一般2026年05月28日 国家情報会議法が成立 スパイ防止へ司令塔強化 立民反対、5野党賛成 市民監視、人権侵害懸念 提供:共同通信社

インテリジェンス(情報活動)の司令塔機能強化を目指す「国家情報会議」創設法は27日の参院本会議で可決、成立した。自民党と日本維新の会に加え、国民民主、公明など5野党が賛成、立憲民主党は反対した。市民への監視強化や、プライバシー侵害などの懸念は残っており、運用が課題となる。政府は7月にも同会議と事務局の「国家情報局」を設置。スパイ防止法制定や、海外での情報収集を担う対外情報機関の創設に向けて検討を加速する方針だ。
高市早苗首相はインテリジェンスの機能強化を政権の重要政策に位置付けており、国家情報会議法成立が第1弾となる。夏にはスパイ防止法などに関する有識者会議を設け、来年の通常国会での法案提出を視野に作業を進める。
衆院では中道改革連合が賛成しており、立民と対応が分かれた。野党では参政党、日本保守党、チームみらいが賛成した。共産党、れいわ新選組、社民党は反対した。
首相は官邸で記者団に「情報力を高めることで困難な課題に的確に対応する。国民の安全、安心と国益を守る」と意義を強調。プライバシー侵害への懸念に対し「リスクを高めるようなものではないと丁寧に説明してきた」と語った。スパイ防止法制定や対外情報機関創設について「一つ一つ丁寧かつ着実に検討を進める」と述べた。
立民の鬼木誠氏は27日の参院本会議で「インテリジェンス機関を制御できず、暴走を許せば、国民の人権を著しく不当に侵害しかねない」と批判。国会や第三者機関によるチェック機能を設ける必要性を訴えた。
国家情報会議は首相を議長とし、官房長官ら9閣僚で構成する。安全保障上の重要情報活動や、外国のスパイ活動に対処する。国家情報局には各省庁に情報提供を要求できる総合調整権を与え、トップには国家安全保障局長と同格の「国家情報局長」が就く。
法案審議では、衆参両院内閣委員会が個人情報保護への配慮などを求める付帯決議を採択した。法的拘束力はない。
人権保護へチェック機能を 国家情報会議法成立
【解説】「国家情報会議」創設法が成立した。国会審議で、インテリジェンス(情報活動)機能強化の必要性には与野党の一定の理解を得られたものの、焦点だったプライバシー侵害への懸念を政府が払拭できたとは言い難い。国会や第三者機関が情報機関をチェックする監視規定も新法に盛り込まれなかった。過度な情報活動から基本的人権を守る民主的統制の枠組み構築が急務だ。
情報会議の事務局として「国家情報局」が設置される。政府は新法で実現されるのは組織改編に過ぎず、国民の権利・義務に影響は及ばないとして、野党が求めた国会監視を受け入れなかった。
米国家安全保障局(NSA)が一般人も対象に秘密の情報収集を行っていたと2013年に暴露されたのを契機に、欧米各国では10年代半ば以降、議会などによる民主的統制のシステム整備が進んだ。第三者のチェックを受けない情報機関には暴走のリスクが付きまとう。日本の取り組みは立ち遅れていると指摘せざるを得ない。
高市政権は今後、スパイ防止法制定や対外情報機関創設も視野に入れる。情報活動強化に当たっては、特定秘密保護法の運用を監視する国会の「情報監視審査会」の活用も含め、当局の権限乱用を防ぐ民主的統制の在り方の検討が求められる。
国家情報会議創設法のポイントは次の通り。
一、内閣にインテリジェンス(情報活動)の司令塔機能強化に向けた「国家情報会議」を創設。
一、首相を議長とし、官房長官、法相、外相、財務相ら9閣僚で構成。
一、安全保障上の重要情報活動や外国のスパイ活動に対処。
一、事務局の「国家情報局」を内閣官房に新設。トップには国家安全保障局長と同格の「国家情報局長」が就任。
一、国家情報局には、各省庁に情報提供を要求できる総合調整権を付与。
情報活動機能を強化―与党 国民の自由抑制懸念―中道
与党は27日、「国家情報会議」創設法の成立について「インテリジェンス(情報活動)機能を強化するスタートになる」(日本維新の会の藤田文武共同代表)と歓迎した。一方、中道改革連合の小川淳也代表は、東京都内で記者団に「国民の自由や人権を過剰に抑制しないよう慎重な運用を求めたい」と述べ、注文を付けた。
同法の採決を巡っては、中道が衆院で賛成する一方、参院では立憲民主党は反対、公明党は賛成した。小川氏は「常に足並みがそろう方が望ましいが、幅広い意見を持った3党だ。やむを得ない。今後もあり得ることだと思う」と語った。
