カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2020年06月29日 未公開裁決事例紹介 住民登録異動が特例適用を受けるための仮装行為に(2020年6月29日号・№840)

未公開裁決事例紹介
住民登録異動が特例適用を受けるための仮装行為に
審判所、居住実態や居住意思も見られないと判断


○居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例の適用を巡り、請求人がマンションに住民登録を異動した行為が仮装行為に該当するか否かが争われた裁決。国税不服審判所は、住民登録を異動することにより、本件マンションが措置法35条2項に規定する「その居住の用に供している家屋」であるかのような外形を作出し、居住した事実があるかのように故意に事実をわい曲したものであるとし、仮装行為に該当するとの判断を示した(令和元年7月3日、棄却)。

基礎事実等

(1)事案の概要
 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、マンションを譲渡し、当該譲渡について、居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例の適用を受けて所得税等の確定申告をした後に、原処分庁の調査により当該マンションを居住の用に供していないことから当該特例を適用することはできないとの指摘を受けて修正申告したところ、原処分庁が、当該特例の適用に関して仮装行為が存在するとして、重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、原処分の一部(過少申告加算税相当額を超える部分)の取消しを求めた事案である。
(2)関係法令(略)
(3)基礎事実
 当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人は、平26年3月17日、当時所有していた××××××××××××その他1筆に所在の××××××××××××を譲渡(以下「平成26年譲渡」という。)した。なお、請求人は、平成24年1月31日、××××××××から、請求人の両親名義の××××××××××に所在の××××××××××××(以下「請求人住所地」という。)に、住民票上の住所(以下「住民登録」という。)を異動した。
ロ 請求人は、平成26年分の所得税及び復興特別所得税(以下、併せて「所得税等」という。)について、分離長期譲渡所得の金額の計算上、本件特例を適用して、法定申告期限までに、確定申告書を提出した。
  当該確定申告書には、××××××××に住民登録があったことを証する住民票の除票の写しが添付されていた。
ハ 請求人は、平成27年5月26日付で、××××××××その他1社との間において、××××××××××××に所在の××××××××××××(以下「本件マンション」という。)を売買により取得する旨の不動産売買契約を締結し、平成29年1月21日に、本件マンションの引渡しを受けた。
ニ 請求人は、平成29年1月23日、請求人住所地から本件マンションに住民登録を異動した。また、請求人は、同年3月15日、 ××××××××××××に所在の××××××××××××を購入し、同月27日、同所に、本件マンションから住民登録を異動し、さらに、同年4月11日、請求人住所地に住民登録を異動した。
ホ 請求人は、平成29年7月30日付で、××××に対し、本件マンションを売買代金4,400万円で譲渡する旨の不動産売買契約を締結し、同年8月21日、同人に対し本件マンションを引き渡した。
(4)審査請求に至る経緯
イ 請求人は、平成29年分の所得税等について、本件マンションの譲渡に係る分離短期譲渡所得の金額の計算上、本件特例を適用して、別表の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
  当該申告書には、「譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)(土地・建物用)」が添付されており、当該内訳書の利用状況欄の「自己の居住用」欄にチェックがされており、「居住期間」欄に「29年1月〜29年4月」と記載されている。
ロ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、その調査結果に基づき、平成30年6月11日、別表の「修正申告(1回目)」欄のとおり記載した平成29年分の所得税等の修正申告書(以下「本件第1次修正申告書」という。)を原処分庁に提出した。
ハ 原処分庁は、平成30年7月20日付で、本件マンションに生活の本拠がなく、仮装行為が存在するなどとして、別表の「賦課決定処分」欄のとおり、所得税等に係る重加算税の賦課決定処分をした。
ニ 請求人は、平成30年7月30日、本件マンションなどの賃貸に係る不動産所得の計上漏れがあったとして、別表の「修正申告(2回目)」欄のとおり記載した平成29年分の所得税等の修正申告書(以下「本件第2次修正申告書」という。)を原処分庁に提出した。
ホ 請求人は、平成30年8月20日、原処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めて審査請求をした。

