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資料2003年11月18日 【主要判例】 広島地方裁判所 平成13年(行ウ)第22号 軽油引取税決定処分等取消請求

H15.11.18 広島地方裁判所 平成13年(行ウ)第22号 軽油引取税決定処分等取消請求

事件番号  :平成13年(行ウ)第22号
事件名   :軽油引取税決定処分等取消請求
裁判年月日 :H15.11.18
裁判所名  :広島地方裁判所
部     :民事第3部

判示事項の要旨:
 自動車用高濃度アルコール含有燃料「ガイアックス」(アルコール系化合物を50パーセント以上含有する)の委託販売に対してなされた軽油引取税決定処分及び不申告加算金の賦課決定処分の適法性について,①ガイアックスが地方税法700条の3第4項の「燃料炭化水素油」に当たり軽油引取税の課税対象となるか,②軽自動車,小型特殊自動車及び二輪の小型自動車が同項の「自動車」に当たり,これらの内燃機関の燃料としての販売が軽油引取税の課税対象となるかが争われ,
 1 地方税法700条の3第4項「燃料炭化水素油」に含まれる同条の3第3項の「炭化水素とその他の物との混合物」は,文言上炭化水素化合物の混合割合を問わないと解するのが自然であること,規定形態及び立法経過からも炭化水素化合物を主成分とするものに限定されるとは解されないこと,揮発油等の品質の確保等に関する法律の改正経過(ガイアックスを含めた高濃度アルコール含有燃料を同法の安全・品質規制の対象とすることを目的として,「炭化水素油」の文言の後に「(炭化水素とその他の物との混合物・・・を含む。)」との括弧書を加えた。)からしてガイアックスを含めた高濃度アルコール含有燃料も「炭化水素とその他の物との混合物」に含まれるとするのが立法者意思に沿うことからすれば,炭化水素化合物を主成分とするも
のに限定されず,炭化水素化合物をおおむね43パーセント以上含むガイアックスはこれに含まれ,軽油引取税の課税対象となる
 2 軽油引取税の目的税たる性質からすれば,軽自動車,小型特殊自動車及び二輪の小型自動車も地方税法700条の3第4項の「自動車」に含まれ,これらの内燃機関の燃料としての販売も軽油引取税の課税対象となる
 として,上記各処分を適法とし,原告の上記各処分取消請求及び広島県等に対する損害賠償請求を棄却した。


              主       文
 1 原告の請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
              事 実 及 び 理 由
第1 請求
 1 広島県廿日市県税事務所長及び被告広島県広島地域事務所長が,原告に対してした別紙「軽油引取税決定処分一覧表1」記載の各軽油引取税決定処分及び各不申告加算金の賦課決定処分を,いずれも取り消す。
 2 広島県東広島県税事務所長及び広島県東広島地域事務所長が,原告に対してした別紙「軽油引取税決定処分一覧表2」記載の各軽油引取税決定処分及び各不申告加算金の賦課決定処分を,いずれも取り消す。
 3 広島県尾道県税事務所長及び広島県尾三地域事務所長が,原告に対してした別紙「軽油引取税決定処分一覧表3」記載の各軽油引取税決定処分及び各不申告加算金の賦課決定処分を,いずれも取り消す。
 4 広島県備北地域事務所長が原告に対してした別紙「軽油引取税決定処分一覧表4」記載の各軽油引取税決定処分及び各不申告加算金の賦課決定処分を,いずれも取り消す。
 5 被告広島県は,原告に対して,3750万円及びこれに対する平成13年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 6 被告a及び被告bは,原告に対して,被告広島県と連帯して1700万円及びこれに対する平成13年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 7 被告c及び被告dは,原告に対して,被告広島県と連帯して1100万円及びこれに対する平成13年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 8 被告e 及び被告fは,原告に対して,被告広島県と連帯して350万円及びこれに対する平成13年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 9 被告gは,原告に対して,被告広島県と連帯して600万円及びこれに対する平成13年9月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   本件は,原告が「ガイアックス」という商品名の自動車用高濃度アルコール含有燃料を広島県内の給油所で委託販売したのに対し,別紙軽油引取税決定処分一覧表1ないし4記載の各軽油引取税決定処分及び各不申告加算金の賦課決定処分(以下これらを併せて「本件各処分」ともいい,各処分庁を併せて「被告処分庁ら」ともいう。)がなされたことに対して,原告が,ガイアックスは地方税法700条の3第4項の「燃料炭化水素油」ではないから軽油引取税の課税対象とはならず,しかも,本件各処分は同条項に定める「自動車」以外の内燃機関の燃料として販売した量に対しても課税した違法がある旨主張してその取消しを求め,加えて,被告広島県広島地域事務所長その他の広島県の担当職員らが本件各処分に基づき原告の売掛金債権を差し押さえたことにより原告が損害を被ったとして,被告広島県に対し国家賠償法1条に基づき損害賠償を求めるとともに,広島県広島地域事務所長の地位にあった被告aその他の広島県の担当職員らに対して民法709条に基づき損害賠償を求めた事案である。
 1 前提事実
  (1) 当事者
   ア 原告は,自動車用燃料の研究開発,製造,販売及び委託販売等の業務を行う株式会社で,平成12年7月1日から平成13年4月30日までの間,別紙「販売店一覧表」記載の各店舗で自動車用高濃度アルコール含有燃料ガイアックスを委託販売しており,地方税法700条の3第4項の「石油製品販売業者」に該当する者である。
   イ 被告処分庁ら
    (ア)被告広島県広島地域事務所長,広島県東広島地域事務所長,広島県尾三地域事務所長及び広島県備北地域事務所長は,それぞれ広島県の行政機関で,平成14年広島県条例第36号による改正前の広島県税条例6条により,平成13年4月1日から平成15年3月31日までの間,別紙「管轄機関一覧表」記載の各管轄区域における軽油引取税等に係る徴収金の賦課徴収権限を広島県知事から委任されていた者である。
      なお,別紙「管轄機関一覧表」記載のとおり,平成13年3月31日までは,広島県廿日市県税事務所長,広島県東広島県税事務所長,広島県尾道県税事務所長及び広島県三次県税事務所長へ上記権限が委任されていた。
    (イ)平成15年4月1日,広島県税条例の改正(平成14年広島県条例第36号)により,広島県の軽油引取税に係る徴収金の賦課徴収権限は,広島県知事から被告広島県広島地域事務所長に委任され,被告広島県広島地域事務所長は,従前の広島県東広島地域事務所長,広島県尾三地域事務所長及び広島県備北地域事務所長の上記権限を承継した。
   ウ 被告aは,別紙「軽油引取税決定処分一覧表1」中,被告広島県広島地域事務所長による各軽油引取税決定処分及び各不申告加算金の賦課決定処分当時,広島県広島地域事務所長の地位にあった者であり,被告bは,上記当時広島県広島地域事務所税務局廿日市支局収納管理課に所属する職員であった者である。
     被告cは,別紙「軽油引取税決定処分一覧表2」中,広島県東広島地域事務所長による各軽油引取税決定処分及び各不申告加算金の賦課決定処分当時,広島県東広島地域事務所長の地位にあった者であり,被告dは,上記当時広島県東広島地域事務所税務局収納管理課に所属する職員であった者である。
     被告eは,別紙「軽油引取税決定処分一覧表3」中,広島県尾三地域事務所長による各軽油引取税決定処分及び各不申告加算金の賦課決定処分当時,広島県尾三地域事務所長の地位にあった者であり,被告fは,上記当時広島県尾三地域事務所税務局収納管理課に所属する職員であった者である。
     被告gは,別紙「軽油引取税決定処分一覧表4」記載の各軽油引取税決定処分及び各不申告加算金の賦課決定処分当時,広島県備北地域事務所長の地位にあった者である。
  (2) 法令の規定
    地方税法700条の3第4項は,特約業者又は元売業者以外の石油製品の販売業者(以下「石油製品販売業者」という。)が,「燃料炭化水素油」を自動車の内燃機関の燃料として販売した場合に,その販売量を課税標準として,当該石油製品販売業者の事業所所在の道府県において,当該石油製品販売業者に軽油引取税を課するものとし,同条の3第3項は,同法第4章第2節の同項以下の規定における「燃料炭化水素油」の定義として,「炭化水素油(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素で,一気圧において温度15度で液状であるものを含む。以下同じ。)で軽油又は揮発油(揮発油税法第2条第1項に規定する揮発油(同法第6条において揮発油とみなされるものを含む。)をいう。以下同じ。)以外のもの(同法第16条又は第16条の2に規定する揮発油のうち灯油に該当するものを含む。)」と規定する。
  (3) ガイアックスの成分
    広島県がガイアックスの成分分析を実施した結果,ガイアックスは,42.8パーセントから46.9パーセントの炭化水素化合物を含んでいた(乙35の1ないし7)。また,新日本検定協会の分析結果によると,ガイアックスは,43.23パーセントの炭化水素化合物を含み,56.77パーセントのアルコール系化合物を含んでいた(甲5)。また,ガイアックスは軽油又は揮発油の規格には該当しない。
  (4) 課税処分
