運輸・交通2026年03月05日 「バス離れ」深刻に、28道県は30年で乗客半減「産業の崩壊に直面」 運転手足りず廃止や減便も、現場が苦しむ理由は… 提供:共同通信社

バスの路線廃止や減便が止まらない。近年の運転手不足も相まって、長らく「地域の足」として親しまれてきたバスが姿を消しつつある。移動のための公共インフラが揺らいでいる状況だ。背景にあるのは乗客の急激な減少だ。一般的には路線バスとも呼ばれる乗り合いバスについて、共同通信が47都道府県ごとの乗客数を30年間で比較すると、28道県で50%以上減っていた。働く人たちは「苦しさを分かってほしい」と訴える。(共同通信=船木敬太)
カスタマーハラスメントに泣き寝入り
「利用客に厳しく言えず、カスタマーハラスメントに泣き寝入りすることがある。運賃収受の際にお金を投げつけられたり、運行に支障が出るような話も聞く」
バス事業者の労働組合でつくる私鉄バス専業組合連絡協議会の舟山明久事務局長は、厳しい職場環境から運転手の離職が相次ぐ現実を明かす。
協議会は昨年、加入している154組合を対象に、廃止・減便の現状や運転手不足についてアンケートを実施した。「直面しているバス産業の崩壊をどう立て直すべきか」。そんな思いから、初めて取り組んだという。
144組合から回答が寄せられ、「直近1年間で路線バスの廃止や減便があったか」との問いに、144組合のうち97組合が「あった」と答えた。「運転手の要員は足りているか」との質問には、9割超の133組合が「不足している」を選んだ。
「離職にはストレスも大きく影響している。乗客だけではなく、道路を利用する全ての人に考えていただきたい」と舟山さんは指摘する。アンケートには、待遇改善を求める意見のほか「乗客の降車時にバスの横をすり抜けてくる」などと、自転車やキックボードのマナーに悩む声もあった。
秋田のバス乗客はマイナス75・5%
交通政策白書によると、全国の事業者が廃止した路線は2019年度以降は毎年計1500キロ前後だったが、2023年度には2496キロと大きく悪化した。事業者の7割は赤字だった。運転手不足も深刻で、地域公共交通総合研究所(岡山市)が昨年6月に行った調査では、92事業者のうち7割が「(現状の人的体制で路線維持は)困難」とした。
運転手不足に加え、そもそも乗客が減少し続けていることがバス事業者の経営体力を奪っている。47都道府県の過去30年間の利用実態を分析すると、深刻な「バス離れ」とも言える状況が浮かぶ。
全国の人口規模が1・4%減だった1995年度と2024年度で国の自動車輸送統計を比較すると、都道府県別では秋田の落ち込み方が最も大きく、75・5%減った。続いて、高知、福島、鳥取、徳島、宮崎の順で落ち込みが大きく、7割程度のマイナスだった。50%以上減ったのは28道県に及んだ。
47都道府県で増加したのは0・1%伸びた埼玉に限られた。減少率が2割以下にとどまったのは千葉、東京、神奈川と首都圏の都県だけだった。全国では年間乗客数が約58億人から約38億人へと33・9%減った。
路線バス撤退後、補完できない場所も
乗客はなぜ減ったのか。専門家が要因として挙げるのは地方での「人口減」と「車社会化」の二つだ。路線バスに詳しい名古屋大大学院の加藤博和教授は「少子化に伴う通学需要の減少や、女性の運転免許取得が進んだ。ベッドタウンの高齢化に伴い、駅までバスを使っていた人が退職して利用しなくなったようなケースもある」と指摘する。
人口の増減を見ると、2024年度は1995年度と比べて、秋田、高知、福島、鳥取、徳島、宮崎の6県は多くても26%ほどの減少だった。一方、全国の乗用車の保有台数は、1995年の4296万台から2024年は6198万台に増えている。マイカー拡大もあり、人口減少の度合いよりバス利用の落ち込みが激しかったと言える。
バスが消えていく地域では、代わりの交通手段として、自治体が運営するコミュニティーバスや、相乗りタクシーが広がっている。一般ドライバーが自家用車を使って有料で客を運ぶライドシェアで補う取り組みも見られる。ただ、コミュニティーバスやタクシーでも運転手が不足しており、ライドシェアは安全性に不安の声がある。
私鉄バス専業組合連絡協議会の舟山事務局長は「利用者が減って、大きな路線バスが運行できなくなった地域で、より小型のコミュニティーバスや、予約して相乗りするバスを運行してうまくいっているケースはある」と説明する。その一方で「そこまで利用したい人が減っていないのに路線バスが廃止・減便してしまい、ほかの交通手段では補完できずに不便になってしまう地域も少なくない」と危機感を示す。
採用アップ、会社負担で食事会サービスも
流通経済大の板谷和也教授は、路線バスの廃止・減便は地域の経済や生活にも大きな影響を及ぼすとして、「病院や商業施設などに通える環境を保つには、ある程度の人数が乗れるバスが必要。手をこまねいては地域は崩壊してしまう」と指摘する。
運転手不足や利用客減少の苦境を乗り越えようと自助努力で工夫する事業者もある。両備グループ(岡山市)は2023年から、バスやタクシー、トラックの運転手の採用活動に年間200人の目標を掲げて取り組んだ。両備バスの運転手の年収を2023~2025年で約60万円引き上げたほか「宇宙一本気(マジ)」と銘打ってコミカルで印象に残るテレビCMや動画サイトでアピール。昨年11月までに約380人の採用に至った。
嘉悦登広報部長は「例えば、家族がバス運転手就職に不安を持っていた際に、乗務初日に会社負担で食事会に招待し、門出を祝ったこともあった。きめ細やかな対応で採用を増やしている」と話す。
「地域の足」どう守るか話し合いを
佐賀市営バスは中高生向けの乗り放題パスが好評で、中長期的な乗客数増加に貢献している。中高生限定で2018年に導入した、1カ月4千円で全区間乗り放題の「ノリのりワイド」が人気を集める。
総務省の公営企業の統計によると、佐賀市営バスは2013年度から2023年度にかけ、年間乗客数が32%増えた。乗客が年間10万人以上の公営18団体で比較すると、トップの伸び率だ。佐賀市交通局の小林知季副局長は「学生時代からバスに乗る習慣がつき、全体的な利用者増につながっている。平たんな土地が広がる市内は自転車利用が多いが、バス通学も増えており、大学進学や就職後も引き続き利用してくれているとみている」と手応えを語る。
名古屋大大学院の加藤教授は「乗客が減れば、路線の維持が難しくなる。学生や、運転免許を返納した高齢者がバスに乗りたくても乗れないような事態になってしまう」と危ぶむ。「利用者が使いやすいような運行方法見直しのほか、公共交通がなくならないように利用者、行政、事業者が各地域で真剣に話し合わなければいけない」と訴えている。
(2026/03/05)
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