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解説記事2020年10月12日 SCOPE 外国法人に対する報酬への源泉徴収義務の有無で判決(2020年10月12日号・№853)

東京地裁、人的役務提供で国内源泉所得に該当
外国法人に対する報酬への源泉徴収義務の有無で判決


 外国法人に対して業務委託契約に基づき報酬を支払う際に源泉徴収義務があるか否かが争われた事件で、東京地方裁判所(鎌野真敬裁判長)は令和2年6月19日、本件業務はシステムエンジニアの有する科学技術に関する専門的知識等を活用して電子計算プログラムを開発するためのものであるため、本件報酬は国内源泉所得(人的役務提供事業対価)に該当するとの判断を示し、被告に対して原告が納付した源泉所得税等相当額の支払いを命じた。

外国法人が国内で行う事業は人的役務提供の契約ごとに判断

 本件は、原告(コンピュータ・システムの開発・販売等を目的とする会社)が被告(ニューヨーク州に本店を置く外国法人であり、東京都千代田区内に支店あり)に対して業務委託契約に基づく報酬を支払ったところ、税務署から報酬の支払いの際に源泉徴収義務があったとの指摘を受け、源泉所得税等約246万円を納付したため、原告が被告の会社に対し、源泉所得税等相当額の支払いを求めた事件である。被告は、会社の事業は情報システムの設計、施工、販売、設備工事、保守管理及びサービス業務であるため、ノウハウの提供業務であり人的役務の提供業務には当たらないなどと主張した(参照)。

【表】争点と当事者の主な主張

被告 原告(原告補助参加人:国)
プログラムの開発業務支援が所得税法161条1項6号に該当するか否か
 被告の事業は、情報システムの設計、施工、販売、設備工事、保守管理及びサービス業務であるところ、これはノウハウの提供業務であって、人的役務の提供業務には当たらない。  本件契約は原告と被告の日本における代表者との間で締結され、本件業務は、被告の東京支店が原告の本社の事務所にシステムエンジニアを派遣して常駐させるなどして行われたものであるから、国内において行われたものである。また、本件業務は、専門的知識等を有するシステムエンジニアの知識等を活用してソフトウエアの開発のための業務支援を内容とするものであり、本件業務に係る対価である報酬は、所得税法161条1項6号に規定する国内源泉所得(人的役務提供事業対価)に該当する。
日米租税条約7条1項の適用による原告の源泉徴収義務への影響の有無について
 日米租税条約の締約国(米国)の企業である被告が、他方の締約国(日本)における恒久的施設(被告の東京支店)を通じ、他方の締約国の国内において事業を行って報酬を得たことからすると、日米租税条約7条1項により本件報酬は被告の事業所得に分類される。  所得税法上の人的役務提供事業対価は、日米租税条約7条にいう「企業の利得」に含まれ、同条は、外国法人の恒久的施設に帰属するものと認められるものについては、当該施設の所在地国に課税権を認める旨を規定するから、被告の恒久的施設である被告の東京支店に帰属すると認められる本件報酬は、日米租税条約上も日本に課税権が存することになる。

 東京地裁は、ある外国法人が国内において行う事業が「人的役務の提供を主たる内容とする事業」に該当するか否かは、国内における人的役務の提供に関する契約ごとに、当該契約に基づく人的役務の提供が所得税法施行令282条(人的役務の提供を主たる内容とする事業の範囲)各号に掲げる事業に該当するか否かによって判定すべきとした。
 その上で本件については、①本件業務は、電子計算プログラムの開発支援業務として、日本における恒久的施設である被告の東京支店が被告の業務従事者であるシステムエンジニアを、原告の本社の事務所に派遣して常駐させるなどして業務を行うこと等を内容とするものであったこと、②本件業務の対価は、被告の業務従事者ごとの単価に1月当たりの「工数」を乗じて算出されたこと、③原告は被告に対し、被告の東京支店が本件業務を行った対価として、本件報酬を支払ったものであることの各事実が認められるとした。
 したがって、東京地裁は、本件業務はシステムエンジニアの有する科学技術に関する専門的知識等を活用して電子計算プログラムを開発するための業務支援を内容とするものであって、当該システムエンジニアを原告の事務所に常駐させるなどして当該知識を活用して行う役務を提供することをその主たる内容に含むものというべきであるから、所得税法施行令282条3号にいう「科学技術、経営管理その他の分野に関する専門的知識又は特別の技能を有する者の当該知識又は技能を活用して行う役務の提供を主たる内容とする事業」及び所得税法161条1項6号にいう「国内において人的役務の提供を主たる内容とする事業で政令で定めるもの」にそれぞれ該当し、本件報酬は国内源泉所得(人的役務提供事業対価)に該当するとの判断を示した。
 また、日米租税条約7条との関係については、本件報酬は一方の締約国(米国)の企業である被告が他方の締約国(日本)内にある恒久的施設である被告の東京支店を通じて、当該他方の締約国内において事業を行う場合で、当該企業(被告)の利得のうち当該恒久的施設(被告の東京支店)に帰せられる部分に該当すると指摘。東京地裁は、日米租税条約7条1項第2文の適用により、日本において租税を課することができると解するのが相当との判断を示している。

源泉徴収の有無は当事者間の合意にあらず
 本件については、業務委託契約に係る契約書に原告が源泉徴収義務を負う旨の記載がなかったことから、原告が被告に対して源泉所得税等相当額の支払いを求めることが信義則に反するかも争点となっていた。
 この点について東京地裁は、報酬を源泉徴収するか否かは、契約当事者間の合意によって決せられるべきものではなく、法令の規定によって当然に決せられるべきものであるとし、原告が源泉所得税等を源泉徴収しない旨の黙示の合意があったとは認めがたいとの判断を示している。

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