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民事2008年02月29日 後遺障害等級認定と裁判実務 訴訟上の争点と実務の視点 執筆者:高野真人

 「後遺障害」の等級認定といえば、民事実務に携わるほとんどの法曹は、「ああ、自賠責保険で認定するんだ。」と思うはずです。そして、「後遺障害等級が認定されれば、年収に労働能力喪失率を掛けて、あとはライプニッツ係数を掛けて逸失利益を算定する」ということも常識的に知っている人がほとんどでしょう。交通事故賠償に関する一般市民向け解説書でも、そのぐらいは書いてあります。そして、この「損害算定論」については数多くの書籍・論文が何十年も前から蓄積されてきています。そのため、弁護士ならば一応は交通事故の損害賠償問題ぐらいは扱えるという感想を持つ法律実務家が多いことも確かです。
 しかし、この受傷者のケガは、いったい後遺障害としてどのぐらいに評価されるのか?という点に関しては、「だいたい分かる」と言える法曹がそれほど多いとは思われません。私も、『青年弁護士』だった時代には、“本当によくわからない”と常々思ってきました。結局、「自賠責保険手続の認定は厳しすぎる」と不満を持ちながらも、「どう反論したらよいかも見当がつかない」と途方に暮れるのが実情だったといえます。結局、「自賠責保険での後遺障害認定を前提にしさえすれば、交通事故の損害算定は参考書を見ながら何とかできる。」というのが事の真相でしょう。もちろん、「何とか」と皆さんが思うほどには、簡単ではありません。最近では、「そう思っている人は、勉強が足りないからそう思うんだ。」と思っています。やや傲慢の感はありますが、まさに年の功のせいで、私自身、少しは勉強したからだろうと思います。
 ところで、後遺障害認定問題について、自分はどれだけ進歩したのだろうか?と考えたとき、”少しぐらいは・・・”と思うようになりました。だいぶ前から、自賠責保険に対する訴訟で代理人をやるようになったのですが、そこでは、かなりのケースで後遺障害認定の当否が正面から争われます。その過程で、自賠責保険での等級認定の論理を理解できましたし、その論理が必ずしも裁判官を説得できない危険性もかなり・・・あるという点も理解できました。皆さんが思うほどには、自賠責保険の後遺障害等級認定は盤石なものとばかりはいえないのです(もちろん、異議を唱えれば、簡単に結論を覆すことができるというほど安易ではありませんが)。単に医師の意見を聞いて「オウム返し」のように準備書面にその内容を記載するだけでは、勝訴できるか不安です。自分で医学情報をもとによく考え、カルテや検査記録を読んで整理し、同じく医師ではない(このごろ医師資格を持つ法曹も出てきましたので、こうは言い切れませんが)裁判官にどのように自説を説得するか工夫をしなければなりません。
 いったいどのような点を指摘すれば、自分の主張を採用してもらえるのだろうか。それを知るには、裁判例の中でどのような点が注目を浴びているのかを眺めるのが手っ取り早いでしょう。そのような発想で、裁判例を調査・分析してみたのがこの本「後遺障害認定と裁判実務-訴訟上の争点と実務の視点-」です。もちろん、最低限の医学知識や、自賠責保険の後遺障害認定の考え方(障害認定基準)を理解する必要がありますので、その点の情報も盛り込みました。後遺障害認定分野では、医療過誤訴訟と同様に、医療分野の知識が必須といえます。
 ところで、医療過誤訴訟を取り扱える法曹は専門分野の技能を持つ人だと評価されます。それでは、自賠責後遺障害認定問題がよく分かるとどうでしょうか。『マニアック』な人だと思われるのではないか、と不安を感じている昨今です。本書を多くの方にお読みいただき、多くの方に後遺障害認定問題に興味をもってもらい、『マニアック』な人ではなく、「専門分野」の弁護士に出世したいものだというのが、素直な気持ちといったところでしょうか。

(2008年2月執筆)

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