資料2005年11月07日 【会計資料】 棚卸資産の評価基準に関する論点の整理(2005年11月7日号・№137)
棚卸資産の評価基準に関する論点の整理
平成17年10月19日
企業会計基準委員会
目的
1. 本論点整理は、棚卸資産の評価基準を検討するにあたり、原価法と低価法の選択適用を見直すかどうかという論点をはじめとして、棚卸資産の評価基準を低価法とした場合に生ずる論点やその他の論点を示し、今後の議論の整理を図ることを目的としている。当委員会では、本論点整理に寄せられる意見も参考に、棚卸資産の評価基準に関する会計基準等の取りまとめに向けた検討を続けていく予定である。
背景
2. 我が国においては、これまで、取得原価をもって棚卸資産の貸借対照表価額とし(以下「原価法」という。)、時価が取得原価よりも下落した場合には時価による方法を適用して算定すること(以下「低価法」という。)ができるものとされてきた(企業会計原則 第三 貸借対照表原則五A)。このように、棚卸資産の貸借対照表価額に関しては、原価法と低価法の選択適用が認められてきたため、会計方針として、棚卸資産の評価基準及び評価方法を注記するものとされている。
なお、原価法を適用している場合でも、時価が取得原価より著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とする(以下「強制評価減」という。)ものとされている(企業会計原則 第三 貸借対照表原則五A)。
3. 棚卸資産の会計処理については、平成13年11月のテーマ協議会において、レベル2の優先度(比較的優先順位の高いグループであるレベル1以外のグループ)とした提言がなされている。これは、会計処理の継続性が求められるものの、企業により原価法と低価法の選択適用が認められていることに対する是非や、国際的な会計基準との調和の観点から行われた提言と考えられる。テーマ協議会からの提言を踏まえ、当委員会では、棚卸資産の低価法に関する実態調査などの作業を行ってきた。この結果、低価法を採用している企業は、東京証券取引所第1部上場企業の2割から3割程度にとどまっていることが明らかになった(脚注1)。
4. 金融資産や固定資産については、企業会計審議会から平成11年1月に公表された「金融商品に係る会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)や平成14年8月に公表された「固定資産の減損に係る会計基準」により、収益性が低下した場合などにおいて帳簿価額を切り下げる会計処理が行われているが、棚卸資産については、原価法と低価法の選択適用が認められており、新たに定められた会計基準との間に整合性が取れていないと指摘する意見がある。また、棚卸資産に原価法を適用している場合でも、強制評価減により帳簿価額を切り下げる会計処理が行われているが、その適用については裁量の幅が広いのではないかという意見や、原価法における強制評価減と低価法の関係を整理すべきではないかという意見もある。
5. 当委員会では、平成16年9月以降、国際会計基準審議会(IASB)との間で両会計基準のコンバージェンス(統合)に向けた作業を取り進めており、検討すべき項目の1つとして、棚卸資産の評価基準を採り上げている。これは、国際的な会計基準においては、原価法と低価法の選択適用ではなく低価法によることから、会計基準の国際的調和を図るうえでも検討すべき論点であると考えられたためである。
6. このような状況に鑑み、当委員会では、平成17年4月に棚卸資産専門委員会を設置し、学識経験者を含む専門委員による討議や参考人として専門委員以外の財務諸表作成者の意見を聴取するなど幅広く審議し、棚卸資産の評価基準に関する論点について検討を重ねてきた。今般、当委員会では、これまでの議論を論点整理として公表し、今後、棚卸資産の評価基準に関する会計基準の取りまとめに資するよう、広く意見を求めることとした。
7. なお、我が国の会計基準を設定するにあたって、概念フレームワークを明文化する必要性が各方面から指摘されたのを受け、当委員会は、外部の研究者を中心としたワーキング・グループを組織して、その問題の検討を委託し、平成16年9月に討議資料『財務会計の概念フレームワーク』を公表している。この討議資料に示されているのは、当委員会の見解ではなく、当委員会に報告される当ワーキング・グループの見解であるものの、今後の基準設定の過程で有用性をテストされ、市場関係者等の意見を受けてさらに整備・改善されれば、いずれはデファクト・スタンダードとしての性格を持つことが期待されている。このため、本論点整理を検討するにあたり、当委員会では、この討議資料の一部も素材として議論を重ねた。
検討範囲
棚卸資産の範囲
8. 企業会計原則においては、「商品、製品、原材料、仕掛品等」を棚卸資産として扱うとされているが、昭和37年8月に企業会計審議会から公表されている「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書 第四 棚卸資産の評価について」(以下「連続意見書第四」という。)においては、棚卸資産の範囲として含まれるものは、次のいずれかに該当する財貨又は用役であるとされている。
(1)通常の営業過程において販売するために保有する財貨又は用役
(2)販売を目的として現に製造中の財貨又は用役
(3)販売目的の財貨又は用役を生産するために短期間に消費されるべき財貨
(4)販売活動及び一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨
連続意見書第四では、(4)のように、棚卸資産には、事務用消耗品等の販売活動及び一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨も含まれるとしている点で、国際的な会計基準と必ずしも同じではないと考えられる。このような財貨は、製造用以外のものであっても、短期的に消費される点や実務上の便宜が考慮され、棚卸資産に含められている。ただし、このような財貨は、一般に重要性が乏しいと考えられる。
9. 我が国においては、販売用不動産及び未成工事支出金とも棚卸資産の範囲に含められている(連続意見書第四)。このうち販売用不動産に関して、国際会計基準では棚卸資産の範囲に含まれると解されている(国際会計基準(IAS)第2号)が、米国基準では棚卸資産を有形の動産に限定し不動産を含めていない。もっとも米国基準において、販売用不動産の評価については発生が見込まれる減損損失を計上することとされている(財務会計基準書(FAS)第67号)。
また、未成工事支出金に関して、国際的な会計基準では、棚卸資産としてではなく、発注者への債権として取り扱われている(IAS第11号、会計研究公報(ARB)第45号)。
10. このように、細部での相違はあるものの、国際的な会計基準と我が国における棚卸資産の範囲は、ほぼ等しいと考えられるため、この点について、国際的調和を図るための検討は、必ずしも必要ないものと考えられる。本論点整理における棚卸資産の範囲は、連続意見書第四に示す棚卸資産の範囲と同じものとして、以下の論点を検討するものとする。
検討対象から除く資産
11. 有価証券業者が通常の営業過程において販売するために保有する有価証券は、販売目的の財貨という意味では、棚卸資産の範囲に含まれるとも解されるが、その会計処理は、売買目的有価証券として金融商品会計基準に定められているため、本論点整理の検討対象外としている。
12. また、市場販売目的及び自社利用のソフトウェアの制作費については、「研究開発費等に係る会計基準」において無形固定資産の区分に計上することとされ、その会計処理が定められているため、本論点整理の検討対象外としている(受注製作のソフトウェアについては、請負工事の会計処理に準じた処理を行うこととされているため、本論点整理の検討対象に含まれる。)。
論点
【論点1】原価法と低価法の選択適用の見直し
現行の会計基準における棚卸資産の評価基準の考え方
13. 連続意見書第四において、棚卸資産の評価基準が、原則として取得原価基準とされているのは、棚卸資産の原価を当期の実現収益に対応させることにより、適正な期間損益計算を行うことを重視しているためと考えられる。そこでは、ある期間の損益が、将来の販売時点の損失など他の期間に帰属すべき損益によってゆがめられてはならないと考えられ、原価法こそが期間損益計算の観点からは適切であり、原則的な方法であると位置付けられてきた。
14. しかしながら、連続意見書第四では、以下の理由により、低価法は、原価法に対する例外として容認されている。
(1)低価主義は、期間損益計算の見地からすると合理性をもたないが、しかしそれは広く各国において古くから行われてきた慣行的評価思考であり、現在でも実務界から広く支持されている。
(2)低価基準を適用することによって、それが通常の営業過程においていくばくの資金に転化するかを示すことも、ある意味では有用である。
(3)各国の税法も低価基準の適用に伴う評価損を例外なく課税所得の計算上損金に算入する建前をとっている。
このように我が国における低価法の論拠は、一般に、期末に保有する棚卸資産に関して将来の損失が見込まれるときには、損失を早期に計上すべきという保守主義の原則にあるものとされてきた。
国際的な会計基準における棚卸資産の評価基準の考え方
15. これに対し、国際的な会計基準では、以下のように、低価法が原則とされている。
(1)米国基準においては、低価法を原価法の例外ではなく、原価基準のひとつの適用形態とみていることにより、選択適用ではなく、原則とされていると考えられる。すなわち、低価法は、棚卸資産の時価が取得原価よりも下落したときに当該下落分を取得原価から控除する会計処理であり、当該時価の下落による損失を下落が生じた期の費用とすることにより、将来の収益に対応させるべき原価を貸借対照表に計上する考え方である。
(2)国際会計基準においても低価法が適用されるが、これは、「棚卸資産を原価から正味実現可能価額まで評価減する方法は、資産をその販売又は利用によって実現すると見込まれる額を超えて評価すべきではないという考えと首尾一貫している」(IAS第2号)ことによる。
原価法における強制評価減の位置付け
16. 我が国においては、原価法を採用している場合でも、時価が著しく下落した棚卸資産について、時価の回復可能性が認められないときには、強制評価減が適用されているため、棚卸資産の評価基準を検討するにあたっては、低価法と強制評価減の関係も整理する必要がある。
(1)まず、現行の会計基準においては、原則的な会計処理である原価法に強制評価減が含まれている。このような定めが現行の会計基準に導入された経緯は、昭和37年の商法改正により資産評価の一般原則として、それまでの時価以下主義に代わり取得原価主義による流動資産の評価原則が新設された際に強制評価減が定められたことに伴い、翌年の企業会計原則の修正において強制評価減の定めが含められたものである。この点に関しては、商法の強行法規性に鑑み、企業会計原則の修正が行われたとする意見が多い。
