税務ニュース2003年11月24日 審判所、「取得時効」で「判決」による更正の請求を容認!(2003年11月24日号・№044) 相続開始時には賃借権を取得時効される状態と判断
審判所、「取得時効」で「判決」による更正の請求を容認!
相続開始時には賃借権を取得時効される状態と判断
国税不服審判所は、平成14年10月2日、相続により取得した財産に係る相続開始前における賃借権の取得時効の完成、賃借権の取得という事実が判決により後発的に確定した場合、当該判決は、国税通則法第23条第2項1号(以下「本件規定」)にいう「判決」に該当すると判断し、賃借権の取得という事情を、当該土地の評価上、しんしゃくすべきであるとする更正の請求を認容すべきとする一部取消裁決を行った。
事案の概要
審査請求人は、相続により取得した土地について、占有して耕作地として利用する者がいたので、土地の明渡し等を求める訴訟を提起(④)した。占有者は訴訟において、賃借権を時効取得したとして、時効の援用(⑤)を行った。訴訟は相続開始(③)前の賃借権の時効取得(②)を認め、確定(⑥)した。このため、請求人は、本件判決(⑥)によって、その申告に係る課税標準等又は、本件土地の価額について、耕作権の目的となっている農地として評価した価額に減額すべきであるとして、更正の請求を行った(⑦)が、原処分庁から認められず(更正をすべき理由がない旨の通知処分を受ける。)、異議申立て手続きを経て、審査請求を行った。
審判所の判断
(1)取得時効の権利発生時期についての「租税法上」の考え方
取得時効は、民法(162条ほか)によって規定されている。民法144条は時効の遡及効を規定するが、この規定の趣旨は、時効の私法上の効力について起算日(①)まで遡及させるところにあり、経済実態的な事実関係までも遡及的に覆すものではないと解されることから、相続による遺産の取得(③)という経済実態に対する課税場面である本件に、賃借権の時効取得の効果は遡及しないというべきである。
そうすると、本件において、賃借権の取得時効が援用(⑤)されたのは本件相続開始日(③)より後のことであるから、本件判決(⑥)によっても、本件相続開始日においては、本件各土地に賃借権の負担がなかったこととなり、異なる事実は確定していないことに帰する。
しかしながら、本件相続開始日に賃借権の取得時効が完成(②)しており、時効の援用があれば一方的に賃借権を時効取得される状態にあったという点において、事実の相違があったということができるから、このことを理由に本件規定の適用があるものと解される。
本件においては、本件判決によって、申告の基礎としたところと異なる事実が確定したといえるため、本件規定の要件を満たしていることになる。
(2)本件土地の相続税の課税価格について
審判所が職権で依頼した不動産鑑定書(以下「本件鑑定」)に合理性があると認められることから、路線価に基づく本件土地の評価額から当該評価額に係る「解決金」相当額(当該評価額に、本件鑑定にいう35%を乗じた金額)を控除した金額をもって、本件土地の時価とするのが相当であると判断する。
大阪高裁平14.7.25判決との相違点
取得時効を容認した判決と本件規定との関係について、大阪高裁平14.7.25判決(平14(行コ)第21号、判タNo.1106、97頁)は、更正すべき理由がない旨の通知処分を適法と判示した。上記の裁決事例との相違点は、次のようなものである。
大阪高裁事案は、時効の援用時には時効が完成(占有開始時から20年の経過)していたものの、相続開始時においては、時効が完成していなかった(②が③の後にくる)。高裁判決は、次のように判示している。
「本件においては、本件相続開始時(③)においては、本件土地について、占有者による時効の援用がなかったことはもちろん、時効も完成していなかったのであるから、その時点では、相続人らが本件土地につき所有権を有していたものである。」
相続開始時点における取得時効の完成の有無が、裁決と高裁判決の異なる判断の決め手になったことが窺える。
納税者救済の本件規定の趣旨に即して判断
裁決は、租税法上の取得時効の権利の発生時期について、高裁判決にいう「援用日説」を支持する一方で、本件規定が納税者救済の途を拡充させる趣旨であるとして、実質的に「時効完成日説」を採用するという「大岡裁き」を行った。仮に、全面的に「時効完成日説」を採用した場合に、相続開始時点では、事実として賃借権が存在しているという見方ができ、「請求人の単なる事実の誤認(賃借権が存在している事実の見落とし)として、本件規定の適用は受けられないのでは?」という疑問も提起できる。
納税義務が成立する時点で必ずしも権利関係が明確でない状況を認め、判決等による事実関係の確定を得て、その段階で適切な是正を図ることが妥当であるという本件規定の趣旨を全面的に打ち出した裁決として、注目すべきであろう。

