企業法務2007年03月09日 風向きは変わった? 破産手続きの「迅速と適正」 執筆者:山田尚武
破産管財人の注意義務を厳しく問うた最高裁平成18年12月21日判決は衝撃的であった。この判決では、破産管財人の善管注意義務違反こそ否定されたものの、破産管財人は、質権設定者が負う担保目的物の「担保価値を維持すべき義務」を承継するとして、その義務違反を認め、質権者の破産管財人に対する不当利得返還請求権が認められた。この判決の結論および法律構成が妥当であったかどうかは議論の分かれるところであるが、実務に与えた影響、とくに破産管財業務を担当する破産管財人および破産裁判所に与えた心理的な影響は大きい。
手続きの迅速と手続きの適正を両立させることはなかなか難しい。統計資料によれば、平成元年に個人の破産を含めて年間約1万件であった破産事件が、同15年には年間約15万件にも上ったという。筆者の個人的な経験から言うと、5年ほど前は、破産事件が急増し、破産管財事件の滞留も問題となっていた。このころ破産管財人は、ある意味で、迅速に破産財団の最大化をひたすら追求していたといえるかもしれない。また、破産裁判所や破産管財人の職務遂行に関心を持ち、それをチェックしようとする債権者は、ごく一部の人を除いてはあまり見られなかった。ところが、風向きは変わった。景気回復とともに、破産事件は減少し、裁判所も破産管財人を担当する弁護士にも、一つ一つの破産管財事件を丁寧に処理する余裕が生まれてきた。折りしも、社会は異議申立て社会に急速に移行している。大企業の製品や商品に対する消費者からの欠陥クレーム問題は後を絶たない。これまで黙っていた消費者が自己の正当な権利を主張する時代になったといえる。名古屋でも財産状況報告集会において、債権者から、破産管財人に対し、破産者の財産調査に関する質問や破産財団に属する財産処分の方法・適否に関する質問も出されるようになり、その数は増えているような気がする。
破産手続きは、破産管財人が、破産財団に属すべき財産を回収して換価し、これによって形成された財産を、債権調査を踏まえた破産債権者に平等に配当する手続きである。この手続きの中心的な機関は、破産管財人であり、破産管財人を選任・監督する破産裁判所である。しかし、破産管財人による配当に直接的な利害を有するのは債権者であり、数としては、破産者の数よりは圧倒的に多く、年に15万件の破産事件があるとすれば、平均で1つの事件に10人の債権者がいるとしても、年に150万もの数の債権者が破産事件に直面していることになる。
破産手続きの適正に遂行するということは、破産管財人にとっては、債権者の目を意識することである。「債権者からみてこの処理はどのように見えるであろうか」「債権者は、破産管財人に対し何を期待するであろうか」。と同時に、債権者の側も破産手続きに対する基本的な知識や理解を持っていることが必要となる。破産管財人と債権者との間の緊張感のある関係の中で、破産手続きの適正は実現されるのだと思う。
(2007年3月執筆)
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