(2)しかしながら、この強制評価減を含む原価法の会計処理は、会計慣行として広く定着している。このため、会計上も流動資産の時価が著しく下落した場合には、当該下落部分については通常資産性が乏しいと考え、原価法の下においても当該資産の評価損を計上することが適当であると考えられている。
(3)この強制評価減に関しては、①時価が著しく下落していること、②回復可能性が認められないことの2つの要件を満たすことが、棚卸資産に係る収益性が低下したかどうかを判断する1つの規準であるという見方がある。こういう観点に立てば、取得原価基準の下で収益性が低下した場合には、棚卸資産に関しても強制的に帳簿価額を切り下げるという考え方が既に確立されていると考えられる(第20項から第23項参照)。この場合には、むしろ、どのように収益性の低下を判断するかに関し、①時価が著しく下落していること、②回復可能性が認められないことという規準を再検討する必要はないかという問題と言い換えることができる。
17. 強制評価減における回復可能性が認められないことという規準に関しては、時価は将来に関する市場の平均的な予測を反映しており、その反騰可能性を客観的に予測することはできないのではないか、もしそれが可能なら裁定が行われ、時価はただちに修正されるはずではないかという指摘もある。
また、時価の下落に対しては、低価法の採用が認められている一方、原価法を採用している場合でも強制評価減が適用されることから、時価の下落に関し複数の会計処理の原則又は手続が認められていることについて比較可能性を図るべきではないかという意見もある。
低価法を原価法の例外とする位置付けに対する見方
18. 第14項で示されたように、我が国においては、低価法は原価法に対する例外と位置付けられているが、このような考え方に対しては、次に掲げる2つの問題があるのではないかという見方がある。
第1の問題は、低価法を原価法に対する例外と位置付ける考え方は、取得原価基準の本質を、ともかくも名目上の取得原価で据え置くことであるという理解に基づいたものと思われることである。しかし、取得原価基準は、将来の収益を生み出すという意味において有用な原価だけを繰り越そうとする考え方であるとすれば、むしろ強制的な帳簿価額の切下げと両立するものとみることもできる。
第2の問題は、低価法を原価法に対する例外と位置付ける考え方は、連続意見書第四が公表された時期、すなわち、債権の貸倒見積高の算定や固定資産の減損処理などの簿価切下げに関する会計基準が整備されていなかった頃に支配的だったものではないかということである。今日では簿価切下げに関する会計処理が広く受け入れられており、その事実に照らして考えてみると、むしろ現行の会計基準では一定の条件のもとでの簿価切下げを必要としているという解釈の方が適切であると考えられる。
19. 現行の会計基準における簿価切下げの会計処理としては、以下のものが挙げられる。
(1)固定資産の減損処理
(2)品質低下・陳腐化が生じた棚卸資産の評価損
(3)棚卸資産の強制評価減
(4)債権の貸倒見積高の算定
(5)売買目的以外の有価証券の減損処理
(6)支出の効果が期待されなくなったことによる繰延資産の一時的償却
収益性の低下と帳簿価額の切下げ
20. 第18項に示したような現行の会計基準に見られる考え方を敷衍するならば、棚卸資産についても、品質低下や陳腐化が生じた場合に限らず、収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合には、広く一般に、帳簿価額を切り下げる必要が生じるのではないかと考えられる。固定資産の減損処理などについて明確な定めを欠いていた時代にはともかく、今日では、収益性の低下した資産については、基本的に、その帳簿価額を何らかの形で切り下げることになっていると考えられる。
21. それぞれの資産の会計処理は、基本的に、投資の性質に対応して定められていると考えられることから、収益性の低下の有無についても、投資が回収される形態に応じて判断することが考えられる。ここで棚卸資産の投資回収形態の特徴は、固定資産のように使用(場合によっては売却)、債権のように契約(場合によっては売却)を通じて投下資金の回収を図ることは想定されておらず、専ら販売によってのみ資金の回収を図る点にある。このような投資の回収形態の特徴を踏まえると、評価時点における資金回収額を示す棚卸資産の時価が、その帳簿価額を下回っているときには、収益性が低下していると考えられる。
22. 投資が回収される形態に応じて判断する考え方に基づいた場合、現行の他の簿価切下げルールが、具体的には、どのような事実に照らし合わせて、収益性の低下を判断していると捉えられるかを示したのが、<表1>である。固定資産については、減損の兆候のある資産又は資産グループについて、当該資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額がこれらの帳簿価額を下回る場合には、収益性が低下していると判断され、減損損失の認識を行うこととされている。市場価格のない債券又は債権については、債務者区分に応じ、貸倒懸念債権や破産更生債権等に該当するときには収益性の低下が生じていると判断され、貸倒見積高の算定を行うこととされている。また、その他有価証券(株式)に関しては、投下資金の回収は、保有を通じた関係や売却・配当によることが想定されるが、その場合でも時価が著しく下落したときには、回復する見込があると認められる場合を除き、収益性の低下が生じていると判断され、当該時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額を当期の損失とすることが求められている。

棚卸資産については、販売により投下資金の回収を図るため、時価が帳簿価額よりも低下しているときには、収益性が低下しているとみて、原則として帳簿価額を時価まで切り下げることが他の会計基準における考え方とも整合的であると考えられる。
23. 本論点整理では、原価法における強制評価減の位置付けや低価法を原価法に対する例外としている考え方の背景等を考察したうえで、近年整備されてきた会計基準との整合性を踏まえると、収益性が低下した場合には帳簿価額を切り下げるという考え方を、棚卸資産についても適用することが妥当ではないかと考えている。このような考え方は、基本的に、原価法ではなく低価法を適用する会計処理と同様の結果をもたらすものと考えられるが、さらに、棚卸資産の評価基準に関するこのような考え方を整理しつつ、引き続き検討するものとする。
なお、以下の論点(【論点2】から【論点7】)は、収益性が低下した場合に帳簿価額を切り下げるという考え方を採ったことを前提に整理されている。また、以下の論点では、この考え方による会計処理を、便宜的に低価法と呼ぶこととするが、これは、必ずしもこれまでの低価法における具体的な会計処理と同じものではないことに留意する必要がある。
【論点2】低価法の適用除外とする場合
検討事項
24. 収益性の低下に基づいて低価法を適用すると考える場合、時価の下落が収益性の低下に結びつかないときには、帳簿価額を時価まで切り下げる必要はないと考えられる。これには、例えば、販売金額が契約により決定している場合、一定の売価決定計算式により利幅が確保されている場合、及びそもそも販売による投下資金の回収を前提としていない、販売活動及び一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨(第8項参照)などが、時価が下落しても収益性の低下と結びつかないような状況として想定される。
25. また、収益性の低下に基づいて低価法を適用するにあたっても、時価が回復する可能性が高い場合には、帳簿価額を時価まで切り下げる必要はないという意見がある。例えば、期末日において時価が回復する可能性が高い場合とは、期末日における時価の下落が一時的であると認められる場合や、期末日直後の売却により収益性の低下のなかったことが事後的に明らかになった場合などが考えられる。しかし、これについては、事後的に明らかになった場合を除き、そもそも時価の回復可能性を客観的に予測することはできないのではないかという意見もある(第17項参照)。
26. その他、建設業における未成工事支出金やその他の請負契約における仕掛品等に関しては、低価法を適用すべきではないという意見もある。すなわち、未成工事支出金等に関しては、第9項で示したように本論点整理では棚卸資産としているが、請負契約に基づく発注者に対する債権の性格を有していることや、これらに対しては工事損失引当金等を計上することをもって、低価法の適用は不要であるとの見方である。ただし、工事損失引当金等を計上する会計処理が、会計慣行として定着しているかどうかに関して、疑問視する見方もある。これらの見方も含めて、低価法の適用除外について、引き続き検討するものとする。
27. なお、低価法を適用する棚卸資産の時価が帳簿価額よりも低下しているが、当該棚卸資産に関して、例えば、先物売建(固定価格の受取)契約を締結している場合などヘッジ会計を適用している場合にはどのように処理するのかという論点がある。この点については、ヘッジ対象の一部が消滅したため、当該部分につき、ヘッジの終了として、繰延処理されているデリバティブ損益を当期の損益とすることで既に対応がなされていると考えられる。
【論点3】低価法適用時の時価
検討事項
28. 低価法適用時の時価としては、一般に正味実現可能価額と再調達原価があるとされるが、いずれの時価を採用すべきかは、簿価切下げの論拠(第20項から第23項参照)と関連して決まるのか、それとも無関係に決まるのかという論点がある。また、それ以外に、時価として用いることが可能なものがあるのかという論点もある。なお、通常、時価とは公正な評価額であり、正味実現可能価額や再調達原価は、個々の企業により異なるため、時価には含まれないという意見もあるが、本論点整理では、これらを広く時価として取り扱うこととする。
本論点整理において、正味実現可能価額とは、購買市場と売却市場とが区別される場合において、売却市場(当該資産を売却処分する場合に参加する市場)で成立している価格から見積販売経費(アフター・コストを含む)を控除したものという意味で用いており、再調達原価とは、購買市場と売却市場とが区別される場合において、購買市場(当該資産を購入し直す場合に参加する市場)で成立している価格という意味で用いている。
どのような時価が適当かに関しては、次に示すような整理も踏まえて、引き続き検討するものとする。
正味実現可能価額
