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解説記事2020年10月05日 ニュース特集 監査基準が改訂、「その他の記載内容」を明確化(2020年10月5日号・№852)

ニュース特集
監査部会、2022年3月決算から実施
監査基準が改訂、「その他の記載内容」を明確化


 企業会計審議会監査部会(部会長:八田進二青山学院大学名誉教授)が9月29日に開催され、監査基準等の改訂に合意した。字句修正等を行った後、企業会計審議会の総会で正式決定する。今回の改訂は「その他の記載内容」について、監査人の手続を明確化するとともに、監査報告書に必要な記載を求める。2022年3月決算に係る財務諸表監査から実施する(2021年3月決算からの実施も可)。また、国際的な監査基準との整合性を図るため、リスク・アプローチの強化を図る。2023年3月決算に係る財務諸表監査から実施する(それ以前の決算からの実施も可)。本特集では、改訂監査基準等の概要とともに、公開草案に寄せられたコメントに対する金融庁の考え方についてQ&A形式で解説する。

従来と同様、「その他の記載内容」に対して意見を表明するものにあらず

 企業会計審議会監査部会は9月29日、4月21日まで意見募集を行っていた「監査基準の改訂について(公開草案)」及び「中間監査基準の改訂について(公開草案)」(本誌811号参照)に対して寄せられたコメントについて検討し、一部修正を行った上でその内容について合意した。今回の改訂では、「その他の記載内容」の明確化とリスク・アプローチの強化の2つの大きな見直しがある。
国際監査基準720の改訂を踏まえた見直し
 現行の監査基準上、財務諸表の表示と「その他の記載内容」(監査した財務諸表を含む開示書類における財務諸表及び監査報告書以外の記載内容)との重要な相違は監査報告書の追記情報の1つとされているが、国際監査基準720では、財務諸表の表示に加え監査人が監査の過程で得た知識と「その他の記載内容」との間に重要な相違があるか検討を行い、監査報告書に独立した区分を設けてその結果を記載する旨の改訂が行われている。このため、日本においても国際監査基準720を踏まえ、監査基準等を改訂することとしたものである。
新たな監査証拠の入手は求めず
 具体的にみてみると、「その他の記載内容」の対象となる開示書類は金融商品取引法上の有価証券報告書及び有価証券届出書のほか、会社法の事業報告となる。また、監査人の手続に関しては、監査人は「その他の記載内容」を通読し、「その他の記載内容」と「財務諸表」又は「監査人が監査の過程で得た知識」との間に重要な相違があるか否かについて検討することになる。この「監査人が監査の過程で得た知識」には、監査において入手した監査証拠及び監査における検討結果が含まれるが、「その他の記載内容」の通読及び検討に当たって、新たな監査証拠の入手が求められるものではないとしている。なお、監査人は財務諸表や監査の過程で得た知識に関連しない内容についても、重要な誤りの兆候に注意を払うこととしている。
重要な誤りが解消されない場合に記載
 監査人が重要な相違や、財務諸表や監査の過程で得た知識に関連しない「その他の記載内容」についての重要な誤りに気付いた場合には、経営者及び監査役等と協議を行うなど、追加の手続を実施することが求められる。手続を実施しても重要な誤りが解消されない場合には、監査報告書にその旨及びその内容を記載することになる。
 この点、監査報告書における「その他の記載内容」に係る記載の位置付けは、従来と同様、監査人は「その他の記載内容」に対して意見を表明するものではないとしている。監査報告書における「その他の記載内容」に係る記載は、監査意見とは明確に区別された情報の提供であるという位置付けは維持しつつ、記載すべき事項を明確にすることにより、監査人の役割を明確化している。
独立区分して記載
 「その他の記載内容」には、「監査上の主要な検討事項」や「追記情報」と同様に、監査意見とは別に独立した区分を設けた上で、①「その他の記載内容」の範囲、②「その他の記載内容」に対する経営者及び監査役等の責任、③「その他の記載内容」に対して監査人は意見を表明するものではない旨、④「その他の記載内容」に対する監査人の責任、⑤「その他の記載内容」について監査人が報告すべき事項の有無、報告すべき事項がある場合はその内容−−を記載することになる。なお、監査意見を表明しない場合は、「その他の記載内容」については記載しない。
 2022年3月決算に係る財務諸表監査から実施することとされている(2021年3月決算からの実施も可)。