争点および主張

 請求人について、通則法第68条第1項に規定する事実の隠蔽又は仮装があったか否か(具体的には、本件マンションに住民登録を異動した行為が仮装行為に該当するか否か。)。
 争点に対する当事者双方の主張はのとおり。

【表】争点に対する当事者双方の主張

原処分庁 請 求 人
(1)請求人は、平成26年譲渡につき、住民票の除票の写しを原処分庁に提出して本件特例の適用を受けており、また、本件確定申告書の作成に当たっては、原処分庁に、本件マンションの譲渡に係る本件特例の適用の可否について質問をしていることからすると、本件特例の適用要件である「居住の用に供している家屋」については、形式的には住民票で判断されることを熟知していたというべきであり、住民登録を異動することによって本件特例が適用できるかのような外形を作出したといえる。
(2)電気、ガス及び水道の使用状況等からすると、請求人が本件マンションに居住していなかったことは明らかであり、本件特例の適用を受けること以外に本件マンションに住民登録を異動した合理的な理由は認められない。
(3)以上のことから、請求人が本件マンションに住民登録を異動したのは、本件マンションを譲渡した際に本件特例の適用を受ける目的で、本件マンションが自己の居住の用に供していた物件であるかのごとく仮装するためであったと認められる。
  したがって、請求人が本件マンションに住民登録を異動した行為は、仮装行為に該当する。
(1)請求人は、本件特例の適用要件についてある程度理解しているつもりであったが、税務の専門的な知識に乏しく、本件特例の適用の対象となる居住用財産が生活の本拠である住居に限られるという専門的な法令解釈の認識はなかった。また、請求人が購入した本件マンションは居住用のマンションであり、請求人は、本件マンションについて、一般的な常識の範囲での認識として、寝泊り等住める環境が整っていれば当該居住用財産に該当するものと認識していた。
  このように、請求人は本件特例の適用要件である居住用財産の解釈を誤認していたものである。
(2)請求人は、本件マンションに居住予定であり、居住するのであれば住民登録を異動するものと考えていたため、本件マンションに住民登録を異動し、その時期には本件マンションに係る電気、ガス及び水道の利用開始手続を完了し、いつでも寝泊り等生活できる状態であった。結果的に、請求人の個人的な事情により家財の移転までは行っておらず、本件マンションを生活の本拠とはしていなかったものの、上記のような状況下で請求人が本件マンションに住民登録を異動した行為は、仮装行為に該当しない。