29. 国際会計基準に見られるように、販売によってのみ投下資金の回収が図られるという特徴を有する棚卸資産の場合、評価時点における回収額を示す時価は、正味実現可能価額が最も整合的であると考えられる。
30. 期末に保有する棚卸資産に係る将来の損失を早期に計上すべしという、連続意見書第四に見られるような保守主義の考え方においても、「決算時の売価からアフター・コストを差し引いた価額、すなわち正味実現可能価額」(連続意見書第四)が採用すべき最も適当な時価とされている。
31. また、収益性が低下した資産からは、もはや売却により資本のコストすら回収できないとみて、この場合の有用な原価は、その後に見込まれる会計上の利益がゼロになるよう、将来における販売時の正味実現可能価額とすることが考えられる。
この立場には、収益性が低下したにもかかわらず、投資を中断することなく操業が継続されているような資産は、その形態どおり同じ投資が続いているとみて、資本のコストに見合う額が回収できるよう、将来の正味実現可能価額を資本のコストで現在価値に割り引いた額まで引き下げる考え方や、短期間の投資である点に鑑みて、それを正味実現可能価額そのものに置き換えるという考え方も含まれる。
32. なお、評価時点における正味実現可能価額が把握できない場合、代替的な方法として、直近の販売価格を参照することが実務上行われている。その際、期末日近くに販売実績がない場合には、どの程度まで実際の販売価格を遡って参照することが適当といえるかという論点があるが、正常営業循環期間内の実績販売価格まで遡ることは適当だとしても、それを超えて遡ることは適当とはいえないという意見がある。また、通常、正常営業循環期間内に販売される量を超えて棚卸資産を保有しているときには、当該棚卸資産は、陳腐化しているケースが多いのではないかという指摘もある。
再調達原価
33. 米国基準に見られるように、低価法は棚卸資産の原価に残存する有用性を表現する手段であると解釈し、その有用性は通常の営業過程において、その取得のために支出しなければならない価額であるとする立場からは、再調達原価への簿価切下げが意味を有すると考えられる。
34. また、収益性が低下したにもかかわらず、投資を中断することなく操業が継続されているような資産は、実質的に新たな投資に切り替えられた(いったん売却し、再投資された)とみて、本来の投資と同様に、正常利益を将来生み出すようにするべきであるとすれば、再調達原価まで引き下げることが考えられる。
35. なお、低価法を適用し、正味実現可能価額を採用することが適当である場合であっても、以下の実務上の要請により、再調達原価が採用される場合がある。
(1)製造業における原材料等の購入品の時価としては、再調達原価の方が把握しやすいこと(連続意見書第四)
(2)再調達原価を低価法適用時の時価とする法人税法の取扱いを考慮
その他の時価
36. 再調達原価の代替として簡便的に用いられるものとして、最終取得原価(期末日に最も近い実際取得原価であるが、その場合でも正常営業循環期間内の実際取得原価に限定することが適切といえるのではないか。)や、正味実現可能価額から正常利益を控除した金額を利用することも考えられる。
37. 期末時の時価の把握に際しては、実務上、期末日における突発的な価格変動の影響を回避するため、期末月の平均時価が採用される場合がある。
38. さらに、合理的に参照できる時価が存在しないと認められる場合には、信頼性をもって低価法評価損を測定することができないため、取得原価を時価とみなすという意見がある。このように合理的に参照できる時価が存在しないようなときでも、既に当該棚卸資産の陳腐化が生じていることが多く、実務上は、原価法を採用している企業においても陳腐化評価損としてゼロ又は備忘価額まで帳簿価額を切り下げている場合が少なくないと考えられる。また、実務上、陳腐化評価損を計上するとしても、低価法評価損と明確に判別することはできない場合が多いという意見(第61項参照)や、陳腐化評価損の計上にあたっては、一定期間経過後や一定の回転率を超過した部分について規則的な方法により帳簿価額を切り下げるようなケースも見受けられることから、このような方法も代替的に認められるのではないかという意見もある。
【論点4】洗替え法と切放し法
検討事項
39. 低価法を適用し、前期末において計上した低価法評価損を戻し入れるかどうかについては、洗替え法と切放し法がある。洗替え法は、当該棚卸資産の期首棚卸高について簿価切下前の原初取得原価を採る方法であるのに対し、切放し法は、前期末に低価法を適用し評価損を計上した場合において、当該棚卸資産の期首棚卸高について前期末における簿価切下後の帳簿価額を採る方法である。本論点整理では、洗替え法を採用するか切放し法を採用するかについて、以下のように簿価切下げの論拠との関係(第41項及び第42項参照)及び採用する時価との関係(第43項及び第44項参照)に依存するかどうかという観点から整理しているものの、その他の観点も含め、引き続き検討する。
現行の会計基準における取扱い
40. 現行の会計基準においては、洗替え法と切放し法の両方が認められている。保守主義に低価法の論拠を求めた場合には、一度簿価切下げをして評価損に計上した分が再び資産性を持つのは不合理であることから、時価が回復してもそれを考慮しない方法(切放し法)が妥当とされている。ただし、実務上、切放し法は、個々の棚卸資産の単価を修正する必要があるため手続が煩雑であるという指摘や、取得原価ベースの計算を基本とする法人税法でも洗替え法が原則とされ、一定の要件を満たしたときにおいてのみ切放し法が認められている(脚注2)という事情に配慮し、企業の選択によりいずれの方法を採用することも認められている。
簿価切下げの論拠との関係
41. 本論点整理では、棚卸資産における収益性の低下の有無の判断については、期末日時点で時価が帳簿価額を下回っているか否かによっており、損失発生の可能性の高さを要件としていないため、事後的に時価が回復する可能性は否めない。そのため、事後的に時価が回復し、収益性の低下という事実が解消された段階では、前期末の評価損を戻し入れることも否定されないものと考えられる。
42. 現行の会計基準に見られる簿価切下げのうち固定資産の減損処理、売買目的以外の有価証券の減損処理及び棚卸資産の強制評価減については、帳簿価額を時価に付け替えて取得原価を修正することが必要であるとされており、戻入れは行わず、切放し法によっている。これらの場合も、投資の回収形態に応じて収益性の低下の有無が判断されていると考えられるが、その適用にあたっては、損失発生の可能性が高く、確実な場合にのみ帳簿価額を切り下げることとしているため、切放し法としているものと考えられる。
時価との関係
43. 収益性が低下した資産について正味実現可能価額を用いる場合(第29項及び第31項参照)、少なくとも収益性が回復した場合に、その回復を反映させない(戻入れはしない)と言い切ることは困難と思われる。なお、国際会計基準においては、時価が回復した場合には、帳簿価額まで過去の評価損を戻し入れることとされている。
44. 一方、再調達原価を用いる場合、収益性が低下したにもかかわらず、投資を中断することなく操業が継続されているような資産は、新たな投資に切り替えられたとみているとすれば、戻入れは行われないこととなる(第34項参照)。米国基準においては、このような考え方により、切放し法とされている。
【論点5】低価法の適用単位(グルーピングの可否)
検討事項
45. 棚卸資産に係る投資の成果は、通常、個別品目ごとに販売された時点で確定される。そのため低価法の適用単位も個別品目ごとであるのが原則であると考えられる。もっとも棚卸資産の受払単位を個別品目ではなく、一定のグループで行っている場合、低価法を適用する単位もグループによることは問題ない。
46. 一方、在庫評価のための受払計算は、個別品目ごとに行っているものの、低価法適用に際して、グルーピングが認められるかどうかという議論がある。
47. グルーピングに積極的な意義付けができる場合としては、例えば補完的な関係にある複数商品の販売を行っている企業において、いずれか一方の販売だけでは正常な水準を超えるような収益は見込めないような場合がある。
それ以外のグルーピング、例えば、地域別セグメント、事業の種類別セグメント、材料・仕掛品・製品という棚卸資産の種類ごとに低価法を適用することは、どこまで認められるかという点が問題となる。連続意見書第四においては、個々の品目ごと、グループ又は全品目一括のいずれを低価法の適用単位とするかは、いずれの方法を採れば期間損益を最も適切に表現することになるかという観点から選択すべきとされており、例えば、ある製品種類に使われる材料と当該製品種類の仕掛品及び製品在庫はこれを1グループとして低価の事実の有無をみることが妥当であるが、全品目を一括して原価時価比較を行う方法は多くの場合妥当ではないとされている。低価法の適用単位は、どのような考え方に基づくのか、グルーピングはどこまで認められるのかに関して、引き続き検討する。
48. なお、法人税法においては、低価法における低価の事実の判定単位は、評価額(原価)の計算単位ごとに行う方法が原則だが、商品又は製品、半製品、仕掛品、主要原材料及び補助原材料の5つに区分し、この区分ごとに判定することも認められている。この例外規定の適用は、その性質上、洗替え法にのみ認められている。
国際的な会計基準における取扱い
49. 国際会計基準においては、棚卸資産は、通常、個別品目ごとに正味実現可能価額まで評価減するのを原則としているものの、同種又は関連品目グループごとに行うことが適切な状況もあるとされている。反対に、例えば、製品のような棚卸資産の分類、又は特定の産業セグメント若しくは地域別セグメントごとのすべての棚卸資産を基礎として評価減を行うことは適切ではないとされている。
50. 米国会計基準においては、低価法は、棚卸資産の性格や構成に従い、個別品目ごと、棚卸資産の分類別、棚卸資産全体を基準に適切に適用されるべきであるとしている(ARB第43号)。この基準では、低価法のグルーピングについて以上のように言及しているが、原則・例外についての特段の規定はない。
【論点6】評価方法と低価法の適用
後入先出法と低価法
51. 評価方法として後入先出法(脚注3)を採用し、評価基準として低価法を採用する場合には、切放し法と洗替え法の両方が認められている。この点に関しては、次の考え方も踏まえ、引き続き検討する。
52. 法人税法では、後入先出法に基づく低価法の場合、洗替え法は認められるものの、切放し法は認められていない。切放し法が認められていない理由は、この組合せを採用する場合、低価法適用による未実現損失がいつまでも実現損失にならない可能性があることや、価格上昇期に棚卸資産による益金が発生せず、価格下落期には損金の計上を認めることとなり、他の評価方法を採用する納税者に比べて有利になるからとされている。そのため、低価法評価損の戻入れ処理において、仮に切放し法のみを唯一の方法とした場合には、評価方法の見直しや申告調整への対応を迫られる企業(脚注4)が出てくることが想定される。
