被監査会社と会計監査人との間の日頃の信頼関係の構築・維持が欠かせないということを改めて認識させられる。

会社と会計監査人との間で見解の相違が生じ、隔たりが埋まらずに最終的に会計監査人が交代した事例

 このような事例としては、アルファクス・フード・システムとインパクトを取り上げる。

アルファクス・フード・システム(ジャスダック 情報・通信業) 臨時報告書提出日:2020年1月14日及び2020年2月21日
 アルファクス・フード・システムは、調査対象期間の10か月弱の間に2度、会計監査人が交代した唯一の会社である。まず、最初の交代時に行われた開示(2020年1月14日)は、次のとおりであった。

 当社は、当社の会計監査人である監査法人大手門会計事務所に監査をお願いしてまいりました。今般、同監査法人より会社の経営環境の変化に伴い、監査工数が増大すること及び近年の監査の厳格化に伴い、今後、十分な監査体制を維持するための人員を確保することが困難であるとして、2020年1月9日の夜に契約解除の申し出がありました。
 当社監査役会では、2019年12月6日に公認会計士・監査審査会より金融庁に対し、同監査法人に対する勧告要請があったことから、会計監査人の異動を選択肢の一つとして模索しておりましたが、当社の事業規模、業務内容に適した監査対応、監査費用の相当性等を検討した結果、本日付で東光監査法人を一時会計監査人として選任いたしました。
 なお、退任にあたり監査法人大手門会計事務所からは、監査業務の引継ぎについての協力を得ることができる旨の確約をいただいております。

 そして、東光監査法人を一時会計監査人として選任してから1か月少々の2020年2月21日付で、2度目の会計監査人交代が行われた。その際の開示は、次の通りであった。

 当社は、2020年1月28日付で、当社の一時会計監査人である東光監査法人より、過年度の決算に関する検討すべき事項が生じ退任の申し出を1月29日に受領しました。これを受け、当社監査役会で検討した結果、相互理解に至らなかったことから、監査契約の解除について合意いたしました。

 東光監査法人は、一時会計監査人在任わずか2週間で辞任したことになる。2月21日付の開示では、後任の会計監査人についての記載がなかったことから、1週間後の2月28日付で、臨時報告書の訂正報告書が提出され、後任の一時会計監査人として、監査法人アリアが就任したことが明らかにされた。

インパクトホールディングス(東証マザーズ サービス業) 臨時報告書提出日:2019年9月18日
 インパクトホールディングスも、前任の会計監査人である東陽監査法人との間での見解の相違が埋まらずに契約解除となっているが、異動の決定又は異動に至った理由及び経緯の説明に非常に長文を費やしている。以下では一部を省略したうえで紹介する。

 当社は、今後の監査対応等について会計監査人である東陽監査法人と協議の結果、監査及び四半期レビュー契約を解除することで合意に至りました。
 今回、東陽監査法人からは、当社のインドにおけるコンビニエンスストア事業において、現地パートナー企業であるCDGLに対する貸付債権(約11億円)及びCDCSPLに対する投資額(約17億円)の回収可能性の評価に関して、CDGLの直近の財務状況等、当社の債権及び出資先の評価に必要な財務情報の入手を求められておりました。(中略)CDGLの財務情報の開示も延期されたため、提出期限である9月13日までに四半期報告書の提出が困難になりました。そこで、提出期限である9月13日までに四半期報告書の提出を間に合わせるべく、当社から東陽監査法人へ、CDGLへの貸付債権について、CDGLの財務状況が確認できないことで評価できないのであれば、保守的に貸付債権の全額を貸倒引当金として処理する方向で打診いたしましたが、東陽監査法人からは、CDGLの財務状況を確認できない状況ではCDGLに対する貸付債権(約11億円)の回収可能性については判断できない旨の回答を得ました。それに伴い、CDCSPLに対する投資額(約17億円)についても判断できない旨の回答を得ました。その後、当社と東陽監査法人で何度か折衝を重ねましたが、事態は進展しなかったため、東陽監査法人と協議の結果、監査及び四半期レビュー契約を解除することで合意に至りました。
 当社はこれに伴い、会計監査人が不在となる事態を回避し、適正な監査業務が継続的に実施される体制を維持するため、新たな会計監査人の選定を進めてまいりました結果、本日開催の監査役会において監査法人アリアを一時会計監査人に選任することを決議いたしました。なお、東陽監査法人からは、監査業務引継ぎについての協力を得ることができる旨の確約を頂いております。

 国内産業の成熟化等により、大企業ではない日本企業でも、成長力が高いとされるアジア諸国を中心に海外に進出し、多額の投資を行う事例が増えてきている。海外での投資の場合には、法制度や習慣等の違い、言語の問題等もあって、会社側と会計監査人との間の見解の相違が生じたり、その解決に非常に時間がかかったりするようなケースが多いと考えられる。また、最近は、本稿でも紹介したMTG社の事例のように、中国を中心とする海外の連結子会社で不適切な会計処理が発生し、それによって親会社の屋台骨が揺らいだり、被監査会社と会計監査人との間の信頼関係が崩壊したりするような事例も散見されている。

