解説記事2004年11月29日 【編集部レポート】 有償ボランティア活動に対する法人税課税の当否(2004年11月29日号・№092)
編集部レポート
有償ボランティア活動に対する法人税課税の当否
東京高裁は11月17日、NPO法人 流山ユー・アイネットの有償ボランティア活動(「ふれあい事業」)から生じた剰余金に対する法人税課税処分の取消しを求める事件の判決を言い渡しました。相良裁判長は、「現行法の解釈、運用としては、ユー・アイネットの主張を採用することは困難である」などとして、ユー・アイネットの有償ボランティア活動は「請負業」に該当すると判断、控訴人の請求(控訴)を棄却する判決を言い渡しました。
この「流山訴訟」で脚光を浴びた「有償ボランティア活動」とは一体どんなものなのでしょうか?訴訟の概要から、有償ボランティアに対する課税の当否について考えてみましょう。
流山ユー・アイネットの活動概要と訴訟の趣旨は以下のとおりです。これらの前提条件を念頭に、訴訟の流れをみていきましょう。
流山ユー・アイネットの活動概要
■ 設立:平成7年6月18日(NPO法人格取得:平成11年4月26日)
■ 事業内容(平成12年度)
<非収益事業>
・ふれあい事業:相互扶助の精神に基づく会員同士の助け合い活動を支援する事業。1時間当たり600円を協力者に、200円をユー・アイネットに寄付する有償ボランティア活動(〈参考1〉参照)。年間活動実績8,031時間(月間約670時間)
<収益事業>
・介護保険事業:居宅介護支援事業、訪問介護(年間9,982時間)、福祉用具貸付、痴呆対応型共同生活介護
・委託事業:介護予防・生活支援事業(年間1,535時間)、ファミリーサポートセンター事業ほか
■ 会員数:841名
(内訳)友愛会員(時に協力者、時に利用者の双方向性会員)744名、賛助会員97名
訴訟の概要
法人税更正処分取消請求事件
(原訴訟:事件番号 平成14年(行ウ)第32号)平成14年8月8日訴訟提起
(控訴訟:事件番号 平成16年(行コ)第166号)平成16年4月7日控訴提起
■ 被控訴人(松戸税務署長)は控訴人(流山ユー・アイネット)の平成12年度の総所得金額を11,846,001円と認定し、法人税2,911,800円を課税してきたが、このうち、控訴人のふれあい事業から生じた剰余金約227万円に対する課税について、取り消しを求めるもの。

1. 裁判での双方の主張
ふれあい事業は収益事業か否か
◆被告(松戸税務署長)の主張(概要)
(1)原告が行うふれあい事業は「請負業」に該当する収益事業
① ふれあいサービスは家政婦業と同じく仕事の完成を目的とするもの
② 800円はその「報酬」
③ 原告(ユー・アイネット)がサービス提供の当事者
(2)[予備的主張]原告が当事者でないとすれば「周旋業」で200円は周旋の報酬
◆原告(ユー・アイネット)の主張(概要)
(1)ふれあい事業は「請負」に当たらない
① ふれあいサービスは「一定の仕事の完成」を目的とするものではない
② サービスは報酬の支払を伴わない(金員の600円は労働に対する報酬でなくボランティア活動に対する謝礼、200円は原告に対する寄付)
③ 原告はサービス提供の当事者ではない(当事者は提供した会員)
(2)200円はコーディネートの報酬ではなく、原告の事務運営に対する寄付金
2. 千葉地裁判決
千葉地裁(山口博裁判長)は平成16年4月2日、「会員にサービスを提供している主体は原告であり、本件事業は、1時間当たり8点(800円相当)の“ふれあい切符”を販売することによって、一定の役務を提供して対価の支払を受ける法人税法施行令5条1項10号にいう請負業に該当するから、法人税の課税対象となる」との判断を示しました。
(ア)争点
① 法人税法施行令5条1項10号所定の請負業に該当しないか
② ①に該当しないとしても、同項17号所定の周旋業に該当しないか
(イ)裁判所の判断
① 法人税法施行令5条1項10号の「請負」が、民法632条にいう請負と同義ではなく、同法643条の委任及び同法656条の準委任をも含む広義のものであることは明らか
② 本件事業を管理・運営し、会員にサービスを提供している主体は原告である
③ 原告は、協力会員をサービス提供の履行補助者として、自ら会員に対しサービス提供を行っているものと認めるのが相当
④ ふれあい切符の点数と販売価格、その点数の利用方法等が定められていること等に鑑みれば、ふれあい切符は、1点当たり100円相当の換金性のあるサービス利用券であると認めるのが相当