53. この点に関しては、「後入先出法の精神は、棚卸資産の正常在高について価格変動損益を期間損益から中和化させることにあり、正常在高をこえる在高については価格変動損益の中和化を図ろうとするものではないから、超過在高の評価額が時価をこえる場合には評価切下げを行うことを容認すべきである」という意見もある(連続意見書第四 注解(注7))。
売価還元法と低価法
54. 小売業等の業種においては、棚卸資産の評価方法として売価還元法を採用しているケースが多く、この場合、評価基準として大半が原価法を採用しており、低価法を採用している企業はごく少数である。いずれの場合でも、棚卸資産の期末帳簿価額は、1つのグループに属する期末棚卸資産の売価合計額に原価率を乗じることにより算定され、当該原価率は、通常、以下のように連続意見書第四に定める方法によっているものと思われる。
<売価還元平均原価法の原価率>
期首繰越商品原価+当期受入原価総額
=------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
期首繰越商品小売価額+当期受入原価総額+原始値入額+値上額-値上取消額-値下額+値下取消額
<売価還元低価法の原価率>
期首繰越商品原価+当期受入原価総額
=-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
期首繰越商品小売価額+当期受入原価総額+原始値入額+値上額-値上取消額
また、ほとんどすべての値下額及び値下取消額が期中に販売済みの棚卸資産に係るものであり、多くの期末棚卸資産が原始値入時点から値下げされていない状況では、むしろ売価還元低価法の適用が妥当と考えられる。これは、期末棚卸資産の売価合計額に売価還元平均原価法による原価率を乗じて計算した原価が、期末棚卸資産の取得原価を上回ることがあると考えられるためである。
55. 低価法のみを評価方法とした場合には、上記の売価還元低価法を採用することとなるという意見の他、売価還元平均原価法を採用しても実勢売価が値札に適切に反映され、かつ原価率が100%を超えない限り、売却による回収見込額は、期末帳簿価額よりも大きいことから、売価還元平均原価法を適用することで問題ないという意見がある。この点に関しては、引き続き検討する。
【論点7】損益計算書における低価法評価損の計上区分
検討事項
56. 損益計算書において、低価法評価損、強制評価減及び品質低下・陳腐化評価損は、原則として、以下のように表示するものとされている(企業会計原則注解(注10))。
(1)低価法評価損:売上原価の内訳科目又は営業外費用
(2)強制評価減:営業外費用又は特別損失
(3)品質低下・陳腐化評価損
① 原価性を有する場合:製造原価、売上原価の内訳科目又は販売費
② 原価性を有しない場合:営業外費用又は特別損失
棚卸資産の簿価切下額の損益計算書上の計上区分に関しては、低価法のみを評価基準とした際には、上記の表示方法を見直す必要があると考えられる。本論点整理では、①低価法評価損の計上区分(第57項及び第58項)、②強制評価減の計上区分(第59項)及び③品質低下・陳腐化評価損の計上区分(第60項及び第61項)について整理しているが、引き続き検討するものとする。
低価法評価損の計上区分
57. 現行の会計基準において、低価法評価損が、原則として売上原価の内訳科目又は営業外費用に計上することとされている背景には、低価法が保守主義から根拠付けられ、原価法との選択適用とされていることがあると考えられる。すなわち、期間損益計算の観点から低価法が位置付けられているわけではないことから、当期の収益との対応関係がないものとして、その簿価切下額は、損益計算書上、営業外費用に計上することが許容されていると考えられる。
58. しかしながら、収益性の低下があったときに帳簿価額を切り下げる立場から低価法を適用する場合には、低価法評価損を営業外費用に計上することを積極的に支持し得る根拠を見出しにくいと考えられる。棚卸資産が販売された場合に、投資の成果を確定するため売上に対応する払出分を売上原価に計上するのと同じように、時価が帳簿価額よりも下落した金額に関しても、売上原価に計上することが妥当と考えられる。
強制評価減の計上区分
59. 本論点整理では、強制評価減は原価法を採用した場合においてのみ成り立つものと考え、低価法を採用する場合には、時価が帳簿価額よりも下落したときには、その差額はすべて低価法評価損として扱われるものと想定している。現在でも低価法を採用している企業にあっては、既にこの状態になっているはずであり、低価法を適用する際には、簿価切下額を強制評価減として営業外費用又は特別損失に計上することは不要になるものと考えられる。
品質低下・陳腐化評価損の計上区分
60. 低価法評価損と品質低下・陳腐化評価損に関する相違は、それぞれの価値低下の原因が異なることによると考えられる。
(1)低価法評価損は、当該棚卸資産の属する市場の需給の変化に基づく価値低下による。
(2)陳腐化評価損は、ライフサイクルの変化に基づく価値低下による。
(3)品質低下評価損は、損傷、品質低下といった棚卸資産の劣化に基づく価値低下による。
61. 低価法の論拠を収益性の低下という観点から捉えても、低価法評価損と品質低下・陳腐化評価損の間には、生ずる原因の相違が存在することから、両者で損益計算書の計上区分が異なっても、それは経済実態が異なることに起因するものであるという意見がある。しかし、実務上、特に低価法評価損と陳腐化評価損を明確に判別することはできず、低価法評価損の中に陳腐化評価損が含まれてしまうケースも多いと思われるため、損益計算書における両者の計上区分を同じにすべきという意見もある。さらに、品質低下評価損についても、実務上、低価法評価損や陳腐化評価損との区別が困難な場合もあることから、損益計算書におけるこれらの計上区分を同じにすべきという意見もある。
適用初年度の取扱い
62. 低価法のみを評価基準とする場合において、適用初年度に評価損が多額に発生し、それが期首の棚卸資産に係るものである場合、当該評価損は過年度の損益であるため、特別損失に計上することも認められるべきであるとの意見もある。
国際的な会計基準における取扱い
63. 米国基準においては、低価法適用による評価損(品質低下・陳腐化評価損を含む。)は、通常、売上原価として処理されている。
また、国際会計基準においては、棚卸資産評価損は費用として認識すべきとされている。なお、国際会計基準では、特別損益項目への計上・注記が禁止されていること、棚卸資産の正味実現可能価額への評価減(及び評価減の戻入れ)は個別に開示しなければならないこととされている。
【論点8】金融投資と考えられる棚卸資産の時価評価
検討事項
64. 企業の投資は、一般に金融投資と事業投資に大別され、金融投資とは、売買目的有価証券のように時価の変動により利益を得ることを目的としており、売買市場が整備され、また、売却することについて事業遂行上の制約がないものである。このような金融投資は、時価の変動が事前に期待した成果に対応する事実と考えられるため、時価評価と時価の変動に基づく損益認識が意味を持つものとされる(「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書」Ⅲ三及び四参照)。他方、事業投資とは、売却することについて事業遂行上の制約があり、また、事前に期待される成果が時価の変動よりもその後に生ずる資金の獲得であるため、その事実を待って投資の実績を把握することが適当であるとされる(「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」六参照)。
65. 現行の会計基準では、金融投資に該当すると考えられるトレーディング目的の金地金等の現物商品(コモディティ)についても、棚卸資産であり金融資産ではないことから、時価評価はできないと解されている。
棚卸資産として取り扱われている現物商品の中には、流動性が高く時価を容易に算定できる市場の存在を前提に、当該市場での価格の変動に基づいて利益を獲得するために先物取引等と組み合わされ、同一現物商品について反復的な購入と売却が行われているものがあり、これは、売買目的有価証券と同様に、金融投資としての側面が強い。そのような棚卸資産については、低価法の適用による評価損の計上は認められるものの、評価益の計上については、流動資産の評価に関する規定(商法施行規則第28条)から、時価評価し、評価差額を当期の損益とする処理はできないものと考えられる。この点に関しては、商法上の制約が将来にわたっても存続するかどうかを見守りつつ、引き続き検討する。

国際的な会計基準における取扱い
66. 米国会計基準では、例外的に貴金属や農産物等の取得原価を超えて評価される棚卸資産に言及している(ARB第43号)。貴金属のように、マーケティングに多額のコストをかけなくとも一定の貨幣価値があるものは、その貨幣価値で評価されるものとしている。このような例外的な測定をする条件として、市場価格での即時の売却可能性、交換可能性の特徴が挙げられており、また、この場合には、取得原価を超えて評価された対象物の開示が求められている。
67. 国際会計基準では、コモディティのブローカーやトレーダーの保有する一定の棚卸資産は、測定の適用外として、販売費用控除後の公正価値で評価し、その変動額は発生時の損益として認識することとされている。ここでいう棚卸資産は、主に近い将来に売却し、価格の変動による利益又はブローカーやトレーダーの利ざやを目的として取得されたものや、農林業製品及び鉱物製品など時価評価が十分に慣行として確立された業界において生産者の保有するものである。また、販売費用控除後の公正価値で計上した棚卸資産の帳簿価額については、開示が求められている。
(脚注)
1 棚卸資産の種類により、原価法と低価法のいずれも採用している企業があるため、厳密な社数ではなく、割合で示している。
2 法人税法上、後入先出法を基礎とする低価法にあっては、切放し法を採用することは認められていない。
3 国際会計基準(IAS第2号)において、棚卸資産の評価方法として後入先出法は認められていない。なお、後入先出法を含む棚卸資産の評価方法に関する検討は、本論点整理の対象とはされておらず、他の機会に委ねられている。
4 一部でも後入先出法を採用している企業は、東証第1部上場企業のうち40社程度である。
上記資料は、(財)財務会計基準機構のホームページより同財団の許可を得て転載しています。なお、同財団の公表物は、著作権等により保護されており、同財団の許可なく複写・転載等は禁じられています。利用等に当たっては、同財団事務局(tel:03-5510-2711)へご連絡下さい。