監査公認会計士等の対応の適時性や人員への不満を理由とする会計監査人の交代

 この類型による会計監査人交代の例として、プリントネットの事例を紹介する。この事例は、今回調査の対象とした事例の中で唯一、退任する会計監査人の意見が付されていた。

プリントネット(ジャスダック その他製品)臨時報告書提出日:2019年10月24日
 プリントネットは、会計監査人交代に係る臨時報告書において、以下のような開示を行った。

 当社の会計監査人である有限責任監査法人トーマツは、2020年1月28日開催予定の当社第34期定時株主総会終結の時をもって期間満了となります。
 当社は、同監査法人の監査体制に疑念を抱く点並びに近年の監査報酬が増額傾向であることなどから、会計監査人の評価・見直しを行うべきと考え、監査役会において複数の監査法人と検討してまいりました。
 その比較検討の結果、会計監査人に求められる専門性、独立性及び効率性を有し、さらには新たな視点での監査が期待できることに加え、監査報酬及び内部監査体制などを総合的に勘案し、当社の会計監査人として適任であると判断したため、史彩監査法人を会計監査人として選任するものであります。

 当該臨時報告書においては、「退任する会計監査人等の意見」は、「特段の意見はない旨の回答を得ております。」と記載されていたが、5日後の2019年10月29日に臨時報告書の訂正報告書が提出され、そこでは次のように訂正が行われた。

(5)当該異動の決定又は当該異動に至った理由及び経緯
(訂正前)
 (略)当社は、同監査法人の監査体制に疑念を抱く点並びに近年の監査報酬が増額傾向であることなどから、会計監査人の評価、見直しを行うべきと考え、監査役会において複数の監査法人と検討してまいりました。

(訂正後)
 (略)当社は、監査証明が出されている期より以前の期における監査体制に不備があったこと、また、近年の監査報酬が増加傾向であることなどから、会計監査人の評価、見直しを行うべきと考え、監査役会において複数の監査法人と検討してまいりました。

さらに、

(6)上記(5)の理由及び経緯に対する意見
 ① 退任する会計監査人等の意見
(訂正前)
 特段の意見はない旨の回答を得ております。

(訂正後)
 退任する会計監査人からは、「監査報酬に関し合意するに至らなかったため、任期満了により退任する旨申し出たものであります。なお、当監査法人は、所定の品質管理体制のもと適切に監査を実施しております。」との回答を得ております。

 退任に至るまでの過程で、会計監査人と会社との間でかなりの軋轢や意見対立、行き違い等があったことが伺える記載ぶりであろう。
 なお、今回調査対象とした会社のほかに、2019年5月22日にリケンが提出した臨時報告書にも、退任する会計監査人の意見が付されているため、以下で紹介する。

リケン(東証1部 機械) 臨時報告書提出日:2019年5月22日

((5)異動の決定又は異動に至った理由及び経緯)
 当社の会計監査人であるEY新日本有限責任監査法人は、2019年6月21日開催予定の第95回定時株主総会終結の時をもって任期満了となります。同監査法人を長年にわたり選任してきておりますが、監査報酬増額の打診を受け、監査継続年数を考慮し、改めて後任監査人の採用について検討しました(以下略)。
(6)上記(5)の理由及び経緯に対する監査報告書等の記載事項に係る退任する監査公認会計士等の意見
 「(5)異動の決定又は異動に至った理由及び経緯」につきましては、監査報酬の減額要請を受け、監査報酬に関し双方協議したが合意に至らなかったため、と会社から説明を受けております。

終わりに

 2回にわたり、会計監査人の交代に関する臨時報告書記載例の調査分析を行ったが、前回が継続監査年数の長さや監査報酬の節減といった、比較的「よくある」理由であったのに対し、今回は、会計上の不祥事や見解の相違、さらには監査上の対応への不満等、かなりの「レアケース」に該当するような事例を中心に紹介した。
 2019年の開示府令の改正により、「任期満了」一辺倒だった会計監査人の交代に至った経緯や理由等も、だいぶ具体的な開示が見られるようにはなったものの、被監査会社側からしてみると、継続監査年数や監査報酬大幅引き上げの提示といった「差しさわりのない、表向きの」理由の裏には、「実は、監査法人側の監査対応が不満だった」といったような、「本音ベース」の理由が隠されている可能性がある。また、監査法人側から見ても、普段から見解の相違が絶えないような顧客企業に対しては、被監査会社側が到底受け入れられないような水準の監査報酬をわざと提示して、「お引き取り頂く」ような事例もあるのかもしれない。
 監査を依頼する会社側は、いわゆるオピニオン・ショッピングや監査報酬の不当な削減のようなことをしてはならないし、受嘱する監査法人の側も、安かろう・悪かろうのサービスを提供するようなことがあってはならない。品質の保たれた会計監査を、合理的な監査報酬で受けることにより、被監査会社、会計監査人の双方がウィン・ウィンの関係になるのが最も望ましいことであるが、その前提として、会計監査はあくまでも財務諸表の利用者である投資家を保護し、我が国経済の投資の円滑化に貢献するためにあることを忘れないようにしたいものである。

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