    広島県廿日市県税事務所長及び被告広島県広島地域事務所長は,別紙「軽油引取税決定処分一覧表1」記載の,広島県東広島県税事務所長及び広島県東広島地域事務所長は同一覧表2記載の,広島県尾道県税事務所長及び広島県尾三地域事務所長は同一覧表3記載の,広島県備北地域事務所長は同一覧表4記載の各軽油引取税決定処分及び各不申告加算金の賦課決定処分を,原告に対しそれぞれ行った。
  (5) 審査請求
    原告は,本件各処分について,広島県知事に対し,別紙「審査請求経過一覧表」の「審査請求申立」欄記載の日付けで各審査請求を行ったが,広島県知事は,同一覧表の「裁決」欄の日付けで上記各審査請求をいずれも棄却する旨の裁決を行った。
 2 争点及び当事者の主張
  (1) ガイアックスが地方税法700条の3第4項に定める「燃料炭化水素油」に当たるか
  (原告の主張)
   ア 文理解釈及び論理解釈
    (ア)一般に「Aとその他の物との混合物」と規定されている場合には,その文言からして,Aが主要な成分をなしていると解釈するのが自然であり,そうでない規制をする場合には,そのことを明確に規定する必要が生じるのである。例えば,有機溶剤中毒予防規則においては,「有機溶剤又は有機溶剤含有物」の定義は「有機溶剤と有機溶剤以外の物との混合物で,有機溶剤を当該混合物の重量の5パーセントを超えて含有するものをいう。」と規定されており,これは上記解釈を前提とするものというべきである。
    (イ)また,法が「炭化水素油,炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素」と並列的に規定せず,括弧書で「炭化水素とその他の物との混合物」を付加するという規定の仕方をとったこと(以下これを「本件括弧書」ともいう。)からすれば,括弧内の「炭化水素とその他の物との混合物」は「炭化水素油」とは別のものではなく,飽くまでも「炭化水素油」の概念に含まれるものと解される。
    (ウ)そして,「炭化水素油」について,地方税法上の明示の定義規定は存在しないが,同法700条の2の軽油の定義に表れている「炭化水素油」については,法文中に炭化水素化合物が主成分であると記載されていないにもかかわらず,自治省(現総務省)の通達においても,炭化水素化合物を主成分とするものであると解釈されており,被告処分庁らも同様の解釈をとっている。そうであれば,同法700条の3第3項の「炭化水素油」についても,法文中に炭化水素化合物が主成分であると記載されていないからといって,当然に炭化水素化合物を主成分としないものも対象とするものと解釈することはできない。むしろ,「炭化水素油」の文言からは,炭化水素化合物が主成分であるものを指すと解釈するのが自然である。
    (エ)そうしてみると,地方税法700条の3第3項の「炭化水素とその他の物との混合物」とは,炭化水素化合物を主成分とする(90パーセントないしは少なくとも50パーセント以上含む)ものを指すと解すべきである。
    (オ)なお,他の類似法令の規定を見ても,石油ガス税法2条1号の括弧書の石油ガスの定義としての「炭化水素とその他の物との混合物でその性状及び用途が炭化水素に類するものを含む」,揮発油税法6条の揮発油類似品の定義としての「揮発油に炭化水素油以外の物を混和して揮発油以外の物(その性状及び用途が揮発油に類する物に限る)」,租税特別措置法88条の6のみなし揮発油は,いずれも炭化水素を主成分とする(少なくとも50パーセント以上含む)ものと解されている。このことからしても,本件括弧書は,炭化水素化合物を主成分とする(少なくとも50パーセント以上含む)ものを指すと解すべきことは明らかである。
   イ 立法経過
    (ア)もともと軽油引取税が地方税法の中に創設された昭和31年改正時には,軽油に対する課税しか規定されていなかったが,軽油に灯油を混ぜて自動車燃料として使用する事例が生じたため,これに対して課税すべく,昭和33年改正により,軽油及び揮発油以外の炭化水素油が課税対象として規定された。それゆえ,炭化水素油とは,軽油に灯油を混ぜたものを意味し,「炭化水素油」の概念については地方税法上の定義規定はなく,自治庁の通達により「炭素と水素のみからなる各種の炭化水素化合物を主成分とする混合物で,常温(摂氏15度),常圧(水銀柱760ミリメートル)において油状をなしているものをいい,単一体の炭化水素化合物(ベンゾール等)・・・はこれに含まれないこと」と定義されていたものの,軽油も灯油もその成分は炭化水素であったことから,当時の課税実態としては,100パーセントが炭化水素化合物の混合物である燃料を課税対象としていた。
      ところが,昭和42年ころから「安全燃料」及び「コーレス燃料」と呼ばれる燃料が自動車の内燃機関の燃料として販売されるようになり,安全燃料は,その成分のほとんどが炭化水素であるが,炭化水素でないメタノールが5パーセント程度混入されていたこと,コーレス燃料は単一の炭化水素化合物であったことから,上記通達の定義にかんがみ,「炭化水素油」に当たるかが問題となった。
      そこで,安全燃料及びコーレス燃料に対しても全面的に課税するため,昭和45年改正により,地方税法第700条の3の「炭化水素油」の後ろに「(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素で,温度15度及び1気圧において液状のものを含む。以下同じ。)」との括弧書を加えて,「炭化水素とその他の物との混合物」として安全燃料に対して,「単一の炭化水素」としてコーレス燃料に対して軽油引取税を課税できるようにし,自動車の保有者がこれらを自動車の内燃機関の燃料として消費した場合にも課税することとしたのである。
    (イ)このように,昭和45年改正の目的は,安全燃料とコーレス燃料に対して軽油引取税を課税する点にあり,それ以外の目的や趣旨は存在していなかった。そして,安全燃料は95パーセントが,コーレス燃料はすべてが炭化水素により構成されていた燃料であり,当時,ガイアックスのように,アルコール成分の構成割合が50パーセントを超え,炭化水素化合物の構成割合が半分以下の自動車用燃料は存在せず,使用可能になると考える者もいなかったのであるから,昭和45年改正時には,炭化水素化合物が主成分でない燃料は全く想定されておらず,同改正によって付加された括弧書中の物質についても,炭化水素化合物を主成分とするものであることが前提となっていたのであり,ガイアックスのような燃料をも対象とするものであったと考えることはできない。
      このことは,上記改正時の国会審議の議事録や同改正に関する解説書の記載,及び,同改正に先立つ昭和44年5月23日に,当時の自治省府県税課長が,各都道府県税務主管課長あてに発した内かん(甲34の1,以下「5月23日付け内かん」ともいう。)において,「炭化水素化合物以外の混入量が多量である燃料に対する取扱いをも含め総合的に課税の方針を定める必要がある」とし,その結果として,同年10月6日付けの内かん(甲34の2,以下「10月6日付け内かん」ともいう。)において,炭化水素化合物が燃料全体の95パーセントを超える場合には,全体を「炭化水素油」として全量課税してよく,95パーセント以下の場合には,混和されている炭化水素化合物の量に対して課税するという基準を示し,その直後に上記改正がなされており,上記改正が同内かんの基準に従ってなされたと解されることからも裏付けられる。
   ウ 行政解釈
     仮に,昭和45年改正によって,一部でも炭化水素を含む自動車燃料について広く課税対象とすることとしたのであれば,そのような重要な変更について自治省の通達によって各都道府県に周知させるはずであるが,そのような通達は一切出されておらず,改正当時の解説書にもそのような記載は見られない。自治省は,昭和45年改正以後も,10月6日付け内かんの内容と異なる見解は一切出していないのである。
     しかも,上記改正後の昭和47年に自治省府県税課長が発した行政実例(甲23の3)においては,炭化水素化合物以外の物が混和されている炭化水素油を自動車の内燃機関の燃料として消費した場合における軽油引取税について,当該混和されている炭化水素化合物以外の物の量が少量であるときは当該炭化水素油の全量に対して課税し,それ以外であるときは当該混和されている炭化水素化合物以外の物に相当する量は課税の対象から除外するという,10月6日付け内かんと同様の判断を示しており,この行政実例は,廃止文言が付されることもなく行政実例集に掲載され続け,その効力を維持していたものである。
   エ 結論
     以上によれば,地方税法700条の3第3項に定める本件括弧書の「炭化水素とその他の物との混合物」及び同項の定義を受けた同条の3第4項の「燃料炭化水素油」は,炭化水素化合物を主成分とする(90パーセントないしは少なくとも50パーセント以上含む)ものでなければならないところ,ガイアックスはその成分の50パーセント以上をアルコール系化合物が占めており,炭化水素化合物を主成分としないからこれに当たらず,軽油引取税の課税対象にはならない。したがって,被告処分庁らの行った本件各処分は違法である。
  (被告らの主張)
   ア 文理解釈
     燃料炭化水素油の定義を定めている地方税法700条の3第3項は「炭化水素とその他の物との混合物」と規定するのみで,炭化水素化合物の構成割合について何ら規定していない。このように構成割合を定めずに「AとA以外の物との混合物」という場合,文理上,「Aが主でA以外の物が従である物質」ということまで意味していると解釈することはできない。「AとA以外の物との混合物」のうち「A以外の物」をさらに詳しく述べた場合,「BとCとDと・・・の混合物」となり,総量のうち「A以外の物」の量が多い場合も,「AとA以外の物との混合物」に含まれるものである。当該混合物におけるAの成分の比率が問題となるのであれば,当然その比率を定める必要がある。
