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解説記事2020年07月06日 税制改正解説 適用判定フローチャートで理解するソフトバンク税制(2020年7月6日号・№841)

税制改正解説
適用判定フローチャートで理解するソフトバンク税制
 公認会計士・税理士 有田賢臣


 株式を買収して子会社化した法人に、買収時の利益剰余金を原資とする配当を行わせることにより、価値が下がった子会社株式を売却すると、親会社では配当が益金不算入制度により課税されない一方で、子会社株式譲渡損は損金に算入されて節税効果が生じる。
 令和2年度税制改正では、この節税スキームを封じ込める措置が導入された。ソフトバンクにより実行されたスキームであることから、当該措置は“ソフトバンク税制”とも呼ばれている(以下、ソフトバンク税制)。

Ⅰ. ソフトバンク税制の概要

 内国法人が他の法人を買収し(主に外国法人を買収した場合にソフトバンク税制の対象となる)、買収後10年以内に、他の法人から多額の配当を受ける場合には、受け取った配当のうち益金不算入とされる額を限度として、他の法人株式の帳簿価額を減算するという制度であり、法人税法施行令119条の3第7項〜13項に規定されている。他の法人株式の帳簿価額を減算することにより、配当後に他の法人株式を売却した場合に生じる株式売却損が当該減算額だけ圧縮される。

Ⅱ. 適用判定

 ソフトバンク税制が適用されるか否かについては、他の法人(配当を行う法人)の類型により図表1のように整理できる。
 次ページ図表2の適用判定フローチャートは、ソフトバンク税制における判断プロセスの一例である。各ステップに必要な知識を確認することにより、ソフトバンク税制のロジックを理解できる。

<適用判定フローチャートの説明>
1

 特定資本関係の定義は次のとおりである(法令119の3⑨二)。

・法法2条12号の7の5の読み替え規定

 一の者が法人の発行済株式若しくは剰余金の配当、利益の配当若しくは剰余金の分配に関する決議、第24条第1項各号に掲げる事由に関する決議若しくは役員の選任に関する決議に係る議決権(以下この号において「配当等議決権」という。)若しくは出資(当該法人が有する自己の株式若しくは配当等議決権又は出資を除く。以下この条において「発行済株式等」という。)の総数若しくは総額の100分の50を超える数若しくは金額の株式若しくは配当等議決権若しくは出資を直接若しくは間接に保有する関係として政令(筆者注:法令4の2①)で定める関係(以下この号において「当事者間の支配の関係」という。)又は一の者との間に当事者間の支配の関係がある法人相互の関係をいう。

 内国法人(配当を受け取った法人)における他の法人(配当を行った法人)株式の持株割合(自己株式を除いて計算)や議決権割合が50%超の場合には、内国法人と他の法人との間に特定支配関係があることになる。

・法令4の2条1項の読み替え規定

 法第二条第十二号の七の五(定義)に規定する政令で定める関係は、一の者(その者が個人である場合にはその者及びこれと前条第一項に規定する特殊の関係のある個人とし、その者が法人である場合にはその者並びにその役員及びこれと同項に規定する特殊の関係のある個人とする。)が法人の発行済株式等(同号に規定する発行済株式等をいう。以下この条において同じ。)の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式若しくは同号に規定する配当等議決権又は出資を保有する場合における当該一の者と法人との間の関係(以下この項において「直接支配関係」という。)とする。この場合において、当該一の者及びこれとの間に直接支配関係がある一若しくは二以上の法人又は当該一の者との間に直接支配関係がある一若しくは二以上の法人が他の法人の発行済株式等の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資を保有するときは、当該一の者は当該他の法人の発行済株式等の総数又は総額の百分の五十を超える数又は金額の株式又は出資を保有するものとみなす。

 図表3のような場合にも、内国法人と他の法人との間に特定支配関係があることになるので、内国法人が他の法人株式を50%を超えて有しているか否かだけで判断してはならない。

 内国法人と他の法人との間に特定支配関係があるか否かは、配当の決議日等の状況で判断する。決議日等は、図表4に掲げる区分ごとに定められている(法令119の3⑨一)。

 他の法人から受ける配当にはみなし配当も含まれる。ただし、「完全支配関係内みなし配当等の額」は除かれている(法令119の3⑦本文かっこ書)。完全支配関係がある他の内国法人からみなし配当を受けた場合、内国法人では他の内国法人株式に係る譲渡損(譲渡益)を計上する代わりに譲渡損益額相当について資本金等を減少(増加)させる。そのため、ソフトバンク税制による規制の必要はないということであろう(法法61の2⑰、法令8①二十二)。

2
 「対象配当等の額及び同一事業年度内配当等の額の合計額」が「内国法人が保有する他の法人株式の各配当基準時の直前における帳簿価額のうち最も大きいもの」の10%以下である場合、又は、「対象配当等の額及び同一事業年度内配当等の額の合計額」が2,000万円以下の場合には、ソフトバンク税制の適用はない。
 図表5のとおり、同一事業年度中に2回の配当を受けたとしよう。

