民事2025年08月22日 戦犯裁判日本人４百人動員　通訳や記録係、弁護士　横浜ＢＣ級、米軍報告書 提供：共同通信社

　太平洋戦争後、旧日本軍将兵らを捕虜虐待などのＢＣ級戦犯として裁いた横浜裁判（１９４５～４９年）の運営に、日本人４００人以上が動員されたことを示す米軍報告書が２１日までに見つかった。米側を含め千人超の名簿が存在し、日本人は通訳、記録係などスタッフ約２００人や、弁護士約２４０人が記載されていた。専門家によると、裁判運営に関与した日本人の全体像が明らかになるのは初めて。
　横浜市に司令部を置き日本占領の主力となった米第８軍の法務部が４９年、１００ページ超の報告書を作成した。国立国会図書館が所蔵する米公文書の複写を共同通信が入手し、広島市立大広島平和研究所の永井均（ながい・ひとし）教授（日本近現代史）に分析を依頼した。
　横浜裁判は３００件超の事案を審理した。被告以外の全体的な名簿や弁護体制を示す基礎データは見つかっておらず、裁判の全容解明へ貴重な資料となりそうだ。
　名簿はアルファベットで書かれ、日本国籍についても明記されていた。「ウスイ・アキコ」「タナカ・ヨシト」などと読み取れる。第８軍の部署別にまとめられ、日本人は「管理」５５人、「通訳」「弁護」スタッフ各約４０人、「速記」「記録」各約２０人。このほか「総務」「法務」「人事」が数人ずつだった。
　日本人弁護士の氏名は法務省資料などにもあるが、米軍の１次資料に当たる今回の報告書で裏付けられた。
　米側には日系人も相当数在籍し、運営を支えた。弁護士に「ウチヤマ・ミキオ」、弁護の証拠収集に当たる調査官に「マツイ・タカシ」といった氏名が確認された。
　裁判官は約２６０人で米国人が大半を占め、英国、カナダ、ニュージーランド、オランダ、中国籍の計十数人を含む。米国の弁護人は５５人。通訳などの米国スタッフは５００人を超えた。検察官は連合国軍総司令部（ＧＨＱ）所属で、審理加速のため４８年９月に約３０人が第８軍に異動した。

　横浜裁判の米軍報告書ポイントは次の通り。
　一、１９４９年、米第８軍の法務部が１００ページ超の報告書を作成。
　一、裁判運営に関与した千人超の名簿が存在。日本人は通訳などスタッフ約２００人、弁護士約２４０人で、全体像が初めて明らかに。氏名はアルファベットで記載。
　一、裁判官は約２６０人で、米国人が大半。英国、中国籍など計十数人を含む。
　一、米側の弁護人は５５人、スタッフは５００人超。日系人も相当数在籍した。

　広島市立大広島平和研究所の永井均（ながい・ひとし）教授（日本近現代史）の話　米軍の報告書は横浜裁判の全体像を示し、大変貴重だ。人事を含む内部情報や統計資料が盛り込まれ、日本人スタッフらの氏名や配置の実態が判明した。担当部署の拡大や再編のプロセスが記され、手探りで対応した経緯がうかがえる。これまでの資料の水準を上回り、裁判を多角的に検証する上で基礎となる資料だ。
　報告書は一部が未完成だが、付属文書もあり、裁判のほぼ全体をカバーしていると言ってよい。
　米軍当局が将来の裁判批判を回避し、裁判後の日米関係への影響も考慮して、日本国民にも受け入れられる裁判を目指そうとした点も注目される。日本人を大量に動員して弁護体制を充実させ、「公正な裁判」を追求した背景には、こうした政治的配慮があったとみられる。

　太平洋戦争後に国内外で約５７００人が起訴され、９００人以上が死刑となったＢＣ級戦犯裁判のうち、国内で唯一開かれた軍事裁判。主体は米軍。横浜地裁で１９４５年１２月～４９年１０月、１０３９人を起訴、１２３人が死刑判決を受けた。半数以上が減刑、５１人が処刑された。米兵捕虜が九州帝大（現九州大）で「実験手術」を受け殺害された「九大生体解剖事件」は、遠藤周作の小説「海と毒薬」の題材となった。横浜裁判を扱ったドラマに「私は貝になりたい」がある。

　太平洋戦争後、捕虜虐待や市民への非人道的行為などの「通例の戦争犯罪」「人道に対する罪」に問われた戦争犯罪人。連合国は極東国際軍事裁判（東京裁判）で、東条英機元首相ら指導者を「平和に対する罪」などでＡ級戦犯として裁いた。一方、各国の法廷で旧日本軍の将兵や軍属らをＢＣ級戦犯として追及した。米軍は横浜やフィリピン・マニラなどで開廷。勝者の裁きだったとの指摘があるが、無罪判決や減刑もあり、裁判なしの報復処刑を防いだとの見方もある。

（2025/08/22）

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