   イ 論理解釈
    (ア)地方税法700条の2第1項1号は,軽油の定義について「温度15度において0.8017をこえ,0.8762に達するまでの比重を有する炭化水素油をいい,政令で定める規格の炭化水素油を含まないものとする。」と規定しており,「炭化水素油」に対して何ら付加ないし限定する規定はない。他方,これを受けて軽油引取税の納税義務者等を定めた同法700条の3に規定する「燃料炭化水素油」に係る「炭化水素油」には,括弧書で「炭化水素とその他の物との混合物を含む。」とその範囲を付加する規定が設けられている。
      仮に,地方税法700条の3に規定する「燃料炭化水素油」に係る「炭化水素油」に「炭化水素とその他の物との混合物を含む。」との括弧書が存在しない場合には,燃料炭化水素油は,軽油又は揮発油以外の炭化水素油をいうこととなり,何ら付加ないし限定のない「炭化水素油」は,言葉の自然な意味から,炭化水素化合物のみからなるもの又は成分のほとんどが炭化水素化合物からなり,それ以外の物が含まれるとしても微量にとどまる混合物が該当すると解される。これに括弧書で「炭化水素とその他の物との混合物を含む。」と付加することは,言葉本来の意味からは「炭化水素油」とはいえない範囲の混合物までを課税対象とするものであり,同法700条の3に規定する「炭化水素油」は同法700条の2に規定する「炭化水素油」よりも,付加された分だけ広義に解されることになる。
      したがって,「炭化水素油(炭化水素とその他の物との混合物を含む。)」の解釈として,炭化水素化合物が主成分であるものだけでなく,炭化水素化合物が主成分でない混合物も含まれると解さなければ,「炭化水素油」に「炭化水素とその他の物との混合物を含む。」との付加規定をわざわざ設けた意味がなくなる。
    (イ)また,租税法においては,「A(Bを含む。)」といった括弧書により,本来はAに含まれないものも含めるという概念の拡張がよく行われており,例えば,物品税法(昭和63年12月30日廃止)の課税物品表16化粧品類の「香水(固型,粉末及びねり状のものを含む。)」「化粧水(固型,粉末及びねり状のものを含む。)」,酒税法2条の「アルコール分1度以上の飲料(・・・溶解してアルコール分1度以上の飲料とすることができる粉末状のものを含む。)」,4条の「炭酸ガス(炭酸水を含む。)」,関税定率法の別表「関税率表」中の,「メロン(すいかを含む。)」「長方形(正方形を含む。)」というように用いられている。
    (ウ)よって,地方税法700条の3第3項にいう「炭化水素油(炭化水素とその他の物との混合物を含む。)」には,炭化水素化合物を主成分としないものも該当すると解するのが論理的である。
   ウ 立法経過
    (ア)「炭化水素油」については,昭和45年改正前は法文上何ら付加された規定がなかったところ,灯油等の炭化水素油にメタノール等のアルコールを相当量混和したものが自動車の内燃機関の燃料として市販される事例が発生した。そのため,道路目的税として自動車の内燃機関の燃料として使用される油に対して広く課税するという「炭化水素油」に対する課税の趣旨が損なわれる事態を回避するため,租税負担の回避の防止及び課税の公平の観点から,「炭化水素油」の概念の範囲を超えるものに対しても課税する必要が生じた。
      そこで自治省は,5月23日付け内かん及び10月6日付け内かんを発して,昭和45年改正前の地方税法の解釈としては,炭化水素化合物以外の物の混入率が多量である燃料に対する全量課税が困難であると判断し,応急的に,昭和45年改正前の法に規定されていない部分についての運用として,炭化水素化合物以外の物の混入率が5パーセントに満たない物については全量課税,炭化水素化合物以外の物の混入率が5パーセント以上の物については割合課税の方針を示し,その上で,炭化水素化合物以外の物の混入が多量である燃料に対する全量課税を可能にするために,昭和45年改正で本件括弧書の「炭化水素とその他の物との混合物」を含むとの規定が設けられて,立法的解決が図られたのである。
    (イ)原告は,昭和45年改正当時において,ガイアックスのようなアルコール成分が50パーセントを超える自動車用燃料が存在せず,使用可能になると考える者もいなかったのであるから,「炭化水素とその他の物との混合物」がガイアックスのような燃料をも対象とするものであったと考えることはできない旨主張する。しかし,法律の規定の文言に含まれるかどうかの解釈において,当該規定が制定された当時には存在しないものはすべて含まれないと断定するのは相当でなく,科学技術の発達によって新たに生じたものであっても,それが法制定時における想定を超えるものでない限りは当該文言に含まれると解すべきで,ガイアックスは,昭和45年改正時における想定を超えるものでないことは明白であるから,原告の主張は失当である。
   エ 道路目的税としての解釈
     軽油引取税は,昭和31年に道路目的税として創設され,以降現在までも道路目的税として存続している(地方税法700条)。課税客体としては,軽油引取税創設時に既に同じ道路目的税として揮発油税が課されていたガソリンを除き,自動車の内燃機関の燃料として広く使用されていた軽油が定められた。
     燃料炭化水素油に対する課税は,昭和31年の軽油引取税創設の際,課税の対象とされなかった軽油及び揮発油以外の炭化水素油が,昭和33年の法改正によって,自動車の内燃機関の燃料として消費された場合に軽油引取税の課税の対象とされたことに端を発し,昭和45年の法改正により現行の燃料炭化水素油(当時は燃料炭化水素油と呼称しなかった。)の定義が確定する。いずれの改正も,軽油引取税が道路目的税であること,課税の公平という観点から,炭化水素化合物からなる自動車の燃料であるガソリン(揮発油)及び軽油以外の炭化水素油(炭化水素とその他の物との混合物を含む)で自動車の内燃機関の燃料として販売又は消費されるものを,広く課税対象とするための改正であった。
     このような趣旨からすれば,自動車燃料である以上,炭化水素化合物の混合割合は問題とならないと解さざるを得ない。
   オ 政府見解
     政府は,国会において衆議院議員h提出の「超低公害新自動車燃料「ガイアックス」に関する質問主意書」(平成12年8月2日提出質問第5号)に対し,「燃料炭化水素油とは,炭化水素油(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素で,1気圧において温度15度で液状であるものを含む。)で軽油又は揮発油以外のものであり,炭化水素を主成分としないものも含まれる。御指摘の「ガイアックス」についても,燃料炭化水素油に該当し,自動車の内燃機関の燃料として販売又は消費した場合には,軽油引取税が課されることとなる。」と答弁している(乙3)。
   カ 揮発油等の品質の確保等に関する法律における解釈
     揮発油等の品質の確保等に関する法律(昭和51年11月25日法律第88号)については,ガイアックス等の高濃度アルコール含有燃料を安全規制の対象に加えることを目的とする改正法が第156回国会において成立し,平成15年5月28日に公布,同年8月28日から施行された。同改正において,高濃度アルコール含有燃料を,従前より同法における安全規制の対象とされていた「炭化水素油」の範囲に新たに含めるに当たっては,「炭化水素油」の定義に「(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素を含む。以下同じ。)」との括弧書を付け加える手法によっており,立法経過からして,ガイアックスを,改正後の同法の「炭化水素油(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素を含む。以下同じ。)」に含めることが立法者の意思であったことは明白である。
     そうすると,論理的に考えれば,全く同じ表現形式によって定義されている地方税法700条の3第3項の「炭化水素油」にも,当然ガイアックスが含まれるのでなければならない。
   キ 結論
     以上のとおり,文理解釈,論理解釈,立法経過,道路目的税としての解釈,政府見解,揮発油等の品質の確保等に関する法律における解釈のいずれもが,地方税法700条の3第3項及び第4項において「燃料炭化水素油」について規定した本件括弧書には,炭化水素化合物の混合割合いかんにかかわらず,広く炭化水素化合物の混合物が含まれるとの解釈を裏付けている。
  (2) 地方税法700条の3第4項に定める「自動車」に,軽自動車,小型特殊自動車及び二輪の小型自動車が含まれるか
  (原告の主張)
    地方税法700条の3第4項の「自動車」については,地方税法上明示の定義規定は存在しないが,自治省はこれを,道路運送車両法4条に規定する登録を受けた自動車をいうものと解釈していた。
    しかるに,道路運送車両法4条においては,「自動車(軽自動車,小型特殊自動車及び二輪の小型自動車を除く。)」と規定され,軽自動車,小型特殊自動車及び二輪の小型自動車が自動車から明確に除外されている。
    したがって,地方税法700条の3第4項に定める「自動車」には,軽自動車,小型特殊自動車及び二輪の小型自動車は含まれず,これらの燃料として販売された量については軽油引取税は課税されない。
  (被告らの主張)
   ア 文理解釈
     地方税法700条の3第4項には,「自動車」について詳細な説明が加えられていない。このような場合,「自動車」とは,法文上説明を必要としない社会通念上で認識されている広い意味での自動車をいうものと考えるべきであり,軽自動車,小型特殊自動車及び二輪の小型自動車が当然含まれる。