この判決に対し、「ボランティアという名目だからといって、対価を受け取る行為に対する課税処分が取り消されるようでは、課税の公平は保たれるはずもなく、当然の結果」などと支持する有識者も多かった(本誌No.075 田中義幸氏「流山判決が明らかにしたもの」参照)。
3. 東京高裁へ控訴
ユー・アイネットは、原判決を不服として、平成16年4月7日、東京高裁に控訴しました。
◆控訴理由骨子
① 原判決は、控訴人の会員が行う非定形的な助け合いのボランティア活動である援助サービスを「一定の仕事」又は「事務」と解して、法人税法施行令5条1項10号に定める「請負業」に当たると解しているが、これは法令の解釈の誤り、あるいは本件ボランティア活動の実態を誤認したものである
② 原判決は、援助サービスの提供主体を控訴人と解しているが、これは事実誤認で、主体は援助サービスを提供する会員(協力会員)である
③ 原判決は、利用会員が協力会員に謝礼の趣旨で供与する1時間当たり600円のふれあい切符及び会員に託して控訴人に寄付する同200円相当のふれあい切符について、その合計同800円相当分が、控訴人が行った仕事の完成又は事務処理に対する報酬であると認定しているが、これは事実誤認である
4. 東京高裁判決
東京高裁第12民事部(相良朋紀裁判長)は、平成16年11月17日、「立法論として傾聴すべきであるとしても、現行法の解釈、運用としては、その主張を採用することは困難である」などと判示。「ふれあい事業」は法人税法施行令5条1項10号にいう「請負業」に該当すると判断。原審の判断を支持し、控訴人の請求を棄却する判決を言い渡しました。
◆裁判所の判断
(1)「請負業」に該当するか否か
・ユー・アイネットの運用細則において、1点当たり100円相当のふれあい切符を予め購入し、援助サービスの提供を受けた場合には、1時間当たり8点のふれあい切符を公布することなどが定められており、これに従って運用されていることから、本件事業を「請負業」に該当するとした原判決の判断は是認することができる
・精神的交流は援助サービスのいわば究極の目的とされていると理解すべきであって、外形的形態である家事等のサービスを行わなくてもよいとする趣旨ではない。会員の主観的意図はともかく、客観的事業形態を見ると、そのサービスを「請負業」と解するのが相当
(2)事業の主体は誰か
・①援助サービスの運営方法と援助サービスの利用料が運営細則で予め定められていること、②援助サービスによって生じた事故について損害保険に加入していることから、援助サービスの提供の主体は控訴人である
(3)1時間800円のサービス利用料は報酬か否か
・サービスの利用料が利用者の意思ではなく、運営規則で定められていることから、1時間800円のサービス利用料は報酬と認められる
↓
ユー・アイネットやその会員の主観的意図や究極の目的を切り捨てて考えると、外形的形態としては、介護保険事業などと共通する要素があり、多額ではないにしても剰余金を取得している。現行税法上、法人税が課税されることはやむを得ない。ユー・アイネットの主張は、立法論としては傾聴すべきであるとしても、現行法の解釈、運用としては、その主張を採用することはできない。
5. 堀田氏「上告せず、立法活動に全力」
ユー・アイネット理事長で訴訟代理人弁護士である堀田力氏は、判決後の記者会見で、控訴審の判決文中に「会員も利益を得ることが目的ではなくボランティアとして本件事業に参加しているものである」と判示されていることに触れ、「この部分が確保されていれば上告はしないと決めていた。ボランティア性を否定されてしまうと有償ボランティア事業自体が法律違反になる恐れがあった。あとは、税法の問題だけだ。」と話しました。
また、「判決は、有償ボランティア事業を一般の営利企業の事業と同じであるという前提に立って判断されているが、有償ボランティア事業における剰余金は、無償のボランティア行為があってこそのものである。ボランティア性を認めながら「請負業」とする判決には、今なお、承服できないことが多い。」としながら、上告はしないことを明言しています。
堀田氏らは今後、民間公益活動を支援するための「ボランティア認知法:有償ボランティアの受け取る謝礼金(スタイペンド)を認知する立法(下記参照)」の立法活動に全力を挙げる方針です。
「ボランティア認知法」とは?