 配当①を受けた時の「対象配当等の額」は1,500万円、「同一事業年度内配当等の額」は0円、「対象配当等の額及び同一事業年度内配当等の額の合計額」は1,500万円となる。「対象配当等の額及び同一事業年度内配当等の額の合計額」が2,000万円以下となるため、ソフトバンク税制の適用はない。
 配当②を受けた時の「対象配当等の額」は1,000万円、「同一事業年度内配当等の額」は1,500万円、「対象配当等の額及び同一事業年度内配当等の額の合計額」は2,500万円となる。一方、「内国法人が保有する他の法人株式の各配当基準時の直前における帳簿価額のうち最も大きいもの」は1億円となる(図表5【A】【B】を比較)。1億円×10%<2,500万円であることから、その他の適用免除要件を満たすことができなければ、ソフトバンク税制の適用を受けることになる。
 なお、配当に係る基準時の定義は図表6のとおりである(法令119の3⑨三)。

3
 具体的な取扱いは、ここでは割愛する。例えば、合併により、特定支配関係成立後10年を経過していない関係法人の利益剰余金を10年を経過している他の法人に移転し、当該他の法人から配当を受けることにより適用免除要件をクリアするといった行為を防止するための措置が設けられている(本誌830号参照)。

4
 ソフトバンク税制には、5つの適用免除要件が設けられている(図表7参照)。

 内国法人が適格合併等により、被合併法人から他の法人株式の移転を受けた場合には、「被合併法人と他の法人との間における特定支配日」についても内国法人が承継することになる(法令119の3⑩)。

5
 他の法人(配当を行った法人)が外国法人である場合、【90%要件】は満たせない。他の法人が内国法人である場合のみ、この要件を検討することになる。
 内国株主とは「普通法人(外国法人を除く。)若しくは協同組合等又は所得税法第二条第一項第三号(定義)に規定する居住者」のことであり、自己株式を除いて計算した持株割合で90%以上か否かを判定する。
 他の法人の設立時から特定支配関係日までの期間を通じて内国株主割合が90%以上であることを証する書類を内国法人が保存しておく必要がある。書類を保存していない場合には【90%要件】を満たしていることにならない。個人株主についての居住者・非居住者判定は、当然のことながら氏名だけで判断できるわけではないので、過去の株主名簿を見ただけでは判断を誤る可能性がある。
 例えば、内国法人が設立した100%内国子会社は【90%要件】を満たすためソフトバンク税制の適用はない。ただし、【90%要件】を満たした場合でも、【10%要件】【2000万円要件】【10年要件】のいずれも満たしていない場合には、別表八(三)を添付しなければならない(法令119の3⑬、法規27②)。

6
 特定支配日と「対象配当等の額を受ける日」が同一事業年度にある場合、【配当原資要件】は満たせない。
 【配当原資要件】は、図表8で判定することができる。

 上表の[3]欄の金額が[4]欄の金額以上であることを証する書類を内国法人が保存しておく必要がある。書類を保存していない場合には【配当原資要件】を満たしていることにならない。
 例えば、内国法人が設立した100%外国子会社は【配当原資要件】を満たすため([4]欄の額はゼロであり、[3]欄は分配可能額を超えて配当をしない限りマイナスにならない)ソフトバンク税制の適用はない。ただし、【配当原資要件】を満たした場合でも、【10%要件】【2000万円要件】【10年要件】のいずれも満たしていない場合には、別表八(三)を添付しなければならない(法令119の3⑬、法規27②)。

7
 5つの適用免除要件のいずれも満たせなかった場合には、ソフトバンク税制が適用され、他の法人株式の帳簿価額から一定額を減算することになる。
 厳密には、「対象配当等の額に係る基準時の直前の他の法人株式の帳簿価額」から「益金不算入相当額」を減算した金額をもって、「当該基準時の他の法人株式の帳簿価額」とする(図表9参照)。

 「益金不算入相当額」とは、対象配当等の額に係る益金不算入額だけではなく、ソフトバンク税制の適用を受けていない同一事業年度内配当等に係る益金不算入額も含めた金額である(法令119の3⑦)。
 なお、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に別表八(三)を添付し、かつ、次の書類を保存している場合には、「益金不算入相当額」のうち「特定支配後増加利益剰余金額超過額」に達するまでの金額を他の法人株式の帳簿価額から減算する金額とすることができる(法令119の3⑧、法規27①)(図表10参照)。