     仮に,軽自動車等を除外するのであれば,「自動車」について「自動車(軽自動車,小型特殊自動車及び二輪の小型自動車を除く。)」などの規定を設けるはずである。例えば,地方税法145条1項は「自動車(軽自動車税の課税客体である自動車その他政令で定める自動車を除く。)」と規定し,また,同法699条の2第2項は「「自動車」とは,道路運送車両法第2条第2項に規定する自動車(自動車に付加して一体となっている物として政令で定めるものを含む。)をいい,同法第3条の大型特殊自動車及び小型特殊自動車並びに同条の小型自動車及び軽自動車のうち二輪のもの(側車付二輪自動車を含む。)を除くもの」と規定する。
     したがって,上記のような除外規定が存在しない以上,地方税法700条の3第4項の「自動車」とは,広義の自動車をいうものと解される。
   イ 論理解釈
     地方税法上,軽油引取税については,自動車について詳細な説明が加えられていないが,自動車税や自動車取得税,軽自動車税,固定資産税及び特別土地保有税などについての自動車に関する規定においては道路運送車両法を引用し,ないしはそれを前提としてその課税客体等を規定しており,地方税法における「自動車」の解釈は道路運送車両法を基にして行われている。
     そして,地方税法における自動車税,自動車取得税及び軽自動車税についての規定を見ると,「自動車」とは,道路運送車両法2条2項にいう自動車を想定してその種別を同法3条に求め,各課税客体を定義している。軽油引取税における「自動車」も同様の概念に基づくものであり,軽自動車等の除外規定を設けていないことから,同法2条2項にいう自動車をいうものとなる。
   ウ 道路目的税としての解釈
     軽油引取税が道路に関する費用に充てるために課される目的税であること,及び,自動車の内燃機関の燃料としての税負担の公平の見地から燃料炭化水素油に対する課税の規定が設けられていることから,自動車とは,広く自動車全般を対象とするものと解すべきであり,軽自動車等を除外して自動車と解することは,法の趣旨からも適切でない。
     このことは,昭和33年改正において,地方税法700条の3第2項(現行法同条の3第5項に相当)に「軽油引取税は,前項に規定する場合のほか,自動車の保有者が軽油及び揮発油以外の炭化水素油を自動車の内燃機関の燃料として消費した場合においては,当該炭化水素油の消費に対し,消費量を課税標準として,当該自動車の主たる定置場所在の道府県において,当該自動車の保有者に課する。」との規定が追加された際に,留意事項として「軽油及び揮発油以外の炭化水素油の課税について(昭和33年4月24日自丙府発第36号各道府県総務部長,東京都主税局長あて自治庁税務局長通達)」(乙5)が発せられ,その中で,自動車の範囲については,「道路運送車両法の規定によって登録又は届出されるべき一切の自動車をいうものであるから,その範囲も道路運送車両法第3条に規定する普通自動車,小型自動車,軽自動車及び特殊自動車等はすべて含まれるものであること。」とされていることからも確認できる。道路運送車両法3条は同法2条2項の自動車の定義規定を受け自動車の種別を定めていることから,当該通達で定める自動車とは,実質的に同法2条2項に規定するものとなる。
   エ 政府見解
     政府は,国会において衆議院議員h提出の「超低公害新自動車燃料「ガイアックス」に関する質問主意書」(平成12年9月22日提出質問第1号)に対し,「「自動車」とは,軽油引取税の性格から,道路運送車両法第2条第2項に規定する自動車のうち道路において運行の用に供することができるものをいうものであり」と答弁している(乙6)。
   オ 結論
     以上のとおり,文理解釈,論理解釈,道路目的税としての解釈及び政府見解のいずれもが,地方税法700条の3第4項に定める「自動車」は道路運送車両法2条2項にいう自動車をいうものであることを裏付けている。
  (3) 地方税法700条の3第4項に定める「自動車」の内燃機関の燃料以外の用途に対する販売量
  (原告の主張)
   ア 地方税法700条の3第4項に定める「自動車」には,道路運送車両法2条2項の自動車のうち軽自動車,小型特殊自動車及び二輪の小型自動車は含まれないと解されるところ,原告の各販売店における軽自動車,二輪小型自動車,原動機付自転車及び携帯タンク(草刈り機,発電機及びジェットスキー等の燃料に用いるためのもの)への販売量は別紙「道路運送車両法4条で除外されている自動車等への販売量」のとおりである。
   イ 仮に,被告らが主張するように,地方税法700条の3第4項の「自動車」が道路運送車両法2条2項の「自動車」と同義であるとしても,被告処分庁らは,原告が,原動機付自転車及び携帯タンクといった,同項の「自動車」以外に対して販売した量についても課税決定をしている。
   ウ したがって,別紙「道路運送車両法4条で除外されている自動車等への販売量」記載の販売量についての課税処分は違法である。
  (被告らの主張)
   ア 被告処分庁らは原告に対し,ガイアックス販売当初から再三にわたり,自動車の内燃機関の燃料として販売された数量以外の販売数量を示す原始伝票等の提出及び調査に対する協力を求めてきた。しかし,原告は,税務調査・不服申立のいずれの段階においても,終始被告らの要請に一切応じず,本裁判で3回の弁論準備手続を経た後の第3回口頭弁論期日において初めて原動機付自転車等に対する販売数量について原告担当者が取りまとめたという資料(甲108)を提出し,また,それを裏付ける給油所店舗において作成されたとする手書き資料(甲148及び151)については第6回口頭弁論期日に至ってようやく提出し,それらに基づく主張に及んだ。
     このような主張及び証拠の申出は,訴訟を遅延させ,当事者間の公平を害するものであり,地方税法19条の14により時機に後れて提出した攻撃防御方法とみなされるから,民訴法157条1項により却下されるべきである。
   イ また,次に述べるとおり,原動機付自転車等に対する販売量についての原告の主張及び証拠資料は信用できない。
    (ア)被告処分庁らは,原告に対し,アルコール系代替燃料を自動車の燃料以外に販売した場合には軽油引取税が課税されないことを何度も伝えており,原告の歴代各代表取締役もそのことは十分認識した上で,「自動車燃料以外に販売することはない。」と述べていた。
      また,被告処分庁らは,各給油所店舗の受託販売者に対し,自動車の燃料以外に販売した場合には,ナンバープレート等の番号を伝票又は帳簿へ記入し保存するよう指導したが,いずれも,原告からそのような販売を禁止されており原則販売はないと回答するとともに,セルフ給油があり自動車等の種別を把握すること自体が不可能であると述べており,審査請求時においてもそれらの販売に係る伝票等を提出しなかった。
      さらに,原告は,原告作成のチラシ,ホームページ,店頭の張り紙等において,ガイアックスはガソリン車専用燃料であり,安全性の問題から二輪車に使用できない旨,及び,持ち帰りを認めていない旨等を明示していた。
      したがって,原告は原動機付自転車及び携帯タンクへガイアックスを販売していなかったと認められる。
    (イ)別紙「道路運送車両法第4条で除外されている自動車等への販売量」の「9L以下(原動機付自転車)」の欄の数値は,原動機付自転車のみならず,すべての販売のうち9リットル以下の販売数量を集計したものと推測されるが,なぜ9リットル以下が原動機付自転車への販売となるのか,また,その算出根拠及び原始資料の有無が不明である。
      さらに,「携帯タンク」の欄の数値についても,集計根拠が示されておらず,三次店舗を除く3店舗については,全販売のうち10リットル,18リットル又は20リットルのものを集計した数量を記載したものと思われるが,普通自動車や軽自動車にこれらの数量を販売した場合も含まれていると考えられる。
      したがって,仮に原告が原動機付自転車及び携帯タンクへ販売していたとしても,別紙「道路運送車両法第4条で除外されている自動車等への販売量」のような数値にはなり得ない。
  (4) 被告広島県の国家賠償責任及び被告a,同b,同c,同d,同e,同f及び同g(以下併せて「被告個人ら」ともいう。)の不法行為責任の成否
   (原告の主張)
    ア 被告aら当時の各地域事務所長と,広島県広島地域事務所担当職員であった被告b,広島県東広島地域事務所担当職員であった被告d,広島県尾三地域事務所担当職員であった被告fは,全員が本件審査請求手続の経過を熟知し,原告の主張,特に,原告からの求釈明がなされている事実を知りながら,明確な弁明を行うことができずに同手続を放置していた。また,審査請求手続における原告の詳細な主張に対して何らの弁明も行わないまま差押手続に及んだ場合,故意による不当執行として損害賠償の対象となることについて,原告からの警告等により了知していながらあえて,平成13年9月14日,原告が委託販売先に対して有していた売掛金債権を差押債権として,本件課税金額及び不申告加算金額全額について債権差押(以下「本件差押」という。)を実施した。
    イ 上記経過からすれば,本件差押は故意による違法執行と評価されるべきものであり,被告aら当時の各地域事務所長と,被告bら事務担当者は,いずれも被告広島県の事務吏員であったから,被告広島県は国家賠償法1条に基づき原告に生じた以下の損害を賠償する責任があり,被告個人らも,同損害につき被告広島県と連帯して不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
    ウ 損害
     (ア)信用毀損等による損害 800万円
       本件差押により,原告の信用と名誉は毀損され,これによる原告の損害は,被告処分庁らごとに各200万円,合計800万円を下らない。

     (イ)弁護士費用 2950万円