日本の法律は、サービスの受益者が、ボランティア団体などに支払う「実費負担金」や「謝礼金」のすべてを、労働の対償(労働基準法11条)あるいはサービスの対価(報酬)として扱う構成になっています。「ボランティア認知法」は、ボランティアと労働の区別を各種法令上明確にし、ボランティア活動の活性化を図ろうとするものです。ちなみに、アメリカでは、謝礼金(スタイペンド)は「ボランティア振興法」の中核をなす制度となっています。
有償ボランティア活動に対する法人税課税の当否
東京高裁は11月17日、NPO法人 流山ユー・アイネットの有償ボランティア活動(「ふれあい事業」)から生じた剰余金に対する法人税課税処分の取消しを求める事件の判決を言い渡しました。相良裁判長は、「現行法の解釈、運用としては、ユー・アイネットの主張を採用することは困難である」などとして、ユー・アイネットの有償ボランティア活動は「請負業」に該当すると判断、控訴人の請求(控訴)を棄却する判決を言い渡しました。
この「流山訴訟」で脚光を浴びた「有償ボランティア活動」とは一体どんなものなのでしょうか?訴訟の概要から、有償ボランティアに対する課税の当否について考えてみましょう。
流山ユー・アイネットの活動概要と訴訟の趣旨は以下のとおりです。これらの前提条件を念頭に、訴訟の流れをみていきましょう。
流山ユー・アイネットの活動概要
■ 設立:平成7年6月18日(NPO法人格取得:平成11年4月26日)
■ 事業内容(平成12年度)
<非収益事業>
・ふれあい事業:相互扶助の精神に基づく会員同士の助け合い活動を支援する事業。1時間当たり600円を協力者に、200円をユー・アイネットに寄付する有償ボランティア活動(〈参考1〉参照)。年間活動実績8,031時間(月間約670時間)
<収益事業>
・介護保険事業:居宅介護支援事業、訪問介護(年間9,982時間)、福祉用具貸付、痴呆対応型共同生活介護
・委託事業:介護予防・生活支援事業(年間1,535時間)、ファミリーサポートセンター事業ほか
■ 会員数:841名
(内訳)友愛会員(時に協力者、時に利用者の双方向性会員)744名、賛助会員97名
訴訟の概要
法人税更正処分取消請求事件
(原訴訟:事件番号 平成14年(行ウ)第32号)平成14年8月8日訴訟提起
(控訴訟:事件番号 平成16年(行コ)第166号)平成16年4月7日控訴提起
■ 被控訴人(松戸税務署長)は控訴人(流山ユー・アイネット)の平成12年度の総所得金額を11,846,001円と認定し、法人税2,911,800円を課税してきたが、このうち、控訴人のふれあい事業から生じた剰余金約227万円に対する課税について、取り消しを求めるもの。

1. 裁判での双方の主張
ふれあい事業は収益事業か否か
◆被告(松戸税務署長)の主張(概要)
(1)原告が行うふれあい事業は「請負業」に該当する収益事業
① ふれあいサービスは家政婦業と同じく仕事の完成を目的とするもの
② 800円はその「報酬」
③ 原告(ユー・アイネット)がサービス提供の当事者
(2)[予備的主張]原告が当事者でないとすれば「周旋業」で200円は周旋の報酬
◆原告(ユー・アイネット)の主張(概要)
(1)ふれあい事業は「請負」に当たらない
① ふれあいサービスは「一定の仕事の完成」を目的とするものではない
② サービスは報酬の支払を伴わない(金員の600円は労働に対する報酬でなくボランティア活動に対する謝礼、200円は原告に対する寄付)
③ 原告はサービス提供の当事者ではない(当事者は提供した会員)
(2)200円はコーディネートの報酬ではなく、原告の事務運営に対する寄付金
2. 千葉地裁判決
千葉地裁(山口博裁判長)は平成16年4月2日、「会員にサービスを提供している主体は原告であり、本件事業は、1時間当たり8点(800円相当)の“ふれあい切符”を販売することによって、一定の役務を提供して対価の支払を受ける法人税法施行令5条1項10号にいう請負業に該当するから、法人税の課税対象となる」との判断を示しました。
(ア)争点
① 法人税法施行令5条1項10号所定の請負業に該当しないか
② ①に該当しないとしても、同項17号所定の周旋業に該当しないか
(イ)裁判所の判断
① 法人税法施行令5条1項10号の「請負」が、民法632条にいう請負と同義ではなく、同法643条の委任及び同法656条の準委任をも含む広義のものであることは明らか
② 本件事業を管理・運営し、会員にサービスを提供している主体は原告である
③ 原告は、協力会員をサービス提供の履行補助者として、自ら会員に対しサービス提供を行っているものと認めるのが相当
④ ふれあい切符の点数と販売価格、その点数の利用方法等が定められていること等に鑑みれば、ふれあい切符は、1点当たり100円相当の換金性のあるサービス利用券であると認めるのが相当