平成17年10月19日
企業会計基準委員会
目的
1. 本論点整理は、棚卸資産の評価基準を検討するにあたり、原価法と低価法の選択適用を見直すかどうかという論点をはじめとして、棚卸資産の評価基準を低価法とした場合に生ずる論点やその他の論点を示し、今後の議論の整理を図ることを目的としている。当委員会では、本論点整理に寄せられる意見も参考に、棚卸資産の評価基準に関する会計基準等の取りまとめに向けた検討を続けていく予定である。
背景
2. 我が国においては、これまで、取得原価をもって棚卸資産の貸借対照表価額とし(以下「原価法」という。)、時価が取得原価よりも下落した場合には時価による方法を適用して算定すること(以下「低価法」という。)ができるものとされてきた(企業会計原則 第三 貸借対照表原則五A)。このように、棚卸資産の貸借対照表価額に関しては、原価法と低価法の選択適用が認められてきたため、会計方針として、棚卸資産の評価基準及び評価方法を注記するものとされている。
なお、原価法を適用している場合でも、時価が取得原価より著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とする(以下「強制評価減」という。)ものとされている(企業会計原則 第三 貸借対照表原則五A)。
3. 棚卸資産の会計処理については、平成13年11月のテーマ協議会において、レベル2の優先度(比較的優先順位の高いグループであるレベル1以外のグループ)とした提言がなされている。これは、会計処理の継続性が求められるものの、企業により原価法と低価法の選択適用が認められていることに対する是非や、国際的な会計基準との調和の観点から行われた提言と考えられる。テーマ協議会からの提言を踏まえ、当委員会では、棚卸資産の低価法に関する実態調査などの作業を行ってきた。この結果、低価法を採用している企業は、東京証券取引所第1部上場企業の2割から3割程度にとどまっていることが明らかになった(脚注1)。
4. 金融資産や固定資産については、企業会計審議会から平成11年1月に公表された「金融商品に係る会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。)や平成14年8月に公表された「固定資産の減損に係る会計基準」により、収益性が低下した場合などにおいて帳簿価額を切り下げる会計処理が行われているが、棚卸資産については、原価法と低価法の選択適用が認められており、新たに定められた会計基準との間に整合性が取れていないと指摘する意見がある。また、棚卸資産に原価法を適用している場合でも、強制評価減により帳簿価額を切り下げる会計処理が行われているが、その適用については裁量の幅が広いのではないかという意見や、原価法における強制評価減と低価法の関係を整理すべきではないかという意見もある。
5. 当委員会では、平成16年9月以降、国際会計基準審議会(IASB)との間で両会計基準のコンバージェンス(統合)に向けた作業を取り進めており、検討すべき項目の1つとして、棚卸資産の評価基準を採り上げている。これは、国際的な会計基準においては、原価法と低価法の選択適用ではなく低価法によることから、会計基準の国際的調和を図るうえでも検討すべき論点であると考えられたためである。
6. このような状況に鑑み、当委員会では、平成17年4月に棚卸資産専門委員会を設置し、学識経験者を含む専門委員による討議や参考人として専門委員以外の財務諸表作成者の意見を聴取するなど幅広く審議し、棚卸資産の評価基準に関する論点について検討を重ねてきた。今般、当委員会では、これまでの議論を論点整理として公表し、今後、棚卸資産の評価基準に関する会計基準の取りまとめに資するよう、広く意見を求めることとした。
7. なお、我が国の会計基準を設定するにあたって、概念フレームワークを明文化する必要性が各方面から指摘されたのを受け、当委員会は、外部の研究者を中心としたワーキング・グループを組織して、その問題の検討を委託し、平成16年9月に討議資料『財務会計の概念フレームワーク』を公表している。この討議資料に示されているのは、当委員会の見解ではなく、当委員会に報告される当ワーキング・グループの見解であるものの、今後の基準設定の過程で有用性をテストされ、市場関係者等の意見を受けてさらに整備・改善されれば、いずれはデファクト・スタンダードとしての性格を持つことが期待されている。このため、本論点整理を検討するにあたり、当委員会では、この討議資料の一部も素材として議論を重ねた。
検討範囲
棚卸資産の範囲
8. 企業会計原則においては、「商品、製品、原材料、仕掛品等」を棚卸資産として扱うとされているが、昭和37年8月に企業会計審議会から公表されている「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書 第四 棚卸資産の評価について」(以下「連続意見書第四」という。)においては、棚卸資産の範囲として含まれるものは、次のいずれかに該当する財貨又は用役であるとされている。
(1)通常の営業過程において販売するために保有する財貨又は用役
(2)販売を目的として現に製造中の財貨又は用役
(3)販売目的の財貨又は用役を生産するために短期間に消費されるべき財貨
(4)販売活動及び一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨
連続意見書第四では、(4)のように、棚卸資産には、事務用消耗品等の販売活動及び一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨も含まれるとしている点で、国際的な会計基準と必ずしも同じではないと考えられる。このような財貨は、製造用以外のものであっても、短期的に消費される点や実務上の便宜が考慮され、棚卸資産に含められている。ただし、このような財貨は、一般に重要性が乏しいと考えられる。
9. 我が国においては、販売用不動産及び未成工事支出金とも棚卸資産の範囲に含められている(連続意見書第四)。このうち販売用不動産に関して、国際会計基準では棚卸資産の範囲に含まれると解されている(国際会計基準(IAS)第2号)が、米国基準では棚卸資産を有形の動産に限定し不動産を含めていない。もっとも米国基準において、販売用不動産の評価については発生が見込まれる減損損失を計上することとされている(財務会計基準書(FAS)第67号)。
また、未成工事支出金に関して、国際的な会計基準では、棚卸資産としてではなく、発注者への債権として取り扱われている(IAS第11号、会計研究公報(ARB)第45号)。
10. このように、細部での相違はあるものの、国際的な会計基準と我が国における棚卸資産の範囲は、ほぼ等しいと考えられるため、この点について、国際的調和を図るための検討は、必ずしも必要ないものと考えられる。本論点整理における棚卸資産の範囲は、連続意見書第四に示す棚卸資産の範囲と同じものとして、以下の論点を検討するものとする。
検討対象から除く資産
11. 有価証券業者が通常の営業過程において販売するために保有する有価証券は、販売目的の財貨という意味では、棚卸資産の範囲に含まれるとも解されるが、その会計処理は、売買目的有価証券として金融商品会計基準に定められているため、本論点整理の検討対象外としている。
12. また、市場販売目的及び自社利用のソフトウェアの制作費については、「研究開発費等に係る会計基準」において無形固定資産の区分に計上することとされ、その会計処理が定められているため、本論点整理の検討対象外としている(受注製作のソフトウェアについては、請負工事の会計処理に準じた処理を行うこととされているため、本論点整理の検討対象に含まれる。)。
論点
【論点1】原価法と低価法の選択適用の見直し
現行の会計基準における棚卸資産の評価基準の考え方
13. 連続意見書第四において、棚卸資産の評価基準が、原則として取得原価基準とされているのは、棚卸資産の原価を当期の実現収益に対応させることにより、適正な期間損益計算を行うことを重視しているためと考えられる。そこでは、ある期間の損益が、将来の販売時点の損失など他の期間に帰属すべき損益によってゆがめられてはならないと考えられ、原価法こそが期間損益計算の観点からは適切であり、原則的な方法であると位置付けられてきた。
14. しかしながら、連続意見書第四では、以下の理由により、低価法は、原価法に対する例外として容認されている。
(1)低価主義は、期間損益計算の見地からすると合理性をもたないが、しかしそれは広く各国において古くから行われてきた慣行的評価思考であり、現在でも実務界から広く支持されている。
(2)低価基準を適用することによって、それが通常の営業過程においていくばくの資金に転化するかを示すことも、ある意味では有用である。
(3)各国の税法も低価基準の適用に伴う評価損を例外なく課税所得の計算上損金に算入する建前をとっている。
このように我が国における低価法の論拠は、一般に、期末に保有する棚卸資産に関して将来の損失が見込まれるときには、損失を早期に計上すべきという保守主義の原則にあるものとされてきた。
国際的な会計基準における棚卸資産の評価基準の考え方
15. これに対し、国際的な会計基準では、以下のように、低価法が原則とされている。
(1)米国基準においては、低価法を原価法の例外ではなく、原価基準のひとつの適用形態とみていることにより、選択適用ではなく、原則とされていると考えられる。すなわち、低価法は、棚卸資産の時価が取得原価よりも下落したときに当該下落分を取得原価から控除する会計処理であり、当該時価の下落による損失を下落が生じた期の費用とすることにより、将来の収益に対応させるべき原価を貸借対照表に計上する考え方である。
(2)国際会計基準においても低価法が適用されるが、これは、「棚卸資産を原価から正味実現可能価額まで評価減する方法は、資産をその販売又は利用によって実現すると見込まれる額を超えて評価すべきではないという考えと首尾一貫している」(IAS第2号)ことによる。
原価法における強制評価減の位置付け
16. 我が国においては、原価法を採用している場合でも、時価が著しく下落した棚卸資産について、時価の回復可能性が認められないときには、強制評価減が適用されているため、棚卸資産の評価基準を検討するにあたっては、低価法と強制評価減の関係も整理する必要がある。
(1)まず、現行の会計基準においては、原則的な会計処理である原価法に強制評価減が含まれている。このような定めが現行の会計基準に導入された経緯は、昭和37年の商法改正により資産評価の一般原則として、それまでの時価以下主義に代わり取得原価主義による流動資産の評価原則が新設された際に強制評価減が定められたことに伴い、翌年の企業会計原則の修正において強制評価減の定めが含められたものである。この点に関しては、商法の強行法規性に鑑み、企業会計原則の修正が行われたとする意見が多い。
