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民事2011年11月02日 動きだす(?)、子どもの代理人制度 執筆者:相川裕

1 家事事件手続法の成立-子どもの福祉への配慮

 本年5月19日、家事事件手続法が成立した。
 この家事事件手続法制定の際の柱のうちの一つが「子どもの福祉への配慮」である。
 子どもが影響を受ける事件の手続きにおいて、これまでも家庭裁判所は運用上、子どもの福祉への配慮を重要視してきた。
 この「子どもの福祉への配慮」を制度化し、親同士の対立が強く、親が子どもの意向を代弁する余裕がないような場合にも子どもの意思を手続き及び判断に反映させるような仕組みが定められたので、以下に列挙してみる。

(1)一定の家事事件において未成年者である子ども自身に対し一定の場合に手続行為能力を認めたこと。

(2)子どもが手続行為を行える場合に、自ら利害関係人として参加できること及び裁判所が相当と認めるときに職権で利害関係人として参加させることができること。

(3)子どもが手続行為を行える場合、法定代理人も子どもを代理して手続きを行うことができ、さらに申立てにより又は職権によって、裁判所が弁護士を手続代理人に選任できるとしたこと。

(4)事件の結果により未成年者である子どもが影響を受ける場合には、子どもの陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の方法により、子どもの意思を把握するように努め、子どもの年齢及び発達の程度に応じて子どもの意思を考慮しなければならないとしたこと。

(5)15歳以上の子どもの陳述を聴取しなければすることができない家事審判の範囲を旧法よりも拡張したこと。

2 子どもの代理人(手続代理人)

 上記のような子どもの福祉への配慮の制度化のうち、ここでは、上記(3)の後段に記載した、子どもの代理人制度(手続代理人)についてより詳しく見てみたい。

(1)選任
子ども本人の申立てにより又は職権で、裁判長が選任する。選任の必要性が要求される(家事事件手続法23条/以下は同法の条数)。

(2)権限
子ども本人がなしうるすべての手続行為を行うことができる(24条)。

(3)報酬
裁判所が相当と認める額を定める(23条)。

(4)対象となる事件=未成年者が法定代理人によらずに自ら手続行為ができる事件
主なものを挙げる。
・子の監護に関する処分の審判事件(151条)
・特別養子縁組の離縁の審判事件(165条)
・親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判事件(168条)
・親権者の指定又は変更の審判事件(168条)
・未成年後見に関する審判事件(177条)
・児童福祉法に規定する都道府県の措置についての承認の審判事件(235条)
・子の監護に関する処分の調停事件(252条)
・養子の離縁後に親権者となるべき者の指定の調停事件(252条)
・親権者の指定又は変更の調停事件(252条)
・人事訴訟を提起することができる事項についての調停事件(252条)

3 検討課題

(1)手続代理人という限界
 事件が家裁に係属してはじめて裁判所による代理人選任の余地が生じる。さらに、裁判長によって選任の必要性が認められることが必要である。また、上述のように対象となる事件も限定されている。
 したがって、家裁係属前の段階では代理人となれないし、対象事件以外の事件でも代理人とはなりえない。(従来と同様、法定代理人から本人の代理人に選任されることはありうる。)
 今後の課題として、実体法上の子どもの代理人の制度化が改めて検討されるべきである。

(2)報酬
 手続費用は原則として各自負担だが、事情によりその他の者に負担させることができるとされている(28条)。この考え方からは、原則として子どもが負担すべきこととなる。
 しかし、子どもは特別な事情がない限り無資力と考えられる。そのような場合に例外規定である「その他の者に負担させることができる」という規定を用いることが考えられているのかもしれない。しかし、「その他の者」として真っ先に考えられる父母についていえば、子どもの代理人の選任自体に反発して負担を命じられても応じないとか、負担を命じられても資力がないといったことが考えられる。
 子どもの代理人が父母の影響を排してその役割を十分に果たすためにも、両親のいずれか一方あるいは両方に費用を負担させるというのではなく、子ども本人が負担すべき子どもの代理人への報酬の立替(及びその償還の原則的免除)を法テラスの本来事業に位置付けるなど、報酬の負担について適切な手当がなされる必要がある。

(3)子どもの意思の反映か、子どもの利益の実現か
 代理人の役割には、本人の自己決定の確保・支援と、中長期的見地からの本人の利益実現のための後見的な関与・支援の両面がありうる。また、子どもに意見表明させることと子どもの最善の利益を図ることはイコールではないと言われ、それはそのとおりであろう。
 代理人が本人の置かれている状況を十分に理解し、本人に対して適切な情報提供を行うことによって、本人自らが合理的な選択を行うことが望ましいが、そうならない場合がありうる。こうした場合、子ども本人が納得していないにもかかわらず代理人がよかれと思う方針をとるか、子どもの利益という観点から代理人は望ましくないと考える方針を本人が望むからという理由で押し進めるかといった場面に直面することになる。
 異論があろうが、筆者は、手続行為能力を有する(つまり自分でも手続行為を行える)子どもの代理人だという以上、子どもが明確に表明している意向に反する手続行為を代理人が行うことはできないと考える。そのような場面で子どもの最善の利益の観点から判断を下すのは最終的には裁判所の役割であろう。(家裁の手続が結果的に実現すべき価値は子どもの最善の利益であろうが、そのプロセスにおいて子どもの意見が尊重されること自体も重要なことだと考えられる。)

(4)弁護士が代理人となること(専門性の中身・求められる力量)
 子どもの問題については専門的な知見の必要性が大きいとされるが、その専門性の中身についての吟味も必要である。
 手続代理人として家事事件手続に関与する以上、法的問題を適切に判断することがもちろん必要である。しかし、それのみならず、子どもと信頼関係を築けること、目の前の子どもやその置かれている状況を十分に理解し、その子どもの最善の利益について判断できること、ソーシャルワークの考え方を身に付け公私の社会資源との協力やそれらの活用ができることといった力量も必要であろう。
 「司法」という分野における専門性を論じるにとどまらず、その子どもの人生や生活から権利侵害を排除し、子どもの最善の利益をどう実現するかという子どもの人権の観点からその専門性を論じることが必要である。このような観点からは、子どもの代理人は子どもの生活を支える多くの社会資源の一つであり、子どもを取り巻く多くの社会資源との協働こそが子どもの人権を実現する決め手であると言えるであろう。

(2011年10月執筆)

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