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厚生・労働2012年03月21日 逆境の歯科 執筆者:棚瀬慎治

 歯科医業は逆境の真っ只中にあります。
 医科では全診療科の医師を養成する医学部定員が約9,000人であるのに対して、歯学部単独での定員数は約2,500人となっていて、歯科医師の供給が過剰であることは明らかです。平成22年度の調査では、歯科医師数が初めて10万人を突破し、全国統計ではコンビニエンスストア店舗数よりも歯科医院数の方が1.6倍多くなっています(平成23年)。
 このように歯科医師が急増する一方、国の財政難から社会保障費が抑制されてきたため、歯科の保険診療についても低く設定されています。歯科医師数が平成2年から平成20年までで約3割増加したのに対し、歯科医療行為あたりの診療平均単価は約15%減少しています。一説には、現在の歯科診療報酬は発展途上国並みの水準であり、これを欧米並みの診療報酬を確保するには現在の5~10倍の料金設定が必要とのことです。一方、景気の悪化や人口減少、格差社会の拡大に伴って、家計費における優先順位の低い歯科医療費は、家計支出の面からも減少傾向にあります。
 かつて、インプラントなどの革新的な技術が開発された当時には、そういった治療を求める患者が急増し、歯科医師も羽振りが良い時代がありました。一般的にも、歯科医師といえば経済的に裕福なイメージがあったかと思います。しかし、厚生労働省の平成17年医療経済実態調査によれば、歯科医師の4人に1人は年収200万円以下となっていて、歯科医師をワーキング・プアとして取り上げる報道などもみられるようになっているのが現状です。
 歯科医師にとってさらに重大な問題として、行政機関による個別指導・監査の問題があります。ある割合を超えて高い保険診療点数を計上した歯科医療機関に対しては、行政官による指導・監査が行われ、改善がみられない場合などには保険医登録取消しなどの厳しい処分がなされます。過去には、個別指導において行政官に恫喝されるなどした歯科医師が自殺するといった事件も複数起きています。人権の擁護を使命とする弁護士としては看過できない事態であり、最近は指導現場に弁護士が帯同する例も増えてきています。
 さらに、最高裁の統計によれば、地裁に提起された民事医療訴訟を診療科別にみた場合、歯科の訴訟件数は、内科、外科、整形外科、産婦人科に次いで多く、他の泌尿器科、精神科、眼科、耳鼻咽喉科などを大きく引き離しています。臨床の歯科医師は、歯科医療過誤による訴えを相当に警戒して診療にあたらざるを得ません。
 このような歯科医師を取り巻く過酷な状況は、患者である国民の側にとっても好ましくありません。確かに、市場競争によって良質な歯科医療を提供できない歯科医師が淘汰されていくという面があることは否めませんが、歯科医師が、高い保険診療報酬を計上することにより個別指導の対象となることをおそれ、結果として保険医療よりも自費診療の割合が増えていけば、保険に頼らざるを得ない社会的弱者にしわ寄せがいきます。また、患者から医療過誤として損害賠償請求されるリスクを警戒して、歯科医師の診療行為が防衛医療・萎縮医療となってしまうといった弊害もあります。
 司法制度改革によって弁護士人口が急激に増えていることの弊害が叫ばれて久しいところですが、それ以前から、歯科医療分野では歯科医師人口増加の問題が指摘されていました。このような問題には国が正面から取り組まなければならないことは言うまでもありませんが、弁護士など法律家も様々な場面で関わっていく必要があると思います。

(2012年3月執筆)

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