(2)しかしながら、この強制評価減を含む原価法の会計処理は、会計慣行として広く定着している。このため、会計上も流動資産の時価が著しく下落した場合には、当該下落部分については通常資産性が乏しいと考え、原価法の下においても当該資産の評価損を計上することが適当であると考えられている。
(3)この強制評価減に関しては、①時価が著しく下落していること、②回復可能性が認められないことの2つの要件を満たすことが、棚卸資産に係る収益性が低下したかどうかを判断する1つの規準であるという見方がある。こういう観点に立てば、取得原価基準の下で収益性が低下した場合には、棚卸資産に関しても強制的に帳簿価額を切り下げるという考え方が既に確立されていると考えられる(第20項から第23項参照)。この場合には、むしろ、どのように収益性の低下を判断するかに関し、①時価が著しく下落していること、②回復可能性が認められないことという規準を再検討する必要はないかという問題と言い換えることができる。
17. 強制評価減における回復可能性が認められないことという規準に関しては、時価は将来に関する市場の平均的な予測を反映しており、その反騰可能性を客観的に予測することはできないのではないか、もしそれが可能なら裁定が行われ、時価はただちに修正されるはずではないかという指摘もある。
また、時価の下落に対しては、低価法の採用が認められている一方、原価法を採用している場合でも強制評価減が適用されることから、時価の下落に関し複数の会計処理の原則又は手続が認められていることについて比較可能性を図るべきではないかという意見もある。
低価法を原価法の例外とする位置付けに対する見方
18. 第14項で示されたように、我が国においては、低価法は原価法に対する例外と位置付けられているが、このような考え方に対しては、次に掲げる2つの問題があるのではないかという見方がある。
第1の問題は、低価法を原価法に対する例外と位置付ける考え方は、取得原価基準の本質を、ともかくも名目上の取得原価で据え置くことであるという理解に基づいたものと思われることである。しかし、取得原価基準は、将来の収益を生み出すという意味において有用な原価だけを繰り越そうとする考え方であるとすれば、むしろ強制的な帳簿価額の切下げと両立するものとみることもできる。
第2の問題は、低価法を原価法に対する例外と位置付ける考え方は、連続意見書第四が公表された時期、すなわち、債権の貸倒見積高の算定や固定資産の減損処理などの簿価切下げに関する会計基準が整備されていなかった頃に支配的だったものではないかということである。今日では簿価切下げに関する会計処理が広く受け入れられており、その事実に照らして考えてみると、むしろ現行の会計基準では一定の条件のもとでの簿価切下げを必要としているという解釈の方が適切であると考えられる。
19. 現行の会計基準における簿価切下げの会計処理としては、以下のものが挙げられる。
(1)固定資産の減損処理
(2)品質低下・陳腐化が生じた棚卸資産の評価損
(3)棚卸資産の強制評価減
(4)債権の貸倒見積高の算定
(5)売買目的以外の有価証券の減損処理
(6)支出の効果が期待されなくなったことによる繰延資産の一時的償却
収益性の低下と帳簿価額の切下げ
20. 第18項に示したような現行の会計基準に見られる考え方を敷衍するならば、棚卸資産についても、品質低下や陳腐化が生じた場合に限らず、収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合には、広く一般に、帳簿価額を切り下げる必要が生じるのではないかと考えられる。固定資産の減損処理などについて明確な定めを欠いていた時代にはともかく、今日では、収益性の低下した資産については、基本的に、その帳簿価額を何らかの形で切り下げることになっていると考えられる。
21. それぞれの資産の会計処理は、基本的に、投資の性質に対応して定められていると考えられることから、収益性の低下の有無についても、投資が回収される形態に応じて判断することが考えられる。ここで棚卸資産の投資回収形態の特徴は、固定資産のように使用(場合によっては売却)、債権のように契約(場合によっては売却)を通じて投下資金の回収を図ることは想定されておらず、専ら販売によってのみ資金の回収を図る点にある。このような投資の回収形態の特徴を踏まえると、評価時点における資金回収額を示す棚卸資産の時価が、その帳簿価額を下回っているときには、収益性が低下していると考えられる。
22. 投資が回収される形態に応じて判断する考え方に基づいた場合、現行の他の簿価切下げルールが、具体的には、どのような事実に照らし合わせて、収益性の低下を判断していると捉えられるかを示したのが、<表1>である。固定資産については、減損の兆候のある資産又は資産グループについて、当該資産又は資産グループから得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額がこれらの帳簿価額を下回る場合には、収益性が低下していると判断され、減損損失の認識を行うこととされている。市場価格のない債券又は債権については、債務者区分に応じ、貸倒懸念債権や破産更生債権等に該当するときには収益性の低下が生じていると判断され、貸倒見積高の算定を行うこととされている。また、その他有価証券(株式)に関しては、投下資金の回収は、保有を通じた関係や売却・配当によることが想定されるが、その場合でも時価が著しく下落したときには、回復する見込があると認められる場合を除き、収益性の低下が生じていると判断され、当該時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額を当期の損失とすることが求められている。

棚卸資産については、販売により投下資金の回収を図るため、時価が帳簿価額よりも低下しているときには、収益性が低下しているとみて、原則として帳簿価額を時価まで切り下げることが他の会計基準における考え方とも整合的であると考えられる。
23. 本論点整理では、原価法における強制評価減の位置付けや低価法を原価法に対する例外としている考え方の背景等を考察したうえで、近年整備されてきた会計基準との整合性を踏まえると、収益性が低下した場合には帳簿価額を切り下げるという考え方を、棚卸資産についても適用することが妥当ではないかと考えている。このような考え方は、基本的に、原価法ではなく低価法を適用する会計処理と同様の結果をもたらすものと考えられるが、さらに、棚卸資産の評価基準に関するこのような考え方を整理しつつ、引き続き検討するものとする。
なお、以下の論点(【論点2】から【論点7】)は、収益性が低下した場合に帳簿価額を切り下げるという考え方を採ったことを前提に整理されている。また、以下の論点では、この考え方による会計処理を、便宜的に低価法と呼ぶこととするが、これは、必ずしもこれまでの低価法における具体的な会計処理と同じものではないことに留意する必要がある。
【論点2】低価法の適用除外とする場合
検討事項
24. 収益性の低下に基づいて低価法を適用すると考える場合、時価の下落が収益性の低下に結びつかないときには、帳簿価額を時価まで切り下げる必要はないと考えられる。これには、例えば、販売金額が契約により決定している場合、一定の売価決定計算式により利幅が確保されている場合、及びそもそも販売による投下資金の回収を前提としていない、販売活動及び一般管理活動において短期間に消費されるべき財貨(第8項参照)などが、時価が下落しても収益性の低下と結びつかないような状況として想定される。
25. また、収益性の低下に基づいて低価法を適用するにあたっても、時価が回復する可能性が高い場合には、帳簿価額を時価まで切り下げる必要はないという意見がある。例えば、期末日において時価が回復する可能性が高い場合とは、期末日における時価の下落が一時的であると認められる場合や、期末日直後の売却により収益性の低下のなかったことが事後的に明らかになった場合などが考えられる。しかし、これについては、事後的に明らかになった場合を除き、そもそも時価の回復可能性を客観的に予測することはできないのではないかという意見もある(第17項参照)。
26. その他、建設業における未成工事支出金やその他の請負契約における仕掛品等に関しては、低価法を適用すべきではないという意見もある。すなわち、未成工事支出金等に関しては、第9項で示したように本論点整理では棚卸資産としているが、請負契約に基づく発注者に対する債権の性格を有していることや、これらに対しては工事損失引当金等を計上することをもって、低価法の適用は不要であるとの見方である。ただし、工事損失引当金等を計上する会計処理が、会計慣行として定着しているかどうかに関して、疑問視する見方もある。これらの見方も含めて、低価法の適用除外について、引き続き検討するものとする。
27. なお、低価法を適用する棚卸資産の時価が帳簿価額よりも低下しているが、当該棚卸資産に関して、例えば、先物売建(固定価格の受取)契約を締結している場合などヘッジ会計を適用している場合にはどのように処理するのかという論点がある。この点については、ヘッジ対象の一部が消滅したため、当該部分につき、ヘッジの終了として、繰延処理されているデリバティブ損益を当期の損益とすることで既に対応がなされていると考えられる。
【論点3】低価法適用時の時価
検討事項
28. 低価法適用時の時価としては、一般に正味実現可能価額と再調達原価があるとされるが、いずれの時価を採用すべきかは、簿価切下げの論拠(第20項から第23項参照)と関連して決まるのか、それとも無関係に決まるのかという論点がある。また、それ以外に、時価として用いることが可能なものがあるのかという論点もある。なお、通常、時価とは公正な評価額であり、正味実現可能価額や再調達原価は、個々の企業により異なるため、時価には含まれないという意見もあるが、本論点整理では、これらを広く時価として取り扱うこととする。
本論点整理において、正味実現可能価額とは、購買市場と売却市場とが区別される場合において、売却市場(当該資産を売却処分する場合に参加する市場)で成立している価格から見積販売経費(アフター・コストを含む)を控除したものという意味で用いており、再調達原価とは、購買市場と売却市場とが区別される場合において、購買市場(当該資産を購入し直す場合に参加する市場)で成立している価格という意味で用いている。
どのような時価が適当かに関しては、次に示すような整理も踏まえて、引き続き検討するものとする。
正味実現可能価額
29. 国際会計基準に見られるように、販売によってのみ投下資金の回収が図られるという特徴を有する棚卸資産の場合、評価時点における回収額を示す時価は、正味実現可能価額が最も整合的であると考えられる。