この判決に対し、「ボランティアという名目だからといって、対価を受け取る行為に対する課税処分が取り消されるようでは、課税の公平は保たれるはずもなく、当然の結果」などと支持する有識者も多かった(本誌No.075 田中義幸氏「流山判決が明らかにしたもの」参照)。
3. 東京高裁へ控訴
ユー・アイネットは、原判決を不服として、平成16年4月7日、東京高裁に控訴しました。
◆控訴理由骨子
① 原判決は、控訴人の会員が行う非定形的な助け合いのボランティア活動である援助サービスを「一定の仕事」又は「事務」と解して、法人税法施行令5条1項10号に定める「請負業」に当たると解しているが、これは法令の解釈の誤り、あるいは本件ボランティア活動の実態を誤認したものである
② 原判決は、援助サービスの提供主体を控訴人と解しているが、これは事実誤認で、主体は援助サービスを提供する会員(協力会員)である
③ 原判決は、利用会員が協力会員に謝礼の趣旨で供与する1時間当たり600円のふれあい切符及び会員に託して控訴人に寄付する同200円相当のふれあい切符について、その合計同800円相当分が、控訴人が行った仕事の完成又は事務処理に対する報酬であると認定しているが、これは事実誤認である
4. 東京高裁判決
東京高裁第12民事部(相良朋紀裁判長)は、平成16年11月17日、「立法論として傾聴すべきであるとしても、現行法の解釈、運用としては、その主張を採用することは困難である」などと判示。「ふれあい事業」は法人税法施行令5条1項10号にいう「請負業」に該当すると判断。原審の判断を支持し、控訴人の請求を棄却する判決を言い渡しました。
◆裁判所の判断
(1)「請負業」に該当するか否か
・ユー・アイネットの運用細則において、1点当たり100円相当のふれあい切符を予め購入し、援助サービスの提供を受けた場合には、1時間当たり8点のふれあい切符を公布することなどが定められており、これに従って運用されていることから、本件事業を「請負業」に該当するとした原判決の判断は是認することができる
・精神的交流は援助サービスのいわば究極の目的とされていると理解すべきであって、外形的形態である家事等のサービスを行わなくてもよいとする趣旨ではない。会員の主観的意図はともかく、客観的事業形態を見ると、そのサービスを「請負業」と解するのが相当
(2)事業の主体は誰か
・①援助サービスの運営方法と援助サービスの利用料が運営細則で予め定められていること、②援助サービスによって生じた事故について損害保険に加入していることから、援助サービスの提供の主体は控訴人である
(3)1時間800円のサービス利用料は報酬か否か
・サービスの利用料が利用者の意思ではなく、運営規則で定められていることから、1時間800円のサービス利用料は報酬と認められる
↓
ユー・アイネットやその会員の主観的意図や究極の目的を切り捨てて考えると、外形的形態としては、介護保険事業などと共通する要素があり、多額ではないにしても剰余金を取得している。現行税法上、法人税が課税されることはやむを得ない。ユー・アイネットの主張は、立法論としては傾聴すべきであるとしても、現行法の解釈、運用としては、その主張を採用することはできない。
5. 堀田氏「上告せず、立法活動に全力」
ユー・アイネット理事長で訴訟代理人弁護士である堀田力氏は、判決後の記者会見で、控訴審の判決文中に「会員も利益を得ることが目的ではなくボランティアとして本件事業に参加しているものである」と判示されていることに触れ、「この部分が確保されていれば上告はしないと決めていた。ボランティア性を否定されてしまうと有償ボランティア事業自体が法律違反になる恐れがあった。あとは、税法の問題だけだ。」と話しました。
また、「判決は、有償ボランティア事業を一般の営利企業の事業と同じであるという前提に立って判断されているが、有償ボランティア事業における剰余金は、無償のボランティア行為があってこそのものである。ボランティア性を認めながら「請負業」とする判決には、今なお、承服できないことが多い。」としながら、上告はしないことを明言しています。
堀田氏らは今後、民間公益活動を支援するための「ボランティア認知法:有償ボランティアの受け取る謝礼金(スタイペンド)を認知する立法(下記参照)」の立法活動に全力を挙げる方針です。
「ボランティア認知法」とは?
日本の法律は、サービスの受益者が、ボランティア団体などに支払う「実費負担金」や「謝礼金」のすべてを、労働の対償(労働基準法11条)あるいはサービスの対価(報酬)として扱う構成になっています。「ボランティア認知法」は、ボランティアと労働の区別を各種法令上明確にし、ボランティア活動の活性化を図ろうとするものです。ちなみに、アメリカでは、謝礼金(スタイペンド)は「ボランティア振興法」の中核をなす制度となっています。
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