Ⅲ. 減算額の計算例に基づく別表八(三)の作成

 他の法人(乙社)は、内国法人(甲社)の100%子会社である。配当①は【10%要件】を満たすので適用はなかったが、配当②にはソフトウエア税制が適用されてしまったという事例だ(図表11参照)。内国法人(甲社)は、減算額の特例(法令119の3⑧)を受けるため、X3年3月期の確定申告書に別表八(三)を添付することにした(24頁参照)。

<別表八(三)の各欄に記入する内容>
対象配当等の額[4]

 配当②の金額2,900を記入する。仮に、同一事業年度中に配当③を受けていた場合には、次の列の[4]欄に配当③の金額を記入することになる。
対象配当等の額に係る基準時[5]
 他の法人(乙社)の定款に「剰余金の配当は、毎事業度末日最終の株主名簿に記載された株主または登録株式質権者に対して支払う」と定められていると仮定し、X2年4月1日と記入した。
同一事業年度内配当等の額の合計額[6]
 同一事業年度中に配当②より前に受けた配当はないため0を記入する。仮に、同一事業年度中に配当③を受けていた場合には、次の列の[6]欄に配当②2,900の金額を記入することになる。
(4)及び(6)に係る各基準時の直前において有する他の法人株式又は出資の帳簿価額のうち最も大きいもの[9]
 基準時②の直前における乙株式の帳簿価額10,000を記入する。
他の法人の株式又は出資の基準時の直前における帳簿価額から減算される金額[13]
 この欄に入力する金額がソフトバンク税制の適用により減算する額である。[25]欄の金額を移記する。
支配後配当等の額の合計額[14]
 「支配後配当等の額」とは、特定支配日から当該対象配当等の額を受ける時までの間に他の法人の株主等(内国法人を含む全ての株主)が当該他の法人から受ける配当等の額で、当該配当等の額に係る基準時が特定支配日以後であるものとされている(法令119の3⑧本文かっこ書)。他の法人(乙社)は100%子会社であることから、配当①500と配当②2,900を合わせた3,400を入力すれば足りるが、本来、内国法人の金額を入力する欄ではない。仮に乙社が80%子会社だとすると、他の法人が行った基準時①に係る配当等の額625と基準時②に係る配当等の額3,625を合わせた4,250(3,400÷80%で検算可能)を入力することになる。
 別表八(三)には内国法人の金額を入力する欄と、他の法人の金額を入力する欄があることを意識すると良い。

(14)のうち支払を受ける配当等の額の合計額[15]
 支配後配当等の額の合計額(=他の法人が配当してきた額)のうち、内国法人が受けた配当等の額を入力する。
他の法人の対象配当等の額に係る決議日等前に最後に終了した事業年度の貸借対照表に計上されている利益剰余金の額[16]
 計算例の図に示すとおり、決議日等②前に係る最後事業年度(X2年3月期)の貸借対照表の利益剰余金の額4,000を入力する。
特定支配日から対象配当等の額に係る決議日等の属する他の法人の事業年度開始の日の前日までの間に当該他の法人の株主等が受けた配当等の額に対応して減少した当該他の法人の利益剰余金の額の合計額[17]
 特定支配日から×2年3月31日までに、配当を行ったことにより減少した他の法人の利益剰余金の額500を入力する。
他の法人の特定支配日前に最後に終了した事業年度の貸借対照表に計上されている利益剰余金の額(・・・)[18]
 計算例の図に示すとおり、特定支配日前に係る最後事業年度(X1年3月期)の貸借対照表の利益剰余金の額3,500を入力する。
 なお、X1年4月1日以後に他の法人が行った配当等の額で、当該配当等の額に係る基準時が当該特定支配日であるものがある場合には、当該配当を行ったことにより減少した他の法人の利益剰余金の額を減算する必要がある(法令119の3⑧三、同⑦二ハ)。
対象配当等の額を受ける前に他の法人から受けた配当等の額のうち令第119条の3第7項の規定の適用に係る金額[22]
 配当②を受ける前に他の法人から受けた配当①については、ソフトバンク税制の適用を受けていないことから0を入力する。
(24)のうち益金不算入規定により益金の額に算入されない金額[25]
 この別表の中で一番重要な金額を入力する欄であるものの、算定ロジックが示されていない。入力すべき金額を自分で判断する必要がある。
 他の法人(乙社)が内国法人(甲社)の100%内国子会社である場合には、[4]欄の額[7]欄の額に係る益金不算入額は2,900となる。[24]欄の額2,400を当該益金不算入額が上回るので、この欄に入力する金額は2,400となる。
 他の法人(乙社)が内国法人(甲社)の100%外国子会社である場合には、[4]欄の額[7]欄の額に係る益金不算入額は2,755(2,900×95%)となる。[24]欄の額2,400を当該益金不算入額が上回るので、この欄に入力する金額は2,400となる。

Ⅳ. 内国法人(甲社)の税務処理と別表五(一)の調整

 先程の計算例のX3年3月期に係る税務処理は次のとおりとなる。

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