30. 期末に保有する棚卸資産に係る将来の損失を早期に計上すべしという、連続意見書第四に見られるような保守主義の考え方においても、「決算時の売価からアフター・コストを差し引いた価額、すなわち正味実現可能価額」(連続意見書第四)が採用すべき最も適当な時価とされている。
31. また、収益性が低下した資産からは、もはや売却により資本のコストすら回収できないとみて、この場合の有用な原価は、その後に見込まれる会計上の利益がゼロになるよう、将来における販売時の正味実現可能価額とすることが考えられる。
この立場には、収益性が低下したにもかかわらず、投資を中断することなく操業が継続されているような資産は、その形態どおり同じ投資が続いているとみて、資本のコストに見合う額が回収できるよう、将来の正味実現可能価額を資本のコストで現在価値に割り引いた額まで引き下げる考え方や、短期間の投資である点に鑑みて、それを正味実現可能価額そのものに置き換えるという考え方も含まれる。
32. なお、評価時点における正味実現可能価額が把握できない場合、代替的な方法として、直近の販売価格を参照することが実務上行われている。その際、期末日近くに販売実績がない場合には、どの程度まで実際の販売価格を遡って参照することが適当といえるかという論点があるが、正常営業循環期間内の実績販売価格まで遡ることは適当だとしても、それを超えて遡ることは適当とはいえないという意見がある。また、通常、正常営業循環期間内に販売される量を超えて棚卸資産を保有しているときには、当該棚卸資産は、陳腐化しているケースが多いのではないかという指摘もある。
再調達原価
33. 米国基準に見られるように、低価法は棚卸資産の原価に残存する有用性を表現する手段であると解釈し、その有用性は通常の営業過程において、その取得のために支出しなければならない価額であるとする立場からは、再調達原価への簿価切下げが意味を有すると考えられる。
34. また、収益性が低下したにもかかわらず、投資を中断することなく操業が継続されているような資産は、実質的に新たな投資に切り替えられた(いったん売却し、再投資された)とみて、本来の投資と同様に、正常利益を将来生み出すようにするべきであるとすれば、再調達原価まで引き下げることが考えられる。
35. なお、低価法を適用し、正味実現可能価額を採用することが適当である場合であっても、以下の実務上の要請により、再調達原価が採用される場合がある。
(1)製造業における原材料等の購入品の時価としては、再調達原価の方が把握しやすいこと(連続意見書第四)
(2)再調達原価を低価法適用時の時価とする法人税法の取扱いを考慮
その他の時価
36. 再調達原価の代替として簡便的に用いられるものとして、最終取得原価(期末日に最も近い実際取得原価であるが、その場合でも正常営業循環期間内の実際取得原価に限定することが適切といえるのではないか。)や、正味実現可能価額から正常利益を控除した金額を利用することも考えられる。
37. 期末時の時価の把握に際しては、実務上、期末日における突発的な価格変動の影響を回避するため、期末月の平均時価が採用される場合がある。
38. さらに、合理的に参照できる時価が存在しないと認められる場合には、信頼性をもって低価法評価損を測定することができないため、取得原価を時価とみなすという意見がある。このように合理的に参照できる時価が存在しないようなときでも、既に当該棚卸資産の陳腐化が生じていることが多く、実務上は、原価法を採用している企業においても陳腐化評価損としてゼロ又は備忘価額まで帳簿価額を切り下げている場合が少なくないと考えられる。また、実務上、陳腐化評価損を計上するとしても、低価法評価損と明確に判別することはできない場合が多いという意見(第61項参照)や、陳腐化評価損の計上にあたっては、一定期間経過後や一定の回転率を超過した部分について規則的な方法により帳簿価額を切り下げるようなケースも見受けられることから、このような方法も代替的に認められるのではないかという意見もある。
【論点4】洗替え法と切放し法
検討事項
39. 低価法を適用し、前期末において計上した低価法評価損を戻し入れるかどうかについては、洗替え法と切放し法がある。洗替え法は、当該棚卸資産の期首棚卸高について簿価切下前の原初取得原価を採る方法であるのに対し、切放し法は、前期末に低価法を適用し評価損を計上した場合において、当該棚卸資産の期首棚卸高について前期末における簿価切下後の帳簿価額を採る方法である。本論点整理では、洗替え法を採用するか切放し法を採用するかについて、以下のように簿価切下げの論拠との関係(第41項及び第42項参照)及び採用する時価との関係(第43項及び第44項参照)に依存するかどうかという観点から整理しているものの、その他の観点も含め、引き続き検討する。
現行の会計基準における取扱い
40. 現行の会計基準においては、洗替え法と切放し法の両方が認められている。保守主義に低価法の論拠を求めた場合には、一度簿価切下げをして評価損に計上した分が再び資産性を持つのは不合理であることから、時価が回復してもそれを考慮しない方法(切放し法)が妥当とされている。ただし、実務上、切放し法は、個々の棚卸資産の単価を修正する必要があるため手続が煩雑であるという指摘や、取得原価ベースの計算を基本とする法人税法でも洗替え法が原則とされ、一定の要件を満たしたときにおいてのみ切放し法が認められている(脚注2)という事情に配慮し、企業の選択によりいずれの方法を採用することも認められている。
簿価切下げの論拠との関係
41. 本論点整理では、棚卸資産における収益性の低下の有無の判断については、期末日時点で時価が帳簿価額を下回っているか否かによっており、損失発生の可能性の高さを要件としていないため、事後的に時価が回復する可能性は否めない。そのため、事後的に時価が回復し、収益性の低下という事実が解消された段階では、前期末の評価損を戻し入れることも否定されないものと考えられる。
42. 現行の会計基準に見られる簿価切下げのうち固定資産の減損処理、売買目的以外の有価証券の減損処理及び棚卸資産の強制評価減については、帳簿価額を時価に付け替えて取得原価を修正することが必要であるとされており、戻入れは行わず、切放し法によっている。これらの場合も、投資の回収形態に応じて収益性の低下の有無が判断されていると考えられるが、その適用にあたっては、損失発生の可能性が高く、確実な場合にのみ帳簿価額を切り下げることとしているため、切放し法としているものと考えられる。
時価との関係
43. 収益性が低下した資産について正味実現可能価額を用いる場合(第29項及び第31項参照)、少なくとも収益性が回復した場合に、その回復を反映させない(戻入れはしない)と言い切ることは困難と思われる。なお、国際会計基準においては、時価が回復した場合には、帳簿価額まで過去の評価損を戻し入れることとされている。
44. 一方、再調達原価を用いる場合、収益性が低下したにもかかわらず、投資を中断することなく操業が継続されているような資産は、新たな投資に切り替えられたとみているとすれば、戻入れは行われないこととなる(第34項参照)。米国基準においては、このような考え方により、切放し法とされている。
【論点5】低価法の適用単位(グルーピングの可否)
検討事項
45. 棚卸資産に係る投資の成果は、通常、個別品目ごとに販売された時点で確定される。そのため低価法の適用単位も個別品目ごとであるのが原則であると考えられる。もっとも棚卸資産の受払単位を個別品目ではなく、一定のグループで行っている場合、低価法を適用する単位もグループによることは問題ない。
46. 一方、在庫評価のための受払計算は、個別品目ごとに行っているものの、低価法適用に際して、グルーピングが認められるかどうかという議論がある。
47. グルーピングに積極的な意義付けができる場合としては、例えば補完的な関係にある複数商品の販売を行っている企業において、いずれか一方の販売だけでは正常な水準を超えるような収益は見込めないような場合がある。
それ以外のグルーピング、例えば、地域別セグメント、事業の種類別セグメント、材料・仕掛品・製品という棚卸資産の種類ごとに低価法を適用することは、どこまで認められるかという点が問題となる。連続意見書第四においては、個々の品目ごと、グループ又は全品目一括のいずれを低価法の適用単位とするかは、いずれの方法を採れば期間損益を最も適切に表現することになるかという観点から選択すべきとされており、例えば、ある製品種類に使われる材料と当該製品種類の仕掛品及び製品在庫はこれを1グループとして低価の事実の有無をみることが妥当であるが、全品目を一括して原価時価比較を行う方法は多くの場合妥当ではないとされている。低価法の適用単位は、どのような考え方に基づくのか、グルーピングはどこまで認められるのかに関して、引き続き検討する。
48. なお、法人税法においては、低価法における低価の事実の判定単位は、評価額(原価)の計算単位ごとに行う方法が原則だが、商品又は製品、半製品、仕掛品、主要原材料及び補助原材料の5つに区分し、この区分ごとに判定することも認められている。この例外規定の適用は、その性質上、洗替え法にのみ認められている。
国際的な会計基準における取扱い
49. 国際会計基準においては、棚卸資産は、通常、個別品目ごとに正味実現可能価額まで評価減するのを原則としているものの、同種又は関連品目グループごとに行うことが適切な状況もあるとされている。反対に、例えば、製品のような棚卸資産の分類、又は特定の産業セグメント若しくは地域別セグメントごとのすべての棚卸資産を基礎として評価減を行うことは適切ではないとされている。
50. 米国会計基準においては、低価法は、棚卸資産の性格や構成に従い、個別品目ごと、棚卸資産の分類別、棚卸資産全体を基準に適切に適用されるべきであるとしている(ARB第43号)。この基準では、低価法のグルーピングについて以上のように言及しているが、原則・例外についての特段の規定はない。
【論点6】評価方法と低価法の適用
後入先出法と低価法
51. 評価方法として後入先出法(脚注3)を採用し、評価基準として低価法を採用する場合には、切放し法と洗替え法の両方が認められている。この点に関しては、次の考え方も踏まえ、引き続き検討する。
52. 法人税法では、後入先出法に基づく低価法の場合、洗替え法は認められるものの、切放し法は認められていない。切放し法が認められていない理由は、この組合せを採用する場合、低価法適用による未実現損失がいつまでも実現損失にならない可能性があることや、価格上昇期に棚卸資産による益金が発生せず、価格下落期には損金の計上を認めることとなり、他の評価方法を採用する納税者に比べて有利になるからとされている。そのため、低価法評価損の戻入れ処理において、仮に切放し法のみを唯一の方法とした場合には、評価方法の見直しや申告調整への対応を迫られる企業(脚注4)が出てくることが想定される。