相続開始時には賃借権を取得時効される状態と判断
国税不服審判所は、平成14年10月2日、相続により取得した財産に係る相続開始前における賃借権の取得時効の完成、賃借権の取得という事実が判決により後発的に確定した場合、当該判決は、国税通則法第23条第2項1号(以下「本件規定」)にいう「判決」に該当すると判断し、賃借権の取得という事情を、当該土地の評価上、しんしゃくすべきであるとする更正の請求を認容すべきとする一部取消裁決を行った。
事案の概要
審査請求人は、相続により取得した土地について、占有して耕作地として利用する者がいたので、土地の明渡し等を求める訴訟を提起(④)した。占有者は訴訟において、賃借権を時効取得したとして、時効の援用(⑤)を行った。訴訟は相続開始(③)前の賃借権の時効取得(②)を認め、確定(⑥)した。このため、請求人は、本件判決(⑥)によって、その申告に係る課税標準等又は、本件土地の価額について、耕作権の目的となっている農地として評価した価額に減額すべきであるとして、更正の請求を行った(⑦)が、原処分庁から認められず(更正をすべき理由がない旨の通知処分を受ける。)、異議申立て手続きを経て、審査請求を行った。
審判所の判断
(1)取得時効の権利発生時期についての「租税法上」の考え方
取得時効は、民法(162条ほか)によって規定されている。民法144条は時効の遡及効を規定するが、この規定の趣旨は、時効の私法上の効力について起算日(①)まで遡及させるところにあり、経済実態的な事実関係までも遡及的に覆すものではないと解されることから、相続による遺産の取得(③)という経済実態に対する課税場面である本件に、賃借権の時効取得の効果は遡及しないというべきである。
そうすると、本件において、賃借権の取得時効が援用(⑤)されたのは本件相続開始日(③)より後のことであるから、本件判決(⑥)によっても、本件相続開始日においては、本件各土地に賃借権の負担がなかったこととなり、異なる事実は確定していないことに帰する。
しかしながら、本件相続開始日に賃借権の取得時効が完成(②)しており、時効の援用があれば一方的に賃借権を時効取得される状態にあったという点において、事実の相違があったということができるから、このことを理由に本件規定の適用があるものと解される。
本件においては、本件判決によって、申告の基礎としたところと異なる事実が確定したといえるため、本件規定の要件を満たしていることになる。
(2)本件土地の相続税の課税価格について
審判所が職権で依頼した不動産鑑定書(以下「本件鑑定」)に合理性があると認められることから、路線価に基づく本件土地の評価額から当該評価額に係る「解決金」相当額(当該評価額に、本件鑑定にいう35%を乗じた金額)を控除した金額をもって、本件土地の時価とするのが相当であると判断する。
大阪高裁平14.7.25判決との相違点
取得時効を容認した判決と本件規定との関係について、大阪高裁平14.7.25判決(平14(行コ)第21号、判タNo.1106、97頁)は、更正すべき理由がない旨の通知処分を適法と判示した。上記の裁決事例との相違点は、次のようなものである。
大阪高裁事案は、時効の援用時には時効が完成(占有開始時から20年の経過)していたものの、相続開始時においては、時効が完成していなかった(②が③の後にくる)。高裁判決は、次のように判示している。
「本件においては、本件相続開始時(③)においては、本件土地について、占有者による時効の援用がなかったことはもちろん、時効も完成していなかったのであるから、その時点では、相続人らが本件土地につき所有権を有していたものである。」
相続開始時点における取得時効の完成の有無が、裁決と高裁判決の異なる判断の決め手になったことが窺える。
納税者救済の本件規定の趣旨に即して判断
裁決は、租税法上の取得時効の権利の発生時期について、高裁判決にいう「援用日説」を支持する一方で、本件規定が納税者救済の途を拡充させる趣旨であるとして、実質的に「時効完成日説」を採用するという「大岡裁き」を行った。仮に、全面的に「時効完成日説」を採用した場合に、相続開始時点では、事実として賃借権が存在しているという見方ができ、「請求人の単なる事実の誤認(賃借権が存在している事実の見落とし)として、本件規定の適用は受けられないのでは?」という疑問も提起できる。
納税義務が成立する時点で必ずしも権利関係が明確でない状況を認め、判決等による事実関係の確定を得て、その段階で適切な是正を図ることが妥当であるという本件規定の趣旨を全面的に打ち出した裁決として、注目すべきであろう。

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