       被告広島県広島地域事務所長の行った手続の関係では1500万円,広島県東広島地域事務所長の行った手続の関係では900万円,広島県尾三地域事務所長の行った手続の関係では150万円,広島県備北地域事務所長の行った手続の関係では400万円である。
   (被告らの主張)
    ア 国家賠償法1条1項は,公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは,公共団体が,これを賠償する責に任ずるとし,同条2項は,公務員に故意又は重大な過失があったときは,公共団体は,その公務員に対して求償権を有するとし,職務行為について公務員個人への直接請求を認めていない。
      したがって,被告個人らに対する損害賠償請求は,当事者適格を欠き不適法であるし,たとえ訴え自体適法であったとしても,理由がない。
    イ また,原告が行った審査請求によっても,処分の効力,処分の執行又は手続の続行は妨げられないのであり,地方税法700条の38第1項では,軽油引取税に係る滞納者が,督促を受け,その督促状を発した日から起算して10日を経過した日までにその督促に係る軽油引取税に係る地方団体の徴収金を完納しないときは,道府県の徴税吏員は,当該軽油引取税に係る地方団体の徴収金につき,滞納者の財産を差し押さえなければならないとされている。したがって,被告処分庁らの行った滞納処分は法に沿った職務行為であるから,被告広島県及び被告個人らに損害賠償責任は発生しない。
第3 争点に対する判断
 1 争点(1)(ガイアックスが地方税法700条の3第4項に定める「燃料炭化水素油」に当たるか)について
  (1) 文理解釈
   ア 原告は,一般に「Aとその他の物との混合物」と規定されている場合には,その文言からして,Aが主要な成分をなしていると解釈するのが自然であるから,地方税法700条の3第3項に定める「炭化水素とその他の物との混合物」も,炭化水素が主要な成分をなしている物質を意味すると主張する。
     しかし,一般に「Aとその他の物との混合物」と規定し,混合割合について何ら示されていない場合には,Aとその他の物を混合したものを意味するにとどまり,その規定文言自体,Aが主要な成分をなすというような意味合いまで含むと解することはできない。原告の上記主張は,文言の常識的な解釈に合致しないというべきである。
     したがって,Aの含有割合が極めて小さく,「Aとその他の物」を混合したというよりも,Aが不純物として混入していると評価すべき場合は別として,Aの含有割合が,主成分と評価されるにまで至らなくとも相当程度に達していれば,これを「Aとその他の物との混合物」に当たると解することには文理上何ら差し支えがない。原告が指摘する立法例の有機溶剤中毒予防規則も,特定の物質の含有割合を一定範囲に限定する必要があることからその含有割合が明示されているものと解されるのであって,含有割合が明示されていない場合に原告のような解釈がなされることを前提とした規定であるということはできない。
   イ 原告は,石油ガス税法2条1号,揮発油税法6条及び租税特別措置法88条の6を指摘してその解釈を問題とする。
     しかし,そもそもこれらの規定は,炭化水素化合物のうちの一部である石油ガスないし揮発油に対する課税を目的としたものである点で,石油ガス,揮発油,軽油等に対する課税規定で漏れた炭化水素油一般に対する課税を企図して設けられた本件括弧書とは異なるのであって,そこには課税対象の広狭についておのずと差があって然るべきである。
     しかも,石油ガス税法2条1号の括弧書は「炭化水素とその他の物との混合物」の後に「その性状及び用途が炭化水素に類するものを含む。」と規定され,揮発油税法6条は「揮発油以外の物」の後に「(その性状及び用途が揮発油に類するものに限る。)」との括弧書が付されている点で,本件括弧書とは明らかに文言が異なるから,本件括弧書の解釈をこれらの規定の解釈と同一のものとしなければならない理由はない。
     さらに,租税特別措置法88条の6は,揮発油類似品の定義として「炭化水素油(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素を含む。)と揮発油以外の物とを混和して,揮発油以外の炭化水素油(炭化水素以外の物を含有するものを含み,温度15度において0.8762以下の比重を有するもののうち,政令で定める分留性状の試験方法による90パーセント留出温度が267度以下で,当該試験方法による初留点が温度110度までの範囲内で政令で定める温度未満のものに限る。以下この条において「揮発油類似品」という。)とした場合」と規定しており,「炭化水素油(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素を含む。)」と揮発油以外の物とを混和した結果生成されたものも「炭化水素油」であること,及び,後者の「炭化水素油」は前者の「炭化水素油」における括弧書を踏襲せず(前者の「炭化水素油」の括弧書には「以下この条において同じ。」といった記載がない。),新たに「(炭化水素以外の物を含有するものを含み,・・・)」という括弧書を付したもので,前者の「炭化水素油(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素を含む。)」と同一のものではないことが規定の文言上明らかにされている。したがって,揮発油類似品すなわち後者の「炭化水素油」について,炭化水素が主成分であるとの解釈が有力である(甲162)としても,これをもって本件括弧書と類似の括弧書が用いられた前者の「炭化水素油」についてまで炭化水素が主成分であると解することができないのは当然である。そして,前者の「炭化水素油」については,炭化水素を主成分とするかどうかを問わないとの解釈が一般的なのであるから(甲162),この規定が原告の主張を裏付ける根拠とならないことは明白である。
   ウ したがって,地方税法700条の3第3項の本件括弧書の「炭化水素とその他の物との混合物」という文言自体からは,炭化水素化合物を主成分とするものに限ると解することはできず,むしろ混合割合を問わないものと解するのが自然であるということができる。
  (2) 論理解釈
    原告は,地方税法700条の3第3項の「炭化水素油」とは,炭化水素化合物が主成分であるものをいい,昭和45年の法改正で同法が「炭化水素油,炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素」と並列的に規定せず,括弧書で「炭化水素とその他の物との混合物」を付加する手法をとったことからすれば,括弧内の「炭化水素とその他の物との混合物」は,飽くまでも「炭化水素油」の概念に含まれるものを意味すると主張する。
    しかし,被告らが指摘する立法例のとおり,一般に「A(Bを含む。)」と規定することにより,本来Aの概念には含まれないBをも含むとすることは立法技術としてよく見られるところであるから,論理上,原告主張のように本件括弧書で規定されたものが「炭化水素油」の概念に含まれなければならないとはいえない。
    したがって,「炭化水素とその他の物との混合物」を括弧書で加えたという規定上の付加形態からは,必ずしもこれが炭化水素油の概念に含まれるものと解することはできない。
  (3) 立法経過
   ア 販売業者に対する軽油引取税の課税に関する地方税法の規定は,軽油引取税創設後現在まで,次のとおりの改正を経ている。
    (ア)軽油引取税は,昭和31年の地方税法改正(同年法律第81号)により創設されたが,当時は軽油の引取だけが課税の対象とされていた(甲25)。そして,ここでいう「軽油」とは,「摂氏15度において0.8017をこえ,0.8762に達するまでの比重を有する炭化水素油をいい,政令で定める規格の炭化水素油を含まないものとする。」とされており(同改正後の地方税法700条の2第1項1号),ここでいう「炭化水素油」について地方税法上に定義規定は定められていなかったが,「地方税法及び同法施行に関する取扱についての依命通達(道府県税関係)(昭和29年5月13日自乙府発第109号各都道府県知事宛自治庁次長通達)」(以下「昭和29年通達」という。)(甲28)によって,「炭素と水素のみからなる各種の炭化水素化合物を主成分とする混合物で,常温(摂氏15度),常圧(水銀柱760ミリメートル)において,油状をなしているものをいい,単一体の炭化水素化合物(ベンゾール等),常温,常圧において,気状(プロパンを主成分とする液化ガス)固状又は半固状(パラフィン,ワセリン等)を呈する炭化水素の混合物はこれに含まれないこと」とされていた。
    (イ)昭和33年の地方税法改正(同年法律第54号)により,同法700条の3に新たに第2項が設けられ,自動車の保有者が軽油及び揮発油以外の「炭化水素油」を自動車の内燃機関の燃料として消費した場合には,当該消費量を課税標準として自動車の保有者に対して軽油引取税を課することとされた(甲26)。同項はその後,昭和36年法律第74号による改正によって1項繰り下がり第3項となった。
    (ウ)昭和45年の地方税法改正(同年法律第24号)によって,同法700条の3第3項の「炭化水素油」の文言に続けて,「(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素で,温度15度及び1気圧において液状のものを含む。以下同じ。)」という括弧書が加わった(甲29)。
    (エ)平成元年の地方税法改正(同年法律第14号)によって,従前の地方税法700条の3第3項の規定が繰り下がって第5項となり,新たに第4項で,元売業者,特約業者又は石油製品販売業者が自動車の内燃機関の燃料として炭化水素油を販売した場合に,その販売量に対して課税することとし,同項中に課税対象として「炭化水素油(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素で,1気圧において温度15度で液状であるものを含む。以下同じ。)で軽油又は揮発油以外のもの(以下本節において「燃料炭化水素油」という。)」と規定された(甲30)。