審判所の判断

(1)法令解釈
 通則法第68条第1項の規定による重加算税を賦課するためには、納税者が課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたことがその要件とされるところ、ここでいう「事実を仮装し」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかもそれが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうと解される。
(2)認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 請求人は、××××××××××××に雇用された会社員であり、××××××××××にシステムエンジニアとして派遣され、同社の業務に従事している。
ロ 請求人は、平成26年4月25日から平成30年6月頃までの間、××××××××××に所在の××××××××××を賃借して使用していた。請求人は、××××××××について、賃借開始に伴って、電気、ガス及び水道の各供給契約を締結しており、平成26年5月から平成29年12月までの間の××××××××に係る電気、ガス及び水道の各使用状況(1か月当たり)は、①電気については78kWh(ただし、平成26年5月及び同年6月の2か月合計114kWh)から448kWh、②ガスについては5㎡から46㎡、③水道については2㎡(初回料金)から14㎡であり、毎月において電気、ガス及び水道の使用が認められる一方、平成29年1月から同年4月の使用量に有意な変化はない。
  なお、請求人住所地の電気及びガスの各供給契約は、請求人の父名義で締結されており、同所についても、平成29年1月から同年4月の使用量に有意な変化はない。
ハ 請求人は、平成29年1月26日付で、××××××××に対し、本件マンションの賃貸に係る媒介を依頼した。なお、請求人作成の当該媒介の依頼に係る賃貸媒介依頼書には、依頼時点から×××××××が営業活動を開始する旨記載がある。
ニ 本件第2次修正申告書に添付された平成29年分収支内訳書(不動産所得用)の「不動産所得の収入の内訳」欄には、本件マンションの賃貸契約期間として「自平成29年4月至平成29年8月」と記載されている。
ホ 請求人は、本件マンションにつき、電気、ガス及び水道の各供給契約を締結し、水道の供給は平成29年1月21日から、電気及びガスの供給は同月25日からそれぞれ開始し、いずれも同年3月12日に終了した。本件マンションに係る平成29年2月分及び3月分の電気の使用量はいずれも1kWhにすぎず、ガス及び水道の使用量はいずれも0㎡であった。
へ 請求人は、本件マンションの譲渡について本件特例の適用の可否を大阪国税局税務相談室に相談したところ、3年前に平成26年分譲渡について本件特例の適用を受けていることから本件マンションの譲渡には本件特例の適用ができない旨の回答を受けたものの、当該回答に疑問を感じたため、平成30年2月27日に原処分庁に電話相談した。これに対し、原処分庁所属の相談担当職員は、本件特例は3年に一度の適用が可能であるが、居住用財産が対象である旨説明した。
(3)請求人の答述の要旨
 請求人は、当審判所に対して、要旨次のとおり答述した。
イ 請求人は、当時結婚を前提に交際していた女性(以下「交際相手」という。)と居住する目的で本件マンションの売買契約を締結した。
ロ 請求人は、本件マンションのエントランスなどが想像と異なっていたことから、引渡前から気に入らなかったこともあり、住む気になれなかったことに加えて、本件マンションの引渡時点において、交際相手と険悪な状態にあったことから、本件マンションに家具等の搬入をしなかった。
ハ 請求人は、本件マンションを取得した後、賃貸するまでの間、仕事の帰りが遅くなった時の寝泊りに使っていた。
ニ 請求人は、本件マンションに居住する必要性がなくなったため、本件マンションの賃貸及び売却を検討していたところ、賃貸が先に決まった。
ホ 請求人は、××××××××に、ベッド、電子レンジ、冷蔵庫を置き、週3日又は4日程度寝泊りしており、それ以外は請求人住所地に戻っていた。なお、請求人の両親は、週3日程度請求人住所地に来ていたが、同所で同居はしていない。
(4)検討
 イ 請求人の本件マンションにおける居住実態及び居住意思について