財務諸表項目レベルでは固有リスクと統制リスクに分けて評価

 リスク・アプローチの強化も行われる。昨今では、公認会計士・監査審査会の検査結果において、重要な虚偽表示のリスクの評価手続が適切に実施されていないとの指摘や、会計上の見積りに関して、経営者の使用した仮定の合理性の検討が不十分であるなどの指摘がなされている。このため、今回の改訂では、財務諸表全体レベルにおいて固有リスク及び統制リスクを結合した重要な虚偽表示のリスクを評価する考え方は維持しつつ、財務諸表項目レベルにおいては、固有リスクと統制リスクを分けて評価することとしている。また、特別な検討を必要とするリスクについては、固有リスクの評価を踏まえた定義としている。会計上の見積りについては、リスクに対応する監査手続として、原則として、経営者が採用した手法並びにそれに用いられた仮定及びデータを評価する手続が必要である点を明確にしている。2023年3月決算に係る財務諸表監査から実施する(それ以前の決算からの実施も可)。
 なお、今回の改訂に係る部分を除き、2002年及び2005年の改訂における「監査基準の改訂について」に記載されているリスク・アプローチの概念や考え方は従来どおりとされている。

Q&Aで読む「その他の記載内容」の留意点

 以下では、公開草案に対して寄せられたコメントに対する金融庁の考え方などをもとに、改訂監査基準等の留意点をQ&A形式で解説する。

“重要”かどうかは監査人の判断
Q

 監査人は「その他の記載内容」の通読及び検討に当たって、財務諸表や監査の過程で得た知識に関連しない内容についても、重要な誤りの兆候に注意を払うこととされているが、「重要」かどうかはどのように判断するのか。
A
 監査人の職業的専門家としての判断に委ねられる。

「重要な誤り」に公開草案から修正
Q

 財務諸表に対し意見を表明しない場合においては、「その他の記載内容」について記載しないこととされているが、公開草案では、監査人による検討・報告が求められる事項として、重要な相違についてのみ言及しているがなぜか。
A
 監査基準においては、「重要な相違」は財務諸表等と「その他の記載内容」との間の重要な相違をいい、「重要な誤り」は、「その他の記載内容」が不正確であり、利用者に適切に理解されず誤解を招くような重要な誤りのことをいう。
 監査人は、財務諸表等と関連する「その他の記載内容」に対しては、財務諸表等との間に重要な相違があるかどうかについて検討することになるが、重要な相違には、財務諸表に重要な虚偽の表示がある場合と「その他の記載内容」に重要な誤りがある場合が考えられる。監査基準では、「その他の記載内容」に重要な誤りがある場合において、監査人が経営者や監査役等との協議を行うなど追加の手続を行った結果、「その他の記載内容」の重要な誤りが解消されない場合には監査報告書に記載することを求めることとしているため、財務諸表等と関連しない「その他の記載内容」についても同様の手続を行うことになる。このため、監査報告書に記載される内容は、「その他の記載内容」についての重要な誤りであるため、「「その他の記載内容」についての重要な誤り」と公開草案を修正している(改訂監査基準二.1.(3))。

意見表明しない場合でも監査役等に指摘
Q

 意見を表明しない場合においても、監査人は経営者や監査役等に対して「重要な相違」や「重要な誤り」と考える事項について指摘すべきではないか。
A
 「その他の記載内容」についての重要な誤りについて監査報告書に記載されない場合についても、経営者や監査役等に対して指摘することが考えられる。