    (オ)平成5年の地方税法改正(同年法律第4号)によって,平成元年改正における第4項の規定が販売主体別に組み替えられ,特約業者又は元売業者について規定する第3項の中で,課税対象を「炭化水素油(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素で,1気圧において温度15度で液状であるものを含む。以下同じ。)で軽油又は揮発油(揮発油税法(昭和32年法律第55条)第2条第1項に規定する揮発油(同法第6条において揮発油とみなされるものを含む。)をいう。以下同じ。)以外のもの(同法第16条又は第16条の2に規定する揮発油のうち灯油に該当するものを含む。以下本節において「燃料炭化水素油」という。)」と規定し,石油製品販売業者について規定する4項においても,この「燃料炭化水素油」の概念を用いて課税対象を明らかにした(甲31)。
   イ 上記のとおり,「炭化水素油」の文言に続けて「(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素で,温度15度及び1気圧において液状のものを含む。以下同じ。)」という括弧書が新たに加わったのは昭和45年改正時であり,「炭化水素とその他の物との混合物」の解釈に当たっては,同改正における立法目的を勘案する必要があるところ,原告は,同改正の目的は,当時新たに登場した安全燃料とコーレス燃料に対して軽油引取税を課税する点にあり,炭化水素化合物が主成分でない燃料は全く想定されておらず,同改正によって付加された括弧書中の物質についても,炭化水素化合物を主成分とするものであることが前提となっていたと主張する。
   ウ そこで,昭和45年改正に際しての立法経過について見るに,証拠(甲32ないし35,113ないし116,乙34)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
    (ア)昭和42年ころから,安全燃料及びコーレス燃料と呼ばれる燃料がガソリン自動車の内燃機関の燃料として販売,消費されるようになった。安全燃料とは,灯油(45パーセント程度),トルエン(50パーセント程度),メタノール(5パーセント程度)を混和して製造されたもので,揮発油税法でいう揮発油よりは比重が重く,軽油引取税でいう軽油とは分留性状において異なり,石油ガス税でいう石油ガスとは常温,常圧における物理的状態が異なるものであった。コーレス燃料とは,単一の炭化水素であるトルエンに若干の添加物を混入して製造されたものであった。
      当時,昭和29年通達において,炭化水素油とは炭素と水素のみからなる各種の炭化水素化合物を主成分とする混合物であると定義されていたことから,安全燃料がこれに該当し軽油引取税を課することができるか否かが問題となり,また,同通達においては単一体の炭化水素化合物は炭化水素油に含まれないとされていたため,コーレス燃料に軽油引取税を課せられないことが問題となった。
    (イ)自治省は,「安全燃料等に対する軽油引取税の取扱いについて」と題する各都道府県税務主管課長あての昭和44年5月23日付け内かん(甲34の1)を発し,その中で,炭化水素油にメタノール等炭化水素化合物以外の物を混入した燃料を自動車の内燃機関の燃料として消費する場合における自動車の保有者に対する軽油引取税の課税の取扱いについて,「これらの燃料の大部分は,メタノール等炭化水素化合物以外の混入量が極く少量であり,法第700条の3第3項に規定する炭化水素油の範囲に含まれることがおおむね明らかとなりました。しかしこの種の燃料に対する軽油引取税の取扱いについては,炭化水素化合物以外の物の混入量が多量である燃料に対する取扱いをも含め総合的に課税の方針を定める必要があり,目下この点について検討中の次第であります。従って,各都道府県においてもおってこれが最終的な取扱方針を通知するまでの間は随時分析試験等を行い諸般の準備を進められるようご連絡いたします。」と通知した。
      さらにその後,自治省は,同じ題名の同年10月6日付け内かん(甲34の2)を発し,その中で,「自動車の内燃機関の燃料として消費された炭化水素油に混和されている炭化水素化合物以外の物の重量の当該燃料の重量に対する割合が0.05に満たない場合には,当該燃料の全量に対して課税することとし,当該割合が0.05以上の場合には,当該混和されている炭化水素化合物以外の物の量を除き,その残量に対して課税するものとする。」と通知した。
    (ウ)昭和45年の第63回国会において,地方税法700条の3第3項中「炭化水素油」に続けて「(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素で,温度15度及び1気圧において液状のものを含む。以下同じ。)」との括弧書を加える内容の改正を含む地方税法の一部を改正する法律案について,衆議院及び参議院の地方行政委員会において審議が行われた。
      その中で,i政府委員(自治省税務局長)は,同年3月19日に開催された同国会衆議院地方行政委員会において,「第700条の3の改正は,自動車の内燃機関の燃料として,灯油等の炭化水素にアルコールを混入したもの及びトルエンという単一の炭化水素が使用されていることにかんがみ,課税の公平をはかるため,これらの燃料に対しても軽油引取税を課税することができるようにしたものであります。」と説明し,同月24日に開催された同委員会において,「今回考えましたのは,自動車の保有者におきまして,いわゆる安全燃料あるいはコーレスなるものを使って自動車を走らせる場合において,その自動車の保有者に課税しようとするわけでございます。結局,保有者課税というのは,軽油あるいは揮発油というものは課税されておりますので,それとの均衡でありますと同時に,脱税を予防するというような意味から,補完的な措置として自動車の保有者課税という制度があるわけでございます。・・・この税は,結局道路の目的財源でございますから,したがって,同じようなものにおいて自動車を運行する燃料課税ということであれば,やはり同じように課税すべきものであるということに踏み切ったわけでございます。」と説明し,同年4月9日に開催された同国会参議院地方行政委員会において,「この一番最後の(保有者課税の)場合,現在炭化水素油というふうに書いてありますので,これにはまらない油で自動車を走らせる場合の課税というものについて,新しいものが出れば,これは課税のバランスから,そこに加えていくと,・・・今回課税のバランスというものを考えて,少なくとも道路を走る車については,油について課税をする,こういうふうにいたしたわけでございまして,従来の灯油や軽油の一つの延長ということで,内燃自動車の保有者に課税をするという規定を設けたわけでございます。」と説明している(甲35,113ないし115,乙34)。
      さらに,j説明員(自治省税務局府県税課長)は,同日開催された同委員会において,「2年前ばかりからこのコーレスの前身と申しますか,安全燃料というのが出回り始めたのでございます。この安全燃料というのが,これが軽油の規格にも該当しない,それから揮発油の規格にも該当しない,半分アルコールがまじっているわけでございます。・・・そこで,いろいろ政府各省検討いたしまして,アルコール分は無理でございますけれども,アルコールと炭化水素油との混合体でございますと,その炭化水素油の部分だけについて,安全燃料としては軽油引取税を自動車の保有者の段階においてかけるということにいたしまして,昨年の11月からそういう措置をとったわけでございます。そういたしますと,安全燃料というものが・・・姿を消しまして,今度はそれに変わってコーレスというトルオールだけでつくった揮発油類似品と申しますか,そういった燃料が出回り始めたということでございます。で,軽油引取税の目的からいたしまして,これは御承知のように目的税でございまして,自動車の運行に使う油であれば全部かけるということでございまして,これらのものはいろいろな形をとっておりますけれども,結局は自動車の燃料になるわけでございますので,そういう観点から,自動車の燃料になるものはすべて自動車保有者の段階においてかけるということにしたわけでございます。」と説明している(甲113,乙34)。
   エ 以上のような立法経過によれば,昭和45年改正は,軽油引取税の課税の公平,税負担回避の防止の観点から,当時出回っていた安全燃料ないしコーレス燃料に対する課税問題が契機となって立法化されたもので,それらに対する課税が当面の直接の目的であったものと認められる。
     しかしながら,前記のとおり,そもそも安全燃料については昭和45年改正前の地方税法の規定によっても軽油引取税の課税が可能であるとの見解が確立されており(5月23日付け内かん及び10月6日付け内かん),炭化水素化合物以外の物の混入量が多量である燃料に対する軽油引取税の取扱いをも含めて総合的に課税の方針を定める必要性が認識され検討されていた中で(5月23日付け内かん)昭和45年改正がなされたこと,国会審議の過程における前記の政府委員や説明員の質疑に対する応答,殊にj説明員の「半分アルコールがまじっている」ものであっても道路を走る自動車の燃料になる油にはすべて軽油引取税を課する旨の説明等にかんがみれば,昭和45年改正は単に安全燃料とコーレス燃料に対して軽油引取税を課するという目的にとどまらず,今後新たに出現すべき自動車用燃料への課税をも目的としていたことは明らかである。また,国会審議での議論や政府側の説明を見ても,課税対象とすべき燃料について,殊更に炭化水素化合物を主成分とするものに限定する趣旨であったことをうかがわせる発言はない。かえって,j説明員による安全燃料が「半分アルコールがまじっている」旨の上記説明は,安全燃料の説明としては誤りではあるが(安全燃料のアルコール含有率は約5パーセントである。),この点について誰からも何ら指摘がなされないまま審議が進められ,上記説明以外に審議の中で混合割合についての数字は表されておらず,また混合割合が問題とされた形跡はうかがわれないことからすれば,昭和45年改正に際して立法者の意思としては,炭化水素化合物の混合割合については特に意識はされておらず,混合割合が安全燃料の95パーセントより相当低いものも「炭化水素とその他の物との混合物」に含むことを想定していたものと考えられる。