(イ)請求人の本件マンションにおける居住実態について検討すると、請求人は、仕事の帰りが遅くなった時の寝泊りに本件マンションを利用していた旨答述するが(上記(3)のハ)、本件マンションに係る電気についてはごく僅かな使用実績しか認められず、ガス及び水道に至っては使用実績が全く認められない(上記(2)のホ)一方、請求人が賃借していた××××××××に係る電気・ガス及び水道については居住していたと考えられる程度の使用実績があり、本件マンションに住民登録があった平成29年2月及び3月についても、その使用量が有意に減少したとは認められない(上記(2)のロ)。加えて、××××××××には、ベッド等の生活に必要最低限の設備が整っており、勤務先は××××××××から電車で一駅程度の距離であって(上記(2)のイ及びロ)、あえて本件マンションに寝泊りする事情も認められないことからすると、請求人が本件マンションに居住した事実も、居住に準ずるような形態で相当程度使用した事実もないものと認められる。
(ロ)次に、本件マンションに住民登録を異動した時点(平成29年1月23日)における請求人の居住意思について検討する。
  請求人は、引渡前から本件マンションに住む気になれず、また、本件マンションの引渡しの時点(平成29年1月21日)で交際相手と険悪な状態にあり、家具等の搬入をしなかった旨答述している(上記(3)のイ及びロ)。そして、上記(イ)のとおり、本件マンションに居住実態が認められないことに加え、請求人は、本件マンションに住民登録を異動した日(同月23日)の僅か3日後の同月26日に本件マンションの賃貸に係る媒介依頼を行い(上記(2)のハ)、同年4月頃から本件マンションを賃貸の用に供していること(上記(2)のニ)からすれば、請求人は、遅くとも本件マンションに住民登録を異動した時点から本件マンションを売却するまでの間、本件マンションに居住する意思も居住する予定もなかったものと認められる。
 ロ 本件マンションに住民登録を異動した目的について
 請求人は、本件マンションに居住予定であり、居住するのであれば住民登録を異動させるものと考えていたので、本件マンションに住民登録を異動した旨主張していることから、以下、請求人が本件マンションに住民登録を異動した目的について検討する。
 請求人が、住民登録を異動した時点で、本件マンションに居住する意思も居住する予定もなかったものと認められるのは、上記イの(ロ)のとおりである。また、請求人は、平成26年の所得税等について、分離長期譲渡所得の金額の計算上、本件特例の適用を受けており、その際に××××××××に住民登録があったことを証する住民票の除票の写しを添付していることから、本件特例の適用を受けるためには住民登録を本件マンションに異動することが必要であるとの認識を有していたものと認められる。そのような認識の下、本件マンションに居住する意思も居住する予定もなかったにもかかわらず、本件マンションに住民登録を異動したものであり、このような事情からすると、請求人は、本件特例の適用を受けるために本件マンションに住民登録を異動したものと認められる。
 ハ まとめ
 上記イ及びロのとおり、請求人は、本件マンションを取得した後、本件マンションに居住した事実もなく、居住する意思も居住する予定もなかったにもかかわらず、本件特例の適用を受ける目的で、本件マンションに住民登録を異動したものと認められる。そうすると、請求人は、本件マンションに住民登録を異動することにより、本件マンションが措置法第35条第2項に規定する「その居住の用に供している家屋」であるかのような外形を作出し、居住した事実があるかのように、故意に事実をわい曲したものと評価できる。
 以上のことから、本件マンションに住民登録を異動した請求人の行為は、通則法第68条第1項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を…仮装し」たことに該当するというべきである。
 ニ 請求人の主張について
 請求人は、税務の専門的な知識に乏しく、一般的な常識の範囲での認識として寝泊り等住める環境が整っていれば本件特例の適用の対象となる居住用財産に該当するものと認識しており、そのような状況下で本件マンションに住民登録を異動した行為は、仮装行為に該当しない旨主張する。
 しかしながら、そもそも住民登録は、各人につき1か所にしか認められないのであり、自己所有か貸借かにかかわらず、生活の本拠と一致させることは一般的な常識の範囲内というべきところ(なお、住民基本台帳法第22条、罰則につき同法第52条参照。)、そのため、本件特例の適用に当たっては、その要件該当性を判断するための簡明な証明手段として住民登録が用いられているのであって、税務の専門知識がなくても、通常の社会生活を営む会社員として、請求人の主張するような認識を有するというのはにわかに考えがたい。加えて、本件マンションは、上記イの(イ)からすると、一般的な用語としての「居住」といえるかの判断に迷うほどの使用実態もなかったと認められるのであるし、請求人は、本件特例が一定期間内に一度しか適用できないことを知っており、その確認のために大阪国税局税務相談室及び原処分庁に自ら相談していること(上記(2)のへ)から、本件特例に関する一定の知識を有していたものと認められる。そして、請求人は、平成26年分の所得税等について、確定申告書に住民票の除票の写しを添付して本件特例の適用を受けていることからしても、請求人がその主張するような認識であったというのは、不自然というほかなく、請求人の上記主張は採用できない。
 したがって、請求人の上記主張は、上記ハの判断を左右せず、請求人が本件マンションに住民登録を異動した行為は、仮装行為に該当すると認められる。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索