立民の田名部匡代幹事長は記者会見で「国民の権利や利益を不当に制約する懸念が払拭されなかった」と党の立場を説明。公明の谷合正明中央幹事会長は「政調レベルでは緊密に連携し、大方の法案で一致した見解を生み出している」と述べ、3党合流に大きな影響はないとの認識を示した。
国民民主党の古川元久国対委員長は会見で「大事なのは中身だ」と指摘し、国家情報会議が効果的に機能するかどうかを注視する考えを強調。参政党の神谷宗幣代表は「百点満点の法律とは到底思えないが、スパイ防止の第一歩だ」と評価した。
「監視強まる」市民不安 スパイ対策本格化に
政府のインテリジェンス(情報活動)機能強化に向けた「国家情報会議」創設法が27日の参院本会議で成立し、「スパイ対策」が本格化する見通しとなった。政府は「国民の安全や国益を守る」と意義を強調するが「市民監視が強まる」などとプライバシーや思想の自由の侵害を懸念する声も出ており、抗議活動が国会前で連日開かれるなど不安が広がっている。
市民団体が26、27両日に開いた集会では、参加者が「私の情報を勝手に見るな」「自由を奪う法律いらない」と反対の声を上げた。埼玉県狭山市のフリーター女性(35)は「本当に国民の利益になる政策なのか。交流サイト(SNS)には外国勢力の脅威をあおる情報があふれているが、私は日本政府の姿勢に怖さを感じる」と不信感を募らせた。
法案に反対する弁護士団体「自由法曹団」に所属する萩尾健太弁護士は、国の裁量であらゆる人々が監視対象になる恐れがあると指摘。「外国と取引する会社や、外国人を雇用する企業など、対象は限りない。民主主義と自由の問題だ」と訴えた。
国家情報会議は首相と閣僚で構成。事務局を担う「国家情報局」が外交や安全保障の重要情報を収集・分析し、政策判断に生かすとしている。高市早苗首相は国会審議で「憲法で保障された国民の自由や権利を尊重するのは当然」とする一方、「外国勢力の干渉を的確に把握して排除するため、国民の権利、義務との関係も検討しなければならない場面もあり得る」として国民生活に影響を及ぼす可能性に触れた。高市政権は今後、スパイ防止法制定や、海外で情報収集活動を行う機関の創設に向けた検討を加速させる方針だ。
情報統合で政策決定支援
小林良樹(こばやし・よしき)・情報セキュリティ大学院大教授(インテリジェンス)の話 国家情報局が設置されれば、これまで警察庁や公安調査庁、外務、防衛両省がばらばらに行っていたインテリジェンス(情報活動)を統合できる。外交・安全保障に関する首相らの政策決定を支援することになる。ただ、インテリジェンスの本質は真実の解明ではなく、意思決定に伴う客観的なリスク評価を政策決定者に提示することだ。優れたインテリジェンスはそれぞれの選択肢のリスクが明確になるため、意思決定をむしろ難しくする場合もある。政策決定者がこうしたリスクと向き合う覚悟が必要となる。
歴史の反省、強い歯止めを
白藤博行(しらふじ・ひろゆき)専修大名誉教授(行政法)の話 「国家情報会議」創設法が行政組織法に過ぎず、国民の権利義務に影響しないとする政府の国会答弁に疑念を抱かざるを得ない。戦前・戦中に特高警察がスパイ捜査で人権侵害を繰り返した歴史の反省から、組織法である警察法には「個人の権利と自由を保護」する目的が掲げられ、「不偏不党かつ公平中正」を旨とする「警察の責務」も明記された。一方、今回の法案には、スパイ行為の予防を目的に秘密裏に情報収集を行う国家情報局に関して、その言及がない。情報機関には本来、強い歯止めが必要だが、国会や第三者機関によるチェックもなく不十分だ。
社会分断、排外主義強める
清末愛砂(きよすえ・あいさ)・室蘭工業大大学院教授(憲法学)の話 「国家情報会議」創設法は、国や自治体が国民に対して行う行為を定めた作用法ではなく、組織法であるがゆえに、政府が制約なく情報収集を行う懸念がある。政府はこれを土台に、スパイ防止法の整備を加速させるだろう。「スパイ防止」「カウンターインテリジェンス(防諜(ぼうちょう))」に社会的なお墨付きを与え、その危険性に異議を唱える人たちに萎縮効果を生む。スパイ法制が行き過ぎれば、外国人や外国と交流がある国民に対し、疑惑の目が向けられる恐れもある。社会が分断され、さらなる排外主義につながるのではないかと危惧している。
(2026/05/28)
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