   オ 原告は,昭和45年改正当時ガイアックスのように炭化水素化合物の構成割合が半分以下の自動車用燃料は存在せず,使用可能になると考える者もいなかったから,同改正において,炭化水素化合物が主成分でない燃料は全く想定されておらず,これを「炭化水素とその他の物との混合物」に含めて課税する趣旨ではなかったと主張する。しかし,ここで原告が主張する「主成分」を,一応50パーセント以上炭化水素化合物を含有することを意味するものと解したとしても,前記エで述べたとおり,炭化水素化合物の混合割合については立法者において特に意識はされておらず,昭和45年改正は,当時出回った安全燃料及びコーレス燃料のみならず,じ後新たに出現すべき,炭化水素化合物の混合割合が安全燃料より相当低い自動車用燃料への課税をも想定していたことからすれば,当時炭化水素化合物が主成分でない燃料が出回っていなかったからといって,直ちに同改正が炭化水素化合物を主成分としない燃料に対する課税を一切想定していなかったということはできない。
   カ 原告は,10月6日付け内かんにおいて,炭化水素化合物が燃料全体の95パーセントを超える場合には全体を「炭化水素油」として全量課税してよく,95パーセント以下の場合には,混和されている炭化水素化合物の量に対して課税するという基準が立てられ,この基準に従って昭和45年改正がなされたとも主張する。しかし,上記内かんは,同改正により新たに括弧書が付される前の「炭化水素油」についてのものであるから,上記内かんの内容が同改正後の「炭化水素とその他の物との混合物」の解釈の基準になるということはできない。
   キ 昭和45年改正は,それまで軽油引取税が灯油や軽油等の炭化水素化合物のみに対して課税されてきたところ,炭化水素以外の物を少量混ぜた安全燃料等が自動車の燃料として出回るようになったことから,軽油引取税の課税の公平,税負担の回避の防止という観点から課税対象の拡大が図られたものであること,当時の常識では,自動車用燃料の中核になるものとしては飽くまで炭化水素化合物が想定されていたと考えられること,したがって,改正後の地方税法の規定上も,課税対象として,炭化水素に着目し,「炭化水素油(炭化水素とその他の物との混合物を含む。)」とする体裁がとられていることからすると,そこで想定されていたのは飽くまで灯油や軽油の延長と考えられるような炭化水素を主成分とするものであって,炭化水素が少量しか含まれないものは,本来の炭化水素油からはかけ離れたものであるから,税負担の回避の防止が立法目的であったということからしても,このようなものまで課税対象に予定されていたと考えるのは無理があり,ここでの炭化水素油には当たらないという考え方があり得る(甲164)。これは,確かに一つの有力な解釈であり,昭和45年改正の上記目的及び改正経過からして,炭化水素を微量ないし少量しか含まないものまで同改正で課税対象として予定していたとするのは,解釈上無理があると思われる。
     しかしながら,前記のとおり,同改正の審議の過程で,「半分アルコールがまじっている」との政府説明員の説明以外,炭化水素化合物の混合割合についての説明や議論が一切なされておらず,立法者意思としても混合割合について特に意識はされていなかったことからすると,炭化水素化合物が主成分であるとか,あるいはその混合割合が50パーセント以上であることが想定されていたとまでいい切ることは困難であって,燃料としての使用目的上の基礎的な成分の一つをなす程度に含まれていれば課税の対象に含めることが予定されていたと考えるのが合理的であると思われる。そして,ガイアックスの場合,炭化水素化合物の混合割合からして,それが本来の燃料成分に対し補助的ないし付加的役割を果たすものとして添加されているわけではなく,燃料としての使用目的上の基礎的な成分の一つをなしている(炭化水素化合物も,アルコールと共に,燃焼することによってエネルギーを生み出す主要な燃料成分の一つをなしている)ことは明らかである。
   ク 以上によれば,立法経過を見ても,「炭化水素とその他の物との混合物」について,炭化水素を主成分とするものに限定することが予定されていたと解することはできない。
  (4) 他の立法からうかがわれる立法者意思
   ア 平成15年の第156回国会において,揮発油等の品質の確保等に関する法律(昭和51年11月25日法律第88条,以下「品確法」という。)の一部を改正する法律が成立し,同年5月28日に公布され,同年8月28日から施行された。同改正により,改正前の同法2条において,品質確保規制の対象となる「石油製品」について,「この法律において,『石油製品』とは,揮発油,灯油,軽油及び重油並びにこれらに準ずる炭化水素油及び石油ガス(液化したものを含む。)であつて経済産業省令で定めるものをいう。」とされていたものが,「重油」の文言が削除され,「炭化水素油」の文言の後に「(炭化水素とその他の物との混合物又は単一の炭化水素を含む。以下同じ。)」と,地方税法700条の3第3項と同一文言を用いた括弧書が加えられた。
   イ 上記改正は,アルコールをガソリンと混合させ,全体の50パーセント以上をアルコール分等が占める高濃度アルコール含有燃料が,ガソリン自動車用燃料として販売・使用されていたところ,車両火災等の事故が起き,安全上問題があることが確認されたことから,当該燃料をも同法の安全・品質規制の対象とすることを目的としてなされたものであり(乙71ないし73),国会審議においても,この「高濃度アルコール含有燃料」にはガイアックスも含まれるとされている(乙73,74)。
     このような上記改正の経緯からすれば,立法者は,新たに付け加えた括弧書中の「炭化水素とその他の物との混合物」に,ガイアックスのような高濃度アルコール含有燃料も含める意思であったことは明らかである。
   ウ そうすると,上記改正後の文言と全く同じ表現で「炭化水素油」の後に付加された地方税法700条の3第3項の「炭化水素とその他の物との混合物」についても,上記改正後の文言と同様に,ガイアックスも含めた全体の50パーセント以上をアルコール分等が占める高濃度アルコール含有燃料が含まれるものと解するのが,立法者の意思に沿う解釈であると考えられる。
  (5) 行政解釈
    原告は,昭和45年改正後,新たに課税対象となった炭化水素油の内容について,自治省が10月6日付け内かんと異なる見解を出していないこと,同改正後の昭和47年に自治省府県税課長が発した行政実例(甲23の3)においても上記内かんと同様の判断を示しており,この行政実例が廃止文言が付されることもなく行政実例集に掲載され続けたことを問題とする。
    しかし,行政実例は飽くまでも行政内部における法律解釈であって,これにより法律の内容が左右されるものではない。しかも,昭和47年の上記行政実例についても,「昭和44年5月16日付で照会のあった標記のことについて,下記のとおり回答します。」として昭和45年改正前の事案に関する回答であることが明記されており,「単一体の炭化水素化合物は,それのみではここでいう炭化水素油には含まれないものであるが,・・・」として,昭和45年改正後の法内容とは矛盾する改正前の法内容が記載されていることからすれば,同行政実例は昭和45年改正前の軽油引取税の取扱いについてのものであることが明らかである。
    したがって,この点についての原告の主張は理由がない。
  (6) 結論
    以上によれば,「炭化水素とその他の物との混合物」は,文理解釈として炭化水素化合物の混合割合を問わないとするのが自然であり,論理解釈上も立法経過からも炭化水素を主成分とするものに限定されると解することはできず,むしろ品確法の改正経過からしてガイアックスを含めた高濃度アルコール燃料がそこに含まれるとするのが立法者意思に沿う解釈であることからすると,炭化水素化合物を主成分とするものに限定されないのであり,炭化水素化合物をおおむね43パーセント以上含むガイアックスはこれに含まれ,軽油引取税の課税対象となるというべきである。
 2 争点(2)(地方税法700条の3第4項に定める「自動車」に,軽自動車,小型特殊自動車及び二輪の小型自動車が含まれるか)について
  (1) 地方税法700条の3第4項の「自動車」について,原告は,道路運送車両法4条の「自動車(軽自動車,小型特殊自動車及び二輪の小型自動車を除く。)」のことを指し,軽自動車,小型特殊自動車及び二輪の小型自動車は含まれないと主張する。これに対して被告は,同法2条2項にいう自動車をいい,軽自動車,小型特殊自動車及び二輪の小型自動車も含まれると主張する。
  (2) 地方税法上「自動車」の定義を定めた規定は存在しないが,そもそも軽油引取税は,道路に関する費用に充てるため,及び,道路法7条3項に規定する指定市に対し道路に関する費用に充てる財源を交付するために課される目的税であること(地方税法700条)からすれば,同法700条の3第4項の「自動車」とは,道路の主たる利用者である自動車一般を指すものと解するのが相当であるから,道路運送車両法上の自動車についての一般規定である同法2条2項所定の自動車概念に基づいて解釈するのが相当である。