53. この点に関しては、「後入先出法の精神は、棚卸資産の正常在高について価格変動損益を期間損益から中和化させることにあり、正常在高をこえる在高については価格変動損益の中和化を図ろうとするものではないから、超過在高の評価額が時価をこえる場合には評価切下げを行うことを容認すべきである」という意見もある(連続意見書第四 注解(注7))。
売価還元法と低価法
54. 小売業等の業種においては、棚卸資産の評価方法として売価還元法を採用しているケースが多く、この場合、評価基準として大半が原価法を採用しており、低価法を採用している企業はごく少数である。いずれの場合でも、棚卸資産の期末帳簿価額は、1つのグループに属する期末棚卸資産の売価合計額に原価率を乗じることにより算定され、当該原価率は、通常、以下のように連続意見書第四に定める方法によっているものと思われる。
<売価還元平均原価法の原価率>
期首繰越商品原価+当期受入原価総額
=------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
期首繰越商品小売価額+当期受入原価総額+原始値入額+値上額-値上取消額-値下額+値下取消額
<売価還元低価法の原価率>
期首繰越商品原価+当期受入原価総額
=-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
期首繰越商品小売価額+当期受入原価総額+原始値入額+値上額-値上取消額
また、ほとんどすべての値下額及び値下取消額が期中に販売済みの棚卸資産に係るものであり、多くの期末棚卸資産が原始値入時点から値下げされていない状況では、むしろ売価還元低価法の適用が妥当と考えられる。これは、期末棚卸資産の売価合計額に売価還元平均原価法による原価率を乗じて計算した原価が、期末棚卸資産の取得原価を上回ることがあると考えられるためである。
55. 低価法のみを評価方法とした場合には、上記の売価還元低価法を採用することとなるという意見の他、売価還元平均原価法を採用しても実勢売価が値札に適切に反映され、かつ原価率が100%を超えない限り、売却による回収見込額は、期末帳簿価額よりも大きいことから、売価還元平均原価法を適用することで問題ないという意見がある。この点に関しては、引き続き検討する。
【論点7】損益計算書における低価法評価損の計上区分
検討事項
56. 損益計算書において、低価法評価損、強制評価減及び品質低下・陳腐化評価損は、原則として、以下のように表示するものとされている(企業会計原則注解(注10))。
(1)低価法評価損:売上原価の内訳科目又は営業外費用
(2)強制評価減:営業外費用又は特別損失
(3)品質低下・陳腐化評価損
① 原価性を有する場合:製造原価、売上原価の内訳科目又は販売費
② 原価性を有しない場合:営業外費用又は特別損失
棚卸資産の簿価切下額の損益計算書上の計上区分に関しては、低価法のみを評価基準とした際には、上記の表示方法を見直す必要があると考えられる。本論点整理では、①低価法評価損の計上区分(第57項及び第58項)、②強制評価減の計上区分(第59項)及び③品質低下・陳腐化評価損の計上区分(第60項及び第61項)について整理しているが、引き続き検討するものとする。
低価法評価損の計上区分
57. 現行の会計基準において、低価法評価損が、原則として売上原価の内訳科目又は営業外費用に計上することとされている背景には、低価法が保守主義から根拠付けられ、原価法との選択適用とされていることがあると考えられる。すなわち、期間損益計算の観点から低価法が位置付けられているわけではないことから、当期の収益との対応関係がないものとして、その簿価切下額は、損益計算書上、営業外費用に計上することが許容されていると考えられる。
58. しかしながら、収益性の低下があったときに帳簿価額を切り下げる立場から低価法を適用する場合には、低価法評価損を営業外費用に計上することを積極的に支持し得る根拠を見出しにくいと考えられる。棚卸資産が販売された場合に、投資の成果を確定するため売上に対応する払出分を売上原価に計上するのと同じように、時価が帳簿価額よりも下落した金額に関しても、売上原価に計上することが妥当と考えられる。
強制評価減の計上区分
59. 本論点整理では、強制評価減は原価法を採用した場合においてのみ成り立つものと考え、低価法を採用する場合には、時価が帳簿価額よりも下落したときには、その差額はすべて低価法評価損として扱われるものと想定している。現在でも低価法を採用している企業にあっては、既にこの状態になっているはずであり、低価法を適用する際には、簿価切下額を強制評価減として営業外費用又は特別損失に計上することは不要になるものと考えられる。
品質低下・陳腐化評価損の計上区分
60. 低価法評価損と品質低下・陳腐化評価損に関する相違は、それぞれの価値低下の原因が異なることによると考えられる。
(1)低価法評価損は、当該棚卸資産の属する市場の需給の変化に基づく価値低下による。
(2)陳腐化評価損は、ライフサイクルの変化に基づく価値低下による。
(3)品質低下評価損は、損傷、品質低下といった棚卸資産の劣化に基づく価値低下による。
61. 低価法の論拠を収益性の低下という観点から捉えても、低価法評価損と品質低下・陳腐化評価損の間には、生ずる原因の相違が存在することから、両者で損益計算書の計上区分が異なっても、それは経済実態が異なることに起因するものであるという意見がある。しかし、実務上、特に低価法評価損と陳腐化評価損を明確に判別することはできず、低価法評価損の中に陳腐化評価損が含まれてしまうケースも多いと思われるため、損益計算書における両者の計上区分を同じにすべきという意見もある。さらに、品質低下評価損についても、実務上、低価法評価損や陳腐化評価損との区別が困難な場合もあることから、損益計算書におけるこれらの計上区分を同じにすべきという意見もある。
適用初年度の取扱い
62. 低価法のみを評価基準とする場合において、適用初年度に評価損が多額に発生し、それが期首の棚卸資産に係るものである場合、当該評価損は過年度の損益であるため、特別損失に計上することも認められるべきであるとの意見もある。
国際的な会計基準における取扱い
63. 米国基準においては、低価法適用による評価損(品質低下・陳腐化評価損を含む。)は、通常、売上原価として処理されている。
また、国際会計基準においては、棚卸資産評価損は費用として認識すべきとされている。なお、国際会計基準では、特別損益項目への計上・注記が禁止されていること、棚卸資産の正味実現可能価額への評価減(及び評価減の戻入れ)は個別に開示しなければならないこととされている。
【論点8】金融投資と考えられる棚卸資産の時価評価
検討事項
64. 企業の投資は、一般に金融投資と事業投資に大別され、金融投資とは、売買目的有価証券のように時価の変動により利益を得ることを目的としており、売買市場が整備され、また、売却することについて事業遂行上の制約がないものである。このような金融投資は、時価の変動が事前に期待した成果に対応する事実と考えられるため、時価評価と時価の変動に基づく損益認識が意味を持つものとされる(「金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書」Ⅲ三及び四参照)。他方、事業投資とは、売却することについて事業遂行上の制約があり、また、事前に期待される成果が時価の変動よりもその後に生ずる資金の獲得であるため、その事実を待って投資の実績を把握することが適当であるとされる(「固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書」六参照)。
65. 現行の会計基準では、金融投資に該当すると考えられるトレーディング目的の金地金等の現物商品(コモディティ)についても、棚卸資産であり金融資産ではないことから、時価評価はできないと解されている。
棚卸資産として取り扱われている現物商品の中には、流動性が高く時価を容易に算定できる市場の存在を前提に、当該市場での価格の変動に基づいて利益を獲得するために先物取引等と組み合わされ、同一現物商品について反復的な購入と売却が行われているものがあり、これは、売買目的有価証券と同様に、金融投資としての側面が強い。そのような棚卸資産については、低価法の適用による評価損の計上は認められるものの、評価益の計上については、流動資産の評価に関する規定(商法施行規則第28条)から、時価評価し、評価差額を当期の損益とする処理はできないものと考えられる。この点に関しては、商法上の制約が将来にわたっても存続するかどうかを見守りつつ、引き続き検討する。

国際的な会計基準における取扱い
66. 米国会計基準では、例外的に貴金属や農産物等の取得原価を超えて評価される棚卸資産に言及している(ARB第43号)。貴金属のように、マーケティングに多額のコストをかけなくとも一定の貨幣価値があるものは、その貨幣価値で評価されるものとしている。このような例外的な測定をする条件として、市場価格での即時の売却可能性、交換可能性の特徴が挙げられており、また、この場合には、取得原価を超えて評価された対象物の開示が求められている。
67. 国際会計基準では、コモディティのブローカーやトレーダーの保有する一定の棚卸資産は、測定の適用外として、販売費用控除後の公正価値で評価し、その変動額は発生時の損益として認識することとされている。ここでいう棚卸資産は、主に近い将来に売却し、価格の変動による利益又はブローカーやトレーダーの利ざやを目的として取得されたものや、農林業製品及び鉱物製品など時価評価が十分に慣行として確立された業界において生産者の保有するものである。また、販売費用控除後の公正価値で計上した棚卸資産の帳簿価額については、開示が求められている。
(脚注)
1 棚卸資産の種類により、原価法と低価法のいずれも採用している企業があるため、厳密な社数ではなく、割合で示している。
2 法人税法上、後入先出法を基礎とする低価法にあっては、切放し法を採用することは認められていない。
3 国際会計基準(IAS第2号)において、棚卸資産の評価方法として後入先出法は認められていない。なお、後入先出法を含む棚卸資産の評価方法に関する検討は、本論点整理の対象とはされておらず、他の機会に委ねられている。
4 一部でも後入先出法を採用している企業は、東証第1部上場企業のうち40社程度である。
上記資料は、(財)財務会計基準機構のホームページより同財団の許可を得て転載しています。なお、同財団の公表物は、著作権等により保護されており、同財団の許可なく複写・転載等は禁じられています。利用等に当たっては、同財団事務局(tel:03-5510-2711)へご連絡下さい。
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