「重要な誤り」とする理由
Q

 監査基準委員会報告720において「虚偽記載」という表現が使用されているにもかかわらず、「重要な誤り」とする理由は何か。
A
 「重要な誤り」とは「その他の記載内容」が不正確であり、利用者に適切に理解されず誤解を招くような重要な誤りをいう(情報が欠けている場合も含む)。
 一方、「虚偽記載」という用語は、主に金融商品取引法において用いられるが、監査基準は、会社法はじめ他の法規の下での監査にも対応するべく、平成14年の監査基準の改訂以来、財務諸表の部分については「虚偽表示」という用語を用いている。「その他の記載内容」についてはこれと区別するため、「重要な誤り」という用語を用いている。

実施時期は企業と監査人との協議で
Q

 「その他の記載内容」については、2021年3月決算からの早期適用が認められているが、企業側と監査人側のいずれが判断することとしているのか。また、前倒し適用を行う際にはその旨が監査契約において明示されることが必要と考えられるがどうか。
A
 実施時期及び監査契約の内容については、企業側と監査人側の双方で協議の上、決定されるべきものと考えられる。

KAMの適用時期に合わせて早期適用を可能に
Q

 適用時期は、新型コロナウイルス感染症が収束した後、更に対応期間を十分に確保できる時期とする必要があると考えるがどうか。
A
 「その他の記載内容」に関する適用時期は、「監査上の主要な検討事項」の適用時期と合わせることが有用であり早期に適用すべきとの意見も踏まえ、2021年3月決算から早期適用を可能としている。また、リスク・アプローチの強化に関する適用時期は、適切な準備期間を勘案した結果、2023年3月決算からとしている。

監査役等の責任、監査報告書に記載
Q

 「監査役等の責任」(改訂監査基準第四、八)についての範囲を明らかにすべきであると考えるがどうか。
A
 監査役等の責任については、会社法においては明示されているものの、金融商品取引法においては明示されていない現状を踏まえ、例えば、経営者による「その他の記載内容」の報告プロセスの整備及び運用における取締役の職務の執行を監視する責任があることについて、監査報告書においても明確に記載するものと考えられる。

国際監査基準720と同じ趣旨
Q

 「監査人は意見を表明するものではない旨」(改訂監査基準第四、八)との記載のみでは、監査人はその他の記載内容に対して保証業務としてのいかなる結論も表明するものではないという趣旨が監査報告書利用者に正確に伝わらない可能性があると考えるがどうか。
A
 監査基準においては、監査人は意見を表明するとされていることから、「意見を表明するものではない」という表現としている。これは、国際監査基準(ISA)720 22(c)における趣旨と同義と考える。

上場の有無により取扱いに変更なし
Q

 国際監査基準(ISA)720では、非上場企業の監査において監査報告書日までに「その他の記載内容」を全く入手していない場合には、「その他の記載内容」区分を設けること自体求められていない。一方、監査基準(案)では、監査対象会社が上場企業か非上場企業かによって区別せず、財務諸表に対する意見を表明しない場合を除き、監査報告書には必ず「その他の記載内容」区分を設け、監査人が報告すべき事項の有無を記載することとされているがなぜか。
A
 監査基準は公認会計士監査のすべてに共通するものであるため、上場企業か否かにかかわらず、監査報告書日までに「その他の記載内容」を入手していない場合でも、「その他の記載内容」の区分を設けることは求められる。
 監査人は、経営者との協議により、予め「その他の記載内容」を入手する方法や時期を決定することが考えられる。特に非上場企業においては、監査報告書日までに「その他の記載内容」を入手できない場合もあると想定されるが、その場合は、監査報告書に入手する予定の「その他の記載内容」を記載することが考えられる。この取扱いは、上場の有無によって変わることがないものと考えられる。

「その他の記載内容」が入手できない場合
Q

 仮に監査報告書日までに「その他の記載内容」の一部又は全部が入手できず通読及び検討を完了できない場合、監査報告書に国際監査基準720が求めている記載(未入手部分があること並びに未入手部分は入手次第通読及び検討を行うこと)を行うことによって、国際監査基準720と異なる取扱いを求める意図ではないとの理解でよいか。
A
 「その他の記載内容」の通読及び検討等の手続は、入手後の「その他の記載内容」についても行われるものと考えられる。

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