    原告は,道路運送車両法4条所定の自動車概念に基づき,軽自動車,小型特殊自動車及び二輪の特殊自動車は除外すべきであると主張するが,道路を利用するという点では軽自動車等であっても普通自動車等と変わりないのであるから,これらを特に除外する合理的理由はない。
  (3) 行政解釈
   ア 原告は,自治省が,地方税法700条の3第4項の「自動車」の意義について,道路運送車両法4条に規定する登録を受けた自動車をいうものと解釈していたことを問題とするところ,「地方税法の施行に関する取扱について(道府県税関係)(昭和29年5月13日自乙府発第109号各都道府県知事宛自治庁次長通達)」(乙2)では,「自動車」とは,道路運送車両法4条に規定する登録を受けた自動車をいうものとされ,甲12,56,57,94ないし103によれば,平成2年から平成12年に至るまで,自治省府県税課関係者の執筆に係る軽油引取税の解説書等においても同旨の説明がなされていたことが認められる。
     しかし,他方で,「軽油及び揮発油以外の炭化水素油の課税について(昭和33年4月24日自丙府発第36号各道府県総務部長,東京都主税局長あて自治庁税務局長通達)」(乙5)では,昭和33年の法改正において設けられた地方税法700条の3第3項(現行の第5項)についての留意事項として,「自動車」の範囲は,道路運送車両法の規定によって登録又は届出されるべき一切の自動車をいい,その範囲も同法3条に規定する普通自動車,小型自動車,軽自動車及び特殊自動車はすべて含まれるものとされており,月刊誌「税」昭和33年5月号,昭和36年11月号,昭和41年11月号及び昭和43年8月号において自治省府県税課職員が執筆した解説では,「自動車」は,同法2条2項の自動車であり,その範囲としては同法3条に規定する普通自動車,小型自動車,軽自動車及び特殊自動車等はすべて含まれるものであるとされており(乙29ないし32),自治省税務局府県税課の監修により平成3年3月に発行された解説書「新・軽油引取税の解説」においても同旨の説明がされている(乙33)。さらに,月刊誌「税」平成13年4月号及び平成14年6月号において総務省自治税務局都道府県税課の職員が執筆した解説では,自動車には原動機付自転車以外の原動機により陸上を移動させることを目的とするものが該当することとなり,通常の自動車の区分では普通自動車,大型自動車,軽自動車,二輪車等が自動車の概念に含まれるとされ,前記取扱通知において同法4条の登録を受けている自動車としている趣旨については,「地方税法第700条の3第5項の自動車の保有者が炭化水素油を自動車の内燃機関の燃料として消費した場合に,当該自動車を道路において運行の用に供するため消費した場合に限って課税していることとの均衡上,自動車であってもサーキット場内や試験研究施設など一般交通の用に供しない場所で使用するものに供する炭化水素油の販売についてまで軽油引取税を課さないことを例示的に示したものと解すべきであろう。」と説明されている(甲58,59)。
   イ 以上によれば,地方税法700条の3における「自動車」についての自治省担当者の解釈は,軽油引取税創設時から本件課税処分当時までの間,一貫していなかったことが認められ,平成2年から平成12年に至るまでの間に限って見れば,平成3年3月発行の「新・軽油引取税の解説」中の記載を除き,道路運送車両法4条の登録を受けた自動車をいうとの説明が解説書中に継続してなされており,当時自治省担当者においてそのような解釈が行われていたことがうかがわれる。
   ウ しかし,これらは飽くまでも自治省担当者による解釈にすぎず,これにより当然に法律の内容が左右されるものではない。前記(2)のとおり,地方税法700条の3における「自動車」について,同法4条の「自動車」として軽自動車等を除外する合理的理由を見出し難いことにかんがみれば,同法4条に準拠した解釈が誤りであったといわざるを得ず,自治省担当者がこのような解釈を行っていたとしても,ここでの「自動車」は,前記(2)のとおり,同法2条2項所定の自動車概念に基づいて解釈するのが相当である。
 3 争点(3)(地方税法700条の3第4項に定める「自動車」の内燃機関の燃料以外の用途に対する販売量)について
  (1) 原告は,原動機付自転車及び携帯タンクに対する販売量が,それぞれ別紙「道路運送車両法第4条で除外されている自動車等への販売量」の「9L以下(原動機付自転車)」「携帯タンク」の欄記載のとおり存在する旨主張する。
  (2) この点,証拠(乙25ないし27,37,41の1ないし5,42の1ないし3,43の1ないし3,70)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,原告作成のチラシ,ホームページ,給油所店頭の張り紙等において,ガイアックスはガソリン車専用燃料であり,オートバイ等の二輪車にはアイドリング不調等の不具合を生じさせるおそれがあるから使用できず,また,車両以外(船,農業機械,ジェットスキー等)にも使用禁止で,品質保持及びガソリン車燃料以外の用途に用いられることを未然に防ぐために携行缶等による持ち帰りを禁止する旨明示していたこと,被告処分庁らは原告に対し,ガイアックスを自動車燃料以外に販売した場合は軽油引取税は課税されない旨説明し,それらの販売量がある場合には伝票に記載し保存するよう従前から求めていたこと,原告は税務調査時及び審査請求時において,原動機付自転車及び携帯タンクへの販売に係る伝票等の原始資料の提出を求められたにもかかわらず,これに一切応じなかったことが認められる。
  (3) 原告は,本裁判において,原告の営業部長kが取りまとめたという,廿日市,八本松,瀬戸田及び三次の各給油所店舗における原動機付自転車,携帯タンク等に対するガイアックスの販売量を記載した一覧表(甲108,別紙「道路運送車両法第4条で除外されている自動車等への販売量」と同一のもの),並びに,上記一覧表の根拠となる資料として,八本松店舗及び三次店舗における販売量を記録した「自動車以外への販売数量」と題する書面(甲148,151)を提出している。
   ア まず,甲108の一覧表について見ると,同一覧表中「9L以下(原動機付自転車)」欄の数値について,kは,普通自動車や軽自動車等への販売量も含まれていると述べており(甲163),この数値をもって原動機付自転車への販売量と認めることができないのは明らかである。
     また,八本松店舗及び三次店舗における販売量は上記「自動車以外への販売数量」と題する書面を基に集計したものであるというのであるが(甲147),同書面の数量記載の信用性が乏しいことは後記のとおりであるし,廿日市店舗及び瀬戸田店舗における原動機付自転車及び携帯タンクへの販売量の数値については,集計根拠となる客観的資料が全く示されていないから,同一覧表の記載内容自体,にわかにこれを信用することはできない。
   イ 次に,上記八本松店舗及び三次店舗に係る「自動車以外への販売数量」と題する書面には,「軽四」「自動二輪」「携帯タンク」という項目でガイアックスの販売数量が記載されている。しかし,これらの書面によっても原動機付自転車への販売量は全く明らかでなく,仮に計上されているとすれば同じ二輪車である「自動二輪」の欄に計上されていると考えられるものの,「自動二輪」欄の数値自体がごくわずかであり,さらにその一部が原動機付自転車への販売量となれば,軽油引取税の計算上無視し得る程度の量にすぎないといえる。また,上記書面の「携帯タンク」の欄の数値についても,原告は携帯タンクへの販売に係ることを表記した伝票等を全く提出していないのでその集計根拠は不明であるし,前記のように原告が携行缶等によるガイアックスの持ち帰りを明示的に禁止していたこと及び同様に使用を禁止していた二輪車への販売がほとんどないことに照らせば,上記書面の「携帯タンク」欄の数値は過大であるといわざるを得ず,にわかにこれを信用することはできない。
  (4) 以上のように,原告は,ガイアックスの二輪車への販売や携行缶等での持ち帰りができない旨自ら明示しており,被告処分庁らから自動車燃料以外の販売量について伝票に記載し保存するよう従前から求められていたにもかかわらず,税務調査時及び審査請求時に原動機付自転車及び携帯タンクへの販売に係ることを表記した伝票等の原始資料の提出要請に一切応じず,本裁判においてそれらの販売量の記録として提出した書面の内容も集計根拠が全く明らかにされないものであって信用性に乏しいことからすれば,原告は,原動機付自転車及び携帯タンクに対してガイアックスを販売していなかったか,たとえ販売していたとしても,軽油引取税の計算上無視し得る程度の量にすぎないものであったと認めるのが相当である。
 4 争点(4)(不法行為責任の成否)について
   原告は,被告広島県広島地域事務所長その他担当職員らによる本件差押が,故意による不法行為に当たると主張する。
   しかし,本件各処分が違法でないことは前記のとおりであり,その他本件差押が不法行為に当たると認めるべき事情はない。
   したがって,原告の被告広島県及び被告個人らに対する損害賠償請求は理由がない。
第4 結論 
   以上を前提として,原告が販売したガイアックスに係る課税標準量,税額,不申告加算金額を計算すると,その結果は別紙軽油引取税決定処分一覧表1ないし4記載のとおりであるから,本件各処分はいずれも適法である。
   したがって,原告の本訴各請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
      広島地方裁判所民事第3部

         裁判長裁判官    山   垣   清   正

             裁判官    田   中   一   隆

             裁判官